聖王教会…ミッドチルダ北部に存在する宗教団体で、危険なロストロギアを調査・保守などを行っている組織でもある。
そして聖王教会の代表であるカリム・グラシアが管理局に所属している為、管理局との繋がりも持っていた。
更に独自の施設を多数保有しており、その中に教会騎士団という自警団が存在する。
教会騎士団の主な任務は司祭達の巡行や重要人物達の護衛、遺跡調査員の警護、各施設の警備などが上げられる。
その騎士団に烈火の将シグナムと蒼き狼ザフィーラが滞在していた。
彼女達はヴォルケンリッターと呼ばれる八神はやて直属の守護騎士で、闇の書事件の関係者で協力者でもあった。
闇の書事件後、事件の関係者であったはやて・ヴォルケンリッターの面々は保護観察処分を受け本局へと入局、
その後聖王教会からの依頼で、はやて達はカリムの護衛を引き受ける事になった。
その任務の時に、はやてとカリムは小型犬化したザフィーラのモフモフ感ある毛並みに対して、共感しあったのがきっかけで交流関係を築くことになり、
シグナムは任務の中で出会ったカリムの護衛兼秘書役のシャッハ・ヌエラに対し、切磋琢磨出来る相手だという印象を感じていた。
シグナムはあのような相手がいる教会騎士団に対し興味を持ち、更に管理局よりも聖王教会の方が性に合ってるのでは…とすら考えるようになった。
任務終了後本局に戻ったシグナムは、はやてに自分の胸の内に広がる思いを明かすと快く承諾、
早速本局に教会騎士団への出向という形で入団許可を申し入れるが、保護観察中の自分では無理だと告げられる。
ところが管理局で少将の肩書きを持つカリムが、シグナムの保護責任者として名乗りを上げた為、本局はシグナムの希望を承諾する。
ただカリムは一つ条件としてザフィーラも一緒にと提示すると、本局とはやては二つ返事で承諾した。
こうしてシグナムとザフィーラは、はやてから離れ教会騎士団へ入団した、闇の書事件から一年後の事である。
それから三年後、時は黄昏…教会騎士団特殊訓練所にはシャッハと二年前に入団したアリューゼが模擬戦を行っていた。
しかし模擬戦はアリューゼの防戦一色に染まっておりシャッハもまた苦痛に似た表情で対峙していた。
その様子を離れた位置でシグナムが見守っていた。
「アリューゼ、いくら何でも無茶です!アナタはさっきまでシグナムと模擬戦を行ってたばかりでしょう!」
「うるせぇ…俺は…強くならなきゃ…ならねぇんだ!!」
余りにも無茶な取り組みに警告を促すシャッハであったが、全く聞き届ける様子のないアリューゼ。
いくら非殺傷設定された練習弾でも直撃すれば肉体へのダメージは大きく、更に実戦に近い動きな為、肉体にはかなりの負担が掛かっていた。
付け加えてシグナムとシャッハによる連戦、アリューゼは肉体的にも精神的にも限界を迎えていた。
「どうした…俺はまだ!」
「仕方がありません……」
シャッハは前傾姿勢で構えるとヴィンデルシャフトから一つ薬莢が排出され、刀身は魔力に覆われる。
「烈風……一迅!!」
次の瞬間、疾風とも呼べるほどの速度でアリューゼ目掛けヴィンデルシャフトを振り抜く。
アリューゼはなす統べなく吹き飛び、仰向けの状態で地面に倒れた。
その光景を目の当たりにしたシグナムは二人に寄っていく。
「…終わったか」
「えぇ…でも」
シャッハはアリューゼに対し疑問を感じていた。
何故これほどまで強さを求めるのか、アリューゼは入団してから二年でシャッハと並ぶに至るまでの強さを身に付けていた。
だが本人は未だ満足せず、さらなる強さを求めていた。
「今回の模擬戦といい、無茶が過ぎます」
「確かに……」
せめて強くなりたい理由を聞きたいがアリューゼはシグナム以上に社交的ではない、
そんな相手なら“アレ”しかないとシグナムは思い立つとシャッハにバケツを用意させた。
バケツの中には水がたっぷり入っており、シグナムはバケツを受け取るとアリューゼ目掛けて水をぶっかける、
その勢いにアリューゼは目を覚まし飛び起きる。
「目が覚めたか」
「あぁ…最悪の目覚めだ」
「そうか…そんな事よりアリューゼ、呑みに行くぞ」
いきなりの事に困惑するアリューゼ、しかしシグナムは気にも止めず寧ろ早く着替えてこいと一言残しシャッハと共に場を去る。
訓練所には状況が全く読めていないアリューゼが一人ぽつんと残されていた。
場所は変わり此処は南楼飯店、最近シグナムが発見したお気に入りの居酒屋である。
中に入ると座敷にはシグナムとシャッハ、反対側にはアリューゼが胡座をかき手に顎を乗せ肘をついた状態で二人を見つめていた。
「……どうした?アリューゼ」
「いや……お前等、私服持ってたんだなっと思ってな」
「当たり前です!修道服しか持って無いと思っていたんですか?」
「いや…いつも修道服で街を彷徨いているしな」
「……いくら我々でも修道服で居酒屋へ行く度胸は無いぞ」
そんな雑談を交わしながら三人はそれぞれメニューを注文し、暫くすると料理が運ばれる。
シャッハには焼き鳥とビール、アリューゼにはチーズとぶどう酒、
シグナムには干物と米酒がそれぞれに行き渡るとそれぞれ呑み始めた。
…暫く経ちそれぞれがいい感じで酔い始めていると、シャッハがアリューゼに話しかける。
「しかしホント強くなりましたよね」
「いや…まだまだだ…」
「そこですそこっ!なんで其処まで強くなろうとしているんですか?!」
酒の勢いか少し強めに聞いてくるシャッハ、アリューゼは深いため息をつくとこう述べた。
「そうだな……復讐…だな」
「ふっ復讐?!」
アリューゼの答えに少しオーバーなリアクションをとるシャッハであったが、アリューゼは気にもとめず話を続ける。
アリューゼが所属していた機動隊、その機動隊は一人の魔導師の手によって壊滅させられた。
彼の力は凄まじくS+クラスの隊長ですら一撃で葬られたと語る。
「奴を倒すには隊長以上の強さが必要だからな、…それが俺が強さを求める理由だ」
酒が入っている為か少し饒舌に語るアリューゼ、だがシグナムにはアリューゼの言葉を鵜呑みにする事が出来なかった。
アリューゼの瞳には復讐心が無いとは言えないがそれを上回るほどの決意の色を感じていた。
恐らく先程の話は嘘ではないが、他の意味でも強さを求めているのであろうとシグナムは感じていた。
「……わりぃな酒の席で辛気くせぇ話をしてな」
「気にしないで下さい!自分が聞いてきたことなんですから」
「そうか………」
「アリューゼ…我々の力が必要になったらいつでも言ってくれ」
シグナムの言葉に一つ笑みを浮かべると二人に目を向け少し微笑んだ形で応える。
「あぁ、その時は頼む」
今まで見たことのないアリューゼの表情に二人の胸は強く締め付けられた感じを受けた。
二人にとっては初めての感覚で、戦っている時の高揚感とは異なった胸の高鳴りを感じていた。
更に三年後、場所はとある魔法学校の中庭、そこに後ろ髪を結った青年カシェルが空を見上げていた。
彼が通う魔法学校は初等教育の五年制のみで、主に念話などの一般的な魔法だけならば丁度良い学校である。
カシェルは考えていた、自分は何ををしたいのか分からないでいた。
カシェルは孤児で幼い頃に聖王教会に拾われ、魔法素質があるからと学校に入学させられ流れるまま今に陥っていた。
そのカシェルに声をかける影が二つ、一つはボーイッシュな髪型の女性、もう一人は金色の短髪の青年である。
「なんだ…グレイとエイミか」
「またこんな所でさぼって先生が呼んでたぞ、進路の事じゃない?」
「またか……お前等はどうするんだよ?」
「……このまま流れに乗れば、陸士訓練校行きだろうな」
聖王教会の孤児院からの仲であるグレイがそう話す、だが三人はこのまま流れたままでいいのか疑問に感じていた。
三人は先が見えない日々に自分の道を見失っていた。
場所は変わり此処はカシェルがアルバイトをしている喫茶店、いつものように雑務をこなしていると、アリューゼが客として姿を現す。
アリューゼはカウンターに座りコーヒーを一杯注文、カシェルは注文の品を渡すとアリューゼに話しかける。
「もしかして…アリューゼさんですか?」
「あぁ……」
「やっぱり!俺カシェルって言います!こんな所で出会うなんてやっぱ仕事かなんかで?」
カシェルの問いにコーヒーを一口含み頷くアリューゼ。
アリューゼは今し方、とあるご令嬢の護衛を済ませたばかりだと語る。
そのご令嬢は聖王教会にとって大切なお客様な為、細心の注意を払っていた。
だがそのご令嬢はそれをいい事に我が儘し放題、二言目には「万死に値する!」と騒ぎ立てては困らせていたと語る。
「へぇ~あの天才アリューゼさんを翻弄させる人がいるなんてね」
「あ~その天才ってのは止めてくれ」
アリューゼ曰わく天才なんて言葉は大昔の負け犬が皮肉に使った言葉だと語る。
自分は天才ではない確かに魔法の資質は持っていた、だがそれを努力し鍛えたからこそ今の強さを得たと語る。
「資質だけで惰性だけで生きてる奴なんざ、俺に言わせれば吹かれっぱなしのただの草さ」
「草……か」
そう言うと残ったコーヒーを飲みきり小銭を置いて店を後にする、店内ではアリューゼの言葉に胸を打つカシェルの姿があった。
…場所は変わり此処は辺りがすっかり日が落ちた大通り、カシェルはバイトも終わり帰路にたっていると、
前方に蒼いリボンで髪を縛った女性が五人組の不良に絡まれていた。
カシェルは目も呉れずその場を去ろうとしたが、アリューゼの言葉が頭に響く。
吹かれっぱなしの草……このまま放っておけば自分はただの草、なにも変わらない日々が続く
それが嫌なら自分から動き出すしかない、これはそれに対するきっかけかもしれない。
そう思い立ちカシェルは声をかけると、不良に睨まれる、だが臆する事無く立ち向かうと、不良達はデバイスを起動させた。
ナイフ型のデバイスを握った不良がカシェルに襲いかかるが、ナイフを握った手を払い右拳で鳩尾を強打、
不良は、くの字に曲がると両手で頭を掴み右膝で顎を打ち抜いた。
不良が力なく倒れるとカシェルは女性に逃げるように指示、女性は辛くも逃げだしそれを確認していると後頭部に激しい衝撃が走る。
左手で後頭部を押さえ振り向くとナックル型のデバイスを身につけた不良が立っていた。
カシェルは殴り掛かろうとするが、不良は右拳でカシェルの腹部を強打、更に左拳が顔面を捉えると、左手で髪を掴み持ち上げ右拳を振り抜く。
頭は跳ね上がり、後方へ飛ばされかけるが、左手で胸倉を掴まれそのまま右膝で鳩尾あたりを蹴られる。
カシェルは蹴られた部分を押さえながら、くの字に曲がって膝を着く。
するとさっきまで寝ていたナイフの男が起きあがりナイフを突き刺しに襲いかかる。
彼等が持っている市販されたデバイスには非殺傷設定が強制的に施されているのだが、
それらを解除する、裏の技術者の手によって解除されていた。
らしくない事はするもんじゃ無いな…そう思いながらカシェルは覚悟を決め目をつぶると、キンッという金属音が鳴り響く。
カシェルはゆっくり目を開けてこらすと、そこには背中にバハムートティアを背負ったアリューゼの姿があった。
「アリューゼ……さん?」
「よぉ、随分こっぴどくやられたな」
アリューゼはカシェルの根性を褒めながらも、腰を捻りスピニングバッグナックルを放つ。
アリューゼの一撃は不良の顔面を直撃、勢い良く吹き飛び電柱に激突する。
仲間をやられた不良達は一斉に襲いかかると、アリューゼは叫ぶ。
「伏せていろ!!」
アリューゼの言葉にカシェルは頭を押さえしゃがみ込む、次の瞬間アリューゼは持っていたバハムートティアを振り回す。
アリューゼの一撃は不良達を木の葉のように吹き飛ばし、それぞれ地面に激突し気絶した。
カシェルはアリューゼの強さにただ唖然とするしかなかった、
たった一人倒すだけでも大変だった自分なのにアリューゼは瞬く間に倒してしまった。
だがその強さは努力によってもたらされたもの、ならば自分も努力すればアリューゼのようになれるかもしれない。
カシェルはアリューゼを尊敬のまなざしで見つめながら考えていると不意に疑問を持つ。
「そういやアリューゼさん?どうして此処に?」
「あぁ、あの嬢ちゃんに教えてもらってな」
そう言って親指で後ろを指すと、そこには先ほど助けた女性の姿があった。
女性は助けられた後、偶然通りを歩いていたアリューゼと遭遇し助けを求められたと話す。
アリューゼは此処ミッドチルダ北部にとって知らぬ者はいなくカリム・シグナムに続く人気を博していた。
話は戻り、後ろでは助けた女性がカシェルに感謝を述べた。
「助けて下さってありがとうございます」
「いや……俺は何も出来なかった、やったのはこのアリューゼさんだよ」
「何を寝ぼけたことを言ってやがる、この嬢ちゃんを助けたのは間違いなくお前だ」
俺はただ漁夫の利を得ようとしてしくじっただけだと、笑いながら話すアリューゼ。
そして笑顔の女性の姿を見てカシェルは、自分のやりたいことが見つかったような気がした。
場所は変わり此処は古代ベルカ時代の遺跡、この中にレリックと思しき物が発見された為
調査員を派遣、その警護にシグナムと人型のザフィーラが同行した。
また現地では他の発掘作業の為のバイトを雇っており、その中にはグレイとエイミの姿もあった。
「ところでザフィーラ…カリムの護衛はいいのか?」
「……今はその話は止めてくれ」
シグナムの問いに青ざめるザフィーラ、元々ザフィーラは自分の意志で教会騎士団に入団した訳ではない。
シグナムが入団する為の条件として差し出され、云わば献上物扱いされていた。
だがその時に、はやてからカリムの護衛役を任され、行動を共にしているのだが、それは本人としては過酷な仕事と語る。
まず朝から小型犬化したザフィーラの毛をモフモフされたり肉球を触られるなど弄られ、
食事の際はいつも膝の上、公務の時も乗せられており、休憩時は大型犬化して背中に乗られ、あまつさえ寝てしまうことも。
夜、風呂の際には小型犬から人型への変身で少年化した姿のまま一緒に風呂に入れられ、体の隅々まで洗い洗わされて、
就寝時には小型犬化し抱き枕代わりに抱きつかれ、まるでぬいぐるみ扱いだと語る。
一時、意を決し本来の姿の人型になった時もあったのだが、
その時カリムは鼻血を垂らし恍惚な笑みを浮かべていたと耳を下げ青ざめた表情で語った。
「……そうか…大変だな」
「あぁ………」
なぜか羨ましく聞こえるのは自分の捉え方の違いだろう…そう思っていた時、シグナム達に一報が入る。
レリックの発掘現場から離れた地にガジェットが出現、出現近くには一般の発掘現場もあり、被害を受ける可能性があると。
シグナムは部下を引き連れ現場へ急行、ザフィーラは残った騎士団に避難民の誘導と警護を指示した。
一方エイミとグレイはガジェットに追われていた、ガジェットは無差別に発掘員に襲いかかって来ており、二人も例外ではなかった。
森の中を走り抜けているとガジェットが攻撃を仕掛けエイミの右肩に直撃、その衝撃に倒れ込んでしまう。
エイミとガジェットの距離は徐々に縮まっていき、先行していたグレイはエイミを助けようと反転するものの、ガジェットの方が距離が短かった。
迫ってくる恐怖、撃ち抜かれた肩の痛み、それらはエイミを追いつめるのには十分で、自分の鼓動すら聞こえるほど興奮していた。
「かっ体が熱い………力が……目覚める!!!」
「待て!!落ち着けエイミ!!」
しかしエイミの興奮は止まらず、恐怖が理性を越えた瞬間、体から紅い魔力が吹き出る。
紅い魔力はエイミを包み込み、卵のような形に留まると徐々に大きくなる。
巨大化が止まると卵の頂上からヒビが入り、砕け散ると中から紅き竜が現れた。
紅き竜は目の前のガジェットに対し攻撃を仕掛ける。
その力はガジェットを砕き、潰し、吹き飛ばし、口から紅蓮の炎を吐くと、いとも簡単に溶解させた。
ザフィーラは逃げ遅れた発掘員を詮索していると紅き竜を見つける。
「あれは……ドラゴンか!?」
紅き竜は手当たり次第暴れ、ガジェットを片づけるとザフィーラと目が合う。
紅き竜は躊躇無く殴りに掛かるがザフィーラは左手で障壁を張り一撃を受け止める。
ザフィーラは反撃を始めようと右拳を握るとグレイが止めに入る。
あの紅き竜は自分の仲間で、興奮が絶頂に達すると変身してしまうと説明する。
その言葉にザフィーラは躊躇するが、紅き竜は何度も障壁を叩き付ける。
「くっ!…コイツを元に戻す方法はないのか!」
「非殺傷設定で攻撃するか、疲れ果てるしか……」
となると鋼の軛で縛り付け体力を消費させた方が確実か…そう考えたザフィーラであったが紅き竜は空中へと逃げると大きく息を吸い込んだ。
辺りには溶解したガジェットに煤けた木々、相手は炎を吐くの瞭然だった。
この一撃を避けたら此処にいる青年が犠牲となってしまう…それでは守護騎士の名折れである。
ザフィーラ腰を落とし両手をかざすと障壁が更に大きくなり辺りを覆う。
「我は弱き者を護る者……守護獣だぁ!!」
意を決し相手の攻撃を受け止める覚悟のザフィーラ、其処に先行していたシグナムが姿を現す。
シグナムはガジェットを殲滅している中、高い魔力を感知、
気になったシグナムはその場を部下に任せ魔力を感知した所へ向かうと、ドラゴンと戦うザフィーラと遭遇したのだ。
「これは………説明しろザフィーラ!」
「シグナム!奴を止めてくれ!!」
「どう言うことだ!!」
「説明は後だ!!ただし殺すなよ!!」
「……分かった」
シグナムは剣を抜き構えると紅き竜はシグナム目掛け紅蓮の炎を吐きシグナムを包み込んだ。
だが、シグナムその炎を紫電一閃により切り裂き、その剣圧は紅き竜まで届くが気絶させるまでにはいかなかった。
「カートリッジ一発での紫電一閃ではこの程度か……ならば!!」
そしてレヴァンティンを鞘に納めると居合いの構えに入る。
するとレヴァンティンから二つ薬莢が排出されると気合いを込め叫ぶ
「飛竜…一閃!!」
シグナムはレヴァンティンを鞘から引き抜くと、魔力が乗ったシュランゲフォルムが閃光の如き速さで紅き竜に向かい直撃した。
飛竜一閃を受けた紅き竜は力なく地面に足を着け、その巨体を揺らしうつ伏せに倒れると、徐々に小さくなっていく。
紅き竜が倒れた後には、一糸纏わぬエイミの姿があった。
「………此処は!!」
「起きて早々騒がしいな」
此処は避難民のキャンプの中だと説明するシグナム、そして此処にいるのはシグナムとエイミしかいないと付け足す。
今のエイミの姿は裸にシグナムの修道服が掛けられており、本人はバリアジャケットの姿のままだった。
「今お前の仲間が服を買いに行っている」
「グレイが?」
エイミの疑問に頷くシグナム、シグナムは仲間が来るまでの間、事の真相を聞くためエイミに質問を投げかけた。
一方グレイはザフィーラと共に替えの服を買いに街まで戻っていた。
その道中、グレイはザフィーラに自分達の経緯を説明していた。
「本当に仲間を救ってくれて有り難う御座います、自分ではエイミを止められなかった」
「だが、救おうとしていた」
「ですが自分は何も出来なかった、自分の無力さが腹立たしいです」
「ならば力を付ければいい」
グレイには護ろうとする思いがある、それがあれば自ずと力はつき他の者を助ける盾になれるとザフィーラは語る。
グレイは自分の手を見つめ、ザフィーラの言葉を反芻するように思い返していた。
「なるほど…お前にはそのような力が備わっているのか」
「あぁ…でも駄目だ、自分の力をコントロール出来ないなんてな」
場所は変わり此処はキャンプの中、エイミは自分の出生とその力をシグナムに有りのまま話した。
エイミは今回起こした騒動に後悔の念を抱いていた。
今回の力の暴走による被害は、人々の暮らしには影響はない範囲であった。
だがいつか自分の力のせいで様々な人や物を失う可能性がある。
だからこそエイミは自分の行いが許せないでいた。
それを感じ取ったシグナムはエイミの肩に手を置きこう述べる。
「…悲しい過去があろうと、消せない傷痕があろうと、生きる意味を見失わなければ人は強く生きていける。
…少なくとも私はそういう人間を二人知っている」
生きる意味、エイミは自分が生きる意味を探していた、今回の暴走…それを身を挺して止めてくれたシグナム…彼女の力になりたい…
小さな意味ではあるがエイミを奮い立たせるには十分な意味だった。
数日後、三人はいつもの中庭に集まっていた、手には進路調査の用紙を持って…
「グレイもエイミも進路決まったのか?」
「当然!」
「カシェルの方はどうなんだ?」
「おぅ!!もう決まったぜ!」
三人は一斉に用紙を見せるとそこには第四陸士訓練校と書かれていた。
第四陸士訓練校、他の訓練校と違い戦技教導隊の隊員が校長を務める訓練校で
実践向きな訓練が多く、また中等教育も教えてくれ、
更に数多くの魔導師を生み出した場所でもあった。
三人にとっては基礎からみっちり鍛える事が出来るこの場所を選んだのだ。
「なぁんだ…また腐れ縁って奴か」
「ふっ…長い付き合いになりそうだな」
「まぁ、向こうでもヨロシク」
三人はそれぞれの思いを胸に道を歩き始めた……
最終更新:2009年04月18日 21:19