WaveRider VS SkyDiver



「チッ……! しつこいヤツだ!」
 減速からの急加速。同時に機首を引き回して方向を変え再度スロットルを押し込み、即座にブレーキング代わりにMS形態へと変形。急激に増した空気抵抗が一気にゼータのスピードを奪い去り、完全な静止状態へと移る一瞬前に再変形、再加速。連続した加減速の、見惚れるようなアクロバット飛行。それだけの機動を行って尚一度もバランスを崩すことなく、そのゼータプラスは一気にその場を離脱する。
 ……しかし。
「これでも駄目か!」
 ついて来ている。
 ……パーソナルカラーに染め上げられたZプラスの少し後ろ。ぴったりと張り付くようにゼータを追跡するスカイブルーの機体を前に、ジェシー・JD・ドライブスは舌打ちを零し――そのMSのパイロットはニヤリと笑った。
「……悪いな、ゼータのパイロット。アンタに仕事をさせるワケにはいかないんだ」


 前回の出撃から、更に数日後。
 ……宇宙から降下してくる戦艦の位置情報をAICがキャッチし、降下直後の戦艦への襲撃を決めたのは、つい数時間前のことだった。
 サハラ基地所長ガルシア・マックラーレンによる指示は、「戦艦の破壊もしくは拿捕」。……敵さんの新造戦艦というヤツを襲撃するついで、あわよくばAICの戦力にしてしまおう、ということらしい。
 今回出撃するMSは合計6機。AIC-01から04までと、06。そして認識ナンバーとして11のナンバーを振られたエルカ・パッドのジムだ。05とクロード・J・エヴァンスは万が一に備えて後方待機ということらしい。
「……足は引っ張ってくれるなよ? 先輩方」
 ……サハラ基地を出撃した直後。
 ウェイブライダー形態で6機のMSの先頭を駆け抜けながら、JDは何処か挑発的な台詞を各機へと返す。
「……っく……!」
 真っ先に反応を返したのは、03、アルクのアーク=オブ=ノアだ。……やはり、前回の失敗が尾を引いているのだろう。通信機を通して、呻き声が漏れる。
 しかし、返された反応はそれだけだ。……何を言っても言い訳にしかならないことを、彼自身悟っているのだろう。……失敗は、実戦で取り返す。その決意を表すように、アルクは沈黙を保ち。
「へっ……言ってくれるじゃないか、トップガン」
 その後を継いだのは、01、ジェガン・ランサーのハーディだった。
 ……しかし、口調に苦々しいものは無い。普段と同じく、何処か面白がるような調子のまま。ハーディはそのまま言葉を繋ぐ。
「そっちこそ、突出し過ぎて撃墜、なんてオチが無いように頼むぜ? 前に出すぎたヤツをフォローするのも大変なんだからよ」
「いや、アンタが言うかソレ」
 ……横からツッコミを入れたのは例によって02。メトロ・シングだ。……最近、ツッコミ役としてキャラが立ってきた感がある。が、まぁ、それはともかくとして。
「前は兄さんが真っ先に突っ込んでたんじゃないか」
「前は、だろ? 最近はしてねぇよ。そういうお前はどうなんだ、メトロ?」
「ああ、こっちは大丈夫だよ。もともとあんまり前にも出ないし。……それに、今日はフラグを立て忘れてきた」
 フラグを立て忘れること自体が死亡フラグ、という高度なフラグ立てであるらしい。……一拍遅れて、それを理解したのか。ややこしいな、と――先頭を行くJDは呆れとも苦笑ともつかぬ程度に唇を歪め。
「何処かの小僧じゃあるまいし。ありえんよ」
「そう願いたいね」
 ……皮肉混じりの返答に、皮肉混じりの返答が返り。ぐ、と。また、アルクが呻きを漏らす。
「……おいおいおめぇら。若者イジメでじゃれ合うのもいいがよぉ。今回はガチのルーキーが居るってこと忘れちゃいめぇな?」
 不意に、先頭を行く4機の遣り取りに呆れたように。やや後方から、04の通信が割って入った。
 トニーの言葉に、各機が一斉に後方を確認する。……6機の編隊の最後尾には、エルカ・パッドのジムの姿があった。
 ……他の5機に比べて機体性能で劣る、という点を差し引いても。見るからに、動きが硬い。遅れがちなのは、何も推力が低いという理由ばかりではあるまい。
 視線が集まり、ようやく其処で自分に話題が振られていることに気が付いたのか。
「だっ、大丈夫です! 行けます! イケてます!」
 ……あからさまにテンパった調子で、エルカが返答を返した。どうやら、機体制御に集中する余り、先までの話題は耳にすら入って居なかったらしい。
 5機の間に苦笑が広がる。
「……まぁ、なんだ。無理はすんなよ?」
「こっちでフォローはしてやるから、気楽にな」
 気遣うメトロとトニー。……それを見て、ハーディは天を仰ぎ、アルクはかける言葉に迷い。
 JDは、ますます苦笑を深くした。
「やれやれ。……ますます子守染みてきたな」




「……今回の我々の仕事は、降下直後に予測されるブラッディホースへの各勢力の襲撃、その迎撃と護衛任務だ」
 サハラの一角。……新造艦の降下ポイントへと移動をしながら。第10小隊隊長、グレン・ローランは部下へとそう言葉を向けた。
 ブラッディホースとは、新造艦の名称だ。……ティターンズの開発した新造ペガサス級一番艦ブラッディホース。降りて来る船のことを、第10小隊の面々はそう聞かされていた。
「新造ペガサス級か。どんな船なんだろうな?」
「……どんな船だっていいさ。あのゼータとMk-Ⅱをおびき寄せてくれるならな」
 アロイス・ルイスの問いと、エイヴァール・オラクスの返答。
 その見事な食い違いっぷりに、アロイスは思わず肩を竦める。
「大分入れ込んでるな?」
「当たり前だ。……何の為に、こんな装備をしてきたと思っている……!」
 今回のアドバンスド・ヘイズルの武装はタイプS。……つまりは強襲形態だ。ゼータの機動力に対抗する為だろう、背部にシールド・ブースターを装着し推力を大幅に高めている。
 これならば。……自機から感じる力強いスラスターの手応えに、エイヴァールが暗い笑みを漏らした時。
「……尚。報告にあったアンノウン部隊が現れた場合の対処だが」
 不意に、グレンが、そのゼータの所属部隊に言及した。……は、と。エイヴァールは、顔を上げ。
「……前回遭遇したゼータタイプへの対処は103に一任。その間に残りの4機で他のMSを撃破する」
「なっ……!」
 驚愕に、目を見開いた。
「ま、待って下さい隊長! あのゼータは……!」
「何か異論があるのか、エイヴァール・オラクス中尉? ……私は戦略的にはこれがベストだと判断した」
「ぜ、ゼータを抑える役目なら、俺にだって!」
「機体の相性の問題だ。……他に何かあるか?」
 取り付く島も無いとはこのことだ。エイヴァールの抗議を切って捨てたグレンは、そう言って己の部下を見回し。
「無ければ、各機散開し、配置つけ」
 ……屈辱に震えながら。エイヴァール・オラクスは命令に従った。


「見えたぞ……!」
 ……ティターンズ艦の降下予測ポイントは、どんぴしゃり。ウェイブライダー形態で先行するJDの視界に、赤と黒――ともすれば連邦ではなく、ジオンを連想させ兼ねないカラーリングの戦艦が目に入る。
「趣味の悪い船だ」
 ぼそり、と感想を漏らしながら、一瞬、JDは後方を確認する。
 先頭を行く06からは大分遅れて01。そのすぐ後に02。やや遅れて03が入り、更に遅れてエルカ・パッドのジムがあり、最後に04がフォローをするようにそのすぐ後ろに入っている。
 04以外は、機体の推力がほとんどそのまま出た形だろう。……ともあれ、其々の位置関係を大雑把に確認だけすれば、JDはスラスターのレバーを前へと倒す。
「先行する!」
 抗議の声は、ゼータの機体に追いつけない。……既にミノフスキー粒子が散布されているのだろう。通信距離が大分制限されているらしい。
 06の加速と共にウイングバインダーが風の抵抗を受け、同時にそれを真っ二つに切り裂く。……空力を完全に計算されたウェイブライダーのボディが、切り裂いた風を取り込み揚力を生む。
 その分だけ機体を浮かせる為の推力が不要となれば、スラスターは横方向にのみ推力を向ける。……其処から生まれるのは大加速の三文字だ。
 あっという間の接近。ゼータドライバーのお約束どおり先陣を切ったJDは、一気に敵戦艦へと肉薄する。……しかし。
「……護衛部隊か!」
 そのJDの前に立ち塞がるように、進行方向に数機のMSが見えた。その中には、前回の出撃で遭遇した機体もある。……更に、戦艦からもMSがそれと同じか、それ以上の数が出て来ているようだ。
 流石に放置するワケにも行かない。……ブリーフィング時に打ち合わせた作戦通り、まずは護衛部隊から叩く。
「JD、交戦する!」
 敢えて06のナンバーを口にせず。……JDは前回同様、ウェイブライダー状態のままビームスマートガンを発射。狙いは……敵部隊の先頭を行く、やたら目立つ銀ピカの機体だ。
 戦艦も戦艦なら、MSもMSか。ティターンズの趣味の悪さに辟易としながら、今度はウェイブライダー状態のままJDはZプラスの機首を上げ、余裕を持って着弾を確認――……!
 ……――瞬間。JDを3つの驚愕が襲った。
 一つ目は、銀色の機体が手を翳し、着弾の瞬間スマートガンのビームを弾き散らしたことであり。
 二つ目は、敵部隊の遥か後方から、高出力のビームがZプラス目掛けて飛来したことであり。
 三つ目は、それと連動するようにして、空を行くZプラスの更に上方から襲い掛かる機体があることだった。
「……っ!? 何だ!?」
 思わず口を突いた問いはどれに対するものだったろうか。
 反射的にJDは06の機体を捻りバレルロール。咄嗟の挙動に制御を失いそうになる機体を押さえ込み、ビームを回避。……続いて上空から襲い掛かった機体の一撃を、アクロバット中にMS形態へと変形することで慣性を殺し、これも強引に回避する。
 くるくると空中をMS形態で回転しながら、JDが見たものは
「RX-139、ハンブラビ……!」
 ゼータと同じ第三世代の可変型MS。……大空に溶け出すようなスカイブルーのハンブラビだった。



 相性が悪すぎる。
 ……数度の交差による接触で、JDはハンブラビの戦法を瞬く間に理解していた。
 通常、高高速度での機体同士の接触は、ほとんどの場合死を意味する。……互いに高速度を持った鋼の衝突は容易く機体の挙動を乱し、接触部位を破壊するからだ。……建て直しの出来る範囲ならばいい。しかし、うっかり推進器がイカレ、制御不能になってしまえば、空を行く機体を待っているのは墜落による死の運命だけだ。
 だというのに、このハンブラビは、MA形態での特攻を戦法の一つとして組み込んでいる。
 恐らくは簡易な変形機構故の頑丈さと、腕部に装備された大型クロー等の接近戦用武装がそれを可能にしているのだろう。文字通りの意味でドッグファイトが得意技だというワケだ。
 残念ながら、ゼータプラスには其処までの頑丈さは無い。……あるいは機体の強度のみで言えばさほど引けは取らないのかもしれないが、それでもMA形態のまま格闘戦を演じるような真似は出来ない。
 何しろ、ゼータプラスC1型の主兵装は長モノのビームスマートガンだ。格闘戦にはこれ以上無い程不向きな武装である。……ドッグ・ファイト用の火器としてはビーム・キャノンを搭載してはいるものの。逆に言えば、近距離で用いることの出来る武装はソレぐらいしか無い。相手もそれが解っているのだろう、あからさまに警戒した位置取りをして、易々とは喰らってくれそうにない。
 ……しかし、それでも、マトモに戦えば勝てない相手では無い。
 機体の相性の悪さを差し引いても、JDは自身と相手の戦力差をそう判断していた。
 だが。
「……今度はどうだっ……!」
 不意を打って空中でレバーを倒し、JDはゼータプラスをMA形態からMS形態へと移行。
 同時にビーム・サーベルを引き抜き、すぐ後ろを追いかけて来ているはずのハンブラビへと無理矢理に格闘戦を挑む、が。
「それには乗れないなっ!」
 ……ハンブラビはそれには応ぜず、MA形態のままゼータを大きく迂回すれば、やや離れた場所でMS形態へと変形する。
 そう。……ハンブラビは、JDが対決の意思を見せた途端、途端に逃げ腰になり守勢に入ってしまうのだ。
 かと言って、他のMSの援護に向おうものなら、コバンザメよろしく張り付いてドッグファイトを挑んでくる。
 ……其処から導き出される意味は一つ。つまり、このハンブラビはJD専用のマーカーなのだ。
「嫌われたものだなっ……!」
 それでも、実力の差故か、散発的にビームスマートガンの射撃を他所に飛ばすコトは出来ているものの。……ハンブラビはそれ以上を許さない。
 加えて。
「チッ……!」
 ……散発的に援護射撃を飛ばしているのは、何もJDだけでは無いらしい。MS形態で一瞬動きの止まった瞬間を狙い、またもセンサーの範囲外からビームが飛んでくる。寸でのところで、06はこれを回避。
 アルクの言っていたスナイパーだろう。……先程から実にうっとうしいタイミングで狙撃を仕掛けてくる。このビームが無ければ、既にハンブラビを一度や二度落としていてもおかしくは無いものを。
 しかも、どうやらそのスナイパーはJDだけを狙っているわけでは無いらしい。先程から、僚機の悲鳴が通信機を通じて聞こえてくる。
 ……センサーを見れば、既に赤いティターンズ艦はかなり遠方へと遠ざかっていた。あるいは06のみならばまだ追いつけないこともないのだろうが、既にこの時点で追撃は絶望的だろう。
 舌打ちと共に、その段になっても未だにハンブラビを振り切れないことに、JDは焦燥を覚える。……僚機は、今の所互角に戦えてはいるものの……じりじりと、追い詰められているようだ。戦艦撃墜を諦めたとしても、せめてあのスナイパーをどうにかしないことには本当に全滅しかねない。
 そして、更に言うならば。……AIC6機のMSの中で、超長距離のスナイプに対抗出来る装備を持っているのは、今の所自分の機体しか無いようだ。
 今、また僚機からの破損報告が飛び込んできた。……時間が無い。
 そう判断すれば、JDは06を再びウェイブライダー形態へと変形させ――地上への加速を開始した。
「見せてやる、ZDriverの戦い方をな……!」



「……正気か、ゼータのパイロット?!」
 ゼータの後を追いながら――103のコックピットで、アロイス・ルイスは悲鳴を上げた。
 本来、MS戦闘ではありえない――MA形態を持つ可変MSだからこそ可能な機動、真っ逆さまのパワーダイブ。
 機首を真下へと向けての急加速に、アロイスの背筋へと嫌な汗が噴出し始める。
 高度計がありえない速度で数値を変える。
 視界一杯に広がった地表が見る間に距離を詰める。
 ……呼吸が苦しい。
 視界が、狭まる。
 しかしそれでも、ゼータは加速を止めない。
 ――地表への激突。最悪の想像が脳裏を過ぎる。いかに頑丈なガンダリウムの機体とはいえ、この速度で叩き付けられれば万が一にも無事はありえない。
 徐々に徐々に、ハンブラビがゼータに離され始める。
「っ……な、めるなっ……!」
 ……だが。
 アロイスは恐怖を振り切るように叫びを上げれば、レバーのスロットルを前に倒し。遅れを取り戻すように速度を上げ、ゼータプラスに追い縋る。
 ……つまり、これはチキンレースだ。ゼータの狙いは、こちらが速度を緩め離脱すること。……下手に逃げれば、狙い撃ちにされる。
 ゼータのパイロットとて、自殺するつもりは無いだろう。何処かで速度を緩めるはずだ。
「ならば、こちらもそれに合わせる……!」
 それが最も安全な策だ。
 そうと決めれば――迷う必要は無い。
 アロイスはゼータの挙動と、高度計にのみ集中する。
 地表までの距離は、あと、500m。
 その距離も、瞬く間に消失して行く。
 ……400m。
 まだ、行ける。……昔は、旧時代の航空機が、垂直爆撃を仕掛け始める高さだったと聞く。ならば。
 ……300m。
 ゼータにまだ動きは無い。
 ……200m。
 ――そろそろ、危険域だ。壁に向って突撃しているような閉塞感。速度を緩めるか、機首を上げる準備をしなくちゃならない。……のに。
 ……150m。
 おい、冗談だろう……?
 この期に及んで、ゼータの機体は速度を緩めるどころか、パワーダイブを止めようとする気配すら無い。
 ……イカレてやがる!
 アロイスの背筋を冷たいものが通り抜ける。……在り得ない。これ以上は無理だ!
 ……100m。
 限界だった。
「くっ……ぅ、くそっ……!」
 一秒にも満たぬ時間の中、ハンブラビの機首を起こながら、アロイスはスロットルを引きスラスターを逆進噴射。同時に機体をMS形態にしてエアブレーキをかけ、亜音速に達していた速度を一気に殺す。
 これ以上は、付き合いきれない。……見れば、ゼータプラスはとうとう一度も減速をすること無く――……地表へと辿り着いていた。視界の中、残り数十メートルといったところでやっとウェイブライダーの機首を上げたのが見えたが、もう遅い。
 あの速度では、どう足掻いたところで地表に激突し――……。
「なっ……!?」
 ――瞬間。
 ふわり、と。下から何かに押上げられたかのように、ウェイブライダーの機首が跳ね上がり。……何事も無かったかのように、水平飛行へと移っていた。
「ば、馬鹿な……!」
 驚愕に、アロイスの思考が一瞬真っ白になる。……馬鹿な。ありえない。どうやって?
 ……答えの代わりに返されたのは。ビームスマートガンの銃口。
 流れるような動作でゼータプラスがMS形態へと変形をし終えて初めて、アロイスはそのことに気がつく。
「しまっ……」
 ――叫ぶ間も無く。どん、と。ゼータプラスの主砲が、ハンブラビを貫いた。


「……波に乗るからこそ、ウェイブライダーだ」
 ……アロイス・ルイスが求めた不条理の解答は、言葉にするなら単純なものだった。
 大気中を高速で物体が通過する際には、その周囲に衝撃の波が発生する。特に音速に達した際のソレはソニックブームと呼ばれ、至近距離で発生させればただそれだけで相応の破壊力を有する武器とすら成り得る。
 JDがしたことは、そのソニックブームを至近距離で地面に放ち、返って来た反動で機首を跳ね上げた。……ただ、それだけのことだ。パワーダイブも、単に機体をより音速に近づける為の加速に必要だっただけのことで、JDには最初からチキンレースなどを挑む気などは無かったのだ。
 何故なら、彼は、ハナから知っていたのだから。
 ……レースなんて、するだけ無駄だと。空の上で。ZDriverに追いつけるMS乗りなど、存在しないのだから。
 戦っていた敵は、他の誰でもない、自分自身。……JDに取っても、今回の飛行はそう容易いものでは無かった。言葉にするのは簡単でも、あんな真似が出来る人間は、それこそ一握りのZDriverだけだろう。
 だからこそ。
「年季が違うんだよ、小僧」
 己にはそれが出来ると、彼は確信していたのだけれど。
 ビームスマートガンの一撃はハンブラビを破壊するには至らなかったものの、ウイングバインダーに風穴を空けていた。……アレでは、もう、コバンザメの真似事など出来まい。
 そう判断すれば、JDはトドメを刺すよりも、スナイパーの対処を優先し――……。
「これで、詰みだ!」
 ……一気に06の高度を上昇させ、姿の見えぬスナイパー目掛けビーム・スマートガンの一撃を放った。






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最終更新:2007年09月06日 01:27
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