走れトウカ ◆/c74aMEADc



 トウカは激怒していた。
 必ず、かの卑劣漢ギラーミンを討たねばならぬと決意した。
 彼女はエヴェンクルガ族の武士(もののふ)である。和風の装いに包まれた細身には、
誇り高き種族の血が奔っている。羽毛の生えた鳥の翼のような長耳は装飾などではなく、
彼女が異世界に生を受けた亜人である証だった。

『エヴェンクルガが与する者に正義あり』

 乱世においてさえ“いるだけで”大義の旗印となり、また一騎当千の武勇と相まって、
ただの一人で戦局を左右するとまで言われる武人。
 そのエヴェンクルガが、どうしてこのような理不尽な殺人遊戯などを認められようか。

「否! 認められるわけがない!」

 眠れる木々を覚ますように、女剣士は澄んだ声を張った。
 脳裏に蘇るのは、先刻少女と青年が惨殺される光景。あの時トウカは動かなかった。
 心酔するハクオロ皇や、妹分のアルルゥ、共に新興国家トゥスクルを支える仲間達と、
これを偽りはすまい、自分の保身を優先してしまったのだ。
 エヴェンクルガの恥である。謗りは甘んじて受けよう。

 しかし今は一人でも多くの同志を募り、最終的にはこのふざけた企みを叩き潰す。

「悪漢ギラーミンめ! 首を洗って待っているがいい!」

 果たして朗々たる声は、一帯に響き渡った。
 殺し合いに乗った不心得者がどこにいるとも知れぬ現状で、浅慮な行為という他ない。
だが、正義に燃える彼女が己のうっかりに思い至ることはついになかった。

「……そうだ。荷物を改めておくか」

 ここに来て、トウカは支給品一式が納まったディパックに手を突っ込んだ。
 望み薄だが、何か武器が入っているかもしれない。
 説明書に首っ引きで確かめる時間も惜しんで、手当たり次第に有用と思われるものを選
別していく。
 最後に硬質な感触を引き当てた。これまでに武器らしいものはなかった。
 期待の品を、月光に翳して確認する。

「これは?」

 それは、彼女にとってまるで馴染みのない道具だった。
 無色透明な未知の素材で作られた円筒。中には紫掛かった生白いゲル状の物質が詰まっ
ているのが見てとれる。片端にはキャップに保護された針、もう一方に中身を押し出すた
めのピストンがある。
 いわゆる、注射器だった。

「毒薬の類いか……」

 トウカは自分の常識に照らしてそう結論づけた。声に落胆の響きが混じっているのは、
毒物が彼女のよしとする武器ではなかったことによる。

 しかし見れば見るほど奇妙な代物だった。
 殊にその中身には、亜人の鋭敏な感覚に訴える不吉な気配がある。

「これは生きている、のか? ……まさかな」

 いくらなんでもと頭を振る。些か気にはなるが、ここは保留として、後に薬師のエルルゥに検分してもらおうと決める。

「そうだ。某にぐずぐずしている暇はない」

 差し当たっての方針をハクオロとの合流と定めて、トウカは走り出した。賢皇と名高い
ハクオロならば、きっと我々を導いてくれると信じて。

「エヴェンクルガのトウカ、参る!」



【1日目 深夜 A-7 森】
【トウカ@うたわれるもの】

[状態]:健康(やや体が重いような気も?)
[装備]:ミュウツー細胞の注射器@ポケットモンスターSPECIAL
[道具]:ランダム支給品1~2(確認済、武器類はなし)、基本支給品
[思考・状況]
1:仲間を募り、悪漢ギラーミンを討つ!
2:弱者は保護し、殺し合いに乗るような不逞の輩は斬る
3:ハクオロとの合流
4:武器(出来れば刀剣)を探す
※トウカの大声がA-7に響き渡りました

【ミュウツー細胞の注射器@ポケットモンスターSPECIAL】
 ミュウツーの細胞を封入した注射器。
 原作ではカツラがこれを使って、自らの腕にミュウツーの細胞を移植した。
 結果として彼の腕の組織は延長し、ミュウツーに引かれるように波立つ“生きたミュウツー探知器”となった。
 ミュウツー細胞に冒された部位は引き攣り、激痛が走る。そのまま放置すれば全身に転位するという。
 安全キャップ付き。注射しない限りはまず効果を発揮しない。


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最終更新:2012年12月06日 04:06