プッツン共の祭典◆EHGCl/.tFA
その時、
東方仗助は、普段あまり使っていない脳をフル回転させていた。
肩の上では獣耳の幼女が愛くるしい寝顔を見せているが、今の仗助の目には映らない。
視線は手元――手に持った一枚の紙と縦が短い円柱の物体に釘付け。
ともすれば頭から煙が出そうな程に思考を続ける。
そして数分の時間が経つた頃、
「さっぱり分かんねーーーーッ!! コンパスと地図だけで位置の把握なんか出来るかっつーーの!!」
その全てを放り投げ、頭を抱えてその場に座り込んだ。
デイバックから水を取り出し喉を潤す。
程良い温度の水がオーバーヒートを起こし掛けた脳を冷やしてくれる。
ペットボトルの約五分の一を飲み干し、仗助は空を見上げた。
(承太郎さんならまだしもよォーー俺がこんなもん分かる訳ねぇだろうがーーー!! ギラーミンの野郎もちっとは物考えろよなぁーーー!!)
先程まで彼が行っていた作業は地図とコンパスによる現在地の特定。
そして
アルルゥを休められる施設が設置された方角の把握。
しかし残念なことに仗助が居る位置は森の中、目印となる建物は一つもない。
それに加え仗助は、親友のスタンド使い程ではないにせよ頭が良い方ではない。
とてもじゃないが、コンパス一つで自身の位置を判断など不可能。
仗助はうなだれることしか出来なかった。
「はぁ……マジでどうすっかな……」
呟きと共に仗助は大きな溜め息を吐く。
―――取り敢えずアルルゥに怪我はない。ただ気絶しているだけだ。
だが、休ませるにせよ他の参加者に見つかり易い外はマズい。
万が一、さっきのスタンド使いみたいなプッツン野郎や吉良のような殺人鬼に遭遇したら、気絶中のアルルゥを抱えての戦闘となってしまう。
それはあまりに危険だ。
自分もそうだが、何よりもアルルゥが。
例えクレイジー・ダイヤモンドがあるにせよ、こんな純粋な子供に痛い目は合わせたくない。
せめて何処か身を隠せられる場所には辿り着きたい。
(とは言っても、絶賛迷子中だからなぁ……くそ、情けねぇ……)
二度目の溜め息を吐き、仗助は立ち上がった。
背中にアルルゥを抱え、周囲をクレイジー・ダイヤモンドで見回し警戒しながら、歩き始める。
行き先は決めていない。
ただ自身の勘を頼り前に進む。
何もせず管を巻いているよりは何倍もマシな筈―――そう判断し、仗助は行動を始めた。
(それにしてもよぉー、何でこの名簿には吉良の名前が載ってんだ?)
その名は今だ記憶に新しい。
平穏な杜王町の影で行われていた凄惨な殺人劇、その首謀者・
吉良吉影。
触れもの全てを爆弾に変える恐るべきスタンド能力を持った男。
自分がこの手でブチのめし、承太郎さんにもブチのめされ、そして最後は事故で死んだ糞野郎だ。
(まさか生き返った? ……有り得ねぇ……そんなのクレイジー・ダイヤモンドにも……いや、どんなスタンドにも不可能だ……。
なら同姓同名の別人? こんなヘンテコな名前が二人も居るとは思えねーけどなぁ……)
歩きつつも思考を続けるが、しっくりくる解答は浮かばない。
駄目だ。考えたって分からないことは山のようにある。
これはその中の一つだ。
深く考えない方が良いだろう。
(それに、この吉良吉影が本人だったとしても、もう一回ブチのめしてやれば済むことだしな……)
そこまで考え、仗助は取り敢えず思考を打ち切った。
背中のアルルゥは未だ目を覚まさない。
寝息を立て、気持ち良さそうに夢の世界へと旅立っている。
頭から犬のような耳を生やした幼女。
不思議で仕方がない外見だが、スタンドや吸血鬼、幽霊などの存在を知った今となっては大した驚きは覚えない。
ただ純粋に「護ってやらなければ」という感情が湧いてくるだけであった。
「絶対『おとーさん』と『おねーちゃん』に会わせてやるからよ……お前は何も気にせず寝てて良いんだぜ……」
その頭を撫でる。
くすぐったそうに笑うアルルゥ。
そんなアルルゥを優しげな瞳で見詰た後、仗助は前方を見据えた。
―――必ずこの殺し合いをぶっ壊して見せる。
何時しか仗助の瞳には光が宿っていた。
それは、「正義」の輝きの中にある「黄金の精神」。
その瞳は、誰にも負けない優しく力強い光を映し出している。
彼の中では今、まさに、「黄金の精神」が怒りと共に燃え盛っていた。
――しかし仗助は気付いていない。
自分の進み始めた方向が、本来向かおうとしていた中央部から全くの反対だということに。
自分の勘が完全に外れているということに。
そして地図の端に到達し、そのまま足を踏み出してしまったことに。
ループする会場。
当然ながら、仗助の身体は自身も気付かぬ内にH-1へとワープしていた。
□
歩き始めてどれだけの時間が経ったか。仗助は建物の一つも見つけ出せずにいた。
歩けど歩けど風景は変わらない。
あるのは緑色の葉を付けた木々のみ。
体力に自信はある仗助であったが、流石にこれだけ歩き続けていると疲労も覚える。
仗助は小さく溜め息を吐き、木にもたれ掛かり水を飲んだ。
―――パキリ
すると何かをへし折ったような細い音がした。
水をバックに積め直し、周囲を見回す仗助。
その音は仗助自身に聞こえた訳ではない。聞いたのは隣に浮かぶクレイジー・ダイヤモンド。
人間を遥かに超越した聴覚で、その些細な音を聞き取ったのだ。
そして数秒もせずに、仗助は暗闇の中から音の主を発見する。
(……女?)
それは、あのプッツンスタンド使い以降、久方振りの参加者。
異様に露出度が高い服装、右肩には巨大なイレズミ、明らかに普通でない容姿をした女性。
仗助は警戒を解かずに、だがそれを相手に悟られないよう表情を緩め、歩み寄る。
向こうも仗助の存在に気付いたのか、ゆっくりと近付いてきた。
「俺は東方仗助って言います。えっと、あんたの名は――「黙れ」――何て言うんスか? …………ぅて、え?」
女性が発したのはたった二文字の言葉。
相手に警戒心を与えないよう浮かべていた仗助の笑顔が固まる。
そして、見た。
一瞬の内にホルスターから懐から取り出され、自分へと向けられた拳銃を。
端から見ても一目瞭然な程の憤怒を浮かべた女の顔を。
「あの、今なんて……?」
「黙れって言ったんだよ。お前のその耳は飾りか? あ?」
(……………………な、何なんだよ、この展開はぁー! 俺が何かしたっつーのかよォーーー!!)
仗助は心の中で叫んだ。
二連続でプッツン野郎と遭遇した自分の運のなさに。
そんなプッツン野郎へ不用意に近付いてしまった自分の甘さに。
「良いか、今からあたしが二つ質問する。イエスかノーで答えろ。それ以外は何も喋るな。喋れば殺す、何か不審な動きをしても殺す、分かったな」
女の言葉に頷きながら、仗助はうなだれた。
直ぐ目の前では銃口がプルプルと震えている。
今にも引き金を引かれそうで心臓に悪い。
「真っ白な車掌服を着て赤色の髪をした男を見たか?」
真っ白な車掌服。
赤色の髪。
白色の服を着たプッツン野郎とは会ったが、赤色の髪ではなかった。
そして残念ながらそれ以外の参加者とは遭遇していない。
「ノ、ノーっス」
「ちっ、こっちじゃなかったか……ミスったな」
途端、女は仗助の存在などを忘れたかのようにボヤき始めた。
頭を掻き揚げ、落ち着かない様子で足をパタつかせる。
よくよく見ると女の身体は傷だらけだった。
全身至る所に小さな傷があり、左手の小指など欠損している。
(……もしやこの女『赤髪で車掌服を着た男』に襲われたんじゃねーのか? それならこの「怒り」にも合点がいく……)
未だ女はブツブツと愚痴を呟いている。
その癖、銃口はシッカリとこちらに向いていて、離れない。
一筋の冷や汗を流しつつも仗助は脳をフル回転させる。
(なら、何とか落ち着かせて傷を治してやれば仲間になってくれるんじゃねーか? オォ流石は仗助くん、良いアイディアだ!)
銃口から女へと視線を移し、仗助は大きく息を吸い込む。
意を決し声を掛けようとし―――しかしそこで女が再び口を開いた。
「二つ目の問題だ。何か銃を持ってねぇか? 持ってたら今直ぐよこしな」
「い、いや、その質問もノーっス……」
出鼻を挫かれた仗助は、開いた口を質疑応答の為に使用してしまった。
あまりのタイミングの悪さに、何度目か分からない溜め息が口から出る。
と、そこで女が自分を見詰めている事に仗助は気がついた。
その視線は氷のように冷たい。
仗助は警戒心を高めた。
「……お、俺の顔に何か付いてますか?」
「……気に入らねぇな」
「は?」
「……てめぇの使えなさにもそうだが、何よりその余裕が気に入らねぇ……自分が今、死ぬかどうかの瀬戸際に立ってるってことに気付いてねぇだろ?」
「いや、そんな事はないんスけど――」
――その言葉を言い切る前に、仗助の身体は後ろに吹き飛んだ。
周囲に鳴り響くは耳をつんざく轟音。
女が銃を撃ったのだ。
十メートルと離れていない距離から、放たれた弾丸は空気を切り裂き仗助に飛来する。
プッツン野郎―――仗助が眼前の女に抱いた印象は決して間違っていなかった。
ただ一つが解釈を間違っとするならその度合い―――女の『プッツン具合』を見誤った。
普段の女なら、確かに多少プッツンしている所はあるがまだ仗助の予想の範囲内だっただろう。
だが今の女は違う。
ある世界での最強と謡われる殺し屋と戦い、苦い敗北の汁を舐めたばかり。
要するに、女は何時もより遥かにプッツンしていたのだ。
そして、元々殺人を忌避しない性格も重なり、ただ気分に任せ、女は引き金を引き絞った。
「敬語はちゃんと使え、ボケが」
女の思った通りに仗助は吹き飛び、倒れた。
女は冷酷な呟きと共に、唾を吐き捨てる。
ふと、男が変な耳を生やした幼女を背負っていたことを思い出したが、流石にあんな子供を仕留める気にはならず、女は銃をホルスターへと収めた。
女は、バックを奪う為に男の死体へと近付いていく。
――そして気付いた。
男の身体に重なるように存在する巨大な人形に。
その人形が「何か」を摘まんでいることに。
その「何か」が自分が撃ち出した弾丸だということに。
「何しやがんだ、このアマーーーーッ!!」
男が何事もなかったかのように立ち上がる。
その身体は怒りに震え、眉間には深い皺が寄っている。
男の身体から浮き上がる、鋼のような筋肉を纏った人形。
最初上半身だけだったそれには下半身が付け足されている。
―――クレイジー・ダイヤモンド
全てを破壊し、そして全てを治す事ができるスタンド。
それが女の目の前に具現化された。
□
「このプッツン野郎が! こっちが下手に出てりゃつけあがりやがってよぉーーッ!!」
(何だ、この野郎! 弾丸を……摘み取りやがった!!)
女――
レヴィは反射的にその場から飛び退いた。
レヴィが取ったその選択は正解。ベストとも言える解答であった。
何故なら、レヴィが下がると同時に、目の前の男から現れた人形が拳の連打を繰り出したから。
間一髪、そのラッシュはレヴィに当たる事なく空を切った。
「ドララァッ!!」
だが人形はまだまだ止まらない。
続いてレヴィに襲い掛かるは蹴撃。
残像すら見える速度での連続蹴り。
何とか身を捻り避けようとするも、一発の蹴りがレヴィの脇腹を叩く。
レヴィの身体がその場から吹き飛んだ。
三回ほど地面の上で回転し、その勢いを利用し何とか立ち上がるレヴィ。
直ぐ様、銃を構える。
その顔には変わらぬ怒りと驚愕、そしてダメージが見て取れた。
「てめぇ……何なんだよ、それは……」
「何だ、オメーもスタンド使いかよ」
「スタンド……?」
「出せよ。どんなスタンドだろうと俺のクレイジー・ダイヤモンドがぶっ潰してやるけどなッ!」
怒りに沸騰する頭でレヴィは思考する。
――奴が今言った「クレイジー・ダイヤモンド」、「スタンド」とは、恐らくあの人形の名称。
近距離から放たれた銃弾を摘み、阿呆みたいな力と速度で連打をかました超ハイスペック人形。
何故今まで出さなかったのかは知らないが、相当に厄介な相手だ。
(チッ……何でこう貧乏クジばかり引くんだよ!)
ゲーム開始して早々に出会った化け物二人――変態マスクと派手な右腕をした男。
次に会ったのは思い出すだけで殺意を抱かせる糞男――クレア。
その全員が、まるでコミックブックから飛び出したヒーローのように馬鹿げた身体能力を持っていた。
それは目の前の男も同様。
「スタンド」、「クレイジー・ダイヤモンド」を操る化け物――確か名前はヒガシカタ・ジョースケと言ったか。
まさにクレイジーだ。
割に合わない。
金を積まれての依頼ならまだしも、ノーリターンで始末する奴等じゃない。
(―――だけどな)
レヴィは引き金を引きつつ後退し、仗助との距離を離す。
仗助は弾丸に怯むことなく一歩一歩近付いてくる。
弾丸はクレイジー・ダイヤモンドにより見当違いの方向へ逸らされている。
(てめぇみたいな小便垂れのガキから逃げたとなっちゃあ、信用もプライドも地に落ちちまうんだよ!!)
銃弾すら弾く敵。
決して軽くない負傷。
武器は、使い慣れた愛銃ではない一丁の拳銃。
自慢の二挺拳銃も発揮できない状況。
普段なら撤退も考える―――だがレヴィは引かない。
プライドが、何より奥底から溢れ出す感情が、撤退を許さない。
「GO! GO! GO!」
レヴィは単純に思考した。
単発が防がれるのなら連射すれば良い。
その単純な思考の元、引き金に掛かった人差し指を七回動かす。
不可視の螺旋を描き直進する七つの弾丸。
流石のクレイジー・ダイヤモンドでも全て摘み取るのは不可能に近い。
「ドララララァッ!!」
――そう、摘み取るのは、だ。
摘み取れないのなら逸らせば良い。
拳の壁が全ての弾丸を弾き飛ばす。
クレイジー・ダイヤモンドの脚力で地面を蹴り、レヴィへと向かう仗助。
(速い……が、着いて行けねぇ程じゃねぇ!!)
確かにクレイジー・ダイヤモンドを用いての移動は速いが、レヴィもまた銃弾飛び交う戦場を無傷で潜り抜ける逸脱人。
まだ反応できる速度。
直ぐさまマガジンを入れ換え、再び仗助へと狙いを定める。
しかし、引き金は一回しか引けなかった。
それと同時にクレイジー・ダイヤモンドの射程距離に入ってしまったからだ。
「ドラァッ!!」
「チィッ!!」
銃弾はやはり弾かれた。
代わりにレヴィの顔並みに巨大な拳がうねりを上げて迫る。
その拳速にはさしものレヴィでも避けきれない。
拳は見事に顔面を捕らえ、レヴィの身体を浮き上がらせた。
「少しは目ぇ覚めたか、プッツン女が!」
闇の中に消えていくレヴィ。
レヴィが吹き飛んだ方に指を向け、仗助は腰に手を当て立ち尽くす。
その言葉とは裏腹に、その額には冷や汗が浮かんでいた。
この時、仗助はある考えに行き着いていたからだ。
その考えこそが仗助に冷や汗を流させる原因。
(やり過ぎちまったか? スタンド使いじゃねぇ普通の人間相手に……)
――その考えとは、戦闘を繰り広げているこの女がスタンド使いでは無いのではないか、という事。
先程から相手は、拳銃を使用しての何の変哲もない攻撃しか行わない。
それどころかスタンドを使う素振りすら見せない。
確かに女の動きには目を見張るものがあるが、それでもクレイジー・ダイヤモンドの速度から見れば圧倒的に遅い。
追い詰めているのは自分。
追い詰められているのは相手。
なのにスタンドを使う兆しすら見せない。
おかしい。
この状況ならどんなスタンド使いだろうと、防御くらいにはスタンドを見せる筈だ。
――それらの事柄から予測できる事は、相手が非スタンド使いでは無いかということ。
何故、スタンドを見る事が出来るかは分からないが、そう考えなくては現状を説明できない。
そして、その結論に行き着くと同時に頭に昇っていた血が下がり、怒りは何処へともなく消えていった。
(このまま寝ててくれると助かるんだけどな……これ以上殴るのは流石に抵抗あるしよぉーー……)
正当防衛とは言え、非スタンド使いをスタンドで傷付けるのは罪悪感が宿る。
それにクレイジー・ダイヤモンドは近距離パワー型、人を簡単に殺害できる力を有したスタンドだ。
その力故に、躊躇いは倍増する。
(頼むぜ……寝ててくれ……)
いるか分からない神様に祈る仗助。
右肩にはこれだけの戦闘音にも目を覚まさないアルルゥが寝言を呟いている。
その時、レヴィの吹き飛んでいった方角から何かが現れた。
(ボール……?)
クレイジー・ダイヤモンドの視力がその全貌を見透かす。
赤と白に塗り分けられた、ポケットに入りそうなサイズのボール。
半透明のそれの中では何かが動いている。
その正体を探ろうとクレイジー・ダイヤモンドの視覚に意識を集中させる。
(猫……?)
ボールの中に居た動物は、仗助の知識の中には存在しない生物であった。
猫のような輪郭、だが猫とは、いやどんな動物だろうと有り得ないまん丸とした饅頭のような身体。
念の為クレイジー・ダイヤモンドを前方に出現させ、何が起きても対応できる体制を整えておくが、仗助は未だに事態に着いて行けていなかった。
そして遂にボールが地面に触れる。位置は仗助から数メートルと離れていない。
そして――
「何ぃぃいいいいいッッ!!!?」
――仗助の身体が、クレイジー・ダイヤモンドごと大質量の何かに吹き飛ばされた。
とっさにアルルゥを自身の両腕で抱き締め、同時に大柄な仗助の身体が宙に舞い、縦回転を始めた。
抗いようのない力に宙を舞いながらも、仗助はその一部始終を見た。
地面に触れた瞬間に消えたボール。
その代わりに現れた、ボールと同サイズの小さな猫。
だがその猫は、コンマ数秒と経たない内に巨大化していった。
そして遂には自分へと到達し、クレイジー・ダイヤモンド毎、自分を弾き飛ばす。
思わず抱き締めたくなる柔らかそうな胴体、そこから生える極端に短い手足、そして八重歯の可愛い細目の猫の姿を、仗助はしっかりと捉えていた。
「ホームランだな、糞ガキ」
――同時に視界の隅を掠める一人の女。
悠々と地面に立つ女は歪んだ笑みと共に拳銃を構えおり、その銃口は、空中できりもみ回転中の仗助へと向けられている。
マズいと思う仗助であったが、如何せん状況が悪すぎる。
身体はグルグルと回転しており防御体制を取ることすら困難。
自分が上下左右のどちらを向いているのかすら、把握できない状態だ。
(ヤ、ヤベェ!)
四方八方にクレイジー・ダイヤモンドの手を伸ばすが、虚空を掴むのみ。
何かを治し、その力で移動することも不可能。
全方位へのラッシュで銃弾を防ぐ?
無理だ。一発だけならまだしも連射されれば確実にどれかは当たる。
何でも良い。
打開策を考えろ。
この状態をぶち破る策を――
(――だぁあああああ、何も思い浮かばねぇーーッ!! マジでヤベェぞ、これはッ!!)
「死になッ!!」
その最終宣告に身体が無意識に動いた。
当たるとは思っていない。
だがただの的のまま終わる気もない。
最後まで足掻く――その意志が仗助を動かしていた。
クレイジー・ダイヤモンドの右腕を左肩に掛かったデイバックに突っ込む。
満足に確認していないデイバックの中から、最初に触れた球体状の物質を取り出す。
上下が赤と白に色分けられた、どこか見覚えのある「ソレ」を握ったまま、思い切り振り被る。
命中すれば僥倖。
当たらなくても僅かに攻撃の手を休められれば充分。
クレイジー・ダイヤモンドが渾身の力で「ソレ」を投げ付ける。
そして同時に鳴り響く轟音。
「ドラララララララララララララララララララ!!」
直ぐさまラッシュ、ラッシュ、ラッシュ。
上下左右斜めに至るまで、全てを拳の弾幕で埋め尽くすつもりで連打、連打、連打。
―――拳に何か触れた。
弾丸だ。そう思う間もなく、右の太股に灼熱が掠める。
痛い。ほんの僅かだが、肉が削ぎ落とされた。
だがそれでもラッシュを止める訳にはいかない。
「ドラララララララララララァッ!!」
痛覚を咆哮で誤魔化す。
数秒に渡るラッシュの後、身体が地面と激突。
背中と後頭部に鈍い衝撃が走り、一瞬視界が黒に染まる。
受け身は取れなかったが、アルルゥはしっかりと抱きかかえ死守する。
(寝てる場合じゃねぇ……早い所逃げねーと……)
今のフラフラの状態であの女と戦うことは不利。
そう判断し、力が上手く入らない脚を根性で動かす。
亀よりも遅い足取りだが一歩一歩確実に前へと進んでいく。
何故かは知らないが、追撃の弾丸は飛んでこない。
クレイジー・ダイヤモンドで後方を覗くが、まるで山のような巨体で寝転がる猫が邪魔で女の姿は確認できなかった。
(そーいや、一発しか撃たれなかったしな……向こうも何かトラブったのか?)
此処に来て舞い降りた幸運に感謝しながら、仗助は森の中へと姿を消していく。
その右肩では幼女が幸せそうな笑みを浮かべていた。
□
顔面を殴られる。
数瞬後、地面に激突。
凄まじい衝撃と痛みに逆に呼び覚まされた意識。
レヴィは、自身の身体で地面に大の字を描きながら、考える。
奴を、東方仗助をブチのめす方法。
近距離からの銃撃は防がれた。
連続の銃撃も防がれた。
一丁しか拳銃がない以上、真っ正面からの射撃は不利と言える。
なら逃げるのか?
それも無理。
一日に二度コテンパンなされて、のうのうと生きていられる程お気楽な性格ではない。
絶対にブチのめす。
一発でも良いから奴に鉛玉をぶち込む。
そうでなくては気が済まない。
そして考え付いた。
奴をぶっ飛ばせるかもしれない作戦を。
取り出すは一つの球体。
自分に支給されたモンスターボールという名前のアイテム。
付属の説明書を見ると、「ゴン」という名のポケモンが入っているとのこと。
「ポケモン」という生き物が何なのかは分からなかったが、この「ゴン」と共闘
すれば奴を倒せるかも―――そう思い、仗助へとボールを投げ付けた。
そしたら、次の瞬間奴は宙を舞っていた。
穴の空いた風船のように激しく回転しながら。
「スタンド」を出し、もがいていたが、依然回転を続けたまま。
どうやらボールから飛び出し巨大化したカビゴンに当たり、吹き飛ばされたらしい。
いくら銃弾を防げるといってもあの状況下では不可能だろう。
当初の予定とは全く違うが、結果オーライ。
満開の微笑みと共にレヴィは引き金を引き――――何かが顔の直ぐ近くを通過した。
仗助に銃口を向けたまま横に飛び、瞳だけを動かし飛来した何かを見る。
「……は?」
そこに居たのは余りに奇妙な生物。
見事なまでに形の整った球体。
その球体から生える短い二本の腕と二本の足。
球体の中央に鎮座するやけに目つきの悪い顔。
肌は岩のような、というか岩にしか見えない物質で覆われている。
唐突に現れた怪物に、レヴィは引き金を引くことすら忘れ呆然とその生物を眺めていた。
(オーライ……オーライだ、レヴェッカ。一旦落ち着こう。そうさ、慌てることはねぇ。此処は「スタンド使い」とかいうコミックヒーローが山の様に居る世界
……言うなりゃファンタジーワールド。今更こんなエイリアン見たくらいで驚くことはねぇ……クールだ、クールに対応しろ、レヴィ……)
レヴィはゆっくりと銃口を目の前のモンスターに向ける。
同時にモンスターが一歩此方に足を踏み出した。
「ストップだ。それ以上近付いたらぶっ放すぞ」
遠方では何かが落ちる音。
恐らく仗助が地面に落ちたのだろう、とレヴィは予測。
だが銃口を向ける訳にはいかない。
眼前のモンスターが明らかに敵意を見せているからだ。
(これもスタンドって奴か……訳が分かんねえ)
ギリ、と歯を鳴らす。
数メートル先で聞こえる足音がドンドンと遠ざかっていく。
――奴は生きている。また「スタンド」を使い避けやがったか。
その思考に行き着くと同時にレヴィは、仗助を追い掛けるべく横に動いた。
が、それに追随する動く岩石。
岩石は、仗助が居るであろう方角に先回りし、短い両腕を広げ立ち塞がった。
「何だってんだ、テメェは」
苛立ちがそのまま口から出る。
言葉が通じているのか、いないのか、岩石はピクリとも動かない。
心の中では、レヴィの堪忍袋の尾が限界を訴えていた。
「どきな。これが最終勧告だ」
なけなしの理性を集めての言葉。
だが岩石は動かない。
敵意ある眼でレヴィを睨むだけ。
レヴィの頬がヒクヒクと痙攣し、眉間が徐々に吊り上がっていく。
そして数秒後、遂に爆発した。
「どけっつってんだよ、石コロが!」
結果的に岩石は、レヴィが放った怒声にもピストルから放たれた弾丸にも、僅かな反応しか示さなかった。
怒声は右から左に聞き流し、弾丸は岩の身体が弾く。
多少の痛みはあったらしいが、それでも僅かに顔をしかめただけ。
それどころか、あわやレヴィの脳天に跳弾が突き刺さるとこであった。
結果的に岩石は、レヴィが放った怒声にもピストルから放たれた弾丸にも、僅かな反応しか示さなかった。
怒声は右から左に聞き流し、弾丸は岩の身体が弾く。
多少の痛みはあったらしいが、それでも僅かに顔をしかめただけ。
それどころか、あわやレヴィの脳天に跳弾が突き刺さるとこであった。
(銃は効かねえってか……ならよ……)
ならばと、右に左に走りモンスターを振り切ろうとするが、岩石はゴロゴロと器用に転がり再び前に立ち塞がる。
ゴンに命令し何とかどける事に成功するが、既に仗助は影も形もなく、僅かに明るさを増した森が広がっているだけだった。
「ちっくしょう!! 次会ったらその鳥の巣みてーな頭、吹き飛ばしてやるからな!!」
森林に向かって吠えるが、勿論返事はない。
途端に虚しさが込み上げてきた。
レヴィはがっくりと頭を垂れ、後ろに振り返る。
そこには、巨大な猫に抑え込まれながらも抵抗を続ける岩石と、その抵抗に四苦八苦しながらも従順にレヴィの命令をこなす巨大猫の姿。
自分の世界には存在しない珍獣達のダンスを、レヴィは疲れた顔で眺めていた。
【H-1/森/早朝】
【レヴィ@BLACK LAGOON】
[状態]疲労(中)、全身に軽い負傷、左小指欠損(応急処置済み)、軽いイライラ、顔面と左脇腹に鋭い痛み、
[装備]スプリングフィールドXD 7/9@現実、スプリングフィールドXDの予備弾21/30
@現実、カビゴンのモンスターボール@ポケットモンスターSPECIAL
[道具]支給品一式、不明支給品(銃器類なし)0~1、応急処置用の簡易道具@現実
[思考・状況]
0:コイツ等どうすっかな……
1:この状況を何とかする。
2:クレアと仗助を必ず殺す。
3:爆発?を起こしたゼロを許さない。(レヴィは誰がやったかは知りません)
4:他の参加者に武器を、特にソードカトラスがあったら譲ってくれるように頼む。断られたら力付く、それでも無理なら殺害。
5:気に入らない奴は殺す。
※クレアが何処へ向かったかは知りません。
※参戦時期は今のところ未定です。
※スタンドの存在を知りましたが、具体的には理解していません。
※あと数分で「
レッドのカビゴン@ポケットモンスターSPECIAL」、「イエローのゴローニャ@ポケットモンスターSPECIAL」共にボールへと戻ります
□
仗助は歩き続ける。
先程のダメージも時間が経つにつれ抜けて来ており、気分も楽。
あの女も撒いたようだ。
仗助は漸く安堵の顔を見せた。
「それにしても不思議なスタンドだったな……」
仗助は十数分前のことを思い出す。
小さなボールから出現した巨大な獣。
自分は弾き飛ばされただけだったが、もしアレが頭上で展開されてたら危なかった。
あの数百kgは有りそうな巨体に押し潰されていたかもしれない。
「あの白服のスタンドなんか音石のレッド・ホット・チリペッパーよりも速かったしよー……厄介なスタンド使いばっかりだぜ……」
こうなると康一の奴も心配になってくる。
エコーズも強力なスタンドだが、それでも安心はできない。
事実、数時間しか経過してないにも関わらず、自分は二度も戦闘に陥っている。
そのどれも、決して雑魚ではないスタンド使いばかり。
「これは予想以上にヘビーかもな……やれやれ、グレートだぜ」
三度目の溜め息と共に仗助は歩き出す。
疲労は見せているが、未だ「黄金の輝き」は翳りを見せない。
何よりも優しいスタンドを持つ東方仗助、何よりも純粋な心を持つアルルゥ。
彼等の冒険はまだ、終わらない。
【G-1/森/早朝】
【東方仗助@ジョジョの奇妙な冒険】
[状態]疲労(小)、背中に打撲、頬に細い傷、右太股に銃弾による掠り傷
[装備]なし
[道具]支給品一式、不明支給品(0~1)
[思考・状況]
1:プッツン女(レヴィ)から逃げる
2:アルルゥをどこかで介抱する。
3:しばらくしたら、劉鳳を捜す事も検討。
4:ギラーミンを倒し、ゲームから脱出する
5:うたわれ勢や康一と合流する
6:軽率な行動は控え、できるだけ相手の出方を見て行動する
※アルルゥからうたわれ勢の名前を聞きました
※ループしたことに気が付いていません
※レヴィ(名前は知らない)をスタンド使いだと勘違いしています
【アルルゥ@うたわれるもの】
[状態]健康、気絶
[装備]おはぎ@ひぐらしのなく頃に
[道具]支給品一式、ニースの小型爆弾×4@BACCANO!、不明支給品(0~2)
[思考・状況]
1:??
2:
ハクオロ達に会いたい
3:仗助と行動する
※ココが殺し合いの場であることをイマイチ理解していません
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最終更新:2012年11月29日 00:03