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リンカーネーション

スゴロクさんの「蒼井 聖」、「水波 ゲンブ」、遊び盛りの学生LV15さんから「ゼア」、プランクトンさんの「七谷 狂夜」をお借りしました!

 リンカーネーション

 雨が降りしきる中、一人の少年が路地裏で倒れていた。

 否、それは少女だったかもしれない。見る者次第で印象を変える、その人物は正しく「中性」と呼ぶに相応しい容姿をしていた。


「……な……」

 雨音に混じって、その者の声が聞こえた。か細く弱々しい声であり、ともすればその他の物音に掻き消されてしまいそうだ。

「み……な……て……ないで……」

 さっきから、同じ言葉ばかりを繰り返している。

「み……んな……捨て……ないで……」

 それは哀願だった。

 それは懇願だった。

「みんな……捨てないで……」

 心からの、切なる願い。それだけを、その者は求めていた。

「ミツは……失敗作なんかじゃ……ない……」

 虚ろな瞳には、何も映っていない。ただ、その身体の上を流れていく雨が、まるでその者の涙であるかのようだった。

「だから……捨て……ない、で……」

 壊れたレコーダーのように、同じ言葉ばかりを繰り返していた。

 ただそれだけを、求めていた。



「やれやれ、まさかこんなものを見つける事になるとは」

 培養槽の中に浮かんでいるその人物を見て、私は思わず呟いた。

 手足を折り曲げ、まるで胎児のような状態でその人物はいた。私の主観では少年に見えるが、正直のところどちらなのかは判断がつかない。呼び辛いので便器上「彼」と呼称させてもらうが、「彼」におそらく性別と言う区別の手段は無用なのだろう。一体何を思ってこんな風にデザインしたのか、私には理解しかねる。

ジングウさん、その子の具合はどうですか?」

 扉が開き、サヨリさんとレリックがやって来ました。レリックは余程培養槽の中の人物に興味があるらしく、部屋に入ってくるなり一目散に水槽の中を覗き込もうとしています。

「ぐー、このこ、ねてる」
「そりゃそうですよ。無理矢理起こしては可哀想ですから、そっとしておきなさい」
「はーい」
「……しかしジングウさん、なんだってこの子を連れてきたんです?」

 そう言って、サヨリさんは苦い表情を浮かべる。まぁ例のごとく、無茶を押してラボを再び機能させた事を気にしているのでしょう。そんな些細な事を気にしていたら、大物にはなれませんよ。

「何で連れて来たのか……当てて御覧なさい」
「……暇潰し……ですか?」
「イエス、オフコース」

 私がそう答えると、がっくり、とサヨリさんは肩を落とした。はっはっは、私とサヨリさんの信頼関係も、ついに阿吽の呼吸の域にまで達した、と言う事ですねぇ。

「……ジングウさんって、頭が良い割にワンパターンですよね……」
「どう言う意味ですか、それ?」
「分かってる癖に……」

 はっはっは……ま、冗談はこれ位にして。

「私の感情は別にして、「彼」を見殺しにするのはグループにとっては紛れも無い不利益ですよ。ただでさえ現状は、ノルンにノアと言う、二人も優秀な構成員を失っているのですからね……それに、「彼」は廃棄処分されたとはいえ、グループの所有物です。その所有物を回収したのですから、別に私は何も悪い事はしちゃいませんよ」
「はぁ……」
「あ」

 その時、レリックが突然声を上げました。一体何だろうと思い、そちらへ振り返ると――

「あ……」
「どうやら、眠り姫がお目覚めのようですね」

 培養槽の中に浮かんでいた「彼」が、目を開けてこちらの方を見ていました。その表情には、状況が理解出来ずに怯えている色が見えます。

「心配なさらずとも、結構ですよ。DS-X001……おっと、貴方はBD-32の呼称の方が好みだったですかね、「ミツ」さん」
「!」

 ゴボリ、とミツさんの口から空気の泡が出る。驚く事も無いでしょうに、貴方の基礎設計を行ったのは私なのですから。

「お帰りなさいミツさん。そしてようこそ、ホウオウグループへ」





「どうぞ」

 サヨリさんがお茶を差し出すと、ミツさんは軽く会釈を返した……ふむ。一般的な教養は身に着いているようですね。

「……あの、貴方達は一体……?」
「これはこれは、自己紹介が遅れました……私はジングウ。このグループに寄生虫している身です」
「……ジングウさん?」
「ぐー、きせいちゅー、ってなに?」
「上京している人間が、故郷に帰っている時の事です」
「いやいや、今イントネーションが明らかにおかしかったですよね?」
「いやだなぁ、ただのジョークではありませんか」

 そんな風に何時も通りの漫才をやっていたのですが、私は見逃しませんでした。ミツさんは私の名前を聞いた途端、表情が変わったのです。

「ジン……グウ……ミツを作った人間の一人……」
「え? この子、ジングウさんが作ったんですか?」
「基礎設計だけですよ。それをゼアに渡した直後で、「前の私」は死んでいますからね。完成体としての「彼」を見るのはこれが初めてです」
「……じゃない」
「はい?」

 何やら、ミツさんが言ったように聞こえた。ただ、か細く小さな声だったのでよく聞こえませんでした。

「何です?」
「完成体……じゃない。博士がちゃんと作ってくれなかったから……」
「……聞き捨てなりませんねぇ、それ。私がヘマをやったとでも言うのですか?」
「……博士がちゃんと作ってくれていれば、ミツはみんなに捨てられる事も無かった……」

 ……なるほど、それが貴方の言い分ですか。

 まぁ、それはある意味一つの真理です。先天性の身体障害者の中には、「なぜ自分をこんな身体に産んだのだ」と思う人が少なからず存在します。ミツさんが言っている事は、正しくそういう事だ。「なぜ欠陥品として自分を創ったのだ」。「彼」はそう言いたいのです。

 確かに、そう言いたくなるのも無理はありませんね。創られる側には自分の意志を反映させる事が出来ない。ただ、創造者が創りたいように創られるしかありません。そして欠陥品として産み落とされたなら……なるほど、創造者に対して恨み言を言いたくなるのも分からなくは無い。

 ただ――それは「半分」正解に過ぎない。

「……やはり貴方は、欠陥品ですね」
「……え?」

 私が言った言葉に驚いたのか、サヨリさんが固まった。そしてミツさんはと言えば、それに反応するようにピクン、と肩を震わせた。

「じ、ジングウさん、突然何を……」
「分からないのですか、サヨリさん? まぁ、実質ロールアウトし立てである貴方なら分からなくても当然でしょうが――ミツさんは欠陥品ですよ、能力以前の問題で」

 その瞬間、ミツさんがガタンと椅子を倒しながら立ち上がった。サヨリさんが止める間も無く、「彼」は私の胸倉に掴みかかってきた。

「ミツは……ミツは何も悪くない……!」
「…………」
「ちょっと! ミツさん、落ち着いて!」
「博士が……博士達がミツを完璧に作ってくれていれば、ミツは捨てられたりなんかしなかった……!」
「ミツが完璧だったら、みんなに捨てられる事なんか無かった!」

 ――ああ、なるほど。

 ミツさんは自分が不完全な者に生み出された事に憤ってんじゃない。不完全だったが為に捨てられてしまった、その事が許せないのか。

「……その言葉、「彼ら」に面と向かって言えますか?」
「……え?」
「「彼ら」は妥協や手抜きを一切しない人達でしたよ。やるからには、その時出せるすべての力を注ぎ込み、その時作れる最高のモノを作る人間達でした……まさか貴方、それを知らなかった訳じゃないですよね?」
「……それは」
「確かに、職人が生み出した物が欠陥品であったなら、それは職人に責任がある……ですが、貴方の言い分は何ですか? 貴方を傑作品として生み出そうと努力したにも関わらず、その努力を無視して「ちゃんと創れなかったお前達が悪い」と?」
「あ……う……」
「甘ったれるのもいい加減にしなさい」

 私がそう言うと、ミツさんの手から力が抜けた。「彼」は崩れ落ちるように床に膝をつき、俯いたまま動かない。やがてその身体が震えだし、啜り泣き声が聞こえ始め、ついには慟哭へと変わった。





「ちょ、ちょっと、ジングウさん……」

 その時、サヨリさんが遠慮がちに話しかけてきました。

「サヨリさん、私が言った言葉に何か間違った事でも?」
「そりゃ、ジングウさんの言い分は正しいですけど……」
「ならば、良いではありませんか」
「いや、もう少し空気を読んだ方が――って、わー!!」

 すると、突然サヨリさんが声を上げてミツさんに駆け寄った。何事かと思えば、青白い光の剣を顕現したミツさんが自分の首を切ろうとしており、サヨリさんはそれを必死になって止めようとしていたのです。

「は、離してください……! ミツは、ミツは……!」
「命を粗末にしないでください! とにかく、その剣引っ込めてー!」
「ミツは欠陥品です! いても意味は無いんです! だから、だから……!」

 ……やれやれ。自分が欠陥品である事を認めた途端、今度は存在意義を失って自己破壊へと走りましたか。

 それもある意味正解……ですが、やはり「半分」間違いです。

「だから甘ったれだと言うんですよ」
「う……?」
「私は、「貴方が欠陥品である原因を生みの親に押し付けるな」とは言いましたけれどもね……「自分が欠陥品である事を認めろ」とは、一言も言ってないですよ」
「い……一体、何を……」
「確かに、道具としての欠陥品に用は無い。創造者が求めた役割に応じた働きを示してこその道具ですからね。目覚まし時計として作ったのに、その働きをしない目覚まし時計に意味は無い……ミツさんの場合は、龍儀真精を完全に再現した能力を必要とされたが、貴方に宿ったのは外見を真似ただけの粗悪な贋作でした。だから、廃棄処分にされた。それは不良品の目覚まし時計を捨てる事と同じです」
「…………」
「……ですが、貴方と目覚まし時計とでは決定的に違う事があります」
「え……?」
「道具は、自分の在り方を選ぶ事が出来ない。それはなぜか――彼らには選択肢が無いからです。自分で考え、自分で行動する事が出来ない。だから選択肢が無い……だけど、人間はそうじゃない。この世に在って唯一人間だけが、自分の生き方を選ぶ事が出来、自分が何者であるかを決定する事が出来るのです」

 様々な要素によって人は自分が何者であるかを決定付けていますが、最終的に自分が何なのか、それを決定するのは自分自身の意志に他ならない。それは決して他人などではないのです。

「ミツさん……貴方は、不良品になりたいのですか? 不良品でありたいのですか?」
「み、ミツ、は……」

 ミツさんはしばらく黙っていましたが、やがて口を動かしました。

「……ミ……ツは……」
「はい?」
「ミツは……不良品なんかじゃ、ない……! ミツは、ミツだ……!」

 それはか細く小さな声でしたが、私には魂の叫びであるように聞こえました。

(そう……それでいいのです)

 その叫びは誰にも間違いであるとは言う事は出来ない。例え神であれ、ホウオウであれ、そして私であれ、その言葉を否定する権利は誰にも持ち得ないのです。

「……さて、ミツさんの本音が聞こえたところで、行きましょうか」
「え。行くって、どこへです?」

 私の言葉に、サヨリさんが首を傾げた。

「口にして言うだけなら誰にでも出来る事ですよ。「言うだけならタダ」。ならば、言葉をどうやって本物にするのか、それは行動によってです」
「で、ですからどうやって……」
「おそらく、今頃ストラウル跡地でアースセイバーとの戦闘が始まっている頃でしょう」
「え゛。な、何でアースセイバーと戦闘なんか……」
「まぁ、行って見れば分かる事です」

 私はミツさんの方へと振り返った。

「行きましょう、ミツさん。そして証明するんです。自分が欠陥品などではないと言う事を」





「――くそ、まさか罠だったとはな!」

 物陰に身を潜めながら、ゼアは攻撃をかわしていた。

 敵は二人。だがそれは、アースセイバーでも屈指の戦闘能力を持つ蒼井聖と水波ゲンブの二人だった。龍儀真精と全く同じ能力である「龍の悪夢」を持つとは言え、ゼアでも苦戦を強いられていた。

「狂夜、そちらは無事ですか!?」
「ああ、大丈夫だ!」

 ゼアがいる場所のほぼ反対側には、狼人間の能力を持つ七谷狂夜がいた。身体強化系の能力を持つ彼は比較的高い戦闘能力の持ち主であったが、距離を離しながら豊富な火器によって相手を圧倒する戦闘を行う聖が相手では、相性が悪かった。距離を詰めようにも、雨のように降り注ぐ銃弾が相手では分が悪い。

 二人がなぜこんな所にいるのかと言えば、ノルンとノアの抹殺の為だ。数時間前、この場所で二人の姿が見られたという情報が入り、場所としても暗殺には丁度良いという判断からゼア達はストラウル跡地へと赴いた。

 しかし、実際はアースセイバーが仕掛けた罠だった。ノルンとノアを消しにかかるであろうと判断し、偽の情報を流す事でホウオウグループのメンバーを誘き出す事にしたのだ。

 結果はご覧の有様。我が事ながら軽率であったと、ゼアは内心で毒づいていた。

「何とか、隙を見てこの場から撤退しなければ……!」

 しかし、状況は劣勢。アースセイバーは、何が何でもこの二人を捕らえるつもりでいた。



「ほ、本当に戦闘が起きてるー!?」
「あらら、やっぱり罠でしたか」

 ゼア達が窮地に陥っている中、私達はその戦闘風景を一望出来る廃ビルの中にいました。廃墟街を揺るがす、凄まじいまでの爆音が聞こえます。な戦闘手段を武器に大きく依存する反面、無尽蔵に武器を呼び出す事が出来る……なるほど、蒼井聖の能力は実に厄介だ。

「水波ゲンブもいる辺り、聖の火線を突破してきたところを、彼が捕縛すると言った感じでしょうか。遠距離・近接双方対応。うまい布陣ですね」
「何冷静に言ってるんですか! このままだと、ゼアさん達やられちゃいますよ~!!」

 明らかにピンチであるゼア達の様子に、サヨリさんはあわあわと取り乱している。レリックはむしろ楽しげに戦場を見つめているし、ミツさんはと言えば、どことなく困惑した様子を見せていた。

「ぐー、すごいすごい! した、どかんどかん、いってる!」
「ジングウ博士……貴方は、これから一体何を……」
「何って、仲間を助けるに決まっているじゃないですか」
「ジ、ジングウさん! 貴方、ようやく組織の一員としての自覚を……!」
「ただし、ミツさんが、です」
「……はい?」

 サヨリさんは固まり、レリックはこちらを振り返って不思議そうな表情を浮かべ、そしてミツさんは驚いたような表情を見せていた。三者三様の反応が、そこにはありました。

「仲間がピンチ、敵は強敵……貴方の能力を発揮するには、お誂え向きではありませんか?」
「無理ですよ、ジングウさん! 敵は「サモンアームズ」蒼井聖に、「羅刹行」水波ゲンブですよ!? それをたった一人でだなんて……相手が悪過ぎます!」

 敵の戦力を前に、サヨリさんはそう言って止めに入る。
 確かに、敵は強敵だ。聖の能力はご覧の通りですし、ゲンブの能力も厄介です。

「……ですが、勝てない敵ではありません」

 そう言った瞬間、サヨリさんが目を見張ったのが分かった……貴方は一体、私の何を見てきたと言うのです? 私が勝てない戦を仕掛ける人間に見えますか?

 私は、ミツさんへと向き直った。

「行ってきなさい、ミツさん。そして証明しなさい。自分が不良品などではないという事を」
「……はい」

 大きくは無いが、明確な意志を備えた声。うん、いい返事です。

「それでは、始めますよ」

 そう言うと、私は右手を空高く掲げた。





「いい加減に降伏しろ!」

 絶えず重火器を放ちながら、聖は相手に向かって降伏を呼びかけていた。

 状況は明らかな優勢。敵は聖の攻撃によって手も足も出せない状態だ。この様子なら、ゲンブの出番もいらない。そう、彼は思っていた。

 だがその時、空に何かが現れた。

「ん? 何だ、あれは?」

 自分達がいる戦場の上空。そこに、密教に出てくる曼荼羅の様な図形が浮かび上がったのだ。

「あれは……まさか!?」

 その時、聖の隣にいたゲンブは、それが一体何なのか気付いたようだった。

 そしてその直後――

「う――わっ!?」

 光の雨が、二人に向かって降り注いだ。それは強力なレーザーの嵐だった。射線上にあるものを貫き薙ぎ払う。二人は咄嗟に回避行動を取り、突然飛んできた光の雨を避ける。

「ゲホッ、ゴホッ……なんなんだ、一体!?」

 舞い上がった砂煙に咳き込みながら、聖は一体何が起きたのかを確認しようとしていた。だが、舞い上がった砂埃のせいで視界が遮られ、周囲の景色すら見る事が出来ない。

 と、その時だった。ビシュン、と言う聞き覚えのある音が、聖の耳に聞こえてきた。それは、龍儀真精の技の一つ、幻龍剣が現れた時の音だった。

「まずい、ゼアか!?」

 咄嗟に機関銃を呼び寄せ、聖は音の聞こえた方へと向けた。

 すると砂埃の向こうから、何者かが近付いて来るのが分かった。青白い光が、ゆっくりと聖の方へと近付いて来る。

「な……」

 そして近付いて来た人物がはっきりと見える位置にまで来たところで、聖は驚いた。それはゼアではない、全く別の人物であったからだ。

「お前は……ミツ!? 一体、何でこんなところに――」

 聖の質問に、ミツは答えなかった。代わりに、「彼」は一瞬の内に聖の下へと踏み込んできていた。

「な――!?」

 引き金を引く暇など無かった。ミツの振る蒼い光の刃、「スキル:ソード」が聖の持つ機関銃を切り捨てていた。

「くそっ!」

 ガラクタと化した銃を投げ捨て、聖は新たな銃を虚空から呼び寄せる。だが構えた瞬間には、ミツは彼の眼前に姿を現していた。

「ちっ!?」

 一閃。再び、銃は両断されてしまった。





(――行ける!?)

 聖と相対するミツは、確かな手応えを感じ取っていた。

 事前に、ジングウから聞かされていた通りだった。自分が戦っているこの相手は、武器さえ使わせなければ決して強い相手ではない。

 聖が機銃を構えた――それを切り捨てる。

 聖が剣を呼び寄せた――「スキル:ソード」の方が切れ味はある。

 聖の手にグレネードランチャーが姿を現した――誘爆覚悟でそれを破壊する。

 この男にとって、武器とは即ち牙だった。どんなに恐ろしい猛獣でも、牙と爪を封じてしまえば決して恐ろしい相手ではない。聖の牙を、ミツの爪が次から次へとそれを封じていく。状況は優勢だった。

 ――しかし、敵は一人ではない。

「う!?」

 突然右から飛んできた拳を、咄嗟にミツは防御して受け止めた。顔を向けると、そこにいたのはもう一人の敵、ゲンブだった。

「聖、大丈夫か?」
「ああ……こいつ、俺の弱点に気付いてやがった」

 ゲンブの助けが入った事で、聖は破壊される事無く武器の召還に成功する。自分に銃口が向けられ、その射線上から逃げるようにしてミツは走った。

「逃がさん!」

 ミツの動きを遮るようにして、ゲンブが回り込んできた。「ソード」を振るミツであるが、その攻撃は悉くかわされる。

(格闘戦能力が高いと聞いてはいたけど……確かにこの男、強い!)

 幻龍剣を模し、鉄板すら容易に切り裂く「スキル:ソード」。しかしその一撃も、当たらなければ意味が無い。ゲンブの動体視力は高く、ミツの攻撃を紙一重の距離で次から次へとかわしていく。またそれだけでなく、隙を見つけては重たい一撃が飛んでくる。全く油断なら無い相手だった。

「!」

 ゲンブが距離を離したのを見て、慌ててミツはその場から離れた。そして次の瞬間、それまで自分がいた場所へと無数の弾丸が突き刺さった。

 前衛をゲンブ、後衛を聖が勤めるこの組み合わせは、ミツにとってかなり厄介な相手だった。お互いがお互いの弱点をカバーし合っていると言える。リーチの短さを聖が、フィジカルの弱さをゲンブが補っていた。

(強い、けど……ミツは負けるわけにはいかない! ミツがミツである事を証明する為にも!)

 意を決し、ミツがゲンブへと迫る。そうはさせまいと聖の銃撃が襲い掛かってくるが、ミツはそれでも止まらなかった。

 ゲンブに向けて横一閃。しかし彼はそれをやはり紙一重の距離でかわし、それどころかミツの懐に潜り込んでいた。

(!? しまった――)

 そう思った次の瞬間、ミツの胸を衝撃が襲っていた。「彼」の身体は吹っ飛び、その先にあったビルの外壁へと叩きつけられる。

「う……ぐ……」

 胸を押さえ、何とか立ち上がるミツだったが、体勢を立て直しきれていない「彼」に向けて容赦無く引き金が引かれた。体中に、無数の鉛玉が突き刺さっていく。

「が――!?」

 奇跡的にも、頭や心臓にはほとんど当たらずに済んだが、それでもミツは満身創痍だった。全身に出来た銃創から、だらだらと血が流れていく。自己修復機能が働いていたが、それでも処理が追いついていない。

(そんな……ここまでなのか……?)

 抵抗力を失ったと判断したのか、ゲンブと聖が近付いて来る。それがまるで、ミツにとって死神の足跡のように聞こえた。





(嫌だ……嫌だ! まだミツは証明出来てない! ミツは不良品なんかじゃないって、まだ!)

 全身にまるで焼きゴテが押し付けられているようだった。しかし激痛を抑えながら、何とかミツは立ち上がる。

「ふ……ん……!」

 両手を合わせ、そこに全身のエネルギーを掻き集める。「彼」の合わせた手の間に、青白い光の塊が現れた。

「こいつ、まだ!?」

 聖が機関銃を向け、引き金を引く。新たな傷がミツの身体に出来るが、「彼」はその痛みを無視する。ただひたすらにエネルギーを送り込み、光の塊をより強くしていく。

「ミツは――不良品なんかじゃない!」

 光球の光が一層強くなったところで、ミツは二人に向かって手を伸ばした。太い光の帯が、射線上にあるあらゆる物をなぎ倒していく。

「ちっ!」

 咄嗟に回避し、二人は迫ってくる光を避けた。それによって直撃こそなかったが、「スキル:バスター」の余波が周囲の建物を破壊していく。再び周囲が、砂埃によって包まれていく。

「く――しまった!?」

 慌ててゲンブがミツのいる方へと向かおうとするが、倒壊していく建物の破片や瓦礫に遮られてしまう。周囲の変化が収まるまで、二人はその場から動く事が出来なかった。

「……くそっ」

 倒壊が収まり、聖は思わず悪態をつく。

 ミツの姿はどこにも無かった。負傷によって出来た血の跡が点々と残されていたが、それもなぜか途中から無くなっていた。おそらくは、先程まで彼らが戦っていたゼア達も既に逃げてしまっているのだろう。

 結果はどちらも倒れていないので引き分け――だが、実質的には敗北と言わざるえなかった。





「は……ははは……」

 ふらふらと、ミツは路地裏を歩いていた。

 全身傷だらけの血塗れ。微動だするだけで、灼熱のような痛みが全身を駆け抜ける。エネルギーを使い果たしてしまったので、自己修復も満足に行えていない。

 しかし、ミツの表情には笑みが浮かんでいた。

「や……た……」

 アースセイバーの強敵二人を相手に、見事時間を稼いだ。目的を達成し、ホウオウグループに貢献する事が出来た。この結果を前にして、一体誰が「彼」を不良品と言う事が出来るだろうか。

「あは……あははは……」

 ついに力尽き、その場にミツは倒れてしまう。しかし「彼」は、今まで生きてきて最高の気分に浸っていた。

 五年前破棄処分にされてから、ミツにとってはただ絶望の日々だった。
 望まれて生み出されたにも関わらず、自分は捨てられた。必要とされなかった。その事実が、「彼」の心を常に苛み続けていた。「彼」の心に、希望など一切ありはしなかった。

 それでも生き続けようとしたのは、自分が不良品でないと言う事、心のどこかに抱き続けていたからだ。その想いが、「彼」を生かし続けていた。

 そして今日、「彼」は自分の願いを見事に達成する事が出来た。自分が不良品などではないと言う事を、見せ付ける事が出来たのだ。

「や……ったよ……みん……な……」

 やったよ、みんな。みんなが創ってくれたミツは不良品じゃなかったって、証明出来たよ。

 そうミツは言いたかったが、「彼」の口はそのすべてを紡ぐ事は出来なかった。

 意識が遠ざかっていく。ミツの視界は暗転していった。



「やれやれ、世話をかかせますねぇ……」

 培養槽の中で眠っているミツさんを眺めながら、私はポツリと呟いた。

 あの後、私はストラウル跡地近くの路地裏で倒れているミツさんを発見し、回収しました。スリープモードに入っていたのが幸いしたのでしょう。重症でしたが、復旧出来ない状態ではありませんでした。

「まったく……貴方の一体どこが不良品なんだか……」

 出来損ないに死を与える廃棄施設から生き延び、その上メンテナンスも無しに五年間稼動し続けた……恐るべき耐久性の持ち主です。この事実からも、ミツさんを生み出す為に我々のスタッフがどれだけ力を注ぎ込んだか分かるというものです。

 そして今日、「彼」は蒼井聖、水波ゲンブと言う強敵二人を相手にしながら、時間稼ぎという目的を見事に達成し、そして生き延びた。

「私の睨んだ通りですね」

 「彼」は言わば、ダイヤの原石だ。もっと磨けば、より素晴らしい戦士へと生まれ変わる事でしょう。

「ハッピバースデー、ミツさん」

 お誕生日おめでとう。今日は不良品だった貴方が死に、戦士:ミツとして生まれ変わった日です。貴方のリンカーネーションを、私は祝いましょう。

「ゆっくり休みなさい……傷が治れば、新しい生活の始まりですよ」

 聞こえている筈が無い。しかし、ミツさんが笑ったような……そんな風に私には見えました。

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最終更新:2011年03月03日 18:49