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119話 死の魅力と生きる苦痛/か弱き戦力

「氷川様……傷の具合と疲労の程は如何でしょうか?」
「大分良くなってきた。こうして落ち着けるのもお前の護衛あってこそだ。
実に頼もしい限りだよサマエル……」
氷川は表情を少し和らげながらサマエルの功労を労い、悪魔は主の言葉を素直に喜んだ。
先の戦闘での負傷とスクカジャの反動による疲労も全快へと至った。
しかし氷川は時計に目を通し顔にしわを寄せ顔を歪ませる。
スクカジャの反動が沈静するのに大幅な時間を要した為に現在11時半、
つまり彼の狩りの許された残り時間は30分しかないのだ。

「全くなんという勿体無き事だ……しかし致し方あるまい。いや寧ろ良かった方だ。
あれだけ荒稼ぎをしてた最中にデカジャを使う悪魔も見当たらなかったしな。」
最初の悪魔を始末した後、氷川は余り遠くへは行かず魔女等の場所に通じる会談付近で
悪魔の探索、及び狩りに勤しんでいた。万が一の事態にオセの待機するロビーへの逃走経路から遠ざからない為だ。
その行為を繰り返す内にMAGも溜まり、サマエルを召喚してからは奥の方へと向かった。
それが調子に乗ってしまったのか強力な戦力に頼る安心感から慎重さに欠いた行動を起こしていた。
その結果として腕の負傷を犯してしまったのだろう。退き所を見誤ったのだ。

「氷川様、先程の貴方様は以前の姿勢と大幅に異なっております。嘗ての冷静さと慎重さはどうしたのです?」
サマエルが不安と心配を交えて氷川に発する。まさか主がそこらにいる凡人に成り下がったのか。
悪魔の脳裏に良からぬ想像を抱く。あれほど優れた主の落ちた姿など見たくもない。
「フフフ……私も自分がどうしたのかよくわからんのだよ。
オセの前で嘗て失った信念を取り戻し、以前の私に帰った……気がしていたんだが……ね。」
氷川は苦笑を浮かべながらサマエルに語りだす。信念こそ取り戻したものの、まだ自身の完全ではないのだと。
全くといって良いほどに思いあたりが・・・そう言えば人修羅に敗れた時にあったあの気分、感覚、感情・・・

人修羅に敗れた時、その空間は静けさに包まれた。それは自身の死を迎えにきた、静寂の理念とは似て非なる虚無。
彼はあろうことか偽りの静寂に安らぎを覚えていたのだ。静寂に似た虚無……死の魅力に……
敗北した氷川に理想達成への可能性は潰え、当初の理想さえ尽き果てその心は自暴自棄と化していた。
その弱った心に付け込まれ、彼は選択したのだ。虚無という死の安息を。
終わりゆく中、彼は思った。ああ、遂に来たのだ 静寂が
偽りなれど満たされてしまった、我が心に……

シジマの世界は個を無くした世界。故に自分の才能、能力、信念、性格は無用の長物。
氷川は新世界創造の到来と共に今までの自身を捨てたかったのだ。
不毛の歴史の世界で汚れ、歪み、疲れ果てた自分を。
虚無に包まれた時、彼は今までの自分を形作った全てを失い、ただの人となったのだ。

「フフフ……よもや虚無に抱かれ、その幻想に踊らされ、嘗ての私を忘れるとは愚かな己だ。」
自分を非難しフウ、とため息をつく。
「完全な私を取り戻すには、敵を切り裂き血で汚れ続けた果ての錆びた剣の様にならなくては・・・
……生きる苦痛をこの身に再び染み込ませねば・・・な。」
氷川の顔に影が落ちた。

再度決意を固め、控え室を出ていった。
「あと25分ほどか……あと10分程度は狩りを続けよう。」
「氷川様……ご無理はなさらずに……」
「分かっている。もうなるべく無理はしないでおくよ。」
先程の結果を再現させぬ為にも氷川は自分の負傷していた腕を見つめ戒めた。

「氷川様……! 前方より何かが来ます!」
「早速か。戒めを忘れずに戦えるといいものだな。」
お互い構えを強め、到来する敵を待ち受けた。が、彼らの目にしたものは……

「死ネ! 死ネ死ネ死ネ! ゾジデソド死肉ヲオデニ提供ォォォォォ!」
「早くしなさい! 食われるわよ!」
「アンタみたいなイケてないヤツになんか食われませんヨーだ!」
マッドガッサーに追われるピクシーとカハクが必死こいて逃げている。
余りの必死さとマッドガッサーの方に顔を向けてるため、我々の存在に気づいてないようだ。
……こちらに気づいた様だ。ピクシー、カハクは驚いた表情で荒げた口調で喋り出す。
「ギャーさっきのものっそ強人間! 殺されるゥゥゥー!
「挟み撃ち……私の生涯……終わった……」
彼女達は腰が抜けたのかヘナヘナと地にへたり込み泣き出した。

「サマエル……やれ」
サマエルは氷川の指示を受けた瞬間、体を回転させながら突進してゆき
マッドガッサーの胴体を一瞬でバラバラにした。氷川はその残骸に近づきMAGの回収を終えると
足元にいる悪魔達に目をむけた。彼女等は酷く怯えていっそう泣き出した。
「ワーン私達この人に殺されるんだわ!」
「酷いわ!こんな終わり方なんて理不尽よアーン!」
……五月蝿い……幼女は五月蝿くて敵わないな。
どうしてこんなのを可愛いと思えるのだろうか。弱くて我侭で五月蝿いこれが……
氷川は素直にこう思った。取り敢えず泣き止ます必要があるので私はこう言ってやった。

「……私は君達の命を消すつもりはないんだよ。だから泣き止んでくれないかな?」
その一言に悪魔達の震えは止まり、涙一杯の顔も少しはみれるものになった。
「え? 殺さないの?」
「ああ殺さんよ。それよりもどうだね? 私の仲魔になってみないか?」
自分達を殺そうとしてた―一方的な思い違いだが――人物の申し出に暫く黙った。
そうすると男は話を進めてきた。サマエルが横で驚愕している。
「私はね。今、とっても困っているんだ。情報もないし戦力も少ないし手持ちも余り豊かとは言えない。
だから私は君達が何を知ってるのか知りたいんだよ。しかしここでそれを聞く時間もないのだ。
そこで私の仲魔になって話を聞かせてはくれないだろうか?」

ピクシー、カハクなどと低級な悪魔を使役する!? 氷川様が!?
あの氷川様がこんな雑魚悪魔を使役する!? 使役……使役……使役……
頭の中でパニックを起こすサマエル。幾ら情報と戦力が欲しいとは言え
あの氷川がカハクやピクシーを使役する光景が衝撃的だった。
想像さえもしたことのないサマエルには無理からぬことである。
そんなサマエルの心情とは無縁に彼女等は自分の意見を言い出した。

「うん!いいわ! なってあーげる♪ 命も助けて貰ったからタダでなったげる!」
「アタシもさんせーい! あんたイケてるし強いから文句なしよ。こっちからお願いしたいくらいだもの!」
「そうか……ありがとう。感謝するよ。」
氷川がお礼の言葉を言う。サマエル、ますます唖然、呆然に尽くす。
「どうしたサマエル? 行くぞ。そろそろ彼女達と会う時間だ。」
「ハッ!お待ちください氷川様!」

【氷川(真・女神転生Ⅲ-nocturne)】
状態:正常
装備:オセの魔剣 鉄骨の防具
所持品:死肉を詰めたビン×7 古めの腕時計 傷薬×10 魔石×3 4000MAG 
仲魔: 邪神サマエル 地霊カハク 妖精ピクシー

現在地:スマルTV二階通路
行動方針:魔女と合流

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最終更新:2009年02月14日 22:56