「あれ」「二人共お揃いで」「どしたの?」
掃除用具を手に
クロウとゼアの元に近寄る
モブ子。
二人の表情はどこか不機嫌だった。
「鈴子か…」
「クロウ君にゼア君」「何やら不機嫌」「みたいだけど」「ジングウ君と」「喧嘩したの?」
「…その
ジングウのせいだ」
首を傾げるモブ子。
「あいつの研究チーム…『
千年王国(ミレニアム)』が再結成された。しかも総帥の命令の下…!」
「……」「
ホウオウ様が?」「…何か考えでも」「あるんだろうけど」「理解出来ないよ」
「それはこっちのセリフですよ」
苛立ち気に言うゼア。
「いくらあの方の意向とは言え…何故あの男の研究チームの再結成など!」
「全く…総帥は一体何を―――」
そこでクロウはハッとした。
ほぼ同時にゼアも気付く。
モブ子があの、『気味の悪いぐらいにニコニコした』笑顔を浮かべていた事に。
「まーホウオウ様は」「利用とか」「そういうつもりで」「許可」「したんだろうけどー」
「あいつ」「マジ死ねばいいのに(笑)」
「……ジングウが強者に見えるのか」
「あはっ☆」「これは」「比喩なんだけど」「すげえムカつく」「強者の血からは」「腐った気持ち悪い匂いが」「するんだよねー(笑)」
「…そうか」
「そもそも」「あいつが」「弱者とか」「ありえねーだろ(笑)」「いやマジで☆(笑)」
けたけたと笑うモブ子。
これが『破綻最弱者』の姿である。
「だからさ」「あいつ」「もう殺しても」「いーんじゃない?☆」
「それはやめておけ」
「えー」「あんな奴」「置いといたってさあ」「害虫にしか」「ならねーだろ(笑)」「つーかさ」「気に食わねえんだよ!」
モブ子が急に声音を荒げた。
それを聞いたゼアは小さく溜め息をついて言う。
「貴方の言い分は分かりますが、千年王国を再結成できたのは、ホウオウ様の許可があるからなのですよ? それを無視してあの男を殺せば…どうなるか、貴方も分かる筈」
「……」「チッ」
明らかに怒った表情で舌打ちし、モブ子はそのまま掃除用具を持ってその場から去ろうとする。
「害虫は」「駆除しねーと」「いけねえのによー」「さっさと」「死に果てろよ」「クソ害虫が!」「マジウゼェし!!」「何様のつもりなんだよ!!!」「目玉引きずり出されて」「脳味噌損傷して」「心臓バラバラにぶちまけられて」「視界から消えろ!!」「害虫野郎!!!!」
怒号が終わったと同時に、モブ子の左拳が壁に叩き付けられ、派手な破壊音が響く。
そのせいで壁に大きくヒビが入り、粉砕しかけた。
「…貴方より過激ですね、クロウ」
「元からああいう奴だからな」
モブ子が殴った壁を一瞥するクロウ。
その後もモブ子が歩いて行った方から、破壊音が響いたのは言うまでもない。
「ジングウ様、怪我は無い?」
「ええ、包帯の下にある物以外は」
「良かった」
とある研究室。
ウスワイアから戻って来たジングウと
マキナ、サヨリと
レリックがいた。
「レリックちゃんの成長も、順調みたい」
「そのようですね。まさかあの火波 スザクを追い詰めるとは…」
と、ジングウは積み木で遊ぶレリックを見やる。
「それにしてもこの婚約首輪! 中々の性能だね!」
「…
狂戦士の首輪だと、何度言えば分かるんですか…まあ私が製造した物ですし」
「やっぱりジングウ様は天才だ! 何故あいつらに負けたのか分からないよ!!」
「…確かに負けたのは予想外でした。しかし―――」
ニヤリ、と不敵に笑うジングウ。
「今回のゲームでは、絶対に負けませんよ」
「ボクも、アナタ以外に殺されないからね!」
「…相変わらず愛に溺れてますねえ。そんなに私を愛してるのですか?」
「うん! なら今すぐ殺してみる?」
「…いえ、今はまだ貴方の力が必要なので」
「ふーん…じゃあ、殺したくなったら言ってね! 刺殺も絞殺も格殺も銃殺も撲殺も毒殺も飢殺も斬殺も圧殺もなーんでも! ボクは受け入れるから!」
「…分かりました」
呆れた様に言うジングウ。
とそこへ。
「本当にその首輪、ちゃんと効いてるのかしら? ジングウ主任」
一斉に声の方へ視線を向ける4人。
そこにいたのは、ピンクのワンレングスとセピア色の細い目をし、黒のチュニックワンピースの上に白衣を着た女性。
腰にはホウオウグループのエンブレムを型どったバックルがついた、白いベルトが巻かれていた。
微笑する女性―――クルデーレ。
「狂気を抑えるどころか、増長させてる様に見えるわ。不良品じゃないの?」
「いえ、マキナさんはこれが『普通』なんですよ。それに能力さえ制御出来れば、いつもみたいに暴走する事はありません」
「…そう、ならいいわ」
「ところで何か御用で?」
「『あの子達』の成果、どうだったかしら?」
「ああ、『魔物』ですか。とても助かりましたよ。しかし物体に取り憑くとは…」
「それが一番の特徴であり、長所なのよ」
誇らしげにクルデーレが言う。
「因みに人間や動物にも取り憑けるわ」
「ほう。洗脳ですか」
「そうね。本当にいい子なのよ…人間と違って。特に貴方みたいな人とは」
刹那。
ヒュンッ
「……」
「……」
クルデーレは顔のすぐ隣にある物体を見る。
マキナが大きな憤怒と僅かな狂気を秘めた表情で、クルデーレの頭にすぐ当たるようにハンマーを握りしめていた。
「…ジングウ様をそんな風に貶すな、雌豚が」
「あら…堪に障ったかしら?」
「副主任になったからって、ジングウ様を悪いように言って良い訳がないよ」
「貴方こそチームの一員になったからって、いい気にならないで欲しいわね。いつもジングウに相手されない癖に」
するとその言葉が引き金になったのか、マキナの髪と目に、亡き兄
カルラの色が宿り始めた。
と。
「やめなさい、マキナさん」
「ジングウ様。でも…」
「クルデーレさんにはまだいてもらわなくてはなりません。それにこの非情人に何言っても無駄ですよ」
「…そうだね」
ハンマーを降ろすマキナ。
「あら、分かってるじゃない」
「その名は只のお飾りでは無いのでしょう?」
それを聞くと、クルデーレの笑みが微笑から歪んだそれへと変貌する。
「ふふっ、流石ね」
「貴方が自身の目的の為に、副主任として私に協力している事は薄々分かっておりますよ?」
「そこまで感付いているとは。伊達にあの戦いで生き残れた訳では無いという事か……」
「そういう事です。貴方が何をしようが自由ですが、私の邪魔をするならすぐに消えてもらいますからね。クルデーレ副主任」
「その台詞、そのままそっくりお返しするわ。私の目的の障害になる意思を見せたら、直ちにこの子達の糧(エサ)になってもらうわ。ジングウ主任」
クルデーレの体から数匹の黒い影の様な生き物―――魔物が現れ、ジングウに威嚇する。
だがジングウはそれを気に留めず、話を続けた。
「…まあ余談はさておき。次もまた魔物を戦力に加えさせてもらいますが、構いませんね?」
「ええ、いいわよ。それがあの子達の力となるのなら」
「ありがとうございます」
「さ、貴方達。戻りなさい」
魔物達は素直に徐々にクルデーレの体内に消えていく。
「では私はそろそろ自室に戻るわね。ご機嫌よう」
最後にいつもの微笑を浮かべ、クルデーレは白衣をはためかせて去っていった。
そこでサヨリがジングウに声をかける。
「…ジングウさん」
「何ですか?」
「あのクルデーレさんという人は、一体どんな人物なんですか? アーカイヴにある情報では、1998年から1999年の間にグループに加入、生物兵器製造及び研究担当としか無いので…」
「まあ、彼女もそれほど人と関わってませんからねえ」
「ただ」と、ジングウは続ける。
「その複雑で狡猾な頭脳と研究者にそぐわない戦闘能力を持ち、研究の為なら己の体でさえ実験材料と見なす…正に”冷血”と呼ばれるに相応しい逸材ですよ。特に彼女は今の様な、新種とも言える生物兵器の製造が得意でしてね」
「魔物…でしたっけ。一体何なんですかあれは」
「何でも『闇』を凝縮して造っているとか」
「闇…を」
「因みに彼女は私と違って、ホウオウグループの思想に賛同、忠誠を誓っています。それには周りも信頼しています…しかし私が言える事ではありませんが」
「彼女はその名の通り、人間嫌いの冷血なので、どうも信用できませんね」
千年王国に潜む冷血
同時刻、ウスワイアのとある部屋。
「僕は何の為に生まれたんだろ……『あの人』に捨てられたのに……何で?」
最終更新:2011年11月04日 15:25