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神に挑む者達

 神に挑む者達

「――まさか、こんなところで会うとは思いませんでしたよ……ホウオウ

 そう言いながら、私は目の前にいる男に向かって笑いかけた。私のすぐ隣にいたサヨリさんは驚愕の表情を浮かべたまま固まっており、レリックは目の前にいる人物が何者であるのか分かっていないようだった。

「……ジングウ、か」
「お久しぶりですね……言いたい事があるなら、烏を通さずとも自分から来れば良いものを」
「私からお前に対して言う事など何もなかった……ただ、クロウは私がなぜお前を泳がせているのか分かっていないようだからな。奴に分かりやすいように言ってやったまでだ」
「なるほど」

 ホウオウと会話しながら、私は歓喜を抑えずにはいられなかった。この男は六年前から全く変わっていない。その事実が、私には無性に嬉しかった。そうでなくては面白くない……!

「じ、ジングウさん!」
「何ですか、サヨリさん?」
「相手が一体誰か分かっていらっしゃるんですか!? ホウオウ様ですよ、ホウオウ様!」
「そんな事分かってますよ……もしかして、カメラの機能が落ちましたか? ちょっと見てあげましょう」
「頭の先からつま先まで私は正常ですよ! 変なのはジングウさんの方です!」
「ぐー、このおじちゃん、だれ?」
「あーもう、りーちゃんまでー!!」

 私達の態度が、ホウオウへの礼節に欠いたものだと思えたのでしょう。サヨリさんは頭を抱えたり天を仰いだり、「すいません、すいません」とホウオウに頭を下げていたりする。あまりにも予想通りである彼女の行動に、私は内心で可笑しいと思わずにはいられなかった。

「サヨリさん、この男がタメ口や呼び捨て位で所属員を切り捨てるような底浅で器の小さな奴に見えますか?」
「ちょ、ジングウさんー!」
「むしろ、本音を隠しておべっかを使う方が、この男にしてみれば無礼にあたるというものですよ」

 「そうでしょう?」と私はホウオウの方を見る。彼は私の言葉に答える事は無く無言であり、それを私は肯定として受け取った。

「……それより、私に何か用があるんじゃないのか」
「いいえ? 強いて言うなればそう……貴方の顔を見てみたくなっただけです」

 ホウオウが私を見据えた。一見すると無表情な中に、私を探っている感じがある。当然だ。彼からしてみれば、「現在の彼」をこんな風に見ているのは私位なのだから。

「……ジングウ。先の戦いでお前は、私を超えた、と言ったそうだが」
「失敬、それは耳が痛い。今思えば、あれほど慢心していたのは自分としてもどうかしていましたよ」

 ……あの五人の実力を完全に見誤っていました。

 それぞれを単体一個として見ていたのが間違いだった。彼らは言ってみれば「部品」だ。一つ一つの力は大した事無いが、結び付く事によって強大な力を生み出す。その事を、私は失念していた。

 またそれだけでなく、都シスイの徳性を私は甘く見ていた。彼が麒麟であるなばら、その母たる大地が力を貸さない筈が無い。私は五人の能力者を相手にしていたのではなく、実質いかせのごれの大地を相手にしていたのだ。「あの時の私」程度の力では、敗北しても当然の結果だ。

「……次のゲームでは、もう少しうまく立ち回らせていただきますよ」
「…………」

 ホウオウはもう私に対して用は無いとばかりに、背を向けて歩き出した。しかし数歩進んだところで、不意にその足が止まった。

「ジングウ」
「はい?」
「……私に忠誠を誓う意志はあるか?」
「……一人の男として、貴方を認めてはいますがね……だからこそ、貴方に忠誠を誓うなど我慢ならない」
「そうか」

 ――見間違い……でしょうか。一瞬見えた奴の口元が、なんだか微笑っているように見えたのですが……

 私が首を傾げた瞬間、瞬きをしたほんの一瞬の内にホウオウの姿が見えなくなった。やれやれ、現れる時もそうですが、去る時も一瞬ですねぇ。





「じん゛ぐう゛さ゛ん゛~」
「何ですかサヨリさん、見っとも無い声を上げて」

 私が顔を向けると、そこには涙目になったサヨリさんの顔があった。

「怖かったですぅ~、めちゃくちゃ怖かったですぅ~」
「だから言ったじゃないですか、あの男はタメ口や呼び捨て程度で首を切る程器の小さい男ではないと」
「それにしたってホウオウ様ですよ、ホウオウ様ー! 何であの人の目の前でそんなに堂々としていられるんですか!」

 そりゃそうですよ。あの男程度でビビッているようでは、何時まで経っても神なんて超えられませんし。

 ――それに。

「あんまり、そうホウオウを「自分とは別の生き物」に考えたら、可哀想というものですよ」
「可哀想……ですか?」
「ホウオウは神への挑戦として合理的な世界を築こうとしている。そしてその志に共感し、今では百人規模のメンバーが集まった――集まった一方で、自分が「ホウオウの仲間」だと思っているのは、果たして何人いるでしょうね」
「え?」
「大方、構成員の大半は「ホウオウの部下」、或いは「しもべ」とでも思っているでしょうよ」

 そこが、龍儀の使い手にしていかせのごれの救世者、ケイイチとホウオウの決定的な違い。

 ケイイチとその仲間の結束は、それこそ「絆」と呼ばれる目に見えない、しかし確かに存在する強い結び付きで成り立っている。そして何より、彼は救世主にして英雄であるが、だからと言って仲間達は彼を恐れ敬うような真似はしない。自分と同じ血の通った人間、つまり「自分と同じもの」だと認識し、そして接している。

 一方、ホウオウグループはどうか。グループ内における所属員同士の結束も、「仲間」のそれであると言えるでしょう。上下関係は実質無いに等しく、表向き仲が悪いように見えてその実仲が良いというのはよくある話だ。セキ君とバツの関係など良い例でしょう(だからと言って、あの烏男と馴れ合えと言うのは無理な話ですが)。

 しかし、それが通じるのは「所属員の間で」のみだ。これがホウオウに関しては全く別になる。大半の所属員にしてみれば、ホウオウは絶対崇拝者のようなものであり、世間一般では言うところの神と同格だ。自分と同じ存在と思う事自体がおこがましく、自分と並べて考える事自体が間違っていると言ってしまう程だ。それ位、所属員にとってホウオウの存在は大きい。

 だが、それ故に、ホウオウにとって真の意味で「仲間」と呼べるものは誰もいない。

「彼に「仲間」はいませんよ。なぜなら、仲間は自分と相手が「同じモノ」だと認識するところから初めて始まるのですから」
「あ……」
「しかし、誰もそんな簡単な事に気付いちゃいない。ホウオウを恐れるあまり、崇めるあまり、彼だって元々は我々と同じモノであったという事を忘れてしまっている。まるでさも「生まれた時からああであった」かのように誰もが思っている……」

 崇拝する側にしてみれば、そうでなければ困るのだ。崇めるモノが、自分と同じモノであってもらっては困る。自分を支える為に自分と同じモノに縋っているなど、そんな事、崇拝者には耐えられない事実だ。それでは「都合が悪い」、のだ。

「で、でも……ホウオウ様にはきっと、仲間なんていらないんですよ。だって神を超えようとしている人なんですよ? それなのに仲間が欲しいなんて、何だか女々しいじゃないですか……」
「じゃあ実際、ホウオウは仲間なんていらないと思っているんですかね?」
「それは……」
「サヨリさんが言った言葉にしたって、それは崇拝する側が勝手に思い込んでいるだけかもしれないですよ」

 何時の世も、大衆とは身勝手なものだ。人の上に立つものを、自分にとって都合のいい形に考える。

「神に近付けば近付く程、人は孤独になっていく。なぜなら、神の座は人の世からあまりにも遠過ぎるから。絶対者に近付けば近付く程、あの男は独りになっていくんですよ」

 私はサヨリさんに教授するように、そう言いました。



 ――その時ジングウは、果たして気付いていたのだろうか。

 「神に近付けば近付く程、人は孤独になっていく」。

 それが真実ならばつまり、神を超えんとする彼もまた「独り」の人間であるという事に。

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最終更新:2011年03月17日 14:58