他者の笑顔こそが奇術師の全てだ。
奇術師自身の信条であり、生物兵器に許された唯一の望みであり、かれの存在意義である。
雌鶏は卵を産まねばならない。咲かない向日葵は愛されない。
奇術師は、望みを叶えるためにつくられた。
次回公演の準備に追われる
舞台裏。
虚空に向かって腕を振ってみる。
その手に剣を持っていないのは、だれも望んでいないからだ。
「
パター、何してんだ」
「ううんユキじい、なにもしていないのさ」
望みを叶える兵器が、気づいていない筈がない。
サーカスに来る客が見たいのは、"ただの奇術師"であることを。
新しい居場所の同僚達が望むのは、"生物兵器"ではないことを。
だから奇術師は、兵器として"奇術師"を演じるのだ。
「おい、次公演すぐだぞ。いけるか」
「とうぜんさ!」
「……大丈夫か?」
「なにがだい? そっちこそ、元気がないんじゃあないかい?
さっきの、えーと、
ジングウのせいかな?」
「……あー、大丈夫ならいい」
ただ……それらは、生物兵器を生んだ"望み"の強さには、較べるまでもなく小さかった。
だからその願いたちは、本当の意味では叶えられていなかった。
やはり、奇術師は気付いていないのだ。
塵の願いは気に留まらない。
だがいつか、長い永い時を経て、塵も集まれば星となるだろう。
奇術師は、願いを叶えるためにつくられた。
「……そう、ジングウの願いが、本気じゃあなかっただけさ」
「なにか言ったか?」
「なんでもないよ!ほら、時間だ!」
"サーカスの奇術師"
あの
来訪者は、サーカスの奇術師をどう思っただろうか。
変わりつつある兵器を、欠陥ありと棄ておくだろうか。
もしも彼が、奇術師の変化を興味対象として"期待"するなら……。
また一粒、塵は星へ近づくことになるのだろう。
最終更新:2012年12月31日 22:51