その聖杯戦争で召喚されたサーヴァントは、
どういうわけか全員女性だった。
「だからね凛ちゃん、この改造計画でタロスはもっと強くなると思うの」
「却下」
「えー、どうして!?」
「まず第一に資金が足りない。
家の家計は厳しいのよ」
「そこをなんとか。
ね、お願い」
「無理」
「そんな~」
「第二に、あんたの言う改造計画って魔術以外にも機械を使うでしょ」
「そうだけど、それがどうしたの?」
「私…………機械オンチなのよ」
「へ? 嘘だよね? 私なんて召喚されてすぐにこの時代の機械の操作をマスターしたのに……」
「だぁー! うるさいうるさい!!
魔術師が機械を使いこなせるほうがおかしいのよ!!!」
「ぎゃ、逆ギレ?」
「だいたいそっちこそなによー!
ロボット召喚する
アーチャーなんて聞いたことないわよ!!」
「ちょっと凛ちゃん頼むから落ち着いてー!?」
タロス強化改造計画、早くも頓挫。
場所は遠坂邸から変わってバゼットの隠れ家。
「…………」
「マスター、元気出して。
裏切られたのは辛いけど、いつまでも落ち込んでいてもしょうがないって」
彼女は言峰の奇襲により
ランサーを失いつつも、新たに契約した
セイバーと共にここにいた。
「ボクだってイギリスとの戦争でさ」
「セイバー」
「(な、なにこの殺気)は、はい」
「あなたの宝具、私に使いなさい」
「イ、イエッサー」
バキッ、ドガッ、ズガッ!
隠れ家の庭には無数の巨大な岩石やコンクリート、はては廃車まである。
それらは乙女の百合旗によって強化されたバゼットの身体能力でいとも容易く破壊されてゆく。
ドゴォッン!!!
最後に一番頑丈そうな廃車を木端微塵に粉砕し、バゼットはその場に静かに佇む。
「マ、マスター?」
「憧れの
クー・フーリンは召喚できなかったし、代わりに召喚出来た
ブリュンヒルドは奪われるし」
「バゼットさーん? もしもーし?」
「見てなさい言峰綺礼! 私を五体満足で生かしておいた事、後悔させてあげましょう!
新たな力を手に入れた今、この私を止めることはもはや不可能!
例え相手がどんなサーヴァントでも打倒して見せましょう!
ウフフフフフフフフ……アーハッハッハッハッ!!!」
「マ、マスターが壊れちゃったよう~~(泣)」
「ふむ、バゼットは新しいサーヴァントと契約を結んだか。
やはりあの時確実な方法で殺しておくべきだったか……?
ご苦労だったな、下がれ」
「……はい」
「ふむ……しかし皮肉なものだな。
サーヴァントになっても裏切りの輪廻からは逃れられんか」
「そうさせたのは貴方でしょう!」
「嫌ならすぐに自決すればよいだけの話だ。
シグルドの真相を知った後、自らの命を絶った時と同じように」
「くっ!」
「まあいい、お前は引き続き情報収集にあたれ」
暗闇に包まれた教会で、戦乙女は神へと懺悔する。
「ごめんなさい……マスター・バゼット。
そしてシグルド……こんな私を許して……」
一方マキリの地下室、じめじめとした中、二人の会話が聞こえてくる。
「……という風に昔は売春婦は神聖な職業だったのよ。
今でこそ私も大淫婦なんて呼ばれてるけど、それはキリスト教が勝手に決めたものだわ。
だからね桜ちゃん、貴女はどこも汚くなんてないの。
貴女は他人の苦しみ、痛みを誰よりも理解してあげられる優しい子よ。
そんな子が穢れてるわけなんてないじゃない」
「でも……」
「それとも貴女の想い人は、正義の味方を目指してるのに、そんなに心の狭い人なの?」
「ち、違います! 先輩はそんな人じゃありません!」
「じゃあ大丈夫ね。桜ちゃんこれまでずっと我慢してきたんだから、
これをきっかけに先輩やお姉さんに助けを求めたって、罰は当たらないわ」
「
ライダーさんは……どうしてそんなに私を気にかけてくれるんですか?」
「私はただやりたい事をやっているだけ。
貴女を助けたいと思ったのも、己の欲望に従った結果でしかないわ。
セックスや贅沢と同じようにね。
それに貴女は……私と似てるなって感じがして、とても他人事とは思えなかったのよ。
まあ、することも決まったし後は行動あるのみね。
早速出かけましょう。
貴方達、留守は頼んだわよ」
「「イエッサー!! ライダー様!」」
「ありがとうライダーさん。
……でも兄さんと御爺様、魅了したままでいいんでしょうか?」
「まあ……今戻すと面倒な事になりそうだし、聖杯戦争が終わるまではあのままにしておきましょう」
「ところでライダーさん、いくら霊体化すればいいといっても、その、裸な格好は……」
「あ~~桜ちゃん、何か着るもの貸してくれる?」
「も~いいか~い?」
「ま~だだよ」
「ま~だだよ」
「も~いいか~い?」
「も~いい~よ」
「も~いい~よ」
「もしもし、私メリーさん、今、イリヤの後ろにいるの」
「って、もう見つかったーー!?」
「あはは、あなたのお友達もすぐに見つけてあげるから♪」
「はあ、はあ、はあ、もお~
メリーはどこに行ったのよぉ。
気配遮断にあの宝具、かくれんぼじゃ無敵じゃない。
次は絶対別の遊びにしてやるんだから」
アインツベルンの森。
ここで銀髪、金髪、黒髪の三人の少女が楽しく遊んでいた。
今やっている遊びはかくれんぼだが、メリーと呼ばれた少女が勝ち続けているようだ。
そんな楽しい時間もあっという間に過ぎ、空は赤くなろうとしている。
「あ、もうこんな時間、帰らなきゃ」
「ざんねん、もっとあそびたい」
「こら、我慢しなさい。
また明日遊べるでしょ?
じゃあメリーまた明日ね、今度はケーキとお茶を用意して待ってるから」
「うん、バイバイ」
「よかったのイリヤ?」
「何が?
バーサーカー」
「あのこ、サーヴァントだった。なのにともだちになった。どうして?」
「そんなのわかってるけど、敵意は感じられなかったから」
「でも、サーヴァントはやっつけないといけない」
「どの道貴女を召喚した時点で、御爺様は今回の聖杯戦争をほぼ諦めてるわ。
それでも私を送り込んだのは、次の聖杯戦争の為のデータ収集も兼ねてるんでしょうね……。
これまでの聖杯戦争でどのマスターも完全に制御するのは不可能だったバーサーカー。
そんな狂戦士を完全に制御してる、それだけでも参戦する価値ありと見たのよ。
それに貴女の真の姿を見て、万が一の可能性に賭けてみたくなったんでしょう。
勝てば聖杯が手に入り、負けてもし私が死んだら聖杯は誰の手にも渡らない
どっちに転んでも分のない勝負なのよ」
そう言ってイリヤは思い出す。
あの冬の山での出来事を。
召喚した当初、彼女はバーサーカーを罵倒した。
そのあまりの弱さゆえに。
狂化していながらもバーサーカーのステはあまりに低かった。
失望したのはアインツベルンだけでなくイリヤも同じだった。
彼女はこれまで切嗣への憎しみを糧に生きていた。
今回の聖杯戦争はその憎しみを晴らす絶好の機会だった。
最強のバーサーカーを召喚し、その力をもって衛宮を潰す筈だった。
それでも切嗣の土産、バーサーカー召喚の触媒ともなったそれを肌身離さず持っていたのは、
心のどこかで父親を強く求めていたからかもしれない。
結果として召喚されたのは、見た目年端もいかぬ少女。
故に彼女はバーサーカーとして召喚された少女に辛く当たった。
それでも少女はイリヤを慕ってくれた。
ある日、つきまとう少女に嫌気がさしたイリヤは、猛吹雪の外へと飛び出し、
たちまち狼の群れに囲まれてしまう。
死を覚悟した時、助けに来たのは突き放したはずのサーヴァント。
少女は友達を助ける為に真の姿を晒す。
狼の群れが殲滅されるのにかかった時間は一瞬だった。
その姿は正に鬼そのもの、狂戦士に相応しい姿。
しかしイリヤは恐れない。
自分を助けてくれたバーサーカーに近寄り、ゆっくりと手を伸ばす。
「バーサーカーは、強いね。
それから……助けてくれてありがとう」
その言葉に鬼は狂化していながらも、笑顔で応えてくれた。
この時二人は、かけがえのない親友になった。
「ん~~~よくわかんない」
「まあ、狂化してるから複雑な思考は難しいんだし、あんまり考えなくてもいいわ」
「うん」
「お嬢様~~~」
「あ、イリヤ。メイドさんよんでる」
「じゃ、そろそろ帰りましょうか」
「おなかすいた。ごはんごはん」
「まったく、はしたないわよ。仮にもレディーでしょ?」
「でも、ほんとのこと」
「そうね……ほんとのこと言うとね、私も一日中遊び続けてお腹ペコペコなの」
「じゃあたくさんたべよう。あとねイリヤ」
「なに?」
「あたい、ぜったいイリヤをまもるから」
「……ありがとう。
私のバーサーカー」
商店街、士郎が夕飯の材料の買出しをしている。
「ええと、これで買う物は全部だな」
「もしもし、私メリーさん、今、貴方の後ろにいるの」
「お。
お帰りメリー。やけに嬉しそうだな」
「うん! 友達が出来たの!」
「へえ、どんな子なんだ?」
「銀髪のお嬢様と黒髪の元気な女の子!」
「へ~俺も会ってみたいな。
そうだ! 今度家に呼べよ。
ご馳走作って歓迎するから」
「うん! きっとイリヤもバーサーカーも喜んでくれるよ!」
「友達の名前はイリヤとバーサーカーって言うのか……。
って、黒髪の女の子の名前がバーサーカー?」
「そうだよ」
「随分変わった名だな……」
「ところで今日の晩御飯はなに?」
「今日はカレーライスだ」
「カレー? やったあ!」
「そんなに嬉しいのか?」
「士郎の料理はおいしいからなんでもうれしいよ♪ あ、荷物持ってあげる」
「おいおい、重たいぞ」
「これでも私はサーヴァントなんだよ。だから、これくらい平気だよ」
「でも小さな女の子にそんな荷物を持たせるなんて、世間的になあ……」
「気にしない気にしない。
あ、大河お姉ちゃんだ、おーい」
藤ねえの姿を見かけ駆け出していく少女の姿を見守りながらも追いかける士郎。
誰が信じられるだろうか。
あの少女が暗殺者のサーヴァント、
アサシンであると。
だかそんな事は士郎には関係ない、彼女も大切な家族の一人に変わりはないのだから。
メリーと士郎、例え血が繋がらなくても、二人はまるで本当の兄妹のようだった。
「…………」
「…………」
寺、そこにいるのは教師と明らかに場違いなシスター。
二人は何も言わずにただ構えの姿勢で睨み合う。
「ふっ!」
「はっ!」
交差する視線、ぶつかり合う拳。
見る人が見ればその動きは常人を凌駕したレベルである事は明らか。
「なかなかやりますわね。
まさか人の身でサーヴァントとここまでやり合うとは思いませんでしたわ」
「私は唯の枯れ果てた殺人鬼だ。
それ以上でも以下でもない」
「フフ……そんなに孫権なさらずともいいんですのよ」
そんな二人の対峙はこの寺の主、柳洞零観の介入によって終わる。
「こんなところにおられたか。
お二人とも、お茶が入りましたぞ。
鍛錬もよろしいですが、ここで一旦休憩してはいかがかな?」
「……ああ」
「では、お言葉に甘えさせていただきますわ」
縁側に並ぶ二人。
風の音以外は耳が痛くなるほど静かな空間。
黙々と二人はお茶と菓子を食す。
場に流れるは穏やかな雰囲気。
「葛木殿」
「何か?」
「休憩が終了したらもう一戦ワタクシとお願いできますか?」
「かまわない」
こうしてこの女だらけの聖杯戦争は始まった。
しかし殆どのサーヴァントは基本的に戦いを望まず、戦局は膠着状態に。
撲殺魔術師組と毒舌神父組だけは双方を獲物と見なして積極的に常時死闘を繰り広げていたが。
それでも様々なことがあった。
長い間、離れ離れだった妹と姉が和解したり。
巨人を従えし少女のメカ講座にその姉が発狂したり。
三人の少女達の間で士郎争奪戦が勃発したり。
それを見た虎が「士郎がロリコンになっちゃったー!!」と誤解したり。
撲殺聖女と撲殺魔術師が親友になったり。
とにかく戦いとはかけ離れた色々な出来事が起こった。
しかし、そんな日常もあの男が帰って来る事で終わりとなる。
その男は前回の聖杯戦争の勝者。
かつてアジアに大帝国を築き上げた覇王。
その名は
チンギス・ハン。
受肉した彼は己の支配欲を満たすために戦争終了後、すぐに国外へと旅立った。
以後戦乱絶えぬ国々で暗躍、その力を強大なものへとしていたのだ。
そして今、言峰からの今次聖杯戦争の開催を聞き、王は帰ってきた。
まさに王の凱旋である。
「ふふふ……まさかこれほど早く聖杯戦争が再開されるとはな……。
敵のサーヴァントは未だ7体とも生存か……。
よかろう、この程度の障害、撃破できずになにが蹂躙王か!
今度こそ、今度こそ! 聖杯の力を用いてこの世の全てを蹂躙し、
この俺が頂点と立つ世界帝国を築き上げてやろう!
フ……ハッハッハッハッハッハッハッハッ―――!!」
音を立てて崩れていく平和な日常。
突然現れる亡者達の軍勢。
魔獣達の襲撃。
弓によるターゲットを狙った死角からの正確な狙撃。
あまりのイレギュラーの連発に、各マスターによる同盟が結ばれる。
しかしそれも焼け石に水でしかない。
かろうじて一般市民への犠牲は防がれていたが、時間の問題なのは明らかだった。
状況は悪化してゆく一方であり、大聖杯にも危機が迫る。
大聖杯を擁する柳洞寺が何者かに占拠されたというのだ。
ついに姿を現す大英雄、蹂躙王チンギス・ハン。
そして監督役の裏切り。
日常を守る為、マスターとサーヴァント達は不利な状況の中、圧倒的な敵に挑む。
果たして冬木は、明日を迎えることができるのか!?
前回の生き残り:チンギス・ハン
最終更新:2014年12月02日 00:32