・はじめに・
これは、持知が今まで聴いてきた曲からインスピレーションを頂き、そのイメージで書いた話をまとめた短編集みたいなものです。
基本的にアーティストの出している曲ではなく、BGM素材を配布されているサイト様の曲から話を作らせて頂いております。
1つ1つのお話は繋がっていませんので、全て1話完結ものだとお考え下さい。
また、曲のイメージは人それぞれですから、お気に召さない方もいらっしゃるとは思いますが、ご了承願います。
1.「月の記憶」
「OLD WOODS HUT」様より→ttp://valse.fromc.com/
月なんて、消えてなくなれば良かったんだ。
この月を見上げるたびにそう思った。
僕は月が嫌いだから。
仲の良かった友人のモナーが、月を酷く愛していた。
「今日も月が綺麗だモナ♪」
「何で、モナーは月がそんなに好きなんだ?」
「んー? だって綺麗だし…それに、月を見ているとモララーを思い出すからモナ」
「月を見ていると? おいおい、僕は三月ウサギじゃないからな」
僕が呆れたように言うと、モナーはうっとりと月を眺めながら答えた。
「だって、モララーは月みたいに心が綺麗モナ。月を見ているとマターリするように、モララーと一緒にいるとマターリしてくるんだモナ♪」
「…何だよそれ…どっちかって言ったらモナーの方がマターリキャラだろ」
「見た目じゃないモナ。大切なのは中身モナよ」
そんなことを、毎日のように僕に語り続けていた。
モナーが姿を消したのは、月食が起こった翌日だった。
彼の月好きっぷりは友人達の間ではかなり有名だったから、月食が起こると聞いて、みんな心配していた。
それが、現実になってしまったのだ。
モナーの家の隣に住んでいるのが僕じゃなかったら、多分彼が居なくなったことに気づく者はいなかっただろう。
「モナーの奴…月を探しに行って来るって置き手紙を残してったんだろ?」
「月はずっとここにあるのに…どこに行っちゃったのかしら…モナー君…」
ギコもしぃちゃんも、僕と一緒に毎日モナーを捜してくれた。
他にもレモナ、つーちゃん、フサなども一緒になってモナー捜索を手伝ってくれた。
でも、彼が僕らの前に再び姿を見せることはなかった。
だから、僕は月が嫌いだ。
モナーを奪ったのは、きっとこの月に違いないから。
「…月はお前だよ、モナー」
月を見て、マターリした気持ちになるというのなら。
お前は月そのものだ。
夜の間だけ、その美しさを見せる月。
もし、夜の間だけでも戻ってきてくれるなら。
「…もう、月食は当分起きないからな。だから…戻ってきてくれよ、モナー…」
頬を伝う涙は、月の光でいつもより輝いて見えた。
2.「EURO FREAK」
「Sound System Laboratory」様より→ttp://www5e.biglobe.ne.jp/~silvia-s/
この日を、待ち望んでいた訳じゃなかった。
むしろ、来ないで欲しい。
そんな日が来てしまった。
「遂に始まるな」
俺の隣で、モララーが不敵に笑った。
だが、俺の表情は硬いままだ。
「どうした? 緊張してるのか? お前らしくもない」
「いや…まぁ、な」
「なに、心配はいらないさ。連中が相手なら、すぐにカタがつくだろうよ。お前はいつも通り、気楽にやってればいい」
モララーの目が、蒼く輝いた。
それと同時に背から生える、6枚の美しい翼。
彼の胸元には、十字の印が刻まれていた。
「そろそろだぞ、ギコ。僕は先に行くからな」
それだけ言うと、モララー…いや、モララエルは地を蹴り、下界へと飛び下りて行った。
残された俺は、瞳の色を黄金に変えて静かに呼吸を整える。
俺の背から生える、2枚の翼。
頭の上に浮かぶ、金色の輪。
天使としての神々しさと美しさでは、同じランクの天使であるはずのモララエルに
到底敵わないと俺は思っていたが、誰もがこの姿を美しいと認めてくれた。
だが…俺は誰もが褒め称えることのなかったこの黄金の瞳を愛した者が忘れられなかった。
「…しぃ…」
俺は翼を広げ、モララエルの後を追って飛び下りた。
破壊の天使…『ギコエル』として。
急降下しながら下界を見下ろすと、あちらこちらで砲弾や銃弾が飛び交っている。
どれも下界のAAのものだ。
そして、それをいとも簡単にかわし、次々とAA達を滅ぼしていく天使達。
普段は悪魔達を討伐する立場にある天使達が、楽しそうに下界を攻撃している。
あの、神々しい微笑みを浮かべて。
(どっちが悪魔だかわからねぇな…)
俺は心の中で呟きながら、さらにスピードを上げた。
ふと横を見ると、俺と並んで急降下してきている影が居る。
俺は落ちながら影に問いかけた。
「…モナファー…なぜここに来た」
すると、目の前の影がにやりと笑って急停止した。
俺も一旦翼を開いて、降下を止める。
「なぜって…こういう頃し合いはモナ達が最も喜ぶことだモナ」
魔王・モナファーは相変わらずの笑顔で答えた。
モナー族を基盤にして生まれた悪魔だけあって、その笑顔は見る者を和ませるが、
やはり魔界の王らしく、残虐な頃し合いや戦争、破壊と滅亡を好む。
「皮肉なことだモナ。本来ならこういうことをするのはモナ達の仕事モナ。
それを嫌っているはずの天使達自ら、下界との戦争に持ち込むとは」
「…俺はやりたくなかった。こんなこと…だが、神・ひろゆきがそれを許さなかったんだ」
「下界の代表達がみんなして神の批判を始めた…まぁ、神であるひろゆきが怒るのも当然モナね。同時に神への反逆にもなる訳だし」
下界の代表の一人が言った言葉。
『神は天使達をスパイとして下界へ送り、下界のことを調査しているのではないか。
そしていずれはこの世を完全に支配しようと思っているのではないか』
この発言を皮切りに、天界と下界の関係は急速に冷めていったのだ。
「…下界の代表の発言は許せない。だが、俺は下界の連中全員があんな香具師じゃないってことを知ってる。
だから…俺はこの戦争を止めたい」
「たった一人で闘うことになったとしても?」
「俺には、守りたい奴が居る。そいつだけは何としてでも守るんだゴルァ!!!」
俺は空中での制御を解き、再び地上への落下を始めた。
モナファーの声が、耳元で聞こえた気がした。
「…天界と下界なんて、所詮は相容れない存在なんだモナ」
天界と下界の折り合いが悪くなる前。
その頃は天使とAAの仲も良く、天使がAAを天界へ招いたり、逆に下界のAA達が天使達を下界へ呼んだりもしていた。
いわゆる「交換留学」のようなものだと考えて貰えればいいだろう。
俺は数年前、天界からの交換留学生として下界に降り立った。
まだその時の俺は天使としては未熟で、より広い世界を知るために下界に送られたのだ。
そこで出会ったのがしぃだった。
しぃは俺の姿を最初に見た時、翼も頭の輪も好きだと言ってくれた。
でもそれ以上に好きなところがあるとも言った。
「それはね…ギコ君の瞳だよ。キラキラしてて、すごく綺麗なの。その金色に吸い込まれそうなくらいにね…」
翼や輪を褒めるものは今まで居たが、瞳は居なかった。
逆に、金色の瞳を持った天使が極端に少ないため、天界で俺は異端の目で見られていたのだ。
だから俺はその時、とても嬉しくなった。
彼女は下界で色々なことを教えてくれて。
俺もまた、彼女に天界の様々なことを教えた。
彼女と過ごす下界での毎日は、平和でとても充実した日々。
留学期間が延びればいいのに…そんなことまで考えた。
留学期間が過ぎて、俺が天界に帰る時…俺は彼女を連れ去ってしまいたくなった。
でも、そんなことをしたらひろゆきにあぼーんされてしまう。
彼女のためにも、それは出来ない。
すると、俺の気持ちを察したかのようにしぃが尋ねて来た。
「また…会えるよね?」
涙に濡れた彼女の瞳。
俺の瞳の数倍美しいと思った。
「ああ。お前が悪い香具師に襲われそうになったら絶対助けに行くさ」
「本当? 約束よ、ギコ君…」
あの時の約束は守る。
この戦争で、しぃは絶対に氏なせない。
俺はその一心で、破壊と爆発の巻き起こる地上へと飛び込んでいった。
それから彼が具体的にどうしたのか、誰も知るものはいないモナ。
ただ、必死になって飛び回って…燃える地上を駆け回って。
そしてどうなったのかって?
…そんなこと、モナが知ってるはずないモナ。
――――モナファー様、神・ひろゆきから会談の連絡が。
ああ、わかったモナ。
さて…モナはもう行くモナよ。
玉座から立ち上がり、魔王・モナファーはゆっくりと歩き出す。
だが一度だけ玉座を振り返り、ぽつりと呟いた。
「…全く…天界と下界は相容れないとあれだけ言ったのに…。愚かな天使だったモナ…」
モナファーの呟きを聞いている者は、誰も居なかった。
3.「オレンジ・マーマレード・ジャム」
「お地球見の丘より。」様より→ttp://coco.or.tv/
朝の日差しが暖かい。
ほのかな太陽の香りがするリビングで、モナーとガナーは朝食を食べていた。
「あ~、やっぱり牛乳は逝印牛乳に限るモナ~」
「ホントね。最近ちょっと値段が高いのが気になるけど」
「心配ないモナ。モナがちゃんとお金を稼いできてるから、当分食費には困らないモナ」
「あたしだって仕事してるわよ。お兄ちゃんが大食らいだから、がんがって稼がないとさ」
この兄妹は本当に仲が良い。
おっとりした兄と、しっかり者の妹。
二人はすくすく成長し、今や立派な社会人だ。
ちなみに二人とも劇団に入り、様々なスレ作品で俳優業・女優業をこなしている。
「お兄ちゃん、この前の『炎の堕天使』見たわよ! あの役ってお兄ちゃんにピッタリ」
「そうモナ? そう言われると照れるモナ~。あ、ガナーも自スレ作品でがんがってるモナね!
見たモナよ、『ガナースレパート8・真実のオマエガナー復刻版』!」
「え、見てくれたの?! 確かその時間って今は『ラーメンギコ&モナー』の撮影が入っていたはずじゃ…」
驚くガナーに、モナーはいつもの柔らかい笑みを浮かべた。
「ちゃ~んとビデオに予約録画してるモナよ♪ 売店ギコに殴られるシーン、いつ見ても痛そうモナ…。
たまにほっぺに痣作って帰って来るから心配モナよ」
「でもあれは仕事だし。だからと言って手を抜いて貰うのも癪だから、ギコさんに頼んで手加減なしで殴って貰ってるのよ。
その方がリアル感があるじゃない?」
「ガナーも立派な女優になってきたモナね…。何だか嬉しいモナ」
二人を照らす日の光。
それは二人の一日の始まりを、祝福しているかのようで。
この朝が、一番幸せな時間。
いつも仕事でなかなか会うことが出来ない二人だからこそ、この朝食の時間を何よりも大切にしているのだ。
「お兄ちゃん、牛乳貸して」
「モナ?」
「今日は少し肌寒いから、身体暖めてから仕事に行った方がいいわよ。
特別にホットミルク作ってあげる。レンジであっためるだけだけどね」
そう言うと、ガナーはモナーのマグカップをレンジに入れて温め始めた。
しばらく待った後、出されたマグカップからは温かそうな湯気がほかほかと立っている。
これだけでも飲めるが、その前に砂糖をスプーン一杯入れるのがコツ。
甘党のモナーはガナーの作ってくれるホットミルクが大好きであった。
「アタカーイ…ありがとモナ。今日はお土産にガツみか買ってきてあげるモナ」
「やったー!! よーし、今日も派手に一発殴られて来るわよーっ!!」
「ちょっと気合いの入れ方が違う気がするモナ…」
モナーは苦笑いしながら、妹の作ってくれたホットミルクを口に運んだ。
暖かい、妹の愛情が込められた、ほのかに甘いミルク。
どんなに辛くても、この柔らかな気持ちがあれば頑張れるんだ。
今日もまた、新しい一日が始まる。
暖かいこの光の中で、ホットミルクを飲みながら。
4.「save the music Panoramix」
「Rave-Slave」様より→ttp:// www2u.biglobe.ne.jp/~cranky/
夜の繁華街。
眠さも忘れて、私達は踊る。
狂ったように、かつ楽しく。
全てを吹き飛ばすように、かつ美しく。
それが、私達の唯一の楽しみだから。
「ねぇ、じぃちゃん」
「何? レモナちゃん」
「じぃちゃんってさ、何でこんなところで踊ろうと思ったの?」
じぃはどこか遠くに視線を向けて言った。
「そうねぇ…何でなのかしら。毎日起こる嫌なことを忘れたいとか…ストレス解消とか?」
「…そっかぁ…そういった人が大半よね。このクラブに来るのは」
「そう言うレモナちゃんはどうしてこのクラブで踊ろうと思ったの?」
レモナの言葉に少し膨れっ面になりながら、じぃが尋ね返す。
すると、レモナは哀しそうな表情で簡潔に答えた。
「…自分を捨ててしまいたいからよ」
理由はたった一言、それだけ。
でも、その「たった一言」がじぃの耳には重く聞こえた。
「捨ててしまいたいって…何かあったの?」
「何でもないわ…あっても、言えないようなことよ」
そう言ったレモナは口を固く閉じて、開こうとしない。
じぃは何か言おうとしたが、躊躇って下を向いてしまった。
その場に、気まずい沈黙が流れる。
「ね、ねぇレモナちゃん! あのさ…」
意を決して、じぃが声をかけたその時。
強く、大きく。
音楽が流れ始めた。
それはまるで、彼女が言おうとしていた言葉を阻むかのようなタイミングで。
「あら…これ、私の好きな曲じゃない。踊りましょ? じぃちゃん」
「え…でも、あの…」
「いいから早く! 曲が終わっちゃうわ」
レモナは無理矢理彼女の手を引いて、狂ったように踊る集団の中へと身を投じて行った。
どうせなら。
一生かけても、この闇を忘れることが出来ないのなら。
踊ればいい。
狂ったように、激しく。
壊れるまで、乱暴に。
輝くように、美しく。
涙が出るくらい、切なく、哀しく。
そして――――全てを包むように、優しく。
生まれ変わればいい。
これは、持知が今まで聴いてきた曲からインスピレーションを頂き、そのイメージで書いた話をまとめた短編集みたいなものです。
基本的にアーティストの出している曲ではなく、BGM素材を配布されているサイト様の曲から話を作らせて頂いております。
1つ1つのお話は繋がっていませんので、全て1話完結ものだとお考え下さい。
また、曲のイメージは人それぞれですから、お気に召さない方もいらっしゃるとは思いますが、ご了承願います。
1.「月の記憶」
「OLD WOODS HUT」様より→ttp://valse.fromc.com/
月なんて、消えてなくなれば良かったんだ。
この月を見上げるたびにそう思った。
僕は月が嫌いだから。
仲の良かった友人のモナーが、月を酷く愛していた。
「今日も月が綺麗だモナ♪」
「何で、モナーは月がそんなに好きなんだ?」
「んー? だって綺麗だし…それに、月を見ているとモララーを思い出すからモナ」
「月を見ていると? おいおい、僕は三月ウサギじゃないからな」
僕が呆れたように言うと、モナーはうっとりと月を眺めながら答えた。
「だって、モララーは月みたいに心が綺麗モナ。月を見ているとマターリするように、モララーと一緒にいるとマターリしてくるんだモナ♪」
「…何だよそれ…どっちかって言ったらモナーの方がマターリキャラだろ」
「見た目じゃないモナ。大切なのは中身モナよ」
そんなことを、毎日のように僕に語り続けていた。
モナーが姿を消したのは、月食が起こった翌日だった。
彼の月好きっぷりは友人達の間ではかなり有名だったから、月食が起こると聞いて、みんな心配していた。
それが、現実になってしまったのだ。
モナーの家の隣に住んでいるのが僕じゃなかったら、多分彼が居なくなったことに気づく者はいなかっただろう。
「モナーの奴…月を探しに行って来るって置き手紙を残してったんだろ?」
「月はずっとここにあるのに…どこに行っちゃったのかしら…モナー君…」
ギコもしぃちゃんも、僕と一緒に毎日モナーを捜してくれた。
他にもレモナ、つーちゃん、フサなども一緒になってモナー捜索を手伝ってくれた。
でも、彼が僕らの前に再び姿を見せることはなかった。
だから、僕は月が嫌いだ。
モナーを奪ったのは、きっとこの月に違いないから。
「…月はお前だよ、モナー」
月を見て、マターリした気持ちになるというのなら。
お前は月そのものだ。
夜の間だけ、その美しさを見せる月。
もし、夜の間だけでも戻ってきてくれるなら。
「…もう、月食は当分起きないからな。だから…戻ってきてくれよ、モナー…」
頬を伝う涙は、月の光でいつもより輝いて見えた。
2.「EURO FREAK」
「Sound System Laboratory」様より→ttp://www5e.biglobe.ne.jp/~silvia-s/
この日を、待ち望んでいた訳じゃなかった。
むしろ、来ないで欲しい。
そんな日が来てしまった。
「遂に始まるな」
俺の隣で、モララーが不敵に笑った。
だが、俺の表情は硬いままだ。
「どうした? 緊張してるのか? お前らしくもない」
「いや…まぁ、な」
「なに、心配はいらないさ。連中が相手なら、すぐにカタがつくだろうよ。お前はいつも通り、気楽にやってればいい」
モララーの目が、蒼く輝いた。
それと同時に背から生える、6枚の美しい翼。
彼の胸元には、十字の印が刻まれていた。
「そろそろだぞ、ギコ。僕は先に行くからな」
それだけ言うと、モララー…いや、モララエルは地を蹴り、下界へと飛び下りて行った。
残された俺は、瞳の色を黄金に変えて静かに呼吸を整える。
俺の背から生える、2枚の翼。
頭の上に浮かぶ、金色の輪。
天使としての神々しさと美しさでは、同じランクの天使であるはずのモララエルに
到底敵わないと俺は思っていたが、誰もがこの姿を美しいと認めてくれた。
だが…俺は誰もが褒め称えることのなかったこの黄金の瞳を愛した者が忘れられなかった。
「…しぃ…」
俺は翼を広げ、モララエルの後を追って飛び下りた。
破壊の天使…『ギコエル』として。
急降下しながら下界を見下ろすと、あちらこちらで砲弾や銃弾が飛び交っている。
どれも下界のAAのものだ。
そして、それをいとも簡単にかわし、次々とAA達を滅ぼしていく天使達。
普段は悪魔達を討伐する立場にある天使達が、楽しそうに下界を攻撃している。
あの、神々しい微笑みを浮かべて。
(どっちが悪魔だかわからねぇな…)
俺は心の中で呟きながら、さらにスピードを上げた。
ふと横を見ると、俺と並んで急降下してきている影が居る。
俺は落ちながら影に問いかけた。
「…モナファー…なぜここに来た」
すると、目の前の影がにやりと笑って急停止した。
俺も一旦翼を開いて、降下を止める。
「なぜって…こういう頃し合いはモナ達が最も喜ぶことだモナ」
魔王・モナファーは相変わらずの笑顔で答えた。
モナー族を基盤にして生まれた悪魔だけあって、その笑顔は見る者を和ませるが、
やはり魔界の王らしく、残虐な頃し合いや戦争、破壊と滅亡を好む。
「皮肉なことだモナ。本来ならこういうことをするのはモナ達の仕事モナ。
それを嫌っているはずの天使達自ら、下界との戦争に持ち込むとは」
「…俺はやりたくなかった。こんなこと…だが、神・ひろゆきがそれを許さなかったんだ」
「下界の代表達がみんなして神の批判を始めた…まぁ、神であるひろゆきが怒るのも当然モナね。同時に神への反逆にもなる訳だし」
下界の代表の一人が言った言葉。
『神は天使達をスパイとして下界へ送り、下界のことを調査しているのではないか。
そしていずれはこの世を完全に支配しようと思っているのではないか』
この発言を皮切りに、天界と下界の関係は急速に冷めていったのだ。
「…下界の代表の発言は許せない。だが、俺は下界の連中全員があんな香具師じゃないってことを知ってる。
だから…俺はこの戦争を止めたい」
「たった一人で闘うことになったとしても?」
「俺には、守りたい奴が居る。そいつだけは何としてでも守るんだゴルァ!!!」
俺は空中での制御を解き、再び地上への落下を始めた。
モナファーの声が、耳元で聞こえた気がした。
「…天界と下界なんて、所詮は相容れない存在なんだモナ」
天界と下界の折り合いが悪くなる前。
その頃は天使とAAの仲も良く、天使がAAを天界へ招いたり、逆に下界のAA達が天使達を下界へ呼んだりもしていた。
いわゆる「交換留学」のようなものだと考えて貰えればいいだろう。
俺は数年前、天界からの交換留学生として下界に降り立った。
まだその時の俺は天使としては未熟で、より広い世界を知るために下界に送られたのだ。
そこで出会ったのがしぃだった。
しぃは俺の姿を最初に見た時、翼も頭の輪も好きだと言ってくれた。
でもそれ以上に好きなところがあるとも言った。
「それはね…ギコ君の瞳だよ。キラキラしてて、すごく綺麗なの。その金色に吸い込まれそうなくらいにね…」
翼や輪を褒めるものは今まで居たが、瞳は居なかった。
逆に、金色の瞳を持った天使が極端に少ないため、天界で俺は異端の目で見られていたのだ。
だから俺はその時、とても嬉しくなった。
彼女は下界で色々なことを教えてくれて。
俺もまた、彼女に天界の様々なことを教えた。
彼女と過ごす下界での毎日は、平和でとても充実した日々。
留学期間が延びればいいのに…そんなことまで考えた。
留学期間が過ぎて、俺が天界に帰る時…俺は彼女を連れ去ってしまいたくなった。
でも、そんなことをしたらひろゆきにあぼーんされてしまう。
彼女のためにも、それは出来ない。
すると、俺の気持ちを察したかのようにしぃが尋ねて来た。
「また…会えるよね?」
涙に濡れた彼女の瞳。
俺の瞳の数倍美しいと思った。
「ああ。お前が悪い香具師に襲われそうになったら絶対助けに行くさ」
「本当? 約束よ、ギコ君…」
あの時の約束は守る。
この戦争で、しぃは絶対に氏なせない。
俺はその一心で、破壊と爆発の巻き起こる地上へと飛び込んでいった。
それから彼が具体的にどうしたのか、誰も知るものはいないモナ。
ただ、必死になって飛び回って…燃える地上を駆け回って。
そしてどうなったのかって?
…そんなこと、モナが知ってるはずないモナ。
――――モナファー様、神・ひろゆきから会談の連絡が。
ああ、わかったモナ。
さて…モナはもう行くモナよ。
玉座から立ち上がり、魔王・モナファーはゆっくりと歩き出す。
だが一度だけ玉座を振り返り、ぽつりと呟いた。
「…全く…天界と下界は相容れないとあれだけ言ったのに…。愚かな天使だったモナ…」
モナファーの呟きを聞いている者は、誰も居なかった。
3.「オレンジ・マーマレード・ジャム」
「お地球見の丘より。」様より→ttp://coco.or.tv/
朝の日差しが暖かい。
ほのかな太陽の香りがするリビングで、モナーとガナーは朝食を食べていた。
「あ~、やっぱり牛乳は逝印牛乳に限るモナ~」
「ホントね。最近ちょっと値段が高いのが気になるけど」
「心配ないモナ。モナがちゃんとお金を稼いできてるから、当分食費には困らないモナ」
「あたしだって仕事してるわよ。お兄ちゃんが大食らいだから、がんがって稼がないとさ」
この兄妹は本当に仲が良い。
おっとりした兄と、しっかり者の妹。
二人はすくすく成長し、今や立派な社会人だ。
ちなみに二人とも劇団に入り、様々なスレ作品で俳優業・女優業をこなしている。
「お兄ちゃん、この前の『炎の堕天使』見たわよ! あの役ってお兄ちゃんにピッタリ」
「そうモナ? そう言われると照れるモナ~。あ、ガナーも自スレ作品でがんがってるモナね!
見たモナよ、『ガナースレパート8・真実のオマエガナー復刻版』!」
「え、見てくれたの?! 確かその時間って今は『ラーメンギコ&モナー』の撮影が入っていたはずじゃ…」
驚くガナーに、モナーはいつもの柔らかい笑みを浮かべた。
「ちゃ~んとビデオに予約録画してるモナよ♪ 売店ギコに殴られるシーン、いつ見ても痛そうモナ…。
たまにほっぺに痣作って帰って来るから心配モナよ」
「でもあれは仕事だし。だからと言って手を抜いて貰うのも癪だから、ギコさんに頼んで手加減なしで殴って貰ってるのよ。
その方がリアル感があるじゃない?」
「ガナーも立派な女優になってきたモナね…。何だか嬉しいモナ」
二人を照らす日の光。
それは二人の一日の始まりを、祝福しているかのようで。
この朝が、一番幸せな時間。
いつも仕事でなかなか会うことが出来ない二人だからこそ、この朝食の時間を何よりも大切にしているのだ。
「お兄ちゃん、牛乳貸して」
「モナ?」
「今日は少し肌寒いから、身体暖めてから仕事に行った方がいいわよ。
特別にホットミルク作ってあげる。レンジであっためるだけだけどね」
そう言うと、ガナーはモナーのマグカップをレンジに入れて温め始めた。
しばらく待った後、出されたマグカップからは温かそうな湯気がほかほかと立っている。
これだけでも飲めるが、その前に砂糖をスプーン一杯入れるのがコツ。
甘党のモナーはガナーの作ってくれるホットミルクが大好きであった。
「アタカーイ…ありがとモナ。今日はお土産にガツみか買ってきてあげるモナ」
「やったー!! よーし、今日も派手に一発殴られて来るわよーっ!!」
「ちょっと気合いの入れ方が違う気がするモナ…」
モナーは苦笑いしながら、妹の作ってくれたホットミルクを口に運んだ。
暖かい、妹の愛情が込められた、ほのかに甘いミルク。
どんなに辛くても、この柔らかな気持ちがあれば頑張れるんだ。
今日もまた、新しい一日が始まる。
暖かいこの光の中で、ホットミルクを飲みながら。
4.「save the music Panoramix」
「Rave-Slave」様より→ttp:// www2u.biglobe.ne.jp/~cranky/
夜の繁華街。
眠さも忘れて、私達は踊る。
狂ったように、かつ楽しく。
全てを吹き飛ばすように、かつ美しく。
それが、私達の唯一の楽しみだから。
「ねぇ、じぃちゃん」
「何? レモナちゃん」
「じぃちゃんってさ、何でこんなところで踊ろうと思ったの?」
じぃはどこか遠くに視線を向けて言った。
「そうねぇ…何でなのかしら。毎日起こる嫌なことを忘れたいとか…ストレス解消とか?」
「…そっかぁ…そういった人が大半よね。このクラブに来るのは」
「そう言うレモナちゃんはどうしてこのクラブで踊ろうと思ったの?」
レモナの言葉に少し膨れっ面になりながら、じぃが尋ね返す。
すると、レモナは哀しそうな表情で簡潔に答えた。
「…自分を捨ててしまいたいからよ」
理由はたった一言、それだけ。
でも、その「たった一言」がじぃの耳には重く聞こえた。
「捨ててしまいたいって…何かあったの?」
「何でもないわ…あっても、言えないようなことよ」
そう言ったレモナは口を固く閉じて、開こうとしない。
じぃは何か言おうとしたが、躊躇って下を向いてしまった。
その場に、気まずい沈黙が流れる。
「ね、ねぇレモナちゃん! あのさ…」
意を決して、じぃが声をかけたその時。
強く、大きく。
音楽が流れ始めた。
それはまるで、彼女が言おうとしていた言葉を阻むかのようなタイミングで。
「あら…これ、私の好きな曲じゃない。踊りましょ? じぃちゃん」
「え…でも、あの…」
「いいから早く! 曲が終わっちゃうわ」
レモナは無理矢理彼女の手を引いて、狂ったように踊る集団の中へと身を投じて行った。
どうせなら。
一生かけても、この闇を忘れることが出来ないのなら。
踊ればいい。
狂ったように、激しく。
壊れるまで、乱暴に。
輝くように、美しく。
涙が出るくらい、切なく、哀しく。
そして――――全てを包むように、優しく。
生まれ変わればいい。