「凄い…これで能力リミッター付きだなんて……」
現場で待機していたティアナは副隊長達の戦況を見守っていた。
モニターにはシグナムとヴィータがガジェットを次々と撃破している姿が映し出されており、
これほどの戦力であればガジェットの全滅は時間の問題だとティアナは思っていた。
リリカルプロファイル
第十四話 不死者
「ゴメン!遅うなった!」
はやては来客の誘導を終え、足早に着替えるとシャマルがあらかじめ用意してくれた転送魔法で六課へと転送し、
上着を羽織りながら飛び込むかのようにロングアーチへ入ってきた。
だがはやての服装はネクタイが曲がっていたり、シャツがはみ出ていたりと乱れていた。
はやては乱れた身なりを整えつつ現場の状況をグリフィスに伺う、状況は此方が優勢で、もうじき前線メンバーになのは・フェイトが合流すると伝えた。
その時である、オペレーターが新たなガジェットの反応を確認したと、場所は南西方向で相当の数であると伝える。
そこではやては、エリオと共に待機していたザフィーラとシャマルを南西へと赴かせ迎え撃つ事を指示した。
「行きましょうザフィーラ」
「承知した、此処は任せたぞ」
ザフィーラ、シャマルの両名は一言残し足早に現場へと向かう、すると鳩が豆鉄砲でも食らったような顔をしているエリオとキャロ。
そして思わず言葉を漏らした。
「……ザフィーラって」
「喋れたんだ……」
少し時間を遡り、レザード達は第二陣とも言えるガジェットの出陣を見つめていた。
そんな中、手筈通りにとレザードはルーテシアに促すとルーテシアは頷き詠唱を始める。
「吾は乞う…小さき者羽搏く者…言の葉に応え我の命を果たせ…召喚!」
すると小さな羽虫達を召喚するルーテシア。
名はインゼクト、ルーテシアが召喚する虫の中で最小の召喚虫である。
召喚したインゼクトはガジェットに取り付くと操作制御を奪取する。
次にルーテシアは召喚魔法を応用した転送魔法ブンターヴィヒトを準備すると、レザードもまたそれに合わせ第三陣の合図を出した。
一方ロングアーチのモニターにはヴィータと合流したなのは、そしてシグナムと合流したフェイト等が前線で奮闘する姿が映し出されていた。
ロングアーチの面々はその圧倒的な戦力に安堵の色が見え隠れしていたが、はやては冷静に戦況を分析していた。
そして恐らくこの襲撃はまだ終わっていないと考え現場に警戒を促していると、
新たな反応を確認したとオペレーターははやてに伝える、場所は北東と北西と南西の方向で、それぞれ前線に向かっていると伝えた。
相手は例のアンノウン、先程とは打って変わりロングアーチ内に緊張が走る中、更に新たな反応を確認したとオペレーターははやてに伝えた。
「今度は何処や!」
「ホテルアグスタ前!ガジェットの反応です!これは……おそらく転送魔法の一種と考えられます!」
敵の増援に転送魔法による強襲、この波状攻撃に対し、はやては予め待機させておいたスバル組・エリオ組にガジェットの殲滅を指示した。
指示を受けたスバル組とエリオ組は早速転送されたガジェットに対しコンビネーションによる攻撃を仕掛ける、だが今までのガジェットとは動きが違っていた。
それをモニターしていたなのはは、強襲したガジェットは恐らく何者かに操作されているとロングアーチに伝える。
それを聞いたヴィータは今のアイツらでは荷が重いと感じ援護に向かおうとするも、なのはに止められる。
「何でだよ!なのは!」
「あの子達はあの程度の戦力に負けるわけ無いから」
転送されたガジェットの数は二十数機、二手に分かれたとしても一組約十数機、その程度の戦力にやられる程甘い訓練は受けさせていないとなのはは語る。
そしてなのははスバル組・エリオ組に声をかける。
「みんな!いけるよね!」
『ハイッ!!!』
その力強い返事聞き、頭を掻ながら自分の過保護さに苦笑いをするヴィータであった。
一方レザードは顎に手を当てモニターを見つめていた。
本来の作戦は前線に攻撃を集中させ、がら空きとなったアグスタをルーテシアが操作するガジェットで襲撃・見事に回収する予定であった。
だが現状は全く違っていた、前線は隊長・副隊長・遊撃隊によって完璧に抑えられ、転送したガジェットもまた次々と落とされていた。
隊長・副隊長達の戦力を侮ったのも手痛いが、特に転送先の魔導師達の戦力を侮ったのが一番手痛かった。
彼等は一週間以上前のリニアレールの時とは強さが全く違っていた。
たった一週間程度でこれ程の戦力になるとは、良い指導者に恵まれいるのかもしれないとレザードは考えていた。
だがこのまま手を拱いては目的の品を手に入れることが出来ない…そう考えているとルーテシアがレザードに問いかけて来た。
「戦局は劣勢……どうするの博士?あの時のレリックみたいに諦める?」
「そうですね……仕方がありません、ならば私が赴きましょう」
「…博士が?!」
普段あまり感情を表に出さないルーテシアでも流石に驚く表情を現すが、レザードは気にせず新たな作戦の説明を始める。
レザードが考えた新たな作戦とはレザード自身が囮となり、その隙にルーテシアが召喚したガリューをアグスタへ潜入させ、目的の品を回収するといった内容であった。
「では頼みましたよルーテシア…」
そう言うとルーテシアは頷きガリューを召喚する、そしてレザードもまた移送方陣でアグスタへと向かった。
レザードの転移後、沈黙を守っていたゼストがルーテシアに問いかけて来た。
「…これで良いのかルーテシア」
「うん…博士と話すのは楽しいから」
目元に手を当て不敵な笑みを浮かべ、レザードの真似をするルーテシアであった。
「クロスファイア……シュゥゥゥゥト!!」
ティアナは最後のカートリッジを消費しクロスファイアを放つ。
クロスファイアはガジェットの中心を次々に貫き撃破していった。
「こっちは!なのはさんに血反吐が出るぐらいの訓練を受けているんだから!」
そうガラクタと化したガジェットに言い放ち、ティアナは持っていたクロスミラージュを強く握りしめる。
…自分の魔力弾はどんな相手でも命中する、どんな装甲でも撃ち貫く!…
そう思いティアナは自分が確実に強くなってきていることを肌で感じ取っていた。
今回相手にしたガジェットは今までのような自動的な動きではなく操作された動きであった。
それは言い返せば誘導弾と変わらない、しかしなのはの訓練程の速度・無規則な軌道・魔力性質の違いなどはなく、
この程度では物足りないとすら感じていた。
そしてティアナが空になったカートリッジバレルを交換していた矢先に最後の一機をスバルが撃破、
ティアナはそれを確認するとロングアーチと連絡をとる。
その後暫くしてエリオ組もガジェットの殲滅に成功した事が伝えられ、ロングアーチは現状での待機を命じた。
するとティアナはモニターでなのは達の戦況を見守っていた。
北東ではなのはとヴィータが次々にアンノウンを消滅させていた。
その動きはスバルとティアナにとってまさに手本となる動きであった。
なのははディバインシューターで鳥のアンノウンを翻弄させると、その隙をついてヴィータが頭部を粉砕。
攻撃後ヴィータが動きを止めると、その隙をつこうとヴィータの後方で狙い定めたアンノウン達に対し、
今度はなのはがアクセルシューターでアンノウン達の頭部を次々と破壊する。
破壊後アクセルシューターは威力を維持したまま今度は他のアンノウンの出端を挫き動きを止めると、それに合わせてヴィータがアンノウンを次々に消滅させていた。
その鮮やかな動きに思わず見とれるティアナ達、いずれ自分達もあのような動きが出来るようになりたいとティアナ達は思っていた。
暫く経ち北東・北西方面の敵陣は全て撃破し、南西方面の敵陣も残り僅かだとロングアーチから連絡が入る。
スバル達は安堵していると何処からともなく声が響いてきた。
《やはり…あの程度の不死者では相手になりませんか……》
スバル達は声が響く方向へ目を向けるとアグスタの上空に青い五亡星の陣が浮かび上がり、上には眼鏡の青年が佇んでいた。
「誰!?」
「…少なくとも味方じゃねぇのは確かだな」
なのはとヴィータは新たに現れた人物に戸惑いを感じ、フェイトとシグナムは映像に見入っていた。
辺りが困惑している中、スバルが眼鏡の青年に問いかける。
「アナタ何者!それにグールって何!!」
「…質問は一つずつが礼儀ですが、まぁいいでしょう。
私の名はレザード…レザード・ヴァレス、以後お見知り置きを」
そう名乗り礼儀正しくお辞儀するレザード、シグナムはその名に覚えがあった。
レザード…あの男がアリューゼが追いかけている男…そしてあの機動隊を壊滅させた男…その事を思い返すシグナムであった。
「そしてもう一つの質問ですが…貴方達がアンノウンと呼んでいるモノですよ」
「えっ!?それじゃあ!!」
「えぇ…アレは私が造った“作品”です」
その言葉に怒りを覚えるフェイト、あの物言い…彼はスカリエッティと同じく命を弄ぶ存在と感じ、シグナムと共にレザードの元へと向かった。
一方なのは達もレザードの元へと向かっていた。
なのははあの男、レザードの余裕のある言葉使いに対し相当な実力者だと感じ、
更に不死者を“作品”と位置付ける事に対して危険な思考を持った存在だと感じていた。
レザードは投げかけられた質問を返すと手を下にかざす、すると桜色の五亡星が姿を現し輝き始める。
「では、次は此方が質問する番です、貴方達にコレを倒せますか?」
そう告げると五亡星は輝きを増し消滅した。
するとエリオ達に二つ、スバル達に一つ、なのはの周りに三つの五亡星陣が姿を現し、陣から別個の不死者が姿を現す。
エリオ達に現れたモノは赤く巨大な白骨化した二足歩行の竜の体に、手には巨大な刃を持つ不死者、ドラゴントゥースウォーリアが二体。
スバル達には人間サイズで赤い目の部分だけ開いた兜と甲冑で全身を包み込み、更に赤いマントを羽織い右手に剣を握った不死者、ナイトフィーンドが一体。
そしてなのはには顔と胸は女性、腕と下半身は鳥の姿の不死者、ハルピュイアが姿を現した。
「コレらは今まで対峙した不死者とはひと味違いますよ」
そう告げると眼鏡に手を当て不敵な笑みを浮かべるレザードであった。
一方なのはの周りに現れた不死者は、奇声を上げながらなのはを囲うように飛び交う。
そんな中、ヴィータはなのはの身を心配する。
「なのは!」
「私は大丈夫!ヴィータちゃんはスバル達の下に行って!此処は私が相手するから!」
そう言って不死者と対峙するなのは、なのはは新たに現れた不死者は今のスバル達には厳しいのではないかと考えヴィータに頼んだのであった。
ヴィータは後ろ髪を引かれつつも頷き、なのはに背を向けスバル達の元へと向かった。
場所は変わり南西方面ではザフィーラとシャマルが不死者を次々に撃破していた。
だが、のちに現れたレザードの存在や、エリオ組に現れた不死者に対し二人は危機感を募らせていた。
そこでシャマルはザフィーラにエリオ組の下へと向かうことを提案した。
「だがシャマル、お前一人だけで此処を押さえられるのか?」
「モノは使いようよ、まぁ任せて」
自信満々にそう答えると左人差し指に付けているクラールヴィントの宝石部分が外れ宝石が拡大される。
そして宝石は紐に繋がれており振り子のような形ペンダルフォルムと呼ばれる姿に変わる。
そして左人差し指のペンダルフォルムを地面に突き刺すと、地面を介して次々に不死者を捕縛していった。
魔力の発露を阻害する効果を持つ、戒めの鎖と呼ばれるバインドである。
次に右人差し指のクラールヴィントをペンダルフォルムに変え紐を伸ばし円を築くと右手を円に通す。
すると一体の不死者の胸に円が現れ、円からシャマルの手が現れると、手のひらには不死者のリンカーコアが握られており、シャマルはリンカーコアを引き寄せた。
旅の鏡と呼ばれる遠くの物を引き寄せる魔法である。
そして手のひらにあるリンカーコアを握りつぶすと、不死者は光の粒子となって消滅した。
「どうです?旅の鏡だってこういう使い方も出来るんですよ」
「…えげつないな……」
シャマルの戦い方に思わず言葉を漏らすザフィーラ。
シャマルはムッとした表情を見せるがザフィーラはそれを無視し、シャマルにこの場を任せエリオ達がいる場所へと向かった。
そしてザフィーラを見送ったシャマルは不死者に目を合わせ、人差し指で指すと静かにこう告げた。
「それじゃあ、あなた達のリンカーコアを見せて貰いましょう…」
一方エリオは不死者との戦闘を始めていた、上空にはフリードリヒに乗ったキャロが戦況を見守っていた。
相手は二体…一見すると劣勢に見えるが、戦況はエリオが優勢であった。
二体の不死者は力はあるもの動きは鈍い為、エリオはソニックムーブで木々の間を飛び交うように動き二体の不死者を翻弄させていた。
その動きに不死者はついて行けずエリオの姿を見失うとエリオはキャロに合図を送る。
合図を受けたキャロはアルケミックチェーンで二体の不死者を縛り付けると、
エリオは一体の不死者に矛先を向けカートリッジを消費しスピーアアングリフを発動させる。
エリオのスピーアアングリフは見事に頭部を貫き、頭部を失った不死者は光の粒子となって消滅……するハズであった。
光の粒子は一点に集まり光の玉に変化すると、もう一体の不死者に取り込まれる。
次の瞬間、不死者はアルケミックチェーンを力ずくで引きちぎり雄叫びをあげた。
不死者の目は真っ赤に輝き、肉体からは赤い魔力が溢れ出ていた。
その光景にエリオは戸惑っているとレザードの声が辺りに響く。
「残念でしたね赤髪の少年、その不死者は倒された時、仲間に憑依して憑依したモノを強化させるのですよ」
不敵な笑みを浮かべながら解説をするレザード、一方エリオは舌打ちをし強化した不死者と戦闘する事となった。
強化した不死者は勢い良く跳躍するとエリオの頭上まで飛び上がり、自由落下とともに右の刃を振り下ろす。
だがエリオはソニックムーブで後方の木まで跳び難を逃れると、スピーアアングリフの準備を始める。
ところが着地した不死者はエリオを見つけるや否や飛びかかるように襲いかかり左の刃を振り払う。
「さっきより速い!!」
エリオはとっさに身を屈めると不死者の刃はエリオの後ろにあった木を切り払った。
木が音を立てて倒れる中、エリオはスピーアアングリフの準備を終えていた。
「貫け!スピーアアングリフ!」
エリオのかけ声とともに不死者の腹部目掛けて突撃するが、エリオの一撃は不死者の肉体を貫くどころか揺るがす事すら出来なかった。
エリオは驚いた表情で一旦引くと不死者は持ってた左の刃で勢い良く斬り上げる、
エリオは持っていたストラーダで攻撃を防ぎ、吹き飛ばされながらも体勢を立て直し地面に着地する。
すると今度は左の刃を前に右の刃を後ろの位置で交差させると、まっすぐエリオ目掛けて振り下ろす、エリオはストラーダを水平に持ち盾代わりにして攻撃を防ぐ。
不死者の一撃は重くエリオごと周りの地面を大きく窪ませるが、エリオは歯を食いしばり必死に耐えていた。
だが不死者は左の刃でストラーダごとエリオを押さえ込むと、今度は右の刃で何度も左の刃を叩きつけた。
その衝撃は凄まじくエリオの手はしびれ、膝は笑い、筋肉は悲鳴を上げ、骨は軋んでいた。
そして不死者は両手を振り上げ、止めを刺すかのように振り下ろした。
だがエリオは振り上げた瞬間の隙を突いてソニックムーブで後方へ跳び、更にスピーアアングリフを利用してキャロのもとまで跳び上がった。
「エリオ君!今治療を!」
「それよりキャロ!ツインブーストをお願い!」
このままでは勝てない、あの不死者を倒すにはツインブーストを受けたスタールメッサーしかないとエリオは興奮した様子で話す。
だがキャロはエリオの話を冷静に聞くも今の肉体ではスタールメッサーの威力に耐えられないと嗜め、エリオは素直にフィジカルヒールを受ける事となった。
フィジカルヒールによってエリオの肉体の疲労をある程度回復させると、今度はエリオの希望通りツインブーストをかける。
ツインブーストを受けたエリオは立ち上がり矛先を不死者に向けるとカートリッジを消費する。
「ありがとうキャロ、行くぞ!スタール…メッサァァァ!!」
エリオのかけ声により魔力刃を展開させ飛び降りると、ストラーダから魔力が噴射し一気に加速、そして縦回転しながら頭部目掛けて振り下ろした。
だがエリオの一撃は不死者には届かなかった、不死者は持っていた刃を交差させスタールメッサーを防いだのだ。
「そっそんな!!」
エリオは愕然とする中、不死者は交差した刃に魔力を込めエリオごと振り抜いた。
エリオは叫び声を上げながら吹き飛ばされ木に激突、その衝撃で木は音を立ててへし折れ倒れていった。
木が倒れたことによって辺りは土煙が上がりその中で、ストラーダを杖代わりにし、笑う膝に活を入れながらも必死に立ち上がるエリオの姿があった。
一方スバル組は不死者に対しクロスシフトAで攻撃を仕掛けていた。
クロスシフトAとは、スバルの高い機動力と防御力を生かし敵陣の敵火網を誘引または敵を牽制しフリーとなったティアナが各個撃破する戦法である。
スバルはリボルバーショット呼ばれる拳と蹴りのコンビネーションで不死者を牽制するが、
不死者は斬撃でリボルバーショットを丁寧に防ぎつつ剣を水平に保ち勢い良く突き刺す。
不死者の一撃にスバルは右手でプロテクションを発動させ攻撃を防ぐとスライドするかのように後方へと移動する。
移動後、リボルバーナックルからカートリッジが排出され、マッハキャリバーをロックさせると腰を深く下ろしリボルバーシュートを撃ち出す。
だが不死者は撃ち出されたリボルバーシュートを魔力を帯びた剣で受け止めた。
「ティア!!」
「わかってる!!」
スバルの合図でティアナはクロスファイアを二発撃ち出す、だが不死者はスバルの一撃を受け止めている剣を傾けリボルバーシュートを受け流すと
その場で回転し、クロスファイアを切っ先で切り払い打ち落とした。
すると不死者は跳躍し木に足を着けると、勢い良く木を蹴りスバル目掛けて急降下した。
そして剣の柄を両手で握り突き出す、突き出された刀身には魔力によって生まれた衝撃波が纏っていた。
スバルはプロテクションを展開し迎え撃つが、プロテクションとの接触後、衝撃波が周りに広がり辺りを吹き飛ばす。
その衝撃波にスバルは巻き込まれ吹き飛ぶが、マッハキャリバーの機転によりウィングロードを発動させ難を逃れた。
スバルがマッハキャリバーに礼を言っている間にティアナは一人状況を整理していた。
スバルのリボルバーシュートは受け流されはしたが自分のクロスファイアのように容易く切り払われはしなかった。
この違いは単に一撃の威力の違いと考え、ティアナは次の作戦に切り替える。
クロスシフトB、ティアナが敵を攪乱・足止めをし、その隙をついてスバルが一撃を撃ち込む戦法である。
だがティアナの魔力弾ではあの不死者を止めることは出来ない。
何故ならば先程撃ったクロスファイアは相手の頭部を吹き飛ばすつもりで練った魔力弾、
それをいとも簡単に切り払われるという事は単に魔力弾の威力が負けているという事になる。
だからといって威力を高めれば魔力弾の数は減り足止めすら出来なくなる。
その時不意に先程のなのは達の戦闘を思い出す、なのはは数多くの魔力弾の制御していた。
なのは程ではなくとも数をこなす…今の自分には厳しいが、今この場で出来る最良の方法だと考えスバルに伝える。
「ティア、行けるの?」
「“行けるか”じゃない、“やるしかない”のよ!!」
ティアナの力強くそして覚悟を決めた言葉に対し、スバルもまた腹を決めるのであった。
一方なのはは依然として不死者に囲まれていた。
その状況の中でなのはは一体の不死者に対し見覚えがある印象を受けていた。
…いやそんなハズは無い、きっと気のせいだ…そう自分に言い聞かせなのはは不死者と対峙していた。
不死者達は奇声を上げなのはを威圧していると、なのはは先手を取りアクセルシューターを三発、不死者達に向け撃ち出す。
不死者達のもとへアクセルシューターが迫る中、不死者達は鏡のように反射する魔法障壁を展開、アクセルシューターをなのはに向け跳ね返した。
「えっ!?」
思わず呆気にとられるなのは、だがすぐに気を取り直しアクセルシューターで相殺する。
リフレクトソーサリー、かつてレザードがいた世界で使われている魔法で、魔法を術者に跳ね返す効果を持っている。
今度はディバインシューターで牽制してみるも、やはりアクセルシューターと同様跳ね返されてしまう。
誘導弾が跳ね返されてしまうのであれば、直射型のディバインバスターならどうかと準備体制に入るが、
不死者の一体がなのはの周囲ごと、稲妻に似た攻撃を仕掛けてきた。
サンダーストラックと呼ばれる稲妻に似せた魔法攻撃である。
不死者の攻撃に対しレイジングハートがプロテクションを自動展開、なのははレイジングハートに礼を言いつつ次の行動を考えていた。
ディバインバスターではチャージに時間がかかってしまう、何かいい方法は無いかと辺りを見渡していると大きな岩を発見する。
「岩?………ッ!あれだ!!」
とっさになのはは岩にアクセルシューターを撃ち込み破壊すると、アクセルフィンを使って破壊した岩の場所へと移動する。
場には砕かれた岩が拳大の石となって散らばっており、なのははカートリッジを二発消費するとなのはを中心に環状の魔法陣が展開、
そして散らばった石が浮かび上がり、なのはの周りを飛び交う。
「行け!スターダストフォール!!」
そう叫ぶと魔力で加速された拳大の石等が次々に不死者達へと向かっていった。
スターダストフォール、物質を魔力で加速させて攻撃する魔法である。
不死者達はサンダーストラックでスターダストフォールを迎撃するが、すべてを迎撃出来ず幾つかの小石が不死者の身を打つ。
小石は不死者達の肉体にめり込むが大したダメージを与えていなかった。
その様子を見たなのはは上空へ上がり仕切り直すと、不死者もまたなのはを囲い込み様子をうかがう。
不死者達の魔法障壁は未だ健在で、不死者は魔力弾を跳ね返す事に重点を置いている様子であった。
なのはは考えていた、あの魔法障壁を破るにはバリア貫通もしくは破壊による魔法が必要だと。
その時不意にヴィータが脳裏をよぎった、今回の相手はバリア破壊を持つヴィータこそ相応しかったなと、だが頭を振り弱気になった自分を戒める。
他に何か無いか考えているとスターダストフォールの他にもう一つ、直射型の別のバリエーションを思い出す。
なのはは早速試そうとレイジングハートをバスターモードに切り替えると、更に上空から金色の魔力弾が不死者となのはの間を分けた。
「フェイトちゃん?!」
「もう、またなのはは無茶をして」
呆れた様子でなのはの位置まで移動すると、背を合わせるフェイト。
なのははゴメンと謝りつつどうして此処に来たのか聞くと、ヴィータから話を聞いたと話す。
ヴィータはなのはと分かれた後スバル達のもとへ向かっていたのだが、やはり不安が拭いきれずにいた。
そこで比較的なのはと距離が近いフェイトに援護を求めたのだ。
なのはは正直有り難かった、フェイトはバリア破壊の魔法を持っている、それに“今”の自分が使用できる魔法でダメならアレを使うしかないと思っていたからだ。
なのははフェイトに今までの戦況を説明しレイジングハートを不死者に向け構える。
フェイトもまたなのはの説明を聞き、バルディッシュをハーケンモードに替え構えた。
二人がデバイスを構えている中、フェイトは不死者に対しなのはの周りに現れた頃からずっと疑問を感じていた。
それは実際に目撃した後でも消えることはなかった。
何となく不死者の顔に見覚えがある…もしかしたら最近関わった出来事と何か関係があるのではと思い返していると一つの事件を思い出す。
「…まさか!!」
「どっどうしたの?フェイトちゃん」
フェイトの急な大声に驚くなのはをよそにフェイトはロングアーチとの連絡を取った。
フェイトはロングアーチに先日から起きているミッドチルダ失踪事件の失踪者の顔と
今対峙している不死者の顔の照合を頼むと、ロングアーチは早急に照合を行い始めた。
不死者達の顔に次々と失踪者の顔が合わされていく中、それぞれの不死者の顔と一致する顔が浮かび上がった。
照合率は90%前後、ほぼ間違いなく本人であるとの結果を出した。
そしてモニターに映し出された映像の中には、かつてなのはが請け負った教え子の姿も存在していた。
ロングアーチに重い空気が走る中、その事実をはやて自身が二人に伝えた。
二人ははやての話を聞き唖然としていた、だが先にフェイトが気を取り直し、モニターにレザードを映し出すと睨み付けこう言い放った。
「やはり…あの事件は貴方が引き起こしたんですね!」
「事件?……もしかして“検体”集めの事ですか?事件になっていたとは驚きです。
…そう言えば、“検体”の中に管理局の人間もいたような……」
両手を開き肩をすくめバカにした表情を醸し出すレザード。
その行動にフェイトは怒りに満ちた表情で見つめるが、レザードは不敵な笑みを浮かべ火に油を注ぐかのような口調で不死者の説明をし始める。
なのはに送った不死者は他の不死者とは異なり、人と鳥を融合させたキメラ体にグールパウダーを用いて不死者化させたと自慢するように語る。
その説明に更に怒りに震えるフェイト、彼は先程人を“検体”つまり材料と言っていた。
そして自慢するように不死者の製造を話す、やはり彼は人の命を弄ぶ者だとフェイトが確信する瞬間であった。
一方なのはは一体の不死者を見つめていた、その不死者は先程違和感を感じていた不死者である。
…確かに面影はある、顔色は変色し目も赤く光を放っているが、顔の輪郭や作りはそのままであった。
…かつて自分が鍛え上げ、一人前として立派に成長し送り出した教え子が、
今は見るも無残な姿となって自分と対峙している、その現実に俯くなのは。
前髪はだらりと垂らし顔に影を作ると、端からはどの様な表情を醸し出しているのか判らないような姿と化していた。
フェイトはなのはの落ち込んでいる姿に対し、何も言えない自分に腹を立てていた、そしてその怒りの矛先をレザードに向けこう言い放った。
「この………悪魔!!」
「フッ……よく言われます」
フェイトの悪態に鼻で笑うレザードであった。
時間は遡り、ティアナはダブルモードでクロスミラージュを構えると、カートリッジを四連続消費、16発のクロスファイアを作り出す。
ティアナはコレだけ魔力弾があれば、あの不死者の動きを牽制出来る、あとは自分の技量のみだと考えていた。
ティアナは牽制の準備を終えるとスバルに連絡する。
連絡を受けたスバルもまた上空でウィングロードを展開させ準備を終えたと伝えると、それを皮切りにティアナは攻撃を開始する。
「スバル!クロスシフトB始めるわよ!!」
ティアナはまずクロスファイアを八発分、不死者に向け撃ち放つ。
八発のクロスファイアは木々を縫うように進み上・左・右の方向から不死者に襲い掛かる。
だが不死者は持っていた剣で右から来る魔力弾を一つ受け流し、
左から来た魔力弾を右回し蹴りで撃ち落とし不死者はその場で回転すると残りの魔力弾を弾いた。
弾かれた魔力弾は地面や障害物などに当たり幾つか落とされると、ティアナは残りの八発のクロスファイアを撃ち放つ。
八発のクロスファイアは二手に分かれ前後に挟み撃ちの形で不死者に迫る、だが不死者は右へ飛び込み回避した。
「逃がすかぁ!!」
ティアナは更に魔力弾を追加し撃ち出す、だが不死者は追加された魔力弾を剣で打ち落としていく。
ところが先程弾いた魔力弾と回避した魔力弾が弧を描き前後左右からの攻撃となって降り注ぐと、不死者はたまらず足を止める。
その隙を見てスバルが上空から急降下してくる。
スバルのリボルバーナックルからカートリッジが排出され加速しながらも拳には衝撃波が集う。
「リボルバァァァァァキャノンンン!!!」
スバルの拳が不死者の頭部を捉え手応えを感じた刹那、スバルは一瞬にして手応えを失う。
不死者がソニックムーブを使ったのが分かったのは、拳を振り抜いた後であった。
「くっ!外した!」
スバルは悔しそうに不死者を見つめる、だがスバルの一撃は不死者の左頭部の兜を砕いていた。
不死者は左手で砕かれた部分を覆っていたが亀裂は見る見ると広がっていき全体へと至ると兜は砕け散り顔が露わになる。
その素顔を見たスバルはその場に立ち止り唖然とした表情で佇んだ。
その様子を見たティアナはスバルに檄を飛ばす。
「何してんのスバル!動いて!」
「…ティア………あれ…………」
そう呟くように言うとスバルは震える右手をゆっくりと伸ばし不死者を指差した。
ティアナはその方向へ目を向けると、スバルと同様に驚愕した表情を醸し出す。
……今まで二人が戦っていた不死者の正体は……
―――カシェルであった―――
最終更新:2009年03月18日 20:54