司の様子を見た流也は、わずかに目を見開いた。
変色した目、両手には炎。
「……なるほど。全くの無力でもなかったか。なら話は簡単だ」
あらためて向き直り、言う。
「来るなら好きにしな。そうだな……」
少し考える。一瞬で炎で武器を形成した……ということは、そこそここの力の扱いに慣れているということだ。最低限の事情くらいは、知っておいてもよかろう。
「……俺達が今とっ捕まえようとしてんのは、
ヴァイス=シュヴァルツって男だ」
「黒と白?」
「あっからさまな偽名だがな。それで、だ。奴もお前と
同じように、力を持っている」
司がわずかに驚くのが見えたが、構わず続ける。
「そうだ。この世界には、そういう特殊な力を持った奴が多くいやがる。奴もその一人だが、人格が最悪でな。奴の力は、他人の思考や認識を操作し、思うがままに操ることだ。それを使って、人間関係や信頼……そういったものをたたき壊して、ターゲットが自分を追い込んでいく姿を観察して楽しむ。そういう愉快犯なんだよ」
「……まさか、崎原も……」
「そうだ、その通りだ。恐らくはな。……話を聞く限りじゃ、奴は手口を変えたらしいな。今までだと、それこそ人形遣いだったんだが、どうやら今回はあくまで本人の意思で拒絶させるよう仕向けたみたいだな。前に俺がやられた手だ」
それなら説得が聞くのではないか? そう思った司だが、「そんなに甘い問題じゃねえ」と流也は首を振る。
「本人の意思を残したうえで、認識が操作されたわけでもない。そして、随分長々と話し込んでいた。つまり、奴はその崎原って子に出鱈目を吹きこんだ上で、『その話を信用する』という風に暗示かなんかをかけられてんだな。しかもこの手口の凶悪なところは記憶が残る点だ。正気に戻しても、人間関係にはひびが入る。必ずな」
「何て野郎だ……奴は人を何だと思ってやがる!!」
「何とも思ってねえから、こういう真似が出来るんだよ」
妙に身の入った言い方に、冬也がなんとなく声をかける。
「あの、流也さん」
「何だ?」
「やけに、実感こもってますけど……何かあったんですか?」
答えず、沈黙する流也。しかし、ややあって重い口を開いた。
「……そうだな。いずれ誰かには話さなきゃならねえ話だ。簡単に説明しとくか」
俺はもともと別の県の生まれだ。でっけえ桜の木があってな、そこで昼寝するのが好きだった。
仲間も多くいた。家族もいた。まあ、そこそこにはいいところだった。
―――けどな、そいつを一瞬にしてぶっ壊された。やったのは……奴だ。今回と同じ手だった。周りの連中に暗示をかけて、トラブルとか、事件とか、そういったモンの責任や原因を全部俺だと思いこませた。
……後はもうわかるよな? 周り全員から爪弾きにされて、俺は街を飛び出した。しばらく姉さんとこにいたんだが……帰ってみたら地獄だったよ。
家族も、仲間も、全員消えちまってた。あの野郎が言うにはよ、『暗示を解いたら、叫んだり嘆いたりしながら、どこかに消えてしまいましたよ』だとさ。
だから、俺は奴を追ってんだよ。俺の街の仇討ちのために、な。
「「…………」」
予想外だった流也の事情に、しばし言葉を失う二人。しかし、流也は調子を崩さず言う。
「俺の話はこれで終わりだ。今はお前らの話だ」
言って打ち切り、司に目を向ける。
「わかってると思うが、その力は人前では出来れば使わねえ方がいい。でないと」
ちらり、と冬也を見て。
「今の日常は、消えてなくなるぞ」
「……わかった」
「一応渡しとく。これが俺の連絡先だ。こっちは俺の知り合いの住所。そっちの関連で悩んだら行ってみろ」
流也が渡した紙には、自分の携帯番号と、「西」と呼ばれた少女の住所が書いてあった。司がそれを受け取ってポケットにしまったのを確認すると、流也は電柱によりかかって息をつく。
「さ、て……そろそろ、待ち人来たれり、かな?」
過去、そして現在より
(過去も今も、目的はひとつ)
(あの男を、叩き潰す)
(
ただ、それだけだ)
(あっ、しまった)
息をついて、気付いた。
(司の能力のこと連絡するの忘れた……ま、会ってから説明すりゃいいか)
最終更新:2012年01月23日 11:30