「
シスイ君、おっはよー!」
背後からかけられた声に、俺は振り返った。
「誰かと思えば、
コロネか」
「むー。挨拶されたら返さなきゃいけないんだぞ。小学生だって知ってる常識!」
「あー、うん。おはよう」
「うん、よろしい!」
俺が素直に返事すると、にはっ、と目の前の少女は笑みを浮かべた。
コロネ。目の前の少女の名前。ややマイペースな性格を除けば、どこにでもいるような、普通の少女。
けど、その「中身」は決して普通の少女ではない。
彼女はある一定の人間を、それ以外の人間と区別して見ている。区別と言うと大仰そうに聞こえるが、本人に言わせれば「なんか変わってる」という認識らしい。
その認識に当てはまるのは、俺が尊敬する
ケイイチさんや、
マサカズ、シゲヒロと言ったケイイチさんの友人。それに闇野光一、
ハヤトと言ったウスワイヤ所属の学生。
ここまで言えば、もう分かるんじゃないだろうか。コロネには、「特殊能力者と無能力者を見分ける力」があるのだ。
こちらに背を向け、昇降口に向かって歩いていくコロネの後ろ姿を、俺は見つめる。その様子は本当に、どこにでもいる普通の女の子だ。
「特殊能力者と無能力者を見分ける」。口にしてしまえば単純だが、恐ろしい力だ。その力があれば万人の中から超能力者だけを選び出す事が出来る。あたかも、何千何万という砂粒から砂金を見つけ出すかのように。
ホウオウグループに彼女が捕らえられでもしたら、一体どうなる事か……俺には検討もつかないし、想像も出来ない。
「……出来れば、こんなところにいさせるよりも、ウスワイヤで保護した方が全然安全なのだろうけれども――ッ!?」
そう俺が呟いた瞬間、チリリとこの場所に似合わない感覚が首筋を襲った。俺は思わず右手でそこを押さえ、背後を振り返る。
いたのは、真っ白な髪と炎のような瞳を持つ長身の人物。学生服を着ているので一見すると男に見えるが、実際は女。
火波スザク。彼女は端正な顔を歪め、俺を睨み付けていた。
「う……」
蛇に睨まれた蛙の気持ちとは、こういう奴か。向こうはただ睨んでいるだけなのに、こちらはまるで炎の傍で直に立っているみたいだ。凄まじい殺気が、ジリジリと俺の肌を焼く。
「…………」
スザクは俺を数秒間睨みつけると、昇降口を目指して歩き出した。まるで、何事も無かったかのように。
ただ、
「……あいつに手を出したら、タダじゃ済まさない」
それだけ、俺の耳元で囁いた。消えかけていた緊張がぶり返し、全身に脂汗が浮かぶ。
「…………」
しばらく、その場から動けなかった。金縛りが解けたようにようやく振り返ると、現れたスザクに気付いてコロネが声をかけているところだった。先程までの表情が嘘みたいに、若干スザクの頬が綻んでいる。
「……言われんでも、分かっているよ」
コロネの能力は危険だ。ホウオウグループに渡れば、どんな悲劇をもたらすか分かったものじゃない。能力者狩りが始まり、そうして集められた力がホウオウの手先として使われるのだ。そうなったら、ホウオウグループは誰にも止められない。
だがウスワイヤで保護するのも、それはそれで別の危険性を孕んでいる。
ウスワイヤの基礎を作ったのはケイイチさんだ……けれども正直、俺はこのシステムにあまり賛成できない。何せ、超能力者であるならば問答無用に収容。仮に自由になれても、それはアースセイバーの一員として協力すると誓った場合だ。極端な話、「自由にしてやる代わりに協力しろ」と言っているように見えなくもない。
異能者の存在がイレギュラーで、人間社会を「確実に」守る手段がそれしかない事も理解出来る……けれども、そんな組織がコロネと言う極めて特異な能力者を手に入れたら、一体何をするか。それは目的が違うだけで、ホウオウグループがやる事と変わらない。
能力を悪用する奴はもちろんいる……けれども、多くの能力者は自分に与えられた能力に苦しみ、人生を狂わされたような奴がほとんどだ。その中には、能力を二度と使用しない誓いを自ら立て、一般人としての幸せを手に入れようとしている奴もいる。
……けれどもウスワイヤにとってそんな個人の感情は関係無い。あそこが守っているのは個人の幸せではなく、社会の秩序なのだから。
だから俺は、コロネが特殊能力者である事に気付いてからも彼女の事をウスワイヤに伝えていなかった。
「……ヒーロー失格ですかね、
アキヒロさん」
思わず自嘲気味に、俺はポツリとここにいない人に向かって呟く。
俺はアースセイバー所属の調査員。けれども、俺がやっている事はその役目に反した行いだ。
「でも……俺はこれが正しいんだと、信じています」
組織の言い成りになって動くのなら、人間じゃなくてロボットでも出来る事だ。
「正しい」のは、そうじゃない。人間は、自分が正しいと思った事をするからニンゲンなんだ。
だから俺は、自分の行動に胸を張る。
「よっし!」