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鴉、新入りを見極める

「何? 本当か?」

某日。髪を黒く染めなおした後、いつものごとく街をぶらついていたクロウは、マキナから突然入った連絡に思わず問い返していた。

「グループに新入り……あり得ん、と思っていたが」
『ボクも同感ですけど、事実ですから。なんでも、リオトの推薦でつい最近入ったらしいですよ』
「リオトだと? …………」
『クロウさん? どうかしましたか?』
「……いや、何でもない。報告の礼というわけではないが、一つ」
『?』
「データバンクのファイル021だ。最初期のものだが、生体兵器の製造と稼働のデータがある。あいつにでも教えておけ」
『わかりましたっ!!』

弾んだ声で答えたマキナに「ではな」とだけ応じ、クロウは通話を切った。現在の所ジングウは大人しくしているが、信用出来たものではない。ただ、腹立たしいがその頭脳と技術力が一流以上である事も確か。
利用できるうちは、利用させてもらうとしよう。

それにマキナに教えたファイルは、ロックの形式が古く解除が難しい。チネン当たりなら楽に解けるだろうが、あの男に頼るのは正直ジングウ以上に遠慮したい。

(まあ、それはもういい。……問題の「新入り」だが……)

見当はついていた。トキコからたまに入る連絡や、リオト自身との会話が根拠だ。

(榛名 有衣、と言ったか? 何にしても、一度会っておくべきか)

グループの役に立つのならそれでいい。立たなくとも、大人しくしているのならそれでいい。
ただ、クロウとしてはそれよりも気になることがあるのだが。

(……時間はあるな)

思い。閉じた携帯をもう一度開き、コールする。何秒かのコール音に続き、相手が応対する。

「……俺だ、一つ頼みがある。今から言う場所に、リオトを呼びだしてくれ」

快諾の答えを受けた後、クロウは別の場所に電話をかける。



1時間程後、クロウの姿はストラウル跡地―――から少し離れた空き地にあった。ストラウル跡地はこれまで大小含めて色々な事件が起きているため、呼び出しの場所としては不適格に過ぎた。
ともあれそういうわけでクロウが待っていると、

「来たか……」

呼び出した当人が姿を現した。セミロングの黒髪の、少女。

「お前が、榛名 有衣か?」
「は、はい」

聞いた話ではかなり気が強いと聞いていたが、別段そんな印象はない。

(初対面だからか? まあ、いい)
「あの、アタシに何か……?」
「その前に、一応自己紹介をしておこう。俺はクロウ。ホウオウグループの……一応、幹部、ということになっている」
「幹部……」

僅かに動揺するユウイに、クロウは「まあ聞け」と手をかざす。

「こうして呼び出したのは、完全に個人的な用事だ。聞きたい事があってな。まあ、ある種の面接と思ってくれ」
「面接……聞きたい、こと?」

そうだ、と前置きし、クロウは一言、問うた。

「お前は、なぜグループに入った?」





「それは……」

一瞬言い淀んだ。しかし、恐らくこの質問は予想していたのだろう、少しして答えが返って来た。

「リオトが、誘ってくれたから……」
「……なるほど」

それで疑問の大半は解けた。が、まだ聞くべきことはある。

「では質問を変えよう。お前は、俺たちが……ホウオウグループがどう言う存在か、理解して入ったのか?」
「え?」
「……なるほど。つまり、詳しくは知らないと」

言い切られ、今度こそはっきりとユウイが動揺するのを見て、クロウは息をひとつついて言った。

「これでも観察眼は鍛えているつもりだ。もう一つ聞こうと思ったんだが……これは聞くまでもないか」

改めて視線を戻し、続ける。

「つまりお前は、リオトに言われるがまま、グループに加入した。そういうことだな」
「………はい」
「なるほど。…………」

それだけ言うと、クロウはしばし沈黙した。ユウイの方は、居心地が悪そうに視線を巡らせている。
少しの時をおいて、

「まだ核心は話せんが……そうだな。俺達ホウオウグループは、端的に言えば、この世界を『合理化』するための集団だ」
「合理、化……?」
「そうだ。それは今の秩序を変革すること……今在る世界を変えることだ」

びくり、と身体が反応したのを見つつ、続ける。

「……その様子では、リオトはお前に詳しい事は告げていないようだな」
「は、はい……」

今度こそはっきりと、クロウは慨嘆の息をついた。

(やれやれ……自分の望みが先走ったか)
「はっきり言っておく。今のお前は、俺達には向かん」
「え……!?」
「俺達は、総帥……ホウオウと名乗る男の下に集った、ある種の狂信者の集まりだ。そこに属する以上、必要なものがある。総帥への忠誠……もしくは、それをも超える自らの目的、あるいは欲望」

だが、とグループ一の暇人はユウイを見据える。

「お前にはそれが感じられない。察するに、お前はグループに属する理由をリオトに依存している。違うか?」
「……それは」
「それも一つの理由ではある……だがな、それでは足りん。リオトのためというだけなら、グループに加入せずともいい。本気でグループにいる気なら、グループ自体へのスタンスを考えねばならん」

斯く言うクロウ自身は、グループを「職場」として捉えている。これもまた一つの「スタンス」だ。

「俺は、自分にかかる事象の判断を、他人任せにする奴が嫌いだ。だから言っておく」


「お前は、リオトと共に在りたいのか? それともホウオウグループに入りたいのか?」




「え――――」
「無論、その両立は出来る。だがそのつもりなら、ホウオウグループそのものへ対するスタンスを決めろ。決まればそれでいい。俺も本格的に協力出来る。しかし、もしそれが見つからなければ、悪い事は言わん。動くのはやめておけ。今ならまだ、俺の伝手でやり直しが利く。……頼るのは少しシャクだが」

要するに、とある他人の認識を操る少女のことであるのだが。

クロウとしては、こういう人材を加入させるのは避けたいところだった。近い事情のマキナの場合、彼女はジングウがいるというのが所属の大きな理由だが、もう一つそこが家だから、という事情があるからだ。さらにユウイの場合、事情を呑み込めない内にリオトが一方的に引っ張り込んだらしい、という経緯がある。本人の意思が介在しない加入は、あらゆる意味で危険だ。グループにとって足かせどころか、自爆装置となる危険性がある。それは、過去の事件で、高い授業料を払って身に沁みた痛い教訓だ。

「アタシは……」
「……急かして悪いが、早い内に決めろ。時間に流されて手遅れになってしまっては、泣くに泣けんぞ」
「…………」
「……迷いがあるなら、ここに行け」

そう言ってクロウが差し出したのは、破り取られたメモ帳のページ。書かれていたのは、地図だった。

「そこに、そうだな、夜のような少女がいる。そいつは、俺達でもなければ、俺達の敵でもない、特殊な立ち位置にいる。相談にくらいは乗ってくれるはずだ」

ユウイがそれを受け取ったのを確認し、クロウは足早にその場を去る。すれ違いざま、一言だけ言い残して。



―――俺達と共に来るなら、今までの自分を捨てる覚悟を持て。



鴉、新入りを見極める

(真意も、理由も知らない)
(今はただ、組織の一員として)
(鴉は、少女に警告を発した)

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最終更新:2011年07月08日 20:39