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運命交差点・螺

ただ、それだけ」に続きます。ちょっと短いです。



長久の口にしたその名前に、スザクは一瞬固まっていた。
カチナ。その名は、忘れようもない。
かつてと言うほどでもない以前、他でもない自分を死の淵に追いやった少年。

「あいつが……!?」
「ああ。本当の名前は蒼介。オーナーの、甥っ子だよ」
「甥っ子……?」

その時の彼女の心境を現すならば、複雑、という形容がぴったりくるだろう。
カチナはスザクにとっては、倒すべき敵。しかし、情報屋の彼らにとっては、守るべき存在なのだ。
そして恐らくは、UHラボの被害者の1人。

「……あんたにとっては、許せない相手だろうな。だが、俺達、特にオーナーにとっては、何にも代えがたい存在なんだよ」
『なんだよね。……許せとは言えないケド、せめて危害は加えないでやってくれないかな』
「…………」

少しの沈黙を置き、スザクは口を開いた。

「……カチナ……蒼介? そいつが、僕達に手を出さない限りは、僕も何もしないよ。少なくとも、今はね」
『そう言ってくれると助かるよ。……けど、なあ』
「奴を何とかしないと、話が始まらん」
「奴っていーうのは?」

奇妙に間延びした口調で、理人が割り込んで来た。

「もーしかして、僕がロッギー君から聞ーいた、あのセラとかゆー男かね?」
『! その通りだよ。知ってたのか』
「いーま言っただろう? ロッギー君から聞いたのサ」

本気か冗談かわからない、さっきまでの怒りの様相を微塵も感じさせない道化の笑みを浮かべて、理人はしゃくっ、と歪に切られたリンゴを食みつつ、足を組み替えた。
冷静に考えれば訪ねてきた側としてかなり失礼なのだが、今それを気に掛ける者はいない。

「……あんた、ロッギーからどれくらい『聞いた』?」
「だーいたい全部かな? その蒼介ってコがこーっちに連ーれて来らーれて、そーれからセラって奴がつーれて行ったトコまでは」

大雑把だがまさしく全てだった。

『……それだけ知ってるなら話が早いね』
「ああ。奴……セラは、蒼介を『命令』で連れ出した。俺達は、その時暴れ出した蒼介にやられたんだ」
『蒼介は、命令でしか動けないみたいだった。あいつが、「邪魔する奴は全員潰せ」って“命令”したから、多分それで……』

アーサーの呟きには、スザクが応じる。

「……確かに、初めて会った時も自分のこと、命令を聞く兵器だってブツブツ言ってたな」
「……連中のやりそうなことね」

はあ、と嘆息したのは京だ。スザクや理人ほどではないにしても、彼女もラボには因縁がある。

『セラについては、アーサーも僕も資料で見たけど……人間のやるコトじゃないよ、あれ』
「連中は自分の研究にしか関心のない、悪い意味でのマッドサイエンティストの集まりだからな。一体何を考えてるんだ……」

スザクの呟きには、誰も答えを持っていない。

「……いずれにせよ。コトはまだ、始まったばかり……あるいは、始まってすらいないのかも知れません」
「なら、始めるだけよ、アン。ラボの残党……『失われし工房』だったかしら? それを追うのが、さし当りの近道だと思うわよ」
「わかりました」

現状、カチナこと蒼介を連れ去ったセラがどこに行ったのか、その背後に何があるのかはつかめていない。
情報屋の面々にしても、今は外しているハヅルを含めて、目下調査の最中だという。

「……それで、理人君だったかしら?」
「んー?」
「あなた達は、協力者として見ていいのかしら?」
「そーれで結構。雨里さーんは?」

言われた京は少し考え、こう言った。

「……あのコはダメよ。単に特殊能力が使えるだけじゃ、いざと言う時に大変だもの」
「確かに。失礼ながら、実戦慣れしているとはお世辞にも見えませんでした」

つまりは参戦却下。雨里本人も理人も、予想済みの結論だけに驚きはしない。

「ま、そーでしょーな。でーは、本人にはそーう伝えときましょー」

さて、とリンゴ、最後の一つを嚥下し、理人は立ち上がって長久とアーサーを見る。
不意に、口調を変えて。

「僕はこれから独自に連中を追うよ。何かわかったら連絡する。これがアドレスだ」

半ば一方的に、長久にメモ用紙を押し付ける。

「……わかった」
「慌ただしくて済まないね。何はともあれ、まずはその蒼介君を取っ返すのが先だ。連中を潰すのは、その後でも十分に間に合う」

潰す、という部分にだけ、わずかに憎悪が滲んでいたが、それも一瞬。
すぐにいつもの道化笑いに戻ると、理人は「それじゃー、まーたー」と間延びした口調で言い残して情報屋を出て行ってしまった。

『……騒がしいというか、何というか』
「アーサー、ロッギー、あれは気にしたら負けだと思うぞ」

ともあれ、と長久は気を取り直して続ける。

「ラボの連中も、セラって奴も、見逃すわけにゃいかねえ。自分が何をやったのか、思い知らせてやる」

ぐっ、と痛むほどに拳を握りしめる。
そんな彼に続くように、スザクも口を開く。

「……僕達の気持ちや考えはわからないって、さっき言いましたよね。僕も、あなた達の気持ちは、本当には理解できないと思う」

けれど、

「少なくとも、僕やゲンブ、あの理人みたいな人間にとっては、ラボの残党がいる限り、過去が過去にならない。終わらせないと、僕らは今を歩けない」

だから、

「どれくらいのことが出来るかわからないけど……僕も、力になりたい」

赤い瞳は、決意を宿して燃えていた。






――― 一方、その頃。


「ここか……ここに、いるのか……」

ある家の前に、佇む影一つ。
憎しみに濁ったその目は、中にいるであろう標的の姿を捉えていた。

「マナの姿を奪った、あのまがい物が……」





運命交差点・螺



(その導く先には……?)


アン・ロッカー」「アーサー・S・ロージングレイヴ」「久我 長久」をお借りしました。

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最終更新:2013年12月03日 20:35