「GHQ焚書図書開封」第4巻(徳間書店)
『天皇陛下万歳』と書いた箇所があるだけでも検閲で書き直させられた
戦前の名著が徐々に復元され、蘇生されれば日本はきっと元気になる
今回は「国体」論と現代』がテーマです。
「目次」
第一章 『皇室と日本精神』(辻善之助)の現代性
第二章 『國体の本義』(山田孝雄)の哲学性
第三章 部数173万部『國體の本義』(文部省編)の光と影
第四章 国家主義者・田中智学の空想的一面
第五章 『國體眞義』(白鳥庫吉)の見識の高さ
第六章 130万部のベストセラー『大義』(杉本五郎中佐)にみる真摯な人間像
第七章 戦後『大義の末』を書いた城山三郎は夕暮れのキャンパスで「国体」を見た
第八章 太宰治が戦後あえて書いた「天皇陛下万歳」を、GHQは検閲であらためて消した
評論家、宮崎正弘氏の書評です。
この労作シリーズの第四弾は国体論が中心にそえられた。
通読してまず感慨深かったのは、昭和10年代にこれほど正々堂々とした活発な論戦が日本の論壇で行われていたという動かしがたい事実である。
左翼言論人らが虚ろにほえる“暗黒の言論封殺の日本”という批判は当たらない。
とくに戦後の左翼史家がのたまわったような言論の封殺された空間はなく、それほどの暗い時代ではなかったのだ。
GHQが禁書とした七千余冊のなかで日本精神を高揚するもの、歴史の由緒正しきを解説したものなどが「日本人」の検閲係
(占領軍御用達の目明かし、岡っ引きですかね。GHQに雇われて米国に魂を売り渡した人々)
によって広く排除され、日本人の目に届かなくなった。
この書では「国体」「皇室」「天皇」「教育勅語」というキーワードが表題に入った書籍が国民の書棚から強制的に消された過程を調べ、それらに何が書かれていたかを復元し解説する。
「国体」を冠した書物をもっとも夥しく著しているのは里見岸雄博士。その門下生らによる「国体学会」はいまも健在、機関誌も連綿として続いている。
文部省編纂の『国体の本義』は数年前から佐藤優氏が解題し、『正論』の連載を一冊にしたが、本書で扱う対象はもっと広く、国体論から大義論まで。城山三郎、太宰治の文学作品もでてきて視野が広く、且つ公正である。
とくにこのシリーズ第四作で取り上げられた書物は『皇室と日本精神』(辻善之助)、『国体の本義』(山田孝雄)、『国体の本義』(文部省編)、『国体真義』(白鳥庫吉)、軍神杉本中佐の『大義』、そして戦後編として『大義』を捨てきれず戦後は、
ウジウジと反省をしていた城山三郎の『大義の末』と、それと対照的に太宰治の『天皇陛下万歳』削除事件などへの考証がある。
白鳥庫吉は杉浦重剛とともに昭和天皇にご進講した卓越した学者で、ふたりの共著二冊も焚書にされた。就中、白鳥の『国体真義』を西尾氏は高く買っている。
太宰治、城山三郎、山岡荘八
太宰治は左翼が嫌いで、しかし人前では偽悪者ぶって、それでいてダンディでデカダンで、あまつさえ天真爛漫。でも本当は日本浪漫派に作品群は属するとみて良いのではないか。そして太宰の『パンドラのはこ』は改作、削除のあとがあることがわかった。
それは作中に『天皇陛下万歳』とあるのが理由である。
これは戦後すぐに『天皇制反対』とか、『天皇の戦争責任』などと言い出した人々への太宰の冷徹でユーモラスな批判でもあるが、当該箇所がそのまま出版された昭和21年の河北新報社版が、同22年の双英書房版となると天皇陛下万歳はGHQによって削除され、昭和23年の育成社版では削除ばかりか改変があった
評者(宮崎)はそういう事実をはじめ知った。
城山三郎は特攻に憧れ、予科練に志願し、しかし特攻になりそこない、戦後うじうじと、変節漢が気軽になした転向も出来ず、それでいて戦前に感動した杉本中佐の『大義』を捨てきれずに大切に隠し持っていたそうな。
そういう事実も本書を通じて初めて知った。
戦前、戦中、戦後を体験した城山三郎の複雑な心象風景を鋭利に分解してゆく西尾氏の弁証法的手法は鮮やかだと思った。
評者は城山三郎の経済小説に限って言えば、デビュー作の『総会屋錦城』から『価格破壊』まで、全部読んだが、氏のイデオロギーをこね回したような作品群(『落日燃ゆ』)などはまったく読んでいない。なぜかよくわからないが、きっと心のどこかで城山が嫌いなのだろう。
もう一人、山岡荘八の『小説 太平洋戦争』への痛烈な批判は同感である。
通俗作家として縦横無尽の活躍をした山岡には駄作も多いが、こんにち中国で『徳川家康』全巻が翻訳され、大ブームとなった余勢を駆って『徳川家光』まで訳されていることは余談。
さてGHQに協力して、権力を嵩にきた日本人は恥知らずだが、いまも論壇や文壇や官界に、権力の影に隠れてライバルを失脚させ、自己の保身をはかる傲慢な言論人がたくさんいるではないか。とくに朝日新聞とかNHKに。
本書を読んで、「天皇陛下万歳」と太宰が書いた箇所だけが理由で削除された事実に遭遇したことは驚く他はない。
ともかく戦前の名著がつぎつぎと復元され、蘇生されれば日本はきっと元気になる。
引き続く第5巻が楽しみである。
第5巻は本年6月頃に出版されます。
最終更新:2011年03月03日 00:17