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ネメシス、強襲

 ホウオウグループ支部施設、正面ゲート。

 そこでは、激しい戦闘が行われていた。

「くそっ、キリが無い!」

 押し寄せる機械兵の群れに、誰ともなく毒づいた。

 破壊しても破壊しても、際限無く現れるパニッシャーの群れ。無数の複眼が、まるで獲物に集団で群がる蟻を彷彿とさせた。

「嫌ぁっ! もう、嫌ぁー!」
「眞代、根を上げている場合じゃないわよ……」

 魔術で支援を行っていた眞代が、敵の多さに弱音を上げる。そんな彼女を叱咤するのは、同じ魔術遣いである樹利亜だ。

「無理よ、無理ぃ! こんなの、数が多過ぎるわよ!」
「無理でもやるのよ……ほら、他の構成員だって頑張ってるんだから」

 見渡せば、何人か彼女らと一緒にパニッシャーと戦う人影が見える。だがそれも眞代の瞳には、大挙して押し寄せるパニッシャーの群れには心細く映った。

 すると突然、ズンと地面が揺れた。

「っ――今度は何……?」

 振動はどうやら、建物内部で発生しているようだった。時折奥の方から、何かが爆発するような音が聞こえてくる。

「中はどうなっているの……?」

 ――・――・――

 施設内、機動兵器ハンガー。

 戦いは、施設内でも行われていた。

「くそ、これまずいんじゃないか……?」

 格納庫内で横倒しになった無数の機動兵器群の間を駆け抜けながら、リオトは思わず舌打ちをした。

 リオトが走り抜けた後を、炎の帯が追跡する。余程の高温なのか、機動兵器の装甲がぐにゃりと融解していた。

 物陰に身を潜めながら、リオトは自分が戦っている相手を確認する。それは、格納庫のすぐ天井近くを漂っていた。

「嫌な相手だ……」

 一見すると、それは人間のように見える。しかし、頭からは二本の角が生え、背中からはコウモリの羽に似た翼が生えている。その周囲を取り囲むようにして、六つの龍の頭の形をしたユニットが円を描いていた。

 人工神とは逆の発想から生み出された、破壊の化身。人工悪魔、サタン。

 それが、リオトが戦っている相手の正体だった。

 サタンがリオトの存在に気付き、六つのユニットを飛ばして来た。ユニットはそれぞれがまるで意思を持っているかのように飛び、リオトを包囲する様に向かってくる。

「まずい!」

 リオトは血相を変え、その場から飛び出した。と、それから遅れるようにして、彼が隠れていた場所を六つの炎の帯が襲う。ドラゴン・ユニットから発射された火炎であり、直撃箇所はまるでマグマの様に溶けていた。

「くそ……」

 じわりと、リオトの額に嫌な汗が浮かぶ。

 炎に照らされた天井から、人造の悪魔は無感情な瞳でリオトを見下ろしていた。

 ――・――・――

「はぁ……はぁ……」

 スイネが乗る車椅子を押して、サヨリは廊下を走っていた。本来はマナー違反であるものの、この緊急事態でそんな悠長な事を言っていたら命がいくつあっても足りない。

「サヨリ、一体何が起きているの?」
「どうやら、この施設がどこかから襲撃を受けているようなのです!」
「襲撃? アースセイバー?」
「いえ、どうやら彼らとは違うみたいですが……」

 壁が小刻みに振動し、遠くから爆発や叫び声のようなものが聞こえる。一体何が起こっているのか、彼女にはさっぱりだったが、

(似てる……)

 かつて自分達、千年王国がウスワイヤを襲撃した時。あの時の状況と今が、非常に似ていると彼女は思った。

 もっとも、今襲われているのは自分達だ。敵の正体は全く不明だが、ホウオウグループを相手にここまでやれるのだから、相当力を持った存在なのだろう。

 もはや、この施設内はすべてが戦場だ。戦闘能力を持たない自分と、手負いのスイネがうろついていていい状態ではない。そう思い、サヨリは閉鎖区画の避難シェルター目指して走る。

「見えた!」

 シェルターの入り口が視界に入り、思わずサヨリは声を上げる。残り数メートルの距離を駆け抜けようとして――

「――御機嫌よう」

 その途中にある脇道から、ゆっくりと、優雅に、一人の女性が姿を現した。

「え?」

 その姿を認め、サヨリは車椅子を停止させる。スイネは女性の姿を見て大きく瞳を見開き、息を呑んだ。

「どうして、貴女が……」
「どうして? 決まっているでしょう、ジングウとその関係者をすべて消す為ですわ」

 そう言って金髪碧眼の美女――ベガは微笑った。その笑みは冷たく、それでいて研ぎ澄まされた刃物のように美しかった。

「まさか、この施設を攻撃しているのは……」
「ええ。私と、その協力者達ですわ……もっとも、利害の一致から一時的に手を結んだだけに過ぎませんけれども」
「……本当に……ジングウさんが、憎いんですね……」

 ぼそり、とサヨリが呟いた。その声にハッとして、スイネが顔を上げる。そこには、唇を真一文字に結んだ彼女の顔があった。

 キュ、と床を鳴らしながら、車椅子が反転する。そして脇目も振らずに、サヨリはもと来た道を走り出した。

「逃げられるとでも?」

 二人の視界を霧が覆い隠す。周囲の景色が霧の中に溶けていくように見えなくなり、その変化に思わずサヨリはブレーキをかけた。

「これは……」
「あの時と同じ……!?」
「そう、その通り……これで、貴方達は籠の鳥と言う訳です」

 あくまで優雅に、ゆっくりとベガが歩み寄ってくる。彼女が歩く度に、その長い金色の髪が揺れる。

「さぁ、ファスネイ・アイズ。まずは貴女ですわ……死になさい。神は一人で十分よ」

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最終更新:2012年11月15日 19:41