魂を得る代わりに受けたレザードの依頼である戦闘機人の作成。
 スカリエッティは手渡された“髪の毛”を調べ、その遺伝子に驚きを覚えた。

 それはこの世界では有り得ない根本的に異なる遺伝子で、
 肉体面として逸脱し、また精神面にも優れた因子を含む、まさに完璧と言える遺伝子であったのだ。
 そんな遺伝子を基に作成される戦闘機人、スカリエッティはフレームの入った培養液の前で、考え込んでいた。

 「う~ん、どうしよかな……」
 「どうしよなか?っと言われましても、完成している基礎フレームの中で使われていないモノはコレしかないのですから」

 仕方がないとウーノは答える。No.IVの基礎フレームは既に使用しており、
 現状残っているのはNo.Vの基礎フレームのみだった。
 No.Vの基礎フレームの特徴は戦闘用の為、他の基礎フレームよりかなり頑丈に出来ている。

 ………ただ少女タイプのフレームであるが…


             リリカルプロファイル
               第三話 計画


 一週間後、培養液の中には銀色の髪の少女が浮かんでいた。
 レザードから手渡された“髪の毛”の遺伝子を組み込み作成された戦闘機人である。

 「どうしようか…勢いで使ってみたが、やっぱり少女タイプのままだね」
 「そうですね、戦闘機人は成長しませんですし」

 “髪の毛”から得た遺伝子情報によると、23歳前後の女性の物である事が判明していて、
 それを大事に…しかもケースに閉まってあるという事は、
 レザードにとって、その髪を持つ女性は“愛しき者”で、既に死去しているという可能性があった。

 これはスカリエッティの予想であるが、もし…レザードの望みが亡くなった“愛しき者”を、
 戦闘機人としてでも良いから、蘇らせたいというものだとしたら。
 …そして蘇った“愛しき者”が成長しない少女だとしたら、一体どんな顔をするのであろうか…

 もしかすると次元振を起こし、研究所の一つや二つ、消し去るかもしれない。
 彼の場合、その例えが比喩的表現ではなく、有り得ないとは断言出来ない。それほどの魔力を秘めているのだ。

 「おや?どうかしました?」

 突然の声に思わず驚くスカリエッティとウーノ、
 振り返ると其処にはレザードがいた。どうやら様子を見に来たようである。

 「どうです?塩梅は」
 「……一応、肉体は完成したよ、後は魂を定着させるだけだが……」
 「なるほど……」

 そう言うとレザードは培養液の中にいる戦闘機人をジッと見つめ、
 隣ではスカリエッティとウーノが尋常ではない冷や汗を垂らしている。

 「ほほぅ…中々の出来ですね」
 「へっ?!」
 「細部も丁寧に造られているようですし…」

 どうやらレザードの趣味に合っていたのか、上機嫌な態度を見せ、
 彼の態度にスカリエッティとウーノは、ホッと胸をなで下ろした。



 それから更に一週間後、訓練場には銀色の髪の少女とトーレが模擬戦を行っていた。
 彼女の名はチンク、名付け親はスカリエッティで、
 名前の由来は基礎フレームのNo.Vからとったらしく、またウーノ達の名も同様で、
 スカリエッティは全員を纏めて呼ぶ際は“ナンバーズ”と呼んでいた。

 話を戻し二階のモニター室では、茶髪の女性クアットロがドゥーエと共に模擬戦のデータを纏めていた。
 彼女はチンクより三日ばかり遅くロールアウトした“姉”である。

 そして彼女らの様子を別の部屋で見つめるスカリエッティとウーノ。
 すると不意に後ろからスカリエッティを呼ぶ声が聞こえ、振り向く。

 「ドクター、彼女達の様子はどうです?」
 「やぁレザード、安心したまえ順調に学習しているよ」
 「それは良かった、ところで頼みたいことがあるのですが」
 「ほぅ…君が?一体何かな?」
 「ガジェットをいくつか貸して頂きたいのです」
 「…と言う事は完成したのかね」

 レザードの眼鏡が怪しく光り、そのまま右手を当て小さく頷いた。


 場所は変わり、ここは先ほどチンク達が模擬戦をしていた訓練場。その中心にてレザードが佇んでいた。
 一方で二階のモニター室では、スカリエッティとウーノがデータ取りの準備に勤しみ、
 残りのナンバーズはレザードが模擬戦をすると聞いて、野次馬見物をしていた。

 「準備は良いかい?」
 「いつでもどうぞ」

 レザードの返事を確認したスカリエッティはウーノに合図を出し、模擬戦が開始、
 目の前の入り口からカプセル型の機械が五つ現れる。

 ガジェットドローンⅠ型、偵察・情報収集を主にしていた機械で、最低限の戦闘力しか持たせておらず、
 レザードの相手としては役不足ではあるが、情報収集にはもってこいの相手だった。

 「さて……ネクロノミコン起動」

 レザードが放つ一言に腰に備えてあるナイフ型のデバイスが反応、眩い光と共に形状を変え、左手に収まる。
 魔導書型ストレージデバイス・ネクロノミコン、レザードの圧倒的な魔力に対応する為、
 自身で錬金したオリハルコンで造られたデバイスである。
 オリハルコンとはレザードの世界における最高品質の金属で、神の金属と呼ばれる程の代物である。

 さて…何から始めるかと悩んでいると、ガジェットが一斉に攻撃を仕掛けてきた。

 「やれやれ、せっかちですね……ガードレインフォース」

 レザードは慌てる素振りもなく詠唱し、自分の足下を基準に防御結界で守り、ガジェットの攻撃を弾いていく。
 ガードレインフォース、かつてレザードが居た世界では補助魔法の一つであったが、
 今はこの世界に合わせ、シールド・バリア・フィールドに用途を使い分ける事が可能で、
 更には元々の補助魔法も機能している為か、肉体にも防御効果を及ぼす強固な防御魔法と化していた。

 一方ガジェットは連射による一点集中攻撃に切り替え、雨のように弾が鳴り止まぬ中、
 レザードは何事も無いかのように慌てる素振りも無く、右手を一体のガジェットに向けた。

 「ファイアランス」

 詠唱後、レザードの周りに二つ炎が現れ、それは刃となってガジェットに向かって行き、突き刺さると呆気なく溶解した。
 ファイアランス、レザードの世界では一般的な魔法の一つで、炎を槍に見立て相手に突き刺し焼き尽くす魔法なのであるが、
 レザードはこの世界の魔法技術を応用して、誘導性のある魔法へと仕上げていた。

 「さて……」

 レザードは一呼吸置くが、ガジェット達の攻撃の手が休まる事は無かった。
 するとレザードは足元に五亡星を描き、輝き出すとレザードの姿が消え、ガジェットの攻撃は虚しく空を切った。

 移送方陣、レザードの世界ではロストミスティックと呼ばれ、モノや人を移動させる失伝魔法であるが、
 この魔法は移動距離によって発動に時間が掛かり、とても使いにくい代物であった。
 ところが、この世界の技術である魔法のプログラム化により、本来よりも遥かに使い易くなっていた。

 「魔法のプログラム化、これだけでこうも使いやすくなるとは」

 元々この世界には移送方陣とよく似た技術や魔法が存在する。
 故に、それがかえって扱いやすくなった要因の一つなのかもしれない。
 そんな生まれ変わった移送方陣で一体のガジェットの後ろをとり、先程と同様に右手を向ける。

 「クールダンセル」

 今度はガジェットの前に氷の固まりが現れ、固まりは氷の刃を持った女性へと姿を変え、ガジェットを三度斬りつける。
 すると傷口から凍り始め、最後には全身を凍り付かせ、ガジェットは床に落ち、粉々に砕け散った。
 本来クールダンセルは氷の精霊を召喚して攻撃させる魔法であるのだが、
 この世界に氷の精霊がいるハズもなく、仕方なく魔力によって形成された氷人形で手を打った。
 しかし当然、人形であるため武器で切り払われる可能性もあり、
 誘導性を高く設けてあるとはいえ、少々使いづらい魔法となっている。
 だが、レザードにとってはその程度は、些細なことなのかもしれない。

 「まだまだですよ」

 レザードはマントを翻し人差し指をガジェットに向けると、足下に魔法陣を広げる。 

 「ライトニングボルト」

 すると指先から強力な電撃が発生して、一直線にガジェットに向かい直撃、
 電撃を食らったガジェットはショートしながら爆発した。

 ライトニングボルト、本来は雷属性を含む直線上に伸びる雷撃であるが、
 レザードの手によって魔力量を調節する事により、直射砲として利用する事が可能。
 ただし、他の魔法とは違い誘導性はなく、むしろ威力を重視した魔法に仕上がっている。

 更にレザードはダークセイヴァーを唱え、ガジェットの周りに黒い刃が生まれると、ガジェットを串刺しにした。
 本来のダークセイヴァーは、闇属性を帯びた魔力の刃で攻撃する魔法なのだが、
 今回の魔法はレザードの意志で、発現場所を特定する事が可能で、
 死角からの攻撃による奇襲などに打って付けの魔法と仕上がっている。
 ただその代償に、誘導性は全く無く、弾道速度も遅くなっていた。


 「これで最後ですね、ストーントウチ」

 レザードが指を鳴らすと、ガジェットの足下から灰色の煙が立ち上り、
 煙が晴れると其処には石と化したガジェットの姿があった。
 そして石化したガジェットはゴトッという音と共に床下に落ち、真っ二つに割れる。

 ストーントウチ、対象の足下に魔法陣を張り、石化効果のある魔力を帯びた煙に包ませて攻撃する魔法である。
 この魔法は殆どオリジナルと変わらない効果と性能であるが、一つ違うのは
 指でパチンッとならさないと発動しない仕掛けとなっていて、どうやらレザードのこだわりのようである。

 「少々やりすぎましたか…意外に加減が難しい……」

 そう言って眼鏡に手を当て不敵な笑みを浮かべるレザード、
 周囲には熔解、凍結、石化、黒こげになった破片と、裂傷痕があるガジェットが転がっていた。

 一方モニター室では、全員レザードの実力に唖然としていた。
 自分達の世界では珍しい魔力変換魔法を、こうも自在に操り
 更に高度な、状態異常を引き起こす魔法すら操れるからだ。

 前者は、数は少ないも例が無い訳ではない。ベルカ式などがそれである。
 ところが、後者はそうお目にかかるものではない。例としてもベルカ式のミストルテインぐらいである。
 それ程の、まさに圧倒的な実力差を目の当たりにしたナンバーズの中に、レザードを尊敬の念で見つめている者がいた。

 「良いデータは取れましたか?」
 「あぁ、データは十分に取れたよ。これなら例の計画をにも支障がないよ」

 スカリエッティは狂気を含んだ笑みで、レザードを見つめ、
 レザードもまた不敵な笑みを浮かべ、スカリエッティを見上げていた。



 場所は変わって此処は会議室、部屋の中にはスカリエッティを中心に右側にウーノとドゥーエ、
 左側にレザードが座り、先ずはスカリエッティが計画を発表する。

 スカリエッティが立てた計画とは、自分を造った最高評議会を暗殺し、更に時空管理局を崩壊させるというもの。
 具体的には先ず、最高評議会を暗殺する為にドゥーエを管理局に潜入させる。
 何故彼女が選ばれたかというと、彼女が持つIS(先天固有技能)ライアーズ・マスクが適任であるから。
 ライアーズマスクは、戦闘機人である自身の肉体を、人の肉体に擬態させる効果を持つ。
 この能力ならば暗殺も容易いだろうとスカリエッティは説明を終える。
 すると説明を聞いていたレザードが、異を申し立てた。

 「なるほど…すばらしい能力ですが、些か心許ない…」
 「そうかね?」
 「えぇ、なので此処は一つ、私の呪法を授けましょう」

 レザードがドゥーエに授ける呪法は魅惑の呪〈チャーム〉という物で、
 相手を魅了させ意のままに操る、ドゥーエに打って付けの呪法だという。

 「彼女達の力は魔力に近い特性を持っています。プログラム化させた魅惑の呪を組み込めば、任務も遂行しやすくなると思いますが」

 レザードの説明にスカリエッティは納得する。
 確かに相手を魅了して意のままに、特に管理局の狒々爺共を操れれば中央に近付くのも容易い。
 それにドゥーエはスタイルも抜群、適材適所とはまさにこの事、故にドゥーエもレザードの案に賛同した。

 次に時空管理局を崩壊させる為に、スカリエッティは新たな戦闘機人を育成とガジェットの量産を、
 レザードは不死者〈グール〉の製造と量産を考えていた。
 不死者とはレザードの世界にいる死体や魂が魔物化した所謂アンデッドで、
 特にグールパウダーと呼ばれる粉によって変化させられる事が多い。

 不死者の製造の方はグールパウダーを大量に生産すれば問題なく、量産化はクローン技術を応用して数を揃えると。
 そして新たな戦闘機人の教育は、ウーノとトーレに、いずれはクアットロ、チンクにも協力してもらうとの事。

 「ではそのような手筈に…」
 「それで…この計画はなんと名付けるのですか?」

 レザードの問いにスカリエッティは狂気を含んだ笑みでこう答えた。

 「ふっ、それは勿論“ラグナロク”計画さ」

 かつてレザードが居た世界で起きた厄災、その名を冠した計画が徐々にしかし確実に進み始めた……



 一方研究所の廊下、チンクは自身の鍛錬を終了させ、自分の部屋に戻ろうとしていた。
 すると反対側からクアットロが楽しそうに歩いてくる。

 「あら?チンクちゃん、今から部屋にお戻り?」
 「クアットロ……それは?」
 「どう似合う?、博士に習って掛けてみたのよ」

 眼鏡に手を当て不敵な笑みを浮かべる。この日からクアットロは伊達眼鏡を掛け始めた。






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最終更新:2011年07月15日 23:43