年間行事:春
松茸大学の春は、静かな発酵とともに始まる。
雪解けの森を背景に、新入生たちは「入学式」ならぬ胞子撒き式に参加する。
式典では学長が松茸の胞子を風に放ち、学生たちの肩や髪に淡く降りかかる。
それが“松茸大学の春の香り”であり、最初の試練でもある。
くしゃみをこらえた者ほど優秀とされる伝統がある。
【入学式「胞子撒き式」】
会場は講堂ではなく、大学裏の松茸山の斜面。
学生は松茸の胞子を一握りずつ渡され、「これがあなたの研究の種です」と言われる。
そのまま地面にまく者、ポケットに入れる者、飲み込む者など対応はさまざま。
翌週、発芽報告書を提出する課題が出されるが、発芽の定義は人によって違う。
【新入生歓迎祭「胞子舞(ほうしまい)」】
春の夜、構内中庭で行われる幻想的な儀式。
学生たちは光る胞子をまといながら舞う。
薬学部の学生が調合した香料が空気を包み、
スポーツ健康学部の学生が身体能力を発揮して舞い、
文学部の学生が詩を朗読しながらそれを記録する。
誰も何を祝っているのか正確には知らないが、「踊っていればだいたい大丈夫」という共通認識で進行する。
【春季特別実習「芽吹きと呼吸の観察」】
理学部の学生は菌糸が地表に出る瞬間を観察し、民俗宗教学科の学生は、その現象を“土地のまばたき”として記録する。
薬学部は湿度を測定し、
経済経営学部は「発酵市場指数」を算出。
その全てを総合して「今年の松茸指数」として発表されるが、学内でも誰が計算しているのかは不明
【各学部の春行事】
薬学部:「薬草市場」実習。香りの値段が日替わりで変動する。
文学部:朗読劇「声の芽吹き」。脚本が毎年発酵して長くなる。
スポーツ健康学部:春季“祓式リレー”。走る前に祈る、走った後も祈る。
経済経営学部:「信頼の芽吹き」講演会。参加者の3割は途中で迷信家になる。
理学部:量子菌糸の初観測会。観測に成功した瞬間、菌糸が観測者を見る。
芽吹くとは、己の中の冬を疑うことだ
最終更新:2025年11月02日 03:38