愛しさの鬼と優しい姉と◆UcWYlNNFZY



「はぁ……はぁ……ここなら、大丈夫でしょうか」

そう呟きながら長い緑色の髪を持った少女が床に座り込む。
名は園崎詩音という。
愛すべき者の為に殺し合いに乗り一人の命を奪った『鬼』、もしくは『悪魔』。
その少女が休む先に選んだ場所は小高い丘の中腹に佇んでいた古い寺だった。
既に誰かが訪れたのだろうか、人が居た形跡がかすかに残っている。

詩音は息を整えながらぐるりと辺りを見回す。
あるのは壊された仏像と使い古された蝋燭のみ。
本当に寂れた寺だった。
それを詩音はもう一度確認すると大きな溜め息をつき床に大の字になって寝転んだ。
兎に角疲れた、詩音が感じていたのはそれだけ。

(あっという間……)

本当にあっという間の時間だった。
上条当麻と名乗る少年をこの手で殺し。
メイドと親父と少年と道化のような男との乱闘を繰り広げ。
そして。


(すいませんねえ……『詩音』……あはは……でも元々『魅音』は私の元ですから……返してもらいますよ……ええ)


『魅音』を騙った。
自分の半身である彼女の名前を。
いや……元々詩音の名前だったものを。

詩音の罪を彼女に擦り付ける為に。
詩音が動きやすくする為に。

詩音は片割れを切り捨てた。

その行為に後悔もない。
罪を押し付けられる魅音に対して哀れみもない。
罪を押し付けてしまった魅音に対して謝罪する気もない。

何故なら。

詩音の心に一人の少年がずっと居るから。

ずっと。
ずっと。

待っていた人。
逢いたかった人。

いつでも。
いつでも。

傍に居た人。
笑っていた人。

そして。

今でも
今でも

大好きな人。
愛している人。



(悟史君……)


北条悟史という最愛の人が詩音の心でずっと笑っているから。
詩音の傍で、ずっと。

逢いたかった。
逢って話したかった。
逢って笑いあいたかった。

いつか、いつか逢える。

そう信じて。
今まで生きてきた。
今まで頑張ってきた。
今でずっとずっと。


待っていた。


その悟史にやっと逢えるというのだ。
やっと、やっと。
ずっと待っていたのだから。
それなのにこんな殺し合いに連れてこられたのだ。
逢えると思ってたのに。

逢いたい。
今すぐ逢いたい。
今すぐ話したい。
今すぐ笑いあいたい。

大好きな彼に。

「逢いたい……」

詩音は唯、逢いたかった。
悟史に会いたかった、それだけだったから。

そのためには


(私はなんだってやります……悟史君に逢えるなら)

詩音は『鬼』にも『悪魔』にもなる。
悟史に逢えるなら。

人を殺す事も。
魅音を騙る事も。
なんだってやってみせると。

詩音に後悔は無い。
全ては悟史に逢う為に。
悟史が好きだから。
悟史が大好きだから。

「だから私は鬼にで……」

詩音がそう改めて宣言しようとしたその刹那


―――ねーねー


ねーねーと呼ぶ小さな女の声が詩音の耳に聞こえた気がした。
とてもか細くだけどとても愛おしい声が。
自身を姉と呼ぶ声が聞こえてきた。

「……っ!?……捨てるはずといったはずです」

それは自分が護ろうとしていた存在の声。
そしてこの殺し合いが始まった直後に捨てようとした存在の声。
愛すべき北条悟史の妹、北条沙都子の声。

彼女を護ろうとしていた、悟史の為に。
彼女を託されていた、悟史に。
沙都子と居る事は悟史の為でもあったから。

でも本当に悟史の為だけのものだろうかと詩音は思う。
あの時ねーねーと呼ばれて嬉しかった自分。
沙都子の為に尽くしていた自分。
沙都子と笑っていた自分。

それは偽りだったのだろうか?
いや、違う。

温かいものだとおもっていた。

なら。

……なら。


悟史の為に自分は沙都子を殺せるのだろうか?

沙都子をこの手で殺せるのだろうか?

沙都子を殺して悟史は喜ぶのだろうか?

そんな自分を見て悟史は軽蔑しないだろうか?

沙都子は自分を待っているのだろうか?

そう。

そう、思ってしまった。

捨てるといったはずなのに。
そのはずなのに。
沙都子はその程度の存在のはずなのに。

それなのに。

どうして沙都子を殺せないと思ってしまうのだろうか?


そう、詩音は思ってしまう。
心が揺れている。
ブランブランと激しく揺れる振り子のように。
思ってしまったら止まらなかった。
沙都子の笑顔が。
詩音を呼ぶ声が。
心に浮かぶ。

どうしようもなく止まらなくなって。


でも。

それでも。


「私は……それでもっ! 悟史君に逢うんです! 絶対っ!」


強引に押し止めた。
全ては悟史に逢う為に。


そう決めたから。

だから、迷ってはいけないと。

詩音は心に誓った。


強く。
強く。

誓った。


「行きましょう……もう大丈夫」

そして起き上がり詩音は寺から出た。
風が優しく吹いている。
見上げる空は明るくなってきて星がみえるかどうか。

でもそれでも詩音は思う。


できるなら、この想いを彼に届けてほしい。

風よ。
星よ。

私は悟史君の元に帰ると。


そう、願った。


果たして詩音は沙都子に対しても『鬼』でいられるか?

知っているのは風と星だけ。



【C-1 古寺前/1日目 早朝】
【園崎詩音@ひぐらしのなく頃に】
【装備】:なし
【所持品】:基本支給品二式、不明支給品0~2個(確認済み) 、月霊髄液(ヴォールメン・ハイドラグラム)@Fate/Zero
【状態】:健康  能力者<ハナハナの実>
【思考・行動】
0:沙都子を殺せる?
1:優勝して、悟史のところへ戻る。
2:魅音の名を騙る。
3:沙都子に対して……?
【備考】
 本編終了後からの参加
※ハナハナの実の能力を得ました。任意の場所(自身の体含む)に、自分の部位を生やす事ができる。
 生やせる部位は、制限により『腕』のみです。
 ただし、今は『腕』を2本、それも互いにそれほど離れた位置には生やせません。
 時間の経過、能力への慣れによっては本数が増える可能性もあります。
 また、生やした全ての部位に意識を向けるので、慣れていない状態では単純な動作しかできていません。
 生やせる場所は、使用者を中心に15メートルの範囲内に制限されています。
 生やした部位がダメージを受ければ、本人にもダメージが伝わります。


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奈落の花 園崎詩音 エル・ブエロ・ガザ・デ・フローレンシア





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最終更新:2012年11月28日 23:58