『Full Charge(フルチャージ)』
ライダーパスをベルトにセタッチし、フルチャージする電王。
音声に合わせて、ベルトの中央部―ターミナルバックル―から、デンガッシャーへと赤い光が集束されて行く。
「俺の必殺技……パート2!!」
掛け声と共に、デンガッシャーを振るう電王。同時に、デンガッシャーの先端―オーラソード―はスネイルオルフェノクへと飛んで行く!
もちろんそれを防ぐ術など持ち合わせていないスネイルオルフェノクは、電王が放ったオーラソードに頭から切り裂かれる。
オーラソードの切り口から漏れる赤い光。スネイルオルフェノクはその動きを止め、見事に爆発した。
「気持ちいーーーッ!!!」
久々の大暴れに歓喜する電王。
ガッツポーズで、電王としての初めての敵を撃退した事に喜びを隠せないのだ。
電王を遠目に眺めていたアギトも、もう心配はいらないだろうと、踵を返す。
マシントルネイダーの元まで歩いたアギトは、マシンに跨がりながら、一瞬電王に目線を向ける。
「(新らしい戦士か……)」
アギトは、これまでも様々な戦士と出会って来た。
これで何人目になるのかは正確に覚えてはいないが、とにかくまた増えた事には間違い無い。
まぁ増えたからといってアギトがする事は変わらないが。
アギトは、ハナ達に気付かれる前に、マシントルネイダーを駆り、この場所から姿を消した。
ACT.17「それぞれの傷」前編
「電王システム……?」
それから数分後、お馴染みのアースラブリッジに、良太郎の声が響いた。
たった今まで電王についての簡単な説明を受けていた良太郎だが、これがまたしてもややこしい話なのだ。
キョトンと首を傾げ、ハナの瞳を見つめる。怪訝そうな表情に、不安も相俟って異様に暗い面持ちだ。
それもそのはずだろう。確かに今までも魔法やら多次元世界やら、十分訳の解らない事続きであったが、まだ直接的に自分との係わりは無かった。
だが、その客観的な立場もついに崩れ去り、突然『電王』とかいう謎のシステムの装着者に選ばれてしまったのだ。
ただでさえ不幸続きの良太郎にとって、出来る事ならばこれ以上ややこしい事に首を突っ込みたくは無かった。
いよいよもって本格的に厄介事に巻き込まれてしまったという事実に、不安を隠せないでいるのだ。
「……で、どうなの良太郎? 電王として一緒に戦ってくれるかしら?」
「そんなこといきなり言われても……」
ハナの強気な口調に、チラチラと目線を外しながら縮こまる良太郎。
「お願い……! 貴方じゃなきゃ無理なの!」
「……別に僕が戦わなくたって、他にも戦える人がいるんじゃ……さっきだって……」
「アギトの事か?」
「アギト……?」
突然声を発したクロノに、またしても目を丸くする良太郎。
先程の戦闘で自分を助けてくれた仮面ライダー。戦いながらも良太郎を守り、オルフェノク相手にも引けを取らなかった戦士。
その名をアギトと、管理局側は勝手に呼称している訳だ。もちろん良太郎はそんな事実を知る由も無いが。
「あいつは僕達の仲間って訳じゃない。どうやら今は敵対する意思は無いみたいだが、なのは達だって何度かアギトとは戦ってるんだ」
「そんな……でも、天道さんやクロノ君だって仮面ライダーなんでしょ?」
「天道総司の身柄は拘束中。僕だって無敵という訳じゃない。一人で全ての怪人やイマジンと戦うには無理がある。」
「…………」
クロノの言葉に、黙って俯く良太郎。自分の中に潜むイマジンも、管理局の誘いには賛同しているらしく、良太郎の頭に直接声を響かせる。
『何うじうじしてんだよ? 楽しそうじゃねぇか?』
「楽しいって……そんな単純な……」
「そうね……確かに戦力は一人でも多い方がいいわ。どうかしら、良太郎君?
貴方も私達と一緒に、電王として平和を守るヒーローになってみる気はない?」
良太郎の呟きを無視し、リンディが微笑む。
ヒーローという、男の子なら一度は憧れるワードを織り交ぜた巧みな話術で、良太郎を引き込むつもりだ。
『ホラ、ヒーローだぜヒーロー! カッコイイじゃねぇかよ!?』
「もう……君は少し黙っててよ……!」
頭の中で喋り続ける声に、怒鳴る良太郎。
「黙っててって……誰に向かって言ってるんだ君は……」
クロノも呆れた表情で良太郎を見詰める。良太郎の中に潜んだイマジンの声は良太郎にしか聞こえない。
その為に、イマジンに向けて発せられた良太郎の怒鳴り声は、周囲から見ればリンディに向けての発言に見える訳だ。
リンディもクロノも、ため息混じりの表情で良太郎を睨む。そんな気まずい空気に、良太郎は思わず苦笑い――
――と、その時であった。
「って……いててててっ!?」
「ごめんね良太郎。ちょっと我慢して」
「ハ、ハナさん……!?」
突如として、ハナが良太郎の耳を掴み、引っ張り始めた。当然、良太郎は突然の痛みに表情を歪める。
そのまま良太郎の耳を自分の顔に近付けたハナは、大きな声で怒鳴った。それこそ鼓膜が破れるのではないかと言うくらいの大声で。
「いつまでも隠れてないで、良太郎の体から出てきなさいっ!!!」
「うわぁああああっ!!?」
刹那、良太郎の体から赤い物体が飛び出した。ハナの怒声に吹っ飛ばされるように、飛び出た“それ”は、悲鳴と共に勢い良く地面に転がった。
「……コノヤロウ! いきなり何しやがんだ、ビックリするだろうが!!」
現れた“それ”は、ハナぬ向かって大声で怒鳴り付けた。その光景に、リンディは眉をしかめ、クロノは咄嗟に身構える。
赤い体に、二本のツノ。剥き出された牙に、骸骨の様なシルエットの頭。
警戒するのも無理は無い。どこからどう見ても、明らかに怪人だ。
それでも臆する事なく、ハナは力強く、片足を踏み出した。「ズドン!」と音が響くくらいに。
「アンタ、一体何者!? いいえ、聞くまでも無いわね、イマジン!」
「「……イマジンだって!?」」
ハナの言葉に、クロノもエイミィも、声を揃えて身を乗り出した。
◆
さて、ここで視点を一気に翌日へと進めよう。
第97管理外世界、地球。時間も既に昼過ぎを回っている頃だ。
街に停められた一台のワゴン車の中で、一人の男の声が響いた。怒鳴り声に聞こえる程の、強い口調で。
「お願いします田所さん! 知ってる事を教えて下さい!!」
もはや詳しい説明は不要だろう。声の主は加賀美新。
天道から「ネイティブについて調べて欲しい」と頼まれた加賀美にとって、自分の班のリーダーである田所は最も頼れる存在であった。
それ故、少しでも情報を掴む為に、こうして田所に問い質している最中だ。
「教えて下さい田所さん! ネイティブって一体何なんですか……!?」
「加賀美君……少し落ち着いて……」
怒鳴る加賀美の肩を、そっと触る岬。加賀美はそれを振り払い、尚も田所に詰め寄る。
「………………」
「田所さん!!」
だが、いくら問い質そうが田所は一言も喋る事なく、ただじっと表情をしかめるのみ。
「お願いします……教えて下さい! 天道を……ひよりを救いたいんです!」
田所の瞳を見詰め、諦めずに自分の熱意をアピールする加賀美。それでも田所は無言のまま。
「田所さん!」
……いや、表には出さないが、加賀美の言葉は田所の心にしっかり届いていた。
田所は、非常にゆったりとした動きで、懐から一枚の写真を取り出した。
そこに写った人物は、ネイティブについて探っていた今の加賀美にとって、重大な秘密を握っているであろう男――
「立川……大悟……? なんでこの男が……」
「本部からの命令だ。この男をワームから守れ」
「な……ワームから守れぇ……!?」
――立川大悟だ。サラっと、新たな任務を言い終えた田所は、すぐに加賀美に一枚の紙を渡した。
「その男はこの場所にいる。」
「田所さん……」
紙を手に取り、しばらく見詰める加賀美。どうやらどこかの住所が書かれているらしい。
その住所も、加賀美にとっては訳の解らない場所だ。何故立川がこんな場所にいる……? と、ツッコミを入れたくもなる。
「どうした、行かないのか?」
「田所さん……ありがとうございます!」
暫しの沈黙の後、加賀美は勢い良く、深々と頭を下げた。田所への感謝の気持ちを込めて。
それからややあって、加賀美は海鳴市の市街地を歩いていた。
田所から渡された髪切れには一体どのような内容が記されていたのか。
加賀美は今、途中で出会ったなのはとフェイトに付き纏われながらも、地図に書かれたその場所を目指していた。
「で……加賀美、どこに行くって……?」
「ん……あぁ、この先の幼稚園にちょっとな。あと加賀美“さん”な」
「あ……ごめんなさい」
歩きながらフェイトの質問に答える加賀美。フェイトも軽く謝罪しながら、加賀美の一歩後ろを歩く。
次に、その隣を歩くなのはが口を開いた。目を細め、じとっとした目付きで。
「加賀美さん、幼稚園になんか何しに行くの……? まさか……そういう趣味……?」
「違うっ! 誤解だ! あと加賀美“さん”だ!」
「ちゃんと加賀美さんって言ったよ!?」
「え……? あ……そう? ごめん……」
「もう……ちゃんと相手の話は聞こうね?」
「気をつけます……」
先程までの勢いを失った加賀美は、今度はなのはに謝罪した。少ししょんぼりしながら。
なのは達もなんだかんだでこの状況を楽しんでいるらしく、まぁ一応は平和と言える光景である。
三人は適当に雑談しながら、目的地に向かって歩を進める。街中の歩道を、三人で横になって。
そんな中、三人が渡る事無く通り過ぎた歩道橋が一つ。
……三人は気付かなかった。
歩道橋のすぐそばに、仮面ライダーカイザこと草加雅人の愛車、“サイドバッシャーが”停められていた事に。
三人は気付かなかった。歩道橋の上から、突き刺すような冷たい視線で睨む一人の男がいた事に。
「――まさかこんなに早いとは思わなかったな」
草加雅人は、小さく呟いた。視線の先にいるのは、外ならぬ高町なのは。
乾巧や木場勇治に向ける視線と変わらない、見るからに疎ましそうな目線で、なのはを見詰めていた。
軽く微笑んだ草加は、手に握ったカイザフォンをゆっくりとフォンブラスターへと変形させた。
銃口となったカイザフォンのアンテナが狙うのは、今まさに歩道橋の階段前を通り過ぎようとしているなのはだ。
「君にはまだ眠っていて貰わなきゃ都合が悪いんだよ……」
薄くニヤついた草加が、カイザフォンの引き金を引こうとした、その時であった。
「……!?」
なんと、草加が狙うなのはの前に、一緒に歩いていた加賀美が立ち塞がったのだ。
――気付かれたか?
そう思った草加は、咄嗟に隠すようにカイザフォンを下ろした。
しかし加賀美の目線は明らかにこちらを見ている様子では無い。それどころか全く別の方向を向きながら話し続けている。
つまり、加賀美の行動は“偶然”だ。別になのはを庇おうとしていた訳では無く、“偶然”なのはに重なる位置に動いただけなのだ。
三人はそのまま次の角を曲がり、草加の位置からは完全に死角に入ってしまう。
狙撃のタイミングを逃してしまった草加は、小さく舌打ちをした後、カイザフォンを懐にしまった。
「運がいいなぁ……? 高町なのは……」
どす黒い笑みを浮かべながら、草加は歩道橋の手摺りを殴りつけた。
◆
それから数分後。街の小さな幼稚園を覗く人影が3人。もはや言うまでも無いだろうが、なのは達だ。
3人の目線の先にいるのは、幼稚園で子供達と遊ぶ保父さん……いや、それはなのは達の良く知る人物。
「あれ……立川さんだよね?」
「……立川さん……みたいだね」
「ああ、立川だな」
なのはを始めとし、3人の意見が揃う。 目の前で楽しそうに子供とじゃれ合っているのは、紛れも無い立川その人だ。
目の前の立川は、なのは達には気付かずに子供達と遊んでいる。なのは達には見せたことも無いような、満面の笑顔でだ。
何故に幼稚園? 等と思っていた加賀美も、それに同行したなのはもこれを見て納得する。
いつも自分達と一緒に居ない時は何処で何をしているのかと思っていたが、なるほど。
立川は管理局局員としてでは無い普段の顔は、幼稚園の先生だったという訳だ。
「立川さんってあんな顔もするんだね~」
「うん、あんな楽しそうな立川さん、初めてだよ……!」
なのはもフェイトも、立川の新しい一面を発見出来た事に対して素直に喜んでいる様子だ。
自分達の仲間には、こんなにも子供が好きな優しい男がいたのだ、と。それだけで二人の表情は自然とにこやかになる。
今も目の前の立川は、転んで泣きそうな子供を立たせ、励ましている。
立川に励まされた子供はすぐに元気を取り戻し、また友達の輪の中へと戻って行く。
普通に考えれば、その行動だけでもかなりの好印象な筈。だが、加賀美だけは素直に微笑む事が出来なかった。
「……どうしたの、加賀美? そんな怖い顔して」
「ん……いや、何でもないさ」
加賀美の表情に気付いたフェイトは、心配そうに加賀美を見上げる。
加賀美には、二人と同じ様に素直に笑顔で立川を眺める事が出来なかった。
何故なら、“立川の正体はワームかもしれない”という疑いがどうしても加賀美の頭から離れないからだ。
現段階では、立川がワームだと言う事はあくまで天道の推測に過ぎない。
だが、加賀美の思考は至って単純。信頼のおける天道の推測を事実として受け止めてしまっているのだ。
まぁ結果としてそれは正しい判断なのだが。加賀美がそれを知るのは、この直後の事だった。
一瞬目を離した加賀美の耳に、突き刺さるような悲鳴が響いた。
「……なっ!?」
すぐに幼稚園の運動場へと目線を戻す加賀美。なのはとフェイトも同様に運動場を見遣る。
そこにいるのは、10匹程で徒党を組んだアーミーサリス。
加賀美達は咄嗟に、幼稚園の塀を飛び越え、走り出していた。
「変身!」
「バルディッシュ!」
「レイジングハート!」
3人の体はすぐに光に包まれた。ベルトに装着したガタックゼクターから聞こえる電子音声と、二人の持つデバイスの声が重なる。
すぐにそれぞれの変身を完了した3人。ガタックとフェイトはそのまま突っ込み、なのははレイジングハートを構えた。
立川の前に現れたサリスのうち一匹が、ディバインバスターの光に飲み込まれ、爆発。
すぐになのは達が来てくれたという事に気付いた立川は、安心して避難する園児達の指揮をとり始める。
その隙に、フェイトとガタックが近寄ろうとするアーミーサリスをメッタ斬りにして行く。
なのは達が時間を稼いでくれたお陰で、ほとんどの園児は運動場から避難することに成功。
……いや。一組だけ、逃げ遅れた親子がいた。それも、数匹のサリスに取り囲まれている。最悪の状況だ。
ガタックもなのは達も、自分の戦いに手一杯で、親子には気付かない。
唯一気付いたのは、立川のみだ。このままでは、あの親子は間違いなく殺される。そう思った立川は、居ても立ってもいられなかった。
「おいっ、立川!?」
突然走り出した立川。それに気付いたガタックの大きな声に、なのはとフェイトも立川に視線を向ける。
親子を襲うワームに向かって一直線に突っ込んで行く立川。唸りながら走る立川の体が、みるみるうちに変質してゆく。
それは、なのは達にとっては信じられない光景だった。今までずっと仲間であった男が、ずっと敵と認識していたものへと変化したのだ。
「立川……さん……っ!?」
「な……そんな!?」
少しツノの長いサリスワームに変化した立川を見たなのはとフェイトは、戦闘中にも関わらず、その動きを止め、目を丸める。
もちろんガタックも、二人と同様。驚愕の余り動きを止めてしまう。
「あいつ……あいつ、やっぱりワームだったのかッ!?」
「え……えぇっ!?」
「……加賀美!?」
追い撃ちを掛けるように発せられたガタックの言葉に、なのは達はさらに驚いた。
ガタックは今、確かに「“やっぱり”ワームだったのか」と言った。
それはつまり、加賀美は立川の正体に最初から気付いていたという事になる。
もう何が何だか。なのは達には、まるで状況が読めなかった。
◆
「天道、ちょっといいか?」
「なんだ、お前は」
突然部屋に入って来たクロノに、眉をひそめる天道。天道からすれば、クロノもいけ好かない相手なのだ。
天道の中でのクロノのポジションは、初期の矢車と似たような位置だろう。実質やってる事もあまり変わらない。
「君にはまだ色々と聞きたい事がある。けど、その前に言っておきたい事がある」
「ほう……なんだ?」
「その……ありがとう……フェイトを助けてくれて」
反射的に天道から目を反らしたクロノは、気恥ずかしそうに頭を掻きながら言った。
「なんだ、わざわざそんな事を言いに来たのか。お前の事だ、また何か嫌味でも言いに来たのかと思ってたよ」
「そ、そりゃあ僕だって感謝する時はするさ……」
天道の言葉に少し気を悪くしたのか、すぐにいつも通りの態度に戻る。といっても、以前程天道を敵視している訳では無いが。
「俺は別にお前の為にした訳じゃない。それに……」
「ん……?」
一瞬だが、淋しげな表情をした天道。それが気にかかったクロノも、天道の顔を覗き込む。
だが、次の瞬間には天道の表情は元通りになっていた。
少しばかり心配したが、なんだ自分の見間違いかと、クロノもため息をついた。
やがて立ち上がり、ゆっくりと後ろを向いた天道は、先程の言葉に続く台詞を、小さな声で呟いた。
「俺にだって分かるさ……妹を失う辛さは」
「え……?」
クロノにも聞き取れ無い程の声で、ぽつりと呟いた天道。何を言ったのか聞き返そうと、クロノが声を発したその時だった。
『ワームが現れました! クロノ君と良太郎君はすぐに現場に向かって下さい!』
「……ッ!?」
部屋のスピーカーから聞こえるエイミィの声。艦内全域に聞こえるように響いた放送に、クロノは咄嗟に立ち上がった。
放送が終わった直後、すぐに小さな端末から、エイミィに連絡を入れる。
「エイミィ、今から向かう。場所は!?」
『うん、急いで! なのはちゃんや立川さんが苦戦してるよ! 場所は――……』
急いでエイミィから情報を聞き出したクロノは、移動する前に天道に視線を移した。
「聞いての通りだ、天道……悪いが僕は行かせて貰う!」
「ああ、キバって来い」
小さく笑う天道に、クロノも安心し、次の瞬間にはクロノは走り出していた。
「……そろそろ潮時か。」
クロノが見えなくなった後、天道はポツリと呟いた。やがて、天道は部屋の入口のドアから、外部にいる人間にこう言った。
「おい……少し艦長に用がある。急な用事だ。今すぐ俺をブリッジまで案内しろ」
◆
それからややあって、天道は部屋から出された。ただし、両手には後ろ手にバインドをかけられ、二人の見張り付きで、だ。
天道は今まで、管理局側の人間に相当な力を見せ付けてきたのだ。それ故、念には念を入れての処置だろう。
二人の局員に挟まれ、ブリッジへの道を進む。一言も喋らずに、黙々と進んで行く。
天道は、歩きながらも思考を巡らせていた。内容は、「何故ワームである立川が同じワームと戦っている?」という疑問についてだ。
ネイティブとかいうワームが、自分達の良く知るワームとは違う種類なのだろうという事は、立川の言葉からも容易に想像がつく。
……だが、仮にそうだとすれば、今立川に死なれるのは非常に困るのだ。現時点で、最もひよりに近い場所にいるのは紛れも無い立川その人なのだから。
そうなれば、自分もこんな訳の分からない場所で黙って見ている訳にも行かない。
しかし、この二人の局員に囲まれたままでは思い通りの行動が取れないということは明白。
かといって、アースラの壁を突き破ってカブトゼクターを召喚し、無理矢理脱出したとしても、元の世界に帰ることが出来なければ何の意味も無い。
ならばどうすればいいのか? 調度、天道の目の前で、ブリッジ付近の廊下へと続くエレベーターの扉が開いた。
「(チャンスは今しかない……か)」
左右の局員をちらりと見た後、天道は次の行動を決めた。
エレベーターの中でも、局員は天道を挟んで左右に立っていた。
手にはバインドが掛けられ、左右に監視を置かれたこの状況で、まさか天道が行動に出るとは夢にも思わなかっただろう。
エレベーターの扉が閉まると同時に、天道の右脚が、左側の局員の顔面目掛けて振り上げられた。
「……ぐッ!」
「な……!?」
一撃で意識を失い、床に沈む局員。もう片方の局員が、何が起こったのか頭で判断する時には、時既に遅かった。
右のハイキックをかました天道。今度は予備動作を取る隙も見せずに、左脚のハイキックが、もう一人の局員に炸裂させた。
ほんの一瞬の出来事だ。一瞬で、二人の局員は意識を失った。秒で表すなら、ほんの2秒も経たなかったくらいの速度だ。
そして、バインドを掛けた局員が気を失った事で、天道の手に掛けられたバインドも消滅する。
「悪いが、制服を借りるぞ」
ややあって、エレベーターの扉が開いた。
中から現れたのは、アースラスタッフ……というよりも、管理局本局の青い制服を着込んだ天道。
「少し小さいな……」
ネクタイを絞めながら、天道は呟いた。そもそも、ミッドの人間は男女関わらず平均身長が低い。
それ故に、身長の高い天道には制服も少し小さく感じられたのだろう。
が、制服を借りた(?)身の天道にそんなことを言う権利が無い事は、天道本人にも分かっているつもりだ。
それに、見た目もそれほど不自然という訳では無い。今だけは我慢しよう。
この制服を着ている以上、顔さえしっかり見られることさえ無ければ、怪しまれる事も無い筈だ。
そう考えた天道は、いつも通りの余裕に満ちた態度で、足早に歩き始めた。
◆
クロノが第97管理外世界へと続く転送ポートに乗ろうとした時、後ろに続く良太郎の足が止まった。
「ん……? どうしたんだ、良太郎」
「あ……ご、ごめん、ちょっと先に行っててくれないかな……?」
「……?」
クロノには、良太郎の態度がどこか可笑しいという事が一発で解った。なんというか、明らかに挙動不審だからだ。
「……分かった。僕は先に現場に向かう。あまり遅れないようにな」
だが、深く詮索するつもりは無かった。どうせ良太郎に憑いたイマジンがまた何か言ったのだろう。
一々相手にするのも面倒だと感じたクロノは、そのまま現場へと姿を消した。
「(一体なんなの……? いきなり止まれだなんて……お陰でクロノ君、一人で行っちゃったよ……?)」
クロノが消えるのを見送った良太郎は、自分の中のイマジンへと質問した。
『それでいいんだよ。いいから、お前は俺と代われ!』
「え……ちょっと? えぇ……っ!?」
混乱する良太郎。次の瞬間には、良太郎の髪の毛は逆立ち、瞳は赤く変色していた。
直後、目の前に一人の男が現れた。アースラの青い制服を着てはいるが、見間違える事は無い。この男は間違いなく、あの天道総司だ。
良太郎は、自分を睨む天道に向かって、言った。
「へへっ、待ってたぜ?」
「……何だ、お前は?」
聞き返す天道。だが、良太郎はそれに答える事は無い。返事の代わりに、懐からデンオウベルトを取り出した。
「何のつもりだ……?」
「お前も戦えるんだろ? なら俺と戦えよ!」
『(ちょ、ちょっと!? 何してるの!?)』
驚愕する良太郎を無視し、電王・ソードフォームの変身待機音が艦内響く。
こんな所で二人が戦えば、アースラはどうなるか分かった物じゃないというのに。
「……悪いが、お前の相手をしてやれる程俺は暇じゃない。そこを通して貰うぞ」
「なら、力付くで通ってみやがれ!」
良太郎は、取り出したライダーパスを、勢い良くターミナルバックルにかざした。
「……って、なんだぁ!?」
だが、良太郎が変身する事は無い。
何が起こった? 自分は確かにライダーパスをベルトにセタッチした筈……
ふと、右手を見れば、良太郎の手からライダーパスが消えていた。
「な……!?」
いや、“消えた”というよりも、何者かに“弾かれた”と表現する方が正しい表現だった。
「言った筈だ。お前の相手をしてやる暇は無いってな。」
「何ぃっ!?」
聞こえる声に、天道を見る良太郎。天道は、右手にハイパーゼクターを掴みながら、良太郎から数メートル離れた場所に落ちたライダーパスへと視線を向けた。
良太郎も直ぐに状況を理解する。変身する直前に現れたハイパーゼクターが、良太郎のライダーパスを弾いたのだ。
良太郎はライダーパスを拾おうと移動するが、もちろん天道相手にそんな隙を見せていい筈も無く。
「……じゃあな」
聞こえる声に急いで振り向けば、天道は既に転送ポートに乗り込んでいた。
「っでぇえっ!? ちょ、待てよ!? こんなの反則だろーっ!?」
天道が消えた直後、良太郎の……というよりも良太郎に憑いたイマジンの、不満タラタラな叫びがアースラに響いた……。
◆
「そんな……立川さんが……ワームだったなんて……」
目の前でサリスに囲まれている立川……いや、立川ワームを、フェイトは絶望感に満ちた目で見詰めていた。
フェイトにとってワームとは、“殺した人間に擬態し、その記憶を利用する悪質な存在”という認識だ。
今までずっと仲間だと思っていた立川は、ずっと自分達を騙していた……という事だろうか?
そう思うと、ショックの余り平静を保ってはいられず、ただ呆然と立ち尽くすしか出来なかった。
と、その時であった。そんなフェイトを再び現実へと引き戻す声が響いたのは。
「助けて下さい!!」
「……なっ!?」
なんと、ワームに変身した筈の立川が、自分をワームから助けてくれと、そう言っているのだ。
「俺達に、ワームを助けろって言うのか!?」
「でも、加賀美さん……立川さんは私達の仲間だよ!」
「なのは……」
立川に反論するガタック。それでもなのはは、立川を仲間だと言い張る。
そして、口にしてから直ぐに行動に移るのが高町なのはという人間だ。次の瞬間には、なのはが放った誘導弾が、立川を取り囲むワーム達に命中していた。
ワームの体が小さく爆ぜ、一瞬だが立川に行動の隙が出来る。
「今のうちに、逃げて下さい! 立川さん!」
「ありがとうございます、なのはさん!」
言うが早いか、既に立川の手にはドレイクグリップが握られていた。
『Henshin(ヘンシン)』
立川の体が、ドレイクの……銀と青の装甲に包まれていく。そして変身完了後、すぐにキャストオフ。
弾け飛んだドレイクのマスクドアーマーが、周囲のワームに命中。一瞬のけ反った隙に、ドレイクは自分の腰を叩いた。
『Clock Up(クロックアップ)』
同時に、ドレイクを取り囲んでいたワームは残らず爆発。ドレイクが、手にしたドレイクゼクターでワーム全員を撃ちまくったのだ。
こうして、全てのワームを倒したドレイクは、なのは達に挨拶する暇もなく、この場から姿を消した。
◆
「立川……さん……」
全てが終わった後で、フェイトが一人呟いた。よほどショックだったのか、BJを解除するのも忘れて、俯いている。
「フェイトちゃん……」
加賀美も、ため息をつきながらフェイトに近寄る。加賀美の知り合いにもワームが一人いるが、まさかこんな事態になるとは思いもよらなかったのだ。
まさか、管理局に所属するなのは達の仲間がワームだったなんて。
まさか、こんな小さな子供達を今までずっと騙していたなんて。
立川がワームであったということに薄々ながら感づいていただけに、フェイトになんと声を掛ければいいのかが分からなかった。
「……加賀美……立川さんがワームだって、知ってたの……?」
「え……いやあの……えっと、知ってたというか……感づいていたというか……」
暫し流れた沈黙を破ったのは、フェイトの声。その声にびくついた加賀美は、焦って上手く言葉を紡ぎ出せ無い。
心優しい加賀美には、フェイトを傷付けずに弁明する言葉が思い当たらないのだ。
「なら、どうして教えてくれなかったの……?」
「いや、あの……ごめん……」
謝罪する加賀美。加賀美にはその一言しか言えず、再び気まずい沈黙が流れる。
……が、そんな沈黙を破ったのは、二人のやり取りを今まで黙って聞いていたなのはだった。
BJを解除し、私服姿に戻ったなのはは、二人に駆け寄り、言った。
「えっと……ほら、今はそんなこと言っても仕方ないし……とにかく皆で立川さんを探そうよ! 本人に話を聞かなきゃわかんないよ」
「なのはちゃん……」
「ね? 加賀美さん、フェイトちゃん。立川さんがワームに見付かっちゃう前に、私達が見付けて、話を聞かせて貰おうよ……!」
「……そうだな……早く立川を見付けて、話を聞かせて貰うしかないよな……! もしかしたら何か事情があるのかも知れない」
なのはの言葉を聞いた加賀美は、すぐにいつも通りの表情に戻り、フェイトを元気付けるように言った。
二人の言葉を聞いたフェイトは、ゆっくりと顔を上げる。
「……そうだね、なのは。もしかしたら立川さんにも何か理由があるのかも知れない」
そうだ、まだ立川が自分達を騙していたと決めるのは早い。
草加雅人に言われた言葉を思い出す。ワームの全員が悪い奴とは限らないのではないか? という言葉を。
実際、立川はワームに襲われていた。つまり、ワームの仲間では無いという可能性が高い。
自分達が立川を見付ける前に、ワーム達に先を越されてしまえば、その答えを聞き出せないままに終わってしまう。
“ワームとは一体何なのか?”
“天道は本当に正しいのか?”
フェイトがずっと悩んでいた疑問の答えが、そこにはあるかも知れないのだから。
そうならない為にも、今自分達が行動せずにどうする?
そう考えたフェイトは顔を上げ、なのはと加賀美を見据えた。
「行こう……なのは、加賀美。立川さんを探しに……!」
スーパーヒーロータイム
「NEXTSTAGE~
プロローグ・Ⅱ~」
城戸真司に拾われたプレシア・テスタロッサは、「花鶏」という名の喫茶店に居候する事となった。
では居候となった彼女が今現在、何をしているのか。
その答えはというと、花鶏の経営者であり、居候させて貰っている人物に頼まれた……というよりも命令され、買い出しに出掛けた帰りであった。
早く帰らないとまたあのおばさんに何か言われる……。そう感じたプレシアは、渋々ながら足早に帰路を歩いていた。
その時であった。
突然、携帯カメラの、「ピロリン」……というシャッター音が聞こえて来たのは。
「何……?」
プレシアは、苛ついた表情で音の方向を睨んだ。そこにいるのは、真っ赤なジャケットに身を包み、
ネックレスや指輪といったアクセサリーを無数に身につけた茶髪の少年。
「何……貴方は? 何か用?」
「別に? それよかアンタこそさ、何考えてんの? 人間じゃないのに、仮面ライダーと仲良くなるなんて」
小さく笑いながら、少年はサラッと言い放った。そんな少年を、プレシアは疑問に満ちた表情で睨んだ。
「貴方……何を言ってるの……?」
「まぁま、そう怒んないでよ。僕はアンタの事を思って忠告しに来たんだから」
「忠告……?」
「そうそう。アンタ今の生活に馴染むのはいいけどさ、逆に別れるのが辛くなっちゃうよ?
ずっと人間と一緒に居られる訳が無いんだからさ……ってもしかして! 何か企んでるとか!?」
またしても携帯のカメラのシャッターを切りながら、楽しげに話す少年。
さっきから人間じゃないとか仮面ライダーとか、訳の解らない事ばかり言う少年に、
いい加減腹が立って来たプレシアは、そのまま少年とは反対に向き直った。
「貴方……さっきから何を言ってるの? 用が無いなら私は行かせて貰うわ」
「ちょ、ねぇちょっと待ってよ! そんな冷たくしなくてもいいじゃん!」
少年は、慌ててプレシアの肩を掴む。
……が、振り返るプレシアの目を見た少年の表情は、一瞬で凍り付いた。
プレシアは本気で、まるで状況が解っていない人間の表情をしているのだ。
「まさか、アンタ本気で自分の正体に気付いてないとか……?」
やがて、少年の笑い声はどんどん大きくなっていく。込み上げる笑いに堪えられないのだろう。
少年は、爆笑しながら言った。
「ハッハッハ! アンタ最っ高! 面白い事になりそうじゃん!」
「……だから、何なの……? 貴方は。いい加減にして頂戴」
いい加減気味が悪くなってきたプレシアも、引き気味に少年を見る。
少年は、携帯のカメラを連写しながら、ゆっくりと地面から浮かび上がった。
けらけらと笑いながら、少年はプレシアから離れて行く。最後に一言、こう言い残して。
「アハハハ、また会えると思うよ。ばいばい、“お姉さん”!」
プレシアは軽く驚きながらも、少年が飛び去って行った空を、ただじっと眺めているだけしか出来なかった……。
To Be Continued.
最終更新:2008年04月05日 15:49