「許さんぞ、
ジングウ―――ッ!!!!」
『!? 戦闘領域に内、無数の熱源が出現しています! 気を付けて下さい!』
「了解!」
サヨリの警告に応えた瞬間、
ロイド達の足元が、否、彼らがいる廃墟が爆発した。
「つぅ――ッ!!」
ミューデの身体を庇いながら、その爆発に巻き込まれないよう、ロイドは廃墟から転がり出ていた。その隣を、ほぼ同じタイミングで飛び出したイマの身体も滑っていく。すぐさま体勢を立て直すと、ミューデを支えながら、ロイドは廃墟の方へと視線を向けた。
「……おいおい、何だ、その悪趣味なのは」
一瞬、自分の身体が小さくなったのだと錯覚してしまった。
砕け散った廃墟の中から現れたのは、巨大な蟲だった。サソリ、クモ、カマキリ、クワガタムシ、ミミズ。それぞれがそのままスケールアップし、更に子供の落書きみたいに余計なモノが追加されている。例えば、サソリは元々以上に全身に鋭利な突起を備え、まるで全身で何十本もの槍を構えているようであったし、ミミズに至っては、元々柔らかくぬめりのある柔肌に覆われている筈なのに、黒光りする装甲に全身を覆っており、口に当たる部分には鋸みたいな歯が備わっていて原型を留めてすらいない。
サソリの背中に、ムカイの姿があった。自分の頭からターバンを剥ぎ取り、ボサボサの髪を剥き出しにしている。その瞳がレンズの向こうで、怒りと歓喜で爛々と燃えているのがロイドには見えた。
「私の自信作、大型昆虫生物兵器の実験台にしてくれる! 行け! 私の可愛い作品達よ!」
ムカイの号令に従い、五匹の巨蟲達が襲い掛かる。
「うわあぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
アッシュ達のチームを、足元から大ミミズが襲い掛かる。
「ぐあっ!? な、何だこいつは!?」
「きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
「で、でかっ!?」
ドグマチルドレンに、大クワガタムシが飛び掛かる。
「うわ、こっちにも来た!?」
ロイド達に向かって来たのは、大サソリだった。毒槍の備わった尾を振り回し、鉄板でも真っ二つに出来そうな両腕の鋏を打ち鳴らしながら躍りかかってくる。
「ちっ……」
応戦しながら、ロイドは舌打ちをした。この反撃で、ムカイの姿を見失ってしまっていた。匂いで追尾しようにも、彼らが潰した蟲の体液の臭いが強過ぎて、それも敵わない。
「おい、残りの二匹はどこへ行った!?」
「クモは
クルデーレさん達のところへ。カマキリはパラボッカさん達のところへ行ったみたいです!」
「ちぃ……」
最悪だ、と悪態をつきそうになるのをロイドは堪える。これはまだ、予想の範疇内だ。ムカイが大型の生物兵器を持ち出してくるのは、まだ計画内。
『覚悟しておいてください、皆さん。おそらくムカイは、我々の襲撃に際して虎の子である大型の昆虫兵器を使う筈です。それらの戦闘能力は、我々ホウオウグループの機械兵器に勝るとも劣らない戦闘能力を有している……絶対に、一人で立ち向かうような真似はしないでください』
巨蟲は厄介。そう、事前に伝えられていたのだ。いざその姿を目の当たりにしたからと言って、それに圧倒されている場合ではない。
「やるぞミュー坊、イマ!」
「了解!」
「あいよっ!」
愛用の仮面を被り直しながら、ロイドが叫ぶ。それに対し、後ろで二人が力強く応えた。
振り下ろされるサソリの鋏をかわしながら、取り囲むように包囲し、一斉に各々の攻撃を当てる。しかし、有効打にはならない。分厚い外殻はイマが吐き出す火炎弾を防ぎ、ミューデの高温も低温も寄せ付けていない。
「ちっ、ニードルも駄目か」
弾かれる弾丸の上げる火花に、ロイドは眉を顰める。すぐさまニードルガンの機械腕を外すと、巨大な爪の備わった新しい機械腕に換装した。
「だったら、こいつならどうだ!」
ヴン、と言う駆動音の直後、ロイドの右腕は小刻みにブレ始めた。暗闇の中、残像を伴いながらそれは震え続ける。
「そらあっ!!」
自分に向かって突き出された鋏をかわし、ロイドはサソリの腕目掛けて右腕を振り下ろした。
たった一撃。しかしその一撃は、それまでの事が嘘であるかのように、易々とサソリの左腕を切り落とした。
超振動と単分子。チェーンソーの破壊力と、日本刀の鋭さを組み合わせた結果だ。頑強なサソリの装甲でこれなのだ。まさにそれは、人間をバラバラに切り刻む人食い虎の一撃だった。
「効いた!」
「俺に続け、二人とも!」
ロイドが駆け、右腕を振る。サソリの装甲は裂け、爆ぜ、ズタズタに引き裂かれていく。
苦痛に悶えるようにサソリは残った右腕を出鱈目に突出し、毒液を撒き散らしながら尾を振り回す。しかし、当たらない。獣の速さで、或いはそれ以上の魔獣の速さで動くロイドを、捉える事が出来ない。
「くらえぇい!!」
「それっ!」
ロイドに傷付けられた場所を狙い、イマとミューデの攻撃が炸裂する。装甲に入れられた亀裂を起点にして、二人の攻撃が確実にサソリを追い詰めていた。
「バレット2、バレット3! フォーメーションを整えて!」
『了解』
奇襲を受けたアッシュ達も、体勢を立て直して反撃に移っていた。地中を縦横無尽に移動するミミズに対して、チームワークを活かした連携攻撃によって対抗している。
「おい魎! そのデカブツの動きを止めるのは任せたぜ!」
「ああ。そっちもしくじるなよ?」
「はっ、言ってろ!」
「リキに続くよ、
ブラン!」
「うんっ!」
チームワークならば彼らも負けていない。四人を押し潰そうと迫るクワガタムシを、魎の下半身に備わった万力の様な腕がその顎を抑え込む。クワガタムシの膂力はそれを引きはがそうとするが、機械仕掛けの下半身はモーターを唸らせ、六本の足で地に根を張り、二本の剛腕によって怪物の身体を封じ込めている。
そうして出来た相手の隙を、三人は見逃さない。リキのジェットハンマーがクワガタムシの頑強な装甲を食い破り、その場所へ続けて
レンコとブランの攻撃が炸裂する。
巨蟲達は強敵だ。だが、決して勝てない相手ではない。
我らはホウオウグループ。我らは千年王国。
鳳凰の眷属たる我らを、虫けらごときで阻めるとでも思ったか――!!
『うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!』
すべての武器を失ったサソリが、地面に崩れ落ちた。
ミミズの巨体が地面から引き摺り出され、晒し者になった。
クワガタムシは自慢の大あごを、その身もろとも打ち砕かれた。
八つの足を折られ、クモは全身を引き裂かれて果てていた。
カマキリはその両腕で何者の命を奪う事もなく、力尽きていた。
「は……倒せたか」
周囲を見渡し、一息つくようにロイドは息を吐いた。
五匹の強敵を相手に、しかし千年王国の人員は健在。誰一人として欠けてはいない。それはもう、これ以上の犠牲は出さないと言う彼らの気迫のようにも感じられた。
「流石ですね。いくら巨大であるとは言え、蟲で不死鳥は倒せませんか」
『!?』
全員が一斉に、声のした方を向く。そこに、木の枝に腰掛けて座っているムカイの姿があった。
さっきまで激昂していた人間と同一人物とは思えない程、彼の様子は落ち着きを取り戻している。否、それを言うならむしろ『余裕』か。虎の子である筈の巨蟲をすべて倒されてしまったと言うのに、彼の表情には全く焦りの色は無かった。
「……大した余裕だな。てっきりもう、逃げたものだと思ったが……」
「大事な生物兵器の実戦投入ですから、ちゃんと観察しておきたかったんですよ」
「そうかい。だがな、生憎と失敗だったみたいだぜ? おたくの自慢の蟲達は、みんな俺達に負けちまった」
「次はお前の番だ」。ロイドが右腕の爪を突きつける。しかし、ムカイの顔には余裕の笑みが浮かんでいた。
「ええ、そうですね。蟲では不死鳥に敵わない……だったら、もっと強力な生き物になればいい」
「何?」
ロイドが首を傾げるのと、異変が起きるのは同時だった。彼のすぐ傍で、倒れて動かなくなった筈のサソリが起き上がったのだ。
「何!?」
「そんな、止めを刺した筈なのに!?」
サソリだけではなかった。他のチームが倒した蟲達も、同様に再び動き出していた。眼を赤く輝かせ、傷口から体液が零れるのも構わないかのように、巨大な蟲達が立ち上がる。
ロイドの言葉にムカイは答えない。ただ、不気味に哄笑を漏らすばかりだ。
「まぁ、黙って見ていろよ。面白い物が見られるぞ」
サソリが、ミミズが、クワガタムシが、クモが、カマキリが。
生ける屍と化したそれらが、お互いに一カ所へと集合していく。
そして、目も背けたくなるような光景が始まった。
「こいつら……」
「融合……している……!?」
バキリバキリと、骨の砕けるような音が鳴る。
グチャリグチャリと、肉の弾ける音が聞こえる。
一カ所に集まった蟲は、お互いを喰らい合い始めた。互いの肉と肉と合わせ、そこから癒着していく。まるで粘土細工の様に、五体の身体が混ざり合い、融け、捏ね、砕け、一つの形を造っていく。
そして誕生したのは、この世のものとは思えない醜悪な怪物だった。
「■■■■――――ッッッッ!!!!」
大気を震わせ、怪物が吠える。もはやそれは、「蟲」などと言う言葉など不適当と思えるまでの異形。例え神でも、ここまで悪趣味な生命体は産み落としたりしないだろう。
凶眼、凶面。頭部のベースとなっているのは蜘蛛であろうか、八つの眼が赤く光っている。胴体部分からはクワガタムシの顎が飛び出し、その両腕からはカマキリの刃が伸びている。腹にあたる場所からは八本の足が生えており、そこからおそらくミミズのものであろう長い胴体が、まるで大蛇のように伸びている。
「さぁ、第二ステージの開幕です!」
ムカイが眼鏡を押し上げながら、芝居がかった調子で言う。それに従うように、合体した魔蟲は再び咆哮した。
「みんな気を付けろ――来るぞ!」
ロイドの号令で全員が身構えるのと、怪物がこちらに向かって来るのはほぼ同時だった。
≪蠱毒の皿の上で・前編≫
(そこは戦場と言う名の皿)
(生き残れるのは、)
(もっとも優れた者だけである)
――to be Conthinued
最終更新:2013年08月23日 20:01