「ストラウル跡地上空、…異常無し。」
白髪、ぴょこんとウサギの耳のように飛び出た赤髪。
その頭にはヘッドセット、そして白の海軍服を身に纏った女性―――霧谷 操、いや、
アルニカは「ラー」よりも一回り小さい、
一人用の飛行兵器で上空からいかせのごれをパトロールしていた。
特に目に付くような異常もなく、さて帰ろうとしていたところ。
突如として激しい爆発音が轟いた。そしてそれを皮切りに、何か大きなものが崩れ落ちる音。
『な、なんだ?今とんでもない音が…。』
「……不発弾でも爆発したのかもしれない、人がいないか確認しに行く。」
『わかった、気を付けて!』
「了解。」
会話を終わらせ、ぴ、と通信を切る。
(…まぁこのゴーストタウンに足を踏み入れる人間なんてそうそういないだろうけど…。)
―――――そう思っていたところで、これだ。
「な、なんなんだ、これは…!?」
爆発音がした場所へと駆けつけたアルニカ、そこにはあまりに非現実的な出来事が。
星のステッキを振り回しながら、我を忘れるかのように男と戦う黒いゴスロリの少女、辺りには黒い星が飛び散っている。
そして、ニット帽とサングラスを身に付けゴスロリの少女と交戦する男。
少女の方は―――学生、だろうか?中、高校生ぐらいに見えた。
その少女の顔には、怒りとも悲しみとも取れるような色が浮かんでいる。
男の方はといえば。殆どが隠されてしまっている上に素早く動き回っているため、いくら目が良いといえど素顔を見ることはできなかった。
ただ一つだけわかるのは、どちらも人並み外れた「能力者」に匹敵するの力を持っているということ。と……、なれば…。
「保護…す――――ッ!?」
意気込み、ぐっ、とレバーを前に倒した時だった。
一際大きな爆発音が響き渡り、爆風が起こった。
兵器の窓はカタカタと小さな悲鳴を漏らす。叫ぶ程のものでもないが、先程見た少年少女の繰り出したものだとはとても思えない。
あの二人を、このまま放っておいてはマズい。爆風と同時にそう直感した。
砂煙が消えてから状況を確認する。見えるのは黒いゴスロリ服、そしてさっきまでは無かった瓦礫の山。
おそらく、少年は至近距離から少女の攻撃をくらってしまったのだろう。
(はやく助けなければ…!!)
そこでまた、爆発した。
またか!と心中でツッコみを入れつつ、戦いを鎮めるべくマイクに手をかけた、その時。
瓦礫の影に隠れるように人型の何かが飛んできた。というか、人だった。
着ている白衣はボロボロで薄汚れており、意識があるのかどうかもわからない。ただ瓦礫の影に隠れ、ぐったりとしている青年。
こちらに投げられたということは先程の少年か、はたまた他の関係者かがあの青年の身を案じて…?
「……こちらが先、か…!」
青髪の少女に見つからない場所へ兵器ごと降り立つ。兵器が地面に着地すると同時にアルニカは兵器から飛び降り、駆け出した。
瓦礫を跳んで避けながら、倒れている青年の所まで全速力。
段々と少女の足音が遠ざかっていく。
良かった、気付かれてはいないようだ。どうやらここは彼女の死角らしい。
青年の頭を持ち上げると、彼はぴくりと体を動かした。
そしてうっすらと瞼を上げ、アルニカと目を合わせる。
「あ、あなた、は……?」
「そんなことは後だ!それよりも、一旦此処から離れるよ。歩けるかい!?」
本当はあの女の子にやられてしまった少年も助けたかった。でも、自分が兵器も無しにあの少女の前に飛び込んでいったってどうにもならない。
生身の戦闘力は人並み、アルニカはそれを自分で理解している。だから判断も早かった。
「人並み」が「能力者」に敵うはずがない。
同じようにぼこぼこにされるのがオチだ。
それならば、「確実に」成功する方を、確実に。
「いち、にの、さん。で走るよ、いいね!?」
「は、はい…!」
「いち、にの!」
「はぁ、はぁ…だ、大丈夫だったかい?」
「な、なんとか…あの、あなたは一体…?」
無事に兵器に乗り込むことに成功した二人。アルニカは兵器を運転し廃ビルの屋上を目指した。
だが、この兵器は元々一人用であるためか、飛び方がふらふらと心なしか頼りない。
運転を続けながら、アルニカは横目で窮屈そうにしている青年――「宮藤 一哉」をちらりと見た。
「――ボクの名前は「霧谷 操」霧の谷に操ると書いて霧谷操だ。でもアルニカって呼んでくれると嬉しいな。」
「霧谷さん…あ、いや、アルニカさん、ですか…。僕は「宮藤 一哉」です。」
「…言いにくかったら「霧谷さん」でも構わないが。」
「えっ。」
「なんか、「霧谷三佐」みたいで気持ちいい。」
「は、はぁ……。」
さて、冗談はさて置いて、だ。ちょうどビルの上へ到着した。
このままでは体が固まってしまうだろうと思い、アルニカは扉を開け、一哉を外へと出す。
その後に自分も外の世界へと。両腕を前へと伸ばすと体中がぎしぎしと音をたてる。
少し中の設計をミスったのかもしれない。また作り直さなければ。
「君はあそこで何をしていた?」
「何、って…」
「すまない、これがボクの仕事だ。話してもらえるかい?」
暫くだんまりだった一哉だが、アルニカは自分から視線を外そうとはしない。
何が何でも聞き出すつもりだ。
このまま黙っていても埒が開かない。
そう思ったのであろう、ゆっくり、ゆっくりと口を開いた。
「……僕の部活の後輩が、突然僕に襲い掛かってきたんです。」
「部活の、後輩?――あの女の子かい?」
「はい、「崎原 美琴」というのですが…彼女、様子がおかしかったんです。」
「おかしかった…?」
一哉の話によると、この跡地を散歩していたところにあの青髪の――「サキハラ ミコト」が現れたらしい。
そしてそのまま、襲い掛かってきた。
自分はどこも悪くないのに、変なんて、そんなに自分ををいじめたいのか、傷つけて楽しいのか。
……そんな、身に覚えの無い言葉を吐きながら。
部の先輩としてはそんな言葉をぶつけられたらショックどころじゃないだろう。
それは彼の表情を見てもひしひしと伝わってくる。
それにしても、普段天真爛漫な少女が見る影もなく豹変…。変。いじめ。傷。
もしかしなくても、あの少女は学校かどこかでいじめを受けていた?
そして、結局は誰も信じることが出来なくなり、あのような行動に出てしまった?
「―――説得…!…は、無理だった、みたいだね。その様子じゃ。」
「………はい。」
ふ、とビルから下の「戦場」を見下ろした。美琴はどさりと地面に座り込んでいる。
凄まじい攻撃であったが、その分反動も大きかったようだ。
(今なら…いけるか?)
一人、いや二人か。あの場には美琴と交戦した少年がいる。
このまま放って帰るわけにもいかない。
彼女を止めなければ、最悪死人が出るかもしれない。
「―――!?」
軍刀を握り締め、覚悟を決めようとしたその瞬間。
瓦礫の山からぐらりと起き上がった男がいた。
「…あれは…」
退けない理由は
「――おぉ、
おかえり。」
「お前を通して見てたぜ。」
「『サキハラ ミコト』…まったく、面倒なことになってんな。」
「あのガキ共も勝手に学校飛び出していきやがったし…。」
「あぁ、もうお前は帰っていいぞ。お疲れさん、お前は他の蝙蝠とは違って使えそうだな。」
「―――
アザミ先生?」
「…あっ、はい。何かな、ワカバ先生?」
「いや、今度のテスト作成に関して質問したいことがあってさ、一人で何をしていたんだい?」
「そうだったのか、すまないね。ちょっと問題児のことを考えてて。」
「問題児って…あぁ、学校抜け出した奴らのことかい?」
「そうそう、本当参っちゃうよ。」
「日常茶飯事だから、先生達も殆ど諦めちまってるけどね…大丈夫かなぁ、あいつら。」
「大丈夫。」
「ん?」
「…大丈夫だよ、あの子達なら何が起こってもきっと無事。
……この常に暴走しているような学校で生きていられるんだからさ!」
「はは、それもそうだね。」
最終更新:2012年04月16日 00:07