1-5

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#center(){[[<前1-4へ>1-4]]|[[次2スレ目へ>>2-1]]} ---- **魔王「この我のものとなれ、勇者よ」勇者「断る!」1-5 ---- ****730 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/05(土) 22:08:18.18 ID:5kaffl9OP 魔王「そんなに褒められては何を話して良いのか、  言葉を失ってしまいますな」 青年商人「いえいえ、学士様はその英知だけでなく  美しさでも我らに光を与えてくれるようですよ」にこにこ メイド長(商人のお世辞とはいえ、すごい威力ですね) 魔王「交渉を有利に進めようと思う女の浅知恵だ  どうか笑って許して欲しい」 メイド長(おお。まおー様。気合いの入った防御ですねー) 青年商人「いえいえ。……あのような羅針盤を送られては  駆けつけないわけには参りませんよ」 魔王「それにしては一月もの時間がかかったのは?」 青年商人「ははは。これはお恥ずかしい。  私のような駆け出しの商人が、『同盟』において  今回のような大規模な案件をこなすにあたっては  様々に根回しが必要でして」 辣腕会計「お待たせして申し訳ありません」 ****732 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/05(土) 22:14:09.35 ID:5kaffl9OP 魔王「さて、では交渉に入りたいと思うのだが  まずはこれを見て欲しい」 青年商人「これは……?」 辣腕会計「穀物ですか? 見たことはありませんが」 魔王「これは玉蜀黍という植物だ」 青年商人「ほほう」 辣腕会計「玉蜀黍、ですか」 魔王「この食物の特性については、  こちらの書類にまとめてある。  これはお持ち帰りいただいて結構だ。  いまとりあえず、この場では口頭にて説明させて  いただこう」 青年商人「窺いましょう、学士様」 魔王「この玉蜀黍は一年草でな。最大の特性は水が  少なくとも順調な生育が望めることだ。むしろ水が多い  場合は生育に悪影響がある。もちろん最低限の水分は  必要だがな。発芽の温度として30度が必要となる」 青年商人「30度、ですか」 辣腕会計「かなり高い温度ですね」 ****734 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/05(土) 22:19:17.89 ID:5kaffl9OP 魔王「ああ、そうだ。小麦とはまったく栽培の思考を  切り替える必要がある」 青年商人「ふむ」 魔王「つまり、この玉蜀黍は、いままで植物の耕作に  適さないとされていた大陸中央部の荒れ地に  ふさわしい作物なのだ」 青年商人「……」 魔王「食用として利用する場合は、完全に完熟させて  乾燥させた粒を製粉してパンのようにすることも出来るし、  饅頭のようにすることも出来よう。  この粉には香ばしくてわずかな甘みがある。  乾燥させることにより、貯蔵、保管にも優れている。  畜産のための飼料としては、  大麦やカブの数倍の効率が見込める」 魔王「また、食用外への利用も幅広い。  油分の多いこの食物は、油を取り出すことが可能だ」 青年商人「……油ですか」 辣腕会計「……」 魔王「うむ。玉蜀黍馬車一台あたり、ビン二本ほどだがな。  しかも、この油は製粉するのと同時にとることが出来る。  つまり、両方取れると云うことだ。  油は食用に用いることはもちろん、様々な用途で使えよう」 ****736 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/05(土) 22:25:56.13 ID:5kaffl9OP 青年商人「たしかに……。油の需要は年々増える  傾向があります。『同盟』でもとりあつかっていますが」 魔王「商人どの、これは新しい商売の形だと考えて欲しい」 青年商人「……」 魔王「確かに巨大な資本が必要だ。  その資本をもちいて、いまは全く役に立っていない荒野に  人を送り、バックアップすることにより開拓を行なう。  玉蜀黍を栽培するための開拓村だ。  まったく開拓されていない場所は確かに開拓に  手間も資本もかかろうが、その分、計画的に物事を  行なうことが可能だ。整地して区画整理を行なった  農地での大規模栽培は、現在中央大陸の各所で見られる  ような小さな農地でモザイクになってしまったような  農場による農業より遙かに集約的な体制での  栽培を可能にするだろう」 魔王「しかも、そこで新しくできた開拓村は  完全に『同盟』の影響下にある巨大な市場になるだろう。  玉蜀黍以外の作物を始め、木材や塩、鉄、布、  ありとあらゆる消費物を購入する新しい顧客となる」 青年商人「……」 ****739 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/05(土) 22:31:01.22 ID:5kaffl9OP 青年商人「それは、つまり……」 辣腕会計「……」 青年商人「商品でも、栽培方法でもなく  『同盟』に、新しい『概念』を売る、と?」 魔王「そうだ」 青年商人「判ります。私には。  ……いまの話を聞きましたから、その価値が判ります。  貴女の言葉は……。  この中央大陸の都市の全てより……。  いや、既知世界の全てよりも金になる」 魔王「あははは。良い顔だな」 青年商人「はい?」 魔王「女におべんちゃらを言っておる時より数段良い」 青年商人「そうですか? まぁ、しかし。  いまの話を聞いては真面目にならざるを得ませんよ。  しかし良いのですか?」 魔王「なにがだ?」 ****741 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/05(土) 22:35:38.45 ID:5kaffl9OP 青年商人「いまの言葉、そして送っていただいた羅針盤。  すべて『考え方』を基本にしたものです。  技術でも品物でもない。  つまり、複製できない物ではない」 魔王「そうだな」 青年商人「私たちがそれらを複製して、貴方とは無関係に  計画を進めるとは考えないのですか? 貴方の利益は?  貴方の権利をどうやって守るつもりなのですか?」 魔王「それについては諦めておる」 青年商人「はい?」 魔王「技術も品物も素晴らしい。利益も結構。  私もお金はあれば欲しい。  研究したいことがたくさんあるからな。  しかし、単一技術や独占可能な品物では、  この世界に与える影響は限定されざるを得ない。  必要なのは転換と突破だ」 辣腕会計「それは神学的な話でしょうか?  複雑すぎて、判らないのですが」 青年商人「……」 ****742 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/05(土) 22:39:04.44 ID:5kaffl9OP 魔王「そちらの商人の方は判っているようだ」 青年商人「……」 魔王「どうした?」 青年商人「だとすれば……貴女は……」 魔王「……」 青年商人「選ぶ必要が、あると?」 魔王「選びに来たのだろう?  交渉という言葉の意味はそれだと心得ている」 青年商人「しかし、それは。貴女は何を望んでいるんですか?」 魔王「戦争の早期終結」 青年商人「……」 魔王「しかも、その形は勝利でも敗北でもない  形態でなければならない」 青年商人「……それは」 魔王「『同盟』が魔族との大戦における、中央大陸最大の  スポンサーだと云うことは心得ている」 ****744 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/05(土) 22:43:56.82 ID:5kaffl9OP 青年商人「魔族は人類の敵です。魔族との戦いに  人類陣営の一翼である我らが全てをなげうって  協力するのは至極当たり前のことではありませんか」 魔王「それは公的な見解であろう」 青年商人「正式見解です」 魔王「高きと低きを、北と南を、炎と氷を、  相容れない光と影を仲介し、妥協し、取引することで  利益を上げるのがお主ら商人ではないか?」 青年商人「あ、貴女は……」 魔王「なんだろう?」 青年商人「『同盟』の味方ですか、敵ですか?」 魔王「取引相手だ」 青年商人「……っ」 メイド長(まおー様~っ! がんばって!) ****749 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/05(土) 22:51:37.42 ID:5kaffl9OP 青年商人「私は二つの道のあいだで悩んでいます」ぎりっ 魔王「なにを?」 青年商人「人間として、貴女の先ほどの発言は  裏切り行為です。教会の方針においても異端だ。  私は貴女をこの場で断罪し、告発すべきかもしれない」 メイド長(まおー様、まおー様っ。森の中に  黒装束に黒塗りの剣を持った傭兵団がっ) 魔王(控えておれっ) 魔王「敵と味方の2分割では、  この世界はあまりにも惨めに過ぎよう」 辣腕会計「……部隊の配置が」 青年商人「良い。……試されてるんだね、僕らは」 魔王「……」 青年商人「この先もあると?」 魔王「もちろんだ。大陸中央部の乾燥地帯において  水車の代わりに利用できる『風車』というものも  開発してある。森林資源を消費してしまうが  羊皮紙に変わる新しい筆記資材もめどは立った」 青年商人「貴女は何を見ているんですか?」 ****753 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/05(土) 22:57:23.24 ID:5kaffl9OP 魔王「私は学者だが、専門は経済学でな」 青年商人「経済……?」 魔王「耳慣れぬ言葉だろうな。  物と金の流れ、利益と損害、  魂持つものが生み出す社会において  たゆまず流れる交流の歴史と未来がその専門だ」 青年商人「利益と損害、ですか」 魔王「そうだ、商人殿。  商人殿とおなじものを見ているだけだよ」 青年商人「それをもって、人類全てを裏切れと?  この戦争を終結させようとする  貴女の見る夢がどのような色をしているか  判らないわたしではないっ」 魔王「信じている」 青年商人「わたしの。……『同盟』の。  我ら人間の、何を信じると言うのです?」 魔王「損得勘定は我らの共通の言葉であることを。  それはこの天と地の間で二番目に強い絆だ」 ****756 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/05(土) 23:00:56.56 ID:5kaffl9OP 青年商人「あはははははは!」 辣腕会計「……商人っ」 青年商人「いや、いいんだ。  そうだ。まさにその通りだ!  人間である前に商人たれ。  教会の敬虔な信徒である前に商人たれ。  まさに『同盟』の訓辞通りじゃないかっ」 辣腕会計「それは……」 魔王「わたしは純粋な契約主義者なのだ」 青年商人「奇遇ですね、わたしもなんですよ。  作りましょう。我らが未来を照らす光となる  契約書を」 辣腕会計「……それでは」 青年商人「ああ、退かせてかまわない」 魔王「冷や汗が吹き出る思いであったよ。商人殿」 青年商人「いやはや。本場の東方商人と渡り合っても、  これほどの緊張感を味わった事はありません。  貴女が学士であり、商人でなくて本当に良かった」 ****758 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/05(土) 23:07:17.43 ID:5kaffl9OP 魔王「私は無力で腰抜けの存在だよ」 青年商人「いえいえ、王侯貴族だってあそこまでの  迫力はなかなかにある物じゃない」 メイド長(あったり前ですよ。まおー様は  これでも王族なんですからねっ!) 青年商人「それにしても……二番目に強い絆、ね」 魔王「……」 青年商人「玉蜀黍の件はいつうごけます?」 魔王「すまないが、いくつかの実験と、苗の  栽培を残している。動けて次の春から、だろう」 青年商人「充分に早いでしょう。私もこの計画を  聞いたからには『同盟』内部での地盤を  固めなくてはならない。  この巨大利益です、動かすことはたやすいが  コントロールが聞いてこその権力ですからね」 魔王「あの羅針盤が役に立ってくれれば良いな」 青年商人「せいぜい、利用させていただきましょう」 ****760 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/05(土) 23:12:13.90 ID:5kaffl9OP ――冬越しの村、村はずれの館、玄関 メイド長「日も傾いております、お気をつけを」 魔王「近くに隊商をまたせてあるのだろう?」 青年商人「“隊商”ね。ははは」 魔王「それがお互いのためだとしよう。わたしも  警戒はしていた。お互い様だ」 青年商人「まったく、今日は驚きの連続だ」 魔王「心臓に悪い」 青年商人「そうそう。……二番目に強い、と  おっしゃいましたね。一番はなんなのです?」 魔王「知れておる。愛情だ」 辣腕会計「――それは」 青年商人「あははははは。ああ! すごい!  素晴らしいな。一日に二回も、こんな気持ちに  させられるとはっ!」 魔王「子供でも知っておることだ」 青年商人「たしかに! 私はあなたに言いました。  二つの道で迷っていると。  あなたを殺すことはすっかり諦めましたからね。  これはもう……求婚するしかありません」 ****765 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/05(土) 23:16:11.13 ID:5kaffl9OP 魔王「そ、そ、そ、それはなんだっ!?」 青年商人「なんだって。結婚の申し込みですよ」 魔王「なんて軽率なことを言うんだ。恥を知れ!」 青年商人「おやおや。貴女があまりにも明晰な  思考をなさるんで、世間並みのたしなみを  忘れてしまっていました。  たしかに。持参金も贈り物も無しに求婚するなんて  先走りすぎましたね」 魔王「わ、わ、わたしには、その」 青年商人「いえいえ。  このようなことは腰をすえて取り組むタイプですからね。  粘り強さは決断力とともに商人の重要な武器なのです」 魔王「いやっ。いくら時間をかけられてもそんな事はっ」 青年商人「では、またお会いしましょう!  次は都か、船の上か。契約は急ぎお届けします。  愛しの君よ。……そう呼ぶのはかまいませんかね?」 魔王「だ、ダメダメだーっ!!」 ****810 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/06(日) 02:03:26.96 ID:Lbanm5QNP ――冬越しの村、村はずれの館、小さな部屋 メイド妹「~♪ ~♪」 メイド姉「ご機嫌だね」 メイド妹「うんっ。みがくの楽しいねー」 メイド姉「そうね。こんなにあったかくて、  きちんとした仕事があって。幸せね」   きゅっきゅっ メイド妹「そうだよねー。去年の秋は、毎日、  夜が来るのがこわかったもんねっ」 メイド姉「うん」 メイド妹「あたしねー。今度は、せーれー様の本で  勉強するんだよー」 メイド姉「そうなの? がんばってるね」 メイド妹「おねーちゃんもやった?」 メイド姉「やったわよ、結構難しい単語があるわよ?」 ****817 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/06(日) 02:10:38.23 ID:Lbanm5QNP メイド妹「大丈夫だよぉ。  ちゃんとした言葉を覚えるとモテモ? えっと……」 メイド姉「『殿方に好意を持っていただける』でしょ?」 メイド妹「うん、そうそう。それ!  眼鏡のおねーさんがいってた」 メイド姉「メイド長様は、面倒見が良いから」/ メイド妹「怖いよ? すぐ怒るよ」 メイド姉「怒ってないよ。叱っているだけ。  本当はとっても優しい人だよ?」 メイド妹「そうかなぁ? お尻叩かれたとき、  ひりひりして椅子に座れなくなったもん」 メイド姉「拾い食いなんかするからです」 メイド妹「昔はおねーちゃんもやってたくせに」 メイド姉「ご飯ちゃんと食べさせてもらってるでしょ?」 メイド妹「うんっ」 メイド姉「じゃ、恥ずかしいことは、しないの」 ****820 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/06(日) 02:14:40.19 ID:Lbanm5QNP メイド妹「おねーちゃんは、年越し祭はどうするの?」 メイド姉「どうするって?」 メイド妹「村の真ん中で、踊るらしいよ?」 メイド姉「だれが?」 メイド妹「村の男の子と、女の子、たくさん」 メイド姉「私は良いわ」 メイド妹「そーなの?」 メイド姉「メイドの仕事があるもの」 メイド妹「でも、踊って来ていいって、  眼鏡のおねーさんがいってたよ?」 メイド姉「そう……」 メイド妹「当主のお姉ちゃんも、元気ないね。  勇者のおにいちゃん、帰ってくればいいのにね」 メイド姉「そうね。――そうだ」 メイド妹「?」 メイド姉「年越しの祭には、何かプレゼントを用意  しましょうね。館のみんなに」 メイド妹「そうだねっ!」 ****822 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/06(日) 02:18:24.98 ID:Lbanm5QNP ――冬越しの村、村はずれの館、当主の部屋 魔王「えー『試験場の数を増やしたく思う。  追加の人員の手配をお願いしたい。  対価は西方貨幣で支払う用意あり』と」 メイド長「……」さらさら 魔王「これは蜜蝋で封をしてくれ」 メイド長「かしこまりました」 魔王「んー。これは?」 メイド長「狩人さんからの手紙ですよ」 魔王「おー。そうか、そうか。望遠鏡を渡したんだった」 メイド長「ええ」 魔王「なになに。使用するに便利、極めて快適か」 メイド長「役立っているようですね」 魔王「精度が低いかと思ったが、固定観測でないなら  かえって手ごろのようだな」 メイド長「はい」 魔王「よし、では返信だ。『素早い報告、うれしく思う。  森番の仕事、大変かと思うが、当家では付近の地図測量に  興味あり。相談したきことがあるので、一度ご来訪願う』  これで、よしっと」 ****823 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/06(日) 02:23:28.21 ID:Lbanm5QNP メイド長「こちらもお願いします」 魔王「これは、うん。修道会からの報告か」 メイド長「あらあら、まぁまぁ」 魔王「馬鈴薯の収穫は順調に増加しているらしいな」 メイド長「そのようですね」 魔王「だが、土壌実験によれば  そろそろ栄養枯渇の兆候が出るはずだ。  そうなると抵抗力が低下して虫害が出やすくなる」 メイド長「ふむ……」 魔王「この件では修道会へ、再度警告が必要だな」 メイド長「お手紙にしますか?」 魔王「いや、次行ったときでよかろう。  覚え書きに追加しておいてくれ」 メイド長「かしこまりました」さらさら 魔王「どうだ『紙』は」 メイド長「羊皮紙よりずっと書きやすいですね」 魔王「早いところ量産体制を整えないとな」 メイド長「作るのは簡単ですけれど、  たくさん作るとなるとまた別問題ですからね……」 ****826 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/06(日) 02:27:54.45 ID:Lbanm5QNP 魔王「うわ、なんだこの束は!?」 メイド長「そちらの束は、『同盟』からですよ。  納品書、請求書、支払い所、明細書……」 魔王「あー。銅、鏡、ガラス、海砂?  それに胡椒に、絹に、釘なんていうものもあるな」 メイド長「みんなまおー様が購入リストに入れたんですよ」 魔王「判っておる。  ちょっと思い出せなかっただけだ。  必要としているのは誰か判っているか?」 メイド長「それはまぁ、帳簿につけてありますが」 魔王「んー。しっちゃかめっちゃかだな、これは」 メイド長「まさかここまで仕事量が増えるとは」 魔王「しかたない。メイド姉にやらせよう」 メイド長「彼女にですか?」 魔王「無理か?」 ****828 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/06(日) 02:31:42.53 ID:Lbanm5QNP メイド長「……いえ」 魔王「……」 メイド長「大丈夫です。彼女なら出来ます」 魔王「そうか」 にこっ  「では、この書類整理は、今日からあやつの仕事だ」 メイド長「悪のメイド軍団が結成できそうな勢いですね」 魔王「どうかしたのか?」 メイド長「いえいえなんでも。……そうだ、  お茶でも入れましょうか? 丁度、聖王都から  オレンジの香りの葉がとどいたんですよ」 魔王「うむ、疲れた」 メイド長「でしょう」 魔王「私は疲れたのだぞ」 メイド長「そんなにつっぷして。どうしたんですか?」 魔王「むー」 ****830 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/06(日) 02:34:56.75 ID:Lbanm5QNP メイド長「膨れているんですか?」 魔王「もう秋だぞ」 メイド長「そうですねぇ、実りの季節です。  栗がおいしいですねぇ。今年のベーコンも出来が良いようで」 魔王「秋なのに」 メイド長「はい?」 魔王「半年も音沙汰無しだぞ」 メイド長「あらあら、まぁまぁ」 魔王「ちょっと応えにくい会話だとすぐその決め台詞で  流そうとするのは止めにしたらどうだ」 メイド長「これはメイドの特殊技能なんです」 魔王「連絡くらいくれても良いではないかっ!!」 メイド長「来てるじゃないですか」 魔王「そんなもの、妖精族を助けただの、  鬼腕族を討伐しただの、そんなことばかりではないか」 ****833 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/06(日) 02:39:54.63 ID:Lbanm5QNP メイド長「無事で、活躍されているんですよ」 魔王「勇者なのだぞ。こうしている間にもあっさり  美人が自慢の村娘とか……  いや、歌姫族のハーピーあたりと  いちゃいちゃしているかもしれんではないかっ!?」 メイド長「そうですか? 勇者様は童貞ですからね。  童貞って言うのは変なところで義理堅くて夢見がち  ですから、きっと大丈夫ですよ」 魔王「ちっとも安心できんではないかっ」 メイド長「そんなにいらいらしていると、  眉間のしわが取れなくなってしまいますよ?」 魔王「ううう、そんなことになったら勇者に噛みついてやる」 メイド長「さぁさ。談話室の暖炉が暖められています。  今日はこのあたりにして、甘い紅茶をおいれしますから。  そちらの方でお待ちになっていてください」 魔王「しかしな」 メイド長「これ以上書類と根をつめていては  それこそお身体を悪くしてしまいますよ?」 ****837 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/06(日) 02:45:30.54 ID:Lbanm5QNP 魔王「むぅ。判った。お茶を頼む」 メイド長「かしこまりました。まおー様♪」   がちゃん。  とっとっとっ…… メイド長「なーんて。……魔王様はおっしゃってますが?」 勇者「うわ、ばればれですね」 メイド長「メイドの勘です」 勇者「毎回ばれてるなぁ」 メイド長「今回のお手紙は?」 勇者「ここで書いていきます」 メイド長「では、こちらにもお茶をお持ちしましょう」 勇者「すんません」 メイド長「いえいえ。メイドの仕事ですから」 勇者「さってと、インク壷と~羊皮紙あっかな  これでいーか」 ****840 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/06(日) 02:50:51.46 ID:Lbanm5QNP ――冬越しの村、村はずれの館、当主の部屋 ガチャリ メイド長「おじゃまします。いかがですか?」 勇者「あ、報告は書き終えました」 メイド長「そうですか。……こちらはお茶と  簡単な夜食になります。今回は馬鈴薯が  ことのほかよく出来ておりますよ。  これはクリームで甘く煮たものなのですが」 勇者「旨そうっすねー」 メイド長「……」 勇者「わ、熱っ。んまっ! 今回はぁ火竜族と  なんとか手打ちで、でもそのためには『開門都市』  をなんとか奪還しなきゃならなくてですね」 メイド長「……勇者様」 勇者「ん?」 メイド長「やはり今回も?」 ****843 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/06(日) 02:53:59.28 ID:Lbanm5QNP 勇者「あー。うん」 メイド長「魔王様を避けてますよね?」 勇者「うー」 メイド長「避けてらっしゃいますよね?」 勇者「うー、うん」 メイド長「……使用人の分際で差し出がましいかと思い  今まで訊ねずに参りましたが、埒が明きません。  魔王様には内緒にしておきますから  何か問題があるのなら相談くださいませ」 勇者「うん……」 メイド長「煮えきらない態度ですね。  あれですか。酒場の鳥娘に言い寄られたり  半透明のスライム娘に告白されたり  爆乳自慢の牛娘に婿宣言されたりしたんですか?」 勇者「うがっ!」 メイド長「どうなんですか?」 勇者「そのう、そういうのがないとは言いませんが」 ****850 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/06(日) 03:01:16.21 ID:Lbanm5QNP メイド長「大体転移呪文があるのなら  毎日は無理でも、毎週程度には帰ってこられますよね?」 勇者「うん」 メイド長「魔王様がそれに気が付かないくらい  お間抜けで今回は助かっていますが……」 勇者「うん……」 メイド長「どういうことなのですか?」 勇者「いや、その。さ」 メイド長「はい?」 勇者「……魔王が、あんまりにも俺に頼らないから」 メイド長「……」 勇者「最初にさ、あの魔王の間で『我のものになれ』  なんていわれてさ『まだ見ぬもの』なんていわれたからさ」 メイド長「……」 勇者「てっきり、勇者の力で、魔族の反乱分子を  粛清してさ、たとえばゲートを閉じちゃったりして  そうやって戦争を終わらせると思ってたんだよ」 ****853 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/06(日) 03:05:27.68 ID:Lbanm5QNP 勇者「そういう意味で、勇者の力が欲しいのだと」 メイド長「……」 勇者「なのに、あいつ、俺の戦闘能力は当てにしないでさ、  それどころか、戦わないように戦わないようにしてさ」 メイド長「はい」 勇者「なんかまるで俺のことが大事みたいに  ……好きみたいにさ。するから」 メイド長「……」 勇者「だって所有契約だろう?  俺はあいつのものだしあいつは俺のものだ。  気に入らなかったら命をとられてもいいんだ。  そういう契約じゃないか」 メイド長「そうですね」 勇者「それなのにさー。あいつさ。挙動不審だし  言い訳も説明も過剰だし、おっかなびっくりだしさ」 メイド長「……」 勇者「……上手く言葉にならねぇや」 ****854 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/06(日) 03:08:45.40 ID:Lbanm5QNP メイド長「魔王様は、勇者様のことを――」 勇者「判ってるんだ。  そこまで馬鹿じゃない。  相手の好意が信じられないから、  自分の好意を与えられないだなんて  そんな腰抜けの言い訳じみたことを言うつもりはないんだ」 メイド長「では、なぜ?」 勇者「だって、俺、死んじゃうしさ」 メイド長「……」 勇者「今回のことがどう転ぼうがどう成功しようが  それでも俺は人間だから、魔王よりも先に死んじゃうしさ」 メイド長「それはっ」 勇者「そんな俺が魔王と想いを重ねるって  それはなんだかすげぇ不実な気もするんだよ」 メイド長「そんなことはありません」 勇者「そうかなぁ」 ****856 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/06(日) 03:12:06.98 ID:Lbanm5QNP 勇者「そりゃ、まぁ。本当かもしれないよ?  終わりがない関係はないけれど  終わるために出会うわけじゃないからさ」 メイド長「……」 勇者「でも、なんだかなぁ」 勇者「俺、最後のときに、魔王の困ったような  泣きそうな顔ばっかり思い出す気がするんだよ」 メイド長「そんな」 勇者「これもびびってるっていうのかなぁ。  でも、魔王がそういう顔すると思うとつらい。  勇者って言うのはさ、  もしかしたら幸せになっちゃいけない職業なのかも  しれないって。そう思うんだよ」 メイド長「……」 勇者「今の俺は、あんまり勇者って感じじゃないなっ!」 ****857 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/06(日) 03:15:40.56 ID:Lbanm5QNP メイド長「メイド如きに口を挟める問題でも  ないのでしょうが、一つだけ」 勇者「うん」 メイド長「勇者様は、魔王様のもの。  勇者様のすべては魔王様の、我が主の所有物」 勇者「ああ、そうだ」 メイド長「そのことをお忘れなきよう」 勇者「うん」 メイド長「だとすれば、  勇者様の感じるためらいも思いやりも、  押し殺している願いや  憧れるような希望も、  触れたいという祈りも。  言葉にならない、魔王様への気持ちさえ。  それらもすべて魔王様のもの」 勇者「……」 メイド長「それをお忘れなきように」 #right(){{&link_up(ページトップへ)}} ---- #center(){[[<前1-4へ>1-4]]|[[次2スレ目へ>>2-1]]} ----

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