魔王「この我のものとなれ、勇者よ」勇者「断る!」7-3
398 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/23(水) 23:50:35.79 ID:OGIpmW2P
さくっさくっ
勇者「ああ、良い陽気だな。まだ風は冷たいが
太陽がだんだんと暖かくなってくる」
女騎士「春だな。わたしはこの雪国の春が大好きだ」
勇者「そうだなぁ、訳もなく幸せな気分になるなぁ」
女騎士「……」
勇者「……」
さくっさくっ
女騎士「……」
勇者「で。どうしたんだ? 女騎士」
女騎士「え?」
勇者「いや、付き合えだなんて云うから。何かあるんだろう?」
女騎士「いいや」ふるふる
勇者「……」
女騎士「何にもないぞ」
勇者「えー!?」
女騎士「ただ二人で歩きたかっただけだ。そんなに変か?」
勇者「変じゃないけれど」
399 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/23(水) 23:51:51.55 ID:OGIpmW2P
女騎士「あれから立て込んでいたからな。
我が剣の主人と共に歩きたかっただけだ」
勇者「……う」
女騎士「そんなに身構えられると哀しくなるな」
勇者「う、うん……」
さくっさくっ
女騎士「別に何をしようって云うわけでもないんだ。
ただ修道院まで、この木立の道を歩いてみたかっただけだ」
勇者「うん」
さくっさくっ
女騎士「……」
勇者「……」
女騎士「なぁ、主人」
勇者「っ!」
女騎士「何だ、その顔は」
勇者「いや。その“主人”っていうの、やめないか?
心臓に悪い。止まりそうになる」
女騎士「そうか。二人の時はよいかと思ったんだが」
勇者「勘弁してくれ」
さくっさくっ
女騎士「じゃぁ、勇者」
勇者「なんだよ」
女騎士「……あー」
勇者「?」
400 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/23(水) 23:53:53.69 ID:OGIpmW2P
女騎士「なんでもない」
勇者「なんだよってば」
女騎士「……」
勇者「……」
さくっさくっ
女騎士「その……。褒めて貰って良いか?」
勇者「へ?」
女騎士「ほら、今回は治癒とか随分頑張ったじゃないか。
わたしは今、いい気になりたい気分なんだ」
勇者「え? いい気って」
女騎士「頼む」
勇者「うん。そんな事頼まれないでもさ。本当に感謝してるのに。
女騎士には世話になった。今回はすごく助かった。感謝してる」
女騎士「そういうのではなくて、もっと単純なので」
さくっさくっ
勇者「……そんな事言われてもな」
女騎士「ん」
さくっ。
勇者「……えーっと。……っと。……えらいぞ」ぽむぽむ
女騎士「――あははぁ」にこっ
勇者「なんだよ、変なやつだな」
女騎士「いやいや主人」
勇者「それやめろよっ」
女騎士「これからの御命を守るため、我は我が剣の主人の
忠実な盾となり鎧となって御身をまもろう。
いま、誓いを新たにしたのだ」えへんっ
411 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/24(木) 00:24:24.64 ID:jeE4iYgP
バサァッバサァッ!!
聖王国将官「こちらの地図に示した点が
新しく造営中の『光の子の村』になります」
王弟元帥「ふむ」
参謀軍師「目標数のおおよそ八割を達成ですな」
聖王国将官「しかし、だんだんと噂も広がってしまっております」
王弟元帥「それも計算の内だ。無理に広める必要はないが
噂はそのまま放置しておけ。その方が人の興味は引かれるものだ」
聖王国将官「はっ」
王弟元帥「ふむ……。しかし、そうなると火薬の作成量か」
参謀軍師「硝石、でございますな」
王弟元帥「
銅の国の鉱山を急がせろ」
参謀軍師「はっ。手の者をすでに向かわせております」
聖王国将官「しかし、このマスケットなる武器を
そこまで重視して良いのでしょうか?
わたしが見たところ、連射速度も遅く、
射程距離もそこまで長いというわけでもなく、
破壊力もずば抜けている訳でもないような。
たとえば、これであれば魔術兵団の方が遙かに
攻撃力があるのではないでしょうか?」
王弟元帥「ふふふっ。はははっ」
聖王国将官「王弟殿下……?」
413 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/24(木) 00:26:28.16 ID:jeE4iYgP
王弟元帥「いやいや、おぬしの考えは正しいよ。
この武器は、そこまで強力な武器ではない。
まったくその通りだ。
しかし、それは戦争を戦場だけのものとして考えた場合だ」
参謀軍師「ですな」
聖王国将官「……戦場以外の、戦争?」
王弟元帥「考えてもみるのだ。
そしてこの中央の国家群を見よ。
いざ戦おうと思えば貴族どもはどうする?
まずは、部下の騎士達に召集令状を回す。
騎士はもし存在すれば配下の騎士、親戚や郎党などに
さらに召集令状をだす。そうして下から順々にあつまって
軍団が形成されるのだ。
より強い貴族、または王族が戦を望んだとしても同じ事。
王族は貴族に召集令状をだし、貴族が騎士を集める。
多少規模は違っても、そこで起きることはまったく同じだ。
つまりこれは機構の問題なのだ。
招集で集まるのは、戦闘を前提に人生の大部分を
過ごしてきた人間だろう。
当たり前だ。馬に乗るというのはあれはあれで
なかなかに特殊技術でもあり、
赤馬の国のような馬の名産地でもない限り
農夫が軍馬に乗るなどと云うことはない。
つまり、この中央の国家群においては
“戦闘を前提にしたもの=馬に乗れるもの=
裕福で戦闘訓練を受けたもの=騎士以上の家系、
もしくはその関係者”だといえるのだ」
王弟元帥「は、はい」
414 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/24(木) 00:27:55.40 ID:jeE4iYgP
王弟元帥「例外は傭兵だが、
彼らのまた“戦争を前提に人生を送っている”と云う点では
いささかも代わりがない。
何故こうなってしまったかという点については
いくつもの理由があるが、大きな理由の一つが、
戦闘の技術を身につけるには
非常に長い時間が掛かると云うことだ。
将官、それを言えばわたしもそうだが、まともに剣を
振れるようになるまでどれくらい掛かった?」
聖王国将官「さぁ。わたくしも騎士の息子と生まれまして、
物心ついた時はすでに教えを受けていましたから……」
王弟元帥「そうだ。それが中央の国家群の現実なのだ」
聖王国将官「……」
王弟元帥「剣一本でもそのありさま。馬術もそうだ。
ただ乗るだけならともかく、乗りながら戦うなどと云う
技を身につけるのに何年かかる?
弓も同様だ。
確かに熟練の長弓兵は、このマスケットの10倍の速度に
匹敵する連射と2倍の射程を持つが、
それには長年にわたる修練が必要だ。
さらに云えば、戦闘ではそれなりの体格が必要になる。
長弓であったところで、膂力の強い方がより強い弓を引け
破壊力も飛距離も出るのは常識と云えよう。
しかし、
ブラックパウダーの爆発力で弾丸を飛ばす銃は
女であろうが子供であろうが、同じ攻撃力を期待できる。
魔法兵団? 論外だ。彼ら一人を育てるのに20年は
優に掛かるのだ」
415 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/24(木) 00:29:54.82 ID:jeE4iYgP
聖王国将官「それは、まさにそうです」
王弟元帥「人間を武器の一種だと見立てた時に、
この中央の国家群の現実は、その人間を鍛える時間が
莫大であると云うことに尽きる。
騎士を一人育てるのには15年。従士ですら10年。
魔術師であれば20年かかる。
傭兵は騎士よりも戦場で過ごす時間が長い。
戦争から戦争へと渡り歩くから、5年もあれば一人前になるが
一人前になるまでに死んでしまうものが殆どだ。
鍛えるのに掛かる時間は、そのまま維持する金額に繋がる。
つまり、その高価な騎士を使うがために、
我々国家は人数の多い軍を組織できない。
この聖王国でさえ、直属の騎士は2500をわずかに越えるのみ。
それ以上の兵力を動員したければ貴族に招集状を
発令せざるをえない。
そのようにして集めた軍隊は貴族同士の意見の違いで
容易く動きが凍り付き、また兵糧が切れれば国元へと
帰ってしまう脆さを持っている」
参謀軍師「その通りです。それが先の征伐軍敗退の真相」
聖王国将官「理解できます」
王弟元帥「このマスケットは」
ジャキッ
聖王国将官「その役割としては、弓よりも石弓と比すべきものだ。
よく手入れされたマスケットは石弓よりも命中精度に優れ
轟音を発し、目標に命中すれば、鉄の鎧を打ち抜く。
そして、その訓練期間は驚くほど短い。
凡庸な農夫であっても数ヶ月の訓練で、銃兵として戦場へ
出ることが出来るだろう」
417 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/24(木) 00:32:20.79 ID:jeE4iYgP
聖王国将官「訓練期間……」
王弟元帥「そうだ。それが唯一と言って良いほどの利点で
全てを変える鍵なのだ。
このマスケット銃は、
“兵士という戦争に不可欠な資源の限りなく安くする”
事が出来る。マスケット銃と適度な訓練さえあれば
戦争の様相は一変する。
何せ、無尽蔵とも云える農奴を戦場に投入できるのだ。
むしろ歩兵としてであるならば、
彼らのように貧しい暮らしに堪える事が出来、
毎日長い距離を歩ける健脚の持ち主の方が、
貴族よりもずっと望ましいと云えるだろう。
長弓の方が速射に優れる?
そんなものは、長弓兵の10倍の数の銃兵を用意すれば事足りる。
騎兵の方が突破力に優れる?
そんなものは、騎兵の10倍の数の銃兵を用意すれば事足りる。
貴族の方が勇猛さに優れる?
そんなものは、貴族の10倍の数の銃兵を用意すれば事足りる。
マスケットはそれを可能にするのだ。
しかも、敵を一人殺せば、同じだけの技量を持った兵士を
用意するのに敵は5年から10年は掛かる。
こちらは兵を殺されたとしても
数ヶ月の訓練で同じ質の兵士を補充が出来るのだ」
参謀軍師「しかし、別の欠点もございますが」
王弟元帥「火薬の補給については、軍師殿に一任しよう」
参謀軍師「お任せ下さい」
聖王国将官「聞けば納得できますが。
これは恐ろしい発明品なのですね。何と言えばいいのやら」
421 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/24(木) 00:35:42.51 ID:jeE4iYgP
王弟元帥「しかし欠点が多い武器であるのは確かだ。
人数を増やせばよいとは云っても、
食料を多く食いつぶすというのはそれだけで致命傷たり得る」
参謀軍師「はい」
王弟元帥「また戦場では、1回の射撃が終わった後に、
弾を込めるための時間が掛かるのも問題だな。
その間の防御力が無いに等しくなってしまう」
参謀軍師「そうですな」
王弟元帥「そのあたりの問題を片づけられる前線指揮官
さえいれば、マスケット銃兵団は大陸最強の戦力と
なるのは間違いないのだがな」
参謀軍師「黒点将軍さえいれば……」
王弟元帥「死んだ男をねだったところで仕方があるまい。
あの頑迷な老将は宮廷醜聞に巻き込まれて消えたのだ」
聖王国将官「七里防衛の英雄ですか?」
王弟元帥「昔の話だ」
参謀軍師「
霧の国の灰青王が雪辱に燃えております。
適切な助言をすれば、必ずや結果を出すでしょう」
王弟元帥「ふむ。やつを前線で用い、いざとなれば
わたし自らが指揮を執ることも考えねばな」
参謀軍師「ふふふっ。夏が待ち遠しいですな」
聖王国将官「『光の子の村』建設を急がせます」
王弟元帥「頼むぞ。大陸を手にするのは、このわたしなのだっ」
437 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/24(木) 01:07:05.55 ID:jeE4iYgP
(――世界は広大で、果てがない。
そこには無数の魂持つ者がいて
残酷で汚らしく醜く歪んだ、でも暖かく穏やかで美しい
ありとあらゆる関係と存在をつくっています)
ビュッ!
ビュッ! バッ! ビョウッ!
メイド姉「~っ!!」
ヒュバッ! シュキンッ!
メイド姉「せあっ!」
ビュッ!
メイド姉「……はぁっ。……はぁっ」
ビュッ!
メイド姉「せいっ!!」
コトン
メイド姉「っ!」
女騎士「あー。わたしだ」
439 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/24(木) 01:08:04.72 ID:jeE4iYgP
メイド姉「……女騎士さま」
女騎士「驚かせて済まない」
メイド姉「あ。いえ」ささっ
女騎士「それは、むかし
軍人子弟が使っていた剣だろう?
メイド姉には重すぎると思うよ」
メイド姉「でも、馴れてしまったので……」
女騎士「そうか。手慣れていたものな。――いつから?」
メイド姉「去年の秋からです」
女騎士「一年か」
メイド姉「……」
女騎士「手を見せて」
メイド姉「はい」おずおず
女騎士「……」じぃっ
メイド姉「……」
女騎士「そんなに困った顔はしない。誰にも云わない」
メイド姉「はい……」
女騎士「こんなご時世だもの。身を守る技術は誰にだって必要だ」
メイド姉「ええ」
女騎士「でも、メイド姉には膂力がない。
もっと脚を使わなければ駄目だ。
遠心力で剣を振り回せば破壊力は上がるけれど、
身体も反対方向に振り回される。その状態では
敵の攻撃をよけられないよ」
440 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/24(木) 01:09:18.50 ID:jeE4iYgP
メイド姉「そう……なんですか……?」
女騎士「うん」
メイド姉「脚を使う……って」
女騎士「もうちょっと膝を曲げて……。うん、そう」
メイド姉「はい……。こう……かな」
女騎士「身体をねじって、自分の剣の影に隠れる。
相手の首を狙って、剣先で威嚇するんだ。
常に相手と自分の間に剣をおくようにする。
そのままで前後左右、動けるように練習する。
腕の力は、今程度で十分。
どうせ鎧を貫くほどの力はメイド姉にはないし
裸の喉なら今のままでも切り裂ける」
メイド姉「はい……」
女騎士「自分の呼吸の音も聞いて、かかとに体重を乗せない」
メイド姉「……ふっ。……はっ!」
ひゅぅんっ!!
女騎士「そう」
メイド姉「はいっ」
女騎士「変わったことをする必要はない。跳んだり跳ねたり
光ったり光線を出したりするのは勇者クラスになってから。
身体を上下に揺らさない、無駄に跳ねちゃ駄目だ。
何より落ち着くこと」
メイド姉「はいっ」
444 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/24(木) 01:10:59.37 ID:jeE4iYgP
女騎士「さぁ、やって」
ヒュバッ! シュキンッ!
メイド姉「せあっ!」
女騎士「……」
ビュッ! ざざっ!
メイド姉「……はぁっ。……はぁっ」
女騎士「そんなものだろう。腕を伸ばして」
メイド姉「……」
女騎士「胸をゆるめて、呼吸をゆっくりにね」
メイド姉「はい……」
女騎士「……ん」
メイド姉「あの……。聞かないんですか」
女騎士「何を?」
メイド姉「平民が、剣なんかをもって……その」
女騎士「そういう面倒なことは、
湖畔修道会では考えない。
必要だと思ったのでしょ?」
メイド姉「……はい」
女騎士「見られたくないなら、修道院へいらっしゃい。
午後なら練習を見よう」
メイド姉「はいっ」
女騎士「もう遅いから。……良い夢をね。メイド姉」
メイド姉「ありがとうございますっ」
533 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/24(木) 17:55:49.32 ID:jeE4iYgP
――大陸南部、名も無き開拓村の酒場
~♪ ~~♪
奏楽子弟「~♪ ……♪」
年配の
開拓民「……」じわぁ
酔った村人「……いやぁ、良かっただよ!」
酒場の娘「なんて上手いんでしょう」
酒場の主人「おお、姉ちゃん。良い曲だったぜ。
さぁ一杯やってくれ。そして気が向いたら
もう一曲やっておくれよ!」
奏楽子弟「ええ、もちろんっ!」
年配の開拓民「楽士さん、ここいらでは見ない楽器だぁね」
奏楽子弟「これは竜頭琴っていうの。甘い音色がするでしょう?」
年配の開拓民「うんだぁ。なんだか優しい音だなぁ」
酔った村人「ここいらにも吟遊詩人は来るけんど、
大概は立ち寄るだけであんまり曲を聴かせてはくれないんだよ」
酒場の主人「そうだなぁ」
奏楽子弟「へぇ、それはなんで?」
年配の開拓民「姉ちゃんはここらの人ではないんかい?
綺麗な金枯れ葉色の髪だけんど」
酔った村人「ふたっこ隣に
氷の国っていうとこがあって
そこは吟遊詩人のふるさと、って云われてるんだよ。
王宮は詩人に優しいし、城下町には音楽ホールがある。
冬には音楽祭もあるから、旅の吟遊詩人は冬を越すために
氷の国へと訪れるんだぁ」
535 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/24(木) 17:57:26.13 ID:jeE4iYgP
酒場の主人「登録した吟遊詩人は、一定の腕前を認められれば
恩給が出るんだよ。恩給が出れば、年を取っても食えるし
だから、街に住み着く吟遊詩人もいるし、音楽を教えるように
なるものもいる。だから吟遊詩人が多く住み着くし
それで“ふるさと”って云われているわけだ。
ここまでやってくる吟遊詩人は、氷の国へ急ぐ最中が多くて
演奏は気もそぞろなのさ」
奏楽子弟「へぇ! わたしは遠きところから旅をしてきたんですよ。
その吟遊詩人のふるさと以外に、この辺の音楽や楽器で有名って
云ったらどこでしょう?」
年配の開拓民「うーん。どこだろうねぇ」
酔った村人「そうだなぁ」
酒場の主人「音楽っつったら、まぁ、ふたっつだねぇ」
奏楽子弟「二つ?」
酒場の主人「まずは今云った吟遊詩人の音楽だぁ。
俺の姪っ子が氷の国に行ってるから、これはそこそこ詳しいよ」
奏楽子弟「ありがたいです。わたしは音楽や、詩作、戯曲の
話を集めるために旅をしているんです!」
酒場の主人「そうかいそうかい! じゃぁ、話してあげるよ。
でもその代わり、今晩はこの宿に泊まっておゆき。
安くしておくからさ。
そしてたっぷりと異国の音を客に聞かせてやっておくれ」
奏楽子弟「はい!」
537 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/24(木) 17:59:02.04 ID:jeE4iYgP
酒場の主人「そうだなぁ、まずはさっき云った吟遊詩人の音楽だ。
酒場や祭り……っていっても祠や道ばたやらで演奏するな。
気軽で楽しくて騒がしい音楽だよ。俺は大好きだ。
流行歌は吟遊詩人が諸国を旅して伝えてくれる」
奏楽子弟「声楽なんですか?」
年配の開拓民「声楽って何だい?」
奏楽子弟「ああ、えっと。歌ですか?」
酒場の主人「ああ、楽器を弾きながら一人で歌う。
たまぁに二人連れなんて云うのもいるけれど、
そんなのは滅多にみれない幸運だ。
楽器はそうだなぁ。
お嬢さんの持っている竜頭琴なんてのはみたことがないね。
一番多いのは、リュート。それから、レベックに
ギターン、ライアー。そんな楽器だね」
奏楽子弟「ふぅむ。見てみたいですね」
酒場の主人「そして、もう一つの音楽と云ったら、
それは何と言っても教会音楽だよ」
奏楽子弟「ふむ」
酒場の主人「教会では精霊様を慰めたり称えたりするために
毎日のように歌と音楽が捧げているんだよ。。
こっちは声を出して歌うのがほとんどだ。
こんな小さな村の修道会にはめったにないけれど
大きな街の教会には聖歌隊っていうのがあるというよ」
539 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/24(木) 18:00:08.72 ID:jeE4iYgP
奏楽子弟「聖歌隊、ですか?」
酒場の主人「そうさ。近隣の信者の中から
歌の上手い人をあつめてね。
多くは小さい男の子や女の子だ。
子供の声は清らかだと云うからね。
それで合唱をするんだよ。
旅の吟遊詩人から聞くには随分と荘厳な音楽だという話だ。
教会の音楽は、吟遊詩人のようにあちらこちらに出掛ける
必要がないから、大きな楽器を使うこともあるらしい。
時には納屋のように大きな楽器も作られるそうだ」
酒場の娘「納屋!?」
奏楽子弟「納屋って、あの農具を入れておく?」
酒場の主人「そうさ、小さな家ほどもある
大きな楽器だってあるそうだよ」
酒場の娘「へぇぇ!!」
奏楽子弟「びっくりするような話ですね」
年配の開拓民「たまげた話だなぁ」
酒場の主人「それに吟遊詩人は、大抵一人で旅をするから
口を使う楽器は好まない。歌えなくなるからね」
酒場の娘「そういえば、笛を吹く人はあまり見ないわねぇ」
奏楽子弟「なるほど」
酒場の主人「ファイフやミュゼットなんかは笛の仲間で、
教会での音楽にも使用されるって聞くね。
もちろん吟遊詩人でも頼めば演奏できる人は多いよ」
540 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/24(木) 18:04:04.31 ID:jeE4iYgP
奏楽子弟「ファイフは判ります……。えっと」
ごそごそ
奏楽子弟「これですよね?」
年配の開拓民「ああ、これは見たことあるなぁ」
酔った村人「おう、うちの爺さんも祭りでは吹くぞ」
酒場の主人「そうそう。これはちょっと変わった形を
しているがファイフだね。これも吹けるのかい?」
奏楽子弟「もちろん」
酔った村人「一曲聴きたいぞ、お嬢さん!」
酒場の主人「お願いできるかい?」
奏楽子弟「ええ、おやすいご用です」
~♪ ~~♪
奏楽子弟「~♪ ……♪」
年配の開拓民「ああ、良い音色だねぇ」
酔った村人「まったくだ」
酒場の主人「これだけ上手な吟遊詩人さんは初めてだ」
酒場の娘「ええ、夢で聞いた音のようです」
551 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/24(木) 18:30:25.84 ID:jeE4iYgP
商人子弟「おーい。おーい」
従僕「はいぃ」ぱたたたたっ
商人子弟「なにしてたんだ?」
従僕「帳簿の整理と、清書をしてました」
商人子弟「よし、えらいぞ」ぐりぐり
従僕「えへへへぇ」
商人子弟「何人か新入りも入れたけど、みんな辞めてっちまうなぁ」
従僕「お仕事が大変だからですよ」
商人子弟「そんなに大変か? 一日中座ってられるぞ」
従僕「座ってるのが大変なんです。
この国では、そんな仕事の人は滅多にいませんでしたから」
商人子弟「そういうもんか?」
従僕「はいです」
商人子弟「お前は見かけの割には気合い入ってるな」
従僕「他に行くところがありませんから」
商人子弟「そうかそうか」
従僕「えへへ~」
商人子弟「じゃぁ、念入りに仕込んでやろう」
従僕「ひぇっ!?」
商人子弟「なぁに、安心しろ。カエルは熱湯に入れると
すぐ死ぬが、水に入れてから徐々に加熱すると
随分長い間生きているらしいぞ?」
従僕「も、もしかして、ひどいこと考えてますか?」
商人子弟「ううん、ぜんぜん」 ふるふる
552 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/24(木) 18:31:39.14 ID:jeE4iYgP
従僕「ううううっ」
商人子弟「そう半べそになるな。
とりあえずは、お茶を入れてくれ」
従僕「はーい」
とぼとぼっ
商人子弟「さぁって、あいつの仕事ぶりでも見てみるか。
どれどれ。綺麗に清書してあるじゃないか。
こっちのメモは……ははーん。
判らなかった部分をまとめてあるんだな。
後で質問するために。よく授業中にやったなぁ。
懐かしい。
がんばっているじゃないか、あのわんこ」
ぺらっぺらっ
商人子弟「ふむ」
“馬鈴薯はとても美味しいです。
美味しすぎてもう一個食べてしまいたくなるので、
とても悲しいです。
だから
馬鈴薯はもっと作るべきだと思います”
商人子弟「……なに考えてるんだ? あいつ」
“今日は、侍女のお姉さんから、タマゴのお菓子をもらいました。
お姉さんがお庭でお昼ご飯食べようと誘ってくれたんだけど
怖くて逃げちゃいました。ごめんなさい”
商人子弟「……あんまり真面目でもないな」
553 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/24(木) 18:33:07.96 ID:jeE4iYgP
従僕「お茶入りましたぁ」 ぱたたたっ
商人子弟「ご苦労!」
従僕「はい、お注ぎします!」
とぽとぽとぽ
商人子弟「うん、美味いぞ」
従僕「ありがとうございます」
商人子弟「さて、里戸制度と戸籍の方も順調のようだな」
従僕「えっと、はい。今週分の追加戸籍も、清書しました」
商人子弟「いいぞ。これで何とかやっと予算が組めそうだ」
従僕「予算……?」
商人子弟「ん、ああ。お金を使う予定のことだな」
従僕「お小遣いですね」
商人子弟「似たようなものだ。
この冬の国では、国家の収益は主に税から
成り立っているだろう?
大まかに云って、税金や作物による直接納税になる。
これが大体年に二回程度はいってくる。春と、秋だな。
つまり、そこでお金があるわけだけど、
これを無計画に使うと、他の季節にお金が無くなって、
お腹が減る。
使う予定をちゃんと立てましょうって事だ。
大事だろう?」
従僕「大事です。……けど、大事だから
今までだってやっていたのでしょう?」
商人子弟「規模が小さかったんだ。
それこそ、商人一家の財布感覚さ」
554 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/24(木) 18:35:07.64 ID:jeE4iYgP
商人子弟「やることが増えたというのもある。
冬の国は数年前まで、
中央からの資金および食料を提供されて
戦うような傭兵国家だったんだ。
開拓民は多かったけれどそれは中央の圧政や重税を嫌って
南の果てまでやってきた冒険者のような人たちが主体だった。
当時この国でちゃんと生き抜いていけるかなんて云うのは
賭けに近かったわけだからね。
でもいまは馬鈴薯がある。
馬鈴薯のお陰で支えられる人口が増えて、
中央の経済的な呪縛から脱出した南部諸王国は、
独自の予算を組む時期なんだ。
今まで困れば困ったタイミングで、
中央のお財布に泣きついていれば良かった様々なことを、
これからは自分たちでやらなければならないからね」
従僕「えっと、お兄さんが家を出てお父さんになった感じ?」
商人子弟「そういうことだ」
従僕「えへへ~」
商人子弟「三ヶ国通商のおかげで冬の国一国では
どうにもならなかった製品が手に入るのは素晴らしい。
けれど、やはり三ヶ国合わせても限界がある。
鉄製品は
鉄の国から購入することも出来るけれど
年々需要が増しているのは、木材だ。
我らの国には手つかずの原生林があるけれど、
それだって無限ではないしね。
それから馬も必要だし、真鍮なんかも欲しい。
香辛料や衣料品も必要だろうね」
従僕「んぅ……」メモメモ
555 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/24(木) 18:36:50.29 ID:jeE4iYgP
商人子弟「まぁ、こういったものはなにも国が
あれこれ手配する必要はない。
商人が運んできて売ってくれる」
従僕「じゃぁ、僕たちは何をすれば良いんですか?」
商人子弟「“何をすればいいか考える”のが最初の仕事だ」
従僕「うーん、うーん」
商人子弟「一番大事なのは?」
従僕「……ごあいさつ?」
商人子弟「それは、一番最初にするのだ」ごちん
従僕「はぅぅ」
商人子弟「さぁ、なんだ?」
従僕「ごはん?」
商人子弟「だな。食料だ。
こいつについては馬鈴薯がある。
それから、輪作指導による家畜もだんだんと殖えてきた。
特に豚は農民の口にまで十分に回るようになったな。
小麦や大麦もバランスを考えて作っているようだ。
後のことを考えると、乳製品や果物なんかも欲しい。
さて、どうする?」
従僕「えっと、欲しいものは、
作るか買うかしないと、手に入りません」
商人子弟「そうだな。もっともだ。冴えてるな」
従僕「えへへ~」
556 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/24(木) 18:39:07.78 ID:jeE4iYgP
商人子弟「お金を出して買うのは簡単だ。
特に今から予算を組もうとする時にはそうだな。
でも、簡単なことばかりをしていると、
どんどんお金が無くなって行く。
重要なのは“費用対効果”だ。
たとえば、“乳製品を買うべきだ!”なんて云う声は
疑って掛かるべきだ」
従僕「そうなんですか?」
商人子弟「まぁ、会計や金を扱い場合は
何でも疑って掛かった方が良いというのは基本だが、
この場合はもうちょっと色々考えなければならない。
まず“必要”と云う言葉についてだ」
従僕「必要は、ひつよーですよ?」
商人子弟「必要ってのは、無いと死んじゃうことを云うんだぞ?
そう考えると、“本当の意味で必要”ってのは多くはない。
気をつけなければならないのは、それがどれくらい必要で、
どれくらいのお金がかかるか。これが一つ目」
従僕「はい」めもめも
商人子弟「そして、二点目が重要だ。
“同じお金があったら他に何が出来るか?”」
従僕「……?」きょとん
558 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/24(木) 18:41:21.83 ID:jeE4iYgP
商人子弟「だってそうだろう?
たとえば従僕の家には何にもご飯がないとする」
従僕「哀しいです」じわぁ
商人子弟「で、パンを買うべきだ!」
従僕「パンは美味しいですね! 買うべきです!」
商人子弟「そうだな、美味しい以前に食べないと
お腹が減って死んでしまうかも知れない。
だから“パンが必要”だ」
従僕「必要です」
商人子弟「で、パンを買った。二個買えた!」
従僕「はいっ!」
商人子弟「でも、同じ値段で馬鈴薯だったら
二袋買えたかも知れないんだぞ?」
従僕「……え」
商人子弟「な? “パンを買うべきだ!”と云う声に対して
パンのことだけを考えちゃ駄目だ。お金には限りがあるからね。
予算という一つの財布でやりくりするには、
ありとあらゆる事に詳しくなければ間違ってしまう。
馬鈴薯が二袋あったら、パン二個よりもおなかいっぱいだろう?
だから“パンを買うべきだ”とか
“パンを買わないなんておかしい”とか
“お金は食べられない。お金の問題じゃない。パンを
買わないなんて人殺しと一緒だ!”なんて言葉に
騙されちゃいけない。同じ金額で別の救い方も出来るからね」
従僕「はいっ」
560 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/24(木) 18:48:32.92 ID:jeE4iYgP
商人子弟「そう考えれば、そもそも“パンを買うべきか否か?”
なんて云う考え方自体がすでに引っかけ問題なんだ。
大事なのは“色んな欲しいものの中で優先順位をつける事”と
“欲しいものを出来るだけ安く、沢山手に入れられる方法を
考える”事だ。
そのためには、いろんな事を勉強しなければならない」
従僕「大変そうです……」
商人子弟「まぁ、ゆっくりでいいさ。
判らないことは詳しい人に聞けば良いんだ」
従僕「はい……」
商人子弟「さっきの話で云えば“パンを買うか、それとも
買わないか”じゃなくて“食料を買うなら何が良いか?”とか
“同じ金額で健康でお腹いっぱいにになるためにはどうしよう”
っていう考えをするべきなんだな」
従僕「……うーん。判ってきました」
商人子弟「ってところで、宿題だ」
従僕「えぇ!?」
商人子弟「我が冬の国では、もうちょっと乳製品に出回って欲しい。
具体的に云うと、ミルクよりはチーズだ。
保存食の問題でもあるし、一種類の食品に比重が偏ると
凶作が恐ろしいからね。
チーズはたべたことあるだろう?」
従僕「あります!」
561 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/24(木) 18:51:24.50 ID:jeE4iYgP
商人子弟「なので、チーズの勉強をすること。
チーズをみんなに一杯食べて貰って、
なおかつお金がかからない。
そういう方法を考えること」
従僕「ふぇぇぇー」
商人子弟「何事も目的があればよく考えるようになるのっ」
従僕「ヒントっ。ヒント下さいよぅ」
商人子弟「ヒントなんてないよ。正解なんて無いんだから」
従僕「じゃぁ、子弟様だったらどうするんですか?」
商人子弟「考えてないから判らないよ。
でもまぁ、そうだなぁ。沢山チーズを
外国から買ってきて、そいつを冬の国のみんなに売る」
従僕「じゃぁ、その方法で!」
商人子弟「な~んて方法は失格だな。
少なくともその1/10くらいの
予算でどうにかする方法を考えないと」
従僕「うー……」
商人子弟「さって、じゃ。課題を出し終わったところで、
本日の書類整理に移るか、従僕くん」
従僕「はぁい、子弟様っ!」
566 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/24(木) 19:31:13.62 ID:jeE4iYgP
魔王「修道院から送ってもらった年度別の輪作障害研究は
どこだったかな」
メイド姉「こちらになります」
ばさばさばさっ!
魔王「ううっ」
メイド長「あらあら、まぁまぁ。大丈夫ですか?」
魔王「すまぬ、書類を崩してしまった」
メイド姉「すぐに整理しますから、大丈夫ですよ」
魔王「左腕が不自由なだけでこんなにもふらつくとは」
メイド長「もうじき包帯も取れます。それまでですよ」
メイド姉「こちらが今日届いたお手紙です」
魔王「む、そうか。確認しなくてはな」
メイド長「これは
冬寂王からのお給金」
メイド姉「ええ」
魔王「なんだ。貴族とか云って名誉爵位ではなかったのか?」
メイド長「文官の一種ですからね。
まおー様は、顧問的な立場だということですよ。
律儀に毎年四回送って下さっているんです」
メイド姉「金庫に入れてありますよ?」
魔王「そうだったのか。気が付かなかった」
メイド長「まぁ、まおー様は経済学者ですけれど、
金銭への執着はかなり薄いですからね」
567 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/24(木) 19:32:17.77 ID:jeE4iYgP
魔王「執着するには、貨幣というのはあやふやすぎるのだ」
メイド長「あらあら。研究対象ですのに」
魔王「わたしが研究しているのは経済を通した
魂持つ者の相互関係および社会形成であって、
そこから独立した金融の資産価値なんて無いも同然だ。
えーっと……」
がさごそ
メイド長「どうされました?」
魔王「いや、その……。おかしいな」
メイド姉「ふふふっ。氏族会議の議事録と、
九族大路の計画書ですよね? こちらですよ」
魔王「それだそれだ!」
メイド長「ふふふっ」
魔王「ほら。わたしがいなくても、魔族は魔族で上手く
行っているじゃないか」
ぺらっ
メイド長「ふぅん。道路の再建、か。前の乱世で
随分橋が壊されてしまったからなぁ」
メイド姉「……」
メイド長「橋ですか」
568 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/24(木) 19:34:16.77 ID:jeE4iYgP
魔王「橋は戦略重要な拠点になることが多い。
交通の要所だからな。
場合によっては行軍の速度をも左右する。
そのため、石で作った方が良い場所でも
わざと木造で作り、いざという時は燃やせるように
しておくこともあるくらいだ」
メイド長「再建と云うことは、とりあえずの平和を
みんなが認めた、と云うことでしょうね」
魔王「そうだな。蒼魔族の問題は残っているが……」
メイド長「時間が掛かるかも知れませんね……」
メイド姉「あの……」
魔王「ん、なんだ? メイド姉」
メイド長「……?」
メイド姉「いえ、その」
魔王「どうしたんだ? 身体の調子でも悪いのか?」
メイド長「――」
メイド姉「いえ、その。あの、お茶を沸かして参ります」
魔王「ああ、頼んだだぞ」
がちゃん。とてて……
メイド長「――」
575 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/24(木) 20:28:04.64 ID:jeE4iYgP
――聖王国某所、秘密大鉄工所
ガァン! ゴォン!!
作業監督「温度を上げろ! 薪をくべろっ!」
労働者「おうっ! あぅっ!」
作業監督「ちんたらするなっ! メシを抜かれたいのかっ!!」
ガァン! ゴォン!!
作業監督「高炉を休ませるな! ガンガン炊くんだ!!」
労働者「はぁっ……はぁ……」
労働者「熱い……水を……」
作業監督「もう少しで休憩だ! さぁ、働けっ! 働けっ!」
かつん
かつん、かつん……
職人の長「作業は進んでいるな。
よしよし、純度の高い鉄で鋳造を行えばそれだけ精度も上がる」
技術者「そうですね」
王弟元帥「どうなのだ? 量産の方は?」
576 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/24(木) 20:29:50.48 ID:jeE4iYgP
職人の長「はぁ。マスケット銃は今月にでも追加で800丁が
お渡しできるかと思います」
聖王国将官「合わせれば、そろそろ5000を越えますな」
王弟元帥「遅いな。もっと早く作れんのか?」
職人の長「やはり精度の問題がありまして、その……」
王弟元帥「ふむっ。カノーネのほうはどうだ?」
職人の長「そちらのほうが、肉厚に作れる分
歩留まりはよいですな。毎月二個のペースで鋳造できます」
王弟元帥「カノーネは問題なさそうだな」
職人の長「はぁ、ただいま『The genius's Manuscript』に
当たらせている者を呼んでおりますので」
コンコンッ
職人の長「入るが良い」
技術者「お呼びでしょうか?」
熟練技師「やって参りました」
王弟元帥「この者達か?」
職人の長「はっ。
お渡し下さった『The genius's Manuscript』には
様々なスケッチや覚え書きがございました。
マスケットやカノーネは試作品がありましたから
複製を作るのは早かったのですが、それ以外についても
調査せよとの御指図でしたゆえ」
王弟元帥「判っている。指示したのはわたしだ」
最終更新:2010年05月14日 16:23