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白波一家、それぞれの動向

「あれ?」

窓から外を見ていたら、綾ちゃんとアオイさんが帰って来るのが見えた。綾ちゃんは昨日いなくなっちゃったみたいだけど、何かあったのかな?

「あの様子なら大丈夫やないですか?」
「だといいけど……」

窓枠の上からアズールが言うけど、今の私にはそれより心配なことがあった。窓の外を見たのも、何の気なしのこと。

(マナちゃん……)

この間、酷く傷ついて飛び込んで来た、友達。お父さんもお母さんも奪われ、能力に人としての自分を喰われ、挙句にお兄さんからは仇と狙われていた。だから私は、マナちゃんを守ってあげたかった。

―――だけど、エトレクさんと再会したあの一件から、姿が消えてそれっきり。

今どこにいるのか、どうしているのか心配でしょうがない。

(まさか、詠人さんやあの2人に襲われたりしてないよね……)

特にあの、私を捕まえてた人が怖かった。何だか、消してしまうタイプの能力を持ってたみたいだったから、マナちゃんだったら存在ごと消されてもおかしくない。私だったら何でもないのに……。

「……大丈夫かな……」
「ウチが探しに行ければいいんですが……」

アズールが煮え切らないのは、お母さんが昨日、

『アズール、ランカから離れちゃダメよ? 次に何かあったら、揃ってないと最悪の事態を招きかねないから』

と言い含められていたから。私がほとんど外に出ない以上、アズールも必然的に外には出歩けない。

「私の身体が、もうちょっと丈夫だったらいいのに……」
「や、マスターのせいやありません、気にせんといて下さい。ウチはマスターを守るためにおるんですから」
「ありがとう、アズール。……」

でも、それはそれとして、やっぱり友達が心配だった。





「……何の真似ですの?」
「決まっている。あの紛い物はどこだ」

姉様を家まで送り届けてから少し後。買い物をしようと外に出たわたくしは、家から少し離れた所で詠人さんに詰め寄られていました。理由は簡単、

「お前は紛い物と行動していたことがある。居場所を知っているはずだ」

という無茶な論理でした。

「そんなことを言われても、知らないものは知りませんわ」
「とぼけても無駄だ。お前が何かを知っているのはわかってるんだ」

思わずため息。これは、何を言っても無駄ですわね。

「マナさんに関われば全て敵、ということですのね」
「あいつはマナじゃない。……だが、その通りだ。奴に味方するものは、全て僕が排除する。マナを弔うために」
「彼女の味方は存外多いですわよ? あなた、殺人鬼にでもなるつもりでして?」
「殺人鬼? 何を言っているんだ」

「あれは人じゃない。人じゃないものを殺して、どうして人殺しになるんだ」

「…………」
「そして、あんな化け物に味方するってことは、そいつらも人じゃない。だから遠慮なく殺せるんだ」

―――完全に理性を失っていることが、よくわかりました。

(行き場のない憎しみが、手近にいるマナさんに向いた……ということですのね)

それにしてもこの方法論、あのシン・シーと良く似ております。そういえば仲間でしたわね……全く、類は友を呼ぶとはよく言ったものですわね。

「さあ、答えろ。楽に死にたければ奴の居場所を言うんだ」

返答は無論、

「知りませんわ。知っていたとしても、あなたのような外道には教えません」
「そうか。なら、せいぜい苦しんで死ねッ!!」

言うが早いか、詠人さんの左腕が変異して襲い掛かって来ました。ですけど、そんなものは想定の範囲内ですわ。

「! うわっ!?」
「わたくしはこちらですわ。どこを攻撃しているのでして?」

わたくしの目を見たのが運のつき、ですわ。あなたの攻撃、もうわたくしには当たりませんわよ。

「えぇい、馬鹿にするな!!」
「あら、お嫌ですの? では愚か者とでも」

殺気を増した一撃がかすめました。危ない危ない、気配を悟られましたのね。

「いいさ、こうなったら宣戦布告だ……その証に、お前の首を奴に送りつけてやる!」
「言いましたわね? ならばわたくしも容赦は致しません」

右手に幻龍剣を呼び出し(何だか久しぶりですわ)、こちらも構えます。

「その五体、引き裂いて差し上げますわ」

マナさん、ランカさん、そして姉様。詠人さん……いいえ、夜波 詠人はあの方達を傷つけました。それだけでも万死に値するというのに、わたくしの命まで狙って来るとは。

(この分だと、その内人外の皆さま……それに、シドウさんやトキコさんまで狙って来るかも知れませんわね)

ことにトキコさんは、以前からマナさんが気にかけていらっしゃいましたから……ターゲットされる可能性は、十分にあります。ならば、

(例え、この手を血で汚しても……守って見せますわ)

マナさんのため、ランカさんのため、そして何より姉様のため。そのためならば、わたくしは罪人にでも悪人にでも、人の道を外れたる外道にでもなりましょう。

「それでは、いざっ!」
「くぅっ!」


「待って」


「「!」」

聞き覚えのある声が突然響き、お互い動きが止まりました。そして、わたくし達の間にすーっ、と姿を現したのは、

「マナさん!?」
「現れたか、紛い物……」

さっきまで話していた、マナさんその人でした。

「ど、どうして……」
「……あなたを人殺しにさせるわけにはいかない、私達のために」

それだけ言うと、マナさんは詠人に向き直り、

「私を殺せば、他の人は見逃してくれる?」
「そうはいかないな。お前に味方した奴は全て殺す」

けんもほろろ。もう駄目ですわね、この男。

「そう……なら、私も殺されはしない。私の首で事態が収まるならそれでもいいと思ったけど、スザクやランカに手を出すと言うなら撤回するわ。私は、お前には絶対に殺されない」
「ほざくな!! 僕の前に出て来た時点で終わりなんだよ、お前は」
「!?」

気付くと、マナさんの動きが完全に止まっていました。一体何が? 見ていると、

「! それは何ですの?」

詠人の右手に、何かが握られていました。あれはペンライト……?

「これは拾い物なんだけどな……照らした相手の能力を使えなくするんだ。誰が作ったかわからないけど、便利だろう?」

俄かには信じ難い話でしたが、様子を見る限りでは信じざるを得ないようでした。ペンライトだけに光はそれほど強くはなく、近づかなければ意味がないようですが、この状況なら確かに有効ですわね。

「手は出させませんわ!」
「おぉっと!」

わたくしが飛び込むより速く、詠人がマナさんを連れて離れてしまいました。くっ、何たる不覚を。

「ようやくこの時が来たんだ……マナ、見えるか? 今、お前の姿を奪った紛い物を殺してやるぞ!」

狂っているとしか思えない表情でそう喚き、詠人の鉤爪が振りかざされ、

「、ゴ、ハッ!?」

やめなさい、と叫ぼうとした瞬間、突然、視界から消えました。

「………え?」

からから、と転がるペンライト。一瞬事態を理解、というより了解できず固まっていると、その場に一つの人影が現れました。
それは――――。

「見てられないわよ、色々な意味でね」
「アカネさん!?」

この間お会いした、ランカさんのお母様でした。なぜここに?

「久しぶりに街を見て回ってたら、人が暴れてるのが見えたからよ。第一」

そこでじろり、と詠人を睨み、

「その子はランカの友達。放っておく理由はないわね」
「友達? そうか……なら、お前も死」

言い終わる前に詠人が吹き飛びました。またしても何が起きたかわからず、取り残されたマナさんを支えて呆然としていたわたくしは、アカネさんが見事な構えで残心を取っているのに気付きました。

(武道の心得がお有りですのね)

ゲンブさんとは比較になりませんわね、これは。あの方は能力に根差した格闘ですけれど、アカネさんは身体に叩き込んだ経験が支えているのがはっきりとわかります。

「ぐ、よくも……」
「能力が使えるとはいっても、動きがお粗末過ぎるわ。遅いし、稚拙」

確かに、わたくしから見ても両者の動きの差は圧倒的でした。詠人が何度襲い掛かっても、アカネさんは簡単にあしらってしまいます。隙をついたはずが逆撃を受け、後ろを取ったはずが回し蹴りを喰らい、と一方的でした。

「邪魔をするなぁっ!!」
「聞けない相談ね!」

再度の突撃に合わせて顎に前蹴り。……これは決まりましたわね。

「ぐ、が、ぁ……」

脳しんとうでも起こしたのか、詠人の足下がふらふらと。

「悪い事は言わないから、消えなさい。でないと、本当に手加減が出来なくなるから」
「ぐ、く……」

歯噛みしつつも、詠人はその場を去りました。「今に見ていろ」と捨て台詞を残して。

「……本当に、どうしようもない方ですわね」
「そうね。シドウさんから聞いた話とは全然違うわ。ただの三下じゃないの」

容赦ありませんわね……。

「……さて、マナちゃん?」
「? はい」
「ランカが心配してたわよ。とりあえず、うちに来なさいな」
「……はい」

頷いたマナさんは、去る前にわたくしの方を向くと、

「……ありがとう」
「え?」
「怒ってくれた、私のために」

何を言い出すのかと思えば……。そんなことですの?

「当然ですわ。友達ですもの」

マナさんと実際にお会いした事は少ないですけれど、わたくしとしてはそのつもりですわ。

その頃。
白波 シドウは、天河探偵事務所にいた。

「何か神妙な様子ですけど、どうかしたんですか?」
「いや、実は相談があってな」
「相談?」

ああ、と星に一つ頷き、シドウは言う。

「人外狩りの暗躍やヴァイスの死亡記事、大きな動きを見せないホウオウグループ、あちこちで騒がれている『奇妙な腕の男』……どうも、今までのように動くだけでは、手詰まりになって来たようだ」
「ふむ」
「で、だ」

「今後のことを考えてアースセイバーに入ろうと思っているんだが、どうだろうか?」



白波一家、それぞれの動向

(娘は留守番)
(母は出迎え)
(父は就活(?))



「それと、もう一つ。この男を見たことがないか?」
「? いや、知りませんけど。こいつは?」
「ヴァイスを追っている時に、聞いた話なんだが」

「なんでも、『物に能力を付加する』特殊能力を持っているらしい」

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最終更新:2011年10月27日 06:44