広い砂漠が続く中、ダットという小さな国がある。
ダットには少し変わった特徴があった。
それは「左右の瞳の色が異なる者が生まれやすいこと」という事だ。
まぁ、特に争いもなく、身分もあまり気にせずに人々は暮らしている。
あ、そうそう。もう一つあったな。
このあたりの地一帯の風習として、「洗礼名」を授かるという事。
いわゆる第二の名前みたいなものだ。
・・・でもな、俺にとってはそんなモンどうでもいい。
俺がここに来た理由はダットのお宝だ。
この国のどこかにすごい秘宝がある情報を聞いたからさ。
嘘だろうが本当だろうが、金目の物ぐらいあるだろう。
この盗賊、ギーコッド・ハーニヤーンの手にかかればな!!
改めて紹介しよう。彼の名はギーコッド・ハーニヤーン。通称『ギコ』だ。
出身も知らなければ親も知らない、生まれながらの盗賊である。
ギコがダットを目指して何日経っただろうか。
やっとダットの城と思われる建物が見えてきた。
「そろそろか・・・、一体どんな奴らがいるんだろうか・・・」
ダットについての資料が少なかった為、ギコ自信も詳しく知る事ができなかったのだ。
「こんな砂漠に慣れてない奴が来てたら今頃死んでるな」
一人で愚痴を言いながらダットを目指した。
運命の歯車が回り出す『時』がこの数分後に起きる事を知らずに・・・。
グオオォォォ・・・
「うぉっ!?何だ、敵か?」
驚いてすぐさま剣を取り出すギコ。
ドォォン!!
「うわぁっ!!こいつ、さっきも出てきやがった奴だな!」
砂でできた敵だ。砂がない所が三カ所あった。恐らく目と口だろう。
その敵はギコの何倍もの大きさがあった。遠くから見たらギコが豆の様に見えてしまうほどだ。
「誰が豆だ!どっかの奴と一緒にしないでくれ!」
そんな事を言っていたギコに、突如現れた砂の触手が襲いかかった。
「危ねっ!アホな事言ってる場合じゃなかったぜ!そらよっ!!」
身軽な体でギコは攻撃を避け、敵に斬りかかった。
ズパァッ!
砂でできていたせいか、敵は真っ二つに斬れた。
「いや~、こういう奴は結構厄介だぜ・・・」
そう言い、剣を素早くしまった。が、
「さてと・・・? うわっ、しまったぁ!!」
砂の触手に捕まってしまった。
「くそ~、困ったな。アレ使うのも効くかどうか分かんねぇし・・・」
両腕を動かそうとしたが、あまりにも力が強かった為、身動きがとれなかった。
「はぁ、絶体絶命ってヤツかよ・・・」
敵を睨みつつ、ギコは苦笑した。
『ファイラ!!』
ドーーンッ!!
どこからか声がし、無数の火の弾が飛んできた。
「あちっ!魔法か・・・!?」
触手から解放されたギコは声のした方を向いた。
敵はもう出現しないようだ。
「ゴメン当たった!?キミ、大丈夫?」
「あぁ、俺は平気だが・・・助けてくれてありがとな」
ギコは珍しい物を見るような目で彼を見た。
「(魔法使いにしては変わった格好してるな・・・)」
「シィリス様・・・」
「えぇ、帰ってきたようね・・・」
「やはり先ほどの炎の魔法、昔より強くなられたようじゃな」
「その様ですね」
所変わって、ここはダット城の王室。
大きな窓から三人は外を見ていた。
ミニスター(大臣)のフゥ・ウンヒョン。
セージ(賢者)のシーラ・ネィ・ヨハン。
そして、プリンセス(皇女)のシィ・ダット・アマデウス。
「・・・きっと、立派なお姿で帰還されることでしょう」
と、フーン大臣。
「そうじゃな。三年も修行すれば、わしよりも魔力が強くなっているだろう」
愛弟子の帰りを誰よりも待っていた老賢者シラネーヨ。
「・・・じぃ、フーン大臣」
外を見たままシィリスは二人にこう言った。
「城の皆にこう伝えて。モナーさんを暖かく出迎える準備を」
「・・・分かりました」
「紹介が遅れたね。ボクはモナー。ダットのウィザード(宮廷魔道師)なんだ」
「え、ダット!?俺もそこに行く途中だったんだ!」
ギコはモナーの手を掴んでこう言った。
「俺はギコ!頼む!ダットの案内してくれ!」
そう、彼はなんといっても位が高い。きっと城に関係ある者だろう、とギコは考えた。
すると、モナーはあっさりとこう答えた。
「うん。なんていうか・・・君の戦いっぷりを見たら皆に紹介したくなっちゃってて」
随分と単純な性格のようだ。
「そ、そうか。アリガトな・・・」
こうしてギコはモナーと共にダットへ向かった。
「ここが・・・砂漠の国ダットか・・・」
想像以上に物が発達した国だった。
ロボットや人々が助け合い、空には物を運ぶ飛行機らしき機械が飛んでいたり・・・。
砂漠のど真ん中なのに噴水や小さな川があり、畑もちゃんとある。
誰がどう見ても豊かな国にしか見えないほどだった。
「変わってないな~」
モナーは懐かしむように独り言を言っていた。
すると、一人のカマナー(庶民)がモナーを見て、こう叫んだ。
「モナー様!?モナー様が帰って来たぞ!!!」
「モナー・・・様?」
ギコは目を点にして、モナーを見た。
相変わらずニコニコした表情だった。
庶民の波に押され、ギコごと城に入ってしまった。
流石にもう庶民はいない。
「お帰りモナーはん!」
「よかった、相変わらず元気そうだな」
「全ク、オ前ドコモ変ワッテナイナ!」
「ただいま。無事に帰ってきたよ」
モナーは城の皆に早速ギコを紹介した。
「この人はギコ。さっき砂のモンスターと勇敢に戦ったすごく強い人だよ」
「え、おっおい!そんな・・・」
すごく強い、と言われ、焦るギコ。
「へぇー。あなた旅の方?」
「まぁ、そんな感じだな」
城の中で盗賊だなんて流石にギコは言えなかった。
「そっか。アタシはガナー!このモナーお兄ちゃんの妹!まだクレリック(聖職者)だけどね!」
「い、妹!?」
確かによく見たらモナーと似ていた。
「俺はフサ。つい最近パラディン(騎士団長)になったんだ。よろしく」
「パラディン!?おめでとうフサ!」
「とうとうモナーより位が高くなってしまったよ」
フサが恥ずかしがって言った。
「アヒャ!俺、ツー。コレデモ最年少ノプリースト(司祭)ダカラナ」
「最年少、か。何歳なんだ?」
「女ニソウイウノハ失礼ダゼ?19ダ」
「おっと、悪かった」
ギコは気付かなかったらしい。
「ウチはノー。ダット城のメイド(召使い)やってるんや。よろしゅうな」
「あぁ、よろしく・・・」
多分、他国から来た者だろうとギコは考えた。
「もう遅いから今日は泊まっていきなよ。明日ダットの案内してあげるから」
笑顔でモナーはギコに言った。
「そ、そうか。宿屋探さないとな・・・」
「何言ってるの?この城に泊まるのよ!ねっ、皆?」
ガナーの問いに皆が頷いた。
「いいのかよ?こんな身分の低い奴を城に入れてもらうなんて・・・」
「イインダヨ!セッカクモナーガ呼ンダ客人ナンダカラナ!」
「ゆっくり休むとええよー」
「それに、こんな体験、一生できないしな」
この城の者は皆とても優しかった。
「じゃあ早速ギコはんの部屋を用意してき・・・!」
ノーの動きが止まった。
2階から二人の人影。
「お帰り、モナー。無事でなによりだよ」
「モ・ナンディ・オーマー、只今帰国しました。フーン大臣」
互いに笑顔を見せて挨拶した。
その時初めてギコは感じた。
「(そうか。モナーっていう名前があの『洗礼名』だったのか・・・)」
すると、フーンはギコの方を見て、顔の表情を変えずにこう言った。
「ギコ・・・だったか。何も無いが、ダットでのんびりくつろいでくれ」
「め、滅相もない!お、お言葉に甘えて休ませてもらいます!!」
つい緊張したせいか、ギコはおかしな言葉遣いになってしまった。
「モナー、シィリス様がお呼びだ。シラネーヨさんも待っている」
「分かりました。行きましょう」
モナーはギコに手を振って、フーンの所へ行った。
ただ、フーンの隣にいた男は、ギコの方を見つめたまま動かない。
フーンは彼の肩を叩き、モナーと三人でシィリスのもとへ行った。
「・・・アイツ、気ヲ付ケナ」
「? 大臣の事か?」
「アァ。ドウモ気ニ入ラネェンダヨ」
「何でだ?」
「噂なんやけど・・・大臣は他国のスパイやないかっていう話があるんや」
「他国の・・・スパイ?」
夜、大きな窓から三日月を眺めた。
ギコは豪華なベッドに座る。眠れないのだ。
「(まさか、こんなにあっさりと城に入れるとはな)」
まるで複雑な気持ちだ。
これは何かの罠じゃないか。とも考えたが、あの皆の笑顔を思うと、そうは感じられない。
「こんな気持ちは生まれて初めてだな・・・」
『そうかもね』
「!?」
とっさに扉の方を向く。
いつの間にか誰かが部屋に入っているのだ。
ギコの部屋は、電気を消していたので、月の光しか当てにならないのだ。
「お、お前・・・大臣と一緒にいた・・・」
「へぇ、覚えてたの」
「一番印象に残ってるからな」
確かにあれだけ見つめられていれば、誰もが印象に残るだろう。
「俺、ネイノード・インジャー。洗礼名はネーノ」
「思ったんだが、随分と名前を短くするんだな。ダットの国民は」
「ギーコッド・ハーニヤーンも短くしてるんじゃネーノ。ギコって」
「愛称みたいなものだ」
「洗礼名も同じ様なモンじゃネーノ」
淡々と答えていくネーノ。
「・・・で、何しに来たんだ?」
ギコは本題に戻そうとした。
「んー、ちょっと話があって。なんて言うか・・・」
「『お宝目当てにダットへ来た自称大盗賊』なんて事分かってるからって事」
「!!」
ギコは心底から驚いた。
「プッ・・・そんなに驚かなくてもいいんじゃネーノ?」
驚いたギコに笑いをこらえながら言った。
「いつ・・・分かった?っていうか何か余計な事までも・・・」
「あれっ、自分でも分かってるんじゃネーノ?」
そう、あの時。
見つめられてた時だ。
「そうか・・・。俺の心を読んでたんだな」
「悪かったな、あの時は。メイジ(魔道師)だからああしないと心読めないんじゃネーノ」
「メイジ・・・なるほどな」
「ギコは盗賊だからシーフ、か」
真面目な顔のギコに対し、ネーノはふざけた様な振る舞いをした。
「ちなみに・・・モナーさんもフーンも皆、知ってるから」
「なっ・・・!?」
「おっと、心配ご無用じゃネーノ。あんたを追放するとか、罰するとか、そんなの全くしないから」
なんという国だろうか。
普通だったらもう殺されているかもしれないのに、そんな対処もしない国があったなんて。
ギコは唖然するしかなかった。
この生きてきた18年間、正体がバレてこんな事になったのは初めてだ。
ネーノは開いていた窓に腰掛け、月を見る。
「約束通り、明日ダットを案内するんじゃネーノ?」
「・・・もう俺には、そんな必要はないはずだぞ?」
「何だ、帰るの?」
「もうここに用は無い」
「つまんない・・・」
「ハァ!?どういう事だよ?」
「だってさぁ」
ギコは話疲れたのか、ベッドに寝転がる。
ネーノは外を見たままギコの方を見ない。
「あんた、帰る所ないんじゃネーノ?ここにいれば?」
「ふざけるなっ!!」
ギコは大声を上げた。
「しっ!他の奴らが起きたらどうするんじゃネーノ!?」
「・・・・・」
「唐突に言った俺も悪かったけどー・・・」
「・・・どういう事だ、ネーノ」
「まあまあ、落ち着くんじゃネーノ・・・」
流石のネーノもこればかりは驚いた。
「・・・隠し事はもうしなくていいんだ、ギコ」
人が変わったかの様に真面目な表情になった。
「お前欲しかったんだろ?仲間っていうのを」
「な、何の話だy」
「嘘つくな」
「ついてねぇっ!」
ギコは頭を横に降り続ける。
「昔から一人で生きてきたんだ。・・・仲間なんざ知るかよ!」
「・・・あのな」
ネーノのつり上がった細い目が開いた。
「自分に嘘をついてると、一生後悔するはめになるぞ」
「っ!?」
綺麗な水色の目だ。
その瞳には、はっきりと孤独なシーフの姿が写っていた。
「俺もそうだった。ガキの頃、村から追い出された原因がそれだったからな」
「・・・やっぱりそうか。お前、ダットの奴じゃねぇ。『ラムダ族』だろ?」
「ごもっとも」
素直に認めた。
ラムダ族はダットからは遠く離れた森に住む、魔力が強い種族である。
特徴としては耳が微妙に長く、垂れ下がっている。
「話を戻す。お前が何を言おうと俺は全て分かってるんだ。無理に話さなくていいが」
「・・・・・」
ギコはあえて何も言わなかった。
別に眠かった訳でもないが、目を瞑ってネーノの話をじっと聞いていた。
「あと・・・モナーさんの事だけど」
「・・・あぁ、そうだよ」
「昔死んだ兄貴に似ていたんだ」
~続く~
ダットには少し変わった特徴があった。
それは「左右の瞳の色が異なる者が生まれやすいこと」という事だ。
まぁ、特に争いもなく、身分もあまり気にせずに人々は暮らしている。
あ、そうそう。もう一つあったな。
このあたりの地一帯の風習として、「洗礼名」を授かるという事。
いわゆる第二の名前みたいなものだ。
・・・でもな、俺にとってはそんなモンどうでもいい。
俺がここに来た理由はダットのお宝だ。
この国のどこかにすごい秘宝がある情報を聞いたからさ。
嘘だろうが本当だろうが、金目の物ぐらいあるだろう。
この盗賊、ギーコッド・ハーニヤーンの手にかかればな!!
改めて紹介しよう。彼の名はギーコッド・ハーニヤーン。通称『ギコ』だ。
出身も知らなければ親も知らない、生まれながらの盗賊である。
ギコがダットを目指して何日経っただろうか。
やっとダットの城と思われる建物が見えてきた。
「そろそろか・・・、一体どんな奴らがいるんだろうか・・・」
ダットについての資料が少なかった為、ギコ自信も詳しく知る事ができなかったのだ。
「こんな砂漠に慣れてない奴が来てたら今頃死んでるな」
一人で愚痴を言いながらダットを目指した。
運命の歯車が回り出す『時』がこの数分後に起きる事を知らずに・・・。
グオオォォォ・・・
「うぉっ!?何だ、敵か?」
驚いてすぐさま剣を取り出すギコ。
ドォォン!!
「うわぁっ!!こいつ、さっきも出てきやがった奴だな!」
砂でできた敵だ。砂がない所が三カ所あった。恐らく目と口だろう。
その敵はギコの何倍もの大きさがあった。遠くから見たらギコが豆の様に見えてしまうほどだ。
「誰が豆だ!どっかの奴と一緒にしないでくれ!」
そんな事を言っていたギコに、突如現れた砂の触手が襲いかかった。
「危ねっ!アホな事言ってる場合じゃなかったぜ!そらよっ!!」
身軽な体でギコは攻撃を避け、敵に斬りかかった。
ズパァッ!
砂でできていたせいか、敵は真っ二つに斬れた。
「いや~、こういう奴は結構厄介だぜ・・・」
そう言い、剣を素早くしまった。が、
「さてと・・・? うわっ、しまったぁ!!」
砂の触手に捕まってしまった。
「くそ~、困ったな。アレ使うのも効くかどうか分かんねぇし・・・」
両腕を動かそうとしたが、あまりにも力が強かった為、身動きがとれなかった。
「はぁ、絶体絶命ってヤツかよ・・・」
敵を睨みつつ、ギコは苦笑した。
『ファイラ!!』
ドーーンッ!!
どこからか声がし、無数の火の弾が飛んできた。
「あちっ!魔法か・・・!?」
触手から解放されたギコは声のした方を向いた。
敵はもう出現しないようだ。
「ゴメン当たった!?キミ、大丈夫?」
「あぁ、俺は平気だが・・・助けてくれてありがとな」
ギコは珍しい物を見るような目で彼を見た。
「(魔法使いにしては変わった格好してるな・・・)」
「シィリス様・・・」
「えぇ、帰ってきたようね・・・」
「やはり先ほどの炎の魔法、昔より強くなられたようじゃな」
「その様ですね」
所変わって、ここはダット城の王室。
大きな窓から三人は外を見ていた。
ミニスター(大臣)のフゥ・ウンヒョン。
セージ(賢者)のシーラ・ネィ・ヨハン。
そして、プリンセス(皇女)のシィ・ダット・アマデウス。
「・・・きっと、立派なお姿で帰還されることでしょう」
と、フーン大臣。
「そうじゃな。三年も修行すれば、わしよりも魔力が強くなっているだろう」
愛弟子の帰りを誰よりも待っていた老賢者シラネーヨ。
「・・・じぃ、フーン大臣」
外を見たままシィリスは二人にこう言った。
「城の皆にこう伝えて。モナーさんを暖かく出迎える準備を」
「・・・分かりました」
「紹介が遅れたね。ボクはモナー。ダットのウィザード(宮廷魔道師)なんだ」
「え、ダット!?俺もそこに行く途中だったんだ!」
ギコはモナーの手を掴んでこう言った。
「俺はギコ!頼む!ダットの案内してくれ!」
そう、彼はなんといっても位が高い。きっと城に関係ある者だろう、とギコは考えた。
すると、モナーはあっさりとこう答えた。
「うん。なんていうか・・・君の戦いっぷりを見たら皆に紹介したくなっちゃってて」
随分と単純な性格のようだ。
「そ、そうか。アリガトな・・・」
こうしてギコはモナーと共にダットへ向かった。
「ここが・・・砂漠の国ダットか・・・」
想像以上に物が発達した国だった。
ロボットや人々が助け合い、空には物を運ぶ飛行機らしき機械が飛んでいたり・・・。
砂漠のど真ん中なのに噴水や小さな川があり、畑もちゃんとある。
誰がどう見ても豊かな国にしか見えないほどだった。
「変わってないな~」
モナーは懐かしむように独り言を言っていた。
すると、一人のカマナー(庶民)がモナーを見て、こう叫んだ。
「モナー様!?モナー様が帰って来たぞ!!!」
「モナー・・・様?」
ギコは目を点にして、モナーを見た。
相変わらずニコニコした表情だった。
庶民の波に押され、ギコごと城に入ってしまった。
流石にもう庶民はいない。
「お帰りモナーはん!」
「よかった、相変わらず元気そうだな」
「全ク、オ前ドコモ変ワッテナイナ!」
「ただいま。無事に帰ってきたよ」
モナーは城の皆に早速ギコを紹介した。
「この人はギコ。さっき砂のモンスターと勇敢に戦ったすごく強い人だよ」
「え、おっおい!そんな・・・」
すごく強い、と言われ、焦るギコ。
「へぇー。あなた旅の方?」
「まぁ、そんな感じだな」
城の中で盗賊だなんて流石にギコは言えなかった。
「そっか。アタシはガナー!このモナーお兄ちゃんの妹!まだクレリック(聖職者)だけどね!」
「い、妹!?」
確かによく見たらモナーと似ていた。
「俺はフサ。つい最近パラディン(騎士団長)になったんだ。よろしく」
「パラディン!?おめでとうフサ!」
「とうとうモナーより位が高くなってしまったよ」
フサが恥ずかしがって言った。
「アヒャ!俺、ツー。コレデモ最年少ノプリースト(司祭)ダカラナ」
「最年少、か。何歳なんだ?」
「女ニソウイウノハ失礼ダゼ?19ダ」
「おっと、悪かった」
ギコは気付かなかったらしい。
「ウチはノー。ダット城のメイド(召使い)やってるんや。よろしゅうな」
「あぁ、よろしく・・・」
多分、他国から来た者だろうとギコは考えた。
「もう遅いから今日は泊まっていきなよ。明日ダットの案内してあげるから」
笑顔でモナーはギコに言った。
「そ、そうか。宿屋探さないとな・・・」
「何言ってるの?この城に泊まるのよ!ねっ、皆?」
ガナーの問いに皆が頷いた。
「いいのかよ?こんな身分の低い奴を城に入れてもらうなんて・・・」
「イインダヨ!セッカクモナーガ呼ンダ客人ナンダカラナ!」
「ゆっくり休むとええよー」
「それに、こんな体験、一生できないしな」
この城の者は皆とても優しかった。
「じゃあ早速ギコはんの部屋を用意してき・・・!」
ノーの動きが止まった。
2階から二人の人影。
「お帰り、モナー。無事でなによりだよ」
「モ・ナンディ・オーマー、只今帰国しました。フーン大臣」
互いに笑顔を見せて挨拶した。
その時初めてギコは感じた。
「(そうか。モナーっていう名前があの『洗礼名』だったのか・・・)」
すると、フーンはギコの方を見て、顔の表情を変えずにこう言った。
「ギコ・・・だったか。何も無いが、ダットでのんびりくつろいでくれ」
「め、滅相もない!お、お言葉に甘えて休ませてもらいます!!」
つい緊張したせいか、ギコはおかしな言葉遣いになってしまった。
「モナー、シィリス様がお呼びだ。シラネーヨさんも待っている」
「分かりました。行きましょう」
モナーはギコに手を振って、フーンの所へ行った。
ただ、フーンの隣にいた男は、ギコの方を見つめたまま動かない。
フーンは彼の肩を叩き、モナーと三人でシィリスのもとへ行った。
「・・・アイツ、気ヲ付ケナ」
「? 大臣の事か?」
「アァ。ドウモ気ニ入ラネェンダヨ」
「何でだ?」
「噂なんやけど・・・大臣は他国のスパイやないかっていう話があるんや」
「他国の・・・スパイ?」
夜、大きな窓から三日月を眺めた。
ギコは豪華なベッドに座る。眠れないのだ。
「(まさか、こんなにあっさりと城に入れるとはな)」
まるで複雑な気持ちだ。
これは何かの罠じゃないか。とも考えたが、あの皆の笑顔を思うと、そうは感じられない。
「こんな気持ちは生まれて初めてだな・・・」
『そうかもね』
「!?」
とっさに扉の方を向く。
いつの間にか誰かが部屋に入っているのだ。
ギコの部屋は、電気を消していたので、月の光しか当てにならないのだ。
「お、お前・・・大臣と一緒にいた・・・」
「へぇ、覚えてたの」
「一番印象に残ってるからな」
確かにあれだけ見つめられていれば、誰もが印象に残るだろう。
「俺、ネイノード・インジャー。洗礼名はネーノ」
「思ったんだが、随分と名前を短くするんだな。ダットの国民は」
「ギーコッド・ハーニヤーンも短くしてるんじゃネーノ。ギコって」
「愛称みたいなものだ」
「洗礼名も同じ様なモンじゃネーノ」
淡々と答えていくネーノ。
「・・・で、何しに来たんだ?」
ギコは本題に戻そうとした。
「んー、ちょっと話があって。なんて言うか・・・」
「『お宝目当てにダットへ来た自称大盗賊』なんて事分かってるからって事」
「!!」
ギコは心底から驚いた。
「プッ・・・そんなに驚かなくてもいいんじゃネーノ?」
驚いたギコに笑いをこらえながら言った。
「いつ・・・分かった?っていうか何か余計な事までも・・・」
「あれっ、自分でも分かってるんじゃネーノ?」
そう、あの時。
見つめられてた時だ。
「そうか・・・。俺の心を読んでたんだな」
「悪かったな、あの時は。メイジ(魔道師)だからああしないと心読めないんじゃネーノ」
「メイジ・・・なるほどな」
「ギコは盗賊だからシーフ、か」
真面目な顔のギコに対し、ネーノはふざけた様な振る舞いをした。
「ちなみに・・・モナーさんもフーンも皆、知ってるから」
「なっ・・・!?」
「おっと、心配ご無用じゃネーノ。あんたを追放するとか、罰するとか、そんなの全くしないから」
なんという国だろうか。
普通だったらもう殺されているかもしれないのに、そんな対処もしない国があったなんて。
ギコは唖然するしかなかった。
この生きてきた18年間、正体がバレてこんな事になったのは初めてだ。
ネーノは開いていた窓に腰掛け、月を見る。
「約束通り、明日ダットを案内するんじゃネーノ?」
「・・・もう俺には、そんな必要はないはずだぞ?」
「何だ、帰るの?」
「もうここに用は無い」
「つまんない・・・」
「ハァ!?どういう事だよ?」
「だってさぁ」
ギコは話疲れたのか、ベッドに寝転がる。
ネーノは外を見たままギコの方を見ない。
「あんた、帰る所ないんじゃネーノ?ここにいれば?」
「ふざけるなっ!!」
ギコは大声を上げた。
「しっ!他の奴らが起きたらどうするんじゃネーノ!?」
「・・・・・」
「唐突に言った俺も悪かったけどー・・・」
「・・・どういう事だ、ネーノ」
「まあまあ、落ち着くんじゃネーノ・・・」
流石のネーノもこればかりは驚いた。
「・・・隠し事はもうしなくていいんだ、ギコ」
人が変わったかの様に真面目な表情になった。
「お前欲しかったんだろ?仲間っていうのを」
「な、何の話だy」
「嘘つくな」
「ついてねぇっ!」
ギコは頭を横に降り続ける。
「昔から一人で生きてきたんだ。・・・仲間なんざ知るかよ!」
「・・・あのな」
ネーノのつり上がった細い目が開いた。
「自分に嘘をついてると、一生後悔するはめになるぞ」
「っ!?」
綺麗な水色の目だ。
その瞳には、はっきりと孤独なシーフの姿が写っていた。
「俺もそうだった。ガキの頃、村から追い出された原因がそれだったからな」
「・・・やっぱりそうか。お前、ダットの奴じゃねぇ。『ラムダ族』だろ?」
「ごもっとも」
素直に認めた。
ラムダ族はダットからは遠く離れた森に住む、魔力が強い種族である。
特徴としては耳が微妙に長く、垂れ下がっている。
「話を戻す。お前が何を言おうと俺は全て分かってるんだ。無理に話さなくていいが」
「・・・・・」
ギコはあえて何も言わなかった。
別に眠かった訳でもないが、目を瞑ってネーノの話をじっと聞いていた。
「あと・・・モナーさんの事だけど」
「・・・あぁ、そうだよ」
「昔死んだ兄貴に似ていたんだ」
~続く~