〇「落ちもの」パターン
いつもと変わらない日常のはずだった。
総じて「普通」「平凡」と呼べる俺は、それでもこの日常を、そこそこ満足に過ごせていた。
学業の点数は、とりあえず平均やや上を狙えばよかったし、それに見合うだけの自分の実力と勉強方も確立した。
体育活動の部活系には入ってないけれど、規模の小さな「文芸部」の活動に属している。
ここではそれとなく作品を書いて、それっぽいのを投稿すればいい。
そして概ねこういう部活動に所属しているのは、漫画、ゲーム、アニメが好き。
性格の不一致があっても、趣味が概ね合って、お互いの興味を惹いて、楽しい話題を提供するのにも事欠かない。
なんというか、高校二年になって、ぷち安定期に入ったなと感じていた。
ガツガツ、中学のように受験ノイローゼになることもなく、高校一年目の微妙な間合いのやり取りも無く、
大学受験も、「コツ」を掴んだ今の調子でやっていけば、それとなく事は上手く進むだろう。
――なんて、割と楽観的に考えていた。と言えばそうだ。
そこにプラスマイナスの要因が生じたからといって、そんなに大きくはブレないだろう。と、思っていた。
「さて、どなたか、説明を要求しますよ」
独り言をつぶやいたのには訳がある。
目の前に「竜」がいる。あれだ、それっぽく言えば「レッドドラゴン」か。
モンハン風に言えば「リオレウス」やな。
おわかり、いただけるだろうか。俺。
学校から帰っている途中で、いきなり視界が暗転したと思ったら、周囲が開けた草原に変わり、いきなり、目の前に「竜」ですよ。
見渡しのよろしい、遮蔽物の少ない、どう考えても逃げ場ゼロのポイントに、ドラゴン。ガン身、俺。
口腔から滴り落ちる唾液。金色の瞳は、紛れもなくこっちを捉えている。
おわかり、いただけるだろうか。
おかしいな、俺、どこで異世界に入るフラグ立てたんだっけ……。
「…………ルル…」
よくあるパターン1.俺、覚醒する。→ そんな気配なし。
よくあるパターン2.救援する味方現る → そんな気配なし。
よくあるパターン3.ドラゴンが、実は味方だった。→ 舌なめずりしていらっしゃる。
普通に考えればこうだろうパターン。無抵抗のまま死す。→ ですよね。
〇転生パターン
学校からの帰り道、いい具合に車に跳ね飛ばされた瞬間のことを、よく覚えている。
それがつまり前世の記憶で、妙にふやけてぼやけた視界のなか、
「〇〇ちゃん、ママですよー」と言う女性の顔が映る。
あまり考えると頭が痛むのは、脳が未発達なせいだ。
俺は深く考えず、あぁ、転生したんだなぁと思っていた。それにしても、母親の言葉が、
生前に馴染みのある日本語であったから、ここはきっと日本なのだなと思っていた。
じゃあ、自分の家族に会うこともあれば、先に死んじまってごめん、とか謝れるかなと思ってた。
――で、七年ほど経った今日このごろ。
いろいろと、知識が取り入れられる程度に脳みそが発達したおかげで確信した。
ここは、俺の知っている「日本」じゃねぇ。
「――美雪、またニュースばっかりみてるの?」
「はぁーい、おかーさん」
そして、俺の声は、子供だからというだけでない、綺麗なソプラノだった。
鏡に映る姿は、自分で言うのもなんだが……。美少女である。うむ。
〇なんとなくばとる。
夕焼けの空に、白い尾を引く二対の線上痕が奔っていく。
その標的となっているのは、正しく空想上にしか存在しない生命だった。
曰く、竜である。
さらには明確な物理法則を無視し、巨大な両翼をゆったりと羽ばたかせるのみで、
海面上空三百メートルという低空域を、空気抵抗をものともせず、無視するように滑空し、
疾駆していく。
さらには翼が一度大きくはためかせれば、大気が振るえ、風自体が、まるで意思を持つかのように、
「飛竜」の急転上昇を可能とさせる。
そして後ろより、やはり違うことなく「ロックオン」されたFOX2が追尾。
飛翔、転移、滑空、上昇、落下、音速を超え、じゃれるように自在に飛び回った後に、
人類の兵器と相対する。口腔が開く。
赤い舌先のさらに奥、喉元より、チロチロと原始的な「炎」が、
――ぐ、おっ。!
吹き荒れた。戦闘空域の一角で乱舞。FOX2を包み込み、燃料火薬に着火、爆散。
「飛竜」は悠々と飛び抜け、猛りに吼えることもなく、自分の牙先一つほどの存在たちに向かい、
「フシュゥ」と焦げ付いた吐息を漏らしていた。
宙を飛ぶのは、学生服を着た、ティーンエイジャー達だ。
外見・性別はバラバラ。持っている武器――もしくは兵器も、バラバラだ。
肩に巨大な多弾砲ロケットを構えた、一際小さな少女が、ぷくーっと頬を膨らませる。
「あちきのミサイル効かねーでやんのー。ぶーぶー。かいちょー、あれヤバくねーっすかね」
「ですよね! 副会長、俺もそう思ってたところなんですよ! 逃げましょうよマジで!!」
「大丈夫だ、書記。お前が死んでも骨は――あー、深海魚だかに食われて糞になるだろ。たぶん」
「慰めになってねぇ!? しかもたぶんて!! 拾えよ! 頼むから!! いや死なんけどな!!」
「書記っちー、フラグ立てないでよー。もー」
「フラグじゃねぇってか、人が死ぬことを前提に話さないでください副会長っ!!」
「下っ端書記はぁ~♪ いくら死んでも代わりがいるのですぅ~♪ ららっら~♪」
「会計! そういうこと言うのやめような! 今から命がけのバトルだろ?!」
「書記男のせいで、マジテンション下がるっつーかー。とりあえず、お前盾な」
「板書きまで !ひどい! この生徒会マジひでぇ!」
〇日常系
いろいろと大変な時代背景ではあるが、どんな状況下においても共通していることは一つだ。
「メシが、美味いか、不味いかで、人の心は、豊かにもひもじくなりますわぁ~!」
「ハッ、ざまぁ」
「アメリカ~。A定食、一口わけてください~」
「うるさい、あんたにやるメシは無い。腐れ貴族趣向の英国人め。
毎日毎日、アフタヌーンティーばっか飲んでるから、仕送り全部使っちまうんだろうがよ。
お家に帰って、ママが作った茹ですぎた野菜のスープと、フィッシュ&チップスでも食ってな」
「くっ! 元は我が国から出張った分際の国家がなにを偉そうに!
なんであれでっかくすりゃいいってもんじゃねーですの! この大雑把ハンバーガー大国!!」
「ハァ!? 私の州のバーガーディスってんじゃねーよ!
大味でもしっかり味のついてる国家料理と、味覚オンチのファッキンファーストと一緒にすんな!」
「上等ですわっ! ちょっと表に出なさい米国女!」
「ランクC風情の弱小貴族が生きがりやがって! 上等だ死ねっ!!」
「――あれだな。やはり食文化の違いというのは大きいな。日本」
「本当にそうですね、ドイツさん」
「食事は静かに、迅速に、決して残すことなく、効率よく摂取したいものだな」
「まったく、本当に同感ですわ。ドイツさん」
「まぁ、時にこの学園の肉料理、特にソーセージは最高なのだが、
いかんせん、スシ・サシミというのだけは理解し難い」
「……え?」
「川魚を、コイやマスをよく冷やして調理し、ソースをかけて食うのはわかる。
だが、なにゆえに、新鮮な海の幸を、生で食おうとするのか解せぬよ」
「それは美味しいからですわ。ショーユをかけて食べてみてください」
「いや、無理なものは、無理だ。現実的に無理だ。ワサビというのも、なんだアレは理解――」
「……ドイツさん、ちょっと表出ましょうか?」
「ねー、北海道。ぐびぐび」
「昼間からスコッチ飲んでんじゃねーわよ、ロシア」
「北海道さー、ロシアにちょーだいよ。いーことしてあげるよぅ。えへー」
「ふざけないでよねっ。どこまで独占欲が強いのよ。だから崩壊しちゃうんでしょ」
「でっかくて広いことは、良きことだもん! みーんな言語統一しちゃえっ! ぐびぐびっ!」
「バカ。こぼしてるじゃない。度数高いんだから。引火したらどうすんのよ」
「えへー、北海道ちゃん大好きー」
「私はだいっきらいよ。あぁもう! ここからは私の領土だって言ってるのにっ!
乗り越えてこないでってばぁ!」
「地中海付近の、ミラノ人とかってぇ、陽気な人が多いとか思われてるじゃねーか」
「まぁね」
「それって大きな勘違いだっての、確かに気候が安定してるぶん、安定期に入った時はいいんだけどよ。差別とか大変だったんだぜ。ほら、えーと、革命とか革命とか革命とか、えー……海賊とか」
「まぁね、ところでフランスと着たら、パリは芸術の都だとかお高くぶって階級わけたわね」
「それを言ったらイタリアなんてパスタパスタパスタだろ……」
「何が悪いの? パスタ美味しいじゃない。むしろパスタがあれば生きていけるでしょ?」
「ぷっ。脳味噌が麺でできてるなら、そうなんだろーなー」
「フランス、ちょっと表でない?」
最終更新:2011年11月07日 12:25