一人では解けない 真実のパズルを抱いて。 ◆Wott.eaRjU




漆黒――備えられた窓ガラスから見える光景。
感想――特に思う事もない=時刻を考えれば可笑しくない。
感覚――問題なし=綺麗に磨かれた通路を歩きながらそう感じた。
感触――やけに軽い。当然だ。普段手にしている銃とは違い過ぎる。
結論――前進。内に秘めた感情を馬に見立てて、力づくで乗りこなす。
恨みごとを言っても銃が変わる事もない。
爆発しそうな不満が広がる――ガラにもなく、押し込んだ。
この感情をぶつけてやろう。発散してやろう。ブチ撒けてやろう。
歪みゆく表情――昂揚感/充実感が全身を満たす。
自然に両手に力が籠る。この場での仮初の相棒。
自分の代わりに誰かの血を奪う存在――ソードカトラス/ベレッタM92カスタム。
グリップを握り、まるで大切なものを抱擁するように――但し、相手の事は考えずに力強く。
歩く。周囲に目を配って/辺りを窺って/獲物を捜して――ある到達点へ。
男――ラズロは病院のドアを開けて、暗闇に身を投じた。

「しけてんなぁ……ガキの死体しかねぇ」

呟き。隠しきれない落胆を思わずぼやく。
受付口付近で見かけた一体の死体。
ジョルノ・ジョバァーナ――ラズロにとって知らない/興味もない相手。
故に碌な反応も見せずに通過。
否、生きている相手と出会えなかった事への嘆き――唾を溜めて、弾かせる。
収まらない衝動/苛つき/激情を絶えず胸中に。
名簿で見かけた、知っている顔を思い浮かべる。
ヴァッシュ・ザ・スタンピード/ニコラス・D・ウルフウッド――殺すべき存在。
己の師/恩人/即死を確認――裏切り者、ウルフウッドによって首が有り得ない方向に曲がった男。
マスターC(チャペル)の無念が疼く。
一刻も早く殺せと騒ぐ――ラズロはそれら全てを受け入れた。

「来いよ、あんまり俺を退屈させるんじゃねぇぞ……。
俺がグシャグシャにしてやるから出て来いよ……この際だ、生きてるヤツなら誰でもいいんだからよぉッ!!」

だが、ラズロの意思に反するように生憎、格好な対象は居ない。
人どころか一匹の犬すらも居なく、まるで生物が生きている心地すらもしない。
違和感。自分が立っている場所に対する疑問が疼く。
しかし、即座に振り払う――自分の目的には些細な事。
眼につく参加者の殲滅/皆殺し/ヴァッシュとウルフウッドの始末を達成する。
単純な指令(オーダー)。もう一人の自分、甘ちゃんリヴィオなど出る幕もない。
あまりにも大きな才能のために、一つの肉体に二つのナンバー――人格を持ちし男。
リヴィオ・ザ・ダブルファング+ラズロ・ザ・トライパニッシャー・オブ・デス――揺るがない二人一組(ッーマンセル)。
ヘマをかますわけがない。そんな事は許されない/許せない。
マスターチャペルの仇を討てぬ自分など――認められない。
故に歩を進める/暫く歩き続けながら首を回す。
常人とは較べものにならない感覚で、周囲を索敵。
強化改造された身体と感覚――『ミカエルの眼』による賜物。
刹那、何かを勘づく。何かが周囲に――そこで突然の意識の中断が起きる。


「おおおおおおおおっとぉ! 遂に見つけたあああああぁ! この俺以外の参加者にいいいいいいいッ!!
俺は今、確かに己の幸運を感じている! こんなにも速く、誰かを見つけられたコトをなあああああああッ!!」


馬鹿でかい声。駆け込むように跳び込んできた男によって。
半ば呆れた表情を浮かべるラズロの前に現れた男――ストレイト・クーガー
図書館を抜けた後、歩行、走行、そして疾走とも取れる爆走を経てやって来た。
特徴的なサングラス――怪しい。
青と白のコントラストが目立つ制服――更に怪しく思う。
猛烈な速度を押し殺し、サッと体勢を整える挙動――怪しいなんてものじゃない。
背中に義手を生やし、左顔面に刺繍を施しているラズロは自分の事を棚に上げて、そう思った。
だが、そんなどうでもいいような事を考えた時間――ほんの少し。
口角をニィっと吊り上げて、ラズロは近づく。

「……あんたの名は?」
「俺はストレイト・クーガー! 誰よりも速さを追い求める男だッ! そういうお前さんの名前はなんていうんだ?」
「ラズロ。リヴィオとも書かれてるけどな。まぁ、いいや。
五月蠅ぇ奴だがなんでもいい……相手してくれや、おっさん」

銃を握る手に力を込める――無言の合図。
いつでもやれる/自信の現れ/ブチ殺す用意は既にOK。
浮かべた表情が意味するのは殺意が籠ったGOサイン/突撃(ガンホー)。
眼の前の男を舐めるように眺め回す。
観察――自分とどこまでやれるかの見積もり。
『おっさん』――何故だかその言葉を言った途端、酷く男が衝撃を受けたようだった=つまらない発見。
そう、つまらない――瞬時に抱いたラズロの感想も同一。
男には銃器や刀類など見たところ武器が何一つない。
徒手空拳に優れているのか/自分のように身体に特殊な改造が施されているのか=沸き立つ疑問。
だが、その疑問も直ぐに無意味なものになるとラズロは確信している。
何故なら今から自分が殺すから――100%の正しい回答を持っているのもまたラズロ自身。

「……なるほど、これはちょっと俺の目論見が違ったというコトだな。
オーケー、わかった。このストレイト・クーガーは逃げも隠れもしない! お前に見せてやろうおおおおおおおおッ!!」

身構えるラズロに呼応するかのようにクーガーが腰を落とす。
荒れ果てた大地――ロストグラウンドの治安の維持を目的とする組織=HOLY。
入隊の経緯はある引き換え条件によるためだが、それでもクーガーは一流のHOLY隊員。
目の前の男がこの殺し合いに乗っていると判断し、排除に乗り出す。
長く、鍛え抜かれた両脚――クーガーの全て。
クーガーがこの世で最も信じるものを織りなす。
まるで削り取られたように消失したもの――黒々とした大地の一角。
次第に広がる粒子がクーガーの周囲で群れを成す――虹色の煌めきが暗闇を照らしてゆく。
訝しむ。思わずラズロの表情が、目の前の出来事に訝しむように歪む。
己の常識を超えた何か――視覚した超常現象がラズロのクーガーへの印象を転覆。
咄嗟に突き出した右腕――ソードカトラスの銃口が向かう先はクーガー。



「ラディカルグッドォッスピイイイイッドオオオオオオオオオオーーー!! 脚部限定ッ!!」

全身を経て、凝縮した虹色の発光が一点へ進む――クーガーの両脚に集まる=それは形成の証。
ピンク色の装甲に覆われた脚部が一瞬の内に出現。
発現の理由――高次物質変換能力、通称“アルター”によるもの/唯一無二の力。
そのアルター能力を持つ者こそがアルター使い――そしてクーガーはAクラスのアルター使い。
アルターの形成が終るや否や、クーガーが己の存在を誇示するかのように駆け出す。
踏みしめる力は強大且つ、最速の速度で直進。
一瞬の内に舞い上がる砂埃の理由――消失/発進/一直線への跳躍。
大きく見開かれたラズロの眼が意味するものは驚き。
いつのまに近寄ったかすらも、確かな実感が湧かないクーガーの速さ。
予想外/侮った――舌打ちをしながらラズロは後方へ身を飛ばす。
ラズロが蹴り飛ばした大地の上方で唸りを上げるもの――メタリックパープルの蹴撃。
クーガーの右脚による上段回し蹴りが宙を切り裂く。

「舐めるなァッ!」

一方、後ろへ跳び退いたラズロ――怒声一発。
食い入るように見つめる人影/クーガー/気に入らない男――躊躇う筈もない。
今まで何の役目を果たせていない己の武器――沈黙のソードカトラス。
ラズロも碌な時間も掛けずにソードカトラスを向ける。
流れるような動き/無駄のない動きがラズロの突出した技術を匂わす。
ラズロの本来の得物は三挺の、それも最凶の個人兵装といえる代物――パニッシャー。
普段使いなれた銃よりも遥かに軽い得物を手の中で廻し、力を込めてトリガーを引く。
止められる術はない。
鉛玉/弾丸/死への誘いの使いがクーガーの肉体に減り込む――否、それは所詮ラズロの観測。

「遅い! 俺に較べたらあまりにもスロウリィ!」

陽気とも取れる声色でクーガーが叫び、次に何かが弾け飛ぶ音が響く。
音の正体――クーガーがお返しと言わんばかりに、振りぬいた左脚に弾き飛ばされた銃弾の成れの果て。
そう、その場で再び上段――但し、左脚による回し蹴りでクーガーは銃弾を蹴り飛ばしていた。
理由――先程、リヴィオが己の感覚の鋭さによって、大きくバックステップを取ったのが幸い。
依然、十分に開いた距離/ラズロの射程内/クーガーにとっては遠い両者の空間に流れる静寂――たった一瞬の事。
何も起きないわけがある筈もなく、男達は互いに動く。
ソードカトラスの銃口を横に寝かせ、片腕を突き出す――ラズロの追撃。
軽く腰を落とし、両手を地につかせて、一気に飛び出す――クーガーの疾走。



「どうせ死ぬんだ、ならチョロチョロ動くんじゃねぇよ!」

ラズロの足元では空の薬莢が瞬く間に大地で跳び跳ね、その数は一本ではなく、無数。
たんたんと、一定の音程を刻んでいくかのように音を鳴らすそれらに追従するもの――鉛玉。
今度は一発一発ではない/弾の数もこの際考えない/やり慣れた連射を瞬く間にやってのける。
鬼気迫る勢いで走り込むクーガーには遠距離の攻撃手段はない。
ならば、距離を取りながら銃撃を行うのがセオリー――だが、ラズロはその場に留まる。
ラズロには余裕がある/小細工なども要らない/マスターCの教えを請うた自分が負ける事など夢にも思わない。
只、クーガーに無数の弾丸を叩き込む事がラズロの意識を支配する。
ぶれる事もない弾道が示す――ラズロの揺るがない自信/意思。
やがて何発もの銃弾とクーガーの身体が、一直線にぶつかるように交わる。
青と白の制服の下に潜む肉体から噴き出すものは赤い飛沫――しかし、止まらない。
クーガーの速さは止まらず――寧ろ加速(ヴェロ)を以って増していく。
まるでそれが当然であると示すかのように。

「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!」

身を逸らしたが、左肩に受けた銃弾を気にせずに走り抜けるクーガー。
二人を隔てる距離――近い、近づく、更に近づき――やがて終着を迎えた。
左脚を振り上げて、抉り取るように振り抜く軌道が一閃。
ラズロの脇腹に迫る左脚の勢いは当に弾丸の如く。
依然としてソードカトラスの引き金を絞っていたラズロ――故に新たにクーガーの右脇腹の辺りに銃弾が食い込む。
だが、それはラズロの逃げ道が塞がれた事と同義。
ぎりぎりまでトリガーを引き続けていたツケ――回避のための距離の喪失。
咄嗟にラズロは両腕を交差させ、ソードカトラスの銃身でクーガーの蹴りを受け止める。
息をつく暇もない――横殴りで襲い来る蹴撃によって、火花に包まれたソードカトラスがギシギシと軋みだす。
衝撃を逃がす――半ば本能的に/反射的に受け止めた腕を下へ=間に合わない。
完全に抑えきれなかったため、ラズロの身体が宙に吹き飛ぶ――が、地には落ちない。
不慣れな体勢のまま、ラズロは更に射撃を続行。
ミカエルの眼による強化改造にお陰で、蹴り飛ばされた衝撃も気にする程でもない。
引き金を絞る度に、腕から伝わる感覚――発砲の感触に身を委ねがら笑う=心地よい。
自分が今、この場に生きているような/必要とされているような心地に胸を躍らせる。

「遊びは終わりだ、そろそろ使わせてもらうぜッ!」

重力に引かれたままの状態での射撃、そしてクーガーの技量によりそれ以上の銃弾は当たらない。
だが、ラズロの表情に浮かぶものは――依然、余裕。
何故なら、未だにラズロには隠し手ともいうべき武器がある。
手に持つだけでわかる、この威力は――本物だ。
エンジェルアームの弾丸――禁忌の疫災/禁断の兵器/生みだすは凄惨な光景。
未だラズロは知らない/月すらにも穴を開ける程の威力を発揮する武器を用いれば、勝敗を決するのは容易い。
殺すべき標敵共――ウルフウッドとヴァッシュの二人に全弾撃ち込みたかったが、気が変わった。
既にカートリッジを装填し終えている、もう一挺のソードカトラスに眼をやる。
思わず零す、にやけ顔――我慢出来ない/抑えられない/衝動が止まらない。
この銃に込められた弾丸を放てば、この五月蠅い男はどういう顔を見せるのか。
出来れば一瞬で終わるのではなく、じわじわと苦しまないだろうか――ラズロの密かな希望。
望み通りに叶うか否か――確認のために、余裕に浸りながら力む。
数秒もせずに弾き出すはエンジェルアームの弾丸――だが、それよりも更に速く動くものがそこにはあった。



「終わりだと!? ああ、確かにそうだ! 否定はしない! 俺はお前のその言葉に完全なる肯定で答えよう!
但し! それはお前の終わり――衝撃のおおおおおおおおおおおおおおおッ!!」


予想――緩んでいたラズロの想定していた場所よりももっと近い。
ソードカトラスを見入ったために生まれたラズロの一瞬の油断――十分な時間=最速の男にとっては。
一度、ラズロの前を横切る/助走をつけて駆け抜ける――最速の域に達するため=MAXIMUMの領域。
あまりにも早く、前に突き出す両脚の動きなど終える筈もない――クーガーが最速の男と言われる理由。
咄嗟に現実に引き戻され、ラズロは余裕をほんの少し、かなぐり捨てて構える。
鋭敏な感覚を振り絞り、直ぐに狙いをつけ直すラズロ――しかし、消失(ロスト)。
理由――ラズロの予測を越え、既にクーガーは更なる高みを以って跳んでいたため。
クーガーの両脚に形成されたアルターを視界の隅に捉える程がやっとの事――そして叫ぶ。
吐き出す言葉は猛々しく、軽薄な印象は持たせない――持たせる筈もない。
彼の身体を包む虹色のアルター粒子が/サングラスの下に潜ませる鋭い眼差しが嫌でも物語る。
クーガーが未だHOLYに入隊する前、彼を兄貴と慕った男――一人の反逆者(トリーズナー)。
彼の自慢の拳による名称の由来――本家本元の一撃を見舞う体制に入るクーガー。
瞬時に大きく跳躍していたクーガーの身体が駒のように回転――暴風すらも巻き起こせそうな勢い。
対するラズロも負けじと咆哮に似た声を上げ、腕を突き出すがクーガーには最早聞こえない/興味がない/聞く必要もない。
答え――既に完成しているのだから。

そう。そのキーワードはとても単純――



「ファーストブリットオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」


大音量の掛け声と共に、ラズロの身体に飛び込む。
繰り出すは回し蹴り――だが、今までのものとは衝撃も速さも段違い。
“ファーストブリット”――クーガーが持ちし技の一つ。
ラディカルグッドスピードの圧倒的な速度から撃ち出される一撃は正に弾丸(ブリッド)の如く。
脇腹をしたたかに蹴りつけられたラズロの身体が、これまた強大な加速に引かれて吹き飛ぶ。
グングンと止まる事も知らずに、クーガーから離れていくラズロの身体。
そんな最中、ラズロの身体はふいにある一帯――大きく広がった湖に飛び込む。
既に戦闘を経て、互いに立つ位置をエリアE-6に移していた二人。
怒りで顔を引き攣らせながら、ラズロは只、流水に飲まれていく事となった。

◇     ◇     ◇



「……ヘマかましたなぁ」

湖に突き飛ばされる屈辱。
ずぶ濡れになった身体で地上へ這い上がる。
ファーストブリッドの衝撃は確かに大きかったが、ラズロの身体には異常ともいえる自修復の力がある。
制限により未だ痛みは残るものの、動かすのも支障はない。
たが、意外にもラズロの表情はどこか淡白なもの。
水を被った事によって、逆に頭が冷えたのかもしれない。
表面上は、あくまでも表面上は冷静さを保つラズロ。
残弾を気にしながら、獲物を求めるためにラズロは再び歩き出す。

「マスター、聞こえてるか?
もう一人ぶっ殺してぇヤツが出来たんだ……もう一人、すげぇ気にいらねぇヤツが……」


先程の男、ストレイト・クーガーへの恨みは忘れずに。





【E-7/湖付近/黎明】

【リヴィオ・ザ・ダブルファング@トライガン・マキシマム】
[状態]:健康。ラズロ状態。 左脇腹に痛み有り。ずぶ濡れ。
[装備]:M92AFカスタム・ソードカトラス×2(@BLACK LAGOON)、45口径弾×10.45口径エンジェルアーム弾頭弾×24(@トライガン・マキシマム)
[道具]:支給品一式、.45口径弾24発装填済みマガジン×4、.45口径弾×24発(未装填)
[思考・状況]
 1:片っ端から皆殺し。
 2:ヴァッシュとウルフウッドを見つけたら絶対殺す。 あとクーガーも。
 3:機を見て首輪をどうにかする。
 4:ギラーミンも殺す。
【備考】
 ※原作10巻第3話「急転」終了後からの参戦です。


「まあ、なんだ。あれじゃあ当分動けないに違いない。結果オーライというコトにしておこう」

ラディカルグッドスピードを解除し、クーガーが呟く。
銃弾を受けた個所はアルターで防ぎ、既に血は止まっている。
クーガーの表情にうっすらと浮かぶのは、ラズロを仕留めきれなかった事に関する心残り。
たとえ己の速さが普段通りではなかったとしても、かなり手強い相手だったラズロ。
だが、そう言っても仕方がない――何故なら既にラズロを見失ってしまったのだから。
ならばどうするか――考えるまでもない疑問に答える。
一秒でも無駄にする事なく、最速の名に恥じぬように――クーガーは動き出す。

「蛇ヤロウは当然、倒す。だが、それだけが俺の仕事じゃない。そう、そして既に一枚は張り終えた!
一枚は何処かに張って、残りの一枚は俺が持っていれば他の人達に最速で情報を伝えるコトが出来る!
ああ、完璧だ! まさに完全調和……パーフェクトハーモニーと言うのに相応しい!!」

蛇ヤロウ――本土側のアルター使い/いけ好かない奴/倒すべき相手=無常矜持。
あんな特徴的な名前がこの世に二人も居るとは思えない。
きっとこの場でも何か碌でもない事を企てているのだろう――ならば止めなければならない。
また、クーガーが握りしめるのはボロボロな二枚の紙――彼に支給されていたもの。
本来は同じものが三枚支給されていたが、クーガーが言うように一枚は既に張り付けてある。
その場所は病院。判り易いように入り口のドアのど真ん中に――ラズロとの闘いを終えた後に行った。
何故なら、一人でも早くこの情報を知っておいて貰いたかったから/丁度地図の真ん中に位置していたから。
人の良さそうな顔だが、共に書かれた文字が本当であれば気にしないわけもいかない。
そして、クーガーは意を決したかのように走り出す。


カズマ、劉鳳……無茶はするんじゃねぇぞ……!)


自分が見出した希望――ロストグラウンドの、アルター使いの未来を切り開いてくれると思わせた二人。
カズマ、劉鳳の二人の身を密かに案じながら。


【E-5/南西部/黎明】

【ストレイト・クーガー@スクライド】
[状態]:健康 、左肩、右脇腹などに銃弾による傷(アルターで処置済み)
[装備]:HOLY部隊制服、文化的サングラス
[道具]:支給品一式 不明支給品(0~1) ヴァッシュ・ザ・スタンピードの手配書×二枚
[思考・状況]
1:ジラーミンに逆らい、倒す
2:無常、ラズロ(リヴィオ)、ヴァッシュには注意する
3:カズマ、劉鳳、橘あすかとの合流。弱者の保護。
4:ヴァッシュの手配書を何処かに貼り付け、もう一枚は自分で持っておく。
【備考】
※病院の入り口のドアにヴァッシュの指名手配書が貼ってあります。
※ジラーミンとは、ギラーミンの事です




誰も居なくなったエリアF-6。
無音――生物が居るわけでもなく、特に可笑しくもない。
そう。誰も居なくなった筈であったのに――唐突に何もない空間から一人の少女が姿を現した。

「……あんなん反則ちゃう? わたしなんか勝てるわけないやん……」

ピンクを基調とした制服を着込んだ小柄な少女が、意気消沈といった様子でそう呟く。
春日歩――知人も一人も居なく、この場に集められた別段普通な女子高生。
黒のストレートヘアーが印象的な、どこか危なっかしい印象を抱かせる少女。
転校初日に大阪と安直な渾名を付けられた過去を持つ――只、関西の方から越してきた理由=なんの捻りもない。
そして歩――大阪に支給された品は石ころ帽子なる代物。
様々な制限はついているが、掻い摘んで言うと自分の姿を消してくれる道具。
大阪はその石ころ帽子を使って、観察していた。
そう。先程まで闘い続けていた二人の男――クーガーとラズロの闘いを。
まあ、途中からは更に戦闘の進行も速まり、全てを観たわけでもないが。
それでも、大阪の気を削ぐ事に十分であった。

「近づこうにも無理や、絶対無理……怖くてなーんもできへんかったし……」

死にたくはない。
ならばこの殺し合いで生き残らなくてはいけない。
よって一人でも参加者を減らすために、大阪は漁夫の利を狙おうとした。
そこまでは良かった――少なくとも大阪はそう思っている。
いや、ぼーっとした事に定評がある大阪にしてみれば、かなりいい判断の部類に入るだろう。
だが、足りなすぎた/開きすぎていた/次元が違った――大阪と二人の何もかもは。
体格の問題はいうまでもなく、クーガーが誇る速さも、ラズロの持つ射撃技術も大阪にとってはこの上ない脅威そのもの。
もし、奇襲が失敗すれば自分が無事に逃げられるわけがない――そう思うと近寄る事すらも出来なかった。
隙を見せれば不意打ちの銃弾でも喰らわせてやろうと思っていたのに。
そして大阪は今後について考える。
金髪の少年――ジョルノ・ジョバァーナ/大阪の知らない男の子を、殺せた時程に今後も要領良くいくだろうか。
絶対に無理だとは言い切れないが、上手くいく保障もどこにもない。
たった一回の失敗で全てが終わる――もう二度とあの学校に登校するのも叶わない。
一癖も二癖もあるが、大切な友達とも会う事すらも出来ない。
認めたくはない未来――必死に振り解くかのように大阪は歩を進めた。
一つだけ、気になる事が大阪にはあったから。


「……こーんな優しそうな人やのに、悪い人なんやね……信じられへんなぁ、わたし……」

両眼をまん丸に見開いて大阪は見つめる――一枚の貼り紙=先程クーガーが張り付けた何か。
まさに心底驚いたと言わんばかりに驚きにそまった表情を浮かべて、じっと見入る。
そこには一人の男の顔写真が載っていた。
何故か読める、記された金額の凄さ――男がどんな悪事をやってきたのだろうか思わず考える。
赤い、まるで血のように赤いコート――あんまり趣味は良くなさそう。
お洒落の一環であろうと思われるピアス、そしてホクロ――だけど、不思議とあまり怖い印象はない=寧ろ優しそうとも思える。
こっちが恥ずかしくなってくる様な満開の笑顔――こんな笑い顔を間近で見せられたら碌に会話も出来ないかもしれない=信頼には充分。
そう、大阪には自分の目の前に映る写真の男が危険人物――賞金を掛けられた指名手配者であるという事に驚きを隠せない。
思わず右腕を伸ばし、写真の口元の方へ手を伸ばす。
何かを求めるように/探るような手つきで/撫でるように小さな右手が動く。

「けど――こないな人ですらも悪いコトしたんや。きっと騙して、油断したとこを……だからこんな紙に貼り出された……。
わたしがあの男の子を殺したみたいになぁ……」

だが、その手は止まり、ゆっくりと離れゆく。
大阪にはこの状況で誰かを信じられる程の余裕はなかった。
きっとこんな馬鹿げた殺し合いに反感を抱く人間は居るだろう。
しかし、人の嘘を見破るのは口で言うほど簡単ではない。
友達の他愛のない冗談ですらも、真に受ける事が度々ある大阪には――特に難しい。
更に日常とは違い、一度見誤れば待つものは死という概念――既に自分が一人の少年を殺した事実が重く圧し掛かる。
罪悪感がないとは言えない。
だけど、いきなりこんなヘンテコな場に呼び出されれば――半ば、強引に自らの行動を正当化する。
何故ならこれからも、自分が選んだ過酷な道を進むのには必要な事だから。

「そうやーしっかりせなあかん、しっかり……しっかり……しっかり……しっかり――」

やがて大阪は歩き始める――足取りはフラフラと非常に危うい。
だが、その小さな胸に秘めた意思はしっかりとしている。
生き残る――非常にシンプル且つ難しい目的。
ぶつぶと暗示のように呟く大阪は次の獲物――油断さえしてくれたら自分でも倒せそうな相手を探しに行く。
出来れば二人以上で、疑心暗鬼をも引き込めそうな集団が良いかもしれない。
そこまで考えて、大阪はふと振り返る。
暗闇の先――先程、十分に鑑賞した男の手配書。
その男こそ行く先々で常にトラブルを巻き起こし、ついた渾名は『人間台風』。
そのため、一種の災害と見なされ、今は懸賞金が掛けられていない人物。
更に、大阪が考えるような犯罪染みた事に手を染めていない――名はヴァッシュ・ザ・スタンピード。


「しっかりな」


そんなヴァッシュの笑顔が今の大阪にとって、何故だかとても眩しいものに見えた。



【E-5 病院近く/1日目 黎明】

【春日歩@あずまんが大王】
[状態]:健康、心神喪失状態
[装備]:グロック17@BLACK LAGOON(残弾15/17、予備弾薬51)、石ころ帽子@ドラえもん
[道具]:支給品一式×2 不明支給品(1~4)
[思考・状況]
1:生き残るために全員殺してギラーミンも殺し、現実に帰る。
2:あまりにも強そうな相手とは関わらない、あくまでも不意をつけば倒せそうな相手を狙う。
3:お人よしの集団に紛れるのもいいかもしれない
4:ラズロ(リヴィオ)、ヴァッシュを警戒。
【備考】
サカキを榊@あずまんが大王だと思っています。
※『石ころ帽子について』
制限により、原作準拠の物から以下の弱体化を受けています。
大きな物音、叫び声などを立てると、装備者から半径30m以内にいる者はそれを認識する。
鍛えた軍人レベル以上の五感を持つ者に対しては、上記の制限(距離、"大きな物音、叫び声"の判定)がより強化される。
 (具体的には、より遠い距離、微かな気配でも装備者の姿が認識されやすくなる)
さらに、常人のそれを超えた五感を持つ者に対しては完全に無効。





時系列順で読む


投下順で読む


TRI-P OF DEATH リヴィオ・ザ・ダブルファング 海賊ロロノア・ゾロvsアルター使い劉鳳
ストレイト・クーガー ストレイト・クーガー 終わらない夢
不倶暗雲 春日歩 鳥だ!飛行機だ!いや、ドラだ!


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最終更新:2012年11月27日 23:12