「ふむ……?」
某日。
クロウは、自分に届いたアッシュ関連の指示に関して未だに真意を図りかねていた。
問題なのは監視命令の最後についた一文、「最悪の場合生死不問」。
これがどうにもこうにも納得しきれなかった。
アッシュに対してどう対応すべきか―――元・裏切り者の
ジングウ旗下なので、クロウとしては当然警戒する―――
ホウオウの意見を仰いだところ返ってきた答えがこうなっていた。
だが、いくらなんでも「生死不問」は意図が図れない。
面従腹背とはいえ、ジングウは現在の所グループの害になるような行動は特にとっていない。アッシュにしても、そこここに危ない行動は見られるが反逆の意思は見られない。
むしろ、アースセイバーのエースである
都シスイをターゲットに定めているのだから、これはある種歓迎すべきことだった。
だからこそ、クロウはこの指示の意味がわからない。監視は無論。問題が起これば対応する。しかし、生死を問わないとはどういうことか?
「総帥は何を考えておられるのか……」
一度は割り切ったもののやはり気になり、毎日毎日考え続けているが、一向に答えが出ない。
どうやらこの日も、結論は出そうにない。
「ルーツ」
「ん?」
某所。
書類仕事に励んでいたルーツの許に、ナハトが訪れていた。珍しく一人だ。
「あれ、ミーネは?」
「部屋だ。戻るまで出ないよう言っておいた」
ミーネこと
ミネルヴァは、あらゆる障害を無視して移動する能力を持つ少女だ。この間などは勝手に飛び出した挙句、こともあろうにウスワイヤに侵入して来たという呆れた事件を起こしている。
だが、「夜姉ちゃん」と慕うナハトのいう事はよく聞くので、この分なら安心だろう。
さておき、
「で、何か用か?」
「ああ。
AS2に関する指令が出ていたはずだ。それを確認したい」
「AS……ああ、アッシュね。ちょいとお待ちを~、ッと」
しばらく机の中をごそごそやっていたルーツだが、程なくして一枚の書類を取り出した。
「ほい、こいつだ」
「助かる。……」
ナハトが確認した、その指示。
『近隣のメンバーで監視を行え。有事の場合対応は一任する』
「……やはり」
「どうした? 何が、『やはり』なんだ?」
のんきに聞き返して来るルーツに、ナハトは逆に問う。
「ルーツ。この指示は、誰に回した?」
「あー? 今のとこ、クロウに渡しただけだが」
「……だとすると、その間に改竄があったようだな」
「何?」
聞き捨てならない単語を耳にし、ルーツの目が一瞬で据わる。
「おい、改竄ってどういうことだ」
「クロウの受け取った指示には、『最悪の場合生死は問わない』という一文がついていた。だが、今確認したこれにはそんなことは書かれていない」
生死は問わない。つまり、何か問題を起こしたら殺しても構わないということだ。
いくらアッシュが、造り主のジングウが危険とはいえ、こんな指示は通常ありえない。
ナハトが注目したのはそこだった。ホウオウの指示でないのなら、誰かが勝手に内容を付け加えた、ということだ。それも、明らかに「
千年王国」に害意を持つナニモノカが。
「……俺はクロウに直接渡したんだが」
「では、誰から受け取った?」
「……たまにこっちに来る連絡員だ。
スパロウが知ってるはずだ」
「では、そいつを当たってみるか……」
こうは言ったが、ナハトは手がかりが得られるとは正直な話、思っていなかった。
というのは、連絡員は基本的に末端であり、指示伝達は大規模な行動でない限り文書を何度も受け渡して行われる。その間に誰が介入したのかは、実際に指令が出てからかなり日が経った現状、もはや調べようがない。
それをわかっているがゆえに、ルーツも言う。
「正直、犯人が見つかるとは思えねえんだがな……」
「同感だが、調査はしておかねばならない。組織内に裏切り者がいる可能性も、否定は出来ないのだからな」
鴉の悩み、夜と白の調査
「ホウオウグループが動きましたよ。まあ、ワタシの介入だとはさすがに気づかないでしょうがね」
「騒ぎの拡大と仲間割れを、たったの一文で同時に狙うとは……怖いね、君は」
最終更新:2012年07月10日 17:34