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天帝の印

 天帝の印

都シスイを捕獲したい、だと……?」
「ええ、そうです」

 私からの申し出に、ゼアは顔をしかめた。

「捕獲と言うより、彼を我々の側へ引き入れたいと言う話なんですがね」
「それで一体何のメリットがある? 「天子麒麟」とか言ったか、奴の能力は。リオトやトキコからの報告で前から知っていたし、お前の寄越した戦闘データからもそれなりに強力な能力者だと言う事も分かった。だが、同系統の能力者としてなら、トキコの方が戦闘能力において数段上だ。アースセイバーから引き抜いてまで欲しい能力者とは思えないが……」

 私の意図が読めないらしく、ゼアの眼差しが私の腹を探ろうとしているのがよく分かる。
 もっとも、簡単に尻尾なんて出してやりませんがね。

「答えは簡単です、彼が「麒麟」だからです」
「何?」
「ゼア……貴方は「麒麟」と言う生き物について、どこまで知っていますか?」
「…………」
「麒麟は幻獣……龍や鳳凰、四聖獣と言った瑞獣に分類される生き物です。その出現は吉兆を表しますが……一方で、麒麟が持つ「徳性」はそれだけではありません。麒麟は天帝の印です」
「天帝の印……だと?」
「中国の伝承において、麒麟の出現は仁徳のある王の誕生の象徴とされ、そして麒麟は王に相応しい者を選ぶとされています。麒麟は天帝、つまり俗世間で神と呼ばれているモノが、その地を治めるに相応しい者だと定めた証なのですよ」
「……何が言いたい?」
「……いずれ、この世界すべての覇者とならんとするホウオウ様です。それに仕える者として麒麟の力を持つ者がいるとすれば……それは王たる証だとは言えませんかね?」

 私の言い分を一通り聞き終えて、ゼアは顎に手を当てて少しの間考えているようでした。私は静かに、ただ彼の返答を待ちます。

「……お前の言い分は分かった。ホウオウ様自身に関係する話だ、私から直接進言しておこう」
「おお、ありがとうございます」

 私はわざとらしく――じゃなかった、恭しく頭を下げるとその場を後にする。やれやれ、メイド服でなければ、もう少し様になったんですがね。

「終わりましたよ、サヨリさん」
「ああ、そうですか」

 部屋を出ると、廊下でサヨリさんが私を待っていました。

「どうでした?」
「一応、聞き入れてくださったようです」
「はぁ、珍しいですね。ゼアさんがジングウさんの意見を聞くなんて」
「……それは一体どう言う意味でしょうかね、サヨリさん? 直接、そのポジトロンな頭脳に問いただしましょうか?」
「じ、事実を言ったまでじゃないですかー!」

 私が指をワキワキさせながら迫ると、サヨリさんはその分私から距離を取ります。やれやれ、大分パターン化してきましたねぇ、この子の反応も。

「コトがホウオウの存在に箔をつける事にも繋がりますからねぇ。ホウオウグループにとって決して無利益な話ではありませんから、ゼアとしても思うところがあるんでしょう」

 ……ま、私の意図を読みたい、或いは、意図が読めないから様子見ってのが、本音なんでしょうけど。

「で、ジングウさん。その都シスイって子を私達の仲間にしようなんて、突然どうしたんです? 私も戦闘データを見せてもらいましたけど、その子って確か、ジングウさんを負かした相手じゃなかったでしたっけ?」
「ええ、そうですよ」
「普通そう言う相手って、復讐したくなるもんじゃないですか?」
「それについては一理ありますが、だからと言って自分の利益にならない行動を選択するようでは、器の程が知れますよ」

 そう私はサヨリさんに言って聞かせますが、彼女は「はぁ、そう言うものですかねぇ」と、イマイチ私の言いたい事が分かっていないようです……まぁ、此間もそうでしたけど、実質「生まれたて」である彼女には、そう言う話はまだ難しかったですかね。

「つまるところ、シスイって子を味方に引き入れようと言うジングウさんの進言。貴方には一体どんな意図があるというんです?」
「分からなら直球ですか。ま、私と違って素直でよろしいんじゃないですかね……つまるところは――」

 そこで区切ると、私は振り返ってサヨリさんの方を向く。人差し指を立ててから思いっきり思わせぶりな態度を取ると、

「ただの、暇潰しです」

 そう、言い放った。




「……は?」
「暇潰しですよ、暇潰し。池に小石を放り込んで波紋を作るようなものですよ」
「そ、そんな事の為にゼアさんのところへ意見しに行ったんですか……?」

 呆れたように、がっくりとサヨリさんは肩を落とす。あらあら、この子ったら私に一体どんな期待をしていたんですかね。

「ゼアはホウオウに直接進言するような事を言っていましたが、十中八九却下でしょうね。あの男は「神」と名の付くモノは大嫌いですから。『神に決定などされずとも、私が絶対者だ』とか言うでしょうね、きっと」
「きゃ、却下されると分かってて、ゼアさんに意見したんですか?」
「ええ、まぁ。それに、もし意見が通って都シスイをホウオウグループへ勧誘する事になれば、それはそれできっと楽しいですよ。何せ、「真っ白なモノを、真っ黒に塗り潰す」事になるんですから」

 トキコさんやリオト君の報告で読ませてもらいましたが――まぁ、この都シスイと言う少年は、実に興味深いパーソナリティを持っている。今時珍しい位の純真さと誠実さ、それに人一倍優しい性格の持ち主だ。流石は麒麟の加護を持つ人間と言うか、麒麟「そのもの」を彷彿とさせる人格です。彼を色で表すならば、「純白の白」ってところでしょうか。

 限り無く「灰色」が多いこの世界では、実に生き辛い存在です。もっと言えば絶滅危惧種ものだ。よくもまぁ、今まで生き永らえていたものです。

(価値観を百八十度変えさせられるような出来事と遭遇したとすれば、一体彼はどうするんでしょうねぇ……)

 真っ白な純白を汚泥のごとき黒に染め上げる。そこに生まれるのはどんな色なのか、実に、嗚呼、実に興味深い……

「……ジングウさん? どうしたんです?」
「おっと、私とした事が……」

 いけないいけない。楽しそうな事を考えると、ついついにやける癖はいい加減直さないと。これでは何時まで経っても不信がられて当然だ。

「お見苦しいところをお見せしましたね」
「もう見慣れましたよ。ジングウさんって、気味の悪い笑い方しかしないんですもの」
「あららら……そう言えば、レリックは一体どこへ行ったんです? 姿が見えないようですが」
「りーちゃんですか? あの子なら多分、ジングウさんのお部屋だと思いますよ」
「私の?」
「多分、ジングウさんのパソコンで色んな映像見ているんじゃないですか?」
「ふむ……」

 ……様々な映像を見る事は、レリックにとって悪い事ではない。あの子の成長を補助する一因になりますからね。ですが、「体験」に勝る学習は他にはありません。

「……そろそろ、外へ出る必要がありますね」

 レリックは、箱入り娘になっては困ります。むしろ、外で裸足になってはしゃぎ回るくらいが丁度いい。そうでなければ、あの子のすべての「性能」が発揮される事はありませんから。

「サヨリさん、明日は施設の外へ出ますよ」
「え、本当ですか?」
「ええ。こんな穴倉に何時までもこもっていたら、カビが生えますから」

 心なしか、サヨリさんの表情が嬉しそうに見えますが、まぁ気のせいではないでしょうね。彼女は四六時中私を監視しているせいで、ここしばらくはお天道様と付き合いがありませんでしたから。

(……さてと。明日は何をしましょうかねぇ)

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最終更新:2011年02月24日 15:42