君らしく 誇らしく 向ってよ

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君らしく 誇らしく 向ってよ ◆3OcZUGDYUo



初めは夢だと思ってたんだ。
こんなゲームや漫画みたいなふざけたコトなどあるハズがない。
けど実際に私の目の前でメイド服の女の首が飛んだ時、これは夢なんかじゃないってコトに気付いた。
だからあのミツナリとかいうジジィが言った、このバトルロワイアルに連れて来られた時は、正直寂しさで死にそうだった。
もうハヤテやマリアやヒナギク達に……いやあいつらだけじゃない。
サクや伊澄やワタルやタマやハムスターやクラウス達にも、もう会えなくなるんじゃないかと思うとどうしようもなかったんだ。
けどジョジョやカズキと知り合う事ができて、更にあのハヤテにも会えたから私の不安はどこかに消えていった……そう信じたかったのだ。
でもカズキもジョジョも私のせいで死んでしまった。
どうやらジョジョと闘ったあの短パン男は私の目の前に居る、ドッポというおっさんの知り合いでバキという男だったらしい。
理由はどうあれ私はバキという男を許すつもりはない。
けど、だからといってハヤテがバキという男を殺した事を、喜べるわけもないんだ……。
どこかに駆けて行ったハヤテに、その事を問い叱ってやろう……そう思っていたのに。
なんでだよ……なんで私を置いて行っちゃったんだ…………?
いつもおまえは私がどんなコトを言っても優しく聞いてくれたじゃないか……?
なんでなんだよ……教えてくれよ……マリア………………。

◇  ◆  ◇

初めて会った時は、どこか気に入らない子供だった。
小奇麗な服を着て、小学生のくせに敬語でオレに話しかけた子供。
『サーカスに連れてって』とオレに頼んだ子供は、遺産がらみで親戚に命を狙われていた。
オレにとっては次元が違い、あまりにもイカレタ理由であの子供を狙う大人共。
オレはボコボコにやられながらも、ヤツラと必死に闘った。
やせっぽちで、すぐにピーピー泣く子供が、どこか昔のオレ自身とダブったってのも多分あると思う。
だが、それよりもオレには許せなかった。
あんな小さな子供がどうしようもねぇ大人のために、アイツだけの人生を踏みにじられるコトが。
その怒りを胸に闘った俺がヤツラに囚われた時、あの子供は身を挺して、逆にオレを助けに来た。
もう別人ともいえるほど、いいツラをしてな。
あの時の、あの子供のボロボロな姿を、オレは決して忘れない。
そう、思ってオレは絶対に守ってやると心に決めたハズだ……それなのによ。
なんでオレは忘れてたんだ……なんで腕を一本持っていかれ、アクア・ウィタエでしろがねになっただけで忘れてた…………?
なんであんなに大事なコトを忘れちまったんだ……オレが護ってやれなかったコトを。
そしてまた、オレは守ってやるコトができなかった……バカな道化だオレは……。
すまねぇ……すまねぇ……オレは今までおまえのコトを思い出すコトができなかった……。
以前、喫茶店でオレの方をチラチラと視線を向け続けていた、その意味を理解できなかったオレを恨んでくれ……。
オレはあいつにお前を護ると誓ったハズなのによ……。
ほんとうにすまねぇ…………勝……………………。

◇  ◆  ◇

第三回定時放送を告げる声が終わり、支給された名簿や地図に鉛筆を走らせていた、愚地独歩の腕が止まる。
今、愚地独歩、加藤鳴海、三千院ナギの三人は、D-3エリアの東部にある民家に身を潜めていた。
やはりナギにとっては会ったばかりの独歩に抱きかかえられ、黒王号に揺られるよりも自分の足で立つ方が安心できたのだろう。
今は備え付けられていたベッドにナギは横になっていた。
そしてベッドの近くに置かれたテーブルと二つの椅子。
その二つの椅子に、独歩と鳴海が腰を下ろしたというのが今現在の構図だった。

『――では御機嫌よう、6時間後の放送を心待ちにしていたまえ』

第三回定時放送を告げる声が終わり、支給された名簿や地図に鉛筆を走らせていた、愚地独歩の腕が止まる。
その表情はとても穏やかといえるようなものではない。
“人食いオロチ”とも称される独歩の今の様子は、さながら噴火寸前の火山のようなものだった。
こんなバカげた行いには、到底闘いの歓喜など味わうことなど出来ない。
だが、範馬勇次郎、“オーガ”と謳われる者は必ずこの状況を愉しむため、他の参加者を喰らい続けるだろう。
そんなコトをさせはしない。
決意を強め、拳を力強く握り締める独歩。
だが、独歩は流し込んでいた力をふと放散させる。

(……ナニも言えねぇよな、やっぱよ)

悲痛な表情で、心の中で呟く独歩。
死亡者の発表で刃牙が呼ばれた事について悲しみに明け暮れているのだろうか?
確かに独歩にも刃牙の死は何か心に突き刺さるものはあった。
だが、その傷はあまりも小さく、精々小さな働き蟻が林檎に噛み付いた傷くらいでしかない。
そう。独歩の目の前に居る二人の青年と少女が受けた傷に較べたらあまりにも小さすぎる。

「ひっく…………ひっ……マリア……マリアァ…………うぇ……」

幼い頃からまるで姉のように慕ってきた三千院家のメイド、マリアを失ったナギ。
最早桂ヒナギクが死んだという情報が誤ったものだという事に安心するのを忘れ、大粒の涙を流し続けている。
ナギが腰掛けているベッドに不自然に映る染みが、彼女の悲しみを独歩に際立たせていた。
独歩と鳴海に保護された時から、空条承太郎の死と綾崎ハヤテの凶行のショックで茫然自失となっていたナギ。
放送でマリアの死を知ったお陰で、なんとか気を取り戻す事は出来たがその代わり深い傷を負ってしまったナギが、
涙を流し続けるのは無理も無い。

「すまねぇ……空条……俺が甘いせいで…………。
それに……すまねぇ、ホントに……すまねぇ…………勝……」

スタープラチナを操るスタンド使い、空条承太郎。
鳴海が承太郎に抱いていた印象はあまりよいものではない。
だがそれでいて、強い何かを秘めた両の眼差しは鳴海にとって印象深かった。
そして勇次郎との闘いで死なせてしまった才賀勝
鳴海がしろがねとして自動人形との闘いに、身を投げ出す事になったきっかけともいえる少年。
彼らの死は鳴海にとってあまりにも心に堪えるものだった。
今の鳴海は只、俯く事で必死にその悲しみを隠そうとするしかできない。

「…………」

そんな彼らを目の当たりにしては独歩も迂闊に口を開けない。
自分の言葉が彼らにどんな影響を及ぼすかもわからないからだ。
あまり口を動かす事には向いておらず、身体を動かす方を得意とする独歩。
そのため独歩は無言で椅子から腰を上げ、一歩ずつ歩を進めながらドアの方へ向った。
自分にはどうしようもない状況だと悟り、このまま二人が自力で立ち直る事を期待したのだろうか?
そんな独歩をナギと鳴海は全く見向きもせず、只悲しみに身を浸しているだけだった。
遂に、ドアの前に立ち、取っ手を握った独歩。
ここまで来たなら大抵の者なら何も言わず、彼らをそっとするために出て行くだろう。
恐らくナギも鳴海もそれを感じ取ったためもあって、独歩の行動に何も言わなかったのかもしれない。

「……なぁ、お二人さんよォ」

だが、独歩は言葉を発した。
独歩の予想外の行動にナギと鳴海は少しだけ彼の方へ視線を向ける。
独歩は柄にもなく決めていからだ。
この場は、この場だけは少しおせっかいなヤツになろう。
見るに耐えない自分の仲間達に伝えたかった事があったから。

「オレには空手しかねぇ……けどよ、そんなオレでも思うコトはあるぜ」

只、その屈強な背中を見せながら独歩は呟く。
一言一言、喉の奥から搾り出した野太い声が、小さな民家の中で反響する。

「あの勝が今のオレたちを見たら、きっといいキブンはしねぇんだろうなぁ……ってコトをなァ」

気を紛らわすために、毛髪が生えていない己の頭を撫でる独歩。
その眼はドアの一点を見つめ続けている。

「オレはアイツラが生きてる内には会ったコトがねぇが、マリアや空条ってヤツも同じさ。
オレたちのこんなふがいねぇザマを見たら、きっとガッカリするだろうよ」

その眼に映る色は当然ナギと鳴海には、視線が合っていないのでわからない。
いや、視線が合っていてもわからなかったかもしれない。
それ程までにも独歩の言葉を虚ろな表情で聞いていたから。

「アイツらのコトを忘れろとは口が裂けてもオレは言わねぇ……。
そうよ、忘れちゃいけねぇ……アイツらの死んじまった意味を忘れちゃあいけねぇのさ」

独歩は自分の言葉がここまで長くなっていたのに驚いていた。
背中越しから感じるナギと鳴海の悲壮感を、その背中で感じ取ったせいなのかは定かではないが。

「だからあの世でアイツらに笑われねぇように……一歩踏み出してみようぜ。
つまずいても、転んだってもいいからよぉ、テメェのやれるコト、やらなきゃなんねぇコトを探していくためによ。
それが見つかった時には…………」

大きな深呼吸を独歩は行う。
勝を守れなかった原因は自分にあるため、昂った気持ちを抑えるために。
自分の言葉に重みを持たせるためにも

「その時にはこの神心会館長、愚地独歩が全力で手助けしてやるぜ!
オレはちょっと外の空気に当たってくる……だから今はゆっくりと考えろい。
後で答えを聞かせてもらうからよ……オマエさんたちがやりてぇコトをなッ!!」

そう言って独歩は片手を、ヒラヒラと振り、ドアを開け、外に出て行く。
独歩を仮初の主と認めたかどうかはわからないが、民家の外で律儀に待っていた黒王号に彼は飛び乗る。
迅速の速さで走り出す黒王号に乗って、独歩の姿は何処へ消えていった。
驚きの表情を浮かべ、口が開いたままになっているナギと鳴海を残して。
彼らの脳に独歩の声は確かに、力強く響いていたのを当の独歩は知らずに。

◇  ◆  ◇

大地を驚くべき速度で疾走していた、黒王号の速さが緩み、やがて0となる。
その動作に一時の間を置いて、独歩が黒王号から飛び降り、地面に両足をつけた。
独歩の視界には承太郎と刃牙の闘いで、ボロボロになった喫茶店の姿が映し出されていた。
そんな喫茶店を見て、若干表情を歪ませながら、独歩はある場所へ歩を進める。
数歩の歩行を終えて、やがて独歩の動きは停止。
独歩の視線の先には、最早肉のオブジェともいえる刃牙の姿が寂しげに存在していた。

「情けねぇよなぁ……刃牙。いや、オメェだけじゃねぇか……」

露呈した大地に腰を落とし、あぐらを掻きながら独歩が呟く。
だが、当然刃牙から返事が返ってくるわけもない。
しかし今の独歩には刃牙の返答など元から期待してなく、彼は言葉を続ける。

「一端の空手家のくせに拳を揮うコトじゃあなくて只、
カッコつけて説教たれるコトしか出来なかったオレもよ……本当に情けねぇぜ……」

“自分がエレオノールとの闘いにもっと早くケリを付けて、鳴海と勝の加勢に行けば”。
そんな後悔を独歩は勇次郎から逃げ遂せた時からずっと脳にこびりついた考え。
だが、年長者である自分がそんな弱音をナギや鳴海におめおめと吐くコトは彼の空手家としての尊厳が許さなかった。
だから独歩は物言わぬ身となった刃牙に己の罪の懺悔ともいえる行為を行おうと考えていた.

「刃牙、闘う気のないヤツを襲うとはテメェは何を考えていたんだ……?
テメェがやったコトは勇次郎と一緒だぜ……だが今更言っても仕方ねぇか。
テメェはもう身体を休めておけ。この愚地独歩がテメェの尻拭いをしてやるからよ……」

己の罪の懺悔の他に独歩にはやるべきコトがあった。
それは予想外な行動を起こし、凄惨な末路を遂げた刃牙に対して行う儀式。
刃牙を見届け人にし、“決意”を咆哮する誓いを独歩は行う事に固く決めていた。

「テメェのせいで滅茶苦茶にされたナギの嬢ちゃんも、ハヤテというボウズもオレが護ってやる。
そしてテメェが目指してた勇次郎……超えてやるぜ! この愚地独歩がよッ!
オレの空手に外していた後退というネジはもう、はまるところすらねぇ……ヤツには勝という貸しもあるんでなッッッ!!」

大きな握りこぶしを二つ作り、大声で叫ぶ独歩。
ほんの少しの間しか居られなかったが、あまりにも綺麗な瞳、心を持った才賀勝。
独歩はあまりにも早く人生の幕を引いた勝の無念さは今も彼の心に深く根付いていた
最早独歩にはもう、勇次郎に対して後退という文字はない。
そう。その相手がたとえ自分の右眼を抉り、二度も自分を倒した相手でもだ。
何故なら独歩の自慢の空手には後退というネジは外してあり、たった今そのネジが嵌る箇所も溶接されたから。
“決意”と呼ばれる溶接によって。
最早用件は終わるといわんばかりに立ち上がり、黒王号に向って歩き出す独歩。
そんな時彼は不思議そうな表情を浮かべながらふと立ち止まった。
薄闇の中、何か奇妙な物体が大地に落ちていたのを独歩は気付く事が出来たから。

◇  ◆  ◇

民家の室内に二人っきりになったナギと鳴海は一言も喋らず、俯いていた。
実際にはほんの数分の時間だったが、当の二人に数時間経ったような静寂な空間。
いや、正確に言えば、ナギは幾分落ち着いたが、未だ泣きべそを掻いており、その鼻をすする音は反響している。
だがその空間は突如として破られた。

「……確かナギっていったな?」
「ああ……それがどうした?ぐす……」

鳴海が少し無愛想に、未だ泣きべそを掻き続けるナギに話しかける。
そんな鳴海の態度に嫌な顔は見せず、だが同じように少しぶっきらぼうにナギが答える。
鳴海とナギには互いに言いたい事があったので、それぞれの態度に気を掛ける余裕もない。
そんな状況の中、鳴海の口がまたしても開く。

「すまねぇな……オレのせいで空条のヤツも死なせちまって、
ハヤテとかいうヤツが何処かに行っちまったのも全部オレのせいだな……。
ほんとにすまねぇ……」

鳴海が俯きながらポツリポツリと一言ずつ言葉を吐き出す。
承太郎とハヤテの名が挙がった時、ナギの身体が反応を示した事を鳴海は見逃さなかった。
そんなナギの様子が鳴海にはあまりに辛い光景だった。

「そうなのだ……お前があんな危険なヤツに核鉄なんか渡したから……
お前が全部悪いのだ!――――――――なっ!?」

途方に暮れていた自分をわざわざ保護し、承太郎とハヤテと少しながらも面識がある鳴海。
そんな鳴海が危険人物でもなければ、直接の原因は承太郎を上手く手助けできなかった自分にもある事は、ナギにも当然わかっている。
だが、ナギは自分でも自分の行動は間違っていると理屈では理解できたが、鳴海に責任を転嫁しようとしていた。
身代金目当てで自身の命が狙われる事はあっても、他人の命が関わる程の責任を負った経験はナギにはない。
あまりに重く圧し掛かる責任から逃れたい気持ちで、ナギの身勝手な言動。

「お……お前…………?」

その言葉と共に、鳴海の頬に平手打ちを食らわせてやろうと思い、腕を振り上げたナギの動きが止まる。
泣きじゃくるナギの表情には、怒りは消え失せ、驚きしか見えない。
理不尽な怒りを爆発させる事よりもナギは鳴海の表情を凝視する事を優先させた。
いや、させざるを得なかったという方が正しいのかもしれない。

「わかってるぜ……お前の言うコトはなんだって聞いてやるさ……それで少しでも罪滅ぼしになるならな……。
だが、その前にオレにはやらなくちゃならねぇコトがある……」

いままで俯いていたせいでナギにはわからなかったが、鳴海も彼女と同じように大粒の涙を流し続けていたからだ。
怒りをぶつけようと思った相手が自分と同じような顔をしている。
その事実と鳴海のあまりにボロボロな顔を見ては、我侭なナギといえども何も言うことはできない。
泣き続けたおかげで、真っ赤になった顔をしたナギがどうしたらいいかと狼狽する。
そんな時、鳴海がいきなり片腕を上げ、おもいっきり己の涙を拭いた。

「DIOを倒す! 勇次郎を倒す! このイカレタ殺し合いをブッ潰す!
だが、それ以外にも……オレにはやらなくちゃならねぇコトがあるんだ……」

自分のやるべき事を独歩の言葉で再認識した鳴海が吼える。
鳴海のあまりにも大きな声に、抗議の声をあげようとしたナギだが、彼女の口から言葉は出ない。
その鳴海の表情があまりにも真剣な顔で、そしてナギにとって少し怖かったから。
最早流し続けた涙は枯れ果てたともいえる鳴海の顔。
そんな彼の顔に見る者を震え上がらせる程の“決意”が浮き出ていたから。

「オレはどういうわけかこの殺し合いに乗っちまったエレオノールを……しろがねを止めてみせるぜ!
きっと勝もオレにずっとその事をオレに伝えたかったにちがいねぇ!
それだけは譲るつもりなんざ……あるわけがねぇんだよッ!!」

黒王号の上で独歩に聞いたエレオノール、いやしろがねの暴走。
自分は記憶を失っていたが、しろがねは無事あの才賀善二の屋敷の闘いで脱出できたはずなので自分を覚えていないのは奇妙な話だ。
エレオノールの行動に始めは疑念を抱いていた鳴海だったが、彼の中で突拍子もないある考えが閃いた。
“もしあのしろがねが自分と勝と出会う前のしろがねだとしたら?”
しろがねとなった自分と自分達に出会う前のしろがねには無視出来ない時間のズレがある。
頭がいいとは決して言えない鳴海でも、時間のズレが生じた人物が同じ場所に居るという、まるでSF小説のような考えは思いつかないだろう。
だが、鳴海には気になっていた事があった。
それは独歩の知り合いである、刃牙と光成の変貌だ。
独歩といえども刃牙と光成の全てを知っているわけでないが、彼らの変貌の様は理解できないらしい。

という事はあの二人と独歩の間にも時間のズレが生じているのではないのか?
それならば自分としろがねにも時間のズレが生じていてもおかしくはない。
鳴海は多少強引にそう考え、自分のとるべき道を決める。
元より鳴海にはそんな面倒な考えを行わずにも、しろがねを止めようとしていた。
勿論しろがねがフランシーヌ人形とあまりにも似すぎているという無視出来ない事もある。
だが、鳴海はその問題はこの殺し合いを潰して、元の世界に戻ってから考える事に決めた。
あまりもややこしい問題であり、自分で考えるよりもルシール辺りに聞く方が良いと思ったからだろう。
それに何故ならしろがねは鳴海にとって、勝にとって大切な存在だから。
そんなしろがねを止めるという方針だけで今の鳴海には十分過ぎる理由だからだ。

「……ふ、ふん! なんだよバカみたいに大声出して……私だって……私だって」

頭をだらしなく下げ、先刻までナギと同じようにボロボロだった鳴海。
そんな鳴海の変貌にナギは驚くと共に、どこか羨ましそうな顔で小さく呟く。
ナギにだって伝えたい事が、頼みたいコトがあったからだ。

「私にだってやらなくちゃならないコトがあるんだ……。
ハヤテとヒナギクには絶対に会って、あのミツナリとかいうジジイをブッ飛ばして、
家に戻るのだ……それで……うぇ……それで私はカズキとジョジョとマリアの……ひっ……」
「おい……無理するな」

鳴海の大声に引っ込んでいた涙がまたも顔を出し、ナギの声が段々と小さくなる。
ナギの悲痛な様子を鳴海が心配そうな様子で宥めようとする。
こんな小学生みたいなナギに、ここまでの悲しみを与えた要因の一つである自分に怒りを募らせる鳴海。
だが、ナギはそんな鳴海が気に障ったらしく、必死な表情を浮かべながら言葉を続ける。

「バカにするな! 私は……私は絶対にカズキとジョジョとマリアのコトを一秒たりとも忘れない!
そのコトを証明させてやるのだ……私がこのふざけた殺し合いを止めてみせるコトで!
だから……だから……お願いだ!」

流れ続ける涙を拭く事も、鼻をすする事も忘れナギが鳴海の服の袖を両手で引っ張りながら叫ぶ。
その表情は真剣そのものであり、最早鳴海に言葉を投げ掛けているわけでもなく、
懇願しているといった方が正しい。
ナギもまた鳴海と同じように独歩の言葉で自分のやりたい事を見つけていた。
かってカズキがサンライトハートを大空に撃ち上げ、打ち立てた真赤な誓い
今ならその時のカズキの気持ちを、ナギは何故だか理解できるような気がした。

「私にお前の力をかしてくれ! 私一人では悔しいがまたハヤテと会うコトすら難しい……
でもそれじゃあダメなのだ! そんな事では私のせいで死んだカズキとジョジョに申し訳がたたん!
私は一歩、いや十歩でも百歩でも進むと決めたのだ……きっとマリアだって悲しんでいる私なんか見たくないハズだからな!
だから…………私の力になってくれ! この三千院ナギ、一生のお願いなのだ!!」

“決意”
カズキが奮い立たせた同じものを、今のナギは確かに感じていた。
ジョジョを失った一因である鳴海に怒りを叩きつけるのは簡単だ。
だが、そんな事をしてあのジョジョが一体何を喜ぶというのか?
あの無愛想な顔を付けたジョジョが本当に自分にそんな事を求めているのか?
あまり自分の事を喋らなかったジョジョだが、ナギにも彼について理解できた事はある。
それはきっとジョジョは自分に復讐などという行為を求めていない事。
そうでなければ“強くなれ”と言い残す必要などありはしない。

「ああ……勿論だ。だが条件がある」
「わ! わかっておるわ! お前にもそのしろがねという女に用があるのだろう?
その用が終わってからでもいいから……」
「違うぜ。もっと簡単なコトだ」

ナギ程の少女にもここまでの決意があった事に、少し驚きながら鳴海が応える。
鳴海の言葉にナギが何故か慌てて、更に言葉を返す。
それは鳴海がナギの小さな頭を撫でながら彼女に話し掛けたから。
鳴海にいきなり頭を撫でられた事に、ナギが顔を赤らめながら驚いてしまったからだ。
そんなナギを勝と同じくらいの歳だと思っている鳴海には、彼女の思春期特有の動揺も知る由もない。
たとえ知っていても鳴海が言おうとしている内容に変わりはない。

「オレは“お前”じゃねぇ、オレは加藤鳴海。鳴海ってんだ。
ちょっと身体が他のヤツとは違うが正真正銘の人間だ。だからよ……」

出会ってから碌に行っていなかった自己紹介。
そして自分の身の上をかなり簡略にナギに話す。
ナギが自分に必要以上に気を使わないようにするためにも。
ナギが自分を仲間として頼る事に、ためらいを感じさせないようにするために鳴海は口を再び口を開く。
自分達がやらなければならない事を完遂するために。

「オレを……鳴海と呼びな。それで俺達は仲間だ。
そうさ、それだけでわかるぜ……辛くなった時はオレが全力で助けてやるってコトをな。アンタも同じだろ……? 独歩さん?」
「えっ!?」

鳴海の意外な言葉に、驚いていたナギの表情が更に驚きに歪む。
そのナギの驚きの声からほんの僅か、一秒にも満たない間を置き、ドアが音を立てて開く。

「流石だな鳴海。だが初めから気付いていりゃあ言ってくれてもよかったのによォ」
「まぁ独歩さんにも聞いて欲しかったからな……オレ達の答えってヤツをな」
「へっ! その様子から見ればもう吹っ切れたみてぇだな鳴海ッ!」

陽気な声で室内に戻ってきた独歩が口を開き、鳴海も表情を緩ませながら答える。
独歩がドアの傍に立ち、鳴海とナギの話を聞いていたという事実。
そしてその事実を鳴海も独歩の気配を感じ取り、知っていた事にナギは口を開けて驚く事しか出来ない。
そんなナギの方へ独歩が眼を向ける。

「まぁそういうコトだ、お嬢ちゃん。
オレのコトも独歩でいいぜ、なんせオレ達は……仲間だからよォ。仲間に堅っ苦しい敬語なんざいらねぇぜ」

今までとてもお世辞にはいいとはいえなかった独歩の人相。
その人相が今のナギにはとても頼りがいがあるものに見えていた。
それは独歩の言葉が鳴海のそれと同じで、とても心地よいものだったからだ。
自分を仲間として認めてくれる言葉が。

「だ! だったら私のコトも特別にナギと呼んでもいいぞ!!わ!私達は仲間だから……な……ひっ……うぇ……ぐし……」
「へっ! 全く泣き虫なヤツだなぁ、ナギはよォ」
「う……うるさいぞナルミ……ひっ……」

鳴海と独歩の言葉に安心したせいか、再びナギの頬に涙が流れる。
彼ら二人に保護されるまで、一人夕闇の中で喫茶店の近くを放浪していたナギ。
その時、膨れ上がった悲しみが今、この場で抑えられなくなっていたのかもしれない。

「ナギ、オレは以前勝に言ったんだ。“笑うべきだとわかった時には、泣くべきじゃない”ってな。
ナギ、今のお前にはわかるはずだぜ……今はどういう時かをな」

以前勝に言った言葉を再び口に出し、鳴海がナギに言葉を投げ掛ける。
その表情は穏やかさの中に強い意志をも秘めた複雑な表情。
再び勝に言った事を発言する事で、彼を護れなかった自分への戒めの意味を兼ねていたのだろう。
今度こそ、自分は勝の望みを叶えるという誓いを成就するために。

「ふ……ふん! 私は泣いてなどいない!
もし仮に私が泣いていたとしても、これでもう私の泣き顔は見納めだ! だから私の泣き顔を見れたコトを光栄に思うがよい!!
そ、それと……」

鳴海の言葉を受け、ナギが慌てながらよくわからない事を口走る。
その言動には根っからの負けず嫌いな性格が災いしていた。
だが、ナギの言葉に鳴海も独歩も嫌な顔を全くせずに、微笑を浮かべ、心なしか彼女の表情も明るい。
そしてナギの話はまだ終わっていなかった。
ナギにはまだ言いたい事が、とても大事な事があったから。

「ありがとう……ナルミ、ドッポさん。本当に……本当にありがとう……」

見ず知らずの自分をこんなにも温かく受け入れてくれた鳴海と独歩。
彼ら二人にナギはたまらなく礼が言いたかった。
こんな無力な少女である自分を仲間として受け入れてくれた事に対する感謝の言葉。
それはナギも彼ら二人を完全に信用したという証。
そしてその言葉を言った時に見せた笑顔。
その笑顔はナギが鳴海と独歩に見せた、初めての笑顔でもあり、とびっきりの希望に満ち溢れた笑顔。
そう。三千院ナギは“いい笑顔”をしていた。
鳴海と独歩が思わずその笑顔の眩しさに眼を瞑ってしまうかもしれない程に。

◇  ◆  ◇

「よし! じゃあそろそろ行くぜ!」
「おうよ独歩さん!」
「わかったのだ!」

お互いの身の上話を一段落終え、独歩、鳴海、ナギの三人が次々と席やベッドから立つ。
彼らはパピヨン、泉こなた、シェリス・アジャーニ、赤木しげるなどの仲間が、
喫茶店に戻っているかもしれないと思い、再び喫茶店に戻る事を決めた。
彼ら三人にとって、仲間との合流はこの殺し合いを潰すと決めた彼らにとって重要な事だからだ。

「しかしミツナリというジジィが脅迫されているかもしれないとはな……」
「いや、刃牙が変わっちまった前例もあるが……まぁオレは十中八九そうだと睨んでいるぜ」
「刃牙ってヤツのコトはDIOに聞き出せばいい……それだけだぜ」

ナギもまた鳴海と同じように光成、そして刃牙の事を独歩から聞いていた。
とても信じられない話だったがナギはしっかりと記憶に留めた。
そしてDIOという人物が刃牙の変貌の鍵を握っているかもしれない事も。
ナギが承太郎にDIOの事を詳しく教えてもらっていなかったため、今の三人には危険人物である事しかわからないが。

「しかし本当にこのへんちくりんなヤツを知らねぇのかお二人さんよォ?」
「いや、私は知らないぞ」
「悪いな独歩さん、オレも知らねぇ」

そう言って独歩があるものをスーツのポケットから取り出し、ナギと鳴海は否定の意を示す。
独歩が取り出したものは、干からびた肉の芽の残骸だった。
先程喫茶店の近くに行った時に見つけていたものを独歩は、拾い上げ持っていたのだった。
二人の反応を受け、独歩は特に気にした様子もなく、再びポケットに戻す。
そんなやり取りを終え、ドアを開けて、三人は外で待機していた黒王号の前に立つ。

「さてそろそろいくが……やりてぇコトはわかってるな?」
「勿論だ! 私は絶対ハヤテを叱ってやるのだ! だからハヤテの問題はこの私に任せて欲しい!!」
「オレもしろがねは絶対に止めてみせるぜ……勝のためにもな! だからしろがねのコトはオレがやるぜッ!!」
「上等! 上等ッ!!」

ナギは喫茶店で起きた全てのコトをもう鳴海と独歩に話し終えている。
流石にハヤテが生きているかどうかわからなかったが刃牙を殴りつけた事には二人も眉を顰めた。
だが、ナギが決意に満ちた瞳で自分がケリを付けると言った時、二人はナギに任る事に決めた。
その事は鳴海の話でも同じ事であり、協力はするが最終的なケリは当人が付ける。
それが三人の共通の意思であった。

「ナギ、オレがおぶってやるぜ」
「う……うん、わかったのだ」
「じゃあぼちぼち出発とシャレ込むぜッ!」

独歩が黒王号の手綱を握るため、鳴海がナギの落下を危惧して言葉を発する。
その鳴海の言葉に少し恥ずかしながらナギが答え、独歩が出発の宣言を行う。
三人の準備が整った瞬間、黒王号が走り出す。
(見ていてくれカズキ、ジョジョ、マリア……私は絶対にハヤテとヒナギクにもう一度会う!
そしてこの殺し合いの謎も解き明かしてくれるぞ!)
(勝……オレが護ると誓ったお前は護れなかった……だが、安心してくれ。
しろがねは……お前とオレにとって大切なしろがねは……オレが止めて、護ってやるッ!)
(若けぇもんは立ち直りがよくて助かるぜ……これでオレも心置きなく拳を奮うコトが出来るぜ!
なぁ勇次郎ッ!!)
三人の各々の思いを乗せて。
彼ら三人が自分らしく、誇らしく、向うために。
“未来”という開幕のベルを鳴らすために、限りない大地を黒王号が走り抜ける

【D-3北東部の民家前/1日目 夜】

【三千院ナギ@ハヤテのごとく!】
[状態]全身に打撲、右頬に中程度のダメージ、首に痣あり、精神疲労(中)
[装備]スパイスガール@ジョジョの奇妙な冒険
[道具]無し
[思考・状況]
基本:殺し合いを止め、家に戻る
1:ハヤテ、ヒナギク、ジョセフと合流する。
2:カズキの恋人という『斗貴子』とやらに会って、カズキの死を伝える。
3:独歩、鳴海と共に行動する。
4:喫茶店に向かい、暫くの間知り合いが合流するのを待つ(具体的な時間は不明)
5:ハヤテに事の真相を聞きだし、叱りつける
参戦時期:原作6巻終了後
[備考]
※スパイスガールが出せるかは不明です。
※ヒナギクが死んだ事への疑念は晴れました
※独歩の話を聞き、光成の裏に黒幕が居ると睨んでいます
※鳴海、独歩と情報交換をしました

【加藤鳴海@からくりサーカス】
[状態]:胸骨にひび 肋骨2本骨折 左耳の鼓膜破裂 右手首欠損 全身に強度の打撲 出血(応急処置済み) 疲労 自己治癒中
[装備]:聖ジョルジュの剣@からくりサーカス
[道具]:支給品一式×2(刃牙、鳴海)、不明支給品0~3(フェイスレス・ナギ)  輸血パック(AB型)@ヘルシング グリース缶@グラップラー刃牙 道化のマスク@からくりサーカス
[思考]
基本:バトルロワイアルの破壊、誰かが襲われていたら助ける。赤木がいう完璧な勝利を目指す。
1:独歩、ナギと共に行動する。
2:エレオノールと再開し、勝の願いを果たすためにも話をし、彼女を止める。
3:誰かが襲われていたら救出し、保護する。
4:赤木との約束の為に、8時に学校へ行く。その旨をパピヨン等にも伝える。
5:いつか必ずDIOと勇次郎をぶっ潰す。
6:殺し合いに乗っている奴を成敗する。
7:DIOの情報を集める。
8:喫茶店に向かい、暫くの間知り合いが合流するのを待つ(具体的な時間は不明)

[備考]
※聖ジョルジュの剣は鳴海の左腕に最初からついていますので支給品ではありません
※参戦時期は本編18巻のサハラ編第17幕「休憩」後です
※勝とエレオノールの記憶を取り戻しました。エレオノールとフランシーヌ人形が酷似していること、彼女がしろがねである事については、今は気にしない事にしました。
※勇次郎との戦闘での負傷はある程度回復していますが、戦闘には支障があります。
※独歩の話を聞き、光成の裏に黒幕が居ると睨んでいます
※独歩、ナギと情報交換をしました

【愚地独歩@グラップラー刃牙】
[状態]:健康
[装備]:黒王号@北斗の拳、キツめのスーツ
[道具]:支給品一式×3(独歩、勝、承太郎)、フェイスレスの首輪、不明支給品0~2(承太郎は確認済。核鉄の可能性は低い)、不明@からくりサーカス、書き込んだ名簿、携帯電話(電話帳機能にアミバの番号あり) 首輪探知機@BATTLE ROYALE 、干からびた肉の芽の残骸
[思考・状況]
基本:殺し合いには乗らない、乗った相手には容赦しない。
1:鳴海、ナギと共に行動する。
2:基本姿勢を、闘うことより他の参加者 (女、子供、弱者) を守ることを優先する事に変更。
3:シェリス、パピヨン、こなた等や、他のゲームに乗っていない参加者に、勇次郎の事を知らせ、勇次郎はどんな手段をもってでも倒す。
4:その他、DIO、アミバ・ラオウ・ジグマール・平次(名前は知らない)、タバサ(名前は知らない、女なので戦わない)、危険/ゲームに乗っていると思われる人物に注意。
5:乗っていない人間に、ケンシロウ、及び上記の人間の情報を伝える。
6:赤木と合流するために、鳴海と共に8時に学校へ行く事と、余裕があればシェリスと共に劉鳳を探すのもアリだとは思っている。
7:可能なら、光成と会って話をしたい。
8:喫茶店に向かい、暫くの間知り合いが合流するのを待つ(具体的な時間は不明)
[備考]
※黒王号に乗っている場合、移動速度は徒歩より速いです。
※パピヨン・勝・こなた・鳴海と情報交換をしました。
※不明@からくりサーカス
 『自動人形』の文字のみ確認できます。
 中身は不明ですが、自立行動可能かつ戦闘可能な『参加者になり得るもの』は入っていません。
※刃牙、光成の変貌に疑問を感じています。
※鳴海、ナギと情報交換をしました


172:第三回放送 投下順 174:Double-Action ZX-Hayate form
172:第三回放送 時系列順 174:Double-Action ZX-Hayate form
161:夕闇に悪魔、慟哭す 三千院ナギ 195:月下の死闘、そして……
161:夕闇に悪魔、慟哭す 加藤鳴海 195:月下の死闘、そして……
161:夕闇に悪魔、慟哭す 愚地独歩 195:月下の死闘、そして……



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