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第四回放送/あるいは終焉の幕開け(前編) - (2010/10/24 (日) 22:49:30) のソース
*第四回放送/あるいは終焉の幕開け(後編) ◆Vj6e1anjAc ――おはよう、みんな。0時の放送の時間よ。 仮眠も取ったことだし、ここからは今まで通り、私が放送を行うわ。 まぁもっとも、この放送もあと何度続くことになるか、分かったものじゃないのだけど…… ……フフ、ではまず、禁止エリアを発表させてもらうわね。 メモの準備はいい? こんなところまで来ておいて、自滅なんてされたら困ってしまうわ。 ……では、読み上げるわよ。 1時よりH-2 3時よりG-8 5時よりB-7 以上の3か所よ。 では続いて、これまでの死者を発表するわ。 アーカード 相川始 アレックス ヴィータ エネル クアットロ ヒビノ・ミライ 以上、7名。 この24時間を生き抜いたのは、合計12名よ。 ……まぁ、きっかり10名にならなかったのは、キリの悪い数字だと思ったけれど。 ペースとしては上々。さすがに1日で終わるなんてことはなかったようだけど、 これなら順調に終わってくれるかしら? 貴方達には、本当に感心させられるわね。 ……今回はここまででいいわ。 私が用意してあげたご褒美も、十分機能しているようだし。 じゃあ、せいぜい最後まで頑張ってちょうだいね。 貴方達の願い、そして私の目指すもの……どちらも成就するまであと一歩。 フフ……期待させてもらうわよ。 402 名前:第四回放送/あるいは終焉の幕開け ◆Vj6e1anjAc[sage] 投稿日:2010/10/04(月) 23:26:13 ID:6aYOplck0 [3/19] ◆ かくして4度目の放送は流れた。 最悪の1日は終わりを告げ、最悪の2日目が始まった。 24時間目の時報を耳にしたのは、合計12人の生存者。 僅か24時間のうちに、60人の参加者達は、実にその8割を喪っていた。 誰もが耳を傾ける。 誰もが放送を耳にする。 安堵、悲嘆、希望、絶望。 それぞれの思惑を胸に宿し、それぞれの感想を胸に抱く。 しかし此度の放送は、それまでに繰り返されたものとは、ある1点において違っていた。 ある者は全く気付かなかった。 ある者は気付いていたのかもしれない。 この放送に隠されたものに。 この放送が意味するものに。 そこに時計を持つ者がいて、その者が時計を見ていたのなら、容易に気付くことができたであろう。 現在時刻、0:10。 今回の放送は、これまでの放送とは異なり、予定より10分遅れて流れていた。 ――――――異変は、この時既に始まっていた。 403 名前:第四回放送/あるいは終焉の幕開け ◆Vj6e1anjAc[sage] 投稿日:2010/10/04(月) 23:27:05 ID:6aYOplck0 [4/19] ◆ 「もう間もなく放送の時間か……」 ぽつり、と呟いた女の声が、狭い一室に木霊する。 巨大なモニターとコンソールを前に、1人座っていた者は、プレシア・テスタロッサの使い魔・リニス。 青く澄んだ猫の瞳は、しかし今この瞬間は、失意の陰りに満ちていた。 第3回目の放送から、色々と試してみたものの、その結果は芳しくない。 彼女の有する権限の大多数は、主君によって凍結されていた。 部屋から出て問い詰めに向かおうにも、ドアにまでロックがかけられている。 とどのつまりは、完全なる手詰まり。 何もできず、どこへも行けず。 籠の中のカナリアのごとく。 プレシアの下した制裁は、リニスからこの殺し合いに介入する、あらゆる術を奪っていた。 (何が希望だ) 歯を軋ませる。 苦虫を噛み潰したような表情で、己自身を嘲笑う。 所詮自分の力などこんなものか。 こんなにもあっさりと、何もできなくなってしまうものなのか。 その程度の力しかない私に、一体どんな希望が与えられるものか。 何もできない。 何も変えられない。 こんな矮小な私などには、殺し合いを止めることも、参加者を救うこともできはしない。 広がりゆくのは心の暗黒。 自分の弱さと情けなさが、自身の心を苛んでいく。 罪を償うこともできないという事実が、自らの罪を思い起こさせ、良心の重荷を思い出させる。 何ができる。 何をすればいい。 私にできることがあるなら、今すぐにでも示してほしい。 籠の中のカナリアごときに、何かが変えられるというのなら―― ――がこん。 その、時だ。 「……?」 リニスの座るすぐ背後で、何かの音が鳴った気がしたのは。 聞き間違いでなかったとするなら、金具が落ちたような音だったはずだ。 否、自分に限って聞き違いはあるまい。猫の聴力は人間よりも高い。 ほとんど確信を持ちながら、ゆっくりとその身を振り返らせる。 分かっているのに振り返ったのは、音の主を知らないから。 音の質こそ分かっていたものの、その音が何によって奏でられたのかを知らなかったから。 故にそれを確かめるために、視線を音の方へと向け、 「よう」 その女と、対峙した。 そこに立っていた者は、燃えるようなオレンジの女。 橙色の長髪をたなびかせ、青い瞳を光らせる者。 そのコスチュームの露出度は高く、すらりと伸びた四肢の皮下には、くっきりと筋肉が浮かび上がる。 顔に浮かべるは不敵な笑み。左手に持つのは通気孔の金網。 そしてその頭には――リニスと同じ、獣の耳が生えていた。 「貴方は……アルフ!?」 は、としたような顔になり。 ほとんど反射的に椅子を蹴る。 額にじわりと冷や汗を浮かべ、後ずさるようにして立ち上がる。 どういうことだ。何故アルフがここにいるのだ。 フェイト・テスタロッサ諸共、自分達が殺してしまったはずの犬の使い魔が、何故こんなところに現れるのだ。 404 名前:第四回放送/あるいは終焉の幕開け ◆Vj6e1anjAc[sage] 投稿日:2010/10/04(月) 23:27:56 ID:6aYOplck0 [5/19] 「何故貴方が――」 そこまで言いかけた瞬間。 「……っ!?」 身に感じたのは、物理的衝撃。 ぐわん、と視界が落下する。 膝が強制的に曲げられ、身体が勢いよく倒れる。 強引に押さえつけられた五体が、床に叩きつけられる硬質な感触。 巻き添えを食らった足元の椅子が、空中に放り出されたのを見た。 がたん、と椅子が落ちるのと同時に。 己の視界に差す影を認知し。 己を押さえこんだ者の正体を、目にした。 それはかの使い魔ではない。そこに眩しいオレンジ色はない。 そこに現れた者は――漆黒。 全身を黒ずくめの騎士甲冑で固めた女が、リニスの身体に馬乗りになって、首筋と右肩を押さえていた。 背中に生えていたものは、烏を彷彿とさせる艶やかな羽。 色素の抜け落ちたかのような銀髪と、血濡れのごとき深紅の瞳。 「リイン……フォース……!?」 やはり自らの手で殺したはずの、夜天の魔導書の管制プログラムが、目の前に姿を現していた。 ◆ 時は数分前にさかのぼる。 その時彼女らはその場所にいた。 リインフォースとアルフの2名は、相変わらず四つん這いの態勢で、時の庭園の屋根裏を移動していた。 《ホント、地図でも手に入ればよかったんだけどねぇ……》 溜息混じりに、アルフが念話でぼやく。 先ほどリインフォースがハッキングを行った時に閲覧できたデータは、爆発物の制御装置と謎の名簿。 地図などの有用なものが得られなかったばかりか、得たものも得たもので意味不明の代物。 そしてそのまま再び降りることもできず、こうしてただひたすらに、薄暗い屋根裏を徘徊している。 《もう一度降りられるといいのだが、これでは無理だな》 《そもそも2回目は向こうも警戒を強めてるだろうし……やっぱり別の方法を探るしかなさそうだね》 金網から眼下を覗くリインフォースに、アルフが言う。 彼女らがハッキングを途中で切り上げたのは、今まさに廊下を巡回しているものが原因だ。 元いた世界の海鳴市を滅ぼした、プレシアの軍勢に加わっていた卵型の機動兵器――ガジェットドローン。 あれさえいなければ下に降りることも可能なのだが、 いなくなるどころか、どうにも先ほどから少し数が増えたようにも見える。 とてもじゃないが、監視の目を盗んで端末にアクセスを……などと言っていられる状況ではなかった。 《一度どこかの部屋に入ってみるか? 何か使えるものがあるかもしれん》 そう提案したのはリインフォースだ。 《あー、それもいいかもね。そこならあの機械もいないかもしれないし》 言いながら、アルフの視界が眼下を探る。 近くに確認できる廊下の扉は、隣り合うようにして配置された2つ。 ひとまずは近い方の金網を目指すことにして、両者は移動を再開した。 そして数歩のうちに目的地へとたどり着き、2人のうちアルフが様子を窺う。 仮に中にガジェットや人がいた場合、降りた途端に見つかって、増援を呼ばれてしまう可能性があるからだ。 実際、そこには人が1人いたのだが、 《っ!? そんな……あれは、リニス……!?》 それがいるはずのない知り合いであったということは、さすがに予想だにしていなかった。 《知った顔か?》 《フェイトを教育してた、プレシアの使い魔だよ。でも何でだ? リニスは死んだはずじゃ……》 忘れがちだが、本来ならばリニスは故人である。 彼女はプレシアとの短い契約期間を満了し、元の屍へと戻ったはずなのだ。 にもかかわらず、彼女はここにいた。 生前と一切変わらぬ姿で、時の庭園の中に存在していた。 これは大いなる矛盾だ。まさかリーゼ姉妹のように、双子がいたというわけではあるまい。 《……リインフォース。情報を手に入れる方法が、もう1つあるよ》 《何だ?》 故にアルフはこう提案した。 《尋問》 リニスと向き合い、問い詰めることを。 彼女の生存とプレシアの意図、どちらも纏めて聞き出さねばならない、と。 405 名前:第四回放送/あるいは終焉の幕開け ◆Vj6e1anjAc[sage] 投稿日:2010/10/04(月) 23:28:29 ID:6aYOplck0 [6/19] ◆ かくして時間は現在へと戻る。 「久しぶりだね、リニス。こんな形で再会することになるとは思わなかったけど」 床に仰向けに押さえつけられた猫の使い魔へと、犬の使い魔が切り出した。 本当に、こんなはずではなかったことばかりだ。 死んだとばかり思っていたリニスと、こうして再会することになったことも。 その美しくも優しい教育係と、敵として対峙しなければならなくなったことも。 「あんた、何で生きてるんだ? 契約を完了した使い魔は、そのまま死ぬ宿命だったはずだ」 「私はリニス本人ではありません。 プロジェクトFの技術を応用して作られた、同じ容姿と記憶を持ったクローンに過ぎません」 「……そうかい」 寂しげに目を伏せ、それだけを呟く。 もしかしたら、とは思っていたが、どうやらそうも都合のいい話は存在しないらしい。 プロジェクトF――フェイトが生まれるきっかけともなった、記憶転写クローン技術。 その末に生まれたのがこのリニスだというのならば、 オリジナルのリニスは、やはりこの世にはいないということになる。 「いくつか聞かせてもらいたいことがある」 複雑な心境にあるであろう、アルフへの配慮だったのだろうか。 ちら、とアルフに目配せした後、リインフォースが問いかける。 そこからの尋問の主導権は、リインフォースが引き継ぐこととなった。 「まずは貴方の主人――プレシアについてのことだ。彼女はここで何かを行っているようだが……一体何を企んでいる?」 第一に確認すべきは、そこだ。 アルハザードへの到達を目的としていたプレシア・テスタロッサは、恐らくその悲願を達成した。 だとしたら、己の都合以外に一切の執着を持たないはずの彼女が、今更海鳴に攻撃を仕掛けるはずもない。 しかし現実として海鳴は滅び、高町なのはとのその関係者は、今ここにいる2名を除いて全滅した。 ならば、まだ何かある。 プレシアが何かしらの目的を持って、未だに暗躍していることになる。 最初に問いただすべきは、それであった。 「………」 返ってきたのは、沈黙。 微かな逡巡を湛えた表情と共に訪れる、静寂。 数瞬の間、その状態が続き、 《……私に話を合わせてください。この部屋もプレシアに監視されているでしょうから》 返ってきたのは、言葉ではなく念話だった。 《話を合わせる、ってのは、どういうことだい?》 不可解な言い回しに、アルフが問いかける。 監視されている可能性がある、という言葉には、さほど驚きは感じなかった。 ここが敵の本拠地であるのなら、ある程度は仕方がないと割り切れるからだ。 故にそれ以上に不可解なのは、リニスの持ちかけてきた提案。 話を合わせろということは、演技をしろということだ。 プレシアに従う身であるはずの彼女が、何故そのプレシアに本音を隠そうとするのか。 《私にはこれ以上、この件に干渉することはできません……ですから、貴方達に託そうと思います》 答えが返ってくるまでには、さほど時間はかからなかった。 《お願いです――彼女を、プレシアを止めてください》 406 名前:第四回放送/あるいは終焉の幕開け ◆Vj6e1anjAc[sage] 投稿日:2010/10/04(月) 23:29:15 ID:6aYOplck0 [7/19] ◆ そして真実は語られた。 伏せられていた情報の全ては、今ここに白日のもとに晒された。 プレシアがたどり着いたこの場所は、間違いなくアルハザードであったということ。 そこにたどり着いたにもかかわらず、未だアリシアは蘇っていないということ。 そのアリシアの復活のために、プレシアが今動いているということ。 そしてその手段として夜天の書を奪い、そのためにあの海鳴市を滅ぼしたということ。 「そんな……」 そして。 「アリシアを復活させるために、大勢の人間が殺し合わされているだって……!?」 それらの犠牲を払った末に、今まさに実行されていることさえも。 「何でだよ……どういうことなんだよ! そんな残酷なことが、死んだ人間の復活に繋がるのかよ!?」 しばし呆然としていたアルフが、一転し、激昂の様相を見せた。 今にも掴みかからんばかりの勢いで、リニスに向かって問いかける。 敵を尋問しているように見せるための演技――ではない。この怒りは彼女の真意だ。 まっとうな蘇生実験のために、フェイト達が犠牲になったというのなら、この際まだマシな方と言っていい。 だがその犠牲が、そんな無駄な殺し合いのために払われたというのなら話は別だ。 何故だ。 何故そんなことのために、フェイト達が殺されなければならなかった。 そんな無軌道な殺戮のために、何故愛しい主と仲間達の命が―― 「それが、繋がるんです。彼女が行っているのは、そういう儀式ですから」 「儀式?」 リニスの返事に反応を返したのは、やはりアルフではなくリインフォースだった。 基本的に、この場で一番平静を保っているように見えるのは常に彼女だ。 もっともその彼女自身もまた、プレシアの暴挙を許したわけではないのだが。 「今あの結界の中で行われている殺し合いこそが、アルハザードで確立されていた、死者を復活させるための儀式なのです。 60人の人間を戦わせ、敗れた59人分の生命エネルギーを利用することで……勝ち残った1人の肉体に魂を降ろす。 同時に肉体が生前のそれへと再構成されることで、完全なる死者蘇生は実現される」 「蟲毒だな、まるで」 古代中国の呪術の名を例に挙げ、言った。 もっともそちらの方は、虫や小動物を食い合わせて怨念を集め、猛毒を持った生物兵器を生み出すための呪法なのだが。 「そんなむちゃくちゃな……ここは仮にも、魔法の聖地なんて言われた場所なんだろう!?」 それでもなお納得できないといった様子で、アルフが反論する。 否、その感情の様相は、先ほどとはまた異なるものとなっていた。 プレシアの暴挙に対して抱いたものが怒りなら、今この瞬間抱くものは困惑の二文字。 優れた魔法技術を有したアルハザードの様式にしては、その方法はあまりにも野蛮で、あまりにも前時代的だ。 魔法のまの字すら見えないこの儀式が、アルハザードの正統な技術であるなどと、一体誰が信じられるものか。 「だからこそ、なのです。 リインフォース……蟲毒などという術を知っているのならば、地球に存在する生け贄の儀式のことも、聞いたことがあるのでしょう?」 「ああ。アステカ、インカ、中国……日本でも行われていた時期があったようだな」 「地球の場合、多くは神への貢物として行われていたようですが…… あの世界を含む、リンカーコアを制御する術を持たない世界のうちのいくつかでは、超常の力を発揮するために、 生け贄という形で肉体を損壊することで、強引に生命エネルギーを流出させる手段を取っていたのです」 「成る程……言わばあれらの風習もまた、超原始的な魔法だったということか」 アステカの生け贄が、神を動かす力となったように。 蟲毒の生き残りが、怨念を猛毒へと昇華させたように。 「にしたって60人って数は……あまりにも、多すぎる」 「完全な死者蘇生のためには、それほどの途方もない力が必要だったということか」 そもそも死者を復活させるということは、あの世から死者の魂を連れ戻すということだ。 そしていかに科学や魔術が発展した世界であっても、少なくともアルフ達管理世界の住民が知る限りでは、 現世から冥界へと至る術を発見した世界は、未だない。 彼岸と此岸の境界とは、それほどに強固なものなのだ。 途方もないほどに強固な壁を越えるには、途方もないほどの代償を払わければならないということだ。 407 名前:第四回放送/あるいは終焉の幕開け ◆Vj6e1anjAc[sage] 投稿日:2010/10/04(月) 23:30:25 ID:6aYOplck0 [8/19] 《……事情は分かったよ。理解したくないけど、理解しなけりゃいけないってことが分かった》 眉間に皺を寄せながら、毛髪の奥の頭皮を掻く。 不機嫌そうな表情のまま、アルフがリニスへと念話を送る。 《では……》 《もちろん、最初からそのつもりさ。プレシアはあたし達が止めてくる》 全て納得したと言えば、嘘になるだろう。 正直な話、未だに唐突感はぬぐい去れない。あまりにも荒唐無稽すぎる話には、未だ理解が追いつかない。 それでも、自分達はここに理解をしに来たのではないのだ。 自分達がここに来たのは、プレシアの真意を問いただし、ろくでもないことを企んでいるのなら、それを止めるためなのだ。 そして今まさに行われていたことが、そのろくでもないことであることは理解できる。 ならば、この際細かいことはどうだっていい。 今すぐプレシアの所へ殴り込み、このふざけた儀式とやらを止めるしかない。 既に何人もの人間が犠牲になっているというのなら、なおさらのことだ。 《使い魔リニス。この施設の見取り図があったら、見せていただけないだろうか》 「この施設の見取り図がほしい。今すぐそのモニターに映せ」 念話による本音では、穏便に。 肉声による演技では、威圧的に。 2つの言語を同時に駆使して、リインフォースが要求した。 「分かりました」 その両方に、いっぺんに応じる。 銀髪の融合騎の要求に、山猫の使い魔が応答を返す。 《窮屈だろうが、我慢してくれ》 念話で前置きをしながら、リインフォースがリニスを強引に立たせる。 首元に添えた手はそのままだ。建前上は脅迫している身なのだから、拘束を解くわけにはいかない。 かくして彼女らはモニターへと向かう。 倒れた椅子はそのままに、立った状態でコンソールを叩いた。 かちかち、とキーボードを弾く音が響いた後、モニターに映し出されたのは時の庭園の見取り図。 リインフォース達にとっては、実に6時間もの長きに渡って待ち望んだ代物だ。 「確認した」 言うと同時に、リインフォースの手が伸びる。 細く滑らかな指先が、コンソールの端子へと触れる。 一瞬、ぴか、とその肌が光った。 魔力光が瞬くと同時に、モニターに新たなウィンドウが開く。 コピー完了――魔法術式タイプのコンピューターの特性を利用し、自らの内にデータを取り込んだ結果だった。 もちろん、それだけではアルフが地図を使えない。 故に適当な棚から、リニスに携帯端末を取り出させデータを出力し、それをアルフに投げて渡す。 「あとは……そうだな。参加者を拘束している首輪の制御装置はどこにある?」 残された問題は、例の爆発物管理プログラムの正体――参加者に架せられた爆弾首輪だ。 先ほどのハッキングではプログラムの存在こそ確認できたものの、それをどうこうすることは不可能だった。 そしてあれをどうにかしない限りは、参加者をフィールドから逃がすことなど、不可能と言っていい。 地図にそれらしきもののある部屋の名前が確認できなかった以上、その所在を問いただす必要があった。 「首輪はプレシア自身が管理しています。制御システムも、彼女の部屋に――」 ――その、刹那。 . 408 名前:第四回放送/あるいは終焉の幕開け ◆Vj6e1anjAc[sage] 投稿日:2010/10/04(月) 23:32:08 ID:6aYOplck0 [9/19] 「ッ!?」 世界の様相は一変した。 視界は赤一色に満たされ、静寂は爆音に塗り潰された。 ちかちかと点滅する非常灯。 けたたましく鳴り響くサイレンの音。 話声以外の音もなかった一室が、一瞬にして音と光の嵐へとぶち込まれた。 「これは……!?」 誰が口にしたのかも分からぬ、戸惑いの声が上がるのも束の間。 「!」 ぷしゅっ、と短く鳴る音と共に、部屋の自動ドアが開く。 中から開いたのではない。扉はプレシアによってロックされている。 であれば、答えは簡単だ。 外から強制的に開けさせられたのだ。 「こいつら……!」 扉の向こうに並ぶのは、見渡すばかりの鉄、鉄、鉄。 卵を彷彿とさせる楕円形に、触手のごとく伸びた赤いケーブル。中央に光る黄金の瞳は、瞬きするかのように明滅する。 ガジェットドローンの大軍だ。 巡回を行っていた機動兵器達が、一斉にこの部屋へと押しかけてきたのだ。 「――バルディッシュ!」 刹那、咆哮。 凛とした雄叫びが上がると共に、黄金の光が赤を切り裂く。 稲妻を宿した魔力光が、一瞬非常ライトを上から塗り潰した。 声の主――使い魔リニスの手に握られていたのは、漆黒の煌めきを放つ長柄の斧。 アルフの主人が生前用いていたものと、寸分違わぬ姿を持った、閃光の戦斧・バルディッシュ。 「はぁっ!」 声を上げている暇などなかった。 姿を知覚した瞬間には、既に動作に移っていた。 跳躍。疾駆。接近。斬撃。 カモシカのごとく両足をしならせ、敵に飛びかかりデバイスを振るう。 「リニス!?」 アルフが声を上げた時には、既に1機のガジェットが破壊されていた。 返す刃で次なる標的を切り裂き、改めてバルディッシュを構え直す。 黒光りする切っ先越しに、山猫の双眸が機械兵を睨む。 「ここは私が引き受けます! 貴方達は隣の部屋に!」 「えっ……!?」 「この兵器達の放つフィールドには、魔力結合を阻害する効力があります。 遠距離攻撃は不利です。隣の武器庫から、リインフォースの武器を調達して行ってください!」 もはや演技をしている余裕はなかった。 否、リニスの安否を無視して兵力を送った以上、大方プレシアにはばれていたのだろう。 取り繕っていた体裁をかなぐり捨て、リニスがリインフォースらに向かって叫ぶ。 そしてその言葉を聞いて、彼女らは一瞬忘れかけていた、敵の特性をようやく思い出した。 あの金眼の兵器には、魔法を無力化させる能力が備わっていた。 どういうからくりなのかが今までずっと気がかりだったが、なるほどそういうことだったのか。 「でも、1人で大丈夫なのかい? バルディッシュが近接戦タイプだからって……」 「見くびらないでくださいよ。これでも、フェイトの先生だったんですから」 不安げなアルフを笑い飛ばすように。 無粋なことを、と言いたげに、リニスが強気な笑みを浮かべる。 それでも、未だ不安は消えない。 いくら敵がガジェットだけでなかったからとはいえ、そのフェイトの敗北を目の当たりにしたからには、安心できるはずもない。 確かにこのロボットそのものの耐久力はそう高くない。自分で殴り壊したからこそ分かることだ。 だがそれでも、いくら何でもこれほどの数を前に、1人で戦えるものなのだろうか。 「やむを得ないか……ここは頼む。行くぞ、アルフ」 「……ああ」 それでも、今は行くしかない。 でなければせっかく足止めを買って出てくれた、リニスの意志が無駄になる。 ここでまごついているうちにも、更なる犠牲者が出てしまうかもしれないのだ。 無理やりに自分を納得させ、アルフはリインフォースの後に続いた。 409 名前:第四回放送/あるいは終焉の幕開け ◆Vj6e1anjAc[sage] 投稿日:2010/10/04(月) 23:33:20 ID:6aYOplck0 [10/19] 部屋を出て、すぐ隣にあったドアを開く。 先ほどちらと見た地図によれば、この部屋は殺し合いを行う際に必要となる、支給品とやらの転送室らしい。 転送する武器の選別は、現在はランダムかつオートとなっているらしく、人の影は見当たらない。 障害がないことを幸いとし、室内に並べられた武器を物色。 「……これがよさそうだな」 そう言ってリインフォースが手にしたのは、一振りの日本刀だった。 剣を選んだのは、ヴォルケンリッターの烈火の将・シグナムが剣の使い手だったからだ。 彼女の魔法・紫電一閃は、純粋魔力ではなく、魔力変換によって生じた火力を纏うものである。 魔力結合を阻害するガジェット相手には、ただの斬撃よりも有効と言えるだろう。 故にシグナムの技を再現すべく、数ある武器の中からそれを選んだというわけだ。 ただの刀が紫電一閃の火力に耐えられるのか、とも思ったが、どうやらこの刀、見た目以上に頑丈らしい。 元々の持主たる異界の戦国武将・片倉小十郎が、この刀に雷を纏わせて戦っていたのだから、当然と言えば当然なのだが。 「よし、行くぞ」 「分かってる。……リニス! あたしらが戻るまで持ちこたえてくれよ!」 部屋を出たアルフが最初に口にしたのは、ガジェットの大軍と戦うリニスへの呼びかけだった。 そしてそれに対して返されたのは、彼女の無言の頷きだった。 今はそれで納得するしかない。 リインフォースらは彼女に背を向けると、すぐさま戦線を離脱する。 硬質な廊下の床を蹴り、傍らの見取り図を見やりながら、時の庭園内部を走っていく。 目標は2つ。 今回の事件の首謀者であり、首輪の制御装置を保有しているプレシアの部屋。 奪われた夜天の書が利用されているという、殺し合いのフィールドを生成する動力室。 それぞれ最上階と最下層――PT事件を体験したアルフにとっては、一種懐かしささえ思わせる状況だった。 「リインフォース。ここは二手に分かれよう」 そしてそのアルフが切り出したのは、またしても当時を想起させる提案だった。 「二手に……?」 「今は一分一秒が惜しい。あんたが地下の動力室を目指して、あたしがプレシアの部屋に向かうってのでどうだ」 「正気か? プレシア・テスタロッサの実力は、あの機械の比ではないのだろう……?」 不可解な進言に、リインフォースが眉をひそめる。 本業は科学者であるとはいえ、プレシアはSランクの魔力を有した大魔導師だ。 まさかガジェット同様のフィールドを張るなんてことはないだろうが、それ以上に地力の差が桁違いである。 事実として、アルフは以前プレシアに反旗を翻した際に、完膚なきまでに叩きのめされていた。 理論上はその方が手っ取り早いとはいえ、どう考えても自殺行為としか思えない判断だ。 「夜天の書を取り返すことができれば、あんたもいくらか本調子を取り戻せるんだろ? 心配なら、早く夜天の書を取り戻してきて、あたしを助けに来ておくれよ」 返ってきたのは、不敵な笑み。 にっと笑った表情は、先ほどのリニスのそれとも似通っていた。 なるほど確かに、言われてみれば、リインフォースは夜天の書を奪われたことで、未だ本力を発揮できずにいる。 その調子で2人がかり挑んだとしても、確実に勝利できるとは言い難いだろう。 とはいえ2人で夜天の書の奪還に向かえば、その隙に参加者達を殺されてしまう。 ならばここはアルフが注意を引きつけることで、本命のリインフォースに繋ぐのが最も確実だ。 「分かった……お前も、それまで死なないでいてくれよ」 「おうともさ」 それが最後のやりとりとなった。 階段にさしかかったところで、両者はそれぞれの道へと別れる。 犬の使い魔は上を目指し。 銀の融合騎は下を目指す。 互いの目的を達成し、再び共に戦うために。 あの忌まわしき魔女を打倒し、最期の悲願を果たすために。 |Back:[[Ooze Garden(軟泥の庭)]]|時系列順で読む|Next:[[第四回放送/あるいは終焉の幕開け(後編)]]| |Back:[[Ooze Garden(軟泥の庭)]]|投下順で読む|~| |Back:[[Ooze Garden(軟泥の庭)]]|プレシア・テスタロッサ|~| |Back:[[暗躍のR/全て遠き理想郷]]|リニス|~| |Back:[[暗躍のR/全て遠き理想郷]]|リインフォース|~| |Back:[[暗躍のR/全て遠き理想郷]]|アルフ|~| |Back:[[第三回放送]]|オットー|~| ||ドゥーエ|~| ----