リニアレール事件から数日経ち、なのはは此処六課でデスクワークに勤しんでいた。
 その作業の中でリニアレール事件の時に捕縛したアンノウンの解析結果が記載されている報告書に目を通していた。


                  リリカルプロファイル
                    第十三話 劇


 分析班によるとアンノウンは当時の画像分析と同じく肉体に必要な呼吸や鼓動などの心肺機能が行ってはいなかった。
 だが血液の流れや筋肉の運動、電気信号による反射神経や細胞の活性による再生
 特に再生力は凄まじく切り取られた翼を定着させるほどの能力があり、
 それらはリンカーコアによってもたらされた魔力によって機能・強化されていた。
 だがリンカーコアは暴走状態に近く、それによって過剰に作成された魔力は肉体に供給され、肉体には飽和状態となった魔力が常に蓄積していると。
 そして魔力の過剰供給や驚異的な再生力などの魔力強化、肉体や遺伝子自体の改造・処置などにより既に肉体の耐久力は限界を超えていた。
 故に魔力の供給が断たれると、肉体は限界を迎え粒子化し消滅してしまうと綴られていた。

 次に分析班が提示したアンノウンに対する対抗策が取り上げられていた。
 一つはリンカーコアの破壊、暴走したリンカーコアを破壊する事で魔力の供給を断ち消滅させると言うもの。

 もう一つは頭部の破壊である。
 本来リンカーコアは本人の意思により制御するものであるのだが、
 今回のアンノウンは自分の意志がない為、制御する事は不可能なハズなのである。
 だがそれを可能にしているのが、脳に刻まれた紅い術式であると綴られていた。

 紅い術式はミッド式でもベルカ式でも無い未知の術式で、分析班はこの術式の解明を無限書庫に依頼し結果を待っている状態であると。
 そしてこの紅い術式からはリンカーコアを暴走状態にさせ尚かつ制御し、更にレリックを回収させるといった命令信号が送られている事が解明された。
 故に頭部を破壊すれば命令信号は届かずリンカーコアも停止する為、前者と同じく消滅させる事が出来ると。
 だがどちらにしろ非殺傷設定を解除した攻撃でなければ効果がないと綴られていた。
 何故ならば非殺傷設定の状態ではどれだけ魔力にダメージを与えてもリンカーコアを破壊することは不可能であり、
 頭部破壊にいたっては肉体を一切傷付けることが出来ない非殺傷設定では不可能だからである。

 報告書を読み終え、一つため息を吐くなのは、アンノウンには非殺傷設定が通用しない…そんな相手を造り出す人物は一人しかいない。
 ジェイル・スカリエッティ…世が世なら稀代の天才だと言われる程の功績を持つ人物にして犯罪者である。
 だがこんな事で負ける訳には、屈しる訳にはいかない、先日の戦いでフォワード陣の覚悟をなのはは知った。
 それによりなのはもまた覚悟を決めた…どんな相手であろうと決して折れない“剣”を育てようと……

 一方此処ははやて部隊長室、部屋でははやてが遅い昼食をとっていた。
 今日の昼食は幕の内弁当、此処最近は忙しく食堂に寄れないはやては、
 食堂に弁当の実施を提案、結果見事に採用され自室においても食堂のクオリティを持った弁当を味わうことが出来るようになったのだ。
 はやては幕の内弁当に舌鼓を打っていると自室にノックが響く。

 「どうぞ~」
 「失礼します」

 部屋に入ってきたのはグリフィス准陸尉、はやての補佐官を務める青年である。
 はやては箸でグリフィスを差しながら何の用か聞くと、今巷で話題になっている事件に関する事だと告げた。

 現在此処ミッドチルダでは一つの事件に持ちきりである、その名もミッドチルダ失踪事件である。
 この事件はここ最近になって発生し、失踪者の中には管理局員の名も含まれており、
 かつてのなのはの教え子やスバル達の同期の名もあげられていた。
 事態を重く見た地上本部は108部隊に捜査を命じるが、未だ手がかりとなる物は掴めていなかった。
 そこで108部隊長であるゲンヤは依頼としてフェイトを一週間ほど借りたいと、
 ただその代わりにギンガの出向を認める事を提案してきたとグリフィスは話す。

 はやては持ってた箸を置き考え込む。
 今から一週間…あのイベントは確か一週間以降…ぎりぎりだが間に合う…
 それにゲンヤは六課設立に一役買ってくれた人物、早々無碍には出来ない。
 そう考え、はやてはゲンヤの依頼を受けたのであった。

 場所は変わり此処はゆりかご内のラボ、中ではスカリエッティとウーノが先日の戦闘データを整理していた。
 その中モニターに赤い髪の少年エリオと金髪の女性フェイトが映るとスカリエッティは思わず笑みを浮かべる。
 その様子に思わずウーノがスカリエッティに問いかけた。

 「…どうかしましたか?ドクター」
 「いやなに…よもやこんな所であの研究の成果を見られるとは…っと思ってね」
 「と言うと彼女たちが?」
 「あぁ、プロジェクトFの残滓さ…」

 かつてスカリエッティはプロジェクトFの基礎と呼べる研究に着手していた。
 だがスカリエッティは戦闘機人の研究に移行し、研究は優秀な研究員達が引き継ぎ、プロジェクトFを立ち上げ彼等が造られたと語る。
 かつて基礎とはいえ携わっていた研究の成果がこの目で見れたことに対し、感傷に浸っているとレザードが入室してきた。

 「ドクター、今度のガジェットの標的は見つかりましたか?」
 「やぁレザード、それなら目星を付けているよ」

 そう言うとスカリエッティはウーノに指示を促す、ウーノは端末を操作するとモニターに森に囲まれたホテルが映し出された。
 ホテルアグスタ、数日後この場所にてオークションが開催されるという。
 競売品の中にはロストロギアも含まれており、スカリエッティはその中にある骨董品を狙っていると語る。
 今回出品されるロストロギアは安全性が保証されており、寧ろ歴史的価値が高い品物が殆どだという。
 その説明にレザードは興味を持ち競売品のリストに目を通す。
 リストには装飾の付いた剣や指輪やネックレス、怪しい銅像や絵画、甲冑や口紅やたてがみのような物まであった。
 その中でレザードは興味を引く品物を二点発見する。

 「ほぅ…こんな所でこの様な物と遭遇するとは……」
 「なにか面白い物があったのかい?」
 「えぇ…ところでオークションはいつ頃開始されるので?」
 「今より一週間以降だよ………まさか!?」
 「えぇそのまさかです」

 眼鏡に手を当て笑みを浮かべながら頷くレザード…
 ロストロギアの中に紛れていた“アーティファクト”…それを回収する為に自ら動こうと決意したレザードであった。

 そして当日、ホテルアグスタはオークションの準備に追われていた。
 オークション会場には各界の著名人が名を連なっており、
 会場内は本局の局員が数十名で警備を行い、会場周辺は六課のフォワード陣が厳重な警備を行っていた。
 今回出品される物の中にはロストロギアが多数含まれており、それらに対しガジェットが反応、襲撃される可能性を考慮した為である。
 そしてはやて、なのは、フェイトの三名はオークション会場で六課設立の挨拶周りと存在のアピールをする為、ドレスで身を飾り会場へと向かっていた。
 その行き先ではやては見知った人を発見し、挨拶をしてくると二人に告げその場を後にする、残った二人は足早に会場へと向かっていった。

 「こんな所でもナンパですか?」
 「やぁ、はやてじゃないか久しぶりじゃない」

 はやてが身知った人それはヴェロッサであった。
 はやては久しぶりの再会に握手を求めると、ヴェロッサはいつもの口調でハグを求めて来た。
 相変わらずの性格だとはやてが笑みをこぼす中、後ろには体格のいい男が立っていた。

 「そちらの方は?」
 「あぁ、ボディガードで親友のアリューゼだよ」
 「…誰が親友だ」

 アリューゼ…彼の名はシグナムから聞いていた、教会騎士団の中でシグナムと対等の強さを持つ実力者で
 六課設立のきっかけでもある機動隊にかつて所属していたと。
 一方アリューゼもはやての名はシグナムから聞かされていた。
 シグナムの主で自称歩くロストロギアと呼ばれ、僅か19で二佐の地位に上り詰めた女性であると。

 お互い自己紹介をすませるとはやてはヴェロッサに質問を問いかける。

 「でも、何でこんな所に?それにボディガードて?」
 「僕が頼んだんだよ」
 「ユーノ君?!」

 二年ぶりの再会に握手を交わす二人、そしてユーノの後ろに黄緑色の髪で少し派手目な格好をした女性が立っていた。
 その女性を見たはやては、にやけた表情を醸し出しながらユーノに質問する。

 「ありゃあ?ユーノ君、なのはっちゅう彼女がいながら、こぉんなお姉さんと――」
 「勘違いしないでよ!彼女はメルティーナ、僕の秘書だよ」
 「メルティーナよ、メルでいいわ」

 軽く挨拶を交わすメルティーナ、今回ユーノが此処にいる理由はオークションに出品されたロストロギアの説明だと語る。
 その話の中でふとはやては疑問に思いユーノに問いかけた。

 「せやけど、司書長っちゅうのは、そんな仕事もせぇへんといかんの?」
 「いや、本当は部下に任せても良かったんだけど……実の所最近暇でね」

 ユーノの答えにドレスの肩紐がずれるはやて。
 ユーノの話では二年前の迅速な翻訳に対しカリムから高い評価を得て、かなりの増員を受けたという。
 更にユーノの発掘調査を応用した作業方法により、
 今まで半年~数年かかった作業が、僅か数週間~数ヶ月、モノによれば数日に速まったという。
 その為ユーノに回ってくる仕事は極端に減り、余程難解な作業位しか回ってこなくなったという。
 それ故に今回の依頼を請けたとユーノは話す。

 「でも、そない暇あるんだったら、何でなのはちゃんに会ったりとかせぇへんの?」
 「そう言う訳にはいかないよ」

 幾ら暇を持て余しているとはいえ、お互いの立場上おいそれと会えないと。
 なのはは六課の任務をこなしながら、新人達の指導も行っている。
 その中に暇だからと言う理由だけで会いに行くのは失礼だとユーノは語った。
 ユーノの真面目さに呆れつつも納得するはやて、その中そろそろオークション会場に向かわないといけないと考えるはやて。
 何時までもあの二人に挨拶周りを任すわけにもいかないと、はやては手を振りその場を後にする。

 「ほな会場でな、なのはちゃんも待っとるから」
 「分かったよ、また会場でね」

 お互い手を振りながら挨拶を交わす二人、
 はやてが去った後ユーノは眼鏡に手を当て動かすと真剣な面持ちで静かに話す。

 「……それじゃ場所を変えようか…」

 その言葉に頷く一同であった。

 此処はアグスタの一室、扉には使用中の立て看板が飾ってあり、部屋の中では紙コップを片手にユーノ達が意見交換を開始しようとしていた。

 「それじゃどちらから先に話す?」
 「じゃあ僕達から話すよ」

 ヴェロッサの問いに答えるユーノ、ユーノ達は無限書庫で最高評議会を調べていた。
 だが出てきた情報は見知った情報ばかりで、目新しい情報は得られなかったと。
 次にレザードの件だが、此方は情報どころか名前すら出なかったと話す。
 ユーノが一通り説明すると今度はヴェロッサが話し始める、こちらはルーテシアとゼストに関する件であると。

 二年前とある研究施設が壊滅した事件にて、施設に設備されていた防犯カメラにルーテシアと思しき少女が映し出されていたと。
 更にここ最近ではレリックに関わる事件において、ゼストらしき人物の目撃が報告されたと。

 アリューゼは五年前、メルティーナからゼスト生存の話を聞いた時、目を丸くし唖然とした。
 だがすぐに冷静さを取り戻し壊滅事件の現場を思い返す。
 確か壊滅事件の時、ゼストとメガーヌの遺体は現場に残されてはいなかった。
 という事はレザードが二人の遺体を回収し、何かしらの処置を施し復活させたという可能性を考えた。

 そのゼストがレリックと関わりがあるという事は、同じくレリックに関わっているスカリエッティと関係があるのではないかと考え、
 更にゼストと関わりがあると思われるレザードは、八年前の壊滅事件を引き起こした張本人である。
 そして壊滅事件が最高評議会の意向だとすればレザードとスカリエッティと最高評議会は繋がっているとユーノは示唆するが、ヴェロッサはそれを否定する。

 「ロッサ、何故そう言えるんだい?」
 「実はね、最高評議会から依頼があったんだよ………スカリエッティの居場所を突き止めろってね」

 ヴェロッサの一言に一同がどよめく中、更に話を続ける。依頼されたのは約先週、リニアレール事件後だと。
 そして最高評議会はスカリエッティの居場所を探しているという事は
 少なくともスカリエッティと最高評議会は繋がっていないハズだとヴェロッサは説明する。
 だがヴェロッサはこの三者は他の何かしらの繋がりがあると考えており、今度の依頼はチャンスだと考えていると。
 その為スカリエッティを逮捕すれば芋づる式にレザードを、更に最高評議会に一泡吹かせる事が出来るかもしれないと語った。
 そこでヴェロッサはユーノ達に協力を仰ぎたいと語る。
 相手は天才科学者、一筋縄ではいかない…此方も強力なバックアップが必要だとヴェロッサは説明し手を延ばす。

 「頼むよユーノ」
 「……分かったよ、他の誰でもない親友である君の頼みだからね」

 ユーノはヴェロッサの手を取り握手すると、二人は笑みを浮かべる。
 そして二人は早速アレだこれだと話し合いを始めた。
 実際に現場に行くのはヴェロッサと護衛役のアリューゼとこの場にはいないシャッハ。
 そしてユーノとメルティーナはヴェロッサに情報を促すといったポジションであると説明した。

 「それじゃ僕の身を守ってねアリューゼ」
 「……やれやれ」
 「メルは僕のサポートを、頼りにしているよ」
 「ユーノ…依頼受けるのは良いけどこっちの依頼も忘れないでよ」

 そう言うと紅い術式が印刷された紙を見せるメルティーナ、そう言えば分析班からの依頼があった事をユーノは思い出していた。

 場所は変わり、ここはアグスタ敷地内北東方向にある庭、そこでティアナは警備をしていた。
 その警備中に、先日起きた出来事を思い返していた。
 先日のリニアレール事件後なのはの訓練は日に日に激しくなり、内容も密度が濃くなっていった。
 その為スバルとティアナはこれからの事を考え、シャーリーにデバイスの再調整をしてもらう為彼女のラボへ向かうと、ラボには先客がいた。

 「あれ?二人ともどうしたの?」
 「いえ…デバイスの調子を見て貰おうと、なのはさんこそ?」
 「私はレイジングハートに新しい機能を…ね」

 その言葉に唖然とする二人、なのはの話では今の機能のままだと近い将来、訓練にならなくなるからだと笑いながら話した。
 だがなのはの答えに今度はスバルが問いかける。

 「でも、なのはさんって確か能力リミッターがかかっているんじゃ?いざって時はそれを外せばいいんじゃないですか?」
 「そう巧くはいかないんだよ」

 なのは曰わく、能力リミッターははやて部隊長の許可無しでは解除できない、
 その為一時的に能力リミッターを解放したクラスの性能を生む機能を追加したと。
 今なのはのランクは2.5下げたAAランク、今回新たに追加した機能はAAでも充分に性能を発揮できると今度はシャーリーが語った。

 それらを思い返し、先程スバルから聞いたはやて部隊長の話を考慮したのち、今度は六課の戦力を考えるティアナ。
 六課の戦力は無敵を通り越して異常とも呼べる戦力が集まっていた。
 SSランクの部隊長を筆頭に隊長レベルでオーバーS、副隊長ですらニアSランク。
 更に魔力と体力に恵まれたスバル、あの年で既にBランクを取得しているエリオ、強力なレアスキルを持つキャロ、
 その中で自分は射撃と幻術のみ…その事実に呟くように言葉を口にする。

 「……凡人は私だけか…………」

 その瞬間、ティアナの脳裏にある言葉が響く。

  “変わらぬ思いがあれば自ずと力は付く”

 グレイのあの言葉を思い出し、ふと先程までの劣等感に苛まれていた自分を鼻で笑う。
 劣等感など感じている場合ではない、どれだけ周りが恵まれていても自分にしか出来ないことがあるハズ。
 それに自分には叶えたい夢がある、その為にそんなくだらない事で腐っているわけにはいかない!
 そう自分を鼓舞し先ほどまでの弱気な自分を吹き飛ばす為、両手で両頬を叩くティアナであった。
 その時ロングアーチから連絡が入る、連絡の内容は先程シャマルが扱うクラールヴィンドが反応し、
 ロングアーチに周辺のサーチを依頼すると北東方向と北西方向から大量のガジェットがアグスタへ向かっていると言う事が判明した。
 その連絡を受けとったはやてはそれぞれに指示を出す。

 「ロングアーチ00から各隊員へ!まずはスターズ02は北東、ライトニング02は北西へ!
  んでスターズ01ライトニング01は私と一緒に来客の誘導、その後前線と合流や
  私はシャマルの転送魔法でロングアーチに戻るさかい、
  残りのフォワードは現場で待機、前線が討ち漏らしたガジェットの撃破やで!」

 指示を受けたフォワード陣はそれぞれ行動を開始した。

 一方オークション会場でははやて達を筆頭に本局の局員達が客や主催者を誘導していた。
 その中でなのは達はユーノと遭遇する。

 「大変な事になっちゃったねなのは」
 「うん、せっかく会えたのにねユーノ君」
 「いっそアリューゼでも貸そうか?はやて」
 「ヴェロッサ…人を物のように言うな」
 「気持ちはありがたいんやけど、ここは私らに任せとき!」

 そう言ってユーノ達を誘導するはやて達であった。

 場所は変わり此処はアグスタから遠く離れた森の上空、そこにレザード、ルーテシア、ゼストの順に並んでおりルーテシアの肩にはアギトが座っていた。
 四人はモニターに映し出されているガジェットの進軍の様子を観察していた。

 「博士…私は何をすればいいの?」
 「そうですね…第三陣の時に合わせてインゼクトでも呼んで貰いましょうか」
 「分かった…それで博士はどうするの?」
 「私は…第三陣が壊滅させられたら考えますよ」
 「随分と悠長だな」

 ゼストが皮肉を込めた問いに対し、眼鏡に手を当て不敵な笑みを浮かべるレザード、そして静かにだが楽しそうにこう述べた。




  「なに…“劇”は今より始まるのですから……」





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最終更新:2009年04月12日 17:14