使いっぱしりのなく頃に◆SqzC8ZECfY
さて、目的をひとまず定めた英雄王だが、それからいきなり動き始めたわけではない。
神社の屋根の傾斜に身を預け、支給品一式の中から地図と名簿を取り出して眺めていた。
なお、何故屋根なのかというと、彼自身の万人を見下す王としての心構えゆえである。
彼にとっては見下されるどころか、他者と同じ目線で対峙することすら許せないのだ。
馬鹿と煙は高いところが――という諺については触れないほうがいいだろう。
「ふむ……」
月夜に照らされて白く凍った表情が僅かに動いた。
見ていたのは名簿の中の「ライダー」という名前。
そして
衛宮切嗣。あのセイバーのマスターであることは言峰綺礼の報告によって承知している。
令呪を用いてセイバーとの婚儀を邪魔した雑種はもちろんのこと、ライダーというのがあのイスカンダルであれば、これも手ずから殺してやらねば気が済まぬ。
どうやらこの下らぬ遊びにも、多少なりとも王たる彼――ギルガメッシュを愉しませてくれるファクターはあるようだった。
酷薄な笑みを浮かべて名簿をしまうと、今度は地図を取り出して月明かりに晒す。
8×8マスの四方系の地図。その外に何があるかは記されていない。
顔を上げ、東方向にある湖の向こう側を見渡した。
あの方向には小高いなだらかな台地が続いている。
地図上ではブッツリと途切れているが、ならばあの向こうには何があるのか。
自ら望んでもいない連中に殺し合いをさせたいのなら、容易く外に逃げられるような舞台を用意するわけがない。
だが牢獄のような壁があるわけでもない。闇が邪魔ではあるが、ただずっと何の変哲もない地形が続いているだけに見える。
「…………」
ここでギルガメッシュは一つの可能性に思い当たった。
地図を眺めてみると、上下と左右の端の地形が相似になっているのだ。
河に道路、線路に等高線らしきライン。ここまで揃えばほぼ確定といえる。
この土地は地図の左右で繋がっている。
たとえば西端から出れば東に現れ、北から出ようとすれば南にループするだろう。
これほどの大規模な閉鎖空間を生成・維持するとは、英霊の力を持ってしてもなかなかできるものではない。
だがギラーミンがどんなに大層な力を見せ付けて悦に入っていようが、それを許すわけがないのが英雄王ギルガメッシュという男だ。
何があろうと真の王は過去現在未来にいたるまで彼一人なのだ。ゆえにその王に不遜を働いた罪はすべからく死によって償うべきである。
そのためにまずは自らの推論を確かめてみようか――と金色の英霊はようやく重い腰を上げた。
支給品をデイパックにまとめ、神社の屋根から重力を無視したかのように、余裕在る仕草で音一つ立てることなく着地。
ここから地図の端に一番近いのは東だが、湖で遮られている。
ならば南だ。電車もあるようだし、使わない手はない。
ゆっくりと歩き出す。
だがふと足を止め、手に握ったデイパックを見ると、途端に不機嫌な表情になった。
「王たる我が自ら荷を持って歩かねばならんとは何たる屈辱……ギラーミンを殺すのは当然だが、まずは従者が必要だな」
◇ ◇ ◇
その後ろにはもう誰の姿も見えなくなったというのに、汗だくで息を切らせながら、
前原圭一は映画館への道をひたすら走り続けていた。
自分を庇うために足止めを買って出た切嗣が負けて、あのサンマ傷の大男がこちらを追いかけてくるといった恐れを抱き、少しでも遠くへ逃げようと思ったからではない。
むしろ圭一は切嗣を信じている。恐れているのは自分の無力だった。
あの人が命をかけてまで守ってくれたのだ。
それを無駄にするわけにはいかない。
何か、何か自分にもできることがあるはずだ――と考える。
だが具体的には何も思いつかず、ただ気ばかりがはやっていくのだった。
そしてついに映画館へとたどり着いたときに圭一は見てしまったのだ。
東の空から闇を切り裂いていく夜明けの光をその身に浴びて、輝くは黄金のシルエット。
その双眸には太陽に照らされてなお輝きを失わぬ、紅く邪悪に満ちた眼光を持った一人の男が立っていた。
「ほう――――」
男が声を発した。
冷たい声だった。
二人が対峙する距離は10メートルほど。
圭一の体から、先程までとは違う冷たい汗。
少しでも気を抜けば歯の根が鳴り膝が震えだすところをどうにか堪えた。
「だ……誰だ!」
問うまでもなく、あの男は危険だと圭一の本能が大音量でアラームを鳴らしている。
だが逃げ出したところでどうにかなるものでもないほどの力量差があるということも、またすでに理解していた。
「我の王気を浴びて口が利けるとは、雑種の小僧にしては見所があるな。ふむ……だが――」
男は黄金の鎧を身に纏い、その髪も同じく金色だった。
問いには答えず、僅かに感心したような表情。
刹那――――、
――――轟ッッ!!
爆音と土煙。
大地が爆ぜ、アスファルトの破片が礫弾となって上空に跳ね上がった。
爆発の起点は圭一の僅か数メートル横の道路だった。
その中心には黄色の槍がアスファルトに突き刺さっていた。
「は――――」
突如としておきた出鱈目な破壊を、圭一は理解できない。
肺の空気がこぼれだすように、声なき声を漏らすのがやっとだった。
「王への拝謁の栄誉に浴しておきながら跪かぬとは無礼であろう。二度は容赦せぬぞ」
目にも止まらぬ速さで槍を取り出し投擲したのだとかろうじて理解できたのはそれだけだった。
相手がその気なら圭一には避けることはおろか、そう思う前に槍が身体を貫いていただろう。
立ちすくんでいると、圭一の頭部に着弾の爆発によって上に跳ねた拳大のアスファルトの破片が直撃。
ごちんという鈍い音とともに、思わず膝が落ちた。頭を抱えてうずくまる。
「がっ……!」
「くくく、石礫すら早く跪けと言っているぞ?」
「な、んな……」
「ところで小僧。今しがた、誰だ、と問うたな。まさか間近で見てもなお分からぬとは言うまいなぁ?」
圭一の心臓がどくんと大きく跳ね上がった。
からかうような男のその声の裏には、冷たい刃の迫力が込められていたからだ。
名乗りもせぬ男の名を言え、などという冗談のような問いを本気で投げかけてきている。
もし答えられなければ――――どこの世界的大スター様気取りだチクショウ。
待て落ち着け前原圭一。クールになるんだ。
最初に切嗣さんと会った映画館で名簿は確認したじゃないか。
こいつも首にわっかを嵌めてるからには、そのどれかに名前が載ってるはずだ。
といっても、大半は聞いたこともない名前ばっかりで何がなんだか……。
「答えられぬか小僧。王の名をすら言えぬとしたら、それは無知無礼無駄極まりない雑種だ。我は無駄なものは好かぬ――殺すか」
チクショウ好き勝手言いやがっててめぇなんかしらねーよバーカバーカ!
ああもうくそったれこうなりゃヤケだこんなイカれた奴は切嗣さんが言ってた「アイツ」に間違いねぇ!
決めた!
もう知るか!
間違ってたら――――――――誤魔化す!!
「あ……アーチャー様ですか?」
「――――たわけ」
「ぶげっ!?」
衝撃が、圭一の頭部を横殴りに吹き飛ばした。
男の平手で一瞬、音の感覚が飛び、視界が歪む。
「分かっているのなら我に無駄な手間を取らせるな。付いてこい雑種。王の従者たる栄誉を与える」
地にへばりついた愚民を見下ろしながら男の口元は半月形に歪んだ。
うずくまってピクピクと痙攣する圭一に向かって自らのデイパックを放り投げ、地面に突き刺さった槍を掴むと――、
「ああ、そういえば名を聞いていなかったな……おい?」
「――――へ!? あ、はい!」
「貴様の名を聞いているのだ。早々に答えよ」
「ま、前原圭一ですっ!」
半ば朦朧とした意識で聞いたその言葉に対して、圭一は授業で居眠りを指摘された生徒のように殆ど反射的に返答した。
それを受けて金髪の男――アーチャーは満足したのか頷いて、そして駅へと繋がる道へと歩き出す。
一方、放置された圭一は道路にへたりこんだまま、しばらく呆然と男が歩いていくのを眺めていたが、やがて目の焦点が会うと弾かれるように立ち上がった。
「え――――ちょ、ちょっとぉぉおおおお!?」
いまだに現状についていけていない。
従者って何だ。いや、なんでございますか――と聞きただそうとしてアーチャーのほうへ一歩踏み出した瞬間だった。
「圭一――我の荷を忘れるな」
底冷えのする声。
「はいいっ!!」
圭一はやっぱり反射的にアーチャーのデイパックを拾ってしまったのだった。
【G‐6 映画館前/一日目 早朝】
【前原圭一@ひぐらしのなく頃に】
[状態]:疲労(中)、混乱、頭部にたんこぶ
[装備]:雪走@ワンピース
[道具]:双眼鏡(支給品はすべて確認済)、不死の酒(完全版)(空)、基本支給品×2
[思考・状況]
基本行動方針:仲間を助けて脱出したい
1:従者って何だよ? つか、この金ぴか誰だあああああ!?
2:切嗣と早く合流したい(切嗣のことをそれなりに信用してます)
3:万が一のときに覚悟が必要だ
4:魔法使い……?
※時系列では本編終了時点です
アーチャーの真名を知りません。
クロコの名前を知りません。
【ギルガメッシュ@Fate/Zero】
[状態]:健康、不死(不完全)
[装備]:黄金の鎧@Fate/Zero、必滅の黄薔薇@Fate/Zero
[道具]:なし(圭一に持たせています)
[思考・状況]
基本行動方針:主催を滅ぼし、元の世界に帰還する。必要があれば他の参加者も殺す。
1:駅に向かい、電車に乗って地図の境目を確認する。
2:宝具は見つけ次第我が物にする。 王の財宝、天地乖離す開闢の星、天の鎖があれば特に優先する。
[備考]
※ 不死の酒を残らず飲み干しましたが、完全な不死は得られませんでした。
具体的には、再生能力等が全て1/3程度。また、首か心臓部に致命傷を受ければ死にます。
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最終更新:2012年11月28日 01:54