Gnossienne No.4 ◆Su10.RK3MU
【001】
異例事態である。
僕は――僕こと阿良々木暦はこれまでに語り部として様々な《物語》を語ってきた。
それは僕という人物のことであったり、僕の周辺にいる人物のことであったり、あるいはそれらにまつわる事件、
また取り留めのない出来事、戯言であったり、逆に含蓄のあるエピソードだったりを、それこそ悲喜交々に
多くの無駄と脱線を含んだ上で、好き勝手に自由奔放に、僕の思うままに語ってきた。
しかし、今回のこれはそれらとは全く異なる。
僕は――僕こと阿良々木暦はこれまでに語り部として様々な《物語》を語ってきた。
それは僕という人物のことであったり、僕の周辺にいる人物のことであったり、あるいはそれらにまつわる事件、
また取り留めのない出来事、戯言であったり、逆に含蓄のあるエピソードだったりを、それこそ悲喜交々に
多くの無駄と脱線を含んだ上で、好き勝手に自由奔放に、僕の思うままに語ってきた。
しかし、今回のこれはそれらとは全く異なる。
繰り返すが異例事態なのだ。
なにが起きたのか。あるいはなにが起きなかったのか。そういうレヴェルにおいての異例事態ではない。
そういう意味で異例だというのならば僕の語る物語は毎回が異例だと言えるだろう。
高校2年生から3年生に移る春休みより僕の人生は予想だにもしない展開を、唐突に、理不尽に、衝突するように迎え、
滅茶苦茶に転がり始めた。七転八倒なんてものじゃない。百転百一倒なんてものである。
とはいえ、後悔の数は山ほどあれ、僕は同時に満足もしている。
例えどんな人生を生きようと人生はかけがえなく、そして今の僕がいるのだ。なのでIFに思いを馳せることに意味はない。
さておき、そんな人生訓めいたものを、しかもまだ若造でしかない僕が語ったところでそれは滑稽でしかないし、
今は滑稽でしかないそれを語っている場合ではない。
なにが起きたのか。あるいはなにが起きなかったのか。そういうレヴェルにおいての異例事態ではない。
そういう意味で異例だというのならば僕の語る物語は毎回が異例だと言えるだろう。
高校2年生から3年生に移る春休みより僕の人生は予想だにもしない展開を、唐突に、理不尽に、衝突するように迎え、
滅茶苦茶に転がり始めた。七転八倒なんてものじゃない。百転百一倒なんてものである。
とはいえ、後悔の数は山ほどあれ、僕は同時に満足もしている。
例えどんな人生を生きようと人生はかけがえなく、そして今の僕がいるのだ。なのでIFに思いを馳せることに意味はない。
さておき、そんな人生訓めいたものを、しかもまだ若造でしかない僕が語ったところでそれは滑稽でしかないし、
今は滑稽でしかないそれを語っている場合ではない。
異例事態なのである。
何が異例なのかというと、簡単に言うとこの《物語》はまだ終わっていないのだ。というよりも始まったばかりである。
まだ語るほどのストーリーがあったわけではないし、無論オチもついていないし、現在進行形だったりする。
ミステリで例えるなら第1の殺人事件が発生したところ。
アニメで例えるならアバンが終了しこれからオープニングアニメが流れ始めるといったところか。
もっとも、ここ最近のアニメじゃ1話の場合オープニングアニメを流さないって場合も多々あるようだけど、ともかく。
ならば何故語るかというと、終わってもないことを語り始めるのかというと、やはり起こった事も異例事態だからだ。
何が異例なのかというと、簡単に言うとこの《物語》はまだ終わっていないのだ。というよりも始まったばかりである。
まだ語るほどのストーリーがあったわけではないし、無論オチもついていないし、現在進行形だったりする。
ミステリで例えるなら第1の殺人事件が発生したところ。
アニメで例えるならアバンが終了しこれからオープニングアニメが流れ始めるといったところか。
もっとも、ここ最近のアニメじゃ1話の場合オープニングアニメを流さないって場合も多々あるようだけど、ともかく。
ならば何故語るかというと、終わってもないことを語り始めるのかというと、やはり起こった事も異例事態だからだ。
これまでのどの物語よりも異例。先が読めない。命の保証がない。後々、僕が回想できるかも想像できないし、
オチがついたとて僕がそれを知りうるかも定かでない。知ったとしても語れる立場にあるのかもわからない。
故に、異例として、例外として僕はこのまだ物語にもなっていない語り部である僕ですら知らない物語を語るのだ。
もし僕がこの物語の最後までいられなくなったとしてもこれがなにかの切欠になるように。
助けを呼んでいるわけじゃない。追ってもらうためでもない。
感心してほしくも、経験にしてほしくも、笑ってもらうためでも、ましてや悲しんだり憤ってもらうためでもなく、
無論アニメ化などを望むべくもなく、誰に届かなくてもいいと諦め、けど語った事実だけはどこかに残るはずだからと、
存在証明として僕はこの物語を語る。
オチがついたとて僕がそれを知りうるかも定かでない。知ったとしても語れる立場にあるのかもわからない。
故に、異例として、例外として僕はこのまだ物語にもなっていない語り部である僕ですら知らない物語を語るのだ。
もし僕がこの物語の最後までいられなくなったとしてもこれがなにかの切欠になるように。
助けを呼んでいるわけじゃない。追ってもらうためでもない。
感心してほしくも、経験にしてほしくも、笑ってもらうためでも、ましてや悲しんだり憤ってもらうためでもなく、
無論アニメ化などを望むべくもなく、誰に届かなくてもいいと諦め、けど語った事実だけはどこかに残るはずだからと、
存在証明として僕はこの物語を語る。
まだ誰も知らない。名前のない《■物語》を――
【002】
その時、僕はなんの変哲もない路をただ歩いていた。
この場合、路というのは別段人生や何かの隠喩だったりはしない。正真正銘、ただの道路だ。
僕は街中のアスファルトで舗装されている道路をただ歩いていたのである。
そこに不正行為やフラグ立てはなかったはずだ。
あるいはもしかしたら何かあったのかもしれないが、それについての推察は割愛する。必要があれば後に語ろう。
で、落ちた。
ストンという感じだ。なんら警戒も予想もしていない場面で僕は唐突に落ちた。
最初はマンホールの穴にでも落ちたのかと思った。
誰かの悪戯でマンホールの蓋が外されており、僕は間抜けにもそれに気づかずに落ちたのだと。
ヒューストンとアメリカの都市の名前のように、カートゥーンの登場人物のように落ちたのだと僕はその瞬間思った。
そうではないとわかったのは、その後のことだ。
この場合、路というのは別段人生や何かの隠喩だったりはしない。正真正銘、ただの道路だ。
僕は街中のアスファルトで舗装されている道路をただ歩いていたのである。
そこに不正行為やフラグ立てはなかったはずだ。
あるいはもしかしたら何かあったのかもしれないが、それについての推察は割愛する。必要があれば後に語ろう。
で、落ちた。
ストンという感じだ。なんら警戒も予想もしていない場面で僕は唐突に落ちた。
最初はマンホールの穴にでも落ちたのかと思った。
誰かの悪戯でマンホールの蓋が外されており、僕は間抜けにもそれに気づかずに落ちたのだと。
ヒューストンとアメリカの都市の名前のように、カートゥーンの登場人物のように落ちたのだと僕はその瞬間思った。
そうではないとわかったのは、その後のことだ。
【003】
次に気づいた時、僕はどことも知れぬ場所に倒れ伏していた。
気づけばとは言ったものの、感覚的には一瞬だ。まさに、落ちたと思ったら地面に伏していたのである。
途中、気を失っていただけなのかもしれないがそれもはっきりしない。
普通だとここで身体の調子や空腹の度合いでブランク(空白期間)がどれほどあったのかを推測するところであるが、
いかんせんそういう意味では僕の身体は不便にできていた。
吸血鬼なのである。それも中途半端ななりそこないの半人前以下の吸血鬼。
詳しい経緯と説明は省くとして、半端なりにも再生能力を備えた僕は通常に比べて体調の変化が鈍い。
故にこの場合、自らの体調でもって経過した時間を計るというのは不可能、ではないにしろ当てにはならなかった。
不死性故に気を失っていた時間もわからないのだ。
吸血鬼がおしなべて寝太郎なのはこのせいかもしれない。
だが、語り部をしている僕が寝太郎なのでは話が進まないだろう。
正しくは僕が寝ていたとしても話は進むし、この世界の有様は刻一刻と変化していくだろうがそれでは語れない。
伝えられない。少なくとも、僕という立場からは。
なので起き上がり、立ち上がる。
気づけばとは言ったものの、感覚的には一瞬だ。まさに、落ちたと思ったら地面に伏していたのである。
途中、気を失っていただけなのかもしれないがそれもはっきりしない。
普通だとここで身体の調子や空腹の度合いでブランク(空白期間)がどれほどあったのかを推測するところであるが、
いかんせんそういう意味では僕の身体は不便にできていた。
吸血鬼なのである。それも中途半端ななりそこないの半人前以下の吸血鬼。
詳しい経緯と説明は省くとして、半端なりにも再生能力を備えた僕は通常に比べて体調の変化が鈍い。
故にこの場合、自らの体調でもって経過した時間を計るというのは不可能、ではないにしろ当てにはならなかった。
不死性故に気を失っていた時間もわからないのだ。
吸血鬼がおしなべて寝太郎なのはこのせいかもしれない。
だが、語り部をしている僕が寝太郎なのでは話が進まないだろう。
正しくは僕が寝ていたとしても話は進むし、この世界の有様は刻一刻と変化していくだろうがそれでは語れない。
伝えられない。少なくとも、僕という立場からは。
なので起き上がり、立ち上がる。
少し湿り気を帯びた芝生の地面から立ち上がってみれば、そこは実に奇妙な空間だった。
星の瞬きが見える夜空の下、薔薇の垣根で囲われたそこは一見してどこかお屋敷の中庭という風だ。
その印象を補強するかのように、その空間には等間隔で白いレースのクロスをかけられたテーブルが並列している。
テーブルの上には食事や飲み物とおぼしきものが並び、ここで奇妙だと思うのだが小さなぼんぼりが立っていた。
これも和洋折衷と言うのだろうか。ともかくそこはそういう少し奇妙なパーティ会場のような場所だった。
星の瞬きが見える夜空の下、薔薇の垣根で囲われたそこは一見してどこかお屋敷の中庭という風だ。
その印象を補強するかのように、その空間には等間隔で白いレースのクロスをかけられたテーブルが並列している。
テーブルの上には食事や飲み物とおぼしきものが並び、ここで奇妙だと思うのだが小さなぼんぼりが立っていた。
これも和洋折衷と言うのだろうか。ともかくそこはそういう少し奇妙なパーティ会場のような場所だった。
ぼんぼりが灯す橙色の明かりはささやかなものであったが、吸血鬼の視力ならば問題はない。
僕は現状を把握すべく更なる情報を得ようと辺りを窺う。そして、そこでまた奇妙なことに気がついた。
どうやら、この空間には僕以外にも多数のゲストがいるようなのである。
僕は現状を把握すべく更なる情報を得ようと辺りを窺う。そして、そこでまた奇妙なことに気がついた。
どうやら、この空間には僕以外にも多数のゲストがいるようなのである。
何故そこであやふやな物言いになるのかというと、これはそのままあやふやだからなのである。
人はいる。その数は決して少なくない。一見しただけでも数十人はいる。多分、学校の1クラスよりも少し多いくらいだ。
もっとも学校の1クラスなんて地方と年代によってバラバラなんだろうけど、じゃあ具体的に言えば50前後ってところだ。
50前後の人――いや、人影と称するべきか。
人影としか言えないようなそんな認識が曖昧な存在がそこらじゅうにいるのである。
存在として曖昧なのではない。存在は確かだとはっきり言える。幽霊でもない。実体はある。けど認識が曖昧なのだ。
そこに視点をあわせた途端、まるでカメラのピントがズレたようにはっきりと見えなくなるのである。
これは一体なんなのか?
考えるまでもない。僕の脳みそが落下の衝撃でいかれてしまうなんてことは吸血鬼の再生能力が否定してくれる。
ならば、もう答えは一つだ。いつもどおり、不思議なことは――《怪異》の仕業なのである。
人はいる。その数は決して少なくない。一見しただけでも数十人はいる。多分、学校の1クラスよりも少し多いくらいだ。
もっとも学校の1クラスなんて地方と年代によってバラバラなんだろうけど、じゃあ具体的に言えば50前後ってところだ。
50前後の人――いや、人影と称するべきか。
人影としか言えないようなそんな認識が曖昧な存在がそこらじゅうにいるのである。
存在として曖昧なのではない。存在は確かだとはっきり言える。幽霊でもない。実体はある。けど認識が曖昧なのだ。
そこに視点をあわせた途端、まるでカメラのピントがズレたようにはっきりと見えなくなるのである。
これは一体なんなのか?
考えるまでもない。僕の脳みそが落下の衝撃でいかれてしまうなんてことは吸血鬼の再生能力が否定してくれる。
ならば、もう答えは一つだ。いつもどおり、不思議なことは――《怪異》の仕業なのである。
【004】
「ようこそいらっしゃいました」
そう思い至った瞬間、その言葉は会場の中へと響き渡った。静かだがはっきりと耳に届く声だった。
声のした方を向いてみればこの奇妙なパーティ会場の端に一人の女性が立っている。
曖昧でなくはっきりと認識できる僕以外の唯一の人物がここに登場したのだ。
声のした方を向いてみればこの奇妙なパーティ会場の端に一人の女性が立っている。
曖昧でなくはっきりと認識できる僕以外の唯一の人物がここに登場したのだ。
「私は貴方達を此処へと誘った張本人、八雲紫と申します。まずは無理矢理に御呼び立てしたことを詫びましょう」
そう言って彼女は頭を下げ、また上げた。
波がかった長い金髪に不思議な色の瞳。大人の女性なのに少女人形のような、そんな印象のある顔だった。
紫色のドレスを着こなしており、その有様はどこか僕の相方である吸血鬼の在りし日の姿に近い。
彼女は“貴方達”と言った。ということは、僕を含めてこちら側の人影は同じ境遇なわけだと推察できる。
つまり、僕を含む数十人の何者かが互いが認識できないよう術をかけられ、ここに軟禁(?)させられている。
回数をこなしたこともあるが、鈍い鈍いと言われる僕も随分と頭の回転が早くなったものである。とここは自画自賛。
波がかった長い金髪に不思議な色の瞳。大人の女性なのに少女人形のような、そんな印象のある顔だった。
紫色のドレスを着こなしており、その有様はどこか僕の相方である吸血鬼の在りし日の姿に近い。
彼女は“貴方達”と言った。ということは、僕を含めてこちら側の人影は同じ境遇なわけだと推察できる。
つまり、僕を含む数十人の何者かが互いが認識できないよう術をかけられ、ここに軟禁(?)させられている。
回数をこなしたこともあるが、鈍い鈍いと言われる僕も随分と頭の回転が早くなったものである。とここは自画自賛。
「また、企てていることに皆様を巻き込むことにも、張本人としてここにお詫びします」
そして彼女はまたぺこりと頭を下げた。そして再び人形のような顔がこちらを向く。
わざわざ拉致してきたのだ。呑んで喰って帰れという話ではないだろう。じゃあ彼女は僕達に何をさせる気なのか?
わざわざ拉致してきたのだ。呑んで喰って帰れという話ではないだろう。じゃあ彼女は僕達に何をさせる気なのか?
「これより、集まっていただいた皆様の中で“殺し合い”をしていただきます」
ストレートな言葉だった。殺しあってもらうだって?
僕はこの会場の様相から金持ちが主催する殺人遊戯のようなものを想像した。
次にスティーブン・キング原作のバトルランナー。思い浮かべるのは映画版のほうだ。原作は読んだことがない。
実に明快な話だ。この先どういった流れになるのかも容易に想像できる。
どうせ簡単には逃げ出すことなどできないのだろう。人質をとられている可能性もある。
僕達は抗う術もなく殺し合いを強制されるのだ。大いなる闇やら、権力者やら、はたまた《怪異》と呼ばれる者に。
僕はこの会場の様相から金持ちが主催する殺人遊戯のようなものを想像した。
次にスティーブン・キング原作のバトルランナー。思い浮かべるのは映画版のほうだ。原作は読んだことがない。
実に明快な話だ。この先どういった流れになるのかも容易に想像できる。
どうせ簡単には逃げ出すことなどできないのだろう。人質をとられている可能性もある。
僕達は抗う術もなく殺し合いを強制されるのだ。大いなる闇やら、権力者やら、はたまた《怪異》と呼ばれる者に。
「私は皆様をそれぞれ主従一組としてこの場にお招きしました。
ですから、正しく言い直すならばその主従と主従の間で対立し、殺し合いをしていただくということになります」
ですから、正しく言い直すならばその主従と主従の間で対立し、殺し合いをしていただくということになります」
そして、一番最後まで残った主従には生還を約束すると彼女は言った。
僕は自分の足元。芝生の上にかかった自分の影を見る。主従一組と言うなら僕のパートナーはこいつしかいない。
鉄血にして熱血にして冷血の吸血鬼――の成れの果てであり、吸血鬼の絞りかすでしかないあいつだ。
僕は自分の足元。芝生の上にかかった自分の影を見る。主従一組と言うなら僕のパートナーはこいつしかいない。
鉄血にして熱血にして冷血の吸血鬼――の成れの果てであり、吸血鬼の絞りかすでしかないあいつだ。
「生還では気にいらぬ。気が入らぬと仰るのでしたらなんなりと望みも叶えましょう。
――兎にも角にも殺し合いをしていただきたいのです」
――兎にも角にも殺し合いをしていただきたいのです」
兎にも角にもってなんだよ。そんなどうでもいいからさっさとやってくれみたいな理由で殺しあいなんかできるか。
もちろん、どんな理由があったとしても殺し合いなんか絶対に認めたりはしないけれど。
もちろん、どんな理由があったとしても殺し合いなんか絶対に認めたりはしないけれど。
「残るのは主従一組だけ。主と従者、どちらを失っても生き残る権利は失われてしまいます。
あくまで一組の主従でなくてはならないのです」
あくまで一組の主従でなくてはならないのです」
矜持としての不戦不殺はともかくとして、情報を聞き逃すことはない。なので僕はひとまず彼女の話に集中する。
「ですが、これだとあまりにも可能性がない。始まってしまえば皆が皆早々に権利を失ってしまい誰も残らない。
なのであぶれた者同士で新しい主従を組みなおすことを認めます。
例えそれが仮初めの関係であろうと、主と従者の一組であれば、私はその者らの生還を認めましょう」
なのであぶれた者同士で新しい主従を組みなおすことを認めます。
例えそれが仮初めの関係であろうと、主と従者の一組であれば、私はその者らの生還を認めましょう」
意味はわかるが目的がわからない。主従の間柄が本物でもなくていいのなら最初からそうでもいいんじゃないか?
それともそこに対した意味はなく、ゲームが不成立になりやすいから加えただけのルールなのか?
それともそこに対した意味はなく、ゲームが不成立になりやすいから加えただけのルールなのか?
「それぞれ左手の甲に《印》を打ちました。統べる者には赤い星(★)を。傅く者には青い星(☆)を。
もし本来の主や従者を失ったのならば、同じく失った者を探し出し赤と青の星同士を触れ合わせてください。
そうすれば、その者らは新しく主従一組であると認められます。
よいですか? あぶれたなら赤と青の星を触れ合わせるのです。そうすればまた主従であると認めます」
もし本来の主や従者を失ったのならば、同じく失った者を探し出し赤と青の星同士を触れ合わせてください。
そうすれば、その者らは新しく主従一組であると認められます。
よいですか? あぶれたなら赤と青の星を触れ合わせるのです。そうすればまた主従であると認めます」
僕は左手の甲を見た。いつの間にかにそこにはシンプルな赤い星印が痣のようにつけられている。
うぐぐ、俺の左手が疼く――って感じだが、これ後で取ってもらえるんだろうな?
なんか皮膚に染み込んでるっぽいんだけど。例え生きて帰ってもこのままじゃ家には戻れないぞ。
うぐぐ、俺の左手が疼く――って感じだが、これ後で取ってもらえるんだろうな?
なんか皮膚に染み込んでるっぽいんだけど。例え生きて帰ってもこのままじゃ家には戻れないぞ。
「逆に、あぶれたにも関わらず新しい連れを探そうとせずにいるのであれば、それは生還を諦めたとみなします。
半日。半日経っても新しい主、あるいは従者を見つけられなかった者はその場において死を与えます」
半日。半日経っても新しい主、あるいは従者を見つけられなかった者はその場において死を与えます」
12時間、新しいパートナーが見つからなければ強制的にゲームオーバー。見つければゲーム続行。
一見救済措置に見えて、実際は逆だ。これは“諦めることもできずに殺しあうしかない”ってルールにすぎない。
胸クソが悪くなる。沸々と怒りが湧いてくる。こんな残虐を押し付けてなお平然としているあの美しい顔に。
一見救済措置に見えて、実際は逆だ。これは“諦めることもできずに殺しあうしかない”ってルールにすぎない。
胸クソが悪くなる。沸々と怒りが湧いてくる。こんな残虐を押し付けてなお平然としているあの美しい顔に。
「押し付けた無理難題ではありますが、理解できたでしょうか?」
ああ、理解できたともさ。八雲紫が悪逆を働く、人によって成敗されねばならない《怪異》だってことが。
【005】
「ならば、この殺し合いにおける進行といくらか存在する禁則を説明いたしましょう」
間を置くと、彼女は殺し合いゲームのルールをこれまでと変わらない調子で静かに語り始めた。
さて、お約束に従うならここらでそろそろ文句をがなりたて彼女に楯突く者が出てきてもおかしくないし、
なんなら僕が命を顧みずその役割を負ってもいいんだが、しかしどうやらそれは不可能のようだった。
さて、お約束に従うならここらでそろそろ文句をがなりたて彼女に楯突く者が出てきてもおかしくないし、
なんなら僕が命を顧みずその役割を負ってもいいんだが、しかしどうやらそれは不可能のようだった。
「この後、皆様にはこちらが用意した土地へと移動していただき、その土地を舞台に殺しあっていただきます。
同時に地図を配りますが、まずそこから逃げ出すことを禁則とします」
同時に地図を配りますが、まずそこから逃げ出すことを禁則とします」
先ほど、僕以外の者らの姿が曖昧なことは語ったばかりだが、どうやらそれは姿だけに限らず声もそうらしい。
いくつかの人影は身振り手振りを加え、なにやら発言しているようなのだが僕の耳には何も届かないのだ。
彼女には聞こえているかもしれない。けど、こうしているということは僕達の意見などは無視するということだろう。
いくつかの人影は身振り手振りを加え、なにやら発言しているようなのだが僕の耳には何も届かないのだ。
彼女には聞こえているかもしれない。けど、こうしているということは僕達の意見などは無視するということだろう。
「そしてこの殺し合いには限られた期限があります。
与えられる時間は丁度三日。これを過ぎることもまた禁則とし、過ぎれば全員に死を与えることになります。
また誰も死なない状態が一日過ぎれば、生還のための殺し合いを放棄したと解釈し、禁則を破ったとみなします」
与えられる時間は丁度三日。これを過ぎることもまた禁則とし、過ぎれば全員に死を与えることになります。
また誰も死なない状態が一日過ぎれば、生還のための殺し合いを放棄したと解釈し、禁則を破ったとみなします」
猶予は最大で3日。誰も死ななくていい時間で考えると1日。
果たして、この時間でなにもかもが解決するのかというとかなり微妙な時間設定だ。
果たして、この時間でなにもかもが解決するのかというとかなり微妙な時間設定だ。
「殺し合いが始まれば、四半日(6時間)が過ぎるごとに、殺し合いから脱落した者の名を読み上げます。
同時に殺し合いの土地で立ち入りできなくなる場所も読み上げます。
この後、禁じられた場所に踏み入れば、これも禁則を破ったとみなし即座に死を与えます」
同時に殺し合いの土地で立ち入りできなくなる場所も読み上げます。
この後、禁じられた場所に踏み入れば、これも禁則を破ったとみなし即座に死を与えます」
逃げ場のないフィールドが時間と共に狭くなり追い立てられてゆく……。ますますゲームじみた設定だ。
時間設定といい、なにかそういった部分に人間の作為的なものを感じるのは気のせいだろうか。
時間設定といい、なにかそういった部分に人間の作為的なものを感じるのは気のせいだろうか。
「禁則はこれだけです。殺し合いそのものに禁じ手はありません。貴方達はただ殺し合いから逃げなければよい。
そうすれば、この中で一組の主従、二人の者が望みを叶え生還できるのです。
――殺し合う。たったそれだけのことです」
そうすれば、この中で一組の主従、二人の者が望みを叶え生還できるのです。
――殺し合う。たったそれだけのことです」
たったそれだけとは言ってくれる。確かに人間と怪異の死生観は違う。人の間だって時代と場所で変わる。
もしかすれば彼女には深刻な理由があるのかもしれないし、怪異としての習性で悪気なくしているのかもしれない。
けど、どんな理由があろうとそれは認められない。
この世が弱肉強食というのならば、何者にだって、弱肉でしかない者にだって抗う権利は存在するのだから。
だから、僕はこの殺し合いを認めない。断固、阻止してみせる。そうこの時僕は決心した。
もしかすれば彼女には深刻な理由があるのかもしれないし、怪異としての習性で悪気なくしているのかもしれない。
けど、どんな理由があろうとそれは認められない。
この世が弱肉強食というのならば、何者にだって、弱肉でしかない者にだって抗う権利は存在するのだから。
だから、僕はこの殺し合いを認めない。断固、阻止してみせる。そうこの時僕は決心した。
【006】
「では始める前に質問を受け付けましょう。
貴方方同士で声は通じませんが私には届きます。その場で質問を言葉で発してください」
貴方方同士で声は通じませんが私には届きます。その場で質問を言葉で発してください」
などと言われても、僕はなにも質問する気が起きなかった。今後のことを思えばできるだけ情報は欲しいところだが、
生憎僕はそういうところで頭が回らないので、情報を引き出す為の質問というのが思いつかない。
逆に下手なことを言って殺されたり、僕が言ったことでルールの不備などを先に封じられては、と考えてしまう。
生憎僕はそういうところで頭が回らないので、情報を引き出す為の質問というのが思いつかない。
逆に下手なことを言って殺されたり、僕が言ったことでルールの不備などを先に封じられては、と考えてしまう。
「なんじゃ、いかようにして願いを望めば最低限の罪悪感でもって女共を侍らすことができるのかと考えておるのか?」
って! 僕の名誉を不必要に貶めるような発言をするのは誰だ!? と思って振り返ればそこに僕の従者がいた。
正確には、いや正確に言えば従者なんだが、気持ちの上ではなんというのだろうか……運命共同体?
なんにせよ、振り返ったそこにはかつて鉄血にして熱血にして冷血の吸血鬼であった少女がいた。
忍野忍――半人前以下の吸血鬼もどきに主としての権利を奪われたその成れの果てである。
八雲紫のことを忍と似ていると評したが、今の忍は八雲紫とは似ても似つかない。
吸血鬼としての力の大半を失った彼女はその身もまたそれに応じて幼いものへと変じているのだ。
およそ10歳程度。こんなロリっちぃ身体。よろこぶのはせいぜい僕くらいなものである。
正確には、いや正確に言えば従者なんだが、気持ちの上ではなんというのだろうか……運命共同体?
なんにせよ、振り返ったそこにはかつて鉄血にして熱血にして冷血の吸血鬼であった少女がいた。
忍野忍――半人前以下の吸血鬼もどきに主としての権利を奪われたその成れの果てである。
八雲紫のことを忍と似ていると評したが、今の忍は八雲紫とは似ても似つかない。
吸血鬼としての力の大半を失った彼女はその身もまたそれに応じて幼いものへと変じているのだ。
およそ10歳程度。こんなロリっちぃ身体。よろこぶのはせいぜい僕くらいなものである。
「そんなこと考えてないってのはわかるだろう」
「まぁの。儂とお前様は感情が通じておる故、そのような懸想をしていないというのは一目瞭然じゃ」
「見えてないけどな。で、じゃあなんでそんな悪評が立つようなデタラメを言うんだ?」
「なぁに、お前様が今にも後先考えずに特攻などを仕掛けようと、そんな気がしたもんでの」
「まぁの。儂とお前様は感情が通じておる故、そのような懸想をしていないというのは一目瞭然じゃ」
「見えてないけどな。で、じゃあなんでそんな悪評が立つようなデタラメを言うんだ?」
「なぁに、お前様が今にも後先考えずに特攻などを仕掛けようと、そんな気がしたもんでの」
む。そうか、そんなに昂ぶっていたか。
自分では密かに闘士を燃やすクールな反逆者のつもりだったが、忍が言うならそれは間違いないんだろう。
僕と忍は一蓮托生だからそのためってこともあるんだろうけど、ともかくとして忍には感謝だ。さすが年長者。年の功。
自分では密かに闘士を燃やすクールな反逆者のつもりだったが、忍が言うならそれは間違いないんだろう。
僕と忍は一蓮托生だからそのためってこともあるんだろうけど、ともかくとして忍には感謝だ。さすが年長者。年の功。
「む、儂を後期高齢者扱いすると……」
「思ってない! 思ってない! そんなこと微塵も思ってない! って、お前なにしてるんだよ?」
「見てわからぬか?」
「思ってない! 思ってない! そんなこと微塵も思ってない! って、お前なにしてるんだよ?」
「見てわからぬか?」
と言って忍は両手に持ったドーナツをこちらに向けて見せた。ちなみに口の中にもドーナツが入っている。
それぞれ、ゴールデンチョコレート、オールドファッションハニー、フレンチクルーラーである。いい趣味してやがる。
だから先ほどの台詞は正しく表現するなら「みへわひゃらぬは?」だ。翻訳してあげたのである。
それぞれ、ゴールデンチョコレート、オールドファッションハニー、フレンチクルーラーである。いい趣味してやがる。
だから先ほどの台詞は正しく表現するなら「みへわひゃらぬは?」だ。翻訳してあげたのである。
「見てわかるから言ってるんだろうが」
「なぁに、戦の前の腹ごしらえじゃよ。これからバトル展開なんじゃろう?」
「言っとくけど――」
「わかっておるよ。でも、それでも……じゃろう?」
「なぁに、戦の前の腹ごしらえじゃよ。これからバトル展開なんじゃろう?」
「言っとくけど――」
「わかっておるよ。でも、それでも……じゃろう?」
確かに、こちらが白旗を上げたからといって戦いを止めてくれる者ばかりじゃないだろうさ。
そこまで僕は理想と主義に殉じてはいない。止むを得ない戦いがあるということも理解はしてる。納得はしてないが。
しかしどうしてここでミスタードーナツなんだ? 怪異は等しくドーナツを好むなんて話聞いたこともないぞ。
って、よくよく見ればテーブルの上に並んでいるのはミスタードーナツばかりでなく僕の好物もあるみたいじゃないか。
これはつまりあれだ。死刑囚が死刑執行の朝に好きなものを食べられるとかなんとかみたいな。なんて悪趣味。
そして食べ物の好みまで把握されていることに僕はゾッと肝を冷やした。
そこまで僕は理想と主義に殉じてはいない。止むを得ない戦いがあるということも理解はしてる。納得はしてないが。
しかしどうしてここでミスタードーナツなんだ? 怪異は等しくドーナツを好むなんて話聞いたこともないぞ。
って、よくよく見ればテーブルの上に並んでいるのはミスタードーナツばかりでなく僕の好物もあるみたいじゃないか。
これはつまりあれだ。死刑囚が死刑執行の朝に好きなものを食べられるとかなんとかみたいな。なんて悪趣味。
そして食べ物の好みまで把握されていることに僕はゾッと肝を冷やした。
「さてわがあるじよ。そろそろ話を進めるところじゃ」
言われて僕は再び振り向いた。あの八雲紫の方へ。どうやら質問タイムは終了し回答タイムへと移るらしい。
【007】
「……望みはなんでも叶うのかと? 正直に申し上げましょう。この世に絶対という言葉はありません。
なので、どんな願いでもとは確実には保証できません。ですがそれでもこの私なら多少の道理は曲げてみせましょう。
過去を見せろと言われれば見せましょう。
未来が見たいと言うのならば案内しましょう。
御伽噺の中にある宝が欲しいと言われれば取ってきましょう。
誰も知らない問題の答えが欲しいというのならば答えてみせましょう。
愛する者を亡くしたのならば、黄泉路へと足を運び連れ戻してまいりましょう」
なので、どんな願いでもとは確実には保証できません。ですがそれでもこの私なら多少の道理は曲げてみせましょう。
過去を見せろと言われれば見せましょう。
未来が見たいと言うのならば案内しましょう。
御伽噺の中にある宝が欲しいと言われれば取ってきましょう。
誰も知らない問題の答えが欲しいというのならば答えてみせましょう。
愛する者を亡くしたのならば、黄泉路へと足を運び連れ戻してまいりましょう」
死者蘇生。……できるのか? それならば、いや、信じてどうする。仮に真実だからといってそれがなんだ。
それは人を殺してもいいという免罪符にはならない。生き返らせるから殺させて、なんて通る話じゃない。
それは人を殺してもいいという免罪符にはならない。生き返らせるから殺させて、なんて通る話じゃない。
「……ならば、『この殺し合いをなかったことにしてみろ』と言われますか。ええ、勿論それは可能な願いです」
その発想はなかった。なるほど、終わった後に全てをチャラにするというわけか。
死んだ者を生き返らせろなどという対処ではなく、根本的な意味での完全解決。事象ごとの完全抹消。
確かにそれを願えば途中経過がどうであろうが問題ではない。だがしかし、可能だからといって叶えてくれるのか?
それにランプの魔神の寓話じゃないが、こういった根源を揺るがす願いというのは手痛いしっぺ返しがあるのが相場だ。
死んだ者を生き返らせろなどという対処ではなく、根本的な意味での完全解決。事象ごとの完全抹消。
確かにそれを願えば途中経過がどうであろうが問題ではない。だがしかし、可能だからといって叶えてくれるのか?
それにランプの魔神の寓話じゃないが、こういった根源を揺るがす願いというのは手痛いしっぺ返しがあるのが相場だ。
「確かに、皆がその願いを叶えてもらうとここで誓うならば、これから殺し合いをする必要もないでしょう。
あってもなくてもどちらにせよなかったことになるのならば、してもしなくても同じというのは道理です。
ならばここにいる皆に問いかけましょう。それを望むのか。
全員が等しく望むのであれば、貴方達はここで起きた全てを忘れただちに元の世界へと解放されます」
あってもなくてもどちらにせよなかったことになるのならば、してもしなくても同じというのは道理です。
ならばここにいる皆に問いかけましょう。それを望むのか。
全員が等しく望むのであれば、貴方達はここで起きた全てを忘れただちに元の世界へと解放されます」
更に話の流れは変わった。もし、実現するというのであればこの願いと質問はたったひとつの冴えたやり方だ。
どこの誰かはしらないが僕は心の中で拍手喝采を送ろう。もしこれで元の日常に帰れるのならばいうことはない。
命の大切さをひしと噛み締め、素敵な提案をした誰かに感謝して(忘れるはずだが)生きていこうと思う。
どこの誰かはしらないが僕は心の中で拍手喝采を送ろう。もしこれで元の日常に帰れるのならばいうことはない。
命の大切さをひしと噛み締め、素敵な提案をした誰かに感謝して(忘れるはずだが)生きていこうと思う。
「忍」
「わかっておるよあるじ様。儂も肯定し誓おう。仮に優勝すれば全てをなかったことにするとな」
「わかっておるよあるじ様。儂も肯定し誓おう。仮に優勝すれば全てをなかったことにするとな」
じゃがな、これは無駄じゃよ。と忍はぼそりとこぼした。そして、儚い望みはやはり儚いままに終わったのだ。
「……残念ながら、また私には都合のよいことに、それでもなお殺し合いを望むという方がおられました。
なので、やはりこのまま殺し合いをはじめたいと思います」
なので、やはりこのまま殺し合いをはじめたいと思います」
落胆は、それほどない。
全く素性のしれない僕達以外の数十人だけど、全員が同じ価値観を持っているなんてそれこそ天文学的確率だ。
そもそもこれは真偽の確認が取れない問題なのだ。八雲紫が嘘を吐いている可能性は多分に存在する。
願いを叶えるというところからして嘘である可能性もあるのだ。
なので、それらを含め、殺し合いが始まる前に様々な可能性を検討できた。今はこれで十分だとする。
妥協でしかないが。妥協は時に可能性を殺すが。しかし大事なのはバランスだ。分不相応を得ようとすれば人は死ぬ。
全く素性のしれない僕達以外の数十人だけど、全員が同じ価値観を持っているなんてそれこそ天文学的確率だ。
そもそもこれは真偽の確認が取れない問題なのだ。八雲紫が嘘を吐いている可能性は多分に存在する。
願いを叶えるというところからして嘘である可能性もあるのだ。
なので、それらを含め、殺し合いが始まる前に様々な可能性を検討できた。今はこれで十分だとする。
妥協でしかないが。妥協は時に可能性を殺すが。しかし大事なのはバランスだ。分不相応を得ようとすれば人は死ぬ。
「ですが、その前に……禁則を破った者の末路を見せましょう」
ドキリと心臓が跳ね上がった。なんてこった。このまま始まるのなら、最低限“ここでは誰も死なない”と思ったのに!
所謂みせしめというものはあると思った。殺しあえなどと素直に従う人間がそういるはずもない。
そうなれば言うことを聞かせるための脅しは必要だ。それを欠かさずしてゲームが始まるわけがない。
けど、もし始まるまで相手の掌の上で転がるように従順に行動すれば、それも必要なくなるのではないかと、
そういう意味での“妥協”だったが……しかし、みせしめはやはり規定路線だったらしい。妥協の甲斐もなく誰かが死ぬ。
所謂みせしめというものはあると思った。殺しあえなどと素直に従う人間がそういるはずもない。
そうなれば言うことを聞かせるための脅しは必要だ。それを欠かさずしてゲームが始まるわけがない。
けど、もし始まるまで相手の掌の上で転がるように従順に行動すれば、それも必要なくなるのではないかと、
そういう意味での“妥協”だったが……しかし、みせしめはやはり規定路線だったらしい。妥協の甲斐もなく誰かが死ぬ。
「主たる《エンリコ・マクスウェル》とその従者《アレクサンド・アンデルセン》」
僕の前方。僕と八雲紫を繋ぐ距離のおよそ半分くらいのところにあった人影がパッと鮮明な人の形となった。
後姿だから顔は見えない。けど名前からするに外国人だろう。そして彼らは揃いの黒衣に身を包んでいた。
おそらくは神父。そしてつまりは吸血鬼ハンター。いや、これはただの偏見と勘だが、
一度吸血鬼として神父と対決したことのある僕にとっては神父=吸血鬼ハンターなのである。
後姿だから顔は見えない。けど名前からするに外国人だろう。そして彼らは揃いの黒衣に身を包んでいた。
おそらくは神父。そしてつまりは吸血鬼ハンター。いや、これはただの偏見と勘だが、
一度吸血鬼として神父と対決したことのある僕にとっては神父=吸血鬼ハンターなのである。
「殺し合いの始まる前に殺してしまうというのは私が禁を破ったに等しい。
なので代わりに貴方達二人の願いを今叶えましょう。――《私と殺しあいたい》という願いを」
なので代わりに貴方達二人の願いを今叶えましょう。――《私と殺しあいたい》という願いを」
先ほどの全員の願いが一致しなかったのは、欲にかられた者がいたからと思ったがそんな願いを思う人もいたのか。
いや、僕には理解できるはずだ。あれが僕の知っている神父と同種なのだとしたら彼らは《怪異》を見逃さない。
いや、僕には理解できるはずだ。あれが僕の知っている神父と同種なのだとしたら彼らは《怪異》を見逃さない。
【008】
「――悪しき者の計略にあゆまず、罪人の道に立たず、あざける者の座にすわらぬ者は、さいわいなり。
かかる人は主の法をよろこびて、昼も夜もこれをおもう。かかる人は、流れのほとりに植えし木の、
期にいたりて実をむすび、葉もまたしぼまざるごとく、そのなすところみな栄えん。
あしき人はしからず、風の吹き去るもみがらのごとし。
されば悪しき者は審きにたえず、罪人は義しき者のつどいに、たつことをさえざるなり。
そは主は義しき者の道を知りたもう、されど悪しき者の道はほろびん」
かかる人は主の法をよろこびて、昼も夜もこれをおもう。かかる人は、流れのほとりに植えし木の、
期にいたりて実をむすび、葉もまたしぼまざるごとく、そのなすところみな栄えん。
あしき人はしからず、風の吹き去るもみがらのごとし。
されば悪しき者は審きにたえず、罪人は義しき者のつどいに、たつことをさえざるなり。
そは主は義しき者の道を知りたもう、されど悪しき者の道はほろびん」
神父の一人、従者だと言われた方が前に出る。
彼はただの人間だろう。しかし僕は知っている。《怪異》を狩るほどまでに突き詰めた人間のエゲつない強さを。
彼はただの人間だろう。しかし僕は知っている。《怪異》を狩るほどまでに突き詰めた人間のエゲつない強さを。
「あいつらはあいも変わらず念仏が長いの。儂の可愛い耳が腐って落ちるわ」
お前が間違えるなよ。あれはどう聞いても聖句だろ! と、僕が内心でツっ込んでいる間にそれは始まって終わった。
実に1秒にも満たない時間でのできごとだ。言葉ひとつ発する間もないことで、だから台詞もなにもなくそれは終わった。
実に1秒にも満たない時間でのできごとだ。言葉ひとつ発する間もないことで、だから台詞もなにもなくそれは終わった。
最初に動いたのは従者の方の神父。突然加速したかと思うと黒い雷のような猛スピードで八雲紫へと突進した。
後ろから見ていたのが幸いした。でなければ吸血鬼の反射神経と言えどあの速度ではすぐに視界外だったろう。
そして次の瞬間、その神父が唐突弾けて、跳ね返った。何が起こったか、理解するまでに数瞬かかる。
彼が見えない壁にぶつかって跳ね返されたと理解したのは、半ば肉塊と化した彼が僕の前に落ちてきた時だった。
この時点で彼は死んだと思った。
だってそうだろう。普通の人間は身体が半壊するようなぶっ飛ばされ方をしたら即死だ。彼が人間なら間違いなく死ぬ。
けどそんな常識は容易く打ち破られた。彼は再生し、立ち上がったのだ。
無論、吸血鬼ほどの再生スピードではなかったが、逆に人間の常識の中にある再生スピードでもなかった。
後ろから見ていたのが幸いした。でなければ吸血鬼の反射神経と言えどあの速度ではすぐに視界外だったろう。
そして次の瞬間、その神父が唐突弾けて、跳ね返った。何が起こったか、理解するまでに数瞬かかる。
彼が見えない壁にぶつかって跳ね返されたと理解したのは、半ば肉塊と化した彼が僕の前に落ちてきた時だった。
この時点で彼は死んだと思った。
だってそうだろう。普通の人間は身体が半壊するようなぶっ飛ばされ方をしたら即死だ。彼が人間なら間違いなく死ぬ。
けどそんな常識は容易く打ち破られた。彼は再生し、立ち上がったのだ。
無論、吸血鬼ほどの再生スピードではなかったが、逆に人間の常識の中にある再生スピードでもなかった。
正直に言おう。これまでの時点で僕はこの殺し合いをどこか舐めているところがあったことを。
曲がりなりにも吸血鬼とその眷属である。忍の本当の力は反則なまでに強い。最悪、それを解放すればと思っていた。
積極的には望まないまでも、そういう奥の手。最終手段があるのだと心の底で安心しきっていたのだ。
しかし、そんな軟弱な覚悟ですらない腐った性根はこの後木っ端微塵なまでに打ち砕かれる。
曲がりなりにも吸血鬼とその眷属である。忍の本当の力は反則なまでに強い。最悪、それを解放すればと思っていた。
積極的には望まないまでも、そういう奥の手。最終手段があるのだと心の底で安心しきっていたのだ。
しかし、そんな軟弱な覚悟ですらない腐った性根はこの後木っ端微塵なまでに打ち砕かれる。
再生しながら立ち上がる神父の前で、彼の主人である神父の姿が消えた。それこそ神隠しのように一瞬で。
わけがわからなかった。また見えなくなったのかと思った。そして、僕の目の前にいた神父の姿も消えた。
今度は見えた。
近かったのもあるだろう。けどそれよりも、絶対的な危機感が僕の吸血鬼としてのスキルを強化したという方が正確だ。
それでも一瞬だが。一瞬とはいえ見えた。得体の知れない《何か》が神父を呑みこむのを。
わけがわからなかった。また見えなくなったのかと思った。そして、僕の目の前にいた神父の姿も消えた。
今度は見えた。
近かったのもあるだろう。けどそれよりも、絶対的な危機感が僕の吸血鬼としてのスキルを強化したという方が正確だ。
それでも一瞬だが。一瞬とはいえ見えた。得体の知れない《何か》が神父を呑みこむのを。
「これが禁則を破った者の末路です」
八雲紫の声が聞こえた。その次の瞬間――
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絶叫が響き渡った。いや、そんなものではない。声とは思えなかった。ならば絶音。いや絶怨と表現するのが正しいのか。
例えば人間を雑巾を絞るように頭と足の先を持ち実際に絞ってみたなら、こんな悲鳴が絞りだせるのかもしれない。
あるいは喉に細かいガラス片をびっしり詰めて叫ばせれば人間はこれほどの音を口から発せられるのかもしれない。
しかししかし、こんな想像では生温い。今聞こえているこの怨声はそんな程度では到底及びもしない心に罅く断末魔だった。
例えば人間を雑巾を絞るように頭と足の先を持ち実際に絞ってみたなら、こんな悲鳴が絞りだせるのかもしれない。
あるいは喉に細かいガラス片をびっしり詰めて叫ばせれば人間はこれほどの音を口から発せられるのかもしれない。
しかししかし、こんな想像では生温い。今聞こえているこの怨声はそんな程度では到底及びもしない心に罅く断末魔だった。
悲鳴とはそもそも危険を知らせる為に発信されるものである。危害を音声に変換して周囲に知らせるサイレンである。
聞いた者の恐怖を喚起し、警戒を促し、危険を自覚させ、逃走を実行させる根源的で本能に直接響く音声信号。
故に不快でありながら決して忘れられることのない動物としての機能。重要だからこそ、これは不快に深く機能する。
そして、それは十全に機能していた。耳から入った信号は全身に危険をこれでもかというほど詳細に伝えてきている。
いや、それは過剰すぎた。思考能力は機能しなくなり、眼球は振るえ、噛み鳴らす歯が口内をザクザクと傷つける。
身体中の筋は千切れんばかりに引き絞られ、膨張した心臓と血管が今まにも破裂しそうだった。
聞いた者の恐怖を喚起し、警戒を促し、危険を自覚させ、逃走を実行させる根源的で本能に直接響く音声信号。
故に不快でありながら決して忘れられることのない動物としての機能。重要だからこそ、これは不快に深く機能する。
そして、それは十全に機能していた。耳から入った信号は全身に危険をこれでもかというほど詳細に伝えてきている。
いや、それは過剰すぎた。思考能力は機能しなくなり、眼球は振るえ、噛み鳴らす歯が口内をザクザクと傷つける。
身体中の筋は千切れんばかりに引き絞られ、膨張した心臓と血管が今まにも破裂しそうだった。
聞いているだけで死ねる。それは、それほどまでに怨嗟と苦痛に満ちた悲鳴だった。
【009】
悲鳴が聞こえたのはほんの一瞬だったと思う。
長くとも5秒といったところだろう。無限の時間のようだったが、本当に無限だったのなら僕は精神は破壊されている。
地面に膝をつき、手もついて、四つん這いの格好で僕は上がった息を整えようと静かな呼吸を繰り返した。
吐き気がする。手足の先まで悪寒に包まれていて感覚があやふやだ。汗がぐっしょりと全身を濡らしていて気持ち悪い。
長くとも5秒といったところだろう。無限の時間のようだったが、本当に無限だったのなら僕は精神は破壊されている。
地面に膝をつき、手もついて、四つん這いの格好で僕は上がった息を整えようと静かな呼吸を繰り返した。
吐き気がする。手足の先まで悪寒に包まれていて感覚があやふやだ。汗がぐっしょりと全身を濡らしていて気持ち悪い。
「今のが、禁則を破った者の末路」
八雲紫の声が聞こえる。顔を上げる余裕は今の僕にはなかった。なので声だけを耳で拾い続けた。
「私は……、
『死などは生ぬるい』『死など怖くもない』『死など知りすぎている。何度も繰り返した』『今まさに死んでいる』
という方ばかりをここに集めたつもりです。
ならば、ここで与えられる死がただの死では意味がない。罰は死よりなお厳しくなくては禁則に意味がない。
その為に特別な死を用意しました。私の力でここで死した者は直接地獄の最下層へと送りましょう。
――阿鼻地獄。
それがどのようなものかは先ほどの魂を砕き漂白する絶鳴を聞けば理解できたはず。
あれを五千四百万年通してようやく輪廻転生の機会を得られる。地獄の最下層とはそのような処なのです。
これならば、ここにおける死は誰にとっても重大なものであるはず。
逆に生還がこの世のなによりも価値を持つものだと考えることもできるようになるでしょう」
『死などは生ぬるい』『死など怖くもない』『死など知りすぎている。何度も繰り返した』『今まさに死んでいる』
という方ばかりをここに集めたつもりです。
ならば、ここで与えられる死がただの死では意味がない。罰は死よりなお厳しくなくては禁則に意味がない。
その為に特別な死を用意しました。私の力でここで死した者は直接地獄の最下層へと送りましょう。
――阿鼻地獄。
それがどのようなものかは先ほどの魂を砕き漂白する絶鳴を聞けば理解できたはず。
あれを五千四百万年通してようやく輪廻転生の機会を得られる。地獄の最下層とはそのような処なのです。
これならば、ここにおける死は誰にとっても重大なものであるはず。
逆に生還がこの世のなによりも価値を持つものだと考えることもできるようになるでしょう」
滅茶苦茶だ。どんな業を背負ってくればそんな馬鹿げたデスペナルティを受けるゲームに挑戦しなくちゃならないんだ。
負けたら地獄落ち。文字通りに地獄落ち。しかもただの地獄でなく阿鼻地獄だって? 糞ッ! 滅茶苦茶だッ!
負けたら地獄落ち。文字通りに地獄落ち。しかもただの地獄でなく阿鼻地獄だって? 糞ッ! 滅茶苦茶だッ!
「ただ死すれば亡骸を残し魂だけを地獄に送りましょう。しかし、禁則を破れば先程の者達と同じ末路を辿ります」
それはつまり、死んでから地獄に落ちるよりも、生身のまま落ちるほうが責め苦は辛いってことで、
戦って死ぬほうが少しはましだってか? けど、僕はどっちにしたって地獄落ちは真っ平御免だ。畜生めッ!
戦って死ぬほうが少しはましだってか? けど、僕はどっちにしたって地獄落ちは真っ平御免だ。畜生めッ!
「この恐怖と興奮が冷め遣るまで待つのもよくない。では早速殺し合いの舞台へと貴方方を飛ばしましょう」
殺し合いが始まる。始まってしまえばもう止めることはできないだろう。否が応にも僕は選択を迫られる。
どうすればいいのか? 僕はそれだけを目を瞑りながら心の中で繰り返し――
どうすればいいのか? 僕はそれだけを目を瞑りながら心の中で繰り返し――
――そして、再び。唐突に落ちていったのであった。
殺し合いの舞台。地獄の真上へと。
【010】
「最後に。
貴方達主従と一緒に背負い袋を一組につき一つずつ送りました。
土地の地図と、殺し合いに参加する者の連名簿。それらに印を打つ為の筆記具に、明かりのつくもの。
それと殺し合いに使う道具を四つ中に入れておいたので、自分の物として自由に扱いなさい」
貴方達主従と一緒に背負い袋を一組につき一つずつ送りました。
土地の地図と、殺し合いに参加する者の連名簿。それらに印を打つ為の筆記具に、明かりのつくもの。
それと殺し合いに使う道具を四つ中に入れておいたので、自分の物として自由に扱いなさい」
【エンリコ・マクスウェル@HELLSING 死亡】
【アレクサンド・アンデルセン@HELLSING 死亡】
【アレクサンド・アンデルセン@HELLSING 死亡】
【主従キャラバトルロワイアル 開幕】
※
【主催者】:八雲紫@東方儚月抄
【主催者】:八雲紫@東方儚月抄
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