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弱さを知る弱者

「全く」「ロゼちゃんは」「脆いくせに」「強者ぶるんだから」

先程までロゼのバーにいたモブ子は、呑気そうにストラウル跡地をてくてくと歩いていた。
彼女がここに来た目的は、「ストラウルでの異変の有無と内容を報告する」という任務。
因みにバーは寄り道である。

「でも」「飲み物は」「美味しいね」「特にさくらんぼのカクテル」「…未成年だけど(笑)」

ポロッと爆弾発言したが本人はあまり気にとめない。
学校に通わないホウオウグループの末端構成員だからか。
刹那。

「……」「そこ?」

と、地面に落ちていたコンクリの塊を、建物の陰に向かって投げつけた。
建物の一部ごと塊が粉砕すると同時に、黒い人影がその場を離れ、モブ子の目の前に降り立つ。

「あはっ☆」「当たった」
「…まさか気付かれるとは」

髪の白さが目立つほどの黒ずくめの人物が立ち上がる。
その表情には微かな狂気が。

「君」「誰?」
「ワタシはヴァイス=シュヴァルツ…アナタを壊しにきました」
「君が?」「噂の?」「狂気の脚本家」「ヴァイス=シュヴァルツ?」
「ええ」

するとモブ子はぱあっと明るい表情を浮かばせた。

「そうなんだ!」「いやー嬉しいな!」「噂のヴァイス君に」「出会えるなんて☆」「握手してくれるかな?」

とヴァイスに歩み寄り、手を差し出した、瞬間。

ヴァイスがナイフを投げつけ、モブ子の差し出した手に―――否、袖口から出てきたスタンガンに突き刺さった。
使い物にならなくなったスタンガンが、ゴトッと地面に落ちる。

「…あはっ☆」「ざーんねん」「バレちゃった(笑)」
「ワタシと握手したい人間なんて、いる訳がありませんからね。…これはホウオウグループ製ですか?」

スタンガンを見下ろすヴァイス。
スタンガンにはホウオウグループのエンブレムが刻まれていた。

「そう!」「このスタンガンは」「普通の物の」「30倍ぐらい」「つまり」「雷に打たれた時と」「同じぐらいの電流が流れるんだよ☆」
「雷ですか…相変わらず危なっかしいものを…」
「危なっかしい?」「君が言うセリフじゃ」「ないなあ(笑)」
「そうですか…まあそんな事はどうでもいい。アナタを壊させてもらいますよ」
「へえ」「どんな風に?」
「アナタが守っている”弱者”とやらを、アナタの手で殺すのです。これほど愉快な方法は他にない」

それを聞いたモブ子は。


「…やっぱ」 「オメーの事嫌いだわ(笑)」


当然、気味の悪い笑顔を浮かばせて暴言を吐き出し始めた。

「人を壊して」「楽しむ」「明らか強者のやり方だよな」「モブ子ちゃん」「今すぐオメーの内蔵をみじん切りにしたい☆」
「アナタみたいな弱い人間には無理ですよ」
「あはっ☆」「弱者を見下すか」「三流脚本家(笑)」「いや」「五流脚本家?(笑)」「廃業しろ白髪カス☆」
「お断りします。こんな楽しい職業をやめる気なんて更々ありませんから」
「ふーん」「じゃあ」


「死に果てろ(笑)」

と背中から鉄パイプを取り出し、恐ろしい速さでヴァイスに殴りかかる。
ヴァイスは素早い身のこなしでそれをかわした。

「やれやれ…これのどこが”弱者”なんです?」
「あははっ☆」「勝利を貪欲に得ようとする」「それが弱者でしょ?」
「まあ間違ってはいませんがね…おっと!」

再び殴りかかってきた所をまたかわすヴァイス。
鉄パイプに叩き付けられた場所には、大きな地割れが走っていた。
モブ子の動きを見極めつつ、ヴァイスは何本かのナイフを投げる。

ドスッドスッ

「ありゃ」「刺さっちゃった☆」
「…化け物ですかアナタは」
「化け物?」「ひどいなあ」「モブ子ちゃんはただ」「勝利に貪欲なだけだよ」
「つまり、死のうが生きまいがどうでもいいと?」
「うん☆」
「…呆れた弱者ですねえ」

ナイフを投げ続けるヴァイス。
モブ子はそれを時にはかわし、時にはわざと受ける。
最初は鉄パイプを使っていたが―――。

「んー」「鉄パイプだけは」「飽きたなあ」「あ」「そっか」

おもむろに刺さったナイフを数本抜くモブ子。
傷から更に血が流れ出す。

「ナイフが」「あったんだ」「ラッキー☆」

ニカッと笑って、モブ子はヴァイスに向かってナイフを投げた。
しかしヴァイスは容易くそれをかわしていった。
ついに体に刺さったナイフを全て使いきってしまう。

「あーあ」「しょうがないや」「もうめんどくさいから」「こうしよ」

と、ヴァイスの方に向かうように、半壊している建物に鉄パイプを振り回す。
すると鉄パイプに薙がれた建物のコンクリが、ヴァイスへと飛んでいった。

「ッ!」
「あはっ☆」「驚いた?」「モブ子ちゃんは」「勝つためなら」「何でもするし」「何でも出来るんだよ☆」
「…これだから異常者は…」
「嫌いってか?」「モブ子ちゃんはオメーの事」「大嫌いだけどな(笑)」

けらけらと笑いながら建物を壊すモブ子。
ヴァイスに向かって次々とコンクリが飛んでいく。
ナイフを投げるものの、勝利の為なら生死を無視するモブ子にはあまり意味を成さなかった。
最早ヴァイスには打つ手が無い。

(…しかし)

と、ナイフを投げるのをやめる。
それを見たモブ子はニヤリと笑った。

「あ」「もう攻撃しないんだ」「じゃあ」「死ね(笑)」

鉄パイプを振り上げながら、ヴァイスに突進するモブ子。
が。

「!?」

モブ子の動きが突然止まった。
想定外の行動に、モブ子は驚きを隠せずにいる。
刹那。

「…ったぁあああ!!?」

膝に鋭い痛みが走った。
その瞬間、モブ子の顔から血の気が引く。

鉄パイプがモブ子の膝を突き刺していた。
それも、自分の手で。

「!」「?」「え…」「どう」「いう…?」
「ワタシの能力ですよ」
「能力?」「まさか」「マニピュレイト!?」
「その通り。アナタの意思は今、ワタシの手の中…だから自分の手で自分を痛めつける事はおろか、アナタ自身の意思で”弱者”を殺すことも容易い」
「!!」

ヴァイスの言葉にモブ子は凍りつく。

「嫌だ!」「やめろ!」「モブ子ちゃんの敵に」「弱い人はいない!!」
「ククク…アナタにとって、これほど屈辱的な敗北は無いでしょう?」
「嫌だ!」「嫌だ!」「怖い!」「やめろ!」「そんなの」「認めない!」「やめろ!」「モブ子ちゃんは」「弱者だ!」「弱い人の味方だ!!」「殺したくない!」

いつも以上に狼狽するモブ子。
彼女のそんな悲痛の声を無視し、ヴァイスは言った。

「終わりです…無敗の弱者」

その瞬間、モブ子の脳裏にある記憶が甦る。
冷たい視線、侮蔑の罵声、毎日背負う傷と痛み、不幸の渦中、そして―――目の前に広がる赤い世界。

「やめろ!」「やめろ!!」「やめろ!!!」「やめろ!!!!」「やめろ!!!!!」

「強者風情が!」「弱者の上に立つなんざ!」「モブ子ちゃんが!」「許すわけねーだろ!!」

「お前みたいな!」「強者に!」「弱い人の!」「苦しみが!」「痛みが!」「傷が!」「悲しみが!」「心が!」「生き方が!」「分かんねーのかぁあああああ!!!!」

大粒の涙を流すモブ子。
揺れる視界に映るヴァイスが、歩み寄る。
その時だった。

「!?」

突然、ヴァイスが後退した。
と同時に、彼がいた場所に数本の氷柱が刺さった。
ヴァイスが視線を上に向けると、そこには―――。

「アナタは…雪女」
「白奈だけじゃないぞ」
「!!」

背後から聞こえた声に、ヴァイスは思わず横へ飛んだ。
血色の髪、金色の目、そしてあのエンブレムが浮かぶ眼鏡が特徴的なその男を、ヴァイスは知っていた。

「…クロウ、ですか」
「そうだ。総帥の命令により、お前には死んでもらうぞ」

唖然とするモブ子の元に、白奈が降り立つ。

「モブ子ちゃん、大丈夫?」
「白奈ちゃん…」
「あっ、ひどい傷! ちょっと痛むから我慢してねっ」

モブ子の膝の傷に向かって、加減して冷気を吐く白奈。
すると傷が氷に覆われ、血も固まった。

「応急処置。帰ったらちゃんと手当てするから」
「ありがとう」

白奈がヴァイスの方に向き直る。
辺りを見回し、ヴァイスは溜め池をついた。

「…とんだ邪魔者が入りましたね…今日はここまでにしておきますか」
「あっ、こら! 待てえっ!」

駆け出す白奈。
しかしヴァイスは得意の素早い逃げ足で去ってしまった。


「あーあ…折角見つけたのに」
「次見つけたら殺せばいい。それにモブ子の傷の手当てが先決だ」
「あー、そうですねっ。モブ子ちゃん帰ろう」
「う、うん」


-数日後-

「クロウ君」
「…なんだ鈴子」
「この前は」「ありがとうね」
「抹殺対象を見つけたからだ。お前が他の敵相手に死にかけても、別に助けるつもりはない」
「ありゃ」「酷いね」「まあ」「モブ子ちゃんも」「お前だったら」「そうするけどな(笑)」

軽めの暴言を吐き捨てるモブ子。

「じゃあ」「モブ子ちゃん」「仕事してくるよ」「ばいばーい」

手をぶんぶん振って去るモブ子の背中を、クロウは見送った。

「…弱者の心か」

ヴァイスにやられかけていたモブ子が叫びながら言った言葉を、ぽつりと呟く。

「…やはり俺には理解できんな」


弱さを知る弱者

(強さを嫌う弱者)
(弱さを知らぬ強者)
(相容れない二人)

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最終更新:2011年09月07日 19:27