キミガタメ(I save you from anything) ◆GOn9rNo1ts
『人生は道路のようなものだ。 一番の近道は、たいてい一番悪い道だ』
◇ ◇ ◇
破壊とは、創造よりもずいぶん簡単だ。
先程、遠目にも映える大規模破壊の傷跡を見たばかりの俺は、そう独りごちた。
建築物に関してそこまで知っているわけではないが、それでもあれほどの規模の建物を造るのが容易ではないことは知っている。
つい先程まではオレを見上げていた窓ガラスが、今や地べたに這い蹲っている。
つい先程まではオレを迎えていた自動ドアが、今や灰色と茶色と黒に埋もれて行方不明だ。
つい先程まではオレが手を組み戦っていた者達も、今や何人が生き残っているか。
破壊とは、かくも短時間で事を成せるものである。
窓ガラスを作るのにどれほどの月日がかかったのか。
自動ドアを作るのにどれほどの月日がかかったのか。
人間を成長させるのにどれほどの年月がかかったのか。
銃弾も、爆風も、何もかもの破壊の権化達はそんなことを一切気にしない。
この世の物理法則に従って、慈悲無く己のエネルギーを使い切ろうと働き続ける。その身消えるまで。
全て一瞬だ。刹那の内に、物も命も消えていく。消されていく。
(オレは、どうなのだろうか)
破壊のために生み出され、この地でも命の破壊を繰り返していくオレは。
マスターの命を救うために他の者全てを破壊するオレは。
銃弾と同値か、爆風と同位か、所詮は作られしモノなのか。
(違う、オレには意志がある)
分かり切っていた答えがより強固に、数度の反芻の果てに浮かび上がる。
破壊のためだけに作られたオレを、マスターは兄弟として扱ってくれた。共に生きてくれた。
マスターだけでなく、オレの生命さえも脅かす
ミュウツー細胞。
そのせいで、ボールの中にいるときもグレンジム内にいるときも特殊な水溶液の中で暮らさねばならぬ、枷だらけの人生。
辛い時もあった。苦しい時もあった。生まれを恨んだ時もあった。
そんな時、オレの傍にはいつもマスターがいた。
声をかけ、身体の体調を気にかけ、時にはつまらないギャグを繰り出してくれた。
激しいバトルの時もオレの負担を減らすために自らその渦中に飛び込み、共に戦ってくれた。
繋がっていたオレには痛いほどマスターの気持ちが分かる。
本当にオレのことを想い、オレのために生きてくれた命の恩人だ。
(彼のために、オレは全てを壊す)
銃弾のように、馬鹿正直に直線を突き抜けることもせず。
爆風のように、考え無しに周りのもの全てを吹き飛ばすこともせず。
オレはオレの意志で判断し、決断し、破壊する。
許されがたき行為だ。分かっている。
マスターはそんなことを望んでいないだろう。百も承知だ。
それでもオレは止まるわけにはいかない。止めるわけにはいかない。
全ては破壊の後の創造のために。
59の命の消滅の後、1つの命を救うために。
我は、ここにあり。
「やー!おろしてー!」
その誓いに水を差すような幼い声が、月光に照らされた暗闇を貫くように響き渡った。
場所はFー4、位置は湖の何処か。悲鳴の主は小さな小さな少女。
聞き手はたったひとりのいでんしポケモン。他には無し。
「お・ろ・し・てええええええええええええええ!!!」
(「……貴様、今の状況が分かっているのか?」)
風がトカゲのようなオレの影に追随するように吹き、水面を揺らす。
オレは『浮く』という単純な行為によって、湖を泳ぐことなく縦横無尽に彷徨っていた。
乱れていく巨大な鏡に映るオレは、どんな表情をしているのだろうか。
何の喜びもないだろう。
悲しみはあるかも知れない。
怒りはきっとある。
そして、今は困惑が加わっているに違いない。
じたばた、の表現がよく似合う少女だ。
手足をばたつかせ、必死に抵抗の意を示す腕に抱えたお荷物。
ひょこひょこ動く獣耳は偽物ではなさそうだ。
そう。
アルルゥ、とそう呼ばれた少女は今もなお、オレの手の内にあった。
標的は飽くことなく無駄な行動を繰り返し、繰り返し、その体力を疲弊させている。
そう、無駄だ。いくら喚かれようが、手足を振り回そうが、俺にとっては只の「わるあがき」
この湖に落として頭を沈め続ければ三分もかからず殺せる。
スプーンやV-Swで貫いても殺せるし、素手で首を絞めても殺せるだろう。
あまりにも脆弱にして鈍感。己の命が惜しくないと言わんばかりに反抗を続けている。
(殺せ)
オレの中でオレが囁いた。
少し前までの俺、そして今の俺でもあるべき意志。
参加者を皆殺しにしてマスターを救い出す。オレの絶対にして唯一の目的。
今までのように、これからのために、この少女はここで殺すべきだ。
「ねーねーのところ行く!おーろーしーてー!」
(何故、殺さない?)
それなのに。
オレは未だにこいつを抱えて湖を飛び回っているし、こいつは未だにじたばたし続けている。
分からない。
オレはオレが分からない。
今、手を離すだけで事は足りるというのに、オレの手と心はがっちり彼女を抱えたままそれを拒んでいた。
合理的でも理性的でもないこの行動に、困惑が募る。
殺し合いという極限状況で片手を塞いでまで。
大声を喚き散らし他の者を呼び寄せる危険を冒してまで。
何がオレの意志を揺さぶるのか。
何がオレの心を惑わすのか。
何がオレの決意を鈍らせるのか。
俺のことを理解してくれたから。
馬鹿げた考えが一瞬脳裏に浮かび、刹那、嘲笑と怒りとに蹴散らされた。
「お父さんのため?」という言葉に何の意味があるというのか。
それだけのことに、オレは今までの全行動を否定しようとしているのか。
たった一言の呟きがオレを縛り、血に染まった経歴に新たな赤を加えることを拒んでいるのか。
そんなことはありえない。あってはならない。論外だ。
「はーなーし…………?」
(「……来たか」)
突如聞こえた無機質な声色が、オレの思考を中断に追い込んだ。
Dー6で見た物と同じような岩場が当たり前のようにその姿を世界に晒す。
この怪奇現象も二度目となると驚きの欠片も見いだせず、ただただ飛行を続けるのみだ。
続いて聞こえる概念空間云々の警告からして、岩場が姿を現したのではなく、オレ達が別の空間に引き摺りこまれたと言うことだろう。
30分以内に脱出というのは、この空間に留まり外界との接触を避けようとするものに対しての対策。
こちらとしてはどうでも良いことだ。即刻第二の鍵を手に入れ、『約束された勝利』をこの手に掴まなければ。
逃げもしない。隠れもしない。ただひたすらの殲滅あるのみ。
己の使命を再度反芻し、オレは一息をついて岩場中央の石碑に歩み寄る。
「……みえないしんじつ?」
(「この技術における理の変更を知らせる合図だろう。世界の法則を塗り替える、と言ったところか」)
この娘もあと少しの命だ。ちょっとくらいの受け答えはしてやっても罰は当たるまい。
この場を離れ、陸地に着いてから……やれば良い。
そう考えると気が少し楽になる。何故かは、分からない。
余計な思考が断ち切られたお陰だろうか。胸の蟠りがすっと消えていった。
対して、娘は変わった世界に驚きを得て、少しは平静を取り戻したようだ。
大人しく目をきょろきょろさせて「おー」などと呟いている……緊張感の欠片もない。
先程からの言葉も命乞いではなく帰りたい、という純粋な想いを叫んでいただけだった。
オレの気持ちも分からなかったが、こいつの考えもさっぱり分からない。
(「貴様、オレが怖くないのか?」)
「んー……わかんない」
(「オレは……『おとーさん』の為にゲームに乗っている。お前を殺すんだぞ?」)
「や!アルルゥねーねーのところ帰る!」
(「いや、や、ではなくてだな。貴様は死ぬんだ。何か少しでも思うところがないのか?」)
「……死んじゃったアルルゥのおとーさんきっと悲しむ。みーのおとーさんもきっと悲しむ」
(「……そんなことは分かって……」)
「だから駄目、絶対」
曇り一つ無い、濁りなど何処にも見えぬ、綺麗な瞳だった。
理屈もない、只の感情の発露が、しかし百の中身無き言葉より胸に響く。
殺しては、殺されては悲しむものがいる。
永久に戻ってこない家族、仲間、恋人、大事な存在。
この世の生きとし生けるものは、一度死んだら終わってしまう。
そんな当たり前の方程式が、急に目の前に迫ってきたように感じた。
分かっている、分かっていたつもりだった事実。
もしかしたら分かり切っていなかったのかもしれない、唯一無二の真実。
オレは今、そのことを本当の意味で理解したのかもしれない。
「…………おとーさん」
おとーさん、マスター、オレの大切な存在。
失いたくない、失ってはいけない存在。
この殺し合いを勝ち残らなければ、喪ってしまう存在。
思い出したかのように目尻に堪り、臨界点を超え、落下。
温かな水滴が、足下にピタリと跳ねた。
ピタリ、ピタリ……ピタリ、ピタリ……
少女の涙を止める術を、オレは知らない。
愛すべき親を失ったものを慰める方法など、オレは分からない。
彼女の『おとーさん』がこのゲームのせいで命を失したのか、それとも別の出来事があったのか。
知らずとも、分からずとも、悲しみは伝わる。痛みは伝わる。
失うことを恐れているオレが、失った少女の嘆きの調べを聞く。
彼女はもしかしたら、オレだったのかも知れない。
オレはもしかしたら、彼女だったのかも知れない。
ああ、胸に感じるそれは、なんとつまらない……感傷。
ああ、心に思うそれは、なんと身勝手な……干渉。
ただ、オレは落ちていく雫を『たいせつなもの』だとでも言うように見つめていた。
瞬きもなく、目を逸らすことなく。行動という行動を忘れてしまったかのように。
網膜に焼き付けるように。永久に保存するように。じっと、見つめていた。
その無駄な行為はもしかしたら、散り逝くものへの猶予だったのかも、しれない。
そうして何分経ったか分からないまま、時は再び動き出した。
この空間は30分以上滞在すると首輪が爆発する仕組みらしい。
どれほどの時間が経過したか、オレがどれほど馬鹿らしい行為にふけっていたかは分からない。
しかし、ここで死ぬ気は毛頭ない。ことは早急に為す必要がある。
二つめの『鍵』を取り、この空間を脱出し、そして――――。
「……他にも、皆悲しむ」
どうしてだろうか、重くなった足を動かして。
「おねーちゃんも」
あり得ない虚脱感を完膚無きまでに振り払って。
一歩を踏み出し、二歩を歩いて、三歩で止まって。
台座に、手を伸ばし。
そこで、止まる。
彼女の言葉が。
オレの時間が。
腕の震えは、果たして彼女に届いただろうか。
鼓動の高まりは、もしかして彼女に気付かれただろうか。
顔の強ばりを知る術は、ひょっとしたら彼女にあるのだろうか。
リジェクト
『“排 撃”!!!!』
獣のような耳を見たときから嫌な予感はしていた。
予感と言わず、確信と言っても良かったのかも知れない。
深い記憶の奥底から洗い出された一節の欠片が、ふっと浮上してきた。
断片しか思い出せない、培養液の中にいた頃の古い旧い記憶なのだろう。
それはしがない研究員が日常でつぶやいた何気ない一言だったか。
それとも、悪い報せを受けたチーフが漏らした愚痴だったか。
『残念なことだが、嫌な予感ほど当たるものだな』
本当に、そうだと思う。
『トウカァァァァァァァァ!!』
脳裏の遙か遠くから聞こえてくる叫びは、罪深き俺に対しての罰だったのだろう。
オレだけが受ける、オレのみしか受けられない、罰。
内のみに広がる苦みを与え、外傷は存在しない、罰。
感服したという気持ちで誤魔化し。
贖罪という身勝手な意志で断ち切った。
“彼女”の終わり。オレの罪。
この地で殺した唯一の参加者。目標からはあまりにも遠い、恥じるべき殺害数一の記録。
ここで繋がる、結びつく。よりにもよって、こんなところで。
「……………」
今、オレは恐れていた。
唐突な結びつきが、『何か』を解いてしまうことを、恐れていた。
理解できない、漠然とした細い細い繋がりの糸の切断を、恐れていた。
曖昧模糊とした、それでいてはっきりと感じていた接続が、千切れていくことを恐れていた。
群れとして生きる、動物のように。
群として生きる、人間のように。
乖離を。別離を。剥離を。
断ち切られていく関係を、恐れていた。
ほんの少しの温もりを失ってしまうことを、恐れていた。
……恐れては、いけない。
それでは、そんなことでは目標まで、行けない。
マスターの命も、生けない。
『ちっぽけなこと』を恐れるなど、許されない。
後悔しないと決めたはずだ。
貫き通すと決めたはずだ。
この少女は何だ?殺し合いに乗らない弱者だ。
オレは何だ?全て殺戮せんと誓った化け物だ。
過程は幾多に渡ろうとも、最終的な選択肢は一つ。
他は全て誤り。全て過ち。そうだ、そうなのだ。
オレは、過ちを犯さない。一度のそれが、どんな結果になるか分かるから。
機械のように。人形のように。為すべきこと以外は、やってはいけない。
矛を向ける先を揺らすな。
進むべき道を惑うな。
決意の刃を鈍らせるな。
間違った世界を、堂々といけ。
(「……すま、ない」)
……なのに、どうして。
オレは、懺悔するのか。
「……………………」
教えてください、マスター。
どうして貴方は、こんな自己満足が出来るようにオレを作ってしまったのでしょうか。
どうして貴方は、こんな下らない感情をオレに持たせたのでしょうか。
どうしてオレは、こんなにも苦しまなければ行けないのでしょうか。
教えてください、マスター。
マスター。
マスター……。
(「…………すまない」)
「……………………」
鍵には、『-5』と書いてあった。
マスターの声は、いつまで経っても届いては来なかった。
◇ ◇ ◇
対岸まで、あと20メートル。
無言だった。静寂だった。耳に痛い沈黙だった。
アルルゥは疲れたのか、一言も呟きさえ漏らさずに為すがままになっていた。
そよそよと穏やかな風が二人を包み、微笑みながら去っていく。
対岸まで、あと10メートル。
いっそ、なじってくれた方が幾らか楽だったかも知れない。
死ねと、殺したいと、剥き出しの感情を露わにしてくれれば、吹っ切れたのかも知れない。
彼女の顔はもう、見れなかった。見てしまっては何かが終わる気がした。
臆病だと、誰かに罵って欲しかった。誰でも良かった。
対岸まで、あと5メートル。
殺すと決めたはずだ。守ると決めたはずだ。
全てを。マスターを。
我が儘で始め、義務感で殺して。
マスターを助けるという鋼の意志が、拠り所が、消えていくはずがない。
情に揺れるな、情に惑うな、情に鈍るな。
心を揺らすな、心は惑うな、心が鈍るな。
対岸まで、あと2メートル。
だから、オレは。
対岸まで、あと1メートル。
オレは。
対岸まで、あと0メートル。
すまない。
「……ねー、ねぇ」
「――――――――――――すまない、アルルゥ」
最初で最後に呟く彼女の名前は、
とても、とても、重くて、
マスターの次に意味のあるものに、感じてしまった。
『こきゃっ』
場所はFー4、位置は湖の畔。無言の慟哭の主は、いでんしポケモン。
聞き手はたった一人の小さな小さな少女――――――だったモノ。
そこに和解はなく。
そこに破壊はあり。
たった一つの、別れがあった。
【アルルゥ@うたわれるもの 死亡】
そうして彼は、また独りぼっちになった。
【F-4 湖畔/1日目 夜中】
【ミュウツー@ポケットモンスターSPECIAL】
[状態]:疲労(小)悲しみ(?)
[装備]:機殻剣『V-Sw(ヴィズィ)』@終わりのクロニクル
[道具]:基本支給品×3<アルルゥ、仗助、ミュウツー>、どこでもドア@
ドラえもん(残り1回)、
第一の湖の鍵(E-)第二の湖の鍵(-5)
不明支給品(0~1)<仗助>、ひらりマント@ドラえもん
トウカの刀@うたわれるもの、
サカキのスピアー@ポケットモンスターSPECIAL
[思考・行動]
0:…………
1:生き残り、カツラを救う。
2:E-5に行く。
3:隙を見て参加者に攻撃を加える。
4:イエローを殺した相手を見つけたらたとえ後回しにしたほうが都合がよさそうでも容赦しない。
5:もしギラーミンの言葉に嘘があったら……?
【備考】
※3章で細胞の呪縛から解放され、カツラの元を離れた後です。
念の会話能力を持ちますが、信用した相手やかなり敵意が深い相手にしか使いません。
※念による探知能力や、バリアボールを周りに張り浮遊する能力は使えません。
※ギラーミンに課せられたノルマは以下のとおり
『24時間経過するまでに、参加者が32人以下でない場合、カツラを殺す。
48時間経過するまでに、ミュウツーが優勝できなかった場合も同様。』
※カツラが本当にギラーミンに拉致されているかは分かりません。偽者の可能性もあります。
※V-Swは本来出雲覚にしか扱えない仕様ですが、なんらかの処置により誰にでも使用可能になっています。
使用できる形態は、第1形態と第2形態のみ。第2形態に変形した場合、変形できている時間には制限があり(具体的な時間は不明)、制限時間を過ぎると第1形態に戻り、
理由に関わらず第1形態へ戻った場合、その後4時間の間変形させる事はできません。
第3形態、第4形態への変形は制限によりできません。
※ギラーミンから連絡のないことへの疑問、もしカツラが捕まっていないという確証を得られたら?
※なぜギラーミンの約束したカツラからの言葉が無くなっていたのかは不明です。
※概念空間の存在を知りました。
『善行は悪行と同じように、人の憎悪を招くものである』
◇ ◇ ◇
彼は走っていた。駈けていた。疾っていた。
通行人もいない、舗装された道路の更に奥を目指して。
暗い暗い闇の中、己の存在を際だたせるように。
全力で、このことだけが生きている証であるとでも言うように。
重く、厚い轟音を響かせて。
近所迷惑も考えず、騒音妨害だとさえ、思わずに。
誰もいない夜道を、一人征っていた。
スピードだけが、今は必要だった。
とあるアルター使いの男は言った、『速さが足りない』と。
力も、知略も、運も、実力も、全ては『戦いが始まってから』必要となるものだ。
ならば、そもそもの『戦い』に赴く前に全て終わってしまっていたら。
百人力だろうが、一騎当千だろうが、億万長者だろうが、『スタート』に立たなければそれは『不戦敗』だ。
戦わずして負ける、その結果は不名誉以外の何者でもない。
特に今回の『敗北』は、何があろうと取り消すことはできない。
だから、彼は全力で征く。
スタート地点に立つために。
『戦い』を始めるために。
間に合うのか、間に合わないのか、そんなことは考えずに。
持てるだけの力を活かし、最大限の努力をして。
己が民を救うために。拐かした罪人を裁くために。
レーダーを取り出す手間も惜しみ、目標地点への最短ルートを走り抜け。
病院のなれの果てを通り過ぎようとして、そこで。
「止まりなさい」
凛とした言葉と共に、光が彼を貫いた。
◇ ◇ ◇
簡単に言おう。
赤ん坊でも子どもでも大人でも老人でも分かるように言おう。
赤ん坊はわんわんと泣き出し。
子どもは裸足で逃げ出して。
大人は平謝りながら土下座を。
老人は腰を抜かして病院行き。
それくらい分かりやすく、目の前の男は憤慨していた。
「一度だけ言う――退け」
「嫌よ」
そして、子どもであるところの自分は裸足で逃げ出したい気分だった。
事の発端というか、ついさっきの出来事になるが。
私、
御坂美琴と連れ、
ラッド・ルッソは、深い静寂をぶっ壊す騒音を耳にした。
私たち参加者以外は誰もいないこの世界はとても静かで。
だからこそ、その音は酷く耳障りだったし、嫌と言うほど目立っていた。
所謂、独壇場だった。広告塔だった。
「おいおいおいおい、どーすんだよミコトちゃんどーすんのよミコトちゃん。
こんなド派手に『自分はここにいますよー』ってアピールしてやがるんだ。
罠か?目立ちたがり屋か?馬鹿か?そう見せかけた天才か?
さあて、どう料理してどう味付けしてどう食っちまうんだよ、ミサカ・ミコトちゃんよお」
「分かんないわよ、んなこと」
そう言いながらも、身体はラッドと共に音の出所へと向かっていた。
ざくざくと、割れたガラスの上を注意深く、それでいて早足で通り過ぎて。
以前は自動ドアが有っただろう場所を、最早立ち止まりもせず通り抜けて。
近づいてくるバイクが目視できた、その瞬間。
一瞬だった。
一瞬で、記憶が頭の中を駆け抜けた。
『ライダー、彼は僕の敵だ。きっとゲームに乗って人を殺し回っているだろう』
衛宮切嗣は、そう言っていた。
優しくて、頭が良くて、機転が利いて、良い人だった衛宮さんが言っていた。
私を、私なんかを庇って死んでいった衛宮さんが言っていた。
『絶対に、斃さなければいけない』
人を殺し回っているだろうと。
絶対に斃さなければいけないと。
私にとっての『セイギノミカタ』である衛宮さんがそう言っていたんだから。
私はそれを、信じた。
今も、信じていた。
だから。
「止まりなさい」
考えている暇なんかないくらい高速で、こちらを通り過ぎようとしたバイクに向かい。
コインを、『超電磁砲〈レールガン〉』を、奴に、ライダーに、ぶっ放した。
殺し合いに乗っている人間を放置するわけには、行かない。
自分たちが見つかっていないからと行って、見過ごすわけには、行かない。
もう、誰も殺したり殺させたりは、させない。
決めたから。愚かだと言われようと馬鹿だと嘲られようとも、この気持ちは曲げないから。
それが私の、御坂美琴の望む自分だけの現実(パーソナルリアリティ)だから。
もし、殺さなければ生き残れないと、愚鈍にも、聡明にも、思っているのならば。
まずは、その幻想をぶっ壊す。
そうしてこうして、コインは見事、ライダーの乗ったバイクを完膚無きまでに貫いて、大破させて。
それで終わり、終了、となれば良かったのだけど……
驚くべきことに、ライダーは超電磁砲直撃の一瞬前、全力疾走していたバイクを飛び降りた。
サーカスの曲芸を見ているような、とでもいえば分かりやすいだろうか。
彼ならばその程度では死なないと分かっていたが。
ダメージくらいならば与えられるかも、と思っていたのだが。
私は英霊(サーヴァント)の恐ろしさを、未だ分かっていなかったらしい。
全身複雑骨折、内臓破裂は免れぬ暴挙を侵した巨漢は、全くの五体満足で、二本足で立っていて。
今現在、怒りと敵意と殺意を隠すことなく、余すことなく、私たちに刻み込んでいるのだった。
ていうか、冗談じゃなく物理的に刻まれそうな気さえしてくる。
やばいかも。不味いかも。死ぬかも。じんわりと、冷や汗。
以前は、盗み見のような形で彼とかぎ爪の男の戦いを見て。
不意打ちのような形で攻撃して、それで終わりだったが。
真っ正面から対峙してみて初めて気付く、彼の『強さ』
単に身体が大きいと言うだけでなく、身のこなしも人間を大きく逸脱している。
バイクを蹴飛ばし、宙高く舞い上がった、瞬発力。
恐るべき衝撃を受けるだろう、そんな行動をしても全くダメージを受けていない、頑丈さ。
そしてそれ以前の問題として、一瞬で最適解を実行に移した判断力。
全てにおいてトップクラス。英霊という称号は確かに、彼にこそ相応しい。
勝てるかどうか、敵うかどうか、そんなことは分からなかった。
衛宮さんと共に行った時のような策はない。考える時間もなかった。
共同戦線を張るのは、彼とは似てもにつかない殺人狂だ。信頼なんて、出来やしない。
だけど、後悔はしていない。
これ以上、被害者を増やすわけにはいかないし。
これ以上、加害者をのさばらせるわけにはいかない。
別に、ご大層な正義感なんてもんは持ち合わせちゃいないけれど。
他の人間がどうなっても良い、なんて薄情な心も持ち合わせてはいないつもりだ。
「やっこさん、すんげえ怒ってるなあ、やばいくらい煮立ってるなあ!
ま、ミコトが『敵』って判断したんだったら俺も異論はねえけどよお」
「無駄口叩いてないで……来るわよ」
手にはコインを。意識は前に。
想いは不殺。狙いは拘束。
戦いが、幕を開ける。
【E-5 病院跡/一日目 夜中】
※病院は完全に崩壊しました。
※美琴の電撃とガウェインのハドロン砲の影響が広範囲に伝わっています。
【御坂美琴@とある魔術の禁書目録】
[状態]:疲労(小)、全身に打撲と擦傷(小)、脇腹に打撲(小)、胴体に貫通傷×3(小)、全て再生中
多大な喪失感、強い決意、≪体内:全て遠き理想郷(アヴァロン)@Fate/Zero≫
[装備]:薔薇の指輪@ローゼンメイデン、ナース服、コイン。
[道具]:基本支給品一式(食料一食、水1/5消費)、不明支給品0~2個(未確認)、病院で調達した包帯や薬品類
コイン入りの袋(装備中の物と合わせて残り88枚)、タイム虫めがね@ドラえもん、首輪(ジョルノ)
真紅のローザミスティカ@ローゼンメイデン、
蒼星石のローザミスティカ@ローゼンメイデン
ARMS『騎士(ナイト)』@ARMS、真紅の左腕(損傷大)、不思議の国のアリス@現実他、いくつかの本、ナースキャップ
[思考・状況]
0:目の前の男に対処。
1:首輪を解体できそうな人物(第一候補はグラハム)を探す。
2:一人でも多くの人を助ける、アイツの遣り残した事をやり遂げる。
3:人は絶対に殺したくない。
4:自分と関わり、死んでしまった者達への自責の念。
5:
上条当麻に対する感情への困惑。
6:ラッドについては、警戒しながらとりあえず一緒にやっていく。
【備考】
※参加者が別世界の人間、及び参加時期が違う事を聞きました。
※会場がループしていると知りました。
※真紅と情報交換し、ローゼンメイデンの事などについて大雑把に聞きました。
※あすかと情報交換し、スクライドの世界観について大雑把に聞きました。
※地下空間の存在を知りました。地下にループ装置があるのではと推察しています。
※会場は『○』の形に成っているという仮説を立てています。
※全て遠き理想郷(アヴァロン)が体内にあることを知りません。
※ラッドの事を『原石』(天然の能力者)かも知れないと考えています。
※参加者についての情報は以下の通りです。
協力できそうな人物:レナ、沙都子、梨花、ゾロ、チョッパー、アルルゥ、佐山、小鳥遊、グラハム、ウルフウッド
直接出会った危険人物:ゼロ、ラズロ(リヴィオ)、メイド(
ロベルタ)、宇宙人(ミュウツー)
要注意人物:ライダー、白仮面の男(
ハクオロ)、ヴァッシュ、
水銀燈(殺し合いに乗っているようであれば彼女を止める)
※首輪の機能について、以下のように考えています。
確実に搭載されているだろう機能:「爆弾」「位置情報の発信機」「爆破信号の受信機」「脈拍の測定器」
搭載されている可能性がある機能:「盗聴器」「翻訳機」
※首輪は何らかの力によって覆われていて、破魔の紅薔薇にはその力を打ち消す効果があると考えています。
【ラッド・ルッソ@BACCANO!】
[状態]:不死者化、白衣@現実
[装備]:破魔の紅薔薇(ゲイ・シャルグ)@Fate/Zero
[道具]:基本支給品一式(食料一食、水3/4消費)、コイン
[思考・状況]
1:目の前の男に対処。
2:あのギラーミンとかいう糞野郎をぶっ殺す。
3:脱出に使えそうな奴は出来るだけ殺さない。
4:邪魔する奴は殺す。足手まといも機を見て殺す。
5:ゼロは絶対に殺す。
【備考】
※麦わらの男(ルフィ)、獣耳の少女(
エルルゥ)、火傷顔の女(
バラライカ)を殺したと思っています。
※自分の身体の異変に気づきましたが、不死者化していることには気付いてません。
※リヴィオとラズロの違いに気付いていません。また、ラズロ(リヴィオ)のことを不死者だと考えています。
※ゼロのことを不死者だと思っています。
※ルーアとデューンは最初から見せしめとして連れて来られたと考えています。。
※参加者や首輪についての情報は美琴とほぼ同様。
運が悪かったとしか、言いようがなかった。
ラッド・ルッソはライダーのことをこれっぽっちも知らなかったし。
御坂美琴はよりにもよって、『勝つためならば手段を選ばない』衛宮切嗣の嘘によってライダーを危険人物だと認識していた。
一方のライダーも、普段ならばもう少しゆとりを持って彼らとの誤解を解けたかもしれない。
しかし前述の通り、彼には時間がなかった。圧倒的に時間が足りなかった。
また、運が悪いことに彼は目の前の男、ラッド・ルッソが殺し合いに乗っているものだと認識していたし。
彼と一緒にいる少女にも、以前襲撃されたことがある。
そこから早急に導き出される解は一つ。
この二人は手を組み、優勝を目指している、と。
何度も言うが、彼には時間が無く、全くの余裕がなかった。
ライダーは大使ではなく軍師でもなく、王である。
だからこそ、『目の前の障害を以下に突破するか』のみを考えてしまったとしても、仕方のないことだった。
交渉は無意味。逃走などあり得ないと考えてしまうことも、詮無きことだった。
そもそも、先ほどの一撃を避けることが出来たのも、それが『前』から来たからだ。
仮に『後ろ』から何発も放たれれば、いくらライダーといえども直撃する可能性が低いとは言えない。
ならば、真っ正面から速攻で彼らを斃すことが一番の近道。安全策。
人としてあった頃と、聖杯戦争の時と、やることは変わらない。
これこそが征服。これこそが征服王イスカンダル!
焦りは間違いを生み、間違いは肥大して新たな間違いを生む。
雁字搦めの状態で、それでも王は民を救おうと戦いへと赴く。
その戦いが全くの無意味、ゼロどころかマイナスの結果しかもたらさないことを知らず。
救うべきものが骸になってしまっていることも分からず。
王は戦いへと、赴く。
【ライダー(征服王イスカンダル)@Fate/Zero】
[状態]:魔力消費(やや大)、疲労(中)、腹部にダメージ(中)、全身に傷(小)および火傷(小)、腕に○印、怒り、焦り
[装備]:包帯、象剣ファンクフリード@ONE PIECE、
[道具]:基本支給品一式×3、無毀なる湖光@Fate/Zero
イリアス英語版、各作品世界の地図、ウシウシの実・野牛(モデル・バイソン)@ワンピース
探知機、エレンディラのスーツケース(残弾90%)@トライガン・マキシマム
[思考・状況]
0:目の前の二人に対処。
1:バトルロワイアルで自らの軍勢で優勝。
2:首輪を外すための手段を模索する。
3:
北条沙都子とアルルゥを守る。
4:サーヴァントの宝具を集めて戦力にする。
5:有望な強者がいたら部下に勧誘する。
【備考】
※原作ギルガメッシュ戦後よりの参戦です。
※臣下を引きつれ優勝しギラーミンと戦い勝利しようと考えています。
本当にライダーと臣下達のみ残った場合ギラーミンがそれを認めるかは不明です。
※レナ・チョッパー・グラハムの力を見極め改めて臣下にしようとしています。
※『○』同盟の仲間の情報を聞きました。
※自分は既に受肉させられているのではと考えています。
※ブケファラス召喚には制限でいつもより魔力を消費します
※北条沙都子、アルルゥもまずは同盟に勧誘して、見極めようとしています。
※現在の魔力残量では『王の軍勢』をあと一度しか発動できません
※別世界から呼ばれたということを信じました。
※会場のループを知りました。
※オープニングの映像資料を確認しました。
破壊の化身は守るべき『おとーさん』のため。
贖罪者達は名も知らぬ『罪なきもの』のため。
征服王は自分のものである無力な『民』のため。
『キミガタメ』に殺し、挑み、迎え撃つ。
己の過ちに、誤りに、間違いに気付かぬまま。
もし、事情を全て知っているものが見たら、彼らをこう称するだろう。
『なんて救いようのない、救世主(Saver)なんだろう』と。
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最終更新:2012年12月10日 18:29