春、桜が舞い散るこの季節に設立した古代遺物管理部第六課、通称六課
 八神はやての指揮の下、粒揃いの精鋭が並ぶ中に
 スバル・ナカジマとティアナ・ランスターが胸を張って整列をしていた。


               リリカルプロファイル
                 第十一話 六課


 日は遡り此処は陸士386部隊の宿舎、その中に存在する中庭でスバルとティアナは悩みを抱えていた。

 二人は先程までBランクの試験を受けていた、だが試験中にティアナは捻挫を起こし倒れ、
 スバルはティアナを背負い合格を目指しゴールに向かっていった。
 結果、制限時間内にゴールしたものの危険行為などの行動により失格とされたのだった。
 その時にスバルの恩人で管理局のエースオブエースと呼ばれている人物、高町なのはと出会い
 なのはと共に二人は六課の施設に向かうと、はやて・フェイトの両名がソファーに座って出迎えていた。
 二人には特別講習の推薦状と4日後の再試験の臨時手続きを手渡されたのだが、条件として六課への編入を要望されたのである。

 古代遺物管理部第六課、通称六課とは八神はやてを部隊長に高町なのは、フェイト・T・ハラオウンとビッグネームが連なり
 ヴォルケンリッターの面々や各部署の精鋭達が犇めく部隊で、
 主にロストロギアに関する事件を扱う事になっている、八神はやてが設立しようとしているエリート部署である。

 そんなエリート部署にBランクの試験にすら落ちた自分達が編入しても良いのだろうか?と悩んでいると、二人の前に三つの影が近づいて来る。

 「よぅお前等、試験はどうだったんだ?」
 「あっカシェル……落ちちゃった」
 「そっか……残念だな」
 「でも、ある条件を満たせば追試を受けさせてくれるそうです」

 その条件こそが六課への編入だとティアナは説明する。
 六課設立の噂は瞬く間に管理局内に広がり、もはや知らない者はいないと言うところまで広がっていた。
 そんな部署にスカウトされたなんて羨ましいとエイミが言うが、二人は断ろうと考えていると。
 どう考えても自分達には相応しくなく、既にBランクを持つカシェルやエイミ、更にAランクを持つグレイ達を差し置いて
 編入するのはおかしいとスバルは語った。その言葉にカシェルはスバルの額にデコピンを喰らわせた。

 「バ~カ、折角のチャンスを不意にするんじゃねぇよ」

 スバルは額を押さえカシェルを見つめるとカシェルは話を続ける。
 スバル達には夢がある、今回の話は夢を叶えるきっかけだと
 それを俺達のせいにして不意にするのは卑怯だと熱く語った。
 その言葉に続きグレイが話し始める。

 「六課の部隊長はやての眼力は確かだと聞く、そんな人物に目を付けられたんだ、自信を持つと良い」
 「でも、私達は未熟です…そんな人間が部隊にいたら――」
 「ならば力を付ければいい」

 ティアナの迷いにグレイはこう答えた。
 これはかつて非力だった自分に対し、かけてくれた言葉で、
 変わらぬ思いを秘めていれば自ずと力は付くと、ある人に教えられたと。
 グレイがここまで強くなったのはその言葉と思いがあったからだと静かに…だが熱く語っていた。
 それに六課には教導隊の教官でもある、なのはがいる為、力を付けるにはもってこいの環境だと付け足した。
 そして最後にエイミが二人に励ましの言葉を贈った。

 「大丈夫!私達はあなた達を応援してる、だから胸を張って行ってきな!」

 そう言うと二人の頭をなでるエイミに対し、ハニカム表情を二人は醸し出していた。
 カシェル達の励ましにより二人の瞳には強い決意の色を宿していた。
 そして中庭を後にしようとすると、スバルがカシェルを引き留める。

 「どうした?スバル」
 「あの……元気にはなったんだけど、まだ不安があって…その御守りみたいな物が欲しいかな……って」
 「御守り?」
 「カシェルがいつも付けてるその指輪…御守りとして欲しいかな……なんて」

 カシェルの右手の中指に付けている中央に赤い宝石が装飾されている指輪を指差すスバル。
 カシェルは特に問題ないと指輪を引き抜きスバルに渡す、
 スバルは両手で指輪を受け取るとカシェル同様、右手の中指にはめる。

 「……どう……かな?」
 「う~ん、ブカブカだな…新しい奴買ってやろうか?」
 「いい!これで良いの!!」
 「そうか?」

 あっけらかんとした表情で左手で頭を掻くカシェルに対し、頬を赤く染め、指輪を包み込むように手を胸に当て微笑むスバルであった。

 遠くではエイミとティアナがニヤケた表情でその光景を見つめていた。

 「青春だね~ティアナ」
 「そうですね~エイミ姐さん」
 「……ティアナ…随分と行動がエイミに似てきたな…」

 呆れた表情で二人を見つめるグレイであった。

 場所は変わり此処は聖王教会の入り口、そこに大型犬化したザフィーラと
 ワゴン車の荷台に荷物を乗せる管理局の制服姿のシグナムの姿があった。
 シグナムは荷物を乗せ終えると扉を閉め入り口へと向かう。
 入り口にはアリューゼ、カリム、シャッハの順に並んでおり、シグナムはアリューゼに声をかけた。

 「……本当に六課には行かないのか」
 「わりぃな、誘ってくれたのは嬉しいが、俺にはやりてぇ事があるんだ」

 そのやりたい事は六課では実現出来ないからだとアリューゼは告げる。
 シグナムは名残惜しさを残しつつ、アリューゼと別れの握手を交わすとシャッハに目を向ける。

 「あとは頼んだぞ」
 「非才の身ながら“アリューゼ”の事は任せてください!」
 「…何故そこに“アリューゼ”の名が出る」

 微妙な空気が二人を包む中、ザフィーラに抱き付き頭を撫でるカリムの姿があった。

 「辛くなったら、いつでも戻ってきていいんですよ」
 「…………善処する」

 そう言いつつ、カリムに目をそらし冷や汗を掻いているザフィーラであった。
 そしてザフィーラは助手席に、シグナムは運転席に座ると、カリム達に別れを告げワゴン車はターミナルへと進路を取った。

 一方ターミナルには赤い髪の少年が人混みに紛れながらも誰かを待っていた。
 暫く待っているとシグナムが姿を現す。

 「お前がフェイトが言っていたエリオか」
 「フェイトさんのお知り合いですか?」

 エリオと呼ばれた少年の問いに答えるシグナム。
 本来は保護責任者であるフェイトが出迎えるはずであったのだが、
 どうしても外せない用事が出来た為、急遽聖王教会から六課へ直接向かう予定であったシグナムに頼んだのである。

 「もう一人いると聞いたが知らないか?」
 「あっ…じゃあ僕が探してきます!」

 そう言うとメモを貰い探しに行くエリオ、その姿を腕を組み見つめるシグナムであった。

 「キャロさ~ん、六課隊員のキャロ・ル・ルシエさん~いませんかぁ」

 エリオは探し人の名を叫びながら詮索していると、エレベーター付近で応える声を発見し目を向ける。
 するとエレベーターから白いフードを被った同い年ぐらいの少女が大きなバッグを持って姿を現した。
 少女は辺境の世界から来た為か、文明機器に慣れずエレベーターを降りる際に躓いてしまう。
 エリオは時計型に待機してあったデバイスでソニックムーブを発動させ少女の肩を抱き助けるが、
 助け出した後の魔法解除後の対応に体が追いつかず、少女を巻き込んで倒れてしまった。

 「あいつつっ…大丈夫ですか?」
 「あっ………あの、すみません………」

 エリオの上で恥ずかしそうに答える少女…それもそのハズ、
 エリオの手は少女の肩から胸に移動していたからである。
 エリオは顔を真っ赤に染め、謝りながら手をどけ目を背ける。
 少女もまたエリオの上から降りると恥ずかしさからか後ろを向いていた。
 気まずい空気の中、少女の肩に真っ白い竜の姿がちょこんと乗ると、思わずその竜を見つめるエリオ。

 「ドラゴン?」
 「はい!フリードリヒ、フリードって呼んでます!」

 フードを取りフリードリヒを説明するピンクの髪の少女キャロであった。
 二人はシグナムと合流すると足早にワゴン車に向かう、中にはザフィーラが退屈そうに待っていた。
 そこに二人を連れたシグナムが現れるとキャロはザフィーラを見るやいなや感想を述べた。

 「うわぁ、大きい犬ですね!シグナムさんの使役獣ですか?」
 「いや、我が主の守護獣だ」

 シグナムは二人の荷物を荷台に乗せながら説明する、二人はその説明を聞きながらザフィーラを撫でていた。
 シグナムが出発を促すと二人は後部座席に座り、一路六課へと向かった。

 それから暫くして此処部隊長室では八神はやてがスピーチの文を書いていた。

 「ダメや…緊張して何も出へん……」

 この日はやては自分が思う以上に緊張していた。
 何故ならば今日は六課が正式に発足されその挨拶をはやてはしなければいけないからである。
 自分が思い描いていた六課の設立、様々な思いがはやての体を駆けめぐりそれが緊張となって言葉を詰まらせる。
 一旦机を離れ外を見渡す、外は明るく式には最高の日和だった。
 そこで胸に広がる言葉を一つずつ丁寧に整えていく。

 六課を構想して五年、様々なことがあった、小娘だからと足蹴にされたこともあった。
 必死に人材も集めた、カリムからザフィーラを引き抜くのに苦労したのも今や笑い話だ。
 設立の際の立地条件や食堂のメニューまでこだわった。
 そしてその苦労は今報われる、だがこれからも苦労は絶えないだろう。
 だからこそ、此処にいるみんなで苦労を分かち合おう、
 一人一人の努力が守る力となり悪の手から人々を世界を守ろう。

 胸の内に集まった言葉を整理し一つの文が完成する、それとほぼ同時に式の準備を終えたと伝えられる。
 はやては意気揚々に部屋を後にした。

 六課の中広場にて粛々と式は進んでいた。
 部隊長が挨拶をする中、スターズの隊長なのは副隊長ヴィータ、ライトニングの隊長フェイト副隊長シグナムが静かにその挨拶を聞き、
 エリオ、キャロは真剣な面持ちで話を聞き、スバルとティアナは胸を張り整列をしていた。



  ……その中でスバルの胸の中にはネックレスにしたカシェルの指輪が輝いていた……




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最終更新:2009年02月12日 20:41