魔王「この我のものとなれ、勇者よ」勇者「断る!」5-4
729 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/16(水) 15:41:41.92 ID:BJlDi/AP
魔王「やはり勇者は人間の娘のほうが好きなのだろうな。
――などと思う自分がいるのが、ただ、哀しい」
魔王「いや、そんな弱気は全体から見ればほんの1%にも満たない。
勇者はわたしのものだ、誰にも渡さない。
あんな過去の魔王など指先さえも触れることは許さない。
でも、それでも。
人間である女騎士には負けてしまいそうな気持ちもある」
女騎士「……」
魔王「でも、やはりだめだ。騎士の誓いが譲れぬものであるように
わたしの所有契約だって不破の約束。
ずっと昔から勇者が会いに来てくれるのを待っていたのだ」
女騎士「うん」
魔王「……」
女騎士「……そう、だよね」
魔王「だが、仕方あるまい」
女騎士「え?」
魔王「わたしは“仕方ない”と云う言葉が嫌いでは、ないのだ。
もちろんその言葉は、十分な努力もしていないものが
己の安逸を求める言い訳に使うことが多い事も承知している。
だが、時にその言葉は飲むに飲めない妥協へ飲み込んでも
前へと進む言葉になってきた。
辛く厳しい現実を受け入れてでも立ち上がる
勇気に満ちた言葉だからだ」
730 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/16(水) 15:45:30.84 ID:BJlDi/AP
女騎士「……」
魔王「だから、わたしが魔族なのは仕方ない。
女騎士が、勇者に……想いを寄せたのも、仕方ない。
いや、沢山の類似ケースを考えれば
一番妥当で痛みのないケースかもしれないな。
そもそも歴代魔王の中ではハーレムを持たない者の方が
少ないくらいだ。勇者のことは知らないが、
それくらいの規模は予想してしかるべきだった。
でも、そんな時に勇者の隣に誰がはべろうが、
その中でも、女騎士が、いちばん“仕方ない”。
他の誰であるよりも、わたしは我慢が出来ると思う」
女騎士「……魔王」
魔王「だからといって譲るつもりも負けるつもりもないぞ?
大体の所、騎士の誓いとは聞けば主従契約ではないか。
つまり終身雇用だ。所有とは概念レベルで勝負にならぬ」
女騎士「わたしにだって、勇者と旅をしてきた歴史があるのだぞっ」
魔王「歴史? 歴史と云ったか、この図書館族のわたしに?
歴史などという言葉は150年前に通過済みだ」ふっ
女騎士「意味不明だっ。わたしは勇者(の毒蛇に噛まれた傷口)に
口づけをしたことだってあるんだぞっ!?」
魔王「~っ!? な、な、なっ。
過去の栄光にすがってどうする! わたしは勇者に膝枕を
した上に、先ほどは二人で読書デートを決行したのだっ!」
女騎士「はっ。読書デート。それこそ子供のような」
魔王「云ったな、女騎士」 ごごごご
732 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/16(水) 15:48:19.60 ID:BJlDi/AP
ドッゴォォォーン!!
バキャァ!!
メイド姉「なんだか大きな音が……」
勇者「ああ、再会を祝ってるんだろう? 二人で。
酒を入れるとみんな明るくなるよなぁ……」
メイド姉「当主様、飲んでいたかしら?」
メイド妹「ねーねー。お兄ちゃん、それはいいからー」
勇者「おう、そうだったなー。えーっと」ごそごそ
メイド妹「わくわく」
勇者「じゃーん、こいつがお土産だ! かさばったぞう!」
メイド姉「これは、なんです?」
勇者「まず、妹には緑柱石の髪飾りと“せいろ”だ」
メイド妹「せいろー? おっきいー。これ、かご?」
勇者「いや、これは鍋の上にのっけるんだ」
メイド妹「のっける?」
勇者「下でお湯を沸かして、湯気でものを暖めるんだよ。
“蒸す”っていうんだけど。判るか?」
メイド妹「うわぁぁ! おもしろーい!!」
733 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/16(水) 15:49:52.50 ID:BJlDi/AP
勇者「で、メイド姉には、こっちだ」
メイド姉「いただけるんですか?」
勇者「おう、あいつが選んだのはこの櫛。
あいつも昔から使っているんだって。まか……じゃない。
学士の故郷じゃ、娘が一人前の年齢になると、
櫛を貰うんだってさ。美人度が上がって彼氏が出来るように」
メイド姉「綺麗です。宝石みたい……」
勇者「こっちは俺からだ」
メイド姉「これ……」
勇者「絹の朱子織だよ。ほら、なんかさー。
服とかそういう洒落たものを買っていくと良いのかなって
思ったけれど、そういう知識もないしさ。
大きさが違うのもよく判らないし。
だから、悪いけど、この布地で」
メイド姉「すごい……」
勇者「あ、やっぱだめだった? 手抜きだった? ごめんな」
メイド姉「いえ、いいんです。嬉しいですっ!
こんな上等な。こんな綺麗な布地は見たことがありませんっ」
メイド妹「うん、すごーい! お姫様の衣装みたい」
勇者「そっか。学士が、姉なら仕立ても出来るって云ってたから」
メイド姉「はい、ありがとうございますっ」
746 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/16(水) 20:02:52.49 ID:BJlDi/AP
――地下世界(魔界)、辺境部の通商道
びゅぉぉぉぉっ
中年商人「うっぷ、すごい風だな」
犬頭の商人「季節風だよ」
歴戦傭兵「こいつぁ、参るな」
中年商人「おーい! 飛ばされんじゃねぇねぇぞ!
しっかり荷の確認をしろーい」
キャラバンの一行「ほーぅい!」
犬頭の商人「逞しいな、あんたらは」
中年商人「商売って云ったら何処でも同じじだろう?
逞しくなきゃやっていけやしないさ」
犬頭の商人「違いない」
歴戦傭兵「この辺の治安ってのはどうなんだい?」
犬頭の商人「良かったり、悪かったりだね」
歴戦傭兵「ふぅむ」
犬頭の商人「近頃は落ち着いているが、
この
開門都市ってのは古代からの聖地なんだ。
何十もの神殿があってね。
それらのお参りで人の出入りが激しい。
人間世界と軍が行き来していた頃は主要な中継地にもなってた。
知ってるように、あんたらと戦争してたからだ」
歴戦傭兵「ああ」
747 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/16(水) 20:06:22.25 ID:BJlDi/AP
犬頭の商人「そんなこんなで、支配者や、
そん時ついてる勢力が変わるたびに治安が乱れるんだよ」
歴戦傭兵「なるほどな」
中年商人「いまは?」
犬頭の商人「今やってるのは随分と評判が良いね。
税も安いし、交易はだいぶ自由だ。
毎月のように広場を開放してくれるし、
毎週月の曜と木の曜には市場を開いてくれる。
俺たち旅商人には有り難いし、治安も悪くはないね。
でも、だからって、このあたりが物騒になりやすい地域だって
事には何の代わりもない。
俺たちは決して油断をしないんだ」
歴戦傭兵「ああ、それが一番だよ」
犬頭の商人「あんたらは随分と大きなキャラバンだもんな」
中年商人「そうか?」
犬頭の商人「ああ、ここらを歩く商売人の殆どは
らくだ一頭に荷を左右にぶら下げて引き歩く行商人だよ」
中年商人「馬車や、らくだ車は流行らないのか?」
犬頭の商人「砂やぬかるみに弱いからね。
手を集めて引っ張り出せるあんた達のような十人以上の
一行なら扱えるんだろうが、独り者の商人の手には負えない」
中年商人「なるほど。俺も若い自分にはポニー一頭をひっぱって
旅暮らしをしていたことがあるよ」
748 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/16(水) 20:07:44.19 ID:BJlDi/AP
犬頭の商人「何を扱っていたんだ?」
中年商人「その頃は麦、香辛料、それに割れ物だな」
犬頭の商人「麦か。このあたりでは、取れるには取れるんだが、
あまり質は良くねぇな。殆どを酒にする」
歴戦傭兵「良い酒なのか?」
犬頭の商人「いやぁ、全然さ。酒と云えば、
妖精族のが一番だ。
竜族の醸す強い酒も上等だな。鬼呼族の作る米の酒も値段は
張るが乙なものだ。なかなかお目にかかれないけどね」
歴戦傭兵「酒は、やはり難しいか」
中年商人「割れたりするトラブルがつきものだからなぁ」
犬頭の商人「そうだなぁ、だが、良い値段で売れた時には
美味しい商売だ。何よりも、何処でもそれなりに商品を
さばける」
歴戦傭兵「ちがいない。はっはっはっ」
中年商人「都に着いたら、何処を根城にすると良いかね」
犬頭の商人「まぁ、まずは庁舎に行って商札をもらわねぇと」
中年商人「許可か」
犬頭の商人「そうだ。そのあとは、茶館にいって一服するといい」
750 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/16(水) 20:10:07.70 ID:BJlDi/AP
中年商人「茶館?」
犬頭の商人「ああ。そうだ。……人間達の街では違うのか?
茶館っていうのは、茶を出す建物のことなんだよ。
茶ってあるのか?」
歴戦傭兵「もちろんあるさ。馬鹿にするな。
まぁ、言葉で何となく判るがよ」
中年商人「商人が集まるのか?」
犬頭の商人「ああ、そうだな。
茶館は都市の商人が集まる、情報の集積地だ。
高級な茶館には高いものを売り買いしたい
金を持った商人があつまる。
まぁ、茶館のランクがそのまま商人の懐具合になってる感じだな。
もちろんこれは何の保証もないから、
目星をつけた後は、嗅覚とコネを使って相手を見定める必要が
あるのは、何処で知り合っても一緒だ。
茶館によっては個室で茶を供するところもある。
商談には便利な場所だよ」
歴戦傭兵「そういうことか」
中年商人「酒場と似たようなものだな」
犬頭の商人「酒場は朝早くは開いていなかったりするだろう?
茶館は小鳥の鳴き声がする前から開いている。
小鳥をかごに入れて飾っている建物が茶館なんだ」
中年商人「良いことを教えて貰ったよ」
犬頭の商人「そら、そろそろ見えてきたぞ」
歴戦傭兵「おお、あれかぁ。……はるばるとした街じゃないか」
犬頭の商人「あれが『開門都市』。このあたりじゃ一番の都だ」
753 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/16(水) 20:33:08.45 ID:BJlDi/AP
メイドゴースト ――
メイド長「ふむふむ。判りました。12番は腹痛で欠席ですね。
他には体調を崩した子はいませんか?」
メイドゴースト ――
メイド長「わかりました。では、本日の業務内容です。
今週はこの東館を集中的に。
いいですか? 集中的に清掃を行います」
メイド長「リネンのセット、生花の準備、
庭の手入れを行ってください」
メイドゴースト ――
メイド長「厨房ですか? 当然です。今週は食糧倉庫の
全品入れ替えも行いますからね、手抜きはしないこと」
メイドゴースト ――
メイド長「は? ゴキブリ? 許可します。殺りなさい」
メイドゴースト ――
メイド長「怖い? それくらいどうにかなさいっ!。
場合によっては初級魔術の使用も許可します。
いいですね、当魔王城のメイド部隊の名にかけて
遺漏は許しませんよっ!」
758 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/16(水) 20:54:13.67 ID:BJlDi/AP
――地下世界(魔界)、開門都市、中央庁舎
副官「砦将、お客人です」
東の砦将「おお、入ってもらってくれ」
ガチャ
中年商人「お邪魔しますよ」
東の砦将「いらっしゃい。俺がこの都市の自治政府、
執行委員なんてものを仰せつかっている砦将というものだ。
あー、すまないが……」
中年商人「わたしは中年商人というものですよ。
お初にお目に掛かります。
いや、人間の方が仕切りをやっているとは聞いていましたが
長い旅をしてきてみると感無量ですな」にこにこ
東の砦将「ははは。逃げ出す時に転んで取り残されただけだ」
がしっ
中年商人「このような薄汚れた格好で申し訳ない。
しかし、取り急ぎ報告をした方が良さそうだと思って」
東の砦将「どのようなご用件だろう?」
中年商人「塩の輸入を依頼されて運んできたんです」
759 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/16(水) 20:55:22.25 ID:BJlDi/AP
東の砦将「
火竜公女かっ? はははっ! やりやがった!」
中年商人「そう、随分気合いの入ったお嬢さんでしたよ。
手紙も預かっている、これですな」にこにこ
東の砦将「かたじけない! 彼女は?」
中年商人「手紙にも書いてあると思いますが、
まだあっちにいますよ。そうだ、紹介しましょう。
こっちは今回のキャラバンの副長兼、護衛隊長の歴戦傭兵」
歴戦傭兵「よろしく」
東の砦将「おお、よろしく。これはわたしの副官だ」
副官「副官です。以後お見知りおきを」
中年商人「荷物は荷馬車に十八台。確認してみてくれませんか?」
東の砦将「よし、副官。見てきてくれ」
歴戦傭兵「俺も立ち会いましょう」すくっ
中年商人「頼んだぞ」
歴戦傭兵「一働きしてきますさ」
がちゃ、とっとっとっと
東の砦将「……ふぅ、これで一つ心配事が減った」
中年商人「こっちも長旅の肩の荷が降りた想いです」
760 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/16(水) 20:57:03.56 ID:BJlDi/AP
東の砦将「彼女はところでどうだった、どうしている?」
中年商人「わたしは、じつは
『同盟』というあっちでは
名の知られた商人のギルドに所属しているんですが」
東の砦将「ほう」
中年商人「彼女はそこに接触して、わたしの上司とでも
云うべき商人に渡りをつけまして。
その手配で今回の荷運びをしたってわけなんですよ」
東の砦将「そうだったのか。支払いの件など
どうすればよいのだろう?」
中年商人 ふるふる
中年商人「私はすでに『同盟』のほうから手当を
受けているんです。
『同盟』のほうはお嬢さんと協力してもっと大きな仕事に
手をつけてって云う話でしてね」
東の砦将「大きな仕事?」
中年商人「こういった塩をもっと潤沢に
輸入するための仕事だそうですよ。
今回のキャラバンは当面の塩不足をどうにかするための
手始めらしくてね。わたしはそのために雇われたんです」
東の砦将「……ふむ」
中年商人「そちらの儲けからたっぷり手当は頂いているから
代金などは頂く必要がないんですよ」
東の砦将「そうか。……では、中年商人殿は、この街への
視察をかねていると思って良いのだな?」
762 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/16(水) 21:02:47.10 ID:BJlDi/AP
中年商人「いや、それはどうだか。わたしは小物ですから」
東の砦将「ふっ。では、接待などしなくてはならないだろうな。
だがこの街の政府は自治政府で、台所事情が厳しいのだ。
わたしの馴染みの場末の酒場と云うことになってしまうが」
中年商人「いや、それはありがたい。
かえってそう言う場所の方が気兼ねないというものです。
わたしはこの街は初めてなんですよ。
しかも長い旅をしてきた。
長い旅の後に、都に詳しい人について酒場に入り、
冷えた酒を一杯やる。これに勝る幸せなんてどんな宴に
だってありはしませんよ」にこにこっ
東の砦将「はははは! 宿舎のでよかったら、
水を浴びてくれ。日が暮れたら繰り出そうじゃないか。
その頃には塩の検品も終わっているだろう」
中年商人「ああ、品質だけは保証できますよ。
西ノ海で取れたまじりっけなしの雪花石膏のような花の塩です」
東の砦将「して、帰りは何か荷物でも仕入れるつもりなのかな?」
中年商人「いや、しばらくはこの街を根城に、
色々話を聞いていこうかと思っているんですよ。
良かったら紹介して欲しい職種もいくつかあるのですが」
東の砦将「ほう? どのような?」
中年商人「魔族の職人や傭兵というのは、
どうすれば雇えるのでしょうね。
ゲート後に開いた大穴、あそこに安全な街道を造るのは
なかなかなにやりがいのありそうな仕事だ」
765 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/16(水) 21:47:46.32 ID:BJlDi/AP
魔王「すさまじい激変だったようだな」
メイド長「ええ、レポートを見るだけでも、大騒ぎですね」
魔王「異端審問から始まり、天然痘の撲滅までか」
メイド長「はい」
魔王「
青年商人の企てた策は、まさに“売り浴びせ”だ。
資産の全てを投げ打つ戦略にはわたしでさえ背筋が氷る。
さらには原始的な先物さえ創造しているんだ。
銀行システムが流布していない世界において、
半ば強引に信用創造を行い“見かけ上の現金”を
増やしてのけた。
その長いロープは中央諸国の首を軒先にぶら下げるに
十分だったろうな」
メイド長「ええ」
魔王「それに、そのオチの付け方が洒落ているではないか」
メイド長「そうですか?」
魔王「ああ。ジャガイモに変える、とはな」
メイド長「はい」
魔王「青年商人は、あの位置から
聖王国最大のスポンサーに
なることも出来た。
そうしなかった理由が、わたしとの約束という義理なのか
それとも商人の嗅覚なのかは判らないが
彼は二大経済圏の成立という賭けに討って出たんだ。
その方が明日があると信じて」
766 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/16(水) 21:51:24.73 ID:BJlDi/AP
魔王「彼の判断は、理論としては正しい。
経済の発展のためには、多数の国家や多数の貨幣、
それらの衝突や摩擦が必要だ。
いずれやってくる魔族との交渉のためにも、
それらの経験値は必要不可欠」
メイド長「ゲートは、壊れてしまったのですからね」
魔王「ああ」
メイド長「早かったですね」
魔王「だが、だからといって伝統や慣習に
こだわる守旧派勢力が勝たないとも限らない。
いや、事実それらの勢力は今まで勝ち続けてきたはずだ。
それなのに、その賭に出た。
一回も見たことがない勝利に賭けた。
その商人の魂に、深い敬意を抱くよ」
メイド長「あとは、勝負ですか」
魔王「そうだろうか。時間との、相手の覚悟との、
押しとどめようとする勢力との勝負だろう。
でも、いずれ同じ事。二つの世界は“異世界”など
ではなかったのだ。
いずれ誰かが気が付いて、二つの世界の垣根は
ぐっと引き下げられていただろう。
それがゲート破壊と云う手段かどうかは判らないけれど
魔力や法力による操作をしなければ行き来できない
ゲートがなくなったことで地上と地下世界はいっそうの
接近を迎えた」
767 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/16(水) 21:53:37.40 ID:BJlDi/AP
メイド長「この波は、止めることは出来ない」
魔王「そうだ」
メイド長「準備が出来ていればいいのですが」
魔王「何時の場合も“十分な準備”などというものは
存在しない。現場の工夫で乗り越えられるか否かだけだ。
そのための支度だけは、出来うる限りしてきたはずだ。
それに……」
魔王「見たか? メイド長?」きらきら
メイド長「はい」
魔王「すごいじゃないか! 素晴らしいじゃないか!
これは……これだけはわたしが残していったものじゃない。
生命、財産、自由の三つを自然権として謳っている。
まだ旧来の信仰や神学と融合した形だが、これは明らかに
人間性の自立や他者への友愛を含んだ、lumen naturale。
啓蒙主義的な発想だ。
……この言葉は、この世界にいきている
彼女個人が傷と痛みと精神の血の中から必死でもがき、
探り出した自由主義の萌芽だ。
わたしが教えたものじゃない。
いや、教えたとしても“知識”では越えられない壁が
存在するはずだ。教えることでどうにかなるものじゃない。
彼女はその壁を魂の輝きで乗り越えたんだと思う」
メイド長「はい」
768 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/16(水) 21:57:54.39 ID:BJlDi/AP
魔王「嬉しくないのか?
この報告の言葉には、書いてあるよ。
“二度と虫にはならない”、
“それがどんなに辛く厳しくても”と」
メイド長「……いえ」
魔王「?」
メイド長「わたしは、彼女に……」
魔王「うん……」
メイド長「……なにか」
魔王「……」
メイド長「何ほどのことが出来たかと」
魔王「うん……」
メイド長「だめですね。……これは、言葉にはなりません」
魔王「……ふふ。彼女だけじゃない。見てみろ」
魔王「他にも有りとあらることが起きているようだ。
紙を利用した記録の有用性の再発見。
試験制度や報酬制度を含んだ官僚主義の成立。
関税による輸入障壁に、原始的な本位制度。
それにしても
馬鈴薯本位とはね。
なかなか上手く切り抜けたようじゃないか。
商人子弟」
772 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/16(水) 22:03:02.14 ID:BJlDi/AP
魔王「軍事にしてもそうだ。
わたしは詳しくはないけれど
野戦陣地や斜線陣形はこの時代の発想にはない戦術だろうな。
戦場医療の充実、か。
医療については確かに発想が抜けていたな。
どれもこれも確かに教えたのはわたしだけど、
すべてに工夫の跡がある。
この世界に生きる人間が、この世界なりのやり方で、
ちょっとでも何かを手にするために
自分たちの知恵を凝らした創意の跡が見える」
メイド長「はい」
魔王「人間は、すごいな。
世界は、すごい……。
魔族だって負けていない。沢山の風車が回っていた。
為替の機構だって軌道に乗ったそうだ。
郵便の話を聞いた時には、わたしだってびっくりした。
公共工事で病院を設立もすごい。
獣人族、鬼呼族は互いの利益を保護するために
共通の憲法に署名をするそうだ」
メイド長「はい」
魔王「図書館の外の世界が、
こんなに騒がしくて
こんなに無秩序な世界が、こんなに愛しく思える」
メイド長「まおー様?」
魔王「ん?」
774 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/16(水) 22:06:56.60 ID:BJlDi/AP
メイド長「泣いて、いるんですか?」
魔王「え?」
メイド長「まおー様」
魔王 こしこしっ
メイド長「……レディはハンカチを使うものですわ」
魔王「ん」
メイド長「辛いのですか?」
魔王「いや、違う。たぶん」
メイド長「はい」
魔王「ちがうよ。これは。
涙だけど、おそらく泣いている訳じゃない。
良かった。そう思っている
多分、わたしは、ちょっとだけ
誇らしいんだ。
わたしの手柄じゃないけれど
この世界が、好きなんだ」
メイド長「――わたしもそう思っています。
出会って、良かったと」
780 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/16(水) 22:26:08.63 ID:BJlDi/AP
――冬越し村、修道院裏手の広場
ギィンッ!
勇者「……はぁっ、はぁっ」
女騎士「はっ、はぁっ……はぁっ、はぁっ」
ギンッ! ギンッ! ザシュッ!
勇者「せいっ!」
女騎士「やぁっ!」
ギィンッ!
勇者「気合い入ってるな」
女騎士「まだまだぁっ! はっ!」
勇者「こっちだっ!」
ヒュバンっ!!
勇者「~っ! “加速呪”っ!」
女騎士「“瞬動祈祷”っ」
ギン!ギン! ガギン! ギッ! ギガッ! ガガっ!
キンキンキンキン! ザシュ! ヒュバッ!
勇者「や、るなぁっ! せやっ!!」
女騎士「ま、だだぁっ!」
ジャギンッ!!
783 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/16(水) 22:29:31.81 ID:BJlDi/AP
勇者「すごいな、腕が上がったのか、気合いか」
女騎士「両方だ」
じりじりっ
勇者「んじゃ、こいつで、仕舞いだっ! はぁぁ!」
女騎士「っ! “光壁三連”っ!」
ヒュバウッ!! シュバァァァーーッ!!
女騎士「~っ!! って、うわぁぁぁっ」
勇者「で、おっしまい」 ぴたり
女騎士「……っ」
勇者「俺の勝ち~」 だばだば♪ だばだば♪
女騎士「くっ……」ぷいっ
勇者「女騎士から稽古しようって云ったんじゃん」
女騎士「それはそうだが、悔しいものは悔しい。
この悔しさを無くしたら、わたしは弱くなる。
だからこの場合、悔しいのは正しんだ」
勇者「そっかそっか」 とさっ
女騎士「どうした?」
勇者「俺もちょっと休憩」
784 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/16(水) 22:31:32.79 ID:BJlDi/AP
女騎士「髪は、切ったんだな」
勇者「うん。切って貰ったぞ」
女騎士「その方が良い。似合うぞ」
勇者「そうかな。頭が軽いと調子が良いな」
女騎士「じゃ、勇者は不調にならないな」
勇者「ああ、そうな」
勇者「……」
女騎士「……」
勇者「ちょっと待て、それどういう意味だ!」
女騎士「いや、他意はないんだ。軽口だ。ほんとだ」わたわた
勇者「……そ、そか? お、おう」
女騎士「……」
女騎士(ど、どうする。勇者の態度も不審だぞ。
こっちまでドキドキしてきた。剣を捧げてから
二人きりなんて無かったしな。ってか、顔おかしいか?
わたしはもしかして赤面しているんじゃないのか!?)
勇者「……あー」女騎士「なんだ勇者っ」
勇者「なんでもない」
女騎士(な、なんであんな口調で返事してしまうのだっ
わたしの脳みそのほうが最軽量かっ!?)
786 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/16(水) 22:34:03.74 ID:BJlDi/AP
勇者「まぁ、女騎士は防御が固いけど」
女騎士「う、うん」
勇者「大きな技ほど光壁で止めようとするからな。
自分の力量と停止力に自信があるんだろうけど」
女騎士「そうかな?」
勇者「わりとな」
女騎士「そうか……」
勇者「……あ、えーと」
女騎士「?」
勇者「けなしてるんじゃないからな?」
女騎士「そんなことは判ってる」ぷいっ
勇者「……」
女騎士「……」
勇者・女騎士「その」
勇者「あ、どうぞ。」
女騎士「そか……その、だな。勇者」
勇者「ん?」
女騎士「さっきも使ってた、剣がふわってぶれて、
霞んで消える技な。気配も消えてしまう技」
789 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/16(水) 22:36:19.21 ID:BJlDi/AP
勇者「ああ、勇者剣技その46なー」
女騎士「そうなのか? 昔からたまに使うよな。
あれを覚えたい、見せてくれないか?」
勇者「そりゃ、無理だろう」
女騎士「そうなのか?」
勇者「だって、勇者の剣技だしなぁ。特別なんじゃないか?」
女騎士「やって見なきゃ判らないだろう?」勇者「……それもそうか」
かちゃ
勇者「こんな風に構えるだろう? いや、足はどうでもいいや。
とにかく、剣を敵に向けて半身だ」
女騎士「ふむ」
勇者「で、左手の薬指で、重心を取るみたいに力を抜いて」
女騎士「剣を落としちゃうじゃないか」
勇者「そこはバランス取るんだよ。手のひらで柄が
ぶらぶらする感じだ」
女騎士「なんて適当な技なんだ……」
勇者「そしたら、剣の刀身から魔素を吸い込むような気持ちで」
女騎士「詠唱するのか?」
勇者「いや、気持ちだけ。そんな気分で、周辺の空間を掴んで、
引っ張るわけだよ、こうきゅーっと。で、いてもうたる! と」女騎士「いきなり難しいぞ、おいっ」
勇者「だって、そういう気分の技なんだ」
女騎士「気分で技を作るなっ」
791 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/16(水) 22:38:37.34 ID:BJlDi/AP
女騎士「まったく信じられないな」
勇者「そう言われても」
女騎士「人に教えるのも向かないのは判ったよ」
勇者「自分でも判ってる」
女騎士「……しょげてるのか?」
勇者「いや、そんなことはないけど。
でも、壊したり殺すのが得意でも、あんまり面白くはないぞ」
女騎士「……そっか」
勇者「そういうもんだ」
女騎士「……」
勇者「……」ぶるっ
女騎士「冷えてきたな。修道院に戻ろう、暖かいものでも出すよ」
勇者「そうすっか」
女騎士「そしてその後、膝枕をする」
勇者「はぁ!?」
女騎士「少しでもハンデを埋める」
勇者「何の話だ」
女騎士「いいではないか! 協力してくれてもっ!
胸は追いつけないんだから。太ももくらい使わせてくれっ」
勇者「……な、何で怒ってんだろう」
女騎士「これでもわたしは遠慮しているのだ。欲求不満だぞっ」
796 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/16(水) 22:45:04.65 ID:BJlDi/AP
――冬越し村、魔王の屋敷、談話室
魔王「慰安?」
勇者「旅行?」
メイド長「はい」
魔王「なんだそれは? 天文学用語か?」
勇者「いや、それはないだろう」
メイド長「古代から伝えられるメイドへの報償です」
魔王「そうなのか?」くるっ
勇者「俺にふるなよ。聞かれたって知らないよ、そんなの」
メイド長「間違いございません」
メイド姉「旅行?」
メイド妹「おねーちゃん、それってなに?」
魔王「あー。遠くへ行くことだな」
勇者「旅みたいなものだ」
メイド妹「お引っ越し?」
魔王「いや、引っ越しは伴わない」
メイド妹「じゃ、屋根無し? 家無し放浪?」 じわぁ
勇者「なんか、生い立ちが忍ばれて胸が痛むな」
797 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/16(水) 22:46:34.57 ID:BJlDi/AP
メイド長「慰安旅行というのは、普段家事に追われている
メイドに対する最高の報酬であり、
古来様々な文献において、絶賛されている休暇のあり方です。
神代のギルドには専用の役人や部署まであったとか」
メイド姉「はぁ」
勇者「それは、どんなことをやるんだ?」
メイド長「まずは遠隔の景勝地へと赴きそこに宿を取ります」
魔王「ふむ」
メイド長「宿には当然他の使用人がおり、
炊事洗濯掃除と云った日常的な雑事をメイドに代わり行います。
普段は家事に忙殺されているメイドを解放する。
それが慰安旅行の目的です」
魔王「つまり、休日か。なるほど、云われてみればもっともだ」
勇者「そういえば、そうだな。
二人にはお休みらしい休みもなかったもんな」
メイド長「さらに云えば、慰安旅行には温泉がつきものです」
メイド妹「温泉?」
魔王「大きな風呂だな。場合によっては、
城の大広間くらいの大きさがある」
メイド姉「そんなに!?」
メイド長「この温泉において日頃の疲れを洗い流し、
メイドは新たなる段階へとステップアップできるのです」
798 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/16(水) 22:50:53.85 ID:BJlDi/AP
魔王「ふむ、云わんとすることは判った」
メイド長「今回まおー様とわたしの里帰りによる長い不在。
そのあいだこの二人のやってきた仕事と
周囲の評価を鑑みるに何らかの報酬を与えるのが
妥当と判断しました」
メイド妹「つまり、ごほーびって事?」ぴょんっ!
メイド姉「大人しくしてるの、妹」
魔王「うむ、この件については、
わたしはメイド長に全幅の信頼を置くものだ」
勇者「云われれば納得だ。今まで思いつかなかったのが
不思議なくらいだぞ」
メイド長「いえ、聞けば長い間、かなりの大騒ぎで
それどころではなかったそうですし、仕方のないことでしょう」
魔王「わたし達も忙しかったしな」
勇者「魔王は例の広間で寝てただけじゃないのか?」
メイド長「メイド姉、メイド妹。こっちに来なさい」
メイド姉妹「はい」「はいっ」
メイド長 なでなで
メイド妹「え……」
メイド姉「あ……」
メイド長「よくやりました」
799 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/16(水) 22:53:17.57 ID:BJlDi/AP
メイド妹「ありがとう! 眼鏡のお姉ちゃん!」
メイド姉「ありがとうございます、メイド長」
魔王「ふふっ」にこっ
勇者「よかったな!」 にこにこ
メイド長「ついては、まおー様、勇者様。お二方、加えて
僭越ながらわたしも同じ場所に行きたいと存じます。
他にもお誘いになりたい方がいれば準備させます」
勇者「そうなのか?」
メイド長「救出にも一役買って頂いたことですし、
こちらでは戦争の危機回避やいざこざなどもあったそうですね。
疲労もたまっていることでしょう。
冬が開ければまた忙しくなるのでしょうから、
行くとすればここがチャンスかと心得ます」
魔王「そう云えそうだな」
勇者「そうかぁ」
メイド姉「ご一緒ですね」にこっ
メイド妹「一緒一緒!」
メイド長「移動は勇者様にお願いします」
勇者「あー。転移? まぁ、手間が無いっちゃないか」
魔王「宿は取ってあるのか?」
メイド長「はい。長い伝統を誇る古城民宿でして
目下急ピッチで準備中。3名どころか連隊規模の
入浴にも堪える大浴場を備える雰囲気ばっちりの宿でございます」
858 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/17(木) 12:41:51.81 ID:z6GJxeoP
――魔王城東翼、別館、古城民宿“まおー荘”入り口
しゅいんっ!
メイド長「さぁ、到着ですよ」
魔王「なかなか綺麗になっているではないか。
掃除したのか? 普段とは大違いだぞ」
メイド姉「ここが民宿ですかぁ、すごいです。まるでお城みたい」
勇者(いや……城だよ……)
メイド妹「すごーい! すごーい、これ壺?」ぴょこぴょこ
女騎士「ちょ、ま、まて。勇者。
身体を休めるための二泊三日の小旅行だと
云ったではないかっ!」
魔王「いかにもそうだが?」
女騎士「ここは、まっ。まっ。まっ」
メイド長「高級古城民宿、“まおー荘”でございます」
女騎士「嘘をつけぇい!
どこからどう見ても民宿じゃないだろっ。
なんだあの鎧はっ! 血の流れる絵はっ!
何処の民宿にあんなものがあるのだっ!」
メイド長「あらあら。ゴーストのおもてなしの心は
ちょっぴりずれていますわね」
859 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/17(木) 12:43:21.98 ID:z6GJxeoP
女騎士「ちょっぴりで済むかっ。く、くそっ。
ああ、精霊様すみません。汚い言葉を使ってしまいましたっ。
あまりの事態のせいです。お許しください。
こんなところで死地に踏み込むとは一生の不覚っ。
わたしが突破のための尖錐騎行をするっ。
勇者は中衛でみんなの護衛を、
魔法使いは後方警戒と火力支援をっ」
勇者「おちつけ」 めこっ
女騎士「何をするっ!」
メイド妹「騎士のお姉ちゃん痛そ~」
勇者(小声)「少しは落ち着けっ!
俺たちは魔王と一緒なんだぞ! やばいわけ無いだろっ!」
女騎士(小声)「そ、そうであった……。すまない」
女魔法使い「仲良し……」
メイド姉「ええ、お二方は仲が良いです」
魔王「わたしだって仲良しなんだぞ。ほんとは」ぶつぶつ
メイド長「ええ、そうですとも。
まおーさまと勇者様は仲良しですとも。
わたしがその生き証人です」
魔王「メイド長のせいで、すごく嘘くさくなってしまったではないか」
860 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/17(木) 12:45:10.64 ID:z6GJxeoP
メイド姉「仲の良いことはよいことですよ」にこにこ
メイド妹「いいこと?」
女魔法使い「……比較において好ましいということ。わたしも
メイド妹と、仲良し」すりすり
メイド妹「昼寝のお姉ちゃんと仲良し」むきゅ
女騎士「いーやっ! わたしの方が仲良しだっ」
魔王「仲良しにおいてはわたしに一日長があるっ」
勇者「もうね。みんな仲良しで良いじゃないですか」
メイド長「あらあら」
メイド姉「仲良しが過ぎてなんだか大変ですね」
メイド妹「お兄ちゃんは、女の人と仲良し?」
女魔法使い「……女の人、沢山と、仲良し」
メイド妹「もてるんだね♪」
女魔法使い「……そのような解釈をすることも出来る」
魔王「……」
女騎士「……」
メイド長「そういえば、勇者様。執事さんは
誘わなかったんですか?」
勇者「いや、ほら。まだ色々話していないこともあるし。
そもそも温泉にあの爺連れてきたらどうなるか判るっしょ」
メイド長「3人子弟の皆さんは?」
勇者「みんな忙しいんだよ。それにやっぱり前述の問題が、その」
863 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/17(木) 12:47:56.24 ID:z6GJxeoP
メイド妹「お兄ちゃんは、男の子の友達いないの?」
女騎士・魔王 ビキィッ!
勇者「な、な、なにを云ってるのかな?」
メイド妹「一緒にお出かけしてくれる友達、いないの?」
勇者「え? あ。
……そんなことないすよ?
たまたま。
たまたまだよ?
ほら、みんなもう要職って云うか、国家運営って云うか、
組織の指導っていうか、いろいろあるわけじゃない?
その辺子供にはちょっと難しくて判らないかなぁ、って
思うんだけどさ。世の中ってのはそう簡単にはできてない
わけですよ。ね。何事もさ。
俺くらいの年齢になるとさ、一人で動くのがクールっていうの?
なんでも群れて動けばいいってもんじゃないっしょ? ね?」
メイド長「そういえば、男性は勇者様一人ですね~」
女魔法使い「……独占欲」
魔王「ゆ、勇者? そうなのか? 以前から勇者の知り合いは
どうも女性が多すぎるのではないかとうすうす感じていたんだが」
勇者「な、なにをっ」
女騎士「大体勇者が見境なくあっちの街でもこっちの街でも
ピンチの女性や少女を都合良く発見、
その上救出しているからこうなるんだ。
勇者はファンクラブでも作るつもりなのかっ。
それとも作った上で会員を増やそうと営業しているのかっ」
864 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/17(木) 12:50:02.67 ID:z6GJxeoP
メイド妹「お兄ちゃん虐められてる?」
メイド姉「怒られてるみたいね」
メイド長「あらあら、まぁまぁ」
女騎士「大体勇者はちょっと胸の大きい女性を見ると
すぐにぽやんとして節操というものがないっ」
魔王「良いではないか。胸くらいっ。勝手に育ったんだ。
肉に罪はない。いつまでたっても増えないよりは利息が付いて
健全な財務状況というものだっ」
勇者「な、何で到着早々こんな流れに……」
メイド妹「お兄ちゃん、お兄ちゃん」
勇者「ううう……」
メイド妹「大丈夫。わたしが友達になったげるね♪」なでなで
女騎士・魔王 ビキィッ!
勇者「え、あ。……う、うん。ありがとう」
女騎士「勇者、まさか……」
魔王「よもやそんなことはあるまいと思っていたが」
勇者「ちがっ。ちげーよっ! 誤解だよ。
なんか誤解に満ちてるよっ」
メイド姉「こ、こらっ。妹」ぺし
メイド妹「はう?」
865 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/17(木) 12:51:40.46 ID:z6GJxeoP
メイド長「あらあら、まぁまぁ」
女騎士「だいたい身近に女性が複数いながら
新規開拓とはどういう了見だっ」
魔王「勇者の所有者としても勇者の交友関係の
性別比率については一言言わせて貰いたいっ」
勇者「ううっ。違うっ! 違うんだっ!
今回はたまたまだったんだっ!」
女騎士「言い訳とは騎士らしくありませんね」
勇者「俺は騎士じゃないっ」
魔王「ただでさえハンデがあるというのに、
これ以上出走馬を増やされては叶わないっ。どうにかしろっ」
女魔法使い「……勇者も受難」
勇者「助けろ、魔法使いっ」
女魔法使い「殺人事件は、常にごきげん」
勇者「意味がわからねぇ~っ」
女騎士「それもこれも勇者が悪い」
魔王「甲斐性の欠如だ。安心感と安定感がないのが悪い」
勇者「言いたい放題云いやがって!
女は簡単に連合軍を作るから包囲戦じゃねぇかよっ!。
わぁった! 見てやがれっ。俺だってダチの一人や二人いるんだ。
後で見てろよっ!!」
ひゅいんっ!
最終更新:2010年05月14日 16:00