121話 『覚悟』ノススメ
男が前に出る。舞耶がその前に立ちふさがる。その動きは読めていたので、ネミッサは隙を衝いて側面に回ってやろうと
思っていた。腹部の銃創が痛むため素早い動きはできないが、今の自分の役割は実際に戦うことではなく、とにかく相手が
困る位置に立って牽制することだから、それが特に支障になることはないだろう。
そう思い、半歩左に動こうとして……左肩を誰かに抑えられた。驚き振り返ると、たまきの隣にいたスーツ姿の女だった。
「代わって」
とだけその女は言った。その一方的な言い分に、直情径行タイプのネミッサはイラッと来たが、その女の目がとても強く、
しかし静かに輝いているのを見て、反論を控える。
「たまきちゃん、まだ息がある」
ネミッサの反応も待たず、女は早口で一方的に続けた。その逼迫した口調だけで、ネミッサは女がなにを言いたいのかを
理解した。まだ間に合うのだ。だが、もうすぐ間に合わなくなってしまう。
「わかった」
とネミッサはいともあっさり承諾した。肩に置かれた掌を通して、この女のソウルの鼓動が感じられる。とても暖かくて、
ゆっくりと落ち着いた鼓動。悪人がこんな優しいソウルを持っているはずがない。そう思った。
それに、自分は後ろから魔法を撃って相手を足止めするほうがやりなれている。腹の傷もあり、前衛に出るよりはむしろ
後ろに回ったほうが戦力として役に立てるだろう。この配置はちょうどいいように思えた。
スーツの女と入れ替わる形で、後ろに回った。入れ替わりの隙を衝かれるかも、と前方を警戒するが、男と舞耶は何かに
気を取られているようで、その心配は必要なかった。
「ディアラハン!」
黒焦げたたまきに近寄り、無造作に、かつ全力で回復魔法を放つ。息など確認しなかった。脈の取り方など知らないし、
うだうだやっていて手遅れになっては意味がない。
「……リカーム!」
続けて別系統の回復魔法を放つ。悪魔の肉体から魂を、魂から肉体を相互再構築する高度な回復魔法。その効果はまるで
蘇生の秘術であるかのような強力な回復効果を備える。人間に使ったことはないから効果があるかは不明だが、考えている
ヒマがあるならその間にとっとと動くのがネミッサのやり方だ。
「生きてんなら治りなさいよぉ! ……ディアラハぁンッ!」
怒りに似た、しかしそれとは根底から異なる感情から抗議の声を上げつつ、ネミッサは三度魔力を放つ。今までも加減は
していなかったが、今回はそれに輪をかけた、正真正銘、全身全霊、全力最大の回復魔法だ。
「もう一度ぉ……ッ」
密着せずに放つと魔法の効力が微妙ではあるが落ちる。それがまずかったか、と思い、たまきの焦げた皮膚に手を当てる。
焼けた肉はもはや生の張りを失っており、うかつに触れればその傷を広げることになりかねないので躊躇していたのだが、
そんなことも言っていられない。
「……リカぁームッ!」
放った。掌に伝わるかさりとした皮膚の感触。そこにはもうソウルの波長は伝わってこなかったが、それでもネミッサは
気にせず魔法を繰り返した。ソウルを感じないのは、この子が弱まっているせい、皮膚が死んでいて波を伝えないせいだ。
それだけだ。それだけに違いないはずなんだ。
「ディアラハぁあンッ!」
額に噴出す汗も、再び開いたわき腹の傷からの血も気にせずに、ネミッサは何度目かになる回復魔法を放った。
からん、という小さな音。ただの何の変哲もない、金属がコンクリートに落ちて跳ねる音。
しかし達哉には、その音の正体は瞬時に分かった。分かりたくなかったが、分かってしまった。
――見るな!
自分の心に叱咤するが、しかし身体は命令に逆らい、その発生源へと目を移す。見慣れた、しかし決して見飽きることの
ない、いや、そもそもそういう価値判断の俎上に上がることすらない、達哉の大切な思い出の鍵……。
――迷うな、揺らぐな!
再び心を叱咤する。今度は身体も言うことを聞いた。失ったのは、ほんの一瞬で済んだ。その一瞬で一人取り逃がしたが、
それは大した問題ではない。
「来いッ!」
達哉は己の"仮面"を呼び出す。対応して正面の舞耶も動こうとするが、自分よりも一瞬長く晒した隙はあまりに大きい。
「おおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉ!」
炎を、無造作に側面へと放つ。小ざかしくも側面に回りこんでいたスーツの女の真正面。仮面とは、複数面性の象徴だ。
それを操るペルソナ使いとして戦いの経験を積んできている自分にとって、通常は有効な戦術であろう側面攻撃もさほどの
効果はなさない。常に複数に目を配れるのはペルソナ使いの大きな利点のひとつだ。
「くッ!」
女が地を蹴り火球を回避する。読まれていたか、と達哉は心の中で舌打ちした。正面にいる舞耶を攻撃すると見せかけた
つもりではあったのだが、さきほどまでのやり取りから、舞耶を撃つはずがないことがバレているのかもしれない。
ならば、正面からやりあうだけだ。相手が体勢を立て直す前に仕掛ける。思ったが、達哉が身体を回して身構えたときは
女はすでに両方の足でしっかりと立って構えを取っていた。その素早さ、素人ではない、と達哉は瞬時に判断した。
「はあッ!」
再度、気合を放つ。己の半身、アポロが、両手を交差し、両掌に火柱をあげる。広範囲火炎魔法の予備動作だ。スーツの
女もそれと察知し、その範囲を回避しつつ達哉の側面に回りこむために、斜めに踏み込んできた。
「遅いッ!」
達哉が、跳んだ。アポロの炎は囮。相応の使い手であろう相手の行動を、自分の狙い通りに操作するための布石だった。
達哉はただの高校生ではあったが、その中でも優れた部類に入る運動神経の持ち主である。それに加え、太陽神の仮面から
力の加護を得ている。その動きは一流の格闘家にも劣らぬものと言ってよかった。
大振りの蹴り。素人丸出しの、基本のなっていないめちゃくちゃな蹴り。しかし、強靭な肉体から放たれるそれは、その
移動する経路を完全に読みきっていたことも加わり、スーツの女のわき腹に的確に命中する……はずだった。
「グラダインッ!」
側面からの声。同時に、全身に強烈な衝撃がかかり、押しつぶされるような感覚に襲われる。片足で体重を支えることが
できず、蹴り足は無残に地面に落ちた。
「はッ!」
スーツの女が、掌で突きを放ってくる。達哉の力任せな動きと違い、きちんと拳法を学んだことが分かる、美しい動きだ。
炎を放たず素早く引っ込めておいたアポロで防御し、ぎりぎりで受けることに成功する。流すのではなく、あえて正面から
受けた。その衝撃も利用して、数歩後ろへ下がり、間合いを広げる。対処できなくはないとはいえ、二方向から攻撃を受け
続けるのはさすがに厳しい。スーツの女と舞耶とを、正面に見る形に構えた。
「……舞耶姉」
「もうやめて達哉君」
かけた声は、冷たく遮られた。ペルソナ・アルテミスが掌をこちらに向け、その後ろで舞耶がこちらを見据えていた。
その目を、達哉は見ることができなかった。
アルテミスが戸惑っている。舞耶にはそれがはっきりと分かったが、どうすることもできなかった。戸惑っているのは、
舞耶も同じだった。
「もうやめて達哉君」
舞耶は言った。もう撃ちたくない、という意味を籠めたつもりだった。達哉は、強い。さきほどの重力系魔法はかなり
強く撃ったつもりだったのに、一瞬の足止めにしかならなかった。次に来られたら、本気で撃つしかない。
本気で? と舞耶は自分の心の声に疑問を呈す。アルテミスの本領は氷結魔法で、それは達哉のアポロの弱点でもある。
いかなペルソナ使いとはいえ、弱点をつかれてはひとたまりもないものだ。それを本気で撃つということは、つまり……
「くくく……」
と達哉が顔を伏せて笑い出す。先ほどと同じ、狂気に満ちた笑いだった。それを聞いて、舞耶は絶望にも似た悲しみに
襲われる。これがあの達哉なのか。あの無口で無表情で、だがその内心では熱い心に満ち溢れていた達哉が、こんな冷たい
笑い方をするなど、目の前で見ている今でもとても信じられない。
撃つしかないのか。舞耶は歯噛みする。だが、自分は撃てるのか。守りたいものはいくつもあった。後ろにいるたまきや
ネミッサやタヱ、たまきの仲間と思われる女性……そして目の前にいる、強く、それゆえに傷つきやすい少年……達哉自身。
その達哉を、いま最も救いを必要としている大事な仲間を、自分は撃てるのか。舞耶にはまったく自信がなかった。
「ははははははは……」
達哉の笑い声のトーンが変わった。それを聞いて舞耶は軽いデジャヴに襲われる。前にもこういうことがあった。達哉の
姿形をしている、しかし明らかに達哉とは異なる"影"との戦い。ひょっとして今、目の前にいる達哉も"影"なのでは……?
そこまで考えて、舞耶は軽く首を振って自分の甘い考えを追い払った。現実から目を背けてはいけない。あれは達哉だ、
正真正銘本物の達哉だ。根拠などないが、それは真実だと自分の心が言っている。それを信じずして何を信じるのか。
「やめてどうなるんだ」
と達哉がうなるようにつぶやく。このような冷たく悲しい声は初めて聞いたように思った。
「俺の手は汚れてるんだよ、舞耶姉……もう退けない、もう遅いんだ」
遅くなんかない。言おうと思ったが、その声は舞耶の喉の奥で凍りついた。達哉から感じる共鳴が、強く、ますます強く
なっていく。それは悲しく突き放すような、後悔と諦めに彩られた悲壮な決意の漂う共鳴だった。
「……達哉くん……あなた、たまきちゃんの前に……誰か……?」
おずおずと、舞耶は聞いた。達哉をより頑なにしてしまうかもしれないと思ったが、聞かずにはいられなかった。
「……1人……さっきのように」
「……!」
達哉が答え、それを聞いた一同が絶句する。言葉数は足りなかったが、そこに補うべき単語は全員よく分かっていた。
「だから、もう遅いんだ」
すっ、と、音もなく達哉の分身が現れる。静かな、しかし先ほどまでよりもはるかに強烈な殺気が、舞耶の全身を打った。
「赦してくれなくていい、恨んでくれてもかまわない、俺は、ただ――」
アポロの両の掌に再び火柱が上がる。その火勢はどんどんと強くなっていき、離れているというのに熱風が肌を焼いた。
達哉は、撃つ気だ。舞耶はそう直感した。迷いのない一撃が来る。迷いながらでは絶対に止められない、本気の一撃。
「達哉くん!」
叫ぶように名を呼びながら、アルテミスの両手を前に突き出す。撃つなら今しかない。撃たれる前に撃つしか止める手は
ない。頭では分かっていたが、しかしどうしても決断することができなかった。
達哉を、撃たねばならないのか。達哉を、救うことはできないのか。達哉を止めるには……殺すしか、ないのか。
「やめなさい!」
もう一度、舞耶は叫んだ。
なにも事情を知らなければ、「早く撃て」とせかすこともできたのだろうが、断片的とはいえ話を聞いていたレイには
さすがにそんな無責任な真似はできなかった。キョウジなら……今のキョウジではなくて本物のほうのキョウジなら……
『オレ様には関係ないことだ』とでも言って、有無を言わさず必殺のシャッフラーコンボでもぶちかますのだろうけれど、
レイにはそんなことはできない。今は魔法が使えないし、使えてもやりたいとは思わない。
「やめなさい!」
と舞耶(というらしい女)が叫んだ。怒りより悲しみに満ちた、悲痛な叫びだった。
「舞耶姉」
達哉(というらしい男)は舞耶の言葉を軽く返した。親愛の情に満ち満ちた暖かい声は、拒否の言葉だった。
「……生き延びてくれ」
ボッ、と空気を焼き裂く音と共に、達哉の前の力を持つ幻影が動いた。自分の神卸のときに現れる霊質にも似ていたが、
少し違う。もちろん、悪魔とも異なる。その中間というか……とにかく、強力な力を持っているなにかであるは確かだ。
レイは冷静にそこまで判断し、迎撃すべく構えた。存在自体は未知の物とはいえ、使ってくる技は既知の魔法と体術だ。
それがただ自分だけを狙って突き進んでくるならば、いくらでもさばけるし、かいくぐれる。
しかし、達哉の動きはレイの予想とは違ったものだった。
「アギダインッッ!」
赤い幻影が、両掌に掲げた火炎を一点に収縮し、そのまま放った。その向かう先は、なんと舞耶だ。生き延びるように
呼びかけた直後に、巨大でしかも不可避的な速度の火球を放つなど、レイの常識の範疇にはまったく存在しない行動だ。
よほど気まぐれで愚かな悪魔でもそんなことはしないだろう。まったくの虚を衝かれたレイは思わず足を止めて、舞耶の
方を見てしまう。その目の前で、巨大な火炎が舞耶を飲み込まんと突き進み……パキィン、と軽快な音とともに、四角い
光の壁が舞耶の…いや、彼女の背後に立つ青い幻影の前に現れる。火球はその壁に突き刺さり、そしてそのままあっさり
力の矛先を変える。その行く先は、レイのいる方向だった。
魔法反射。舞耶に憑いているあの幻影には、その性質があるのだ。少年はそれを知っていたから、あえて舞耶を撃った。
無知な自分の度肝を抜いて、こうやって足止めをして、そして反射してきた火炎を食らわせるために。レイはそのことに
ようやく気づいたが、あまりに遅かった。足は完全に止まってしまっているし、反射されたアギダインは目の前だった。
回避は間に合わない。両腕に力を籠め、顔の前で交差させた。魔封状態にされているとはいえ、体内の魔力操作までは
封じられてはいない。魔力を集中し、身構える。しかし、耐えられる自信はなかった。
「……クレセントミラー!!」
火炎のうなりの向こうから、透き通るような叫び声が聞こえた。自分を押し包もうとしていた炎が聖なる光に散らされ、
力を失っていく。強烈な光は自分を包みはしたが傷つけることはなかった。光の発生源は言うまでもなく、舞耶の後ろに
控えた青い幻影だった。発光源を背にした舞耶は、まるで聖母のように後光が差して見えた。
それに見惚れる自分を叱咤し、慌てて男のほうを向きなおす。そこにはもう、誰もいなかった。
目の前から達哉が消えた。そのことに少し安堵している自分に、舞耶は嫌悪感を抱いた。
問題はなにひとつ解決してなどいないのに、ただ自分の前から消え去ってくれただけで、なんとなく楽になったような
気がしている。しかしそれは責任逃れ以外の何者でもないのだ。
自分には覚悟が足りない、と舞耶はつくづく思う。達哉を撃つ覚悟もなかった。自分が前に出て傷つく覚悟もなかった。
助っ人の女性を見捨てる覚悟もなかった。どれかひとつでもやっていれば、達哉をこうもあっさり逃がすことはなかった
だろう。達哉を本当に止めたいならば、覚悟を決めるべきだったのに、自分はそれができなかった。
しかし、その達哉にはゆるぎない覚悟がある。この空間は攻撃が強く、防御や回復が弱くなるように調整されている。
達哉のことだから、とうにそのことに気づいているはずだ。とするならば、アルテミスの魔法反射の性質も弱体化されて
いてもおかしくなかった。つまり場合によっては、あのアギダインは舞耶を黒焦げの死体に変えかねない行動だったのだ。
それでも撃った。達哉にはそれだけの覚悟があったということだ。
舞耶はそっと、達哉が忘れていった落し物を拾い上げた。コンクリートの上で跳ねたせいで角に少しだけ欠けができて
しまっているが、それ以外には傷ひとつなく、汚れもくすみもない。舞耶にはジッポの鑑定眼はないが、表面がムラなく
きれいに飴色に変色しているのは、そうとう大切に手入れされて使い込まれているからだというぐらいは分かった。
そんな大切なものであっても、拾う時間惜しさに捨てなければならない。達哉はそういう道を歩んでいるのだ。
(達哉くん……なんで、あなたはいつもそんな哀しい道ばかりを)
舞耶はジッポを、それが達哉であるかのように抱きしめる。そうすると、ジッポにはまだ達哉のぬくもりが残っている
ような気がして……そして同時に、それが達哉が捨てていった最後のぬくもりのような気がして……舞耶はただただ強く、
ジッポを抱きしめることしか、できなかった。
「たまきちゃん!」
「ネミッサさん!」
背後から二人分の声が響く。それを聞いて舞耶はハッと我に返った。急いで振り返る。タヱがいつの間にか戻ってきて、
先ほどのスーツの女性と一緒にしゃがみこんで、倒れている女性二人を介抱している。
自分はバカだ、と舞耶はまた歯噛みした。無力なタヱや、怪我人のネミッサやたまきの心配を真っ先にするべきだった
のに、すっかり忘れていた。彼女たちを守ると、自分は決めたではないか。誰も傷つけない戦いをすると、三人で決めた
ばかりではないか。
舞耶はジッポを見つめた。自分に足りないのは、覚悟。ならば、今ここでその覚悟を決めよう。そう思った。しかし、
達哉が決めたような、すべてを捨てる覚悟ではない。その逆だ。なにも捨てない覚悟だ。ネミッサも、タヱも、たまきも
その相棒も、他の参加者たちだって……もちろん、達哉のことだって、すべてを諦めない覚悟。
誓いの儀式代わりに握り締めると、じわりとジッポが熱を持ったような気がした。熾き火のような、優しく粘り強い熱。
舞耶は、ジッポをそっと胸ポケットに仕舞ってから、振り返って走り出した。
「……おい」
重かった沈黙を打ち破り、バンダナの少年が口を開いた。腹の底から漏れ出てくるような、苦しそうな声だった。
「なんだい?」
彼に肩を貸して歩いていた白いスーツの青年は、ほっとしたようにその声に答える。今まで何度か呼びかけていたのに
返事がなかったので、もう意識も持たないぐらいの重傷なのかと思っていたのである。実際のところは、喋ると痛むのと
あと単純にウザかったのですべて無視していただけで、少年の意識に別状はなかったのだが、だからと言って軽傷という
わけではない。いかな超人的身体能力を持つ少年とて、腹部に大口径拳銃で大穴を空けられて軽傷なわけがない。
「……夢崎区に行くって話だったろう。こっちだと戻ってねえか」
眼光鋭く、少年――宮本アキラが聞く。地図も見ていないし、周囲の景色もろくに確認していないはずなのに、ズバリ
言い当ててきた。素晴らしく正確な方向感覚に、青年――葛葉キョウジは少なからず驚いた。この少年は本当に何者なの
だろうか? 自分の方向感覚も、異界のワープ地獄で鍛えられているつもりだったが、それをはるかに越えている。
「ああ、確かにそうなる。この道は平坂区に引き返す道だよ」
キョウジはしっかりと目を見つめ返して答えた。やましいことは何もない。いままで何も言わずに独断で進んだのは、
この半死半生の少年に余計な負担をかけないようにするためである。
「なんかアテでもあンのか」
「ああ……いちおう、ね」
「……ンだそりゃ?」
アキラが怪訝な表情を浮かべる。額に巻かれたバンダナの影からギロリと見上げる目は威圧感抜群だ。
「さっき少し休んでる間に、このCOMPのマッピング機能をいじっていたんだ。情報を入力しようと思ってね」
とキョウジは説明を始めた。自分のほうが年上なのに、なんで怒られて言い訳をしているようになっているのだろう、
と少し疑問に思うと同時に情けなくなったが、そこはまあぐっとこらえることにする。
「そしたら、もう全部地図が入力済みだった。最初からだったのか、前の持ち主が入れたのかは分からないけど」
「ケッ、あの野郎がそんなマメなことするかよ」
アキラは不愉快そうに地面に唾を吐く。びちゃり、と地面に叩きつけられた液体には、赤いものが混じっていた。
「じゃ最初からだったんだろう。で、そのCOMPの地図を見ていたら、平坂区のカメヤ横丁に知ってる名前を見つけたのさ。
そこは拠点にもできるし、もしかしたら知り合いに出会えるかもしれない」
「ふん。なら確かなアテじゃねえか」
「ところが、こっちの支給品の紙の地図には載っていないんだよ。だから、『いちおう』なんだ」
「なるほどな。……ところで、その知り合いってのは……あいつか?」
とアキラが前を指差す。慌ててそっちを見ると、こちらに向かって歩いてくる人影がぼんやりと見えた。アキラは顔を
伏せたままだったはずなのに、あの遠い人影の気配を読んだのだろうか? まったく、恐ろしい少年だ。
しばらくそのまま進んだ。隠れようというキョウジの提案を、アキラが一蹴したからである。アキラが感じるところに
よれば、相手はアキラと同レベルかそれ以上の能力を持っているようだった。とするならば、向こう側もこちらの気配を
察知しているということになり、もう隠れるには遅いという判断によるものだった。
ようやくキョウジの目でもその人影が見分けられる距離になった。茶色の髪を正面で分け、赤いライダースーツに身を
包んだ、線の細い印象の少年。もともと色白なのだろうが、それにしても顔色がとても悪い。
「知らないな」
「だろうな。あの野郎、やる気だぜ」
アキラが言う。鈍いキョウジでもそれは分かった。全身からギラギラとしたオーラを放っている。「僕はこのゲームに
乗っています」と大声で言いながら歩いているようなものだ。もっと殺気を殺して、友好的な顔をしながら歩いていれば、
こちらの不意をつくこともできるだろうに。よほど自分の腕に自信があるのか、それともそういう悪知恵は得意ではない
タイプなのか。
どくん、と相手の殺気が跳ね上がるのを感じて、キョウジの足は思わず止まった。相手もそれに応じるように止まる。
西部劇の決闘のように、睨み合う形となった。
「……どこに行く?」
「平坂区に」
少年の冷たい声に気圧されて、キョウジはつい正直に答えてしまう。ヤクザや警察とも渡り合う私立探偵で、そのうえ
凄腕の悪魔召喚師で、並みの脅し文句でビビリ上がるようなヤワな精神はしていないはずなのに、少年の何気ない一言で
思わずビビッてしまっていることにキョウジは少なからず驚いた。威圧感があるわけでも、恐怖感を煽ってくるわけでも
ない。それなのに、ただなにか、ゾッとさせるようなものが目の前の少年から満ち溢れているのを感じる。それがなにか
よく分からないが、あえてなにかと呼ぶならば……「覚悟」だろうか。
「質問するなら、名前ぐらい名乗るのが礼儀だろうがよ」
バンダナで目元を隠しつつ睨み上げる、お決まりのスタイルでアキラが凄んだ。威圧するような気迫が周囲を包んだ。
「俺か? 俺は……」
少年が薄ら寒い微笑を浮かべながら応じる。アキラがわざと放った気迫を、対抗するでも受け流すでもなく、あっさり
無視した対応だった。
(交渉決裂、か)
キョウジは左手に嵌めたCOMPを軽く握りなおした。アキラも身構えているのがわかる。一触即発。ほんのささいなこと
でも、なにか引き金になるようなきっかけがあれば、もういつこの緊張が弾けてもおかしくない状態だった。
全身にイヤな汗が出てくる。背筋を汗が伝うのを感じた。……この少年、強い。キョウジは改めてそのことを確認する。
その瞬間、少年の殺気と魔力が跳ね上がるのを感じた。
「俺は、JOKERだ」
少年が発したその声が、引き金だった。
【時刻:午前11時】
【天野舞耶(ペルソナ2)】
状態:魔法使用と睡眠不足で疲労 脚の傷は回復
防具:百七捨八式鉄耳
道具:脇見の壷、食料品少し、胸ポケットにジッポ
現在地:平坂区・スマイル平坂付近の路上
基本行動方針:できるだけ仲間を集め脱出方法を見つけ、脱出する。
現在の目標:倒れているネミッサとたまきの治療
【ネミッサ(ソウルハッカーズ)】
状態:腹に銃撃を受け失血、無理して魔法を使ったため気絶
武器:MP‐444だったがタヱに貸し出し
道具:液化チッ素ボンベ、食料品少し
現在地:同上
基本行動指針:仲間を集めて、主催者を〆る。
ゲームに乗る気はないが、大切な人を守るためなら、対決も辞さない。
現在の目標:(たまきの治療)
【朝倉タヱ(葛葉ライドウ対超力兵団)】
状態:軽いPANICながら気丈に対応中
武器:MP‐444
道具:参加者の思い出の品々(ジッポは落とした) 傷薬 ディスストーン ディスポイズン、食料品少し
現在地:同上
基本行動方針:この街の惨状を報道し、外に伝える。 参加者に思い出の品を返す。
仲間と脱出を目指す。
現在の目標:ネミッサとたまきの介抱
【レイ・レイホウ(デビルサマナー)】
状態:CLOSE
武器:プラズマソード(手には持っていない)
道具:不明
現在地:同上
基本行動方針:CLOSE状態の回復、キョウジとの合流、仲間を探す
現在の目標:ネミッサとたまきの介抱
【内田たまき(真女神転生if…)】
状態:全身火傷、瀕死
武器:なし
道具:封魔管
現在地:同上
基本行動方針:身を守りつつ仲間を探す
【ピクシー(ザ・ヒーローの仲魔)】
状態:魔法使用により少し疲労
現在地:同上
基本行動方針:ヒーローの任務遂行。ヒーローのもとに戻る
【周防達哉(ペルソナ2罪)】
状態:脇腹負傷(出血は無し)、精神的に極めて不安定、連戦で疲労気味
武器:なし
道具:チューインソウル 宝玉
ペルソナ:アポロ
現在地:平坂区・夢崎区の境あたりの路上
行動方針:舞耶以外の参加者を手当たりしだい殺す
※たまきが死んだと思っています
【宮本明(真・女神転生if...) 】
状態:外傷は塞がっているが消耗大、ボロボロの服
装備:ヒノカグツチ(少し重い)、鍋の蓋、スターグローブ(電撃吸収)、無想正宗
アセイミナイフ×2、クラップK・K(残弾なし)、髑髏の稽古着(焼け焦げて使い物にならない)
道具:包丁×3、アルコールランプ、マッチ*2ケース、様々な化学薬品、薬箱一式 、
メリケンサック型COMP、傷薬2つ、デイスポイズン2つ、閃光の石版、MAG1716
行動方針:ハザマの殺害、たまきと合流しゲームの脱出、休息を取り体力回復
現在地:平坂区・夢崎区の境あたりの路上
仲魔:コボルト
備考:肉体のみ悪魔人間になる前
【葛葉キョウジ(真・女神転生 デビルサマナー) 】
状態:正常
装備:ピースメーカー
道具:魔石1個、ベスのバンダナ、基本支給品を余分に1セット、水・食料を余分に2セット
基本行動方針:レイと合流、ゲームの脱出、休息を取り明を回復させる
行動方針:平坂の葛葉探偵事務所を活動拠点にすべく移動中
現在地:同上
備考:中身はキョウジではなくデビサマ主人公です。
最終更新:2009年02月13日 05:19