「以前はウイルスを使って騒ぎを…ねえ。また同じ手を使う事は無さそうだけど、やるとしたら改悪版に改造かしら」
とそこへ。
黒に染めた髪と金色の目、プリズム加工された特徴的な眼鏡をかけた男を見て、クルデーレはニコリと微笑した。
「何かご用かしら?」
「…その書類はどうした」
「資料室からよ」
「そういう事を聞いてるんじゃない。…何のつもりだ」
目つきをより一層鋭くするクロウに対し、クルデーレは書類から視線を反らさず返す。
「別に企んでないわ。ただ、千年王国の戦力に使えないかと思って」
「…その言葉、嘘ではないだろうな」
「私はあの若造と違って、ホウオウ様には絶対忠誠を誓ってるわ」
「…ならいい。だがもし裏切る様な真似をするなら、ジングウ共々死んでもらうぞ」
「全く…貴方、神経質過ぎるわよ?」
「…勝手に言ってろ」
そう言い残し、クロウはその場から去った。
「……そこまでせずとも、あの人は問題視しないでしょうに。あの鴉は本当に―――」
「目障り、だろ?」
突如辺りに声が響く。
クルデーレが声の方に視線を向けると、左頬に印の様なものが刻まれた少女が、ガラスケースに腰掛けていた。
「なあー、もうぶっ殺そうよアイツ! 鬱陶しいし、目障りだしよー。血祭りにあげたいって!!」
血眼になりながら、物騒な言葉を口にする少女。
「残念だけど、それは出来ないわ。『
サディコ』」
「えぇー!? デレ姉さんだって本当は嫌いなんだろ? 俺、デレ姉さんの為なら頑張るぜ!?」
「その気持ちは凄く嬉しいけど、今はまだ無理よ。分かった?」
「…はーい」
少女―――サディコは渋々クルデーレに従った。
するとまた別の声―――今度は少年の―――が辺りに響く。
「私もあの男は好きませんが、確かに今消してしまえば怪しまれるでしょう」
「その通りよ、『ラティオー』」
少年―――ラティオーが物陰から現れる。
彼の頬には、サディコと同じ印が対になる様に右頬に刻まれていた。
「今はまだ行動の時ではない…それまでは、あの若造に表舞台に立ってもらわないと」
「
ジングウだっけ? そんなに強いのかあ?」
「弱くはない。負けたとはいえ、ウスワイヤの面々に劣勢を強いていたらしいわ」
「ふーん。じゃあ姉さん!」
「何?」
「もしその時が来たらそいつ、俺に血祭りやらせてよ! お願い!」
「ふふ、いいわよ。あの若造の始末は貴方に任せるわね」
「やったあ!! 姉さんありがとう! 俺頑張って、姉さんが喜ぶ様な血祭りをあげるよ!」
年相応の笑顔を浮かべ、大喜びするサディコ。
言っている事は相変わらず残酷だが。
「なら他のメンバーは私に任せてもらっても?」
「ええ、勿論」
「ありがとうございます」
深々とお辞儀するラティオー。
と、何かに気付いた様にすぐ頭を上げる。
「そういや『あの者』も、私達の戦力に加えるので?」
「ええ…外見に似合わぬ、あの高い戦闘力は失うには惜しいもの」
「マスターの意志なら構いませんが…彼女は『人間』ですよ? 足手纏いになり兼ねないのでは…」
「あの娘を甘く見ては駄目よ。捨て身で父親を守ろうとしていた時の、あの目の光を見たとき…確信したのよ。『この娘は殺さない価値がある』と」
普段湛える冷静な微笑が、狂喜に歪んだ笑みへと変貌する。
「殺さない価値…ですか」
「ほんっとーに?」
ラティオーの肩に寄り掛かるサディコ。
「本当に、よ」
「ふーん。まあ強いなら何でもいいぜ、俺」
「……弱かったら血祭りにするつもりだったんですか?」
「弱い戦力なんかいらねーだろ」
「まあ確かに…でもそれはマスターが『いい』と了承した場合ですよ」
「わーってる。いちいち口出しすんな」
その時。
「…お?」
「噂をすれば、ですか」
サディコとラティオーが振り向いた先には、一人の少女。
外見は二人より幼く見える。
「貴方もこれから、私の手下として動いてもらうわ。その為にはまず新しく名前をつけないとね…ラティオー、何かいい案はあるかしら?」
「そうですね。彼女は『今までの』彼女では無くなった…つまり『無』に生まれ変わったという事なので、そういった意味の名にしてみては如何でしょうか?」
「いいわね。流石は私の『理性』」
「お褒めいただき、ありがとうございます」
再び深々と頭を下げるラティオー。
その横でサディコが不貞腐れた表情をしていた。
「何で俺にも聞かないのさー…」
「『残忍』である貴方は思い付けるんですか?」
「……無理」
「そうでしょう。貴方には貴方の得意分野があるのですから」
「チェッ」
「では…めでたく生まれ変わった貴方に祝福の名を」
「これから貴方は『
九鬼美奈子』ではなく、『ニエンテ』として私に支えなさい…いいわね?」
「…はい。クルデーレ様」
冷血、残忍、理性、無
「……」
「大丈夫かい?」
「っ! …玉置さん…」
「また『あの時』の事を?」
「…僕、なんか―――」
「もうそんな事言っちゃ駄目だ。君はここにいるんだから」
「………」
「…君は生きていいんだよ」
(そして)
(そこから外れた一人は)
(『黒』)
最終更新:2011年11月23日 13:17