1-2

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#center(){[[<前1-1へ>1-1]]|[[次1-3へ>>1-3]]} ---- **魔王「この我のものとなれ、勇者よ」勇者「断る!」1-2 ---- ****160 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/04(金) 00:44:06.99 ID:AIDyRnsCP 勇者「で、挨拶がどうとか」 メイド長「ああ、そうでした。  その学術の研究と、新しい農作指導のために  この村に興味を持たれてやってくる、というような  説明をいたしております」 魔王「そうか、話が早くて助かる」 勇者「そうだな、農業ともなれば時間がかかるものな」 メイド長「ええ。……まおー様」 魔王「ん?」 メイド長「魔王軍の方はいかがしましょう」 魔王「ああ。そうだな」 ちらっ 勇者「どうかしたか?」 魔王「勇者と私は、魔王の大広間で決闘をしたとしよう。  そこで両者共に深い傷を負ったという噂を流せ。  私はその傷を癒すために冥界温泉で療養中だ。  勇者は生死不明、一説によると落ち延びたと」 メイド長「かしこまりました」 ****162 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/04(金) 00:48:41.23 ID:AIDyRnsCP 魔王「それでいいか? 勇者」 勇者「ああ。かまわない。俺はどうせ魔王のものだしな」 メイド長「あたあた、まぁまぁ」にこっ 魔王「からかうな」 魔王「この噂で、まぁ1年くらいの時間は稼げよう。  魔王軍の急進派も何かの策略ではないかと見て  しばらくは動きを控えるだろう」 勇者「1年か」 魔王「その他にも手は打つ。粘るつもりもあるが  まぁ、3年と云ったところだろうな、猶予は」 勇者「……」 魔王「その間に『まだ見たことのない結末』を  見つけなければならない」 勇者「見たいだけじゃなかったのか?」 魔王「……見つけ出さないと、私の持ち主に嫌われる」 勇者「あ、その。そ……そっか。そうだな」 ****164 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/04(金) 00:53:49.41 ID:AIDyRnsCP 魔王「それはいいとして、だ」 勇者「お、おう」 魔王「この地で結果を出したいのは、農法の改善だ」 勇者「のーほー?」 魔王「農業の方法だ」 勇者「農業の方法たって、  種撒いて芽が出て収穫するだけだろ?」 魔王「その方法を改善する」 勇者「うーん。改善なんてあるのか?」 魔王「同じ土地で麦を収穫し続けると  どんどん質がわるくなるのはしっているか?」 勇者「あー。聞いたことがあるぞ。  大地の恵みみたいな物がなくなっちゃうんだろう?」 魔王「この辺りで広く行なわれているのは三圃式農業という  もので、畑を3種類に分ける。  それぞれ夏に使う、冬に使う、一年間お休みと分けるんだ。  そしてローテーションさせてゆく」 ****165 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/04(金) 00:59:01.92 ID:AIDyRnsCP 勇者「工夫してあるんだな。ふむふむ。  いや、まてよ? そもそも何でローテーションするんだ?  どんどん新しい畑を開拓すればいいじゃないか。  新しい場所なら大地の恵みもたくさんある」 魔王「ばかもの。  誰もが勇者のように化物じみた戦闘能力と体力と  破壊魔法を使えると思ったら大間違いだ」 勇者「そ、そか?」 魔王「開拓には長い時間と労力がかかる。  それにそうやって開拓範囲を広くすれば、  収穫や種まきなどで移動しなければならない  距離も広がるし、魔物や野生動物から防衛しなければ  ならない敷地も広がってしまう」 勇者「そういえばそうか」 魔王「そこで3分割ローテーションを行なっているのだが」 勇者「ふむふむ」 魔王「この手法をより改善して、  食料の供給量を増やすのが当面の目的だ」 ****167 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/04(金) 01:06:07.19 ID:AIDyRnsCP 勇者「目的は判った。けれど、具体的にはどうするんだ?」 魔王「輪作……つまりローテーションという概念は良いんだ。  これを4回転式に改善しようと思う」 勇者「ふむふむ」 魔王「すなわち、大麦を作る畑、クローバを作る畑、  小麦を作る畑、かぶを作る畑に4分割する。  この四つをセットにして4年周期で畑を活用するんだ」 勇者「なんか、3ローテと大差がないように聞こえるな」 魔王「3ローテは1周期に一回お休みがあるだろう?  こちらは4周期にお休みらしいお休みはクローバーだけだ」 勇者「それがそんなに大きい差なのか?」 魔王「差が出る秘密は、麦以外にある。それがカブだ」 勇者「シチューに入れると旨いけど、そんなに作っても  飽きるだろう?」 ****169 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/04(金) 01:10:12.33 ID:AIDyRnsCP 魔王「もちろん人間が食べても良い。  麦ばかりだと健康に悪いからな。だがこのカブは  畜産の使うんだ。具体的に云うと豚の餌にする」 メイド長「豚、ですか?」 魔王「知ってるとおり、この寒くて貧しい地方では  肉食というのは冬場の重要な栄養素だ。  冬には充分な果物も野菜も採れないし、  充分な穀物が無い事の方が多い。  そこで豚を食べるわけだが、豚は生きているから  活かしておくためには食料が必要だ。  冬の間は人間の食糧すら不足するだろう?」 勇者「ああ、そうだな。だから豚は冬になる前に、  最低限の数を残してしめちゃうんだ。  それでソーセージやベーコンやハムにして、  冬の間の食糧備蓄をする。南部諸王国じゃ  何処でも見られる冬の始まりの風物詩って所だ」 魔王「冬場……つまり農作物が充分では無い時期の  代替え的補助食料なのに、結局は農業と同じように  季節に支配されている。これは非効率的なことだ」 ****173 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/04(金) 01:17:28.72 ID:AIDyRnsCP 勇者「……云われてみれば、そうだな」 魔王「そこでクローバーとカブを使う。  クローバーは夏場の間、豚や羊などの牧草になる。  畜産をおこなえば肥料も出してもらえるしな。  カブは冬の間に飼料として役立つ」 勇者「そうかっ!」 魔王「そうだ。この方法は『畑を休ませない』、  『畑を痩せさせない』、『農作物以外も豊かにする』  の三つのアイデアで出来ているんだ」 勇者「そこでこの村な訳か」 メイド長「どういう事ですか?」 勇者「この村みたいな、農業も畜産もやって、  ある程度自給自足の体制の方がこの農法には都合が  良いんだよ。データ採りの意味でも。  都市部や、小麦ばっかりを大量生産している、  それが出来ちゃうような温暖な地域では意味が薄い。  東方の米みたいな穀物にも効果が薄い。  『寒くて貧しい地域を救う』アイデアだから」 メイド長「そういうことでしたか!」 ****175 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/04(金) 01:22:32.70 ID:AIDyRnsCP 魔王「他にもいくつかある。北氷海の魚による肥料とか  、農機具にも改良の余地がある」 勇者「へ? 色々あるんだな」 魔王「難しいのは、農地と村の統廃合だ。  放牧地にした場合、羊などの動物はコントロールに  難があるしな。いまの危険な時勢だと、この種の  『開墾した権利』の縄張り争いは、たやすく利権の  争いに変化してしまうのだ」 勇者「そうだな、それは予想がつくよ」 メイド長「でも、人間は土地を重視する、  って、まおー様はいってましたよね。  話し合いで解決するんですか?」 魔王「そこで魔族だ」 勇者「?」 魔王「魔族で村を攻める。  どうせたいした守備軍もいないだろう?  ちょっとした中隊規模で充分だ。  脅して適度に放火でもしてやる。  最悪の場合は主立ったものを殺すこともあるかもしれない」 勇者「……」 ****177 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/04(金) 01:26:08.44 ID:AIDyRnsCP 魔王「村人が立ち退いたあとに、魔王軍は駆けつけた  騎士団と一戦して引き上げる。開拓民は戻ってくる  だろうが、それは領主の庇護下に入ってのことだろう。  その状況なら、農地の整理や、村と村との統廃合も  問題なく行くだろう」 勇者「……」 魔王「幻滅したか?」 メイド長「……まおー様」 魔王「むろん、手心は加える。そもそもこの手法は  王国側、少なくとも騎士団には内通者というか  こちら側の理解者が必要だ。  だがこの種の作戦には事故がつきものだ。  血が流れないと云うことはあり得ないだろう」 勇者「……」 魔王「だが、わたしは何かをすると決めたんだ。  このまま、血まみれの夢に似た消耗戦を100年繰り返し  取り返しのつかない停滞を過ごすつもりはない。  わたしは『終わった後の物語』が読みたいんだ」 ****178 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/04(金) 01:31:23.17 ID:AIDyRnsCP 魔王「愛想が尽きたか?  魔王なんて嫌いになったか?  で、でもダメだぞっ。  勇者は私のものだから。  絶対に手放すつもりはないぞっ」 メイド長「……」 魔王「それとも、やっぱり魔王を退治するつもりになったか?  それならそれで仕方がないが……。  私は勇者のものだから  その剣を避けるなんて出来ないけど……」 勇者「それでも……」 魔王「……」 勇者「それでも、救われる人はいるんだろう?  この3年間の秘密休戦で救われる人はいるんだろう?  それにその4ローテーションの工夫が上手く行けば  毎年何万人もの飢えた子供たちが春を迎えられるんだろう?  ――そして戦争を終わらせるための余裕が、  人間の手に戻ってくるんだろう?」 ****179 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/04(金) 01:34:26.27 ID:AIDyRnsCP 魔王「そうだ」 勇者「なら俺はやっぱり魔王の剣だ」 メイド長「……」 勇者「俺は何をすればいい?   ……まぁ、うっすらと判っちゃいるんだが」 魔王「予想通りだ。  勇者には『正義の味方』をやってもらう。  攻め込んだ魔王軍を撃退する、南部諸王国領主の  軍事的先鋒だ」 勇者「茶番だな」 魔王「うん。悪の首魁とこんな話をしているいま、  それは限りなく茶番だろう」 勇者「100回地獄へ行っても救われないな」 魔王「判るなんて云わない」 勇者「でも『その役が』いないと始まらないもんな」 ****240 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/04(金) 14:42:09.44 ID:AIDyRnsCP ――冬越しの村 魔王「思ったより難航しそうだな」 勇者「ああ、そうだな」 メイド長「あんなに分からず屋だとは思いませんでした」 勇者「仕方ないさ。俺たちにとっては挑戦だけど  この村の人たちは、一年不作になっただけで人死が  出るんだ」 メイド長「それはそうですが……」 魔王「考えてみると、この地よりも魔界の方が  気候的には恵まれているな」 勇者「そういやそうだな」 メイド長「勇者様は魔界のあちこちに旅されたのですか?」 勇者「ああ、人間では一番の魔界通だと思うぞ」 メイド長「しかし、村長があの態度ですと  農業技術の改良ですか? 難しいのでは……」 魔王「うむ。……露骨に断ってくるわけでもないので  対処に困るな」 勇者「村長から見たら、魔王は貴族の令嬢に見えるんだ。  正面から反対はできないさ」 ****243 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/04(金) 14:49:16.30 ID:AIDyRnsCP メイド長「それならいっそ……」 魔王「却下」 メイド長「しかし、まおー様。目的のために手段は」 魔王「農地改革のために、細かい利権争いをする  領主や地主を取り除くのはやむを得ない。  生産性を上げるためには、必要なことだ。  でもそれは、農業技術が発展して集約農業が  可能になって初めて出来ることであって  その技術的な先行試験場で、指導者を  取り除くことには百害あって一理もない」 勇者「だよなぁ」 メイド長「困りましたね」 魔王「ん……。やはり教育程度がネックなのか」 勇者「教育?」 メイド長「関係あるのですか?」 魔王「まぁ、いろいろとな。次の段階でと考えていたのだが  あちこちに手を入れなければ物事が進まないようだ」 ****245 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/04(金) 14:54:32.24 ID:AIDyRnsCP メイド長「何をするのです?」 魔王「考えても見ろ。私たちがこの村で生産性を  向上させても。それを他の村や王国にも伝えて  いかなければ、全体的な変化は望めない。  でも私たちが一カ所ずつ教えて回るのは  時間的に見ても経済的に見ても不可能だ」 勇者「道理だな」 魔王「だから、新しい技術を覚えて様々な国へ  伝えるため専門の人員、まぁ、部下でも同盟者でも  いいんだが、そういった人材も必要だ」 勇者「ふむ」 メイド長「それで、教育ですか」 魔王「ところで聞くが人間界の教育とはどうなってるんだ?」 勇者「そんなこと云われてもなぁ。そもそも教育って何だよ」 ****246 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/04(金) 15:00:09.67 ID:AIDyRnsCP メイド長「……」 魔王「えーあー」 勇者「いやだからさー。当たり前みたいに  難しい言葉を使われても」 魔王「つまり、知識を子供や年下の存在に伝えると云うことだ」 勇者「何だ、簡単な説明じゃないか。そんなのは  人間社会にだって当然あるよ。そもそも教えなきゃ  赤ちゃんは話せるようにだってならないだろう?  このあたりじゃ、まずは子供はじいさんか  ばあさんに預けられて、まとめて育てられるな。  両親は畑や狩に出かけるから、同年代の複数の家の  子供がまとめて面倒を見てもらう」 メイド長「効率的なんですね。お年寄りにも仕事が出来ます」 勇者「ある程度年甲斐ったら、農作業の手伝いをすることに  なるな。魔王みたいな理屈での話じゃないけれど、  いつ何処に何を作付けするかとか、天気の読み方だとか、  獣の避け方だとか、そう言う知識は数年も働けば自然と  身につくもんだ」 ****249 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/04(金) 15:24:38.66 ID:AIDyRnsCP 勇者「それから、この地方の冬は深いんだ。  雪がどっさり降るし、冬には嵐がやってくることも多い。  この地方のこんな村では、冬の間は殆ど家の中に  閉じ込められるんだ。そんな間、農民たちは  細かい工芸品を作ったり、羊毛で衣類をこしらえたりする。  子供たちは長い冬の間、村の智慧者たちから  いくつものお話を教わる。英雄譚や王の話、神々の話だな。  あー、なんだ。魔族の話も出てくるぞ。  それから、ちょっと目端の利く若者や村長の子弟は  読み書きを習ったりもする」 魔王「ふむ」 勇者「都市部だとまた話が違うな。  都市部で教育と云えば、教会でのミサと家庭教師だ。  家庭教師ってのは、知ってるか?  えーっと、物語や読み書きや算術を教えてくれる  個人用の語り部みたいなものだ。  裕福な商家や貴族の家では両親が家庭教師を雇って、  自分の子供に様々な知識と技術を教えさせる」 メイド長「勇者様もその口ですか?」 勇者「まぁ、そうだな。とは云っても、俺の場合は  剣の教師とばっかりつるんで遊んでいたようなものだけど」 ****250 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/04(金) 15:33:52.38 ID:AIDyRnsCP 勇者「どうだ? 教育ってこういう事の事じゃないのか」 魔王「いや、まさにそう言うことだ」 勇者「人間社会のことも任せておけっ」 魔王「まぁ、で、その人間社会の教育は未開なので」 勇者「未開っ!?」 魔王「む。表現が悪かった。『発展の過程における  初期的な未発達の状態』だな」 勇者「同じじゃねぇか」 魔王「からかっただけだ」 勇者「くぅ」 魔王「だが、自然な教育だよ。無理がない」 勇者「……」 魔王「とはいえ、こちらは不自然な発展を望んでいるから  不自然で気合いの入った教育をしなければならない。  ……だがなぁ、教育って云うのは金がかかるんだ」 勇者「金かぁ。俺勇者だし、勇者の装備を売れば  そこそこ金にならないか?」 ****252 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/04(金) 15:40:23.28 ID:AIDyRnsCP メイド長「えーっと、勇者の剣と勇者の盾、  勇者の鎧ですか……38万Gくらいにはなりますね」 勇者「なっ? すげーだろ?」 メイド長「どれくらい必要なのですか」 魔王「むぅ。そうだなぁ、今年度の予算計画は  流動的でいくつかのパターンを考えているのだが  切り詰めた案で5600万G程度かな」 勇者「お、おれの……勇者の……装備が……」 メイド長「落ち込まないでください。勇者様」なでなで 魔王「メイド長。それ以上の接触は禁止だ」 メイド長「はい、まおー様♪」 魔王「なかなかに難儀な話だなぁ」 勇者「まったくだな」 メイド長「まぁ、そろそろ冬になりますし、  どちらにせよ本格的な農業実験は春からでしょう?  この冬を使ってゆっくり手を打てばいいですよ」 ****254 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/04(金) 15:43:06.05 ID:AIDyRnsCP 魔王「そうは云っても」 勇者「気は焦るよな。3年しかないし」 メイド長「まぁまぁ、今日は豚肉とカブのシチューを  作ってあるんですよ」 魔王「旨そうだな」 勇者「ああ、考えてても仕方ないか」 メイド長「では、調理の仕上げがありますので  わたしはこれで。夕食はあと1時間ほどです。  お呼びに上がりますので、暖炉にでも当たっていて  くださいね」 魔王「ああ、頼んだぞ」 ぱたり 勇者「……ふぅー」 魔王「疲れたか? 勇者」 勇者「んー。身体は何も疲れてないんだけどな。  普段考えないようなことを考えて、頭が疲れたよ」 魔王「ふふふ。そうだろうな」 ****256 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/04(金) 15:46:39.50 ID:AIDyRnsCP 魔王「なぁ、勇者」 勇者「ん?」 魔王「暖炉が暖かいぞ?」 勇者「おう。暖かいな。この地方の寒さも、暖炉の前だと  多少許せるよな」 魔王「なぁ、勇者」 勇者「ん?」 魔王「そのぅ、良かったらなのだが。隣に来ないか?」 勇者「なんで?」 魔王「この角度が、暖炉が暖かくて気持ちよいのだ」 勇者「そなのか?」 魔王「そうなのだ。ほら、特等席だぞ」 勇者「ん。ほんとだ。あったけー」 魔王「どうだ?」 勇者「自慢そうな顔するなよ、魔王」 魔王「む。……まぁ、たしかに暖炉が暖かいのは  私の手柄ではないがな」 ****257 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/04(金) 15:50:45.68 ID:AIDyRnsCP 魔王「……」 勇者「……」 魔王「勇者?」ぺ、ぺとっ 勇者「ん?」 魔王「さ、触って良いか?」 勇者「別に良いけど」 魔王「変な意味はないぞ。勇者の髪は暗い色だから  ちょっと触れてみたくてな。ああ、つんつんしてるな」 勇者「ご先祖様にサムラーイがいたんだ」 魔王「なんだそれは?」 勇者「東方の戦士だよ。鎧も兜も真っ二つにする技が  使えたんだとさ」 魔王「そうか、勇猛な戦士殿だったんだな」 勇者「一族全員戦いの家系なんだ」 魔王「そうか? それ以外にだって、  勇者には素晴らしくて良いところが沢山だぞ?」 ****259 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/04(金) 15:54:50.43 ID:AIDyRnsCP 勇者「そうかなー」 魔王「そうだぞ、たとえば、私が側にいても怯えないとか」 勇者「魔王はひ弱だし、女の人じゃん。運動不足だし」 魔王「でも魔王だからな」 勇者「そう言うものかな」 魔王「そう言うものなんだ」 勇者「なんだかしおらしいな」 魔王「さ、作戦なのだ」 勇者「?」 魔王「これから勇者相手に交渉をだな、するのだ」 勇者「何の?」 魔王「それを云っては交渉にならんではないか」 勇者「云わないで伝わるものか」 魔王「事は微妙を要する問題なのだ。出来るだけ誤解を  受けないようにきちんと説明をしたい」 勇者「話してみれば?」 ****261 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/04(金) 15:58:09.56 ID:AIDyRnsCP 魔王「つまり、外は寒いだろう? 冬の嵐到来だ。  そしてここは暖かくて居心地がよい。  じきに夕食のお迎えが来るまでは二人は暇で、  さしあたってやることがないだろう?  もちろん今後やるべき課題は山積みでそれらに対して  考察を加えるという任務が巨大にそびえ立っているわけだが、  勇者は現在頭が疲れているという状況にあり、  効率的な作業は望めないわけだ」 勇者「あー」 魔王「もちろんこれはわたしの方で考えた草案というのも  愚かな一私案に過ぎないわけだが勇者の現在の疲労状況を  鑑みるにこのような俗説民間信仰の類も一概にその効能を  否定するわけにも行かないのではないかと思えるのだ時に  戦士はそのような蜜園で疲れを癒すと古書にもある勇者は  そのような爛れた習慣はないというかも知れないが」 勇者「で、なにをどーしたいんだ?」 魔王「勇者に膝枕してみたい」 勇者「よしきた」ぼふんっ 魔王「あっ。あわっ。勇者……」 勇者「俺は魔王のものなんだ。遠慮は無用だぜ」 ****265 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/04(金) 16:03:32.95 ID:AIDyRnsCP 魔王「勇者」 勇者「んぅ……」 魔王「勇者の頭、もふもふしてるぞ」 勇者「遊ぶなよ」 魔王「撫でているだけだ」 勇者「魔王も良い匂いだぞ?」 魔王「毎日ちゃんと湯浴みしてるからな」 勇者「真面目だな」 魔王「うむ、真面目なのだ。  勇者のモノになって以来メイド長が容赦なくてな。  以前は研究続きで一週間着替えないなんて事も  少なくなかったんだが」 勇者「魔王は太ももすべすべだな」 魔王「そ、そうか? 太くないか?」 勇者「寝心地良いぞ」 魔王「そうか。救われる。勇者は本当に  寛大な心の持ち主だな」 勇者「あーえーうー。……えろ欲求の持ち主ではあるんだが」 魔王「?」 ****272 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/04(金) 16:12:30.35 ID:AIDyRnsCP 魔王「その、勇者」 勇者「なんだー?」 魔王「さっきの、遠慮は無用というの」 勇者「?」 魔王「あれは本当か?」 勇者「うん、そうだぞ」 魔王「そ、そうなのか」おろおろ 勇者「……どした?」 魔王「う、うむ」 勇者「押し黙るなよ。怖いから」 魔王「私も自分がちょっぴり怖いぞ」 勇者「はぁ?」 魔王「いや、怯えてなどいられるか。  『まだ見ぬものを求める』。  それが私の生涯のテーマだったではないかっ」 勇者「??」 魔王「その、勇者……」じぃっ 勇者「何だよ、気軽に云えばいいぞ」    ガ タ ン ッ ****275 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/04(金) 16:24:44.37 ID:AIDyRnsCP 魔王「何だ、あの音は」 勇者「裏手? ……納屋かっ?」 ダダダッ 魔王「えいこれ! 待てと云うのだ!」 ――納屋 勇者「ここかっ!」 魔王「真っ暗ではないか」 ???「……。……」 勇者(人の気配?) 魔王「しばし待て、明かりの呪文を……」ぽわっ 姉 がたがたがた 妹 ぶるぶるぶるぶる 勇者「……なんだ? 子供だぞ」 魔王「どうしたのだ? 殆ど下着ではないか」 ****279 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/04(金) 16:29:26.13 ID:AIDyRnsCP メイド長「あらあら、まぁまぁ」 魔王「メイド長」 メイド長「また迷い込んできたのですね」 魔王「こやつらは何なのじゃ?」 メイド長「逃亡奴隷ですわ。この館は長い間無人でした。  無人の割には廃墟ではありませんでしたし、  周辺の村とは違う系統の権力に属していますからね。  そう言う場所は逃げ込む先として使われてしまうんですよ」 勇者「奴隷?」 メイド長「ええ、そうですよ」 勇者「奴隷なんて、そんなのどこから来るんだよ」いらっ メイド長「そこら中にいるではないですか?  ここらにいる人間はその殆どが奴隷でしょう?」 勇者「ちがうっ。奴隷なんかじゃないっ!」 メイド長「あら。私の見当違いなのでしょうか」 勇者「奴隷制は野蛮だ。俺たちは許していない」 メイド長「そんなことをおっしゃられても」 ****282 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/04(金) 16:33:04.54 ID:AIDyRnsCP 魔王「この者たちは、農奴なのだな」 勇者「農奴……?」 メイド長「やっぱり奴隷ではないですか」 魔王「農奴と奴隷は違う」 勇者「ほらみろ。この南部諸王国に奴隷はいないんだ」 メイド長「そうでしょうか?」 魔王「農奴は奴隷とは違い、個人財産が認められている。  家も持てるし、農機具も自前のものがもてる。  家族と一緒に暮らすことも出来るんだ」 勇者「まぁ、当たり前だな」 姉 がたがたがた 妹 ぶるぶるぶるぶる 魔王「その一方で、職業選択や移動の自由はない。  主に荘園……地主の農地で、農作業を行なうための  労働力として、選択の自由無く働かされる存在だ」 勇者「……」 メイド長「……奴隷とは違うのですねぇ。へぇ~」ふんっ ****283 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/04(金) 16:38:20.18 ID:AIDyRnsCP 勇者「……」ぎりっ 魔王「メイド長、それ以上は云うな。奴隷制は悲劇的かも  しれないが社会制度の中で経済的にも意味があったのは  事実なのだ」 メイド長「そうでしょうか?」 魔王「メイド長っ」 メイド長「……差し出口を。申し訳ありません」 魔王「……」 勇者「……」 妹 ぶるぶるぶるぶる 姉「あ、あのぅ……。あ、あさにはでてゆきますっ。  ごめ、ごめいわく……かけませんから…っ…  どうか、ひとばんだけ」 メイド長「……」 魔王「メイド長。初めてではないのだろう?  いままではどのように対処していたのだ?」 ****285 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/04(金) 16:42:32.64 ID:AIDyRnsCP メイド長「逃亡奴隷……農奴でしたか。それは重罪です。  付近の有力者との関係も悪くなります。  すぐさま通報して引き取りに来てもらっていました」 魔王「そうか」 勇者「……」 メイド長「勇者様、ご気分が優れないようですが?」 勇者「……厳しすぎないか?」 メイド長「自分の運命をつかめない存在は虫です。  私は虫が嫌いです。羽をもがれたようで見るに堪えません」 魔王「……っ」 勇者「あのなぁ!」 メイド長「大事の前の小事ではありませんか?  このような些末時で付近の有力者の方々の  心証を悪くされても益のないことだと思いますが」 魔王「そう……だな……」 勇者「魔王……」 メイド長「では」 魔王「いや、連絡は明日の朝まで待つ。  湯を沸かせ。もう少しましな衣服もあるだろう。  反論は抜きだ。今回はそうする。もう、決めた」 ****286 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/04(金) 16:47:50.29 ID:AIDyRnsCP ――小さな部屋 魔王「あー。なんだ」 勇者「……歯切れ悪いな」 魔王「私は魔王であり経済屋だ。こういうのは苦手なんだ」 勇者「俺だって勇者で剣士なんだ。苦手だ」 姉「あの、ありがとうございます」 妹 おどおど 勇者「おう、気にしないで良いぞ」 姉「こんなりっぱなふく、はじめてです」 妹 こくり 勇者「そか? なんだかこの屋敷に残されてた古着だけど」 魔王「あー。腹はくちくなったか? 寝床は平気か?」 姉「はい。わらはふかふかで、  あたたかくて、きれいなへやです」 勇者「こんな小汚い部屋でもか……」 魔王「そう言う境遇なのだろう」 ****289 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/04(金) 16:57:08.31 ID:AIDyRnsCP 姉「その、こんなによくしてもらったのですけど」 姉「あしたの、あさには、その……」 魔王「それは……」 勇者「……」 姉「おねがいです、つうほうしないでください。  いえ、そうじゃなくて」 妹 じわぁ 姉「にげますから。ほんのすこしだけ。よあけから  すこしのあいだだけ、まってください」   ガチャリ メイド長「何を言ってるんですか。ろくな靴もない。  服も最低限。お金も道具も何もない。  街へ行って乞食でもやるつもりですか?」 妹「あ、あぅぅぅ」 勇者「どうにか……。どうにかなんないのか?」 ****291 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/04(金) 17:02:44.67 ID:AIDyRnsCP メイド長「なりません。奴隷の生活は惨めですよ。  何も出来ない。何の希望もない。  自分自身の罪でそう居続けるしかできないと  自分で自分に言い聞かせながら生きてゆくのです。  この世の地獄かも知れませんね。  でもね」 姉「……」 メイド長「やっていることはメイドと代わりはありませんよ。  主人の意を受けて、主人の言葉なら何でもしたがう。  主人の夢を叶えるため、そのために命を捧げる。  奴隷とたいした違いは有りはしません」 魔王「メイド長。私はお前を奴隷だなどと思ったことは  有りはしないぞ」 メイド長「ええ、まおー様。  私もそのような扱い、まおー様より受けた覚えはありません。  でもだからより一層、正視に耐えません。  私と同じ仕事をしながら、  自らの手に運命をつかむことの出来ない  その弱さは、灼かれて死んで償うべきかと思います」 妹「ちがうよっ!! ちがうもんっ!」 ****292 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/04(金) 17:07:38.70 ID:AIDyRnsCP 妹「ちがうよっ、めがねのおねえちゃんはいじわるなのっ。  わたしたちはちゃんとにげてきたもんっ。  なにもできないわけじゃないもんっ。  みやこにいって、ふたりで、くらすんだもんっ」 勇者「……それは」 メイド長「何を夢物語を」 妹「でも、やるんだもんっ」 メイド長「百歩譲ってその熱意を努力と呼んでも  良いでしょう。しかし、それをなすに当たって  他者の家に忍び込み、あまつさえその厚意にすがり。  そればかりか寝床と食事を与えてくれた  その他者の立場を逃亡によってさらに悪くする。  そのような方法を是とする。  それがあなたたち農奴のやりようですか?」 妹「だって、だってぇ!」 メイド長「もう一度云います。  自分の運命をつかめない存在は虫です。  私は虫が嫌いです。大嫌いです。  虫で居続けることに甘んじる人を人間だとは思いません」 姉「……」 ****294 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/04(金) 17:13:49.12 ID:AIDyRnsCP メイド長「判りましたか?」 姉「はい……」 メイド長「謝罪を」 姉「このやかたのみなさま……きぞくさまには  ご、ごめいわくを、かけました。ごめんなさい」 メイド長「よろしい」 姉「……」 妹「ひっく……う。うううぅ」 メイド長「……」 じぃっ 姉「……」 メイド長「……それだけですか?」 妹「やぁ……。もどるの、やだよぅ……こわいよぉ」 姉「……いもうと、しずかにして」 ****297 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/04(金) 17:17:39.30 ID:AIDyRnsCP メイド長「……」 姉「わたしたちを、ニンゲンにしてください。  わたしは、あなたがうんめい、だと――おもいます」 メイド長「頭を下げる時は  そのように這いつくばってはいけません。  せっかくスカートをはいているのですから  指先で軽くつまみ、ドレープを美しく見せながら  優雅に一礼するのです」 姉 ぺ、ぺこり メイド長「……魔王様。この館は魔王城に比べれば  掘っ立て小屋も同然ですが私1人ではいささか手が  足りません。メイドを雇ってもよろしいでしょうか?」 勇者「いいのかっ? メイド長。あんなに嫌いだって  いってたのに。許してくれるのかっ?」 メイド長「嫌いなのは虫です。メイドを嫌う人は  この世界に存在しません。たとえそのメイドが  新人であってもです」 魔王「許す。鍛えてやってくれ」 ****302 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/04(金) 17:27:33.55 ID:AIDyRnsCP ――雪の森の中 メイド妹「ゆーしゃーさまー。ゆーしゃーさまー」 メイド妹「ゆーしゃーさまーはどこですかー。  おいしーパンを、おとどけですよ」 ヒュンッ! 勇者「おう、お使いお疲れ」 メイド妹「わっ。どこにいたの?」 勇者「転移魔法だよ。声、森の中に響いてたぞ」 メイド妹「へへーん♪」 勇者「まぁ、この辺はすっかり安全になったから  平気だろうけどな。不用心なヤツだ」 メイド妹「ゆーしゃさまに、おとどけものです」 勇者「お!」 メイド妹「おひるごはんですー! クルミのパンと、  タマネギとベーコンのオムレツですー」 勇者「旨そうだな」 メイド妹「おねーちゃんがつくりましたっ」 勇者「順調に仕事覚えてるな。感心感心」 ****306 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/04(金) 17:33:55.68 ID:AIDyRnsCP メイド妹「おいしい?」 勇者「美味いぞ! 温かい紅茶がまた泣かせるな。  走ってきたんだろう?」 メイド妹「うんっ」 勇者「一口飲め?」 メイド妹「うんっ!」 勇者「昼間とは云え、屋外作業は辛いなぁ。  なんかこー滅入るよ、まったく」 メイド妹「あ、そだ。とうしゅのおねーちゃんから  でんごんがあった」 勇者「何だ、先に云えよ」 メイド妹「『きょうは、いのしし6とうがのるまだ。  くまならいのしし2とうぶんにかぞえても、よい。  それから、かわのじょうりゅうをみてきてくれ。  はんらんしそうなばしょがあれば、  まほうでこわすか、なおしてくれ』」 勇者「人使い粗いな」 ****307 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/04(金) 17:39:27.05 ID:AIDyRnsCP 勇者「そういや、学校はどうした?」 メイド妹「ごごは、からだのたんれん」 勇者「お前は鍛錬良いのか?」 メイド妹「まだ、せいとすくないから。  おなじ年のこ、いないの。ゆうしゃさまに  ごはんをとどけるのが、ごごのうんどうー」 勇者「お。『年』っておぼえたのか」 メイド妹「とーしゅのおねーちゃんが、  もじおしえてくれるんだよ」 勇者「忙しいクセにまめだな、魔王」 メイド妹「あと、さんすー」 勇者「算数か」 メイド妹「うまくやると、儲けでうはうは」 勇者「あの経済屋め。『儲け』だけは書けるのか」 メイド妹「損益分岐点、もかけるよ?」 ****310 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/04(金) 17:43:22.75 ID:AIDyRnsCP 勇者「あと、2匹か、イノシシ換算で」 メイド妹「なべー!」 勇者「突然どうした」 メイド妹「いのなべ?」 勇者「ああ、あれは美味いな!」 メイド妹「いのなべにしよー!」 勇者「お前は食い気ばっかりだな」 メイド妹「ゆーしゃさまが、ごはんとってきてくれる」にこっ 勇者「……ああ、そうだな」 メイド妹「ごはんいっぱいは、とても幸せだよ」 勇者「そだな」 メイド妹「けんかないもん。  そんちょーのあとつぎさまにぺとぺととしなくていいの。  まいにちあったかい。おふとんほかほか。  ふくがきれい。おねーちゃんとふたりで  ずっといっしょにいられる。それは幸せ」 勇者「……」 メイド妹「どうしたの?」 ****312 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/04(金) 17:47:21.28 ID:AIDyRnsCP 勇者「いや、勇者って相当に役に立たないなと思って」 メイド妹「?」 勇者「知識があるわけでもなければ、  金勘定が出来るわけでもない。農業も動物の世話も  出来ないし、先生は……出来るって云っても剣くらいだ。  こうなってみるとつくづく思い知る。  俺、口先ばっかり平和とか云ってたけれど  平和ってどういうモノなのか、どうすれば平和になるのか  平和になったらどうすればいいのかなんて  ちっとも考えてなかったよ」 メイド妹「むずかしーね」 勇者「難しいな」 メイド妹「いのししべーこん、おいしいよ?」 勇者「あれ、好きなのか?」 メイド妹 こくん 勇者「気に入ったのか?」 メイド妹 うんうん 勇者「じゃ、勇者のお兄ちゃんとしては、もうちょい  イノシシやっつけて、減らしてくるかね~」 ****316 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/04(金) 18:05:28.67 ID:AIDyRnsCP ――館の広間、授業中 魔王「……以上が南部諸王国の現在の経済状態から  導かれる戦争の最大規模となる」 貴族子弟「……」めもめも 商人子弟「……えっとえっと」 軍人子弟「……」 魔王「私は専門ではないが、古来軍隊が壊滅すると  されている損耗率は」 軍人子弟「……最後の一兵まで戦い抜くでござる」 魔王「おおよそ30%と言われている。3割だな。  ゆえに、この常備軍および恒常的な傭兵戦力によって  戦線維持は難しく、散発的な会戦と拠点防衛が  現在魔王軍との戦闘の要旨となる」 魔王「ここまでで質問は?」 メイド姉「聖鍵遠征軍はどうでしょう?」 魔王「うむ、あれは例外だな」 ****317 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/04(金) 18:17:58.51 ID:AIDyRnsCP 魔王「聖鍵遠征軍について知っているところを述べよ」 貴族子弟「あっ。はい。聖鍵遠征軍は中央大陸の  危機会議によって結成された、聖なる遠征軍です。  目的は邪悪なる魔族を殲滅しこの戦争を終結させること。  この15年の間に2回おこなわれました。  南の極点にある魔界門から魔界へと侵攻して  魔族の重要都市二つを破壊、魔王の都まで  迫りましたが、神のご加護虚しく魔王の卑劣な  補給線破壊行為により撤退を余儀なくされました」 魔王「おお。ほぼ満点だな。  ――このような遠征軍は巨大な兵力を背景にして  行なわれる。まず第一に必要なのは世界規模での  戦争終結への熱意だ。ただ一度の大遠征で終戦が  成し遂げられるのならば犠牲を払う価値があると  世界中の人間が望んでこそ、その戦いに身を  投じる参加者が生まれるわけだな」 魔王「もう一つは経済的バックアップだ。  本講の授業で何度でも扱うが、経済の支援無くして  社会も戦争行為も成り立たない。人間は食べなければ  飢えて死ぬ生き物なのだ」 ****321 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/04(金) 18:21:39.10 ID:AIDyRnsCP 貴族子弟「時には金や食料よりも重要なことがある」だむんっ 軍人子弟「算盤をはじいて戦など出来ないでござる。先生」 商人子弟「……そうでしょうか」 軍人子弟「飢えだなんて精神的な弱者の言い訳だ」 貴族子弟「そもそも領主が保護している人民に  飢えなどは存在しないじゃないですか」 メイド姉「飢えたことがないんですね」 魔王「……次は、南氷海。すなわち南部諸王国と  極点である、魔王の大陸を取り巻く海についてだ。  この海は軍事的、経済的な意味で非常に大きな意味を  もっている。現在魔王軍との戦いのおよそ25%が  海を舞台に行なわれており……」   ちりーん、ちりーん、ちりーん メイド長「お嬢様、授業終了のお時間です」 魔王「もうそんな時間か。では、本日はこれで終える。  明日はこの続きだ。それから、剣士様が明日の午後は  手ほどきに来るそうだぞ」 軍人子弟「まっておったでござる」 貴族子弟「明日はあたりだな」 魔王「では、解散。わたしは長老の家に移動して  夜間の農業講座をしなければならないのでな」 #right(){{&link_up(ページトップへ)}} ---- #center(){[[<前1-1へ>1-1]]|[[次1-3へ>>1-3]]} ----

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