計画を発表してから二年の月日が流れ、現在スカリエッティは新たな基礎フレームの開発、遺伝子改造に勤しんでおり、
レザードもまた不死者を造る為の、グールパウダーの生成、そして不死者製造にも勤しんでいた。
「ドクター、博士、お話があるのですが」
不意にもモニターに青色の長髪の女性が映る。それは管理局に潜入しているドゥーエであった。
リリカルプロファイル
第四話 移転
ドゥーエの話とは、自分達が住んでいる研究所の上にある遺跡に、管理局の調査が入ると言う内容で、
しかも調査員の中にはAAAランクの魔導師も配置されているという事だった。
「これは…ただの調査だけとは言えなさそうですね」
「私もそう思って連絡を入れてみたのです」
「なるほど、確かに……ドゥーエ、その調査は何時ぐらいに始まるのかね?」
「今から約三時間後です」
「思っていたよりも早いな…」
となると、早急に研究所を破棄しなければならないとスカリエッティは考える。
データの纏めは日頃行っているので問題ではない、むしろ各施設の破壊の方が問題だった。
何故なら施設内は広く、全てを破壊するのには時間がかかり面倒。
だからといって放置する訳にも行かない。此処には非人道的な機械やシステム、兵器などの試作品が置かれてあり、
これらが知られるのはスカリエッティ達にとっては、大きな痛手になりかねないからだ。
「さて…どう間に合わせるかな」
「ドクター、確かガジェットの元型がありましたね?」
不意にレザードが質問を投げ掛ける。ガジェットの元型とは、上にある遺跡で眠っていた機動兵器で、
スカリエッティがデコイとして造り上げたガジェットドローンのアーキタイプである。
元型は戦闘用ではあるが、防御面に優れ魔法バリアを使用する事が出来る。
だが如何せん古い為、すぐにオーバーヒートするという欠点も存在した。
「確かにあるけど、一体どうするんだい?あんな欠陥品」
「欠陥品だからこそ、役に立つ方法があるのですよ」
レザードの案とはこうだ。オーバーヒートしやすいのならいっそリミッターを外し、
オーバーロードさせることにより、元型は自身の力に耐えきれず自爆、その爆発で施設を破壊するというもの。
言うなれば爆弾、しかしそれを全機に施すとなると、時間も手間もかかる。
そこで、一体のみリミッター解除を施し、その元型が自爆した際、
他の元型のリミッターも強制解除させて連鎖的に自爆させるプログラムをインストールさせるという。
「データ自体は既にありますので、二時間程あれば、現存する元型全てにインストールさせるのは可能です」
「用意がいいねレザード、もしかして…こうなる事が分かっていたのかい?」
「そんなまさか、もしもの為の用心と……後は暇つぶしに作ってみただけです」
「なるほど…ね、では施設破壊はそれで良いとして、次は移転先だが……」
顎に手を当て考え込むスカリエッティ、何故なら移転場所など考えていなかったからだ。
…だからといって野宿…と言うわけにも行かないだろう。
とその時、ウーノが“ある人物”の連絡を受けたと情報が入り、
繋がっているドゥーエとの連絡を一旦切り、“ある人物”の連絡を繋げるよう命令を下した。
「……久しいな…“無限の欲望”……」
「これはこれは、最高評議会の皆様」
連絡をしてきたのは、スカリエッティが暗殺しようとしている最高評議会からで、
モニターには何も映っておらず音声のみ、しかも変声されてあり、かなりの秘密主義の様子だ。
「どの様なご依頼で?」
「命令だ…我々が発掘した聖王のゆりかごを早急に解析せよ…」
聖王のゆりかご…かつて古代ベルカの王が所有していたと言われている質量兵器で、
大規模な次元振を起こし、様々な世界を滅ぼしたと言われている曰く付きの代物。
一体何処で発掘したのか分からないが、最高評議会はどうやらそれを管理局の戦力として、取り込むつもりのようで、
その手始めに、先ずスカリエッティに解析を命じたようであった。
「仰せのままに……」
「…では以上だ…」
そう告げると映像が消え、モニターにはゆりかごの位置を告げる地図が映し出され、
暫く辺りに静寂が続くと、スカリエッティが急に狂ったように笑い出した。
「くくくっ全く…こうも早く見つかるとは!天の配剤とはこういう事を言うのだろうな!」
「……何がですか?」
「決まっているじゃないか!我々の新しい拠点さ!!」
レザードの静かな問いかけに、スカリエッティは満面の笑みで答える。
聖王のゆりかごを新たな拠点とし、計画を進めると、両手を開き叫ぶスカリエッティであった。
三時間後、上空に二つの小さな姿があった。一人は赤い髪で全身も深紅に染めた少女、
もう一人は対照的に白を基調とした服に、栗色の髪を白いリボンで二つに結った少女だ。
二人は管理局の任務により、遺跡の調査に向かっている最中だった。すると赤髪の少女が不満を募らせる。
「ったくよぉ、何でアタシ達まで行かなきゃいけねぇんだよ」
「にゃはは、まぁ落ち着いてヴィータちゃん」
「けどよぉ、なのはは――」
「私は大丈夫だよぉ」
なのはの返しにヴィータは声を詰まらせ、これ以上話す事が出来なくなった。
それには深い訳があった。今から三時間前の出来事である。
「調査……ですか?」
「そうだ」
本局に直属する武装隊の部隊長に呼び出された二人、
今回の任務は、とある次元世界に存在している遺跡調査とその手伝いであった。
「この程度の任務では不満かね?」
「いいえ、高町なのは、ヴィータ両名、了解しました」
部隊長の皮肉が混じった言葉にも嫌な顔一つせず、敬礼するなのは。
だが、その態度がかえって部隊長の機嫌を損ねていた。
二人はリンディ・ハラオウンが指揮をするアースラ隊から、出向という形で武装隊に配属したのだが、
周囲の環境はよろしく無く、特に上司である部隊長は二人の素性を知っている為か、二人に数多くの任務を与えていた。
しかし二人は次々に任務をこなし、予想以上の結果を出して部隊に貢献した――
ところが周りは、それがさも当たり前のような目で二人を見ていて、大した評価も得られない毎日が続いていた。
そんな日々が長く続けば当然心労も疲労も溜まり、特になのはの幼い体では、かなりの疲労が蓄積しているのは明々白々、
しかしなのはは、それを見せないよう気丈に振る舞って見せていた。
だが――それがかえって、ヴィータに身を案じてさせている事を、なのは知る由もなかった。
…と思い出話は其処までで、気が付けば目的の遺跡にたどり着く二人。
遺跡にはまだ自分達以外は到着しておらず、寒空の中で二人は待っていると、
他の局員が姿を現す。その数は十人を超えていた。
(…ただの遺跡調査にこんなに人数が必要なのか?)
ヴィータは割り当てられた人数に疑問を持ちつつも、作業に取りかかり始めた。
遺跡内にはいくつかの質量兵器がずさんに転がっていて、
ヴィータはそれらを調べていると、後方で自分を呼ぶなのはの声がした。
「どした、なのは」
「ちょっとみてヴィータちゃん」
そう言ってモニターを見せるなのは、其処には遺跡の全体図が表示されており、
地下の部分に大きな空間が存在している様子が見て取れ、
この遺跡の地下には何かあると感じたヴィータは、なのはと共に地下へと潜った。
地図を頼りに地下空間へと続く一本の道を、二人は通り抜けその先に広がる光景は、
先程までの遺跡のとは異なる、最新の技術で造られた研究所っぽい場所へと辿り着いた。
「怪しいね、ヴィータちゃん」
「あぁ、とりあえず地上の奴らに連絡しねぇとな」
そう言ってなのはに背を向け、地上の局員と連絡を取ろうとしたその瞬間―――
「きゃあぁぁぁぁぁ!!」
突然の、なのはの叫びにヴィータは驚き振り向くと、其処には左肩を血に染めたなのはが、ふらつきながらも立っていた。
「なのは!どうしたんだよ!!」
「…ゴメン……ヴィータちゃん………油断……しちゃった………かな…」
と次の瞬間、力が抜けるようになのははヴィータにもたれ掛かり、ヴィータは抱き抱え唖然とする。
何故なら傷口は左肩部分では無く、左肩から右わき腹に掛けた背中部分で、
深く斬りつけられている様子が見て取られ、大量の血が服を徐々に染め始めていた。
そして…なのはが立っていた位置から、四足の機械が姿を現し、
機械の左前足は赤く染まっていて、なのはを斬った張本人だとヴィータは直ぐに理解、
今すぐに仇を撃ちたい気持ちであったのだが、自分の腕の中で苦しむなのはの事を考え、
相手を睨みつけながらも、その場を後にする。
「こちらヴィータ!地下でなのはがやられた!気をつけろ中には機動兵器がいる!!」
地上にいる局員に簡潔に連絡を終え、続けざまに今度はシャマルに連絡、
不幸中の幸いというべきか、シャマルとの距離は遠く無く、なのはを抱えたまま急いで遺跡を後にする。
ヴィータは後悔をしていた。なのはの調子が思わしくないのは前々から分かっていた。
いや……分かっていたつもりだった。なのはの疲労は自分が思ってたよりも、もっと酷かった。
いつも一緒にいながら、なのはの事を全然分かってやれていなかった。
…こんな事になるんだったら無理にでも休ませるべきだった。
自分の認識の甘さが、この様な事態を招いたのかもしれない。
ヴィータは後悔の念に捕らわれ涙ぐみ、腕の中ではなのはの白い息が苦しさを物語り、
急ぐも、しかし安静に運びながら、シャマルと合流する地点へと向かっていった。
合流地点でなのはを抱きかかえたまま待っているヴィータ、
だがそれ程待たずシャマルが乗るヘリが到着、どうやらかなり無理を言ってやって来た様子で、
シャマルはヘリが地上に降り立つ前に飛び降り、なのはの傷の具合を見て、すぐさま治療を開始した。
「これは……酷い…」
「なぁ!シャマル!なのはを!なのはを助けてやってくれ!!」
治療を施すシャマルの肩にしがみつき、目から大粒の涙を零すヴィータ。
なのはの傷はかなり深く、更に血液も多く失われていてかなり危険な状態、この場で施せる治療は応急処置が限界で、
先端技術医療センターのような大病院での手術が必要であると判断、
其処でシャマルは応急処置を終わらせると、速やかになのはをヘリに乗せる様に指示をした。
「なぁ!なのはを!」
未だに涙を流し訴えかけるヴィータ、するとシャマルは右の手の平でヴィータの頬を叩き、
辺りに乾いた音が響くと、シャマルの怒声が辺りに木霊した。
「しっかりしなさい!ヴィータ!!あなたはベルカの騎士なのよ!」
「っ!!」
「後の事は私に任せて、ヴィータちゃんは任務を続けて……ね」
今度は優しくそう告げてシャマルはヴィータの肩に手を当てる。
ヴィータだけが心配している訳ではない、シャマルもまた、なのはの身を案じている。
それに今すべきなのは、後悔する事でも嘆願する事でもない、それを一番理解しているのは多分…ヴィータ自身だろう。
だから…なのだろうか、シャマルの言葉に俯きながらもヴィータは頷き、
シャマルはヴィータの意志を確認した後、急いでヘリに飛び乗り飛び立っていった。
…ヘリが飛び立ち静寂に包まれ、地面にはなのはの血痕が生々しく残されたこの場所に、
一人残されたヴィータは左腕で涙を拭い、拭った後の瞳には怒りの色を宿していた。
「今すべき事…アタシが今すべき事は!」
ヴィータは遺跡の方を睨みつける様に振り向くと、遺跡の方向には白煙が幾つか立ち上っており、
ただ事ではない状況に不安を覚えたヴィータは、急いで遺跡へと向かった。
「なんてこった……」
上空でヴィータが呟く…そこは今まであったハズの遺跡が無く、
遺跡らしきモノが存在していたと言わざるを得ない、そう感じさせるほどの瓦礫と化していた。
至る所で先ほど確認した白煙が上る中、ヴィータは地上に降り生存者がいないか調べていると、
先程の機械らしき残骸を発見、残骸は黒く変色していて熱による融解も確認、
この様子から自爆をしたのは必至、そして遺跡を破壊した最大の要因であると考えた。
そして…遺跡が此処まで破壊されているとなると、地下の施設も同様であり、
また地下に向かったと思われる局員も、助かってはいないだろうという考えに至るのは必然、
自然とグラーフアイゼンを握る拳が、徐々に堅くなっていく。
「畜生……ち…くしょう………チィッッックショォォォォォォォ!!!!」
深々と…雪が降り始める中……
ヴィータの虚しい叫び声だけが、辺りに木霊した………
一方ここは聖王のゆりかご、内部は思いの外綺麗であるが、後方部分は劣化による物か修理が必要
とは言え、思っていたほどの深刻なダメージではなかった。
むしろスカリエッティは至る所放置されてある質量兵器などに興味があった。
早速スカリエッティは聖王のゆりかごや、他の質量兵器の解析を本格的に始める。
「どうです?」
「これは……色々と面白そうだよ」
レザードの問いに笑みを浮かべるスカリエッティ。
取り敢えずの簡単な解析の結果、聖王のゆりかごには砲台が幾つか存在するが、破損している事、
そして聖王のゆりかごを動かすには、聖王の遺伝子が必要な事だった。
「ふっ忙しくなりそうだよ」
「それは何よりで」
「…手伝ってはくれないのかい?」
「……考えておきましょう」
聖王のゆりかご……その存在と驚異が世界に知られるのはまだ先の話である……
最終更新:2011年07月16日 00:00