「―――此処は…?」
 「気が付いたみたいね」

 不意に目を覚ますアリューゼ、此処は医療室。左にはメルティーナが座っており、
 起き上がると右肩と左顔は包帯が巻かれ、左足は吊されている状態だった。

 何故自分が此処にいるのかメルティーナに聞いてみると、
 施設に突入した機動隊の応答が消えた為、本局が施設に突入。
 内部は戦闘が行われていた形跡があり、中には死体も確認、
 その中でうずくまって気絶していたアリューゼを発見し、保護したと答える。
 一通り説明したメルティーナは、逆にアリューゼに質問を投げかける。

 「アリューゼ…隊長と副隊長は?」

 メルティーナの質問に一つため息を吐き、左の机の上に乗っている二つの結晶体に目を向ける。



 ――施設内での戦闘…チンクに倒されたアリューゼは、意識を取り戻し始めようとしていた。

 「ぐっぐああああああああああああ!!!!」
 「フフフ……フハハハハハハハハハ!!!!」

 ゼストの悲痛な叫びと青年の狂った叫びがきっかけで目を覚まし、
 動かぬ体に苛立ちを覚えつつ、顔だけを向けると、
 青年に頭を掴まれ何かをされており、その尋常じゃない叫び声にアリューゼは助け出そうと
 必死に体に鞭を与え、立ち上がろうとしていた。

 「ゼ――」
 (来るな!アリューゼ!!)

 それはゼストからの念話だった。今青年はゼストに全神経を向けている。
 だからアリューゼはそのまま死んだ振りをして、やり過ごすよう命令を促したのだ。

 (だが隊長!!)
 (どのみち…その怪我では……満足に戦えない……ならば!!)

 今は生き残る、それだけを考えて行動しろ!…それを最後にゼストからの念話は途絶えた――




 …アリューゼは呟くような声で、メルティーナの質問に答えた。

 「………死んだよ」



                リリカルプロファイル
                 第六話 離反



 機動隊壊滅事件、後にそう呼ばれる今回の出来事は、機動隊隊長であるゼスト・グランガイツが無断で施設を調査、
 その中で、施設によって改造・破棄されたと思われる魔法生物の群の襲撃を受け、
 結果、機動隊は壊滅し死者九名、重傷者一名の惨事を出した。

 この事件により地上本部の株は大きく下がり、機動隊は解散を余儀なくされた。
 一方で元機動隊隊員である、アリューゼ、メルティーナ両名は本局への編入を命じられていた。

 「冗談じゃねぇ!こりゃあ一体どういう事なんだ!!」

 事件から五日後…ここは地上本部中将室。その中で、アリューゼ達が二枚の書類を机に叩きつけ猛抗議を行っていた。
 中央に置かれた立派な机には手を組み座るレジアス中将、更に左の壁側にはゲンヤが静かに佇んでおり、
 二人はアリューゼの主張を静かに聞いていた。

 アリューゼの主張とは、自分が報告した内容とは全く異なった報告書を送っていた点である。
 まず今回の事件はレザードと言う魔導師が起こした事件である事。
 次にあの施設は魔法生物の研究施設ではなく、戦闘機人の研究施設である事である。

 「全てがでっち上げじゃねぇか!!」
 「……………………」

 更にゼスト隊長に濡れ衣を着せ、それを盾に機動隊を解散、
 アリューゼ達は本局への編入を余儀なくされたと、続けるようにメルティーナが語る。

 「これじゃあ今回の事件を利用した、ただの引き抜きと潰しじゃない!」
 「……………………」

 必死に声を荒げて抗議するメルティーナ、しかし全く聞き入れる様子がないレジアス達、
 その態度にアリューゼは怒りをぶちまける。

 「これが管理局のやり方なのかよ!!」
 「……………………」
 「何とか言ったらどうなんだ!!」
 「……………………」
 「ゼスト隊長は無実の罪を着せられてんだぞ!!」
 「……………………」
 「隊長は…隊長はアンタ達の親友じゃ無かったのか!!」

 アリューゼが拳を机に叩きつける、するとレジアスはゆっくり立ち上がり、腕を後ろに組み窓の前に立つ。
 そしてはっきりとした口調でアリューゼの問いに答えた。

 「……公私は分けている」

 その一言ですべてを理解したアリューゼ達。
 レジアス達は自分達の立場が惜しいのだ、自分達の立場さえ守れれば
 友すら切り捨てる…割り切ることが出来るのだ……と。
 アリューゼは舌打ちを鳴らし、メルティーナと共に部屋を出ようとドアノブに手を伸ばした。

 「あぁ、そう言えば」

 ドアノブを回した瞬間、急な大声に立ち止まり振り向くアリューゼ達。
 其処には先程と同様に背を向けているレジアスが、誰かに語り掛けているのだろうか、話を始めた。

 「これは独り言なんだが、ゼストはいつも部屋が綺麗だった。
  だがな、その部屋で何故かディスクが一枚だけ机に置きっぱなしなのだ。
  しかも映像ディスクだ、一体何が映っているのだろうな?
  機動隊の“本来”の役割と関わりのある事だと思いたいがな」

 二人に聞こえるように大声で独り言を話すレジアス。
 その言葉はまるで今回の理不尽な対応には何か理由があり、
 ディスクの中にその答えがある。そうレジアスが語っている様にしか聞こえなかった。

 しかし…この二人が、しかも一人は中将という肩書きをもっているというにも関わらず、隠さねばならない理由とは一体?
 だがそれもディスクを見れば分かるかもしれない…二人は今までの非礼を詫びるかの如く敬礼、直ぐ様ゼストの部屋へと向かった。

 「……随分デカい声での独り言だったな」

 一言残し、ゲンヤは部屋を出て行き、静寂が包み込むその中で、
 レジアスは独り寂しく肩を震わしていた………


 此処は地上本部に設けられた寮、アリューゼは管理人にゼストの部屋の鍵を借り、部屋へと赴き扉を開け中へと入っていく。
 部屋の中は綺麗に掃除されており、リビングには白いソファーがおいてあった。
 隣は寝室になっており、机の上にはパソコンと例のディスクが置いてある。

 アリューゼはディスクを手に取り、早速備え付けてあるパソコンに取り込む。
 起動後画面に操作場面が上がり、カーソルで動画再生を押すと、
 ゼストとメガーヌが白いソファーに座っている映像が映り出す。
 どうやら撮影場所はこの部屋らしく、画面の右下には二年前の日付が表示されていた。
 そして映像のゼストが静かに話し始めた。

 「……この映像を見ている者へ、君がこの映像を見ているという事は、既に我々は存在していないという事だろう…
  私の名はゼスト・グランガイツ、首都機動防衛隊の隊長だ。そして隣の女性はメガーヌ・アルピーノ、副隊長を務めている」

 映像のゼストが簡潔に自己紹介を済ませると、いよいよ本題に入る。

 「さて……何故我々が機動隊を設立したのかというと、最高評議会の実情を明らかにする為なのだ」

 最高評議会とは、政治・経済、そして管理局全てを掌握している組織で、約百五十年前に設立したと言われている。
 ゼスト達は何故その様な組織を調べているのかというと、
 それはある一人の女性の死がキッカケだと説明する。

 女性の名はクイント・ナカジマ、ゼストの部下で、メガーヌの友人であり、ゲンヤの妻で優秀な捜査官だった。
 彼女は二年前、アリューゼ達にとっては四年前の、とある事件を追っていた。

 そして、ある組織にたどり着いたとゲンヤに秘密裏に話し、
 自分がもしもの時はプライベートファイルを見て欲しいと告げていた。
 そして――その翌日に彼女は亡くなったのだ。

 ゲンヤはクイントの死後、彼女のパソコンに貼付されてあるプライベートファイルを開けてみると
 そこに載っていた物は最高評議会に対する調査記録であった。

 調査記録には最高評議会は二年前の事件と関わりがあると書かれ、
 恐らく、その秘密を知ったが為、クイントは殺害されたとゲンヤは考え、ゼストに協力を仰ぎ、
 二人はクイントの情報を基に直訴、しかしそれは受理されず
 寧ろ改ざんされた情報でクイントの死因を収められたという。

 管理局の対応に納得いかなかったゼスト達はレジアスに協力を仰ぎ、新たな部署を設立、それが機動隊だった。
 表向きは迅速な行動で事件に対応する部署、
 しかし裏では、外からゼストとメガーヌ、内からはレジアスとゲンヤが最高評議会を調査する部署として機能していた。

 「我々はクイントの意志を引き継いでこの部署を建てた。
  しかし…もし我々が消され部署が消えた場合、今見ている者がこの意志を引き継いで欲しい」

 このディスクの所在を知っているのは、ゼストとメガーヌ以外にはゲンヤとレジアスのみで、
 彼等には信頼出来る人のみ、このディスクを教えて欲しいと伝えてあった。

 「彼等の目に適ったものなら我々も信用出来る。頼む!最高評議会から世界を護ってくれ!!」

 そう言って頭を下げるゼストとメガーヌ、そのまま映像は終了となり、
 暫く部屋が静寂に包まれる中、メルティーナは独り呟いた。

 「そう言う事だったのね……」

 するとアリューゼは無言で背を向けゼストの部屋を後にし、暫くしてからメルティーナも後から部屋から出ていく。
 部屋を出た彼等の瞳には、先程とは異なり決意の灯が宿っていて、
 何かしらの決意を胸に秘め寮を後にした。

 寮から出たアリューゼ達…空は日は沈み始め、寮と空を真っ赤に染めていた。
 二人は道なりを歩いていると、分岐点に当たり足を止める。
 そして…メルティーナはアリューゼに問い掛けた。

 「……アリューゼ、アンタはどうすんの?」
 「……俺は…隊長の意志を継ぐ!」

 左拳を握り締め決意を露わにするアリューゼ。と言う事は本局へ行くのかとメルティーナは問い掛けてみるが、
 今の管理局は信用する事が出来ないとアリューゼは首を横に振る。

 「じゃあどこに?」
 「聖王教会に行こうと思っている」

 聖王教会、管理局と協力体制を取っている組織で、教会内には優秀な調査官がいると聞く。

 「それに彼処には“烈火の将”がいる。情報と鍛錬、両方を得られるからな」

 そう話すアリューゼ、今の実力では奴に歯が立つどころか一瞬にしてやられる。
 奴の実力を目の当たりにしたアリューゼだからこその考え、その一方でメルティーナに質問を投げかけた。

 「お前はどうするんだ」
 「私はルールーを引き取って本局の無限書庫へ行くわ」

 無限書庫、管轄する全ての世界の情報が集まっていると云われている部署。
 彼処なら最高評議会の情報も得られるかもしれない。
 それにメガーヌの忘れ形見を育てる為にも、本局の給料は魅力的でもあった。
 こうして二人はこの先進む道を決めると、目を合わせ別れの挨拶をかける。

 「じゃあ、またな」
 「えぇ、またね」

 そして二人は別々の道を歩きだした……


 一方此処はゆりかご内のラボ、培養液の中には怪我を負ったチンクが入っており、
 それを、何を考えているのだろうか、見上げたまま見つめるレザードの姿があった。

 チンクの容態は悪く基礎フレームの一部が破損、両腕の筋肉組織は崩壊、内臓の一部及び右目を損傷、
 重傷である事は一目瞭然で、寧ろ命があった事が不思議なぐらいである。 
 と不意に、ラボの扉が開く音が響き渡る。

 「…レザード、チンクの様子はどうだい?」
 「……ドクターですか。治療には暫く掛かりそうですよ。
  それより其方の方はどうなんです?」

 レリックウェポンの事かい?っと聞くとレザードは頷く。
 男の方は肉体が破損している為、改造を施してから使用する予定、
 女性の方は生体ポットで保存をしていると答え、
 レザードはスカリエッティの答えに疑問を持つ。何故両方同時に使わないのかと、
 その事を問いただしてみると、状態の悪い男の肉体をデータ取りとして先に使う為だと笑いながら話す。

 「成る程…では融合させる物はジュエルシードで――」
 「いや、データバンクを解析していたら、いい物を発見したのでね」

 当初はジュエルシードを融合させるつもりだったのだが、ゆりかごの奥の倉庫に眠っていたレリックを使用すると。
 レリックとは高エネルギーの結晶体で、一つ一つに刻印が刻まれており、
 元々レリックウェポンは、このレリックを融合させる事で完成するのだと説明する。

 「ではジュエルシードはどうするので?」
 「ガジェットにでも使うよ」
 「そうですか…用件はそれだけで?」
 「いやチンクについてだ。彼女の治療を手伝おうと思ってね」
 「そうですか…しかしそれには及びませんよ」

 スカリエッティの疑問に満ちた表情に答えるかのように、モニターに情報が表示される。
 これが予定外の収穫その名も“ホムンクルス”管理局が研究している戦闘機人の情報である。
 しかもこの情報はチンク並びにナンバーズにとって“有意義な内容”で、
 その性能を大きく向上させる要因を含んでいるのだという。

 「故にチンクは更なる力を得る事が出来るでしょう」
 「成る程…怪我の功名という奴だね。ならば計画を次の段階に踏んでもいいかもしれないな」
 「…と言うと?」
 「“ルーン”を……発動して貰いたいのだよ」
 「“ルーン”をですか」

 成る程…といった表情を浮かべるレザード、計画は着々と進んでいるとスカリエッティは狂気に満ちた笑みを浮かべる。
 …いや、寧ろ新たな玩具を手にし浮き足立った少年にも見える、そんな表情であった。


 ……場所は変わり此処は闇に閉ざされた空間、その中で赤・青・黄の明かりが灯る……

     ―――ゆりかごの反応が消失、その姿も消えたという報告が来た―――

            ―――姿が消えた?どういう事だ―――

    ―――報告ではゆりかごが存在していた洞窟は、ものけの空になっていたと―――

       ―――転移か…“無限の欲望”はあれを奪ったという事だな―――

  ―――……日を同じくして“無限の欲望”との連絡が取れなくなった…恐らくはな―――

     ―――どうする?“無限の欲望”にとっては過ぎた玩具だぞアレは―――

                ―――…捨て置け―――

            ―――何故です!ゆりかごは我々の―――

             ―――“宮殿”の目処が立った―――

             ―――なんと!では“先兵”も―――

          ―――うむ……我々が“神”になる日も近い…―――









  前へ 目次へ 次へ

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2011年07月16日 00:58