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セッション:ジングウからの問いかけ

 セッション:ジングウからの問いかけ

「あ、ジングウさん」

 私がゼアの部屋から出てくると、廊下で待っていたサヨリさんとレリックが駆け寄ってきました。

「どうでした?」
「十中八九の九でした。都シスイの勧誘は却下です」
「ああ、やっぱりですか?」
「ええ。私の予想通り、『ホウオウ様が絶対者であるのは真理なのであり、神ごときに定められる謂れは無い』だそうで」
「はぁ……ジングウさんって案外、人を見ていないようで見ているんですね」
「……なんだか、引っかかりを覚える言い方ですね、それ」

 まぁ、ある意味予想通りと言いますか。彼の人格を考えれば、それと対極に存在する我々に引き込むのは一苦労ですから。その苦労をしてまで都シスイを味方に引き入れる事で得られるメリットがリスクに見合うものかと言えば、それは無い。ホウオウグループ的に言えば「合理的ではない」。ならば、却下されても当然と言うもの。

 ――まぁ私としては、予想を裏切ってくれた方が暇潰しになって良かったのですが。

「はぁ、実につまらない」
「まぁまぁ……私も都シスイのパーソナリティを見させてもらいましたけど、あれをグループに引き入れるのは大変ですよ。ゼアさんは多分、その事についてもホウオウ様に進言なさったんじゃないですか?」
「ですが、つまらない。せっかく余興が一つ出来ると思ったんですがねぇ」
「ジングウさん……」
「……なので、再び一石を投じさせて頂きました」
「え゛」

 私の言葉が予想外だったらしく、サヨリさんがその場で固まる。いやぁ、彼女の反応は見ていて本当に飽きませんねぇ。

 私は、一枚のディスクケースを彼女に見せました。ケースには、「BD」と書かれています。

「実は、こう言う物を設計していました」
「私が四六時中監視しているのに、何時の間にそんな物を……」
「まぁ、気付かなくて当然ですよ。貴方の目の前では、常に暗号化してやってましたから」
「あ、暗号……」
「暗号を作るのは、昔から得意なんですよ。この身体になる前からの特技なので」
「は、はぁ……」

 サヨリさんは呆れているのでしょうか、それとも感心してくれているのでしょうか。まぁ、どっちにせよ、私には関係ありませんが。

「それで、それには一体何が入っているんです?」
「まぁ、まぁ。それは完成品を見てからでも遅くは無いのではありませんか? ゼアも、珍しく私の提案に賛成の意を表してくれましたから」
「え、そうなんですか?」

 これに関しては、私にとっての利益とホウオウグループにとっての利益が一致した結果なのでしょうね。あの男が、私の提案に異を唱える事無く了解を示したのは、実に珍しい出来事でした。

(さてさて……これで、少しは楽しめそうですね……)

 ――セッション・スタート





 数日後、いかせのごれ中央市内。深夜。

 街中を、爆音を上げながら走る五台のバイクの姿があった。所謂暴走族であるが、こんな街中を走るような暴走族は今までにはいなかった。当然近隣住人が迷惑がり、間も無く警察が暴走族への注意喚起を行った。

 しかし、暴走族は警察からの警告を悉く無視。それどころか、停止を行おうとするパトカーへ挑発行為や暴力行為を行ってきた。その為止む得ず、警察は強硬手段による停止を試みた。

 だが、暴走族を止める事は出来なかった。

 後に応援に駆け付けた警官は、横転したパトカーと、それに乗車していた警官二名を発見。二人とも、意識不明の重体だった。

 横転していたパトカーは、まるで重機でも使って薙ぎ倒したかのような状態だった。人五人がかりでやったにしては、あまりにも度を過ぎている。その為警察は、暴走族五名の内に能力者が含まれていると推測。アースセイバーへの協力要請を行った。



「……来たか」

 そう呟くと、蒼井聖は顔を上げた。

 現在の彼は、フルフェイスのヘルメットを被り、ライダースーツの上からコートを羽織ると言う出で立ちだった。バイザーを下ろし、それ越しに鋭い眼差しで前方を見据える。

 爆音と共に、前方から五台のバイクが走ってくる。連絡のあった、「現行犯」達だ。

「既に警察に手を出しているんだ……悪く思うなよ」

 聖が虚空に手を広げると、そこに二本の機関銃が姿を現した。見た目は物騒だが、中身は暴徒鎮圧用のゴム弾が装填されている。

 けたたましい銃撃音と共に、機銃が火を噴いた。数十発のゴム弾が、向かってくる暴走族達目掛けて突き進む。

 だが、

「――何!?」

 聖は思わず顔を顰めた。

 ゴム弾は、五台のバイクの内四人を撃ち落した。しかしその中で一人だけ、戦闘を走っている男だけがゴム弾をものともせず、聖の方へと向かってきたのだ。

 聖は、暴走族の進行方向にいる。だが、彼は全く意に介していないのか、その進路を変える気配は無い。

「チィッ!」

 聖は機銃を投げ捨てると、自分のすぐ傍に止めてあったバイクに跨った。アクセルを全開にし、向かってくるバイクへと自分も突っ込んでいく。

「搭乗者を倒せないなら、車体を破壊するまで……!」

 今度聖の手に握られていたのは、機銃ではなく巨大なリボルバーマグナムだった。それを相手との擦れ違い様、それが乗っているバイク目掛けて数発撃ち込む。

 だが、それも通用しなかった。キィン、と言う金属同士がぶつかり合う音、そして火花が散っただけで、銃弾を撃ち込まれたバイクは平然と走り続けている。

「……マグナム食らって無事って……ただのバイクじゃないな、あれは」

 聖はバイクを反転させ、疾走する暴走族を追跡する形で追う。しかし暴走族のバイクは聖が乗るバイクよりも早く、彼らの距離は一向に詰まらない。

「く……こっちはとっくに300キロ出てるってのに……!」

 高加速力に加えて、マグナムにさえ耐える程の強度。そんなバイクを所有している時点で、聖は自分が追っている暴走族が、決して「堅気」の人間ではない事を感じ取っていた。

 と、その時だった。

「何?」

 目の前を走っていたバイクが突然機首を反転させ、聖の方を向いた。そこでバイクを止めると、相手は路上に立ったのだ。





「かかって来い……ってか? 舐めやがって……」

 聖もバイクから降り、両手に銃を握る。

 二人の距離は、目測十メートル。その光景はまるで、西部のガンマンの決闘の光景であるかのようだった。

「――ふっ!」

 先に動いたのは聖だった。銃口を相手に向け、躊躇無く引き金をひく。ドガガガガ、と、銃声が繋がって一つの音のように響いた。

 常人ならば、ものの数秒で蜂の巣にされてしまうような機銃の掃射。ところが、相手にその攻撃は全く通用しておらず、それどころか、銃撃の嵐の中を聖目掛けて突き進んでくる。

「野郎!」

 聖は距離を離すべく、後ろに下がりながら銃を撃ち続ける。しかし相手の方が早く、気が付くと聖の目の前にいた。

(こいつ、早い!?)

 聖の手から、敵は素早く銃を叩き落とした。すぐさま聖は新しい武器を呼ぼうとする。だが、相手がそれを許さない。

「ぐ――!?」

 一瞬、内臓が引っくり返ったような錯覚を覚えた。そして腹部に激痛。聖の身体は吹っ飛ばされ、彼の身体はアスファルトの地面に叩きつけられていた。

「が――は!」

 一瞬、聖は何が起きたのか理解出来なかった。無理も無い。敵は、片手で放った拳一つで聖の身体を吹っ飛ばしたのだ。

「がふ……う……」

 うつ伏せになり、口から血を吐き出す。内臓がやられたらしい。腹から鈍い痛みが伝わってくる。何とか聖は身を起こすと、敵の方を見た。

 相手は急ぐ様子は無く、悠然とした足取りで聖に近付いてくる。自分の優位を信じて疑わないのだろう、余裕がありありと見て取る事が出来た。

(これ程の膂力があるって事は、身体強化系能力者か……? まずいな、自分が一番会いたくないタイプの手合いじゃねぇか……)

 近接型の身体強化系能力者は、言わば蒼井聖にとっては天敵だ。距離を離し、火力によって圧倒的出来る状況ならまだ勝機はある。しかし、ここは街中だ。こんな場所でミサイルやグレネードランチャーを使う訳にはいかない。

 しかも現在、聖は敵の射程距離内に踏み込んでしまっている。先日ミツと戦闘した時もそうだったが、聖の能力は「武器を転送する」能力である。その為戦闘手段を武器に大きく依存し、それ故に武器の使用を封じられると大きく戦闘能力が低下してしまう。

 今回もそうだった。聖が武器を呼び寄せても、それが火を噴くより先に相手の攻撃によって武器を破壊され、或いは使用を封じられる。何とか距離を離そうとするが敵の身体能力の方が高く、どうやっても距離を詰められる。

「がはっ!」

 一体何度目の攻撃だろうか。聖の体が倒れ、その衣服はボロボロになっていた。

「ぜぇ……ぜぇ……」

 牙と爪を完全に封じられた。並大抵の人間なら、この時点で既に勝負を投げているだろう。

 しかし、聖は勝利を諦めていなかった。

(こいつは――)

 相手の攻撃を受けながら、聖は考えていた。これだけの力があれば、とっくに自分は殺されていてもおかしくはない。しかし実際は、まだ息をしている。それはなぜか。自分が頑丈だから? 否、手加減をしているからだ。

 相手は、自分の力に酔っている。自分の力を楽しみたくて、あえて聖が壊れない範囲の力で彼をなぶっているのだ。

 確かに、相手と自分とでは相性が悪過ぎる……だが、その慢心に付け入る隙がある。

 聖が立ち上がったのを見て、相手が突っ込んでくる。ここで武器を出して構えたところで、弾き落とされるのが関の山だ。仮に構えられたとしても、あの防護服のようなバイクスーツには傷一つつけられない。

 だから、

「――!?」
「……捕まえたぞ」

 聖は、「ワンテンポずらして」武器を出現させた。





聖の手の中には銃があり、弾き落とされていない。それどころか、その銃口はぴったりと相手の腹部に押し付けられている。

 至近距離で武器を出されては、振り落とす暇など無い。

 そして――

「その防護服、大した性能だが……ゼロ距離からの衝撃をすべて受け止めきれるか?」

 傷だらけになった顔で、ヒニルな笑みを浮かべる。そして聖は、躊躇無く引き金を引いた。

 ドガガガガガガガガガガガッ!!!!!!!

 耳を劈く凄まじい銃声。あまりの高速連射に、音が繋がって一つの音になってしまっている。

「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

 その銃声にも負けない、聖の咆哮。まるで獣の雄叫びだ。銃声を相手に競り合っているようにも聞こえる。聖は銃倉が空になるまで、引き金から指を離す事は無かった。

「おい、貴様」

 自分に倒れ、もはや意識も無いであろう相手に向かって、聖は声をかけた。

「貴様、自分が特殊能力を与えられて、特別な存在だとでも思っていたんだろ……生憎だがそれは見当違いだ。特殊能力なんてのはな、俺達がこの世界にとってのバグである証明でしかないんだよ」

 私利私欲のままに能力を使う。自らの力に酔って能力を行使する。そういう輩は、聖にとってもっとも忌むべき存在だった。

「……こちら蒼井、能力者確保。ただちに回収班を寄越してくれ」

 そう仲間に連絡を送るのが、精一杯だった。聖は力を使い果たすように、その場に倒れるのだった。



 普通ならば、ここで事件は終わり。そう思う人が多いだろう。

 だが、事件は完全に終わっていなかった。

「……何? 能力者じゃなかった?」

 夜が開け、朝になってからその報告を受けた聖は、思わず己が耳を疑った。全身に巻かれている包帯が痛々しい。

「そうなんすよ」
「お前は馬鹿か!? あんな馬鹿力を出す人間がどこにいるって言うんだよ! 能力者じゃないならなんだって言うんだ!」

 目の前にいるシノと言う女性が、こんな時に冗談を言うような人間ではないという事は分かっている。しかし聖は、その言葉がどうしても信じる事が出来なかった。

「こんな時嘘を言っても仕方が無いっす。とりあえず全員検査してみたんすけど、不良である事を除けばみんな、どこにでもいるただの高校生でした」
「あいつは!? 俺と戦った奴は!?」
「その子も、っす。その子も、身体のどこにも異常が無い、普通の子供っす」
「そんな……馬鹿な……」

 聖は、全身から思わず力が抜けていくのが分かった。

 能力者じゃないとしたら、あの力は一体……

「……おそらく、スーツのせいっす」
「何?」
「聖さんと戦っていた子が着ていたバイクスーツを調べて見たんすけど……そのバイクスーツだけ、明らかに他のバイクスーツと違っていたんす」
「そりゃそうだろ。ゴム弾はともかく、実弾まで防ぐようなスーツだぞ? ただのスーツの訳が――」
「防護服どころの話じゃないっす。あれ、パワードスーツっすよ」
「……何?」

 再び聖は、思わず自分の聞き違いに思ってしまった。

「パワードスーツ……だと?」
「そうっす。バイクスーツと同じ薄さしか無いのに、防護服としての機能とパワーアシストの機能を兼ね備えためちゃくちゃ高性能なスーツっす。ウスワイヤの技術力でも造れるかどうか、それ位ハイスペックなパワードスーツだったんすよ」
「……まさか、ホウオウグループか?」
「その疑いは強いんすけど……スーツの背中の部分に、こんなマークがあったんす」

 そう言うと、シノは一枚の写真を差し出した。そこには、神社の鳥居を思わせるようなマークが描かれていた。

「なんだ、これは?」
「分からないっす……ただ、もしかしたらかもしれないんすけど」
「……?」
「この一件。もしかしたら、ホウオウグループじゃない組織の仕業かもしれないっす」
「ホウオウグループじゃない、って……おいおい。あいつら以外にも、あんな組織があるって言いたいのかよ?」

 それこそ悪い冗談だ、と聖は思う。だが、

「……ジングウ」
「!」
「奴の名前を漢字で書けば「神宮」。神の宮、つまり神社になるっす。もしかしたら、この鳥居のマークは……」
「だが、あいつはシスイ達が倒したんじゃないのか?」
「油断出来ないっすよ。何せ、あのホウオウだって何度倒されても蘇っているんすから……」

 ただでさえ、ホウオウグループだけでも厄介なのに――強敵再来の予感に、二人は嫌な汗を拭う事が出来なかった。





「どうでしたか、ゼア?」
「あのスーツ、中々の性能だな。ただの素人に使わせてあの通りだ。もし訓練を受けた者が着れば、それこそかなりの戦闘能力を発揮するだろう」
「お褒め頂き、光栄です」

 ……ま、この私が設計したのです。当然の結果ですけどね。

「しかし、一つ疑問がある」
「はい、なんでしょう?」
「なぜホウオウグループ製なのに、あのスーツには我々のエンブレムが入っていないんだ? 代わりに、お前の悪趣味なマークが入っていたが……」
「悪趣味って……」

 失敬な。HとOを組み合わせたグループのシンボルだって、どっこいどっこいではありませんか。

「答えは簡単ですよ。我々の仕業でないと思わせるためです」
「ほう?」
「知っての通り、私は以前ホウオウグループに造反すると言った身です……従って、アースセイバーの側からはホウオウグループに戻ったとは到底思われていない。そんな状況で、私のマークが入ったパワードスーツが発見された……彼らは一体、何を思うでしょうね?」
「なるほど……お前が新しい組織を立ち上げた、と向こうは思い込み、我々の仕業ではないと思い込む」
「そう、その通り……これは私が設計したパワードスーツ「BD」の実験もかねた陽動作戦です」

 ……まぁ、どちらかと言うと、今回の一件は私からアースセイバーへの警告文みたいなものですけどね。

 装着すれば、常人でありながら超能力者すら圧倒する力。これは、ナイトメアアナボリズムにも通じる。先天性の能力者と異なり、あれはそれまで能力を持っていなかった人間が能力を、つまり力を得る現象ですからね。

 私が何を言いたいかと言えば――能力者と無能力者に違いなんてのは存在しないのですよ。

 どんな人間であれ、力を得れば「変わらざる」えない。ただの人間でさえ、銃という力を手に入れれば犯罪に走る。「銃」も「能力」も、突き詰めていけばどちらも同じ「力」でしかない。なれば、能力者と無能力者を分け隔てるものとは、一体何なのか。

(さぁ、無い頭絞ってせいぜい考えなさい、地球の守護者達)

 果たして、能力者と無能力者を分ける今の世界が、正しいか否かを……

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最終更新:2011年03月05日 15:13