貴重な貴重なサービスシーン・なのはロワ出張編 ◆Vj6e1anjAc
空気が白い。
無色無臭であるはずの大気が、色と匂いを伴っている。
視界を遮るのは不透明な白。
鼻腔をくすぐるのは硫黄の臭気。
すなわちそこに漂うものが、本来大気中にあるはずのない異物であるということ。
そして白くて硫黄の匂いに混じっているのであれば、それすなわち温泉の湯気と見て間違いなかった。
『それで、これからどうされますか?』
「もちろん、ルーテシアと明日香を止めに行く。それが当面の目標だよ」
湯煙の中で響くのは人の声。
少年とも少女とも判然としない、高い人間の声だった。
ちゃぷ、ちゃぷ、と。
男性風の機械音声と会話する声の傍らで、温泉の水音が静かに鳴る。
見ればそこにあるものは、湯船に浸かる1つの人影。
更に注意して見てみれば、その有り様が見て取れた。
不透明な水面から覗くのは、すべすべとした華奢な肩。
線の細い印象を与える白い肌は、まるで新雪に覆われた枝のようだ。
水滴を湛えた鎖骨の溝には、鮮やかな色の長髪がへばりついている。
官能的な首筋をなぞり、肩を伝って水面に浮かぶのは、艶やかに光るハニーブラウン。
さながら本物の蜂蜜のような、扇情的な煌きがそこにはあった。
滑らかな髪に、しなやかな肌。凛と鈴のように響く声。
湯船にその身を預けるのは、果たしていかほどの上玉か。
絶世の美女? 傾国の美女?
はたまた下界に舞い降りた女神だろうか?
「とはいえ僕1人では、万が一交戦状態になった場合、恐らく明日香には太刀打ちできない。反撃の手段がないからね」
嗚呼、されど現実とは冷酷にして無情。
確かにその肌は美しい。
確かにその髪は美しい。
確かにその声も美しい。
そして湯気の向こうのその顔も、下手な女性よりもよほど美しい。
されど、ここは男湯だ。
男湯に女性は入ってこない。
「だからその前に、できるだけ多くの仲間を集めないと」
無限書庫司書長、ユーノ・スクライア15歳。
いくら肌が綺麗だろうが、いくら身体が細かろうが、いくら髪の毛が長かろうが、いくら声変わり前のような声をしていようが、いくら女顔をしていようが、残念極まりないことに、彼はれっきとした男性なのであった。
よくよく確認してみれば、その胸板はとりわけがっしりしたものではなかったものの、到底女の乳房と呼べるような代物でもなかった。
世界はこんなはずじゃなかったことばかりである。
「いい具合に疲れも取れてきたし、あとは魔力の回復を待って、それから市街地の方へに向かおう」
行き先に指定した市街地は、2人が消えていった方向だ。
傍の床に置いた三角形のデバイス――バルディッシュ・アサルトへと告げる。
彼がこの非常時に、暢気にも風呂に入っていたのには、そういう理由があった。
兵は拙速を尊ぶ。
ただし、腹が減っては戦はできない。
この場合減っているのは腹ではなくスタミナだったが、どちらにせよ万全な状態には程遠い。
間違いなく強敵であろう明日香と向き合うには、どう考えても十分とは言えなかった。
故に魔力と体力が回復するまで、この温泉施設で休息を取ることにしたのだ。
湯の成分は傷を癒すのにも適していたし、身体中の泥汚れを落とせたのも、都合がよかった。
『しかし相手は曲がりなりにも、あのリインフォースを模した存在です。頭数を増やしただけで、そう簡単に倒せるでしょうか』
そう告げるバルディッシュの声のトーンは、心なしか低く感じられる。
ユーノにとっては6年前。バルディッシュにとっては10年前。
思い返すその姿は、かつて目覚めた闇の書の闇。
戦斧の主たるフェイトを下し、なのはの攻撃をほぼ完全に無力化した最悪の強敵――完全覚醒を遂げた夜天の書・リインフォースの姿だ。
AAAランクの魔導師2人がかりでも、ほとんど傷らしい傷をつけられなかった相手である。
全ての参加者に制限の課せられた現状では、そうそう太刀打ち相手がいるとも思えない。
「あれは見た目を真似ているだけであって、中身まで完全に再現されているわけじゃない。
実際、元々の明日香には魔力が感じられなかった……今の彼女に発揮できるのは、ジュエルシード1個分の魔力だけだよ」
それでも、ユーノに絶望はない。
あれはあくまで天上院明日香が、ジュエルシードの力を借りて具現化したに過ぎない存在だ。
確かにジュエルシードの魔力量は、十分に驚異的な存在ではある。
闇の書事件よりも更に以前、なのはとフェイトが1個のジュエルシードを取り合い、結果暴走させてしまったこともある。
その時に周囲に発生した凄まじい衝撃波は、2人を容易に吹き飛ばしていた。
だが、あくまでそれだけだ。
ジュエルシード1個だけでは、かつて夜天の書が有していたパワーには及ばない。
何せその時のリインフォースは、スターライトブレイカーの一撃で、海鳴市の中心部そのものを飲み込んだのだから。
「それに、彼女の制限はまだ残っている」
自分達を縛る能力制限が、首輪によって機能しているものならば、当然明日香にも発揮されているはず。
そうなれば更に能力は落ちる。
一対一では歯が立たなくとも。
「強敵でも、決して勝てない相手じゃないよ」
信頼できる仲間達と共に戦えば、必ず勝機を掴むことができる。
「……もっとも、戦わずに済むに越したことはないんだけどね」
最後の一言は、苦笑と共に発せられた。
そしてそれで終わりと言わんばかりに、ざばっと身体を湯船から起こした。
当然休憩時間の全てを、風呂場で費やすわけがない。そんなことをしていてはのぼせてしまう。
あとは湯冷めに注意しながら、ロビーのマッサージチェアあたりで過ごすつもりだ。
ひた、ひた、ひた、と足音を立て、石畳の床を歩いていく。
他に客もいないので、タオルを腰に巻くことはしていない。
色白でスマートな全裸体が、惜しげもなく披露されているということだ。
一歩一歩足を進める度、小ぶりな尻が左右に揺れる。
適度に引き締まったそれは、よくよく見れば男のそれだが、遠目には女の美尻に見えなくもない。
すらりと伸びた細い両足が、そのイメージをより駆り立てるのだろう。
されど現実は非情である。詳細な描写は敢えて省くが、前の方に目を向ければ、それも否応なしに理解させられるだろう。
大事なことなので、もう一度言うことにする。
世界は本当に、こんなはずじゃあなかったことばかりだ。
無色無臭であるはずの大気が、色と匂いを伴っている。
視界を遮るのは不透明な白。
鼻腔をくすぐるのは硫黄の臭気。
すなわちそこに漂うものが、本来大気中にあるはずのない異物であるということ。
そして白くて硫黄の匂いに混じっているのであれば、それすなわち温泉の湯気と見て間違いなかった。
『それで、これからどうされますか?』
「もちろん、ルーテシアと明日香を止めに行く。それが当面の目標だよ」
湯煙の中で響くのは人の声。
少年とも少女とも判然としない、高い人間の声だった。
ちゃぷ、ちゃぷ、と。
男性風の機械音声と会話する声の傍らで、温泉の水音が静かに鳴る。
見ればそこにあるものは、湯船に浸かる1つの人影。
更に注意して見てみれば、その有り様が見て取れた。
不透明な水面から覗くのは、すべすべとした華奢な肩。
線の細い印象を与える白い肌は、まるで新雪に覆われた枝のようだ。
水滴を湛えた鎖骨の溝には、鮮やかな色の長髪がへばりついている。
官能的な首筋をなぞり、肩を伝って水面に浮かぶのは、艶やかに光るハニーブラウン。
さながら本物の蜂蜜のような、扇情的な煌きがそこにはあった。
滑らかな髪に、しなやかな肌。凛と鈴のように響く声。
湯船にその身を預けるのは、果たしていかほどの上玉か。
絶世の美女? 傾国の美女?
はたまた下界に舞い降りた女神だろうか?
「とはいえ僕1人では、万が一交戦状態になった場合、恐らく明日香には太刀打ちできない。反撃の手段がないからね」
嗚呼、されど現実とは冷酷にして無情。
確かにその肌は美しい。
確かにその髪は美しい。
確かにその声も美しい。
そして湯気の向こうのその顔も、下手な女性よりもよほど美しい。
されど、ここは男湯だ。
男湯に女性は入ってこない。
「だからその前に、できるだけ多くの仲間を集めないと」
無限書庫司書長、ユーノ・スクライア15歳。
いくら肌が綺麗だろうが、いくら身体が細かろうが、いくら髪の毛が長かろうが、いくら声変わり前のような声をしていようが、いくら女顔をしていようが、残念極まりないことに、彼はれっきとした男性なのであった。
よくよく確認してみれば、その胸板はとりわけがっしりしたものではなかったものの、到底女の乳房と呼べるような代物でもなかった。
世界はこんなはずじゃなかったことばかりである。
「いい具合に疲れも取れてきたし、あとは魔力の回復を待って、それから市街地の方へに向かおう」
行き先に指定した市街地は、2人が消えていった方向だ。
傍の床に置いた三角形のデバイス――バルディッシュ・アサルトへと告げる。
彼がこの非常時に、暢気にも風呂に入っていたのには、そういう理由があった。
兵は拙速を尊ぶ。
ただし、腹が減っては戦はできない。
この場合減っているのは腹ではなくスタミナだったが、どちらにせよ万全な状態には程遠い。
間違いなく強敵であろう明日香と向き合うには、どう考えても十分とは言えなかった。
故に魔力と体力が回復するまで、この温泉施設で休息を取ることにしたのだ。
湯の成分は傷を癒すのにも適していたし、身体中の泥汚れを落とせたのも、都合がよかった。
『しかし相手は曲がりなりにも、あのリインフォースを模した存在です。頭数を増やしただけで、そう簡単に倒せるでしょうか』
そう告げるバルディッシュの声のトーンは、心なしか低く感じられる。
ユーノにとっては6年前。バルディッシュにとっては10年前。
思い返すその姿は、かつて目覚めた闇の書の闇。
戦斧の主たるフェイトを下し、なのはの攻撃をほぼ完全に無力化した最悪の強敵――完全覚醒を遂げた夜天の書・リインフォースの姿だ。
AAAランクの魔導師2人がかりでも、ほとんど傷らしい傷をつけられなかった相手である。
全ての参加者に制限の課せられた現状では、そうそう太刀打ち相手がいるとも思えない。
「あれは見た目を真似ているだけであって、中身まで完全に再現されているわけじゃない。
実際、元々の明日香には魔力が感じられなかった……今の彼女に発揮できるのは、ジュエルシード1個分の魔力だけだよ」
それでも、ユーノに絶望はない。
あれはあくまで天上院明日香が、ジュエルシードの力を借りて具現化したに過ぎない存在だ。
確かにジュエルシードの魔力量は、十分に驚異的な存在ではある。
闇の書事件よりも更に以前、なのはとフェイトが1個のジュエルシードを取り合い、結果暴走させてしまったこともある。
その時に周囲に発生した凄まじい衝撃波は、2人を容易に吹き飛ばしていた。
だが、あくまでそれだけだ。
ジュエルシード1個だけでは、かつて夜天の書が有していたパワーには及ばない。
何せその時のリインフォースは、スターライトブレイカーの一撃で、海鳴市の中心部そのものを飲み込んだのだから。
「それに、彼女の制限はまだ残っている」
自分達を縛る能力制限が、首輪によって機能しているものならば、当然明日香にも発揮されているはず。
そうなれば更に能力は落ちる。
一対一では歯が立たなくとも。
「強敵でも、決して勝てない相手じゃないよ」
信頼できる仲間達と共に戦えば、必ず勝機を掴むことができる。
「……もっとも、戦わずに済むに越したことはないんだけどね」
最後の一言は、苦笑と共に発せられた。
そしてそれで終わりと言わんばかりに、ざばっと身体を湯船から起こした。
当然休憩時間の全てを、風呂場で費やすわけがない。そんなことをしていてはのぼせてしまう。
あとは湯冷めに注意しながら、ロビーのマッサージチェアあたりで過ごすつもりだ。
ひた、ひた、ひた、と足音を立て、石畳の床を歩いていく。
他に客もいないので、タオルを腰に巻くことはしていない。
色白でスマートな全裸体が、惜しげもなく披露されているということだ。
一歩一歩足を進める度、小ぶりな尻が左右に揺れる。
適度に引き締まったそれは、よくよく見れば男のそれだが、遠目には女の美尻に見えなくもない。
すらりと伸びた細い両足が、そのイメージをより駆り立てるのだろう。
されど現実は非情である。詳細な描写は敢えて省くが、前の方に目を向ければ、それも否応なしに理解させられるだろう。
大事なことなので、もう一度言うことにする。
世界は本当に、こんなはずじゃあなかったことばかりだ。
◆
ユーノの魔力がほぼ完全に回復し、それから温泉を出て駅にまでたどり着いた頃には、既に夕方に差し掛かっていた。
西の地平から照りつける陽光が、少年の横顔に橙を宿す。
同年代の男に比べて色白な肌は、容易く黄昏の色に染まった。
斜陽の中で身に着けているのは、普段仕事の時などに着用しているスーツだ。
要するに入浴する前から着ていたもので、本来ならその時点での身体同様、思いっきり土汚れだらけになっていたはずのものである。
普通なら、当然そんなものを風呂上がりに身に着けるはずもないのだが、温泉に洗濯機があったのが幸いした。
入浴し更に休憩をしているうちに、スーツは綺麗さっぱり洗い上がっていたのだ。
明日香の攻撃の余波で、所々擦り切れていたのは気になったが、浴衣よりは動きやすいということで、こうして再び着用したのだった。
ちなみに服が洗い上がるまで着ていた浴衣も、一応デイパックに入れてある。
「確かにそう書いてあったんだよね、バルディッシュ?」
そしてそのスーツを身に纏ったユーノは、車庫の扉の前に立っていた。
『はい。Ms.ブレンヒルト共々、確かに確認しました』
既に命を落としてしまった仲間の名前。
自分を守るために犠牲になり、救えぬまま逝ってしまった娘。
その名を耳にしてしまうと、どうしても表情に影が差す。
ユーノの目の前にあるそれは、今は亡きブレンヒルト・シルトが、彼と合流する前に調べたものだ。
その時そこには立て札があり、恐らく主催者側からのメッセージが刻まれていた。
残り15人になるまでこの扉は決して開かない。もし無理に開けようとすればそれ相応の罰を与えようではないか――と。
そして今も、立て札そのものは存在している。
「で、その後で壊されてしまった……と」
ただし、粉々のスクラップとして、だが。
どうやらブレンヒルトらが離れた後に、立て札は何者かの手によって破壊されてしまったらしい。
実はその実行犯は、つい数分前までその場にいたスバル・ナカジマであり、
今から走って追いかければ、十分に追いつけるような距離にいたのだが、それを知らないユーノにとっては、まるきり意味のない話だ。
「恐らくこれを壊した人は、この中に入っているものが、その条件に見合うだけの武器だと考えていたと思う」
『それを悪用されないようにするために、立て札を破壊した、と?』
「多分そう。ただの八つ当たりにしては度が過ぎているからね」
木片を摘み上げながら、ユーノがバルディッシュの問いに答える。
もちろんこの立て札を壊した動機が、もっともらしい記述を抹消して、中身にそういうものがあると悟られないようにするための隠蔽工作ではなく、
ただ単に開かない扉にイライラし、衝動的に壊してしまっただけという可能性もあるにはある。
しかし仮にそうだとするなら、ここまで粉砕する必要はない。せいぜい足で蹴っ飛ばすくらいの方が自然なはずだ。
故に後者の可能性を切り捨て、前者の仮説を信用することにする。
「でも……それでも、これはちょっと詰めが甘いよ」
『どういうことですか?』
微かに眉を細めたユーノに、バルディッシュが再び問いかけた。
「あのメッセージを隠すということは、確かに、中にそれだけの条件が必要な何かが入っている可能性を、ある程度隠すことができる。
でもそれは、この扉が危険なものであるということまで隠してしまうことなんだ」
要するに、こういうことだ。
立て札は完全に壊されてしまっている。であれば、もうそこにあるメッセージを読むことはできない。
それは確かに、『残り15人になるまで開かない』という思わせぶりな記述を隠すことには繋がる。
だがそれでは同時に、『無理に開けようとすればそれ相応の罰を与える』という記述までも隠してしまうということに繋がるのだ。
そうなればそうとは知らぬままに、うっかり開けようとしてしまった者が、主催者に罰を与えられる――なんて事態になりかねない。
罰則の詳しい内容までは分からないが、もし万が一首輪の爆破などだったとしたら、それだけで死人が出てしまう。
本来立て札を壊すと決めたからには、絶対に対策を立てておかなければならない事態なのだ。
『成る程、確かにこのままにしておくわけにはいきませんね』
「そうだね。だから、それを防ぐためにも……と」
言いながら、ユーノが踵を返す。
後頭部でリボンによって纏められた、ハニーブラウンの長髪がふわりと揺れる。
振り返りその場を離れ目指した先は、何らかの攻撃の余波によって半壊した駅員詰所。
無事な部分をがさごそと探り、程なくして見つけたのはセロハンテープ。
そのままそれを拝借し、元の車庫の前へと戻る。
「どうせここにこの車庫があるだけで、どうしても怪しさは拭いきれないものなんだ。ならいっそ開き直って……」
ぶつくさと独り言を口にしながら、デイパックからメモ帳を取り出した。
続いて筆記用具を取り出し、切り離したページに文字を書き込む。
ミッド語、日本語、ついでに英語。
3通りの言語で同じメッセージを書き込むと、それをセロハンテープで扉に貼り付ける。
「……とりあえずはこれでよし、と」
――危険。触るな。
3つの言葉で書かれた張り紙を、車庫の扉に貼り付けた瞬間。
そういえばもうすぐ放送の時間だと、頭の片隅で思い出した瞬間。
それがその首に巻かれたリングから、三度目の放送が流れた瞬間だった。
西の地平から照りつける陽光が、少年の横顔に橙を宿す。
同年代の男に比べて色白な肌は、容易く黄昏の色に染まった。
斜陽の中で身に着けているのは、普段仕事の時などに着用しているスーツだ。
要するに入浴する前から着ていたもので、本来ならその時点での身体同様、思いっきり土汚れだらけになっていたはずのものである。
普通なら、当然そんなものを風呂上がりに身に着けるはずもないのだが、温泉に洗濯機があったのが幸いした。
入浴し更に休憩をしているうちに、スーツは綺麗さっぱり洗い上がっていたのだ。
明日香の攻撃の余波で、所々擦り切れていたのは気になったが、浴衣よりは動きやすいということで、こうして再び着用したのだった。
ちなみに服が洗い上がるまで着ていた浴衣も、一応デイパックに入れてある。
「確かにそう書いてあったんだよね、バルディッシュ?」
そしてそのスーツを身に纏ったユーノは、車庫の扉の前に立っていた。
『はい。Ms.ブレンヒルト共々、確かに確認しました』
既に命を落としてしまった仲間の名前。
自分を守るために犠牲になり、救えぬまま逝ってしまった娘。
その名を耳にしてしまうと、どうしても表情に影が差す。
ユーノの目の前にあるそれは、今は亡きブレンヒルト・シルトが、彼と合流する前に調べたものだ。
その時そこには立て札があり、恐らく主催者側からのメッセージが刻まれていた。
残り15人になるまでこの扉は決して開かない。もし無理に開けようとすればそれ相応の罰を与えようではないか――と。
そして今も、立て札そのものは存在している。
「で、その後で壊されてしまった……と」
ただし、粉々のスクラップとして、だが。
どうやらブレンヒルトらが離れた後に、立て札は何者かの手によって破壊されてしまったらしい。
実はその実行犯は、つい数分前までその場にいたスバル・ナカジマであり、
今から走って追いかければ、十分に追いつけるような距離にいたのだが、それを知らないユーノにとっては、まるきり意味のない話だ。
「恐らくこれを壊した人は、この中に入っているものが、その条件に見合うだけの武器だと考えていたと思う」
『それを悪用されないようにするために、立て札を破壊した、と?』
「多分そう。ただの八つ当たりにしては度が過ぎているからね」
木片を摘み上げながら、ユーノがバルディッシュの問いに答える。
もちろんこの立て札を壊した動機が、もっともらしい記述を抹消して、中身にそういうものがあると悟られないようにするための隠蔽工作ではなく、
ただ単に開かない扉にイライラし、衝動的に壊してしまっただけという可能性もあるにはある。
しかし仮にそうだとするなら、ここまで粉砕する必要はない。せいぜい足で蹴っ飛ばすくらいの方が自然なはずだ。
故に後者の可能性を切り捨て、前者の仮説を信用することにする。
「でも……それでも、これはちょっと詰めが甘いよ」
『どういうことですか?』
微かに眉を細めたユーノに、バルディッシュが再び問いかけた。
「あのメッセージを隠すということは、確かに、中にそれだけの条件が必要な何かが入っている可能性を、ある程度隠すことができる。
でもそれは、この扉が危険なものであるということまで隠してしまうことなんだ」
要するに、こういうことだ。
立て札は完全に壊されてしまっている。であれば、もうそこにあるメッセージを読むことはできない。
それは確かに、『残り15人になるまで開かない』という思わせぶりな記述を隠すことには繋がる。
だがそれでは同時に、『無理に開けようとすればそれ相応の罰を与える』という記述までも隠してしまうということに繋がるのだ。
そうなればそうとは知らぬままに、うっかり開けようとしてしまった者が、主催者に罰を与えられる――なんて事態になりかねない。
罰則の詳しい内容までは分からないが、もし万が一首輪の爆破などだったとしたら、それだけで死人が出てしまう。
本来立て札を壊すと決めたからには、絶対に対策を立てておかなければならない事態なのだ。
『成る程、確かにこのままにしておくわけにはいきませんね』
「そうだね。だから、それを防ぐためにも……と」
言いながら、ユーノが踵を返す。
後頭部でリボンによって纏められた、ハニーブラウンの長髪がふわりと揺れる。
振り返りその場を離れ目指した先は、何らかの攻撃の余波によって半壊した駅員詰所。
無事な部分をがさごそと探り、程なくして見つけたのはセロハンテープ。
そのままそれを拝借し、元の車庫の前へと戻る。
「どうせここにこの車庫があるだけで、どうしても怪しさは拭いきれないものなんだ。ならいっそ開き直って……」
ぶつくさと独り言を口にしながら、デイパックからメモ帳を取り出した。
続いて筆記用具を取り出し、切り離したページに文字を書き込む。
ミッド語、日本語、ついでに英語。
3通りの言語で同じメッセージを書き込むと、それをセロハンテープで扉に貼り付ける。
「……とりあえずはこれでよし、と」
――危険。触るな。
3つの言葉で書かれた張り紙を、車庫の扉に貼り付けた瞬間。
そういえばもうすぐ放送の時間だと、頭の片隅で思い出した瞬間。
それがその首に巻かれたリングから、三度目の放送が流れた瞬間だった。
【1日目 夕方(放送の瞬間)】
【現在地 E-7 駅・車庫の前】
【ユーノ・スクライア@L change the world after story】
【状態】全身に擦り傷、腹に刺し傷(ほぼ完治)、明日香が心配
【装備】バルディッシュ・アサルト(待機状態/カートリッジ4/6)@魔法少女リリカルなのはStrikerS
【道具】支給品一式、ガオーブレス(ウィルナイフ無し)@フェレットゾンダー出現!、
双眼鏡@仮面ライダーリリカル龍騎、ブレンヒルトの絵@なのは×終わクロ、浴衣、セロハンテープ、首輪(矢車)
【思考】
基本:なのはの支えになる。ジュエルシードを回収する。フィールドを覆う結界の破壊。
1.ルーテシアと明日香を探しに市街地へ向かい、見つけたら説得する。
2.Lや元の世界の仲間達など、共に戦う仲間を集める。
3.ジュエルシード、シャマルの捜索。
4.首輪の解除。
5.ここから脱出したらブレンヒルトの手伝いをする。
【備考】
※JS事件に関連した事は何も知りません。
※プレシアの存在に少し疑問を持っています。
※ルーテシアはマフィアや極道の娘であり、自分が刺された原因は破廉恥な行いをしたからだと思っています。
※結界を壊す一つの手段としてジュエルシードの力の解放を考えていますが、実際にやるかどうかはまだ分かりません。
※平行世界について知りました(ただしなのは×終わクロの世界の事はほとんど知りません)。
※会場のループについて知りました。
※E-7・駅の車庫前にあった立て札に書かれた内容を把握しました。
【現在地 E-7 駅・車庫の前】
【ユーノ・スクライア@L change the world after story】
【状態】全身に擦り傷、腹に刺し傷(ほぼ完治)、明日香が心配
【装備】バルディッシュ・アサルト(待機状態/カートリッジ4/6)@魔法少女リリカルなのはStrikerS
【道具】支給品一式、ガオーブレス(ウィルナイフ無し)@フェレットゾンダー出現!、
双眼鏡@仮面ライダーリリカル龍騎、ブレンヒルトの絵@なのは×終わクロ、浴衣、セロハンテープ、首輪(矢車)
【思考】
基本:なのはの支えになる。ジュエルシードを回収する。フィールドを覆う結界の破壊。
1.ルーテシアと明日香を探しに市街地へ向かい、見つけたら説得する。
2.Lや元の世界の仲間達など、共に戦う仲間を集める。
3.ジュエルシード、シャマルの捜索。
4.首輪の解除。
5.ここから脱出したらブレンヒルトの手伝いをする。
【備考】
※JS事件に関連した事は何も知りません。
※プレシアの存在に少し疑問を持っています。
※ルーテシアはマフィアや極道の娘であり、自分が刺された原因は破廉恥な行いをしたからだと思っています。
※結界を壊す一つの手段としてジュエルシードの力の解放を考えていますが、実際にやるかどうかはまだ分かりません。
※平行世界について知りました(ただしなのは×終わクロの世界の事はほとんど知りません)。
※会場のループについて知りました。
※E-7・駅の車庫前にあった立て札に書かれた内容を把握しました。
【全体の備考】
※E-7・駅の車庫の扉に、「危険。触るな」とミッド語・日本語・英語で書かれた張り紙が貼られています。
※E-7・駅の車庫の扉に、「危険。触るな」とミッド語・日本語・英語で書かれた張り紙が貼られています。
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