◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「……美穂ちゃん?」
まるで逃げるように会議室に去って藍子は、暫く警察署を彷徨っていた。
何となく自分の心を落ち着かせるのに、ただひたすらと歩いていて。
闇雲に歩いている最中に、携帯端末を給湯室に忘れている事に、藍子はやっと気付いた。
そして、慌てて戻っている時に、ネネに会ってきたと言う智絵里と目を赤くした美羽と合流し、美穂の下に向かうと、電話している姿が見えて。
藍子はその瞬間、状況を察して
「……もしかして、夕美ちゃん?」
「……はい」
それが、夕美からの電話だと、すぐにわかった。
だから、藍子は一回目を閉じて、そしてゆっくりとあけて気持ちを入れかえる。
友紀の事は、哀しいし、不安で、気にかかって仕方がない。
だけど、今は、藍子の親友である夕美と、話がしたかった。
だから、ちゃんと夕美と話したいと思って、今は夕美だけの事を考えて、電話を受け取る。
美羽は驚きながら、藍子を見て、智絵里もそれにつられて藍子を見ていた。
美穂は何処か不安そうに藍子を見ていた。
藍子は、それらを気にせず、ずっと会いたかった友達の名前を呼ぶ。
「……夕美ちゃん?」
『や、私だよ。元気にしてた?』
「勿論、私は元気だよ」
『そっか、よかった』
「夕美ちゃんは?」
『うん、まあ元気にしてたよ』
電話から、聞こえる夕美の声は一見いつもとかわらなさそうで藍子は少し、安心する。
未だに行方が解らなかったから、怪我をおって動けない。
そんな想像すら、していたから。
「今、何処にいるの?」
『んー南の浮き島の辺り?』
「……そんなところに居たんだ」
『そんな所に居たんだよ。ちひろさんも酷いよねー、そんな所に置くなんて』
これも、嘘じゃないだろう。
藍子はそう思いながら、言葉を紡ぐ。
何でそんな所におかれたか藍子には到底わからないが、それでは見つからないはずだ。。
「こっちは友紀ちゃんや美羽ちゃんにも会ったよ」
『うん、知ってる』
「友紀ちゃんは今居ないけれど……美羽ちゃんとかわろうか?」
『いや……いいよ。今は藍子ちゃんと話したいな』
友紀の名前を、口にするとき、藍子は少し心がちくっとした。
友紀の事を、夕美にも相談したかった。
けれど、電話から聞こえる夕美の声はやがて、藍子にとって少し違和感を感じるものに変わって来て。
美羽より藍子を優先した夕美に、それが徐々に確信めいた何かを感じ始めている。
何か、切羽詰ったものを夕美から感じて。
「……夕美ちゃん?」
『うん? どうしたのかな?』
「い、いや……なんでもないよ。色々話したくて、話したい事一杯で何から話そうかな……」
『そっか。いいよ、藍子ちゃんのペースで、ね』
それが、徐々に自分の胸騒ぎに変わっていくのを感じる。
夕美が、何かされたのではないか。
唐突にかかってきた電話。
殺し合いに巻き込まれたのに、余りにも普段と変わらないようにしようとする夕美。
考えれば、考えるほど不自然に思えてきて。
「ねえ、夕美ちゃん……この通話って、どうして出来たの?」
『言わないとダメ?』
「出来れば教えてほしいかな」
『藍子ちゃんは、しょうがないなぁ……ちひろさんに寂しいから、藍子ちゃんとお話したら、どうって』
「そう」
『それだけ。だから、もっと楽しい事話そうよ。 独りで寂しくてさ』
嘘だと、藍子は思う。
そんな理由でちひろが電話をさせてあげるほど、ちひろが優しいと藍子には思えなくなったから。
きっと何か打算があって夕美にかけてきたとしか思えない。
夕美まで何かされてると考えると、藍子はもう耐えられない。
『あは、そういえばこうやって話すのも久々だね』
「そういえば……そうだね」
『昔……そんな前でもないか。こうやって電話で色々話してたよね。藍子ちゃんが不安で眠れないとか』
「も、もう。そんなこともあったけれど!」
『あははっ……懐かしいねぇ』
いつものように、話す夕美は、もう藍子には違うようにしか感じられない。
ずっと一緒に居たから。
友達だから、親友だから。
まるで何かを必死に抑えてるようで。
『ふふっ……藍子ちゃんは、笑えてるようだね。良かった』
「夕美ちゃんも笑えてる?」
『私?……うん、大丈夫、笑えてるよ』
嘘だ。
絶対。
楽しく笑えてない。
『ねぇ、藍子ちゃん覚えてる?』
「……何かな?」
『藍子ちゃんが私の隣で、最後に泣いた日の事』
「……忘れるわけがないよ。あれは私にとっても、とても大切な日だから」
『そっか。あのね、私は――』
ねぇ。
夕美ちゃん。
どうして、どうして。
そんな声出すの。
やめて。
『あの時、聞いた夢。藍子ちゃんの想い、凄いと思ってるんだ。今でも。本当だよ』
「夕美ちゃん……」
『その夢を一緒に、フラワーズの皆で、一緒に叶えようって思った」
「私もだよ!」
『そんな夢を目指す藍子ちゃんが大好―――』
夕美ちゃんが、違う。
とても哀しそう。
とても辛そう。
いやだ、そんな、夕美ちゃん
見たくない。
だから。
「夕美ちゃん!」
私は、貴方を救いたい。
貴方が哀しんでいるなら。
私は貴方を助けたい。
だって、私は貴方の、親友なんだから。
『な、何かな?』
「夕美ちゃん、どうしたの。凄く辛そう……」
『そ、そんなことないよ……』
「ううん、何か必死に抑えてる。ちひろさんに何かされたの?」
考えられるのはちひろさんしかいなくて。
私はそのまま夕美ちゃんに言葉をぶつける。
『そんな事ないって。藍子ちゃん、やめよう……そんな事』
「いや……辛い夕美ちゃん見たくない!」
『だから藍子ちゃん、そんな事じゃないって……!』
だって、夕美ちゃん。
声震えてるよ。
苦しいそうだよ。
ダメだよ。
そんなの。
「ねえ、夕美ちゃん。苦しいなら、言って。哀しいなら言って」
私が、全部聞くから。
私に、全部言って。
あの時、私が泣いた時のように。
今度は夕美ちゃんの隣に私がいるから。
「優しい気持ち大事だよ? 大丈夫だよ、夕美ちゃん強いもん。一緒に居よう?」
優しくなれば、きっとまた笑える。
夕美ちゃん強いもん。
私達と一緒に居ようよ。
「此処には皆、居る。アイドルの皆が。皆で居れば、きっと大丈夫。独りはダメだよ?」
一緒に居ればいいよ。
私と美羽ちゃんと、ここにはいないけど友紀ちゃんも絶対連れてくるから。
「そうして、プロデューサーに会おう。フラワーズ皆で!」
だから、夕美ちゃんも一緒に居て欲しい。
「私、独りで抱え込む夕美ちゃん見たくないよ。辛いなら哀しいなら……」
だから。
「私は何度だって、笑って、夕美ちゃんに手をさしのばすから」
優しくなれるように。
お願い、私の傍にいて。
「だって、私、夕美ちゃんの親友だもんっ!」
わたしの、大切な親友。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ああ。
やめて、藍子ちゃん。
耐えられなくなる。
何これ、藍子ちゃん。
なんで、そんな事言うの?
「ううん、何か必死に抑えてる。ちひろさんに何かされたの?」
どうして、そうやって決め付けるの。
私が頑張って必死に吐き出さないようにしてるのに。
どうして、藍子ちゃんは……
「いや……辛い夕美ちゃん見たくない!」
やめてよ。そんな事言わないで。
我慢してるんだよ、これでも。
ずっと、ずっと!
「ねえ、夕美ちゃん。苦しいなら、言って。哀しいなら言って」
言える訳ないじゃない。
言いたくないことだって一杯ある。
哀しみを貴方に言える分けない。
だって、貴方が大好きなんだから。
それを言ったら貴方を傷つける。
「優しい気持ち大事だよ? 大丈夫だよ、夕美ちゃん強いもん。一緒に居よう?」
どうして?
私は強くない。
なんで、なんで!
藍子ちゃんは、そんな変わったの?
嫌だ、違和感しか感じない。
貴方はそんな優しさというものを上から振りかざす人じゃない。
強さを押し付ける人じゃない!
私が知ってる藍子ちゃんじゃない!
私の藍子ちゃんじゃない!
「此処には皆、居る。アイドルの皆が。皆で居れば、きっと大丈夫。独りはダメだよ?」
私は貴方がいればよかったんだよ。
私はそれで終われたのに。
止めてよ、それ以上そんな言葉かけないでよ。
「そうして、プロデューサーに会おう。フラワーズ皆で!」
やめて。
あの人が望んでいるのは貴方なんだよ。
私じゃないんだよ!
そんな風に勝ち誇るのはやめてよ! いやだよ
「私、独りで抱え込む夕美ちゃん見たくないよ。辛いなら哀しいなら……」
だから、もう
「私は何度だって、笑って、夕美ちゃんに手をさしのばすから」
あぁ。
あぁぁぁあぁああぁ!
そうやって、そうやって!
貴方はそうやって!
私を見下すんだ。
どうにも届かない高いところから。
貴方は手をさしのばすんだ。
「だって、私、夕美ちゃんの親友だもんっ!」
――だったのに。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
何かが、壊れるような音がした。
きっと、それは、私の心だった。
「いつだって、藍子ちゃんはそうだ。もううんざりだよ。
やめてよ。それ以上そんな事いうのやめてよ。
だめなんだってそういうの……もう、耐える事できないよ……
いつだって貴方はそう。そうやって上から何でも解ったようにいてさ。
いつも、いつもいつも! 私がどれだけ我慢してるか、貴方わかる!? 解らないよね!
たくさんなんだよ、もう本当沢山。そういうの、いつだって私してきたよ。
くるしいよ。藍子ちゃんがそうやって言葉かけてくるの。見下してるんでしょ。
なんども、なんどもさあ。貴方のそういう無神経なところ苦しめられて。
いつも、我慢するのは、遠慮ょするのは、私だもの!
あぁもう、そういうところがいつもイラついてたんだ。
いつも無神経で、誰の心も考えてない。
これだって、そうだ。私のこと何も思ってないじゃない。
たすけるなんて、凄い上から見て。強いね、藍子ちゃんは
すごいよ、藍子ちゃんは。いつだって強くて、私、貴方が羨ましい。
けどね、そういうのもう、我慢できない。
てを差し伸べるだって」
高森藍子のことが大好きだった。
あの子のいい所、喜ぶこといっぱい言えるよ。
けど、それと同時に。
あの子の悪いところ、傷つくこともいっぱい言えた。
「あーあー。
もう言っちゃうね
――藍子さぁ、そういう所、うざいんだって、やめてよ。そういう藍子、大嫌い」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
一度、吐き出したらもう止まらなかった。
あの子に感じてた悪い事、嫌いなことを、全部いえそうだった。
『……えっ』
「ねえ、藍子さあ。私ね、凄い頑張ってたんだよ。 やっとアイドルになれて。フラワーズというグループもらえて
でも、気が付いたら貴方が一番になってて。私はいつもその次で。それなのに、貴方はいつでも、皆を立てて。
まるで、自分が一番じゃないかのように振舞って。そういうのむかつくんだよ? 傷つくんだよ?」
藍子がいつの間にかリーダーになっていた。
最初は私のグループだったはずのに。
そしたら、どんどん先に行って。
私は実力的にも評判も、全部貴方の後ろ。
それなのに、貴方はいつも一番じゃないって言う。
何でよ、そんなの明白じゃない。
そういうの、プライドが傷つくんだよ。
私だって一番になりたかった。
それでも、貴方に勝てなかったのに。
貴方がそれを認めないの、やめてよ。
「ただ、惨めになるだけ。 私はいつだって、そう貴方に負けてないといけない。 どうして? ねえ、どうして?
貴方と私に、どれだけの差がついた? それなのに、貴方は認めないの? やめてよ。そういうの、大嫌い」
そうやって、悔しい思いにも頑張って耐えて。
私は本当は一人でデビューしたかった。
相葉夕美として。
フラワーズの相葉夕美じゃなくて。
それで人気を得たかった。
「それだけじゃ知らず、優しさ振り舞いて、時に私を見下してたでしょ」
『ち、ちが……』
「違うくない! 今だってそうやってた! 悔しいよ! 私、かなわないんだもん! 藍子に! なのに、いつも貴方はそうじゃないって!」
かなわないことはわかってた。
でも、それでもよかったのに。
なのに、そうやって勝ち誇られてた。
優しさでいつも私を立ててた。
でも、それは同時に高みから見る見下しだ。
「昔の藍子は、そうじゃなかった。藍子は、私の藍子は、傍で、一緒にいてくれる子だったのに!」
『今だってそうだよ……ねえ、夕美ちゃん……やめて』
「違う! 今の藍子は違う! 藍子じゃない、私の藍子じゃない!」
どんどん、届かないところにいってしまう。
私の手から離れていってしまう。
藍子が、どんどん遠くに行ってしまう。
私の傍から離れていく。
もう、何処にも届かない事に。
「想いだって叶わない……だって、私だって、好きだったんだよ?」
『えっ』
「プロデューサーの事……貴方と同じくらい、藍子と同じくらい、大好きだった」
『そんなの知らない……』
「だって、いえるわけじゃないじゃない! 私は貴方のことが好きで、大切で! 貴方のことを思ったら言えるわけなかった!」
祝福したかった。
でも、できなかった。
苦しかった。
そうだそうなんだ。
「貴方の笑顔みてて、藍子が幸せそうで、でも、それでよかったのに……貴方に勝てないのいつまでも、見せ付けられて
私だってあの人のこと好きだったのに。 でも、仕方ないと思った。 けど、苦しくて、哀しくて。
あの人と貴方が幸せなればいい。でも、そうすると、二人とも、もう、届かない」
辛かった。
私の思いがかなわないのが。
「それなのに、藍子は想いを隠して優しくしてさ! 好きなら好きといってよ! 祝福したのに……遠慮してさ……やめてよ……」
ただ、それが辛かった。
「ねえ、どうして、どうして? 私ばかり我慢しなきゃならないの? 私だけ諦めなきゃならないの? 私は藍子を立て続けなきゃならないの? 何時までも?」
いつだって、私は我慢してた。
いつだって、私は諦めてた。
藍子が幸せならそれでいい。
だって、藍子が好きだったから。
だって、藍子の笑顔が見るのが好きだった。
でも、どうして、私だけなの?
でも、どうして、私だけがこうなるの?
「藍子も、あの人も大好きなのに、大切なのに、皆、離れていく。嫌だよ……なんでなの……苦しいよ、哀しいよ」
藍子のことが好きで。
でも、藍子はいつだって私のことに気付いてくれない。
私が我慢してることも、譲ってることも。
そして、私を離した高みの上で見下してる。
「そういうの、嫌いなんだよ。藍子」
わたしはね。
「藍子さあ、そういう、優しければいいみたいの、私ダメなんだ、なんか、見下されているようで。
私は藍子の親友だって。思い続けていたよ。
でも、なんかどんどん藍子が遠くに言っちゃう。
藍子にかなわない。 それならそれでいい。
でも、貴方はそうやって高みから見下す。
――――そういうの、私、大嫌いだよ」
ただ、そういうのが、そういう藍子が嫌いだった。
「フラワーズだって、そうだ。貴方が一番だったのに。
貴方がそれを認めない。 貴方の為のグループになっていたのに。
皆そう思ってたのに、あなた自身が何時までも認めない。
藍子、そういうの私、傷つくんだ」
だから
「そういう藍子、嫌いだったよ」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
言ってしまった言葉があって。
まだ言い足りない事もあって。
続けようとして。
『ねえ……夕美ちゃん……夕美ちゃんにとって、フラワーズは、私はただの重い枷だったのかな?』
震えた、藍子の言葉で。
私は吐き出した言葉が戻らない事も知っているのに。
ただ、我に返った。
「ち、違う。違うよ……藍子……あぁ……あああああああああああああああ!!!!!」
そして、狂ったような声が、私からあふれでた。
涙と共に、強い叫びがあふれでた。
言いたくなかった。
なのに、言ってしまった。
抑えたかった思いがあふれでた。
「藍子、藍子……私は、それでも、藍子のことが好きだったんだよ」
弁明のように言葉を紡ぐ。
嘘じゃない。
それも真実だった。
「藍子の温かいところが、優しいところがそれでも、好きだった。本当だよ! 大好き!」
とめどなく出た想い。
すきという感情。
これも本当だった。
まるで、うそっぱちに響くだろうけど。
「ごめんね……ごめん……御免なさい……」
そして、謝るしかなかった。
言うべき感情じゃなかったのに。
言ってしまった。
「ごめんね。もう何も、元通りといかいかないよね」
だから、後は壊れるだけだから。
私はもう一つの本当のことも言おう。
「だから、最後に、いうね。藍子。
私は、それでも、そう思っていても。 藍子が友達だと思った。
私が我慢していた事、傷ついていた事、諦めた事も沢山あった。
でも、それと同時に、藍子から、幸せな事、嬉しい事、励まされた事一杯あった。
一緒に居たかったいつまでも。
ずっと、傍に居て。
笑いあって居たかった。
こんな重たいものを持っていても。
私は居たかった。
なんでって?
それ位、藍子のことが嫌い以上に、大好きだったから。
だから、藍子、最後に」
息を吐いて言葉を紡ぐ。
「貴方の笑顔に、貴方に想いに私は 救われてたよ。
私は独りじゃなくて本当によかった。
プロデューサーと幸せに。
藍子今まで、ありがとう。
大好きだよ……私の、親友。
ごめんね……大嫌いで大好きな人」
その言葉が箍で外れたように、涙が出てきて。
藍子が、電話を落とした音が聞こえてきた。
それで、終わりなのだろう。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
『夕美ちゃん!』
「……美羽」
でも、まだ通話は続いていて。
美羽の声が聞こえてくる。
美羽が電話を拾ったのだろう。
『ねえ、どうしたの! 夕美ちゃん』
「……よかった美羽はそのままなんだね」
『何がなんだか、わかんないよ! 藍子ちゃんは固まっているし……』
「
千川ちひろに、全部グチャグチャにされた。だから、もうお仕舞」
美羽は最初の声でわかった。
この子は何も変わってない。
何もされてない。
だから、安心して託す事が出来る。
「美羽、聞いて」
『な、何を……?』
「千川ちひろは、きっとフラワーズを潰すつもりなんだと思う」
『……えっ』
「友紀ちゃんもそうなって、藍子も……だから、美羽。千川ちひろに負けない為にも」
愛しいフラワーズの末妹。
勇気の花。
ポピーの美羽。
「貴方だけはフラワーズの美羽のままで居てね」
『……うん』
「約束だよ」
『……う、ん』
「ほら、泣かない。強い子なんだから」
『うん』
「じゃあ、さよなら。美羽」
貴方の事
ううん、フラワーズの事も。
大好きだったよ。
だから
「どうか、健やかにね」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
そうして、通話を切ろうとする。
美羽の声も藍子の声も聞こえない。
私が終わらせたから。
『ダメッ! そんなの、絶対に! 絶対に!』
なのに、聞こえてきた声。
『親友同士の別れが、こんな終わりで終って、たまるものか! わたしが感じた哀しみを藍子ちゃんに感じさせるものか!』
聞こえてきた声は、さっき始めてあった子の声。
『夕美ちゃん! そんなので終らせない!』
「美穂ちゃん……もういいんだよ。終ったんだよ」
『そんな事認めない。 詳しい事は解らないけど……哀しいことが起きたんだよね……でも、貴方も、藍子ちゃんも生きている!』
何が彼女をかきたてているのか。
『わたしの我侭だけど、終わってほしくない! わたしと歌鈴ちゃんはもう話せないんだ! 謝る事も、好きだって事も、伝える事が出来ない!」
彼女の親友は死んだ。
話さないまま。
ただ、それだけの事で。
『だから、大事な親友なら、失ってほしくないから! 夢を見て、笑ってほしいから! もう一度だけしっかり話して!』
ねえ、どうして。
「どうして、貴方はそんなに頑張るの?」
『だって解るから。わたしが――――』
それは、私がいった言葉だった。
『貴方だというなら、大好きな人とつないだこの手を、離したくないから。 大好きな人と、哀しみで終らせないで!」
あぁ。
そうだ。
私は藍子ちゃんと――――
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「聞こえますか? 夕美ちゃん」
「うん」
「良かった」
「……藍子」
「大丈夫。全部解ったから。色んな想い、伝わったから」
「御免ね、本当ごめん……」
「正直、夕美ちゃんの気持ち全くわかってなくてごめんね」
「藍子が謝る事じゃないよ」
「ううん……気づけなかったのは、親友である私のせいだから」
「藍子……」
「あのね」
「なぁに」
「夕美ちゃんにこれだけは、伝えるね」
「辛い時も、哀しい時も一緒にいよう……ううん、楽しい時も、嬉しいときも、会いたいときも、ずっと一緒にいよう、一緒にいればいいじゃない!」
「その言葉は……」
「うん、私が言ってもらった言葉。嬉しかった。だからね、今の事も、哀しくないんだ」
「どうして?」
「一緒に言葉を交わせたから、一緒にいれたから それが、よかったから」
「っ!?」
「だからね、私、夕美ちゃんのことが大好き。今も、これからも、永遠に」
「藍子……ちゃん……藍子ちゃん……」
「夕美ちゃんはどう?」
「私――――藍子ちゃんのことが、大好きっ! ずっと、ずっと、ずっと大好き!」
「うん!」
「ねえ、藍子ちゃん」
「なあに?」
「私達――――出会えてよかったよね?」
「勿論だよ」
「「ありがとう、私の大好きな大好きな親友」」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
そこで、通話が、切れた。
哀しくも、幸せだった事をねがった結末が、そこにあった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「どうして! どうして!」
通話が終わり、美羽は泣いていた。
泣きながら、藍子の胸をひたすら叩いていた。
藍子を睨みながら、ぽかぽかと。
「どうして、貴方が泣いてあげないんですか! 藍子ちゃん!」
それは、藍子が泣いていないから。
困ったように笑っているだけだから。
「夕美ちゃん、死ぬつもりですよ! あれで、最期かもしれないのに!」
「……」
誰も彼も、解っていた。
相葉夕美が、生きて会うつもりが無い事を。
それなのに、親友の藍子が何も泣いてない。
「貴方が一番泣いてあげなくて、誰が一番泣いてあげるんですか! 夕美ちゃんの為に!」
「……」
「何とか言ってくださいよ! お願いだから!」
ぽかぽかと胸を叩き続けて。
美羽はふと藍子の顔を見る。
そこに在ったのは、余りにも、暗いクライ瞳があって。
「……っ!」
美羽は驚いて、そのまま後ずさってもう一度、藍子の顔を見る。
そこには何も、変わらない藍子の困ったような笑みだった。
見間違いだろうか。
解らないけど。
でも、今はもう
「もう……いいです!」
この人と一緒に居たくなかった。
美羽ははじけ飛ぶように、部屋から出て行く。
智絵里はただ傍観していただけだったけれど、やがて美羽を追っていて。
残されたのは二人だけ。
困ったように笑い続ける藍子と、それを見つめる美穂だけで。
美穂は、美羽の言葉を、違うと心中、想い。
高森藍子が泣かない理由に、やっと気付いた。
この子は泣かないんじゃない。
多田李衣菜と
木村夏樹の死に泣いたのを茜から聞いた。
他人の為にこの子は泣ける。
なのに、何で自分のことになると途端に泣かないのか。
いや、『泣けない』のだ。
自分に関わる哀しみに。
決して、高森藍子は泣かない。
何故だろう。
考えて、考えて。
そして理解した。
それは、きっと高森藍子が望んだ姿なのだろう。
『アイドル』高森藍子の姿がそこに在るんだ。
ああ、と美穂は思う。
それはきっと、アイドルとして一種の正しい姿なのだろう。
他人の為に泣く事は出来るけど、自分の周りの哀しみに、泣かずに笑顔を振りまく姿。
でも、それは正しい一方で、とても間違っている。
それがアイドルと言うなら、あまりにも、哀しすぎる。
けれど、間違っていることを否定できない。
それが、アイドル高森藍子の姿なのだから。
だから、美穂は傍に居ようと思う。
正しいものの、間違っているところまで、理解して、愛そう、信じようと。
その間違いを言ってしまったら。
きっと、藍子は壊れてしまうから。
どんな強いものだってきっと。
美穂は何も言わずに、自分の胸に藍子を抱き寄せていた。
それでも藍子は泣く事はなかったけれど。
ただ、身体の震えけは、どうしても伝わってきて。
今はきっと、それでいいと思う。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「楓さん」
「何、智絵里ちゃん」
その部屋には楓を探して見つけて、傍で泣いている美羽。
何で泣いているか、解らず困ったように美羽を見ていた楓。
そして、その楓を見据えていている智絵里が居た。
智絵里は、藍子と夕美が悲しい別れをしたのを、何となく理解できた。
それは、余りにも哀しくて。
哀しみで終らしていいものなんて、やっぱり何処にもないと智絵里は思う。
だから、知る必要があるんだと思う。
「貴方は知らなきゃ、やっぱりダメです」
「何を?」
彼女が、終らせたかもしれない命の事を。
哀しみに先にあるものの為に。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
相葉夕美は、ただ泣いていた。
泣いて。
泣いて。
それだけだった。
何もない、涙だけがずっと流れていて。
そして、忘れようもない思い出がずっと傍にあって。
声を上げて、泣く事しか出来なかった。
そんな彼女を、沢山の星を見つめいていた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
そして。
『なにものでもない少女』が屋上から、星を見ていた。
だんだん、明るくなってきて星が見えなくなっていく。
そして、押し寄せる哀しみに必死に耐えていて。
フェンスに、身体を押し付けていて。
やがて、その身体ごと、膝から崩れ落ちて行く。
両手はフェンスを握り締めながら。
ただ、もう、立てなくなって。
ずっと、ずっと身体を震わしていた。
そして、
『なにものでない少女』はそれでも、涙を流す事ができなかった。
――いつでも側にいること、普通に感じていたけど、もっと大事にしよう 夢見て笑っていよう 失いたくない
【G-5・警察署 / 二日目 黎明】
【高森藍子】
【装備:少年軟式用木製バット、和服、ブリッツェン】
【所持品:基本支給品一式×2、CDプレイヤー(大量の電池付き)】
【状態:健康】
【思考・行動】
基本方針:殺し合いを止めて、皆が『アイドル』でいられるようにする。
0:??????
1:?????
2:自分自身の為にも、愛梨ちゃんを止める。もし、“悪役”だとしても。
【小日向美穂】
【装備:クリスマス用衣装】
【所持品:基本支給品一式×1、草刈鎌】
【状態:健康】
【思考・行動】
基本方針:恋する少女として、そして『アイドル』として、自分の弱さを、大切にしながら、それでもなお強く生きる。
0:藍子ちゃんの理解して、傍にいよう。
1:美羽ちゃんの友人になれるようがんばろう。
2:歌鈴ちゃんの想いをプロデューサーさんまで届ける。
3:ネネちゃんにした事を絶対忘れない。
※装備していた防護メット、防刃ベストは雨に濡れた都合で脱ぎ捨てました。(警察署内にあります)
【栗原ネネ】
【装備:なし】
【所持品:基本支給品一式×1、携帯電話】
【状態:憔悴】
【思考・行動】
基本方針:輝くものはいつもここに 私のなかに見つけられたから。
1:未来を見据え生き抜くことを目標とし、選び続ける。
2:美穂を許したことにする。
※毒を飲みましたが、治療により当座の危機は脱しました。
※1日~数日の間を置いて、改めて容体が悪化する可能性が十分にあります。
【
川島瑞樹】
【装備:H&K P11水中ピストル(5/5)、婦警の制服】
【所持品:基本支給品一式×1、電動車椅子】
【状態:疲労、わき腹を弾丸が貫通・大量出血(手当済み)】
【思考・行動】
基本方針:プロデューサーを助けて島を脱出する。
0:本当大変ね……
1:友紀ちゃんのことが心配。
2:夜が明けたら漁港へと使える船があるか確認しに行く?
3:お酒、ダメ。ゼッタイ。
4:ちひろはなにを考えて……?
【
大石泉】
【装備:なし】
【所持品:基本支給品一式x1、音楽CD『S(mile)ING!』、爆弾や医学に関する本x数冊ずつ、RPG-7、RPG-7の予備弾頭x1】
【状態:睡眠中、右足の膝より下に擦過傷(応急手当済み)】
【思考・行動】
基本方針:プロデューサーを助け親友らの下へ帰る。脱出計画をなるべく前倒しにして進める。
0:私だって……
1:首輪解除の準備を始めたいけど……?
2:医学書を読んでできることがあれば栗原ネネにできるだけの治療や対処を行う。
3:夜が明けたら、漁港へと川島さんを派遣して使える船があるか見てきてもらう?
4:放送待って、茜の安否を核に。 友紀が心配。
5:学校を再調査する。
6:緊急病院にいる面々が合流してくるのを待つ。また、凛に話を聞いたものが来れば受け入れる。
7:“悪役”、すでに殺しあいにのっているアイドルには注意する。
8:依然として行方の知れないかな子のことが気になる。
【
緒方智絵里】
【装備:アイスピック ニューナンブM60(4/5) ピンクの傘】
【所持品:基本支給品一式×1(水が欠けてる)、ストロベリー・ボム×16】
【状態:健康】
【思考・行動】
基本方針:心に温かい太陽を、ヒーローのように、哀しい夢を断ち切り、皆に応援される幸せな夢に。
0:貴方は知らなきゃダメです。
1:他のアイドルと出会い、『夢』を形にしていく。
2:大好きな人を、ハッピーエンドに連れて行く。
3:
姫川友紀を止める。 その為に姫川友紀のことを聞く。
【
高垣楓】
【装備:仕込みステッキ、ワルサーP38(6/8)、ミニパト】
【所持品:基本支給品一式×2、サーモスコープ、黒煙手榴弾x2、バナナ4房】
【状態:健康】
【思考・行動】
基本方針:アイドルとして、生きる。生き抜く。
0:?????????
1:まゆちゃんの想いを伝えるために生き残る。
2:お酒は生きて帰ってから?
【
矢口美羽】
【装備:鉄パイプ】
【所持品:基本支給品一式、ペットボトル入りしびれ薬、タウルス レイジングブル(1/6)、歌鈴の巫女装束】
【状態:健康】
【思考・行動】
基本方針:??????
0:???????
【G-7 大きい方の島/二日目 早朝】
【相葉夕美】
【装備:ライフジャケット】
【所持品:基本支給品一式、双眼鏡、ゴムボート、空気ポンプ、オールx2本
支給品の食料(乾パン一袋、金平糖少量、とりめしの缶詰(大)、缶切り、箸、水のボトル500ml.x3本(少量消費))
固形燃料(微量消費)、マッチ4本、水のボトル2l.x1本、
救命バック(救急箱、包帯、絆創膏、消毒液、針と糸、ビタミンなどサプリメント各種、胃腸薬や熱さましなどの薬)
釣竿、釣り用の餌、自作したナイフっぽいもの、ビニール、傘の骨、ブリキのバケツ(焚き火)、アカガイ(まだまだある?)】
【状態:慟哭、『絶望(?)』】
【思考・行動】
基本方針:????????????????????????
0:??????????????????????????
最終更新:2015年03月09日 21:22