巨大な「国債残高」のその後




何よりも、巨大な国債残高になったのは、国内に受益者がいるからだ。


景気刺激のための「公共工事」は経常事業となり、工事の受注企業や政治家を潤わせる。 
一度味をしめたら、止められない。麻薬のようなものだ。政・官・財の癒着を強めさせた。
経済成長の維持が、合言葉になった。成長維持は先進国の義務だと、欧米からも督促される。

その結果、古くて手狭な母屋の一般会計の外で、大きな離れの特別会計が、増築を重ね、赤字は累増していく。


マスコミは、こういう癒着関係と事実関係を知っていても、国民に伝えない。第四権力となったマスコミは、体制の中で権威をかざし、政界、官界、財界の上に君臨する。

広く国民に向け、真実、真相に迫る報道をしないことが、体質となった。


公共事業経常化の副作用は、償還期間が長くなったことに出ている。
平成17年度から22年の5年の間に、6年8カ月から、7年6カ月になった。昭和55年以後の市場解放後、10年以上の、超長期国債が発行されてきたのだ。昭和40年の発行当初は、慎重に馴らし運転のように7年物だったが、運用の固定化によって、調達も長期化が必要になったのだ。年を重ねるごとに、資金の回転効率が悪くなり、底溜りの債務となっていく。
本州・四国連絡架橋の例を見ればわかりやすい。3本の連絡橋の稼働率は低く、どれも赤字だ。建設資金の回収どころか、維持費が嵩んでいく。建設国債は、固定長期債務となる。

昭和48年から、国債償還の原資を、国債発行で賄う「借換債」の発行がはじまった。

昭和40年発行の7年物国債の「満期」が到来したこと、また、国債の残高調整のため、満期前に償還する「買入償却」も始まった。
 国債は逐年累増し、投下資本の回収は長期化する。公共工事の投資規模拡大によって、借換債の累増は、日本経済にビルト・インされた。3本の本四連絡架橋、高速道路網整備、地方空港整備、都市整備等、それぞれの投資計画ではバラ色の需要予測が立てられる。
投資計画では、需要を過大に見込むのが一般の常識だ。
当然の結果として、完成後の施設・設備の稼働率は低く、当該国債の「償還原資」は回収できない。

建設国債はドンブリ勘定になって底溜まりとなり、借換債に変質していく。

公共工事の投資対象は、「箱物」の言葉に象徴されるように、建設関連の需要を生む。それに群がる業者、政治家が利益共同体社会をつくる。建設が終われば、余り利用されない施設が残るだけだ。

昭和末期に、野放図に急増した300兆円に達する民間の借入金債務も、平成になって企業の財務状況を圧迫した。

「失われた10年」だ。下の資料を見ていただきたい。
行政も、平成9年頃から、底溜まりの国債の弁済に追われる。「借換債」の発行に、国債発行の半分が費やされて、新規の公共事業投資は余り増えない。投資が少なく、市場解放下のデフレ傾向で物価が下がり、企業業績は伸びない。そのため、税収は増えない。

国債の元利払いは、この低金利下でも、一般会計の22%に達している。

債務残高は増える一方だ。 借金で借金を返す、サラ金地獄と同じ構図になっている。

行政にも「失われた20年」の負担がのしかかっている。


国債発行額の推移(単位:兆円)
一般会計歳入額

平成13年、小泉政権の構造改革が始まった。

「財政投融資特別会計」に基づき、平成13年度、「財投債」が一挙に44兆円も発行された。

離れの土地を、母屋の土地から分筆し、親の敷地に建てた離れを、独立所帯として分家させたのだ。

この巨額な国の債務が、日本国債の底溜まり部分として隠されていた。平成11年度の「独立行政法人通則法」の制定から、各省庁の傘下にあった公団や特殊法人、金融機関、大学その他の法人等が、順次独立行政法人として民営化された。
独立行政法人化に伴って、道路公団、空港公団、本四連絡橋公団、住宅公団などの事業活動を継承し、継続していく各法人が、

その事業資金に充てるため「財投債」は発行され続けているが、減少しているのは資金が不要になったわけではない。

その事業活動は、商業的に独立採算で立ちゆく性質のものではない。道路公団でいえば、別の高速道路保有・債務返済機関が独立法人として、
政府保証で発行する機関債で所要資金を調達する仕組みになった。

政府は、陰に回っただけなのだ。

 (つづく)
最終更新:2011年02月27日 11:09